マーシャルアーツ&ガンスリンガー 作:ヴィルヘルム星の大魔王
平成が終わり、令和から新たな元号が改号された現代の日本。
たまに紛争が起きる世界と比べて、いくらか平和な島国だ。
日本の関東圏内にある六道県の六道山では、鷹は空を飛び、けたたましい声で鳴き、空を優雅に羽ばたいていた。六道山は日本四大霊山の一つに数えられ、ご当地パワースポットとして知られている。
そんな六道山の麓にある切り株で一人の少年が動物に囲まれていた。少年は、高校生位の年齢で、髪は銀髪をベースに一房だけ黒髪である。
動物達は、少年を襲おうとせず静かに見守っていた。十羽の雀が少年の腹の上で鳴き、青年を優しく起こす。
少年は目を覚まし、軽く欠伸をして、雀達の頭や顎を指で撫でる。雀が気持ち良さそうに鳴いていると、理央は気配を感じ取り、港がある方角を見る。
「面白そうな気配を感じるな!行ってみるか!」
理央は、近くにいた手綱を着けた若い雄鹿に乗り込み、港方面へと駆け出す。
場所は変わり、六道湾近くにある港で、一人の男が近くのベンチで頭を抱えていた。
白髪の青年は、背後から感じた気配に警戒し、銃を抜き、銃口を対象に向けた。青年は、驚愕した。
銀髪の男が乗り物に乗っているからだ。だが、バイクや自転車なら驚かないが、彼が乗っているのは、鹿だからだ。目の前の予想外な事態に思わず頬をつねる。しかし、現実である。
「感じたことない気配を探って来てみたが、何とも面妖だな。お前の名は?」
理央は、拳銃を構えた灰色がかった白髪の男を見る。ユウの銃の構えから見て扱い慣れており、幾つもの修羅場をくぐり抜けている殺気を感じ取った。
「…白三谷ユウ」
「白三谷ユウか。俺の名は理央、六道理央だ」
「理央…」
ユウは、拳銃を下ろさずに警戒する。しかし、理央は銃を向けられているにも拘らず、笑みを浮かべている。
「ま、よろしくな」
「ああ」
一応警戒を解いたのか、ユウは銃を下ろし、内ポケットにしまった。
「携帯は?」
「充電が切れた」
「方向音痴か?交番には…」
「交番は少し⋯諸事情で警察は避けている」
「訳アリ…か。銃を持ってるんだ。当たり前か、ここで会ったのも何かの縁だ。ついてくるか?」
ユウは突然の誘いに怪しんだが、右も左も分からない異郷の地である為、その誘いに乗った。
「…分かった」
「よし、着いてこい」
理央は微笑み、歩き出す。ユウは、未だに警戒しながらも、理央の後をついて行く。
「ここは、商店街か?」
ユウは、理央の案内のもと、商店街に訪れていた。だが、警戒は怠らずに周囲を観察していた。率直な感想で言えば、賑わっているの一言だった。
「安いよ安いよ!アジ、秋刀魚、鯖が安いよ!」
「安いわね。アジ三匹と秋刀魚一匹貰えるかしら?」
「あいよ!アジ三尾と秋刀魚一尾ね!毎度あり!
お!おーい!六道の若旦那!魚いるかい?」
魚屋でお客のおばちゃんと魚屋の主人が売買をしていた。そして、理央を見つけた魚屋の主人の声を皮切りに周囲は更に賑わいを見せる。
「理央ちゃん!うちのコロッケいる?今なら揚げたてだよ!」
「六坊!元気だったか!今度うちの餃子食いに来いよ!」
「理央の字!清さんに伝えてくれねえか?清さんと将棋指してぇんだ」
商店街の人達が次々と理央に挨拶をしている。落ち着いた頃に、ユウは後ろから小声で理央に話しかける。
「理央、随分ここの人達と親しいんだな」
「まぁな、昔からこの商店街には世話になってるんだ」
そう言うと理央は、肉屋の前に行き、肉屋のおばちゃんにコロッケを注文する。
「おばちゃん、コロッケ二つ」
「いつもありがとうね。理央ちゃん。はい!コロッケ二つで合計500円ね」
「ありがとう、おばちゃん。はい、500円。ユウ、ほら食うか?」
「いや、オレは……すまない。馳走になる」
ユウは、理央からコロッケを受け取る。
「後ろにいる子は、理央ちゃんのお友達かい?」
肉屋のおばちゃんは、理央の後ろにいるユウを見つけ、理央に尋ねる。
「さっき知り合った。この町に来たばっかみたいで、案内してた」
理央は振り向く。ユウは恥ずかしさからコロッケを食べて気を紛らわせる。
「…っ!?美味い」
その言葉に理央は笑い声をあげる。
「はっはっはっ!だろ?ここのコロッケは絶品なんだ。俺も食べようっと」
理央は、豪快にコロッケを齧り、咀嚼して、味わう。
「やっぱり、おばちゃんとこのコロッケ一番美味え」
「当たり前だよ!うちのコロッケは日本一なんだから!」
「喧嘩だー!」
商店街の奥から怒号といくつかの破壊音が聞こえると、理央は即座に現場へと走り出す。
「あ、おい!」
ユウは、理央を追いかけた。
「はぁっ…はぁっ…は、速い」
息を切らしながらもユウは、理央に追い付いた。
理央は、真剣な表情で人集りの真ん中へと進んでいく。
「てめえ巫山戯んじゃねえぞ!」
男の怒声が聞こえ、よく見ると、男性が倒れ、女性に介抱されている。
理央は、人集りを無事に通り抜けると近くに黒子がいた為、黒子に詳細を聞いた。
「黒子、何があったんだ?」
黒子は、理央のみに聞こえる声量で説明した
どうやら、男は、通行人の男性と肩がぶつかり、痛いふりをして、慰謝料を払うように脅迫していた。そして、女性の腕を無理やり掴んだことで側にいた男性が男を引き離した。しかし、男は、男性の胸ぐらをつかみ、突き飛ばす。それだけに飽き足らず、男は暴れ回り、近くにあった看板や商品を破壊していたとのこと。それを遠巻きに見ていた人達は、刺激しない様に大人しく見ていたらしい。
理央は、現場へと進む。周りの人間が止まるように呼びかけるが、理央は歩みを止めなかった。
そして、男と対峙し、男性と女性を背に前に立つ。
「なんだぁ?てめえは…俺は今非常にムシャクシャしてんだよ!邪魔すんじゃねえ!」
男は、サバイバルナイフを取り出し、理央に向ける。
「………」
理央は、一言も発さず、1ミリも臆さずに真っ直ぐ男を見ていた。
それを挑発と捉えた男は荒声を上げて、ナイフで突き刺そうとする。周りが息を飲む中、理央は、男の突きを最小限の動きで躱し、男の腕を掴み、ナイフを叩き落とす。そして、腕を引き寄せ、男の身体を背中に乗せて、叩き落とす。六道流に伝わる背負投げに似ている殺傷力の低い六道流柔術技【半月落とし】を決める。
「カハッ!」
男は盛大に息を吐き、地面に倒れ込んだ。
起き上がらないことを確認すると、理央は男を組み伏せる。
そして、警察のサイレンが聞こえると、商店街の人達は理央達を逃がそうとする。
「理央ちゃんとお友達くん!後は私達に任せな」
「早く逃げるんじゃよ」
理央とユウは、商店街の人達の計らいにより、そそくさと喧嘩の現場を離れて目的地を目指す。
「おい、何処へ向かう気だ?」
「俺の住まいだ」
暫く歩くと、寺と神社の近くにある大屋敷が目に見えた。
「もしかして、あの屋敷か?」
「あぁ、そうだ」
理央が屋敷の門に近づくと、それに気付いた門番の黒子が理央に頭を軽く下げ、門の扉を開ける。
「ようこそ、六道邸へ!歓迎するぞ!」
「ハハッ…エグいな」
ユウは、苦笑いした後、六道邸の門を潜り抜けた。
六道邸の門が見えるビルの屋上から謎の影が見ているとも知らずに
「聴こえてるか?アンタのお目当ての男二人が鉢合わせた」
モニターが多数存在する部屋に一つの影が不気味な笑みを浮かべながら、モニターを眺めていた
「きひぇひぇひぇ!ようやく見つけたぞ!白三谷ユウ!そして、忌々しき六道のくそガキ!」
男はモニターを操作して、ユウと理央のアップされた顔を表示する
「今に見てろ!貴様らをメタメタのギタギタにして、屈辱を味あわせてやるからな!ギャハハハハ!」
男の醜悪な嗤い声がモニタールームに響き渡った
『ハーックシュン!』
不穏な気配に六道山にいた苦沙弥鳥の群れは、大きなクシャミを出していた