討伐任務を終えた翌朝。リィンたちは村の出入り口で一度足を止めた。
「ふぅ……思ったより厄介な依頼だったわね」
戦闘に慣れてないルーシィが振り返ると、ナツが首をゴキゴキと鳴らして笑った。
「そうか?結構楽勝だったけどな!!」
「はっ雑魚相手に本気出しすぎだっての」
グレイが冷静に突っ込む。
「なんだとコラァ!? お前こそ脱ぎ魔だろ!」
「誰が脱ぎ魔だクソ炎!」
「またそれ!? やめなさーい!」
「オイラ知ってるよ。いつものお約束って言うんだ!」
ルーシィが懲りずに喧嘩を始める二人の間に割って入る。そんなお決まりのやり取りの中でも、リィンは視線を村の奥――依頼掲示板の方向へ向けていた。
(この依頼、やはりおかしい。依頼書に押されたギルドの印も違和感があった……)
ふとした違和感が、彼の中で少しずつ確信へと変わりつつあった。
「……少し調べたい事がある。みんな、先にギルドに戻っていてくれ」
「調べたい……って、何を?」
ルーシィが怪訝そうに問うと、リィンは小さく首を横に振る。
「何かはまだ言えない。だが、ここで終わらせるわけにはいかない気がするんだ」
「私も残ろう」
エルザが即答する。リィンもうなずき返した。
「俺も残る」
意外にもグレイが申し出た。ナツは驚いた顔をしたが、
「じゃあ俺も行くに決まってんだろ!いくぞ!ルーシィ!ハッピー!」
「えぇ~!? ……あたしもなの!?」
「アイッ!!」
結局、全員での調査が始まることになった。
◆ ◆ ◆
村の周囲を調べていたリィンたちは、村はずれの廃屋――今では使われていない古いギルド施設の跡地を見つけた。
「……ここ、かつて魔導士ギルドだったようだな」
エルザが残された紋章の跡に触れながら言う。
「でも、看板は焦げて半分焼けてる……」
ルーシィが指差した先には、炭のようになった木板があり、その一部には黒く焼け残った文字がわずかに浮かんでいた。
『鉄……の……』
「……“鉄の森”」
リィンが静かに呟いた。
「こいつらが、ここで活動していたってことか?」
「可能性は高い。……村の依頼も、彼らが仕組んだものだったのかもしれない」
「エルザ。そろそろ教えてくれねぇか。お前ほどの魔導士がなぜ俺たちを誘ったんだ?」
グレイはこの依頼に誘われた事を以前から疑問に思っていた。ただの討伐依頼のはずが、なぜグレイを含めナツ、ハッピー、リィンを誘ったのか。
「そうだな。そろそろ話しておこう。私が依頼帰りに居酒屋でゆっくりしていた時だ。“ララバイ”に関する話を耳にしてな。確か封印が解けない話をしていた」
「別に珍しい話じゃねぇだろ。封印を解く依頼を行っていた魔導士かもしれねぇし」
「ああ。私もその場で聞き流すつもりだった。“エリゴール”と言う名前を聞くまでは」
「闇ギルド鉄の森。その中でも多くの暗殺依頼をこなしてきたエースがエリゴールだ」
エルザはリィンたちを誘った理由を事細かく説明した。
「なるほどな。確かにギルド一つ丸々相手となると…」
「ああ。だからこそ私は一度調査する必要があると思った。この場所は鉄の森の活動地域として報告されていた場所だ」
「そして“魔獣の不可解な動き”“偽の認可証と思われる依頼書”」
ナツの拳に炎が宿る。
「くそっ……やっぱりただの魔獣退治じゃなかったんだな……!」
リィンは廃屋の裏手、半ば朽ちた倉庫の扉をゆっくりと開いた。
ギギィ……
古い木の扉が音を立てて開くと、中から現れたのは――誰もいない、はずの空間。だが、空気が違った。
「魔力の痕跡……残ってるな。ごく最近まで、何かがいた形跡だ」
「誰かが……見ていたのかも」
「ヒィッ!!」
ルーシィが背中をぞわりとさせる。
「ララバイ……そしてエリゴール」
エルザが再び名を口にした。
「放ってはおけない。帰ったら、ギルドに報告を――」
「……!待て!!」
リィンが鋭い声を上げた瞬間、木の陰から矢が放たれた。
ヒュッ――!
「危ない!」
リィンが即座に抜刀し矢を斬り落とす。
「弓か!? 気配を殺していたな……!」
「ハッ、さすが噂通り……“閃の剣聖”は侮れねぇ」
木立の影から現れたのは、顔を布で覆った二人組の男。
彼らの胸元には、かすかに“鉄の森”の印章が刻まれていた。
「なっ……鉄の森の構成員!」
「ちっ、見つかったか……!」
敵はすぐに退却の構えをとったが、リィンがすかさず前へ出る。
「逃がすか!」
《八葉一刀流・弍の型――“疾風”!》
瞬間、リィンの身体が風のごとく加速し、一人の男の背後を取って柄で打ち倒す。
もう一人はナツとグレイが同時に前へ出て足止めした。
「逃がすかぁあ!!」
「情報吐けよ、てめぇらの狙いは何だ!」
◆ ◆ ◆
――その日のうちに、リィンたちはギルドへ戻り、マカロフへ報告を行った。
ララバイの噂、鉄の森の関与、そして偽装された依頼書。
確認してみれば、依頼書には正式なギルド認可印が押されていなかったことが判明した。
「つまり、何者かがギルドを偽って俺たちを誘導した……」
リィンの言葉に、ギルド内の空気が一気に張り詰める。
「目的は……“ララバイ”かもしれんな」
マカロフが重々しく呟いた。
「すまぬが、わしはこの後、評議会の定例会議に出ねばならん。……この件は、おぬしたちに託す…!」
リィンはギルドの天井を見上げながら、目を細める。
(何かが動いている。俺たちは……また剣を振るうことになる)
そしてその時、再び“彼”の中で、炎のような気配がゆっくりと脈打ちはじめていた。