ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物 作:パラレル・ゲーマー
彼は、情報の海…日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』へと、その意識をダイブさせた。
彼の戦場は、今、ダンジョンではない。
この、情報の海。
そこで彼は、自らの渇望を満たすための、一手を探すことを決意した。
彼が向かったのは、もはや彼の第二の故郷とも言える場所。
『ネクロマンサー総合スレ Part. 32』。
そこは、彼と同じように死者の軍団を率いることに魅了された、同胞たちの熱狂と、そして悩みが渦巻く場所だった。
彼は、検索窓に、自らの魂の叫びを、そのまま打ち込んだ。
『ミニオンが敵を倒してる間、何をしたら良いの?』
エンターキーを押すと、彼の目の前に、一つの巨大なまとめスレッドが、姿を現した。
そのタイトルは、彼と同じ悩みを抱える、全ての若き指揮官たちへの、道標となるものだった。
『【脱・傍観者】指揮官の仕事:ミニオン戦闘中の、あなたの「最適解」』
彼は、そのスレッドを、食い入るように読み進めていく。
そして、そこに記されていたのは、彼の全ての疑問を一瞬で解決する、あまりにもクレバーで、そして美しい「回答」だった。
1: ギルド公認アドバイザー
若き指揮官たちへ。
君たちの多くが、今、一つの壁にぶつかっていることだろう。
「ミニオンは強い。だが、俺自身は、ただ後ろで見ているだけで、本当にいいのだろうか?」と。
その問いに、まず答えよう。
「否」だ。
良い質問です。
指揮官の仕事は、ただミニオンを召喚し、突撃させることではない。
戦場を常に監視し、的確なサポートを行い、そして自らの軍団の勝利を、確実なものとすること。
それこそが、真の指揮官の役割だ。
では、具体的に何をすべきか。
答えは、大きく分けて三つある。
一つ目。それは、脆弱の呪いや火の矢でサポートです。
敵の防御力を下げる【
二つ目。これは、少し上級者向けになる。
それは、「ポジショニング」だ。
ミニオンを、どこに配置し、どう動かすか。
敵の攻撃を引き付ける「壁」役のゾンビ。
その壁を回り込み、後衛を叩く「遊撃」役のスケルトン。
その全てを、君自身が、リアルタイムで指揮するんだ。
それには、戦場全体を俯瞰する、広い視野が必要になる。
そして、三つ目。
これこそが、君たちを「傍観者」から、本当の「指揮官」へと、変えるための、最後の鍵だ。
その名は…
「――フレッシュオファリング」
その、聞き慣れない単語。
「他は分かるけど、フレッシュオファリングって何?」
隼人は、思わず呟いた。
その彼の疑問に答えるかのように、スレッドの議論は続いていた。
投稿主は、あのS級ネクロマンサー、『
彼女は、まるでこの質問を待っていましたとばかりに、その詳細な解説を始めた。
骸の女王:
…あら。ようやく、そこに気づいたのね、愚かな子羊たち。
いいでしょう。この私が、直々に教えてあげるわ。
フレッシュオファリングとは、死体を消費して発動出来る、ミニオンサポート用スペルです。
その効果は、絶対的。
その内容は、これよ。
彼女は、そう言うと、一つのスキルジェムの詳細な情報を、スレッドに貼り付けた。
そのあまりにも丁寧な、しかしどこか見下したような口調。
それに、隼人は苦笑した。
(…相変わらず、女王様だな、あの人は)
「フレッシュオファリング
ミニオン, スペル, 持続時間
レベル: (1–20)
コスト: (16–33) MP
キャストタイム: 1.00 秒
要求 レベル (12–70), (33–155) 知性
死体を消費することで、使用者のミニオンに敏捷さを付与する。このスキルは周囲の他の死体も消費し、消費された死体ごとに持続時間が増える。
基礎持続時間は5秒
消費する死体が1体増えるごとに基礎持続時間が1秒追加される
ミニオンにアタックスピード(20–30)%増加を付与する
ミニオンにキャストスピード(20–30)%増加を付与する
ミニオンに移動スピード(20–29)%増加を付与する
品質による追加の効果:
オファリングの効果が(0–10)%増加する」
そのあまりにも、強力な効果。
隼人は、息を呑んだ。
速度、速度、そして速度。
ミニオンの、全ての行動を、神速の領域へと引き上げる、究極のバフスキル。
骸の女王:
まあ、ようはバフスペルですね。初期レベルで20%の攻撃速度と移動スピードを提供してくれるので、かなり便利です。
これがあるだけで、あなたたちの、のろまなゾンビ軍団は、まるで盗賊(ローグ)のように、戦場を駆け巡ることができるようになる。
その殲滅速度は、倍、いや三倍以上に跳ね上がるでしょうね。
だが、もちろん、うまい話には裏がある。
欠点は、死体がないと使えない事ですが、
そう。
このスキルを発動させるためには、敵の「死体」が、必要不可欠なのだ。
つまり、戦闘の序盤、まだ一体も敵を倒していない状況では、この強力なバフは、ただの死にスキルと化す。
骸の女王:
死体を生成するスペル、デセクレートがレベル16から解禁されます。
これを使えば、いつでもどこでも、死体を意図的に作り出すことができる。
だが、今のあなたたちには、まだ早い。
それまでは、敵を倒して死体を作り、さらに加速させるために使いましょう。
つまり、こういうことだ。
最初の、一体を倒す。
その死体を、供物として捧げる。
そして、フレッシュオファリングを発動させ、加速した軍団で、次の敵を、さらに速く、蹂躙する。
そして、その死体を、また次の供物とする。
死の、連鎖。
殺戮の、スノーボール。
その、あまりにも美しく、そしてどこまでも効率的な、戦闘サイクル。
なるほど、と隼人は思う。ネクロマンサーは、後ろでのんびり見てる印象があったが、意外とやることが多いよな。マイクロマネジメントが、大事なんだな、と彼は思った。
彼は、そのあまりにも完成された、そしてどこまでもギャンブラー心をくすぐる戦術に、心の底から興奮していた。
これだ。
これこそが、俺が求めていた、本当の指揮官の戦い方だ。
彼は、もはや一秒たりとも、待つことはできなかった。
勝負のテーブルで、必勝のカードが見えた。
ここで張らないギャンブル狂は、いない。
彼は、その場でSeekerNetのマーケットへとアクセスした。
そして、検索窓に、打ち込んだ。
『フレッシュオファリング スキルジェム』
彼の、新たな人生を、さらに加速させるための、最後のピース。
その、あまりにも甘美な響き。
彼の、新たなギャンブルの幕が、今、確かに上がったのだ。