俺以外の奴が死ぬのはどうでもいいが、俺が死ぬのは絶対に嫌だ 作:最高司祭アドミニストレータ
家でご飯作って食べて。一緒にゲームして。一緒にお風呂に入って。そして最後は一緒にベッドで寝ました。次の日、起きますと…なんと作者、後輩の胸にむぎゅうされてました。1作者の腕に抱きついてる後輩→2起きたのを確認した後輩は、一瞬で作者をむぎゅうした→3ナァニコレ??
後輩「おはようございます先輩! よく眠れましたか!」
作者「いきできないからどいてくれるかい? それとふくきろふく」
後輩「えっ、可愛い? ふふっ、それは先輩もですよ〜?」
作者「だめだこりゃ」
本当、不思議ですよねェ。
漆黒の海を滑るように進む、巨大な白亜の城。その名は、『ポセイドン・ネプチューン号』。全長三百メートルを超える、豪華客船。
今宵その最上階にあるメインホール『アトランティス』では、きらびやかなチャリティーパーティーが催されている。主催は近年急速に業績を伸ばしているという、貿易会社『オーディン・エンタープライズ』。しかしその実態は、国際犯罪組織『ニーズヘッグ』のフロント企業に他ならない。
偽りの光で満ちたこの船は、巨大な棺桶だ。麗奈はそう思った。今夜この船に乗っている害虫たちを隊長と共に裁き、海の底へと沈めるための美しい棺桶。
黒澤麗奈はその偽りの祝宴の、中心にいた。彼女が今夜纏うのは、あの祝勝会でも着用した一着のドレス。背中が腰のあたりまで大胆にカッティングされた黒のロングドレス。そのシルクの生地はシャンデリアの光を吸い込み、そして鈍く反射して彼女の完璧なボディラインを、幻想的に浮かび上がらせる。歩くたびに滑らかな布地が彼女の肌の上を滑り、背骨の美しい窪みに沿って官能的な影を落とす。
この背中は、隊長だけに見せるためのもの。他の男たちの汚らわしい視線が触れるたびに、彼女は肌が焼かれるような不快感を覚えた。
うなじで緩くまとめられた黒髪。そこからこぼれ落ちた数本の髪が、白い肌の上で艶めかしく揺れる。耳元で控えめに、しかし確かな輝きを放つダイヤモンドのピアス。その全てが彼女のクールな美貌をさらに際立たせており、さながら夜の女神が顕現したかのような圧倒的なオーラを放っていた。
そしてその女神の隣には、完璧な仕立てのタキシードに身を包んだ橘が立っていた。今夜の二人の設定は「新進気鋭の若手実業家橘圭一と、その美しきパートナー黒澤麗奈」。
麗奈はその設定に心の奥底で、深い満足感を覚えていた。パートナー。なんと甘美な響きだろうか。それは恋人でもなく、妻でもない。誰よりも近くで彼を支え、彼と秘密を共有する唯一無二の存在。この役は自分にしか務まらない。この背徳的な響きこそが、今の自分たちの関係にふさわしい。
(…ふふ。やはり隊長の隣に立つべきはこの私)
彼女は内心で優越感に浸る。陸で悔し涙を流しているであろう、陽菜の顔。パソコンの画面を見つめ嫉妬の炎を燃やしているであろう、雪乃の顔。それを想像するだけで、シャンパンの泡が弾けるような快感が、彼女の全身を駆け巡った。今この瞬間、隊長の隣という特等席は自分だけのもの。彼の体温も彼の香りも彼の視線も全て、自分が独占しているのだ。
時折、彼の腕が彼女の背中の素肌に触れる。そのたびにぞくりとした快感が背筋を駆け上り、下腹部の奥がきゅんと疼いた。
(いけない。今は任務中。我慢よ、黒澤麗奈。けれどこの興奮こそが、私の五感を研ぎ澄ませる)
麗奈は、完璧なパートナーを演じきっていた。優雅な所作でグラスを傾け、紳士たちと当たり障りのない知的な会話を交わす。その全てが完璧で、自然だった。まるで生まれながらにして、この世界の住人であるかのように。しかしその彼女の意識の大半は、常に隣にいる橘に向けられていた。
彼の視線の動き。
彼のグラスの傾き。
彼が誰と葉を交わし、その相手にどのような感情を抱いているか。
その全てを彼女は瞬時に分析し、記録していく。それはもはや、パートナーの役割を超えていた。熟練の諜報員のそれだった。彼のわずかな眉の動きからターゲットへのサインを読み取り彼の指先の微細な動きから次の行動を予測する。
言葉はいらない。
視線だけで私たちは通じ合える。
このスリリングな感覚こそが二人の絆の証。
時折、橘が人混みの中でさりげなく彼女の腰に手を添える。それはただのエスコート。だが麗奈にとっては、それ以上の意味があった。
(もっと…強く…)
そう願わずにはいられない。隊長の指が自分の肌に食い込むほどの強さで、所有印を刻みつけて欲しい。そんな倒錯した願望が、彼女の心を支配する。周囲の人間は誰も気づかない。この完璧な淑女がその美しい頭脳の中で、如何に歪んだ愛を育んでいるかを。彼らの目に映るのは若く有能な実業家と、その知性あふれる美しいパートナーという理想的なカップルの姿だけ。
その完璧な偽装が麗奈に、更なる興奮をもたらした。この会場にいる全ての人間を欺きながら、隊長と二人だけの秘密のゲームを楽しんでいる。この快感は何物にも代えがたい。
「あちらの男がターゲットの一人ですわ、隊長」
麗奈はシャンパングラスを口に運びながら、橘にしか聞こえない声で囁いた。その唇がグラスの縁に触れ淡い、ルージュの跡を残す。
「マルコ・ベラルディ。三時の方角。金のネックレスの男です」
「…ああ」
橘の短い返答。その声に含まれるわずかな緊張が、麗奈の心をくすぐる。
(大丈夫ですよ、隊長。私がおりますから)
彼女は心の中で微笑んだ。この頼りないところもまた、彼の魅力。私が守って差し上げなければ。その思いが彼女の存在理由そのものだった。彼女はそっと橘に寄り添い、まるで恋人のように親密な雰囲気を醸し出す。それは周囲へのカモフラージュであり、同時に彼女自身の欲望の表れでもあった。橘の体温がドレスの薄い生地を通して、伝わってくる。それだけで、彼女は満たされた。
やがて、一人の男が二人に近づいてきた。日本の政財界に太いパイプを持つ、大物政治家だ。その顔には人の良さそうな笑みが浮かんでいる。だが麗奈はその目の奥に浮かぶ、老獪な光を見逃さなかった。この男もまた、害虫の一匹に過ぎない。今は利用価値がある、というだけだ。
男は橘に向かって、にこやかに言った。
「橘社長。素晴らしいパートナーをお持ちですな」
「いえいえ、とんでもない。彼女の助けがなければ、私のビジネスも成り立ちませんよ」
橘は完璧な営業スマイルで応じる。その声には、自信と余裕が満ち溢れている。少なくとも、周囲の人間にはそう聞こえたはずだ。
(さすがです隊長。その完璧なロールプレイ…)
麗奈はその頼もしい(ように見える)横顔をうっとりと見つめた。そして政治家の見えない角度で、そっと橘の腰に手を回す。これは私のものだと、無言の主張をするかのように。ドレス越しに伝わる、彼の筋肉の硬直。そのわずかな反応が、麗奈に倒錯した喜びを与えた。この方は、私がいないとダメなのだ。私がこうして支えて差し上げなければ。その思いが、彼女の指先に力を込める。
だがこの華やかなパーティー会場は、同時に危険な魔物がうごめく伏魔殿でもあった。政治家との当たり障りのない会話を終え、一息ついたその時。麗奈の研ぎ澄まされた感覚が、一つの不快な視線を捉えた。
それは粘着質で品がなく、所有欲にまみれた視線。視線の主は少し離れたテーブルで葉巻を燻らせている、一人の男。見るからに悪趣味な金のネックレスをつけ、指にはギラギラとした指輪をはめている。その品のない成金風の男こそ、今回のターゲットの一人。『ニーズヘッグ』極東支部幹部マルコ・ベラルディ。
男はやがて席を立つと獲物を見つけた蛇のように、ぬるりとした足取りでこちらへと近づいてきた。その濁った瞳が麗奈の体を、頭のてっぺんから足の先まで舐めるように見ている。不快感で、麗奈の眉がピクリと動いた。この男の視線は隊長だけのものであるべき私の体に、不純な欲望を向けている。
万死に値する。
その瞳をくり抜いてやりたい。
その舌を引き抜いてやりたい。
そんな物騒な思考が、彼女の美しい頭脳を瞬時に駆け巡る。
「これはこれは美しいフロイライン。私の名前はマルコ。このパーティーの主催者の一人です。よろしければ、一杯いかがかな?」
男はそう言うと馴れ馴れしく麗奈の腰に、その汗ばんだ手を回そうとしてきた。
その瞬間。麗奈の瞳の奥で何かがカチリと、音を立てた。絶対零度のスイッチが入る音。彼女は男の手が自分のドレスに触れる、コンマ数秒前に体をわずかにひねった。それはまるでダンスのステップのように、自然で優雅な動き。しかしその実態は相手の力のベクトルを利用し、無力化する合気道の極意だった。
男の手は空を切り、その巨体はわずかにバランスを崩す。
「おっと…」
男が間抜けな声を上げたその隙に。麗奈は一歩橘に近づき、彼の腕にそっと自分の体を寄せた。そして橘にしか聞こえないような、甘い吐息混じりの声で囁いたのだ。その声はどこまでも優雅で、しかしその内容はどこまでも残酷だった。
「隊長。この汚らわしいゴミは、どのように処理いたしましょうか? もしお望みでしたら明日の朝に、魚の餌にしておくのが最も効率的かと思いますが」
「ぇ」
その美しい笑顔と冷徹な言葉のギャップ。麗奈は静かな、底知れない愉悦を覚えていた。彼の心音が早まるのを感じる。彼の呼吸が浅くなるのを感じる。その全てが彼女にとっての媚薬だった。
(ふふ…ご覧なさい。陽菜、雪乃。これが私と隊長との、信頼の形。貴女たちには決して真似の出来ない、大人と大人の関係よ)
隊長のこの動揺すらも愛おしい。彼が私を必要としている、証拠なのだから。この恐怖を鎮めてあげられるのも、また私だけ。その絶対的な優越感が、彼女の心を甘く満たす。
「れ、麗奈。落ち着け。今はまだその時じゃない」
橘が震える声で、必死に威厳を保とうとしながら囁き返す。その声に含まれる、懇願の色。それが麗奈の倒錯した心を、更に刺激した。
(まあ可愛い。まるで飼い主の制止を待つ猟犬のよう…いいえ逆ね。私が猟犬で、隊長がその手綱を握るご主人様)
その主従関係を再確認した彼女は、更に深い悦びに沈んだ。この御方のためなら、ゴミを一匹や二匹処分することなど造作もない。むしろ、褒めていただきたいくらいだ。麗奈は固まっているマルコに向かって、完璧な淑女の笑みを向けた。その表情の切り替えは、芸術の域に達している。先ほどまでの絶対零度の殺意はどこにもない。そこにあるのはただ内気で可憐な、深窓の令嬢の姿だけ。
「ごめんなさい、マルコ様。私は少し、人見知りなものですから。驚かせてしまいましたか?」
その可憐な仕草に男は一瞬呆気に取られたが、すぐに下品な笑みを浮かべた。
「いやいや! ますます気に入った! 今夜はまだ長い。後でゆっくりお話ししようじゃないか? 美しい薔薇の君」
男はそう言い残し、自分の席へと戻っていった。その背中からは獲物を見つけた狩人のような、醜い自信が満ち溢れていた。麗奈はその後ろ姿を、冷たい目で見送る。
(薔薇ですって? いいえ違うわ。私は貴方のような下等生物を捕らえる、悪魔サキュバスよ)
甘い香りで獲物をおびき寄せ、一度捕らえたら決して逃さない。そしてその生命も財産も尊厳も全て吸い尽くし、その養分は私の愛する御方のために捧げるのだ。彼女はマルコのプロファイルを、脳内で更新した。排除優先度を、AからSへと引き上げる。
明日の日の出を、あの男が拝むことはないだろう。どうやって処理しようか。船の後部デッキは人目につきにくい。シャンパンに少し多めの睡眠薬を混ぜて、差し上げるのもいい。眠っている間に重りをつけて海に投棄すれば、ただの事故死に見せかけられるだろう。あるいは彼のスイートルームに忍び込み、心臓に一本だけ氷の針を打ち込むのも芸術的かもしれない。誰にも気づかれず、静かに確実に命の灯火を消す。
その完璧な暗殺計画を練りながらも、麗奈の表情は穏やかなままだった。この完璧なポーカーフェイスこそが、彼女の最大の武器の一つだった。
「お、おい麗奈。本気でやる気じゃないだろうな?」
隣から聞こえてきたのは、橘のひきつった囁き声だった。その声に含まれる焦りと恐怖が、麗奈には心地よかった。まるで小動物の震えのようだ。愛おしい。
「何のことですの? 隊長」
麗奈は純真無垢な瞳を橘に向け首を、こてんと傾げてみせた。その仕草は計算され尽くした、あざとさの結晶。自分の美しさが彼にどう作用するかを、彼女は完全に理解していた。案の定、橘は一瞬言葉に詰まる。彼の視線が彼女の潤んだ唇と白い首筋の間を彷徨うのを、麗奈は見逃さなかった。
(もっと…もっと私に溺れてしまえばいいのに…)
「とぼけるな! さっきの魚の餌がどうとかいう話だ! あれは冗談だろうな!?」
「冗談? いいえ本気ですわ。あの男は隊長の所有物である私に、不躾な視線を向けました。それだけで、万死に値します」
麗奈は、うっとりとした表情で言った。その瞳は、狂信者のそれだった。
(嗚呼、隊長が私を心配してくださっている。私が罪を犯さないようにと、必死に止めてくださっている。なんてお優しい方…)
その優しさこそが、麗奈の狂気を加速させる。この方の手を汚させてはならない。汚れ仕事は全て私が請け負うのだ。この方の魂を穢させてはならない。罪と罰は、全て私が背負うのだ。それが、私の存在意義。それが、私の愛の形。
「いいか? 絶対にやるなよ! これは命令だ! もし奴を消したら俺は…俺は…ッ」
橘が必死の形相で言う。その必死さがたまらない。もっと言ってほしい。もっと私を求めてほしい。
「…かしこまりました。隊長のご命令とあらば」
麗奈は淑やかに頷いた。その返事に、橘がほっと胸を撫で下ろす気配が伝わってくる。
「そ…そうか。分かってくれればいいんだ。絶対にだぞ。絶対にだ」
橘が念を押すように言う。
(本当に純粋な方…)
麗奈は、内心で微笑んだ。隊長は、「殺すな」と命令した。だが、「半殺しにするな」とは言っていない。それに事故に見せかけて、海に落ちる可能性だってある。その思考の抜け道を見つけ出すことなど、彼女にとっては造作もないことだった。隊長のご命令は絶対。
だからこそ、その言葉の裏まで完璧に読み解きその真意を汲み取って差し上げるのが、忠臣の務め。隊長はきっと「面倒なことになるのは嫌だ」と、おっしゃりたいのだ。ならば面倒にならないように、完璧に処理すればいい。それだけのこと。
彼女の静かなる戦いは、まだ始まったばかりだった。この華やかな舞台の上で愛する主君を守り、彼に近づく不純物は全て排除する。それこそが今夜彼女に与えられた至上の喜びであり、使命なのだから。彼女はそっと、橘の腕を強く握った。その指先に力がこもる。彼の骨がきしむほどの、強さで。
「いっ…!」
橘の小さな悲鳴が聞こえた。だが麗奈は力を緩めない。むしろ、更に強く握りしめる。まるで自分の存在を彼の骨の髄まで、刻みつけるかのように。
この痛みもまた二人だけの秘密。
この温もりは誰にも渡さない。
陽菜にも雪乃にもそしてこの船にいるどんな女にも。
この腕は私のもの。
この体もこの心もこの魂も、全て。
(嗚呼、隊長…)
彼女は心の中で呼びかけた。
(この麗奈が全ての不純物から、あなた様をお守りいたします。ですからどうぞご安心なさって、この祝宴をお楽しみくださいませ)
その忠誠心はどこまでも純粋で、そしてどこまでも歪んでいた。隣に立つ男が内心で、(もう帰りたい…トイレ行きたい…でも離れたら絶対こいつ何かやる…)と失禁寸前の恐怖に耐えていることなど、知る由もなかった。
彼女にとってはこの緊張感すらも、二人だけの秘密を共有する甘美なスパイスでしか、なかったのだから。
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