俺以外の奴が死ぬのはどうでもいいが、俺が死ぬのは絶対に嫌だ 作:最高司祭アドミニストレータ
ふっ、出撃(泣)
モニター越しの阿鼻叫喚 - (橘圭一 視点)
山梨県の、うっそうとした木々に囲まれた山奥。鳥のさえずりと、風が木々の葉を揺らす音だけが支配するはずのその場所に、不釣り合いな緊張が満ちていた。何台もの警察車両がまるで巨大な獣を囲む猟犬のように、潜むように配置されている。
その中心に鎮座する、大型の装甲車両。それが今回の作戦の頭脳となる、後方指揮車だった。
橘圭一はその薄暗い指揮車の内部で、冷たい汗を背中に感じていた。目の前のモニターには、無数のウィンドウが表示されている。これから突入する武装カルト教団『神々の黎明』が立てこもる施設の、詳細な図面。赤外線サーモグラフィーが捉えた、施設内部の熱源分布。そして彼の愛すべき部下たちの、現在のバイタルデータ。
全てがこれから始まる「戦争」の現実を、橘に突きつけていた。
『橘隊長。聞こえるかね』
ヘッドセットから、上層部の厳格な声が響く。橘は背筋を伸ばし、マイクに向かって明瞭な声で応じた。
「はい。こちら特四隊長、橘。感度、良好です」
『うむ。いよいよ、君の部隊の初陣だ。鳴り物入りで新設された特四の実力、我々も大いに期待している。君の的確な指揮で速やかに、そしてスマートにこの状況を解決してくれたまえ』
「はっ! 必ずや、ご期待に応えてみせます」
橘は、完璧なエリートの口調でそう答えた。通信が切れた瞬間、彼はデスクの下で胃薬のボトルを固く握りしめていた。
(期待するな! 俺に期待なんかするな!)
内心の絶叫は、もちろん誰にも聞こえない。
(俺が期待してるのは、ただ一つ! あいつらが暴走せず死者を出さず、適度に…そう、あくまで適度に、犯人たちを制圧してくれることだけだ! スマート? 無理に決まってるだろ!!? あいつらのやり方は、破壊と蹂躙とオーバーキルだけなんだから!!)
今回の事件は、橘のささやかな日常を破壊するのに、十分すぎる規模だった。
『神々の黎明』。終末思想を掲げ、信者たちを洗脳する危険なカルト教団。その彼らが海外から密輸した銃器で武装し、山奥の巨大な研究施設だった建物を占拠して立てこもったのだ。
その数、およそ六十名。警察への抵抗も激しく、既に突入を試みた機動隊員が多数負傷しているという。
そこで白羽の矢が立ったのが、橘率いる『特四』だった。対テロ、対武装集団、対特殊犯罪。まさに、特四のためにあるような事件。最も橘にとっては、地獄行きの片道切符以外の何物でもなかったが…。
(ん? …って、ハァ!!?)
突入準備を整えた部下たちの姿が、指揮車の外のカメラに映し出された時、橘は再び眩暈を覚えた。彼女たちは、いつもの制服ではなかった。それぞれがこの日のために用意したであろう、カスタムされた特殊戦闘服に身を包んでいたのだ。
(いつの間に、こんなコスプレみたいな服を…!!! いや待て? これ…正式な予算で開発したやつか!? だとしたら…承認したの誰だ!!? 俺か!? 記憶にないぞ!!)
黒澤麗奈が纏うのは『シャドウダイバー』と名付けられた、漆黒のボディスーツ。光を吸収する特殊繊維で作られたそれは、彼女の驚異的なプロポーションを、寸分の隙もなく浮かび上がらせている。特に、豊満な二つのマシュマロから引き締まったくびれ。そして丸みを帯びたヒップへと続くラインは、もはや芸術品の域だった。
(エッッ…!! なんだこのけしからんスーツは! スパイ映画のヒロインか!? こんな格好で狙撃とかされたら、敵も撃たれる前に悩殺されちまうだろ!)
赤城陽菜の戦闘服は、『バーサーカーギア』。白いタンクトップの上に、丈の短いプロテクターベスト。そして、下は信じられないくらい短い黒のプリーツスカート。腕には赤いアームガードを装着し、足元はごついコンバットブーツ。そのスポーティーで健康的なエロティシズムは、少年漫画のヒロインそのものだった。
(短すぎるだろ、そのスカート!? 絶対見えてる! いや、むしろ見せてるだろ!? これで暴れ回るとか、もうテロだろ!! お色気テロだ…!!!)
白石雪乃は、『サイレントハッカー』。白を基調とした、フード付きのパーカーワンピース。そのゆったりとしたシルエットが、逆に彼女の華奢さと謎めいた魅力を引き立てている。しかしそのスカート丈は、陽菜に負けず劣らず短い。そして何かの拍子に翻ったスカートの奥には、各種ツールを装着した黒いガーターベルトがチラリと見えた。
(ガ、ガーターベルトォ!? お前、そんなえげつないモンを隠し持ってたのか!!? 見せる気満々じゃねえか!? しかも、パーカーのフードを深く被ってるせいで表情が読めん!! 不気味すぎる!!)
橘は、頭を抱えた。これから始まるのは、テロリストの制圧作戦のはずだ。どうして現場はセクシー美女たちの、ファッションショー会場みたいになっているんだ。
『隊長。準備、完了しました』
ヘッドセットから、凛とした麗奈の声が聞こえる。
『いつでも隊長のお言葉ひとつで、この忌まわしき神殿を浄化してみせます』
(浄化って言うな! お前が言うと物理的に更地にしそうだから怖いんだよ! いや、浄化キャラは陽菜じゃないか? …やかましいわ!!)
『隊長ー! 私も準備万端です! 早く暴れたいな〜』
続いて、陽菜の元気すぎる声。
(暴れるな! 頼むから、事を穏便に済ませてくれ! 器物損壊の報告書を書くのは俺なんだぞ!)
『全ては、隊長の御心のままに』
最後に、雪乃の囁くような声。
(俺の心は『今すぐ家に帰って、アイマスクして寝たい』だよ!? お前らだけで行ってきてくれ! それもそれで不安すぎるが!!)
橘は深く息を吸い、そして吐いた。もう、後には引けない。彼は、震える指でマイクのスイッチを入れた。そして、指揮官として威厳に満ちた(ように聞こえる)声で命令を下した。
「──これより、オペレーション・ドーンブレイカーを開始する。特四、攻撃を開始せよ」
その言葉を合図にモニターの右上に表示されていた、三つのウィンドウの映像が一斉に動き出した。それは麗奈、陽菜、雪乃。それぞれのヘルメットに装着された、超小型カメラからのライブ映像だった。
まず、麗奈のカメラ映像。
ほとんど揺れない。まるで、滑るように移動しているのが分かる。視線の先、スコープの十字線が、施設の屋上に設置された監視カメラを捉える。プシュッ、という圧縮空気が抜けるような極小さな音。
『ふふ。隊長に代わってお仕置きよ』
次の瞬間、監視カメラのレンズが内側から弾けるように砕け散った。完璧な狙撃。しかし、橘の関心はそこではなかった。カメラがわずかに下を向いた瞬間、特徴的なコスチュームを纏っている麗奈の姿が映り込む。身体のラインにぴったりとフィットし、あらゆる動きを阻害しない特殊な繊維で作られている、通称ぴちぴちスーツ。
そのフィット感は彼女の驚異的なプロポーションを、遺憾なく強調していた。特に大きな動きに合わせてしなやかに揺れる、豊満な二つのマシュマロ。そして、引き締まった脚線美。
(グヘヘ…役得…いやいやいや! 不謹慎だぞ俺! 今は真面目な作戦中だ!)
橘は、煩悩を振り払うように頭を振った。
次に、陽菜のカメラ映像。これはもはや、映像ではなかった。地震速報のテロップと共に流される、激しい揺れの記録映像だ。
ガッシャアアアン! ゴゴゴゴゴ…!
轟音と共に、視界が激しく上下する。時折、何かの壁が内側から爆発したかのように砕け散るのが見えた。
『うおおおおお! 隊長のために、道を開きます!』
陽菜の、楽しげな雄叫びが聞こえてくる。
(道を開くってレベルじゃねえだろ!? 建物そのものを破壊してどうする!!? お前の進んだ後は、もう道じゃなくて瓦礫の山なんだよ!!)
映像が一瞬だけ安定し、陽菜の姿が映る。汗で彼女のTシャツが、肌にぴったりと張り付いていた。薄い生地の下でその豊かな胸の輪郭が、くっきりと浮かび上がっている。揺れる度にその存在を主張する二つのマシュマロは、もはや戦略兵器レベルの破壊力を持っていた。
(おっふ! で、デカい…!? 実にけしからん…って、違う!! そうじゃない!!)
橘は再び、自分の頬を叩いた。
そして、雪乃のカメラ映像。彼女の視界は、常に冷静だった。揺れもなく静かに、しかし素早く移動している。視線の先には、複雑な電子ロックのパネル。雪乃は懐から取り出した携帯端末を、パネルにかざす。
ピロリン、という気の抜けた電子音。次の瞬間、厳重だったはずのロックが、いとも簡単に解除された。
更に進むと床に仕掛けられた、赤外線のトラップ。雪乃は気にも留めずに、タブレットを数回タップする。
すると、どうだろう。通路の奥から武装した信者たちが数人、現れた。彼らは、雪乃の存在に気づいていない。そして彼らが赤外線センサーを横切った瞬間、天井から鉄のケージが落下してきた。彼らが、自分たちの仕掛けた罠にかかったのだ。
『…効率化、完了』
雪乃の、淡々とした声が聞こえる。
(み、見え…違うそうじゃない! 何してるんだ、俺! 今あいつ、『効率化』って言ったよな…効率化じゃねえよ!! 悪魔の所業だよ!? 敵のトラップを利用して敵を始末するとか、どこの悪の天才だよお前は!)
雪乃の映像には、彼女自身の姿はあまり映らない。だが時折、タブレットを操作する、その白く細い指先が映る。その繊細な指がいともたやすく、敵の防衛システムを地獄へと変えているのだ。そのギャップが、橘の背筋を凍らせた。
指揮車の中は、異様な沈黙に包まれていた。橘以外の専門のオペレーターたちも皆、言葉を失ってモニターに釘付けになっている。彼らの顔には驚愕と恐怖と、そして「ナァ〜二コレェ…??」という純粋な困惑が浮かんでいた。
今まで見てきたどんな特殊部隊の突入作戦とも、次元が違っていた。これは、制圧ではない。蹂躙だ。
一方的すぎる、虐殺。聞こえてくるのは断末魔の悲鳴、破壊音。そして、時折混じる、部下たちの楽しそうな声。
『隊長、第二防衛ライン、突破しました♡』
『隊長、敵の増援、殲滅しました♡』
『隊長、敵の通信網、掌握しました♡』
その明るい報告の声が、橘には地獄の釜が開く音に聞こえた。何がどうなって、こんなことになっているのか。橘にはもう、何も理解出来なかった。ただモニターに映し出される断片的な地獄絵図を、顔面蒼白で見つめることしか出来ない。
胃が、キリキリと痛む。もはや、胃薬の効果も切れている。これが、特四の初陣。これが部下たちの、本当の姿。
そして突入開始から、わずか十分後。あれほどまでに響き渡っていた悲鳴と破壊音が、ぴたりと止んだ。モニターの向こう側は、不気味なほどの静寂に包まれている。
ヘッドセットから三人の明るく、どこか誇らしげな声が同時に届いた。
『『『隊長、制圧、完了しました♡』』』
橘は安堵よりもはるかに巨大な恐怖に包まれて、意識が遠のいていくのを感じた。
(もうやだァァァァ!!! 誰か隊長チェンジしてェェェェ!!! もうこの椅子に座りたくないよォォォォ!!!)
それが彼が気を失う前に、最後に思ったことだった。
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