俺以外の奴が死ぬのはどうでもいいが、俺が死ぬのは絶対に嫌だ   作:最高司祭アドミニストレータ

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「えへへ〜♡」

誰か代わって…。


太陽の猛アピール - (陽菜 視点)

「わー! すごい! きれい!」

 

 

 赤城陽菜は渋谷の喧騒の真ん中で、目をきらきらと輝かせていた。数日前、彼女は祝勝会に着ていくドレスを探して、一人で街に繰り出していた。麗奈先輩や雪乃と一緒に行くという選択肢も一瞬だけ頭をよぎったが、すぐに却下した。

 

 

(だって、麗奈先輩と行ったら難しいことばっかり言われそうだし、雪乃と行ったらお店に入る前に疲れちゃいそうだもん!)

 

 

 彼女の行動原理は、いつだってシンプルで明快だ。楽しいか、楽しくないか。そして、隊長が喜んでくれるか、くれないか。その二つだけ。

 

 

『祝勝会には各自、隊員にふさわしい、華やかな服装で参加するように』

 

 

 その通達を聞いた時、陽菜は拳を握りしめてガッツポーズをした。

 

 

(よーっし! 隊長に、私のいっちばん可愛いところ、見せちゃうぞー!)

 

 

 彼女にとって、それは「戦い」ではなかった。それは、大好きな人に自分の魅力を全力でアピールするための、最高の「お祭り」だったのだ。難しい戦略なんて分からない。小難しい駆け引きも苦手だ。陽菜にできるのは、ただ一つ。太陽のように、まっすぐに自分の気持ちをぶつけることだけ。

 

 そして、彼女は運命の一着に出会った。巨大なファッションビルのショーウィンドウの中。そこに飾られていた、一着のドレス。それは真夏の太陽をそのまま布地に閉じ込めたかのような、鮮やかなオレンジ色のミニドレスだった。チューブトップのデザインは健康的で、少し大胆。ふわりと広がるフレアスカートは、見るだけで心が弾むような楽しい形をしている。

 

 

「これだ!」

 

 

 陽菜は、ガラスに顔を押し付けるようにして叫んだ。

 

 

(だって、このドレスが一番、私っぽいもん! 元気で、明るくて! 隊長も、きっとこういう方が好きだって、言ってくれるはず!)

 

 

 彼女は迷いなく店に飛び込み、そのドレスを購入した。値段は少しだけ目玉が飛び出そうになったけれど、隊長が喜んでくれるなら、そんなの全然、問題ない。

 

 そして、祝勝会の夜。陽菜はそのオレンジ色のドレスを纏い、鏡の前でくるりと一回転した。ふわりと広がるスカート。胸元を少しだけ、でも健康的に強調するデザイン。髪に飾った手作りのハイビスカスの髪飾りも完璧にマッチしている。我ながら最高に可愛い。

 

 これなら隊長も絶対に褒めてくれるはずだ。そのダイナマイトなボディラインは、このドレスを着ることで生命力に満ち溢れた圧倒的な魅力となって輝きを放っていた。はち切れんばかりの胸元、引き締まったくびれ、そしてミニスカートから惜しげもなく伸びるしなやかな素足。彼女自身が、歩く太陽そのものだった。

 

 会場に着くと、彼女はすぐに愛する主君の姿を見つけた。タキシード姿の隊長はいつもより百倍は格好良く見えた。

 

 

「隊長ーっ!」

 

 

 陽菜は人混みをかき分けるようにして橘の元へと駆け寄った。そして、考えるよりも先に彼の腕に自分の腕をぎゅっと絡ませていた。

 

 

「た、隊長! そのタキシード、すっごく似合ってます! かっこいい!」

 

 

 そう言うと隊長は少し驚いたような、でも優しい顔で「ありがとう」と言ってくれた。

 

 

(やった!)

 

 

 陽菜は心の中で、勝利のガッツポーズをした。腕に感じる隊長の体温。ジャケット越しに伝わる彼の華奢な、でも頼りになる感触。その全てが陽菜を幸福の絶頂へと導いた。彼女は自分の豊かな胸を彼の腕にぐりぐりと押し付けた。これは計算ではない。もっと隊長にくっついていたいという、純粋な愛情表現だった。

 

 彼女のアピールは、そこからさらに加速していく。麗奈みたいに難しい話はできない。雪乃みたいにミステリアスな雰囲気も出せない。だから陽菜は、自分にできる一番得意な方法でアピールすることにした。

 

 

「隊長! あっちに、すっごく美味しいローストビーフがありましたよ! 私が取ってきてあげます!」

 

 

 そう言うと、彼女は人混みをまるでモーゼの奇跡のように割りながら進んでいく。そして山盛りのローストビーフを乗せた皿を持ってすぐに戻ってきた。

 

 

「はい、隊長! あーん♡」

 

 

 彼女はフォークで大きな一切れを突き刺し、満面の笑みで橘の口元へと差し出した。周囲の男たちが羨ましそうな、あるいは憎しみに満ちたような視線を向けているのが分かったが、そんなのどうでもいい。彼女の視界には隊長しかいないのだから。

 

 橘が少し照れたように、しかしちゃんとそれを口にしてくれた時、陽菜は自分のことのように嬉しくて思わず飛び跳ねてしまった。そのたびにオレンジ色のスカートがふわり、ふわりと楽しげに揺れた。

 

 もちろん、他の男たちが彼女を放っておくはずもなかった。

 

 

「素晴らしいドレスですね。太陽の女神かと思いましたよ」

 

 

 キザな口調の男が声をかけてくる。陽菜はにこりと笑って、しかしきっぱりとこう言った。

 

 

「ありがとうございます! でも、私、隊長とお話ししてるんで!」

「へ、凹んだ。実在したのか…ハ!? そ、そうでしたか。では私はこれで」

 

 

 そう言って橘の腕をさらに強くぎゅっと抱きしめる。彼女には駆け引きという概念がない。好きだから一緒にいたい。他の男は邪魔。ただ、それだけ。そのあまりにもストレートな態度が、逆に他の男たちを寄せ付けない強力なバリアになっていた。

 

 陽菜は幸せだった。大好きな隊長の隣で、彼にたくさんお世話をしてあげられる。こんなに楽しいパーティーは生まれて初めてだった。そう、あの酔っ払った空気が読めない高官が現れるまでは。

 

 

「銀座へ繰り出さんかね?」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、陽菜の楽しかったお祭りの時間はぴたりと終わりを告げた。

 

 

(……は? このおじさん。今、なんて言った?)

(銀座? 隊長を? こんな楽しいパーティーを抜け出して、あんな知らないおじさんたちとお酒を飲めって言ってるの?)

 

 

 陽菜の太陽のような笑顔が、すっと消えた。まるで、急に雲に隠れてしまったかのように。彼女の頭の中で何かがぷつん、と切れる音がした。一瞬、本気でこの男をあの唐揚げの男のように、天井のシャンデリアに突き刺してやろうかと思った。そのむき出しの殺意が行動に移される寸前、それを止めたのは愛する隊長の声だった。

 

 

「特別な訓練が控えておりますので!」

 

 

(…とくべつな、くんれん?)

 

 

 陽菜はきょとんとして橘を見上げた。高官が去った後、彼女の頭の中はその言葉でいっぱいになった。特別な訓練ってなんだろう? 麗奈先輩と二人きりの狙撃の訓練? 雪乃と二人きりのパソコンの訓練? 

 

 

(…それとも)

 

 

 その可能性に思い至った瞬間、陽菜の顔がぱあっと再び太陽のように輝き出した。

 

 

(もしかして、私と、二人きりの、体力トレーニング!? 夜の!? きゃーっ! なにそれ! 恥ずかしいけど、すっごく楽しみ!)

 

 

 その可能性に思い至った瞬間、陽菜の顔がぱあっと再び太陽のように輝き出した。先程までのどす黒い殺意はどこかへ吹き飛んでしまい、代わりにピンク色の幸せな妄想が彼女の頭の中を駆け巡る。

 

 

(夜の体力トレーニングって、なんだろう…?)

 

 

 最初は、健全な想像から始まった。例えば誰もいない夜の訓練場で、隊長と二人きりで腕立て伏せや腹筋をする。自分が限界になったら、隊長が「陽菜、頑張れ!」って隣で応援してくれる。汗だくになった自分のために、冷たいスポーツドリンクを渡してくれて、「よく頑張ったな」って、頭をわしゃわしゃ撫でてくれるだろう。

 

 

(…うん、それだけでも、最高に幸せ!)

(でも、それだけかな? もっと『特別』って感じがするけど…)

 

 

 妄想は、次のステージへと進む。もしかしたら、二人で夜の街をランニングするのかもしれない。隣を走る隊長の、真剣な横顔。時々目が合って、はにかむように笑ってくれる。走り終わって、公園のベンチで二人きりで休憩。汗で濡れた髪を、隊長が「風邪ひくぞ」っと優しい手つきで拭いてくれる。

 

 

(疲れて歩けなくなったら、「仕方ないな」って言いながらお姫様抱っこで送ってくれるんだ! きゃああああ!! だめだめ! そんなことされたら、私、心臓が爆発しちゃう!!)

 

 

 顔が、カッと熱くなる。体中が、ぽかぽかしてきた。でも、待って欲しい。隊長は、もっと深いことを考えているのかもしれない。「夜」に「二人きり」で、「体力」を使う「特別な訓練」。

 

 

(…あっ)

 

 

 その時、陽菜の脳内で今まで繋がっていなかった回路が、バチッと音を立てて繋がった。テレビドラマで見た、雑誌の特集で読んだ。そういうシーン。大人の男女が、夜に二人きりになって、体力を使うこと。それは、つまり…。

 

 

(え…えっちなこと、されちゃうの!?)

 

 

 その考えに至った瞬間、陽菜は頭から湯気が出そうになるのを必死でこらえた。隊長と二人きりで、そういうことを。トレーニングっていう名目で、私を、部屋に誘って…!? 隊長ったら意外とスケベなんだからと、彼女は頬を赤らめた。

 

 

(もうっ、それって凄くワクワクしちゃうじゃん…♡)

 

 

 恥ずかしい。ものすごく、恥ずかしい。でも、それ以上に、ドキドキとワクワクが止まらない。大好きな隊長に、求められる。彼の、特別な存在になる。そんなの、夢みたいだ。今まで自分のこの有り余る体力を、持て余すことしかなかった。でもこの力が、隊長を喜ばせるために使えるなら…! 

 

 

(もうっ、隊長ったら、仕方ないなあ! そういうことは、もっとハッキリ言ってくれればいいのに! 「トレーニング」なんて、回りくどい言い方するんだから!)

 

 

 でもと、陽菜は思う。そういうちょっとだけ意地悪で男の子っぽいところも、隊長の素敵なところだ。きっと己が恥ずかしがらないように、気を使ってくれたのだ。

 

 

(そうだそうに違いない! よし、決めた! 隊長のその「特別な訓練」、私が、ぜーんぶ、受け止めてあげる! どんな、ハードなトレーニングでも、大丈夫! 私の体力は、無限なんだから!)

 

 

「ねえ、隊長!」

 

 

 爆発しそうな期待感を、もう抑えきれなかった。彼女は橘の腕を、ぶんぶんと前後に揺さぶった。

 

 

「今の、どういう意味ですか!? 『特別な訓練』って、なんの訓練なんですか!? ねえ、教えてくださいよー!」

 

 

 さあ、早く、私を喜ばせてください、隊長! 陽菜は、そのオレンジ色のドレスの奥で、来るべき至福の(とんでもない勘違いの)時を想い、期待に、胸と心を、大きく膨らませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ど、どうした俺!! な、何で震えているんだ!! ミイラになってしまう幻覚を見てしまったからか? 心なしか股間がキュンと締め付けて…特別な訓練に、ふ、深い意図なんてないんだからね!!!)

(ていうか俺の腕をぶんぶんするな!!? い、痛い…痛いよォォォォ!!!)




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