俺以外の奴が死ぬのはどうでもいいが、俺が死ぬのは絶対に嫌だ 作:最高司祭アドミニストレータ
俺、がんばえェェェェ!!!
特四の隊長室の外には、小さな待機スペースが設けられている。ソファと、小さなテーブルが置かれただけの殺風景な空間。だが今の黒澤麗奈、赤城陽菜、白石雪乃の三人にとって。そこは神殿の前で祈りを捧げる信徒たちのための、神聖な控え室となっていた。
三人の視線は、揃って、固く閉ざされた隊長室のドアに注がれている。ドアの向こう側で敬愛する橘圭一隊長が、今まさに歴史を刻んでいる。その事実が三人の心を、それぞれの形で熱くさせていた。
【黒澤 麗奈 視点】
(隊長は今、我々の初陣の記録を
麗奈はソファに深く腰掛け、優雅に脚を組みながら心の中で反芻していた。彼女の黒いストッキングに包まれた完璧な脚線美が、室内灯の光を鈍く反射している。その脳裏には、あの日の自分の姿が鮮明に焼き付いている。漆黒の戦闘服『シャドウダイバー』に身を包み、完璧なプロポーションで完璧な仕事をこなした自分の姿が。
(きっと一言一句、選び抜かれた言葉で、我々の働きを雄弁に記録してくださっているに違いないわ)
彼女は橘が執筆しているであろう報告書を、単なる公式文書だとは考えていない。それは後世に語り継がれるべき英雄譚『特四戦記』の、輝かしい第一ページなのだ。
そしてその物語を紡ぐ語り部は、橘圭一でなくてはならない。彼の、あの知性に満ちた瞳。彼の、あの全てを見通すような洞察力。彼の、あの詩人のように繊細な感性。
その全てを以てすれば我々の戦いは、ただの制圧作戦ではなく芸術的なシンフォニーとして記録されるはずだ。
(私の狙撃はきっと、こう表現されるでしょう…『闇を切り裂く一筋の流星の如く黒澤隊員の放つ弾丸は、悪の息の根を音もなく的確に刈り取っていった』…そして、こう続くのよ…『その機能美を極限まで追求した戦闘服は彼女の完璧な肉体と融合し、あたかも夜の女神そのもののようであった』…ふふ、素敵ね)
自分の完璧で効率的な仕事ぶりが、どのような美辞麗句で飾られるのか。それを想像するだけで、麗奈のクールな表情が微かに緩んだ。先程、コーヒーを淹れ直しましょうかと声をかけた時の、ドア越しでも感じた隊長のあの真剣な眼差し。
『集中している』
なんと素晴らしい響きだろうか。我々の働きを最高の形で記録するために、彼は全神経を集中させているのだ。邪魔をしてはいけない。私たちはただ、静かに神の筆が走り終えるのを待つのみ。彼女はそっと、目を閉じた。インカム越しに聞こえた、あの日の隊長のわずかに震える声援を。何度も何度も、脳内で再生していた。
【赤城 陽菜 視点】
「うーん。隊長、まだかなーっ!」
陽菜はソファの上で、じっとしているのがもどかしいとでも言うように、ぱたぱたと足を揺らしていた。白いショートソックスに包まれた彼女の足が、快活なリズムを刻む。その度に制服のミニスカートの裾が危険な角度で揺れ動き、見る者をハラハラさせた。
「隊長、すっごく集中してる! 私があの壁をバーン! ってやったの、格好良く書いてくれてるのかなあ?」
彼女は隣に座る雪乃に、悪戯っぽく笑いかけた。彼女の脳裏には理想の報告書が、既に完成している。あの日のセクシーでキュートな戦闘服『バーサーカーギア』のことも、きっと最高に格好良く書かれているはずだ。
(『絶望的な状況の中、一人の美女が希望の光となった。赤城隊員のその小さな体に秘められた、獅子のごとき勇敢な突撃が、勝利への道を切り開いたのだ!』みたいな! そして『その健康的な魅力に溢れた戦闘服姿は仲間たちの士気を大いに高め、敵の戦意を完全に打ち砕いた!』って! きゃー♡ 恥ずかしいけど嬉しいな!)
陽菜はきゃっきゃっと声を上げて、自分の体を抱きしめた。その勢いで彼女のダイナマイトな胸が、ワガママな二つの生き物のように大きく揺れた。彼女は自分の行った破壊活動を、微塵も悪いことだとは思っていない。
だって隊長が、褒めてくれたから。事件の後、報告書作成で忙しい隊長にこっそり「私、やりすぎちゃいましたか?」と聞いた時、彼は少し疲れた顔で、しかし優しく微笑んでこう言ってくれたのだ。
『君の勇気が皆を救ったんだ。陽菜、ありがとう』
(あの言葉、一生の宝物だもん!)
だから報告書もきっと、その言葉通りの内容になるはずだ。隊長は私の力を私の勇気を、正しく評価してくれる。だって隊長は世界で一番、素敵な上司なんだから。陽菜は、きゃっきゃ、っと頬を赤く染めた。
(早く報告書、読みたいなあ。そしたら額縁に入れて、部屋に飾るんだ!!)
彼女の思考は、どこまでもポジティブで、一点の曇りもなかった。橘が自分の破壊活動を「偶発的な爆発」などという、夢も希望もない言葉で片付けているなどとは想像すらしていない。
【白石 雪乃 視点】
雪乃は二人とは対照的に、ただ静かに目を伏せていた。ソファの端に膝を抱えるようにして座るその姿は、まるで祈りを捧げる修道女のようだった。彼女の白いニーハイソックスに包まれた、絶対領域。その清純な佇まいをより一層、神秘的なものにしている。
(隊長のペンが、歴史を刻んでいる)
彼女はドアの向こう側から聞こえてくる、かすかな物音に全神経を集中させていた。時折聞こえる隊長の、苦しげなうめき声。それは雪乃の耳には、「産みの苦しみ」のように聞こえていた。偉大な作品を生み出すための、芸術家の尊い苦悩。
(私のささやかなサポートも、隊長の手にかかればきっと、戦局を左右した重要な一手として、記録される…)
自分の行ったハッキング。敵のシステムを乗っ取り、同士討ちを誘発させトラップを暴走させた、あの悪魔の所業。普通に考えれば公式記録には残せない、あまりにも非人道的な戦術だ。だが、雪乃は信じていた。あの日のフード付きパーカーワンピース『サイレントハッカー』のことも含めて、隊長は全てを理解してくださっている、と。
(隊長なら、きっと、私の行動の『本質』を、見抜いてくださるはず)
彼女の行動は、悪意からではない。ただひたすらに隊長への道を切り開くためだけの、最も効率的な手段の選択。その純粋な「献身」を隊長はきっと、美しい言葉で表現してくださる。
(『白石隊員の天才的な機転。鉄壁と思われた敵の防衛網に、致命的な亀裂を生じさせた』…そして、こう続くはず…『その清純さと機能性を両立させた戦闘服は彼女の謎めいた魅力を際立たせ、そのスカートの奥に隠されたガジェットは、まさに勝利を呼び込む女神の叡智であった』…ふふ///)
そう想像して、雪乃の口元にほんのりと笑みが浮かんだ。顔も、赤くなっていた。自分の薄汚れた行いが隊長というフィルターを通すことで、清められ価値あるものへと昇華されていく。それは彼女にとって何物にも代えがたい、救済だった。
彼女は橘の文才に、絶対の信頼を置いていた。その報告書が橘の血と汗と胃薬で練り上げられた、苦しみと隠蔽工作の結晶であることなど。雪乃は、知る由もなかった。
【三人集結 視点】
やがて三人は、互いの顔を見合わせた。その瞳には同じ種類の、熱狂的な光が宿っていた。
「さすが、私たちの隊長だわ。あれほどの大事件の記録を、たった一人で…」
麗奈が、感嘆のため息をつく。熱い、ため息だった。
「うん! きっと、すっごい報告書になるよ! 伝説の始まりだね!」
陽菜が拳を握りしめて、力強く頷く。
「…世界一、素敵な上司」
雪乃が小さな声で、しかし確信に満ちた口調で呟いた。
彼女たちは、幸せだった。自分たちの常軌を逸した「戦果」が、敬愛する隊長の手によって、いかに素晴らしく英雄的に記録されるのか。それを夢想するだけで、胸がいっぱいになる。
ドアの向こうでその張本人が、現実と公式文書のあまりの乖離に頭をかきむしり、胃薬をボリボリと齧っていることなど。彼女たちは、想像だにせず。
彼女たちの、幸せな勘違い。そして橘圭一の、地獄のような苦悩。
その決して交わることのない二つの想いが、特四という奇妙で危険な、そして最高に面白い部隊を、今日も動かしているのだった。
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(嗚呼、胃薬ってこんなに美味かったんだナァ)
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