魔女図書館の最強賢者、二度目の人生は見習い司書に 作:メソポ・たみあ
少々予想外の問題があったとはいえ、筆記試験は無事に終えることができた。
問い14のよくわからない明らかに捏造された〝賢者〟の問題は、正解したかどうか不明だけど。
いや本当に、いくら五百年経っているとはいえ人様の人生を過剰に脚色するのは如何なモノか?
赤災竜ボルテウラとなんて戦いたくないよ。
司書試験に受かったら、問題を作った担当者に文句の一つでも言ってやる。
まあともかく、アレ以外の問題は全て正解できたと思う。
答えがわからないと感じたモノは、他にはなかったし。
①筆記試験が終われば、次は②実技試験。
こちらは文字通りきちんと魔法を発動できるか、そして一定以上の魔力を保持しているかどうかが試される。
いわば魔女や魔導士にとっての技術測定であり体力測定のようなモノだ。
実技試験は図書館の地下にある魔法試験場という広々とした場所で行われ、ここは部屋全体に対魔力防壁が施され、普段は攻撃魔法や危険性があると思しき新魔法などを試験する場としても使われているらしい。
魔法試験場というのも私の知らない空間だが、せっかく新たに発明された魔法を試す場所がないのは確かに不便だものな。
それに司書というのは案外と世界中を飛び回ったりもするから、護身術として新米たちに攻撃魔法を覚えさせる場もあるに越したことはない。
こういうスペースが新たに設けられたのも納得だ。
そんな魔法試験場へは受験生たちが数名ずつ案内され、どうやら一人一人実技能力をチェックされているらしい。
そしてようやく、
「それでは71番から81番の方、魔法試験場へどうぞ」
私の番号が呼ばれ、他の受験生九名と共に地下の魔法試験場へと下りていく。
そこでは試験官の男性が私たちを待っていた。
「皆さんには、これから測定を含めた三つの実技をやってもらいます。一つ目、派生属性を含めた全二十属性の魔法の発動。二つ目、魔力量の測定。三つ目、魔法に対する実際の対処。――この三つです」
ふむ、やはり基本的なことしか試されないな。
相手が受験生だから、それほど難しい技能を求めてこないのだろうか?
私としては楽できるから助かるけど……。
私たち受験生は、試験官の前で順番に実技を行っていく。
まず一つ目の実技である、全二十属性の魔法の発動。
これは受験生の全員が問題なく発動できた……が、見ていると特定の属性を発動するのに手間取る者もチラホラ。
個々人に宿る魔力と〝
向き不向きと言い換えてもいいかもしれない。
西方式魔法の基礎となる四大元素と二大原素だが、この六つの属性の内どれか一つが苦手という者は非常に多い。
というかだいたいどの魔女でも魔導士でも、なんらかの魔法を使ってみて「この属性は自分と相性が悪いな」と苦手意識を覚える瞬間はあるモノだ。
これはその人の魔力と〝
それ故に他の属性よりも多くの魔力を消費せねばならなかったり、あるいは頭の中で他属性の魔法よりさらに精密にイメージを組み立てる必要に迫られる。
例えば〝水〟の属性が苦手だとしたら、〝水〟属性の魔法以外にもそれに連なる派生属性も苦手……という者は少なくない。
同様の理屈で、〝
あまり魔力を消費せずとも魔法を発動できたり、精密なイメージがなくとも想像通り、あるいは想像以上の出力で発動できたりなどだ。
何故魔力と特定の〝
ただ一部の者たちは、この相性問題のことを指して〝先天属性〟と呼ぶ。
先天的に生まれ持った魔力と〝
とはいえ、この相性問題は修練によってある程度は克服できるモノだ。
実際私は前世の若い頃に〝闇〟属性の魔法を苦手としていたが、ある程度歳を取った頃には特別気にもしなくなっていた。
まあ気持ち程度魔力を多めに消費するかも、くらいで済むようになったというか。
結局のところは
だから他の受験生たちのように若者たちが苦戦しているところを見ると「若いなぁ~」と微笑ましくなるんだよね。
いや肉体年齢で考えれば私が最年少なのだけれど。
そうして私を含め、十名の受験生は派生属性を含めた全二十属性の魔法の発動を終える。
当然、私も問題なくこなした。
次は魔力量の測定。
私たちの前に台座に乗った大きな水晶が運ばれ、測定士らしき魔女も現れる。
この水晶は
これがあれば個人の魔力の量や出力を正確に測ることができる。
「続けて魔力量の測定を行います。81番の方、こちらへ」
最初に私の番号が呼ばれる。
お、私が先発か。どれどれ……。
少しばかりワクワクしながら、私は
実は、私はまだ自分の魔力量がどのくらいなのかきちんと把握していない。
正確に言えば、転生後のこの肉体に宿る魔力量を。
魂と魔力の関係~といった説も含めると話がややこしくなるので、一旦置いておく。
人の身体に内包される魔力の量は、専門の知識と魔法を会得した魔女などにお願いし、それ専用の魔道具を使用しなければ正確には測定できない。
一応私も測定のための知識と魔法は覚えているが、実家――というより故郷であるリサリ村には
わざわざ他所から測定士を読んで測定するのはお金がかかるし、この身体にはそれなり以上の魔力があることも感覚でわかっている。
それに前世で十二分に魔法を学んだ私は魔力を限界まで消費するなんて真似もしなかったので、積極的に測定する必要性自体がなかったというか。
受験資格を得るための試験の時も、結局測定しなかったしな。
だから今回、私は初めて転生後の魔力量を正確に測定することとなる。
どれくらいなのか、とても楽しみだ。
「それでは水晶に手をかざして、魔力を込めてください」
「はい」
測定士に催促され、私は片手を
そして手の平の先へ送り出すイメージで、魔力を
魔力が
魔力に呼応するかのように白く輝く光は、徐々に大きくなっていく。
だが――ある程度以上の魔力を注ぎ込んだ、その時であった。
「きゃあっ!?」
驚きのあまり思わず悲鳴を上げる測定士。
私もビクッと肩を震わせ、硬直。
粉々になった
「あ……あれ? す、すみません、私別に壊すつもりなんてなくて……!」
え、なんで? なんで砕けたの?
私、ただ普通に魔力を注ぎ込んだだけなんですけど?
なにか間違ったかな……?
いやもしかすると、
あるいは不良品だった可能性も?
測定士も目をパチパチとさせつつも、どうにか平静さを取り戻す。
「こ、これは……? ごめんなさい、古くなっていたのかしら。すぐに新しい
彼女も私同様に
なので魔力を込めて木端微塵になるなど通常はあり得ず、もしそうなるとすれば
そもそも、そんな簡単に壊れるようでは道具としての役割を果たせていないものな。
「それでは、改めてこちらの
「は、はい」
私は息を整え、改めて
そして再び、魔力を注ぎ込み始めた。
さっきと同じく、
だが同様に、ある程度以上の魔力を込めると――眩い閃光と共に、
「「「……」」」
シーン、と静まり返る魔法試験場。
その場に居合わせた全員が、信じられないモノを見るような目をして硬直する。
勿論、私を含めて。
デジャヴかと思うくらい、完璧に同じ光景の再現。
焼き切れるような閃光を発したかと思うと、
それはまるで――注ぎ込まれる魔力の負荷に対して、
これは偶然なんかじゃない。
私にも測定士としての知識はある。
ならばこの場合、考えられる答えはただ一つ――。
「そ、測定、不能……! 彼女の魔力保有量と出力は、
測定士が驚愕の表情で叫ぶ。
そう、そうなのだ、それしかない。
メルティナ・ロウレンティアという少女の魔力は、
いやでも、妙だな?
私自身の体感としては、この肉体に宿る魔力は前世とあまり変わらないと思っている。
だからこそ今日に至るまで、魔力の
前世では、
それが今世になってどうして……?
……一応、思い付く仮説はある。
それはなにかと言うと、
いつの時代どんな物であっても「同じ性能なら価格が安い方がいいじゃん」と人は考える生き物である。
五百年もの歳月があれば新素材の発見や発明もあったことだろうし、
実際、測定士の女性は
これは
私の前世の頃は「
なので、安物になったからすぐ壊れたと考えれば納得もいくのだが……それならそれで腑に落ちない点もある。
そんな負荷上限が低い素材が使われて、これまで今回と同様のトラブルが起きたことはなかったのだろうか?
〈魔女図書館〉の司書は今や国家公務員だ。
ならば司書試験は国家試験であり、それに使われる魔道具も、国家試験での使用に耐え得ると判断された物で然るべき。
だいたい、受験生たちだって全国各地から集まったエリートの卵たちなのだ。
どれだけの魔力量を持っているかわからない。
でも、これまで問題なしとされていた。
測定士の女性の発言からしても、もう何年もこの
それの意味するところは、
連続で二度も
そしてなにやら
「キミ、メルティナ・ロウレンティアといったかな?」
「は、はい……」
「キミはこの後に行われる〝魔法に対する実際の対処〟への参加は免除でよい。試験官に案内させるので、別の部屋で待機しているように」
私に対してそう言ってきた。
なんだか知らないが、少し試験を楽させてもらえるらしい。