俺以外の奴が死ぬのはどうでもいいが、俺が死ぬのは絶対に嫌だ 作:最高司祭アドミニストレータ
「うふふ、オリジナル日間ランキング7位(2025/9/1)、ありがとうございます♡」
「オリジナル日間ランキングは(2025/9/2)も載ってました! 5位だって!」
「これも全ては、隊長の素晴らしい魅力に成り立っている…流石です、隊長。襲ってしまいたいくらいに」
俺、橘圭一…間違えたこと言ってねえよな!?
陸に残された二つの炎 - (赤城陽菜 視点)(白石雪乃 視点)
その日、特四の訓練室は一つの物理的な熱気に支配されていた。その熱源はただ一人。赤城陽菜という名の、人間台風だった。
ドゴォッ! バキッ! メシャアッ!
凄まじい破壊音が、だだっ広い訓練室に響き渡る。赤城陽菜はそのダイナマイトな体を躍動させていた。支給されたトレーニングウェアは彼女の豊満なマシュマロと、引き締まったヒップのラインを惜しげもなく描き出している。
玉のような汗が白いタンクトップに張り付き、その下のスポーツブラの輪郭がくっきりと透けていた。弾けるような筋肉の躍動に合わせて、その巨大な二つの果実がわなわなと揺れる。汗は彼女の谷間を伝い、腹筋の美しいラインに沿って流れ落ちていく。
その光景はそれだけで一つの芸術だったが、彼女の怒りの鉄拳と蹴りの前に、哀れなサンドバッグが次々と犠牲になっていく。もはや、それはサンドバッグではなかった。ただの中身の砂をぶちまける、布製の袋だった。
「だーっ! ずるい! ずるい! ずるーいっ!!」
陽菜の口から漏れるのは、嫉妬に満ちた呪いの言葉。彼女の脳裏には今頃、豪華客船の上で優雅なひとときを過ごしているであろう、二人の姿が浮かんでいた。
完璧な仕立てのタキシードを身に纏い、まるで映画俳優のように微笑む素敵な隊長。そしてその隣であの背中が大きく開いたセクシーな黒いドレスを着てぴったりと寄り添っているであろう麗奈の姿が。
想像するだけで腸が煮えくり返る。あの女はきっと、計算ずくで隊長の腕に自分の腕を絡ませているに違いない。そして己の豊満なマシュマロをこれ見よがしに押し付けているのだ。
「なんで! なんで麗奈先輩だけなんですかーっ!?」
彼女は絶叫しながら、最後のサンドバッグに渾身の回し蹴りを叩き込んだ。そのしなやかな脚が、美しい弧を描く。短いトレーニングパンツの裾から覗く太ももの筋肉が芸術的に隆起し、爆発的な力を生み出した。
ドッゴオオオオオン!!!
轟音と共にサンドバッグは天井の鉄骨に激突し、無残に弾け飛んだ。中から飛び出した砂がまるで血飛沫のように、訓練室の床に散らばる。
「私も隊長とパーティー行きたかった! 私も綺麗なドレス着て、隊長とダンスしたかったのにーっ!」
陽菜はぜえぜえと肩で息をしながら、床にへたり込んだ。汗で濡れた髪が、彼女の頬に張り付いている。その潤んだ大きな瞳には悔しさと、会えない隊長への募る想いが溢れていた。
タンクトップの裾が捲れ上がり引き締まったくびれと、健康的なへそが露わになる。彼女はそれに気づく様子もなく、大の字になって天井を仰いだ。自分の身体が発する熱と乱れた呼吸、そして早鐘のように打つ心臓の鼓動だけがやけにリアルだった。
今回の潜入捜査。隊長から作戦の概要を聞いた時、陽菜はもちろん真っ先に手を上げた。『私が行きます! 私が悪い奴ら全員ブッ飛ばして、隊長を守ります!』っと。
彼女の中では、既に完璧なシミュレーションが完成していた。パーティー会場で敵が隊長に銃を向けた瞬間、自分が盾となり銃弾を全て弾き返す。そして屈強なマフィアたちを次々となぎ倒し、最後にボスの胸ぐらを掴み上げて『私たちの隊長に手を出そうなんて、どうかしてる!』と啖呵を切るのだ。
想像しただけで最高に格好いい。隊長もきっと「陽菜君がいてくれて助かったよ」と頭を撫でてくれるはずだ。その時のために、オレンジ色のミニドレスだって用意していた。
自分の健康的な魅力を最大限に引き出す、『バーサーカーギア』とはまた違った最高の戦闘服だ。胸元が大きく開いていて、少し屈んだだけで谷間が全部見えてしまうデザイン。更にはちょっと足を上げただけで、「純白の世界」が見えちゃうかもしれない。
(きゃー! でも、隊長のためなら恥ずかしくないもん!)
そんな淡い期待も、全て打ち砕かれた。隊長は優しく、しかしきっぱりと首を横に振ったのだ。
『陽菜。君のその力は絶大だ。だが今回の任務は、力で解決するものではない。潜入捜査はね、目立たないことが鉄則なんだ』
『で、でも…! 私だって、目立たないように出来ます! こっそり壁を壊したりとか!』
『いやそれがもう目立っているんだよ』
『うぐっ…!』
『…君にはもっと、重要な任務を任せたい。我々が潜入している間、この特四の留守を守って欲しいんだ。君が陸で砦としてどっしりと構えていてくれるからこそ、我々も安心して任務に集中できる…分かるね?』
そう言われてしまっては、陽菜に反論の余地はなかった。
(隊長が私を信頼して砦を任せてくれたんだ…!)
その事実は嬉しかった。嬉しかったけれど。
(でもやっぱりずるい! 麗奈先輩だけ抜け駆けだ!)
そのむき出しの嫉妬の炎は彼女の有り余るエネルギーを、更に燃え上がらせる燃料となっていた。麗奈はきっと今頃「隊長お飲み物はいかがですか?」などと淑女ぶって、隊長の歓心を買っているに違いない。そして隊長に言い寄ってくる不埒な女がいたら「その汚らわしい手を隊長に近づけないでくださる?」とか言って、冷たい視線で追い払っているのだ。
(ああ想像しただけで腹が立つ! 隊長を守るのは私の役目なのに!)
それにあの黒いドレス。背中がパックリ開いていて、ほとんど裸みたいじゃないか。あんなはしたない格好で隊長の隣に立つなんて。隊長が目のやり場に困ってしまうに決まってる。
(私だったらもっと健康的にアピールするのに! 胸の谷間とか! 太ももとか! 隊長を元気づけるセクシーさは、私の方が絶対上なのに!)
「うー! こうなったら隊長が帰ってくるまでに! もっともっと強くなってやるんだから! そんで次の任務は絶対私が隊長の隣に行くんだ!」
陽菜はそう叫ぶと、再び立ち上がった。その瞳には、新たな決意の炎が宿っていた。そしてもはやサンドバッグの残骸しか残っていない、訓練室の壁に向かって拳を構えた。コンクリート製の分厚い壁だ。叩き甲斐がありそうだ。
汗で濡れた身体は熱く火照っている。有り余るエネルギーが身体の内側から爆発しそうだった。この衝動を何かにぶつけないと頭がおかしくなりそうだ。
「まずはこの壁でウォーミングアップだ! 百裂拳!」
一方。その暴力的なまでの熱気とは全く対照的な静寂が、部屋のもう一方の隅を支配していた。
白石雪乃は床に体育座りをし、自分の膝の上に置いたノートパソコンの画面を、静かに見つめていた。陽菜が放つ汗と熱の匂いが届かない聖域。そこだけ空気が、数度低く感じられた。
彼女の色素の薄い美しい顔には、何の表情も浮かんでいない。だがその切れ長の瞳の奥では、陽菜のそれとは比較にならないほど冷たく、そして深い嫉妬の炎が燃え盛っていた。
少し大きめの制服のブレザーを萌え袖気味に着こなし、体育座りをすることで白いニーハイソックスと、その上のわずかな絶対領域が強調されている。その無防備な姿と彼女が今から行おうとしている、行為のギャップはあまりにも背徳的だった。
彼女のパソコンの画面には、無数のウィンドウがタイル状に並べられていた。その一つ一つに映し出されているのは、リアルタイムの監視カメラの映像。その全てが今まさに橘と麗奈が乗り込もうとしている、豪華客船『ポセイドン・ネプチューン号』の内部のものだった。
エントランスホールメインダイニングカジノ、そして全ての客室に続く廊下。船内の全ての視覚情報が、彼女の手の中にあった。それは神の視点。あるいは覗き魔の視点。雪乃にとっては、どちらも同じことだった。隊長を見守ることが出来るのなら、神にでも悪魔にでもなれる。
橘隊長は、雪乃にも留守を頼んだ。
『雪乃のその情報処理能力は、我々の生命線だ。陸からのバックアップを頼む。君が我々の目となり、耳となってくれる。信じているよ』
その言葉は彼女の心を歓喜で満たした。隊長は私を必要としてくださっている。私のこの力だけを信頼してくださっている。あの麗奈先輩の戦闘能力でもなく、陽菜の破壊力でもなく、この私だけの力を。その事実は彼女の忠誠心を、更に強固なものにした。
信じている。その言葉を思い出すだけで、身体の奥が甘く疼く。指先が熱を持つ。この熱を、隊長への奉仕に変換するのだ。
(……)
彼女は無言だったが、その白い指先は恐ろしいほどの速度でキーボードの上を滑っている。
カタカタカタターンッ!
その軽やかなタイピング音は、まるで死神の鎌が空気を切る音のようだった。船の乗客名簿クルーの個人情報過去の犯罪歴、そして船の航行システムその全てがものの数分で彼女の支配下に置かれた。
情報の大海が彼女の指先一つで、意のままになる。それは彼女にとって呼吸をするよりも、簡単な作業だった。彼女は橘と麗奈以外の全ての乗客の顔写真を、世界中のデータベースとリアルタイムで照合していく。政治家、実業家、女優…そして、その裏の顔。
『ニーズヘッグ』の関係者。
敵対組織の構成員。
あるいは、ただの金持ちのクズ。
画面に映る、顔顔顔。その全てが雪乃にとって、隊長に近づく可能性のある害虫にしか見えなかった。
特にあの女、黒澤麗奈。今頃隊長の隣であの黒いドレスを着て、その白い背中を晒しているのだろう。隊長の視線がその肌を滑る瞬間を想像するだけで、雪乃は指先の力が強くなることを自覚した。許せない。あの女だけが隊長の隣にいることが。隊長の視線を独占していることが。
だが、今は味方。今は我慢する。この任務が終われば、またあの女も排除対象リストに加えるだけだ。雪乃の指がぴたりと止まった。画面に一人の男の顔写真が、アップで表示される。
『マルコ・ベラルディ。ニーズヘッグ極東支部幹部。表向きは貿易会社の社長。要注意人物』
彼女はその男の顔を、脳に焼き付けた。その油ぎった笑み。不快だ。この男が隊長と同じ空気を吸うことすら、許しがたい。次に、別の女の写真。
『リン・シャオラン。所属不明。複数の諜報機関に名前が挙がる、フリーのエージェント。通称"毒蜘蛛"』
彼女の顔も記憶する。特にこの女は危険だ。その豊満なマシュマロと妖艶な唇は隊長の理性を麻痺させる毒になりかねない。
もしこの女が隊長に色目を使ったら?
もしこの女が隊長の部屋を訪ねようとしたら?
想像しただけで吐き気がする。雪乃はリン・シャオランの個人情報を、更に深くハッキングした。隠し口座の番号。秘密の愛人の名前。過去の任務での失敗。いつでもその喉元に食らいつけるだけの牙を、用意しておく。
雪乃は淡々と、確実に一つのリストを作成していた。それは麗奈が現場で行っているであろう、物理的な脅威の排除とは全く次元の違う作業。デジタル空間における、完全な索敵と殲滅準備。
「…隊長に近づく可能性のある害虫」
彼女はか細い、しかし絶対零度の響きを持つ声で呟いた。その声は誰にも届かない。ただ彼女自身の興奮を、静かに煽るだけだった。
「…レベル1からレベル5まで分類。対応マニュアルを作成します」
「レベル1、接触。レベル2、会話。レベル3、身体的接触。レベル4、二人きりの空間への誘導。レベル5、隊長への明確な敵意あるいは好意の表明」
「レベル3、以上の個体は即時排除対象。個人情報全てのアカウント銀行口座をロック。社会的生命を完全に停止させます」
彼女の思考は冷徹で機械的だ。だがその無表情の裏で、彼女は想像していた。自分の指先一つで一人の人間の人生が音を立てて、崩れていく様を。それは最高の愉悦だった。全ては隊長を守るため。隊長の清らかな世界を、汚させないため。
「レベル5に関しては…」
雪乃はそこで言葉を区切った。そしてパソコンの画面に船の航行システムの、制御画面を表示させる。船の現在位置を示す光点が、太平洋の真ん中で静かに点滅している。まるで広大な闇に浮かぶ孤独な魂のようだ。その魂の行き先を今この自分が握っている。その全能感に彼女は身を震わせた。制服のスカートの裾が、わずかに揺れる。
「…この船の座標データを少し書き換えるだけで、偶然嵐の中心に迷い込むことも可能ですから」
船ごと沈める。隊長と麗奈先輩には申し訳ないが、それもまた害虫駆除のため。隊長を守るためなら許されるはずだ。いや隊長ならきっと、それを望んでいらっしゃるだろう。船が沈む中隊長を抱きしめて二人きりで冷たい海の底へ…。それも悪くないかもしれない。誰にも邪魔されない永遠の二人きりの空間。
「ふっ、完璧」
雪乃は全ての準備を終えると、そっとパソコンの壁紙を表示させた。それはいつかの任務の合間に彼女が隠し撮りした、橘の寝顔だった。その無防備な顔を、画面越しに指でそっと撫でる。
(隊長…私の全てで…お守りしますから♡)
その瞳は、もはや正気の色を失っていた。
「うふふ♡」
「おらおらおら、おら!」
正気でないからこそ嫉妬の炎は静かであればあるほど深く、そして恐ろしく燃え盛るのだ。陽菜が物理的な破壊神ならば、雪乃は全てを裏から操る静かなる破壊神。陸に残された二つの炎は、それぞれのやり方で遠い海の上にいる愛する隊長を想い、その狂気を激しく研ぎ澄ませているのであった。
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