俺以外の奴が死ぬのはどうでもいいが、俺が死ぬのは絶対に嫌だ   作:最高司祭アドミニストレータ

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クスっとなるお話。


蹂躙、そしてクズの応援歌 - (美女たち&男2人 視点)

 マルコがパチンと指を鳴らした。乾いた音が合図となりアジトの暗がりから無数の影が飛び出した。

 

 彼が金に糸目をつけず雇い入れた、精鋭中の精鋭傭兵部隊だ。数十の銃口が一斉に火を噴き、鉛の雨が入り口に立つ三人の美女たちへと降り注ぐ。硝煙とマズルフラッシュが視界を埋め尽くし、轟音が鼓膜を叩く。本来なら、一瞬で肉片と化すはずの飽和攻撃だ。

 

 だが、その轟音に負けないほどの大声で絶叫する男がいた。人質であるはずの橘圭一だ。彼はロープで縛られた椅子ごとピョンピョンと跳ねながら歓喜の声を上げていた。

 

 

「いいぞいいぞ! その調子で異常者どもを始末してしまえ! やれ! 撃て! ハチの巣にしろ! 俺の平穏な日常を取り戻してくれぇ!」

 

 

 応援している。あろうことか、人質が誘拐犯側を全力で応援している。その目は血走り、口元からは涎が垂れ、必死の形相で部下の死を願っている。あまりにもシュールで常軌を逸した光景に、マルコは引きつった笑みを浮かべた。

 

 

(なんて節操のない男だ! 敵を応援する人質など聞いたことがない! プライドというものがないのか!)

 

 

 アフロヘアーのボスもまた、銃を乱射しながら怒鳴り返した。

 

 

「うるせえぞアホ! 応援なんかしてんじゃねえ! 流れ弾が当たっても知らねえからな! テメェは黙って震えてろ!」

 

 

 悪党たちの正論は、橘には届かない。彼はただ、一心不乱に「殺せ殺せ」と連呼している。だが、その願いが叶うことは永遠になかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【陽菜 vs 傭兵部隊】

 

 

 赤城陽菜は笑っていた。飛んでくる銃弾を、まるで春の雨でも楽しむかのように全身で浴びている。否。彼女の筋肉は、鋼鉄よりも硬く弾力がある。銃弾は彼女の皮膚に触れた瞬間、その運動エネルギーを殺され、ポロポロと足元に落ちていくのだ。

 

 

(あはは! 豆鉄砲ですね!)

 

 

 陽菜は無邪気に思った。こんなもので自分を止めようなんて、隊長への愛を舐めているとしか思えない。彼女は近くにあった太い鉄骨の柱に目をつけた。建物を支える重要な構造体だが、今の彼女にはただの棒切れにしか見えない。彼女は柱に両手をかけ、「よいしょ」と軽い掛け声と共に引き抜いた。ズズズンという地響きと共に、天井の一部が崩落する。

 

 

「ストライク~!」

 

 

 陽菜はその鉄骨をバットのように構え、ブンブンと振り回した。遠心力が加わった数百キロの鉄塊が、空気を切り裂く音を立てる。

 

 傭兵たちが悲鳴を上げる暇もなかった。彼らはボウリングのピンのように次々と吹き飛ばされ、壁に激突し天井に張り付いていく。重武装した大男たちが、枯れ葉のように舞う光景。

 

 

「ひぃぃ! やっぱりだ! やっぱり重機だ! 人間の皮を被ったゴリラだ!」

 

 

 ボスはトラウマを刺激され、ガタガタと震え出した。銃を持つ手が震え、照準が定まらない。悪夢だ。あの日の悪夢が、さらに凶悪になって帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【麗奈 vs マルコ】

 

 

 黒澤麗奈は陽菜が巻き起こす破壊の嵐を、涼しい顔ですり抜けた。彼女のターゲットは雑魚ではない。この不敬な計画の首謀者。イタリア製のスーツを着たあの男だ。彼女は優雅な足取りで、真っ直ぐにマルコへと歩み寄る。飛んでくる流れ弾は最小限の動きで回避し、あるいはナイフで弾き落とす。

 

 

「ごきげんよう。害虫さん」

 

 

 麗奈は至近距離で微笑んだ。その美貌は見る者を魅了するが、その瞳は見る者を凍りつかせる。

 

 

「私の隊長に触れたその指…一本につき、一時間の『教育』が必要ですわね。たっぷりとお勉強させて差し上げますわ」

「ふざけるな!」

 

 

 マルコは隠し持っていたナイフを抜いた。彼は接近戦のエキスパートでもある。流れるようなナイフ捌きで、麗奈の頸動脈を狙う。速い。常人なら視認すらできない速度だが、麗奈にはスローモーションに見えていた。

 

 

(遅い。止まって見えますわ)

 

 

 彼女の手首が霞むように動いた。次の瞬間、マルコの両手首に激痛が走った。キンッという金属音がして、彼の手からナイフが落ちる。気づけば、彼の手首には細い針のようなものが深々と突き刺さり、神経を麻痺させていた。

 

 

(バカな…! 私のナイフ捌きが…子供扱いだと…!?)

 

 

 マルコは愕然とした。自分の技術がプライドが美学が、目の前の女によっていとも簡単に踏みにじられていく。

 

 彼女は戦っているのではない。ゴミ処理をしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【雪乃 vs システム】

 

 

 白石雪乃は、戦場の中心でただ一点を見つめていた。橘圭一だ。彼が「殺せ殺せ」と叫んでいるその声を、彼女の脳内フィルターは瞬時に翻訳していた。

 

 

(『敵を殺せ』『俺を守れ』『お前たちならできる』…ああ隊長! なんて熱い応援! 届いています! その魂の叫び!)

 

 

 雪乃は恍惚とした表情で端末を操作した。部屋の防衛システムを完全に掌握する。照明がストロボのように激しく点滅し敵の視界を奪う。スピーカーからは人間が最も不快に感じる高周波音と、断末魔のようなノイズが大音量で流される。敵兵たちは耳を塞ぎ、平衡感覚を失い、その場にうずくまっていく。

 

 

(もっと…もっと『始末』しますね…♡)

 

 

 彼女は指先一つで、アジト全体を処刑場へと変えた。スプリンクラーから放水させ、足元を滑らせる。自動ドアを誤作動させ、敵を挟み込む。それは雪乃から橘への、愛のパズルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【集結視点】

 

 

 カップラーメンが出来上がるよりも短い時間で、勝負は決した。精鋭だったはずの傭兵部隊は全滅し、動く者はいない。マルコは両腕を無力化され、膝をついている。ボスは陽菜に壁際まで追い詰められ、アフロヘアーが壁にめり込んでいる。

 

 静寂が戻った。それは安息ではなく、処刑前の静けさだ。勝敗が決したと見るや否や、椅子に縛られたままの橘圭一の表情が一変した。先ほどまでの狂気じみた敵への応援など無かったかのように、彼は瞬時に「聖人モード」の仮面を被った。

 

 そして、高らかに宣言したのだ。

 

 

「さ…流石だ! 我が精鋭たちよ!」

 

 

 声が裏返っているが、本人は威厳ある指揮官のつもりだ。

 

 

「さ、さあ犯罪者どもを始末したまえ! 君たちの正義の力で、この悪党たちに鉄槌を下すんだ! 俺はずっと信じていたぞ!」

 

(((はぁぁぁぁぁぁぁ!!??)))

 

 

 その場にいた男たちの心が、一つになった。マルコとボス、そして意識のある傭兵たち全員が心の中で絶叫した。

 

 

「貴様ァァァッ!!」

 

 

 マルコが血を吐くように叫んだ。

 

 

「プライドというものがないのか!? さっきまで我々を応援していただろうが! 『殺せ』と言っていただろうが! このコウモリ野郎が!」

「この裏切り野郎!」

 

 

 ボスも涙目で吠えた。

 

 

「テメェが一番の悪党だ! 仁義もクソもねえ! むしろあの女たちこいつを先に殺した方がいいぞ! 絶対に! こいつは生かしておいちゃいけねえ害悪だ!」

 

 

 二人の敵同士だった男の間に奇妙な連帯感が生まれた。こいつだけは許せない。こいつだけは、道連れにしなければならない。社会正義のために、このクズを抹殺しなければならない。それは純粋で、尊い義憤だった。

 

 しかし橘圭一という男は、その程度の罵倒で傷つくような、柔な精神構造はしていなかった。彼は椅子に縛られたままふんぞり返り、信じられない言葉を吐き捨てたのだ。

 

 

「人間国宝を殺す!? 何をご乱心かと思えば馬鹿なことを!」

 

(はあ!?)

 

 

 その場にいた全員の思考が一瞬停止した。人間国宝。一体誰のことだ。まさか、自分のことか。

 

 

「俺は特別な存在なんだぞ? この国の治安を守る要であり、未来の警視総監…否、それ以上の何かになる男だ! テメェらのようなドブネズミと同列に語るな!」

 

 

 橘は叫んだ。その表情には恥じらいも躊躇もない。あるのは肥大化した自意識と生存本能が融合して生まれた、モンスター級の傲慢さだけだ。

 

 

「俺には輝かしい未来がある! 地位も名誉も金も、全て手に入る予定なんだ! それに比べて、どうだお前らは! 犯罪者! 逃亡者! 負け犬! 何もかも終わってるお前らとは違うんだよ!!」

 

 

 橘の指先がビシッと、マルコとボスを指す。その指先はあろうことか、助けに来た部下たちの方へも向けられた。

 

 

「そこのお前らもだ! 異常者! ストーカー! 破壊魔! まともな社会生活も送れない欠陥品共め! 俺という管理者がいなければ、ただの危険物だろうが! 感謝しろ! 俺に養われていることを光栄に思え!」

 

 

 言った。言ってしまった。敵だけでなく味方までをも、全方位に侮辱し見下す暴言。それは彼が日頃から腹の底に溜め込んでいた、ドス黒い本音の爆発だった。マルコとボスは、開いた口が塞がらなかった。怒りを通り越して、感動すら覚えるほどのクズっぷり。清々しいまでの外道。ここまで来ると、一種の才能だ。

 

 

「き…貴様…正気か…?」

 

 

 マルコが震える声で呟いた。目の前で自分を助けようとしている「異常者」たちに向かって、よくもまあ、そんな減らず口が叩けるものだ。殺されるぞ。今度こそ本当に、味方に背中から刺されるぞ。その視線に気づいたのか、橘はハッとしたように表情を変えた。

 

 

「こ、これも脅されて仕方なくだ!」

 

 

 橘は涙目で叫んだ。さっきまでの傲慢さはどこへやら。今は怯える小動物の顔をしている。

 

 

「そうだ! こいつらが! こいつらが脳波を操る装置を使って、俺にひどいことを言わせたんだ! 俺の本心じゃない! 俺は君たちを愛している! 信じてくれ!」

 

(((苦しい!!!)))

 

 

 マルコとボスの心が、再び一つになった。無理がある。いくらなんでも、その言い訳は通じない。脳波コントロール装置などというSF設定を、この土壇場で持ち出す神経が理解できない。もはや呆れを通り越して、哀れみすら感じるレベルだ。

 

 

「もういい…」

 

 

 ボスがガクリと項垂れた。

 

 

「殺せ。もう俺たちを殺してくれ。こんな奴と同じ空気を吸っているだけで、気が狂いそうだ」

 

 

 戦意喪失。橘圭一という猛毒に当てられ、悪党たちの精神は完全に摩耗していた。これ以上、この茶番に付き合いきれない。死んで楽になりたいとさえ思わせる橘の存在感は、別の意味で最強の兵器だったのかもしれない。

 

 だが、その正論も狂信者たちには届かない。麗奈がマルコの喉元に、冷たい銃口を突きつけた。その瞳は侮蔑に満ちている。

 

 

「お黙りなさい」

 

 

 氷のような声。

 

 

「彼のお言葉は絶対です。貴方たちが『犯罪者』で、『始末されるべき』だと王が決めたのです。過去の発言など些細なこと。今の言葉こそが真実であり、正義ですわ」

 

 

 マルコは絶句した。論理が通じない。彼女たちは橘の言葉を盲目的に信じているのではない。都合よく解釈し再構築し、自分たちの行動原理に組み込んでいるのだ。

 

 これは宗教だ。邪教だ。「人間国宝」という戯言も、彼女たちの脳内では「国宝級に尊いお方」という事実に変換され、「異常者」という罵倒も「常人には理解できない高みにある存在」という褒め言葉として、処理されているに違いない。

 

 陽菜がボスの眼前に拳を構えた。その拳は血と脂で赤く光っている。

 

 

「隊長の言う通り! おじさんたちは悪い人! 隊長をいじめた罰です! だからお星様になーれ!」

「ま…待って! 俺は…!」

 

 

 ボスの命乞いは届かない。陽菜にとって隊長の言葉は神の啓示だ。「始末しろ」と言われたら、地球の裏側までぶっ飛ばすのが彼女流の始末なのだ。

 

 雪乃が端末を閉じた。

 

 

「証拠隠滅完了。逃走ルート確保。…さようなら」

 

 

 彼女はアジトの自爆シークエンスを起動させた。証拠も死体も建物ごと消し去る。それが最も効率的な解決策だと判断したのだ。

 

 

「私が、こんな茶番のような男とその狂信者たちに潰されるとは…! 無念…!」

 

 

 マルコは天を仰いだ。悔しさよりも呆れと絶望が勝っていた。

 

 

「やっぱり刑務所が一番安全だったァァァァ!!!」

 

 

 ボスの断末魔の叫びが響き渡った瞬間。

 

 

 ドォォォォォォン!!! 

 

 

 陽菜の拳がボスの顔面に炸裂し、麗奈の弾丸がマルコの肩を貫き、そして雪乃が仕掛けた爆弾が起爆した。

 

 三つの衝撃が重なり合い、アジトの最深部は閃光と爆風に包まれた。マルコとボスは物理的に無力化され、文字通り吹き飛んでいった。彼らが瓦礫の下で生きているか死んでいるかは、神のみぞ知る。少なくとも彼らの精神は、完全に破壊されたことだろう。

 

 爆風が収まる。もうもうと立ち込める煙の中、椅子に縛られたままの橘圭一がいた。彼の髪は爆風でチリチリのアフロになりかけ、顔は煤で真っ黒だ。彼は震える手で、親指を立てていた。

 

 

「よ…よし…解決…!」

 

 

 引きつった笑顔。その瞳は死んでいた。部下たちへの恐怖で、瞳孔が開ききっている。助かったという安堵よりも、「また生き残ってしまった」という絶望が色濃く浮かんでいた。

 

 

「隊長!」

「お怪我はありませんか!?」

「…無事で…よかった…」

 

 

 三人の乙女たちが敵の残骸には目もくれず、愛する隊長の元へと駆け寄る。彼女たちの顔には一点の曇りもない。「隊長の期待に応えた」という達成感と、「隊長を守りきった」という幸福感に満ち溢れている。

 

 悪党たちすらドン引きさせた橘のクズっぷりは、彼女たちの脳内では「敵を油断させるための高度な陽動作戦」、あるいは「自分たちを信頼しての演技」として美しく処理されていたのだ。

 

 

 麗奈が素早くロープを切断する。

 陽菜が橘を軽々とお姫様抱っこする。

 雪乃が橘のバイタルチェックを始める。

 

 

 完璧な救助体制。逃げ場のない包囲網。

 

 

「さあ帰りましょう隊長! 温かいお風呂とご飯が待っていますよ!」

「今夜は離しませんからね!」

「データのバックアップも取らなければ」

 

 

 彼女たちは橘を抱えて、崩壊するアジトから脱出する。橘の「降ろしてくれ! 自分の足で歩く!」という悲鳴は「嬉しすぎて言葉にならないのですね」という解釈で流された。

 

 理不尽なハッピーエンド。悪は滅び正義(?)が勝った。だが橘圭一にとっての本当の戦い(胃痛との闘い)は、これからが本番なのだ。

 

 崩れ落ちる瓦礫の向こうで、アフロになったボスとマルコが折り重なって倒れている姿が、一瞬だけ見えた気がしたが、橘は強く目を閉じて記憶から消去した。俺は何も見ていない。俺は英雄だ。そう自分に言い聞かせながら、彼は愛する部下たちの腕の中で、静かに気絶したフリを決め込んだ。




最終話まで、残り…
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