妖精の軌跡   作:あんきも00

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第5話「死神の旋律と囮の真意」

 霧が立ちこめる早朝、リィンたちはついに目的地の都市へと辿り着いた。

だが、その表情は険しい。駅はすでに、闇ギルド《鉄の森》によって占拠されていた

 

 

 「うっぷ……きぼぢわりぃい…」

 

 「ちょっとナツ!しっかりしなさいよ!」

 

 

 魔導四輪車に揺られたナツは、顔面蒼白で地面にうずくまっていた。ルーシィが心配そうに介抱しているが、目は回ったままだ。

 

 そのすぐ横で、エルザが腕を組み、駅の建物を鋭く見つめていた。

 

 

  「人々が混乱している……もう始まっているな」

 

 

 駅周辺は騒然としていた。人々は怯えた様子で逃げ惑い、治安部隊も近づけずにいる。鉄の森による占拠は、すでに町の恐怖そのものとなっていた。

 

 リィンは剣の柄に手をかけ、魔力の流れを読む。

 

 

  「気配が濃いな……建物の中に、数十……いや、百はいる」

 

 

 ルーシィは緊張した面持ちで星霊の鍵を握りしめ、グレイはナツを背負いながら頷く

 

 

 「……てか、これ(ナツを背負う役)俺の役目か?」

 

 「……あい」

 

 

 そして――

 

 

 「突入する!」

 

 

 

◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 エルザの号令とともに、リィンが先陣を切って駅の扉を蹴破った。

 

 

 ――中に広がるのは、魔導士たちの群れ。そして、その中央で悠然と構える、巨大な鎌を構えた男。――

 

 

 「来たか……妖精の尻尾(フェアリーテイル)ハエ共」

 

 「貴様がエリゴールだな」

 

 

 鉄の森のエース、エリゴールに向かい、エルザは鋭い目つきで睨みつける。

 

 

 「ほらいい加減起きろナツ!!」

 

 「無理だよ!列車→魔道四輪車→グレイのトリプルコンボだ!」

 

 「俺は乗り物か!?」

 

 

 ナツがダウンしている中、エルザはエリゴールの目的について聞いた。

 

 

 「貴様の目的はなんだ!ララバイを使って何をしようとしてる!」

 

 「ふっ」

 

 

 エルザの声に応えるように、エリゴールは宙を舞った。

 

 

 「空を……飛んだ!?」

 

 

 「風の魔法……!」とリィンが即座に分析する。

 エリゴールは天井のスピーカーを叩き、含み笑いを浮かべる。

 

 

 「まさかララバイを放送つもりか!!」

 

 「正解だ。この駅周辺には何百何千もの人間が集まっている、いや...音量をあげたら町中にメロディが響く」

 

 

 エリゴール笑いながら目的を話した。ララバイの音色を放送し街中の人々に“呪歌”を聴かせると。

 

 

 「黙って聞いてればくだらねぇこと言いやがって…!」

 

 

 突如地面に倒れていたナツがむくりと立ち上がった。

 

 

 「関係ねぇ奴らまで巻き込むつもりか‼︎お前らは‼︎!」

 

 「目的はなんだ!無関係な人々を巻き込んで何を得ようというのだ!」

 

 「これは粛清だ」

 

 

 エリゴールの声が、次第に冷たく染まっていく。

 

 

 「権利を奪われた者の存在を知らずに、権利を掲げて生活してる者共へのな。よって死神が罰を与えに来た。死という罰をな。」

 

 「残念だったなぁハエども!!闇の時代見ることなく死ぬとはなぁ!!」

 

 「…え」

 

 

 その瞬間、鉄の森の一人が影の魔法をルーシィに向けて放つ。

 

 

 「はぁっ!!」

 

 

 リィンが一閃。影を断ち、ルーシィを守る。

 

 

 「……ありがとう、リィン……」

 

 

 「俺は笛を吹きに行く。この場は任せたぞ。鉄の森の力を見せつけてやれ」

 

 「待てエリゴール!!」

 

 

 エリゴールは割れた窓から、別の構内ブロックへと飛び去っていた。

 

 

 「くっ…!ナツ!グレイ!エリゴールを追うんだ!!

 

 「「む」」

 

 「2人が力を合わせればエリゴールにだって負けるはずがない」

 

 「「むむ」」

 

 「聞いているのか!?」

 

 「「ア、アイサー!!」」

 

 

 2人はすぐさまエリゴールを追って走り出す。その背を見送りながら、エルザは静かに剣を構える。

 

 

 「さて、残りは私たちで片をつけるぞ」

 

 「了解。久しぶりだな、エルザとの共闘は」

 

 「ふっ。そうだな。不謹慎だが少し楽しみだ」

 

 「え……この人数を私たちだけで?」

 

 

 ルーシィは焦りを覚えた。周囲には無数の敵――総勢百名以上。まともに戦えば、時間も体力も削られる。

 

 

 「エルザは右、俺は左だ。ルーシィとハッピーは後衛で援護してくれ」

 

 「了解した」

 

 「う、うん!」

 

 「あいさー!」

 

 「これより鉄の森を無力化する……行くぞ!」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ――エルザの“換装”が閃いた。

 

 瞬時に片手剣、槍、斧へと武器を切り替えながら、敵をなぎ払っていく。

 

 

 「あの女なんて速さで”換装“するんだ!!」

 

 「換装?」

 

 「換装は別次元にストックしてある武器を順次に取り出す魔法なんだ!呼び出した武器を瞬時に切り替える魔法を換装って言うんだ!」

 

 ハッピーはルーシィにエルザの魔法について解説した。武器を呼び出し、または持ち替える魔法を“換装”と呼ぶ。しかしエルザの換装は常人より早く、攻撃しながら順次武器を変えることができる。

 

 

 「よーしあたしもやるわよ!」

 

 「開け!巨蟹宮の扉!キャンサー!」

 

 「あいつ精霊魔法使いだったのか!」

 

 

 精霊魔法。星霊界と人間界を結ぶ門(ゲート)を、契約した星霊に対応する鍵で開門し召喚する魔法。

 ルーシィは契約した精霊の一体、”キャンサー“を召喚した。

その姿はサングラスにドレッドヘアが特徴の男性だ。

 

 

 「ルーシィ。今日はどんな髪型にする。…エビ」

 

 「空気読んでくれるかしら!?」

 

 「敵よ!あいつらやっちゃって!」

 

 「OKエビ」

 

 

 蟹座の精霊だがキャンサーは語尾に「〜エビ」と付ける。キャンサーはルーシィの指示により手に持っていたハサミで相手の身体ではなく、髪をカットした。

 そしてーー頭頂部の髪が無くなるーー。

 

 髪を刈られた敵魔導士たちは悲鳴を上げ、前線は混乱状態に陥った。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 一方その頃リィンは順調に敵の数を減らして行ったが、胸に渦巻く違和感を拭いきれずにいた。

 

 

 (……やはり何かが、おかしい。ララバイの放送……それに駅という場所――)

 

 「リィン!このままだと時間がない!一掃する!!」

 

 「……!ああ!わかった!!」

 

 (ひとまず後だ!こいつらを早々に片付ける!!)

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 敵の数が多く、このままだと時間が取られると考えたエルザはリィンに声をかけて敵を”一掃“することに決めた。

 そしてリィンとエルザの2人は魔力を高めた。

 

 

 「何アレ!?リィンは今まで感じたことのない魔力だし、エルザは鎧が剥がれてく!?」

 

 「リィンもエルザも敵を一掃するために本気を出してきたね」

 

 「エルザの換装は自分の能力を高める魔法の鎧を換装しながら戦うこともできるんだ」

 

 「それがエルザの魔法。”ザ・ナイト“!」

 

 

 換装を終えたエルザの姿はバトルドレスに背中から二対の翼が生えた銀色鎧。そして背中にいくつもの剣が円状に舞っていた。

 

 

 「換装!天輪の鎧!!」

 

 「行くぞ!リィン!!」

 

 「ああ!!」

 

 

 エルザは背の展開させていた剣を回転させ、一気に放った。

 

 

 「――循環の剣!」

 

 

 リィンも剣を振り抜き、燃え立つ赤い軌跡を描いた。

 神速の踏み込みから繰り出される刃が、視認すら困難な連撃となって敵を次々と斬り伏せ、最後に強烈な一閃を放った。

 

 

《八葉一刀流・弐の型――秘技・裏疾風!》

 

 

 二人の大技が炸裂。構成員たちは一瞬で戦闘不能に追い込まれた。

 

 

 「す、すごい…!!これが2人の本気…!!」

 

 「無事か?ルーシィ?」

 

 「うん!2人のおかげで大丈夫よ!!」

 

 「敵は全滅した。私たちも急いでエリゴールを追うぞ!」

 

 「待ってくれ。少し気になることがある。2人とも着いてきてくれ。」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 エリゴールの目的に違和感を覚えたリィンは、一度確かめるために駅の放送室に向かったが、リィンの予感は、確信へと変わる。

 

 

 「誰も…いないだと?」

 

 「やはりいないか。となると。」

 

 

その時、駅の入り口からグレイが飛び込んできた。

 

 

 「おい!お前らここにいたのか!!」

 

 「大変なことになってやがる!駅の入り口が……!」

 

 

――外との通路は、風の障壁《魔風壁》によって閉ざされていた。

 

 

 「な!これは!?」

 

 「風の…障壁!?」

 

 「もしかして私たち閉じ込められた!?」

 

 「どういうことだ……エリゴールの目的はこの駅ではないのか…!」

 

 (この駅は、囮。真の目的は別にある……まさか――)

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 ――その頃、エリゴールは誰にも邪魔されることなく、風魔法である目的地に進んでいた。

 

 

(上手くいったか。妖精の尻尾が俺たちを嗅ぎ回っていたことは知っていた。だからこそ依頼を偽装、そしてあの駅に誘導し、“魔風壁”で閉じ込めた。

 邪魔されるわけにはいかない。笛の音を必ず聞かさなきゃならねぇ奴がいるんだ…!)

 

 

 エリゴールの手には、禍々しき“三つ目の髑髏の笛”。

向かう先には――ギルドマスターが集う、定例会の会場がある。

 

 迫る脅威の正体に、まだ誰も気づいていなかった。

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