俺以外の奴が死ぬのはどうでもいいが、俺が死ぬのは絶対に嫌だ 作:最高司祭アドミニストレータ
怯むな! 反撃しろ!
【黒澤 麗奈 視点】
──隊長が、見ている。
その事実だけが、黒澤麗奈の世界の全てだった。インカムの向こう側、安全な指揮車の中から彼が見ている。己の働きを、己の戦いを、その気高い瞳で見守ってくださっている。
その想いが麗奈の五感を、通常ではありえない領域まで研ぎ澄まさせていた。風の音、木の葉のざわめき、遠くで鳴く虫の声。その全てが、彼女の脳内で三次元の音響マップを構築する。
『これより、オペレーション・ドーンブレイカーを開始する。特四、攻撃を開始せよ』
ヘッドセットから響く、愛しい主君の声。そのわずかな声の震えすら、彼女には武者震いのように感じられた。
(嗚呼! 隊長も、昂っておられる…!! ならば私も、最高のパフォーマンスでお応えしなくては…!!)
麗奈は闇に溶け込むように、施設の敷地内へと侵入した。その動きには、一切の無駄がない。まるで、地面を滑る影そのもの。
彼女が身に纏うのは、この日のために用意した特殊戦闘服『シャドウダイバー』。光を吸収する特殊繊維でできた漆黒のボディスーツは、彼女の豊満な肉体のラインをまるで第二の皮膚のように、官能的に浮かび上がらせている。
特に大きく息を吸い込む度にその存在を主張する胸の膨らみから、引き締まったくびれ。そして丸みを帯びたヒップへと続くシルエットは、暗闇の中ですら圧倒的な色香を放っていた。
これは、ただの戦闘服ではない。愛する隊長に己の完璧な「機能美」を披露するための、最高の晴れ着でもあった。
スコープを覗き込む。屋上の監視カメラ、窓という窓に配置された見張り役の信者。彼女の目にはそれら全て、愛する隊長のおわす神殿を汚す…醜い「染み」にしか見えなかった。
(隊長の目に、このような汚物を映すわけにはいかない)
プシュッ。サイレンサーが、極小さな音を立てる。亜音速弾が闇を切り裂き、寸分の狂いもなく「染み」の一つを消し去った。
プシュッ。プシュッ。
流れるような動作でボルトを操作し、次弾を装填。そして撃発。麗奈にとって、これは戦闘ではない。掃除だ。あるいは、華道の剪定に近い。美しくない枝葉を一つずつ、丁寧に取り除いていくだけの静かな作業。
「第一外周、クリア。隊長の目に、醜い争いは映させません」
インカムに、麗奈は静かに報告を入れる。私の完璧な仕事ぶりを、隊長はきっと褒めてくださるだろう。この完璧なボディラインのことも、きっと。その想像だけで、彼女の口元には微かな笑みが浮かんだ。
【赤城 陽菜 視点】
麗奈先輩からの「道が開けた」という合図。それを聞いた瞬間、赤城陽菜の全身の筋肉が、喜びに打ち震えた。
(よーっし! 一番乗りだ!)
彼女の思考は、いつだってシンプルだ。一番に手柄を立てて、一番に、大好きな隊長に褒めてもらう。そのために、自分はこの圧倒的な力を授かったのだと、本気で信じている。
「隊長ー! 見ててくださいねー!」
陽菜はインカムに向かって、元気よく叫ぶ。同時に目の前にそびえ立つ、分厚い鉄筋コンクリートの壁に向かって全力で突進した。
彼女の戦闘服は、動きやすさを最優先した『バーサーカーギア』。白いタンクトップの上に、特四のエンブレムが入った丈の短いプロテクターベスト。そして下は信じられないくらい短い、黒のプリーツスカート。
突進の勢いでそのミニスカートが、ふわりと大きく翻る。一瞬だけ覗く健康的な太ももと、その奥にある純白の世界。もしも敵が見ていれば、あまりの眩しさに戦意を喪失したことだろう。
ドッゴオオオオオン!!!
もはや、爆発音。鉄筋が飴のようにひしゃげ、コンクリートが豆腐のように砕け散る。陽菜は自らが開けた大穴を潜り抜け、施設の内部へと躍り出た。
「な、なんだ!?」
「敵襲! 敵襲だー!」
廊下にいた武装信者たちが、パニックに陥る。無理もない。壁を突き破って、ダイナマイトボディの美女が笑顔で突撃してくるなど、悪夢以外の何物でもないだろう。
「隊長の道を阻むものは、みんな壊しちゃえ♡」
「あの女、可愛い顔してるのにエグい事してるぞ!!?」
「き、来たぞー!!!」
陽菜は楽しげな声を上げながら、信者たちの群れへと突っ込んでいく。
拳を振るえば、人が飛ぶ。回し蹴りを放てば、銃を持った腕がありえない角度に折れ曲がる。その度に汗で肌に張り付いたタンクトップが、彼女の豊かな胸の形をくっきりと描き出し、ミニスカートが舞い上がる。
それは、もはや人間の戦闘ではなかった。一体の竜巻が全てを破壊しながら突き進んでいくような、天災そのもの。
「邪魔! 邪魔! 邪魔ーっ!」
信者たちの悲鳴は、彼女の耳には、心地よい声援のように聞こえていた。
(待っててくださいね、隊長! 今この陽菜が、隊長のための道をピッカピカにしてあげますから!)
彼女の純粋な善意と忠誠心は、この瞬間、現場をこの世の地獄へと変える、最強のエンジンとなっていた。
【白石 雪乃 視点】
陽菜が切り開いた、瓦礫と悲鳴の道。その中心を白石雪乃は、まるで汚れた水たまりを避けて歩く貴婦人のように、静かに進んでいた。
彼女の戦闘服は白を基調とした、フード付きのパーカーワンピース『サイレントハッカー』。そのゆったりとしたシルエットが、逆に彼女の華奢さと謎めいた魅力を引き立てている。
しかし、そのスカート丈は陽菜に負けず劣らず短い。そして何かの拍子に、あるいは意図的にスカートがふわりと翻った時、その奥に隠された各種ツールを装着した黒いガーターベルトが、見る者の理性を焼き切るかのようにチラリと覗く。清純さと背徳的なエロティシズムの、奇跡的な融合。
彼女の視界には、パニックに陥る信者たちの姿はほとんど入っていない。彼女が見ているのは、もっと別のもの。壁に張り巡らされた配線、天井に隠されたセンサー、床下に仕掛けられた圧力プレート。この施設を設計した人間の、悪意に満ちた思考の痕跡。
(……浅い)
雪乃は心の中で、冷たく断じた。
(トラップの配置が、あまりにも単調。これでは、パズルにすらならない)
懐から取り出した自作の携帯端末の画面を、白い指先でなぞる。その姿はまるで、美しいピアノソナタを奏でるピアニストのようだった。彼女がハッキングしているのは、この施設の防衛システム。
「この赤外線センサーは、あちらの自動消火装置と連動させて…床を滑りやすくしてあげましょう」
「こちらの音響トラップは、周波数を少し変えて…味方同士で幻覚が見えるように細工します」
「そして、この電子ロックは…全ての扉をロックして、彼らを袋の鼠にしてあげます」
雪乃は敵の仕掛けた罠を次々と、より残虐でより効率的な、地獄の連鎖装置へと作り変えていく。これは、非人道的な行為ではない。愛する隊長に、より早く、より完璧な「制圧完了」という結果を報告するための、ただの「最適化」作業に過ぎないのだ。
彼女の進んだ後には、混乱し自滅していく信者たちの新たな悲鳴が響き渡っていた。
【三人集結 視点】
そして突入開始から、わずか十分後。施設の最深部、教祖の間と呼ばれる巨大な礼拝堂に三人はたどり着いた。そこには緋色のローブを纏った教祖と、十数名の最後まで残った親衛隊たち。彼らは、震えながら銃を構えていた。
「ひっ…!? ば、化け物め…!!」
教祖が、引きつった声で叫ぶ。その言葉に三人は、ぴたりと足を止めた。そして互いに、ゆっくりと目配せをした。
麗奈の瞳が、冷たく細められる。
(…今、この汚れた唇が、私たちの隊長を、侮辱した…?)
陽菜の笑顔から、温度が消える。
(…隊長の、大事な部下である私たちを、化け物って言った…?)
雪乃の指が、ぴくりと動く。
(…隊長のお耳を、不快な雑音で汚した、罪…)
インカムの向こう側で愛する隊長が、この一部始終を見ている。ならば、見せなければならない。我らが主君に逆らう愚か者が、どのような末路を辿るかを。
三人の口が奇しくも同じ言葉を、同時に紡いだ。
「「「──私たちの隊長に、逆らうから」」」
それが、最後の審判の鐘の音だった。
麗奈の銃弾が、全ての銃器を寸分の狂いなく破壊し。
陽菜の拳が、全ての抵抗を粉々に砕き。
雪乃の仕掛けが、全ての逃げ道を地獄へと変えた。
礼拝堂に響き渡っていた悲鳴が、完全に止む。全ての抵抗が、沈黙した。三人は折り重なって気絶する信者たちには目もくれず、インカムのスイッチを入れた。
陽菜が代表して、満面の笑みで報告する。その声はテストで百点を取って、大好きな先生に報告する子供のように、明るく弾んでいた。
「隊長! 制圧、完了しました! 早く褒めてください♡」
その声が指揮車の中で、橘圭一の意識を刈り取った最後の引き金になったことを…彼女たちは、まだ知らない。
■
「隊長が倒れたぞー!!?」
「た、隊長!! 気を確かに!!」
「医療班を呼べ!! 大至急だ!!!」
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