ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

342 / 490
第331話

 その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、奇妙な静けさと、水面下で沸騰するような熱気に包まれていた。

 数日前、あのJOKERがB級中位ダンジョンで遭遇したという、謎の青い人型存在…通称「来訪者」。そして、彼がドロップしたという、鑑定不能の奇妙なアイテム【フラクチャーオーブの欠片】。

 その配信のログは、瞬く間に世界中を駆け巡り、あらゆるビルド考察家や情報屋たちが、不眠不休でその分析にあたっていた。

 だが、答えは出なかった。

 あまりにも、情報が少なすぎたのだ。

 世界の空気は、新たな時代の幕開けを前にした、嵐の前の静けさのように、ただ張り詰めていた。

 

 その静寂を、最初に破ったのは、やはり現場の探索者たちの、生々しい絶叫だった。

 

【SeekerNet 掲示板 - B級ダンジョン総合スレ Part. 421】

 

 1: 名無しの竜狩り

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 出た!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 マジで、出やがった!!!!!!!!!!!!!!!

 B級【古竜(こりゅう)寝床(ねどこ)】の最深部で、あの青いオバケに遭遇したぞ!!!!!!!!!!!!!!!

 

 2: 名無しのC級(見学中)

 

 1

 マジかよ!

 JOKERの配信で見たやつか!?

 

 3: 名無しの竜狩り

 

 2

 ああ、間違いねえ!

 いきなり空間が歪んで、無音で出てきやがった!

 そしたら、見たこともねえキモいモンスターを、無限に召喚しやがる!

 俺のパーティ、半壊させられたぞ!

 なんとか全部倒したら、JOKERの時と同じように、すうっと消えていきやがった…。

 

 4: 名無しのゲーマー

 

 3

 で、でも、ドロップは!?

 ドロップは、どうだったんだよ!

 

 5: 名無しの竜狩り

 

 4

 ああ、それがこれだ…。

 

[画像:インベントリ画面のスクリーンショット。【混沌(こんとん)のオーブの欠片(かけら)】x3、【変化(へんか)のオーブの欠片(かけら)】x5、【高貴(こうき)のオーブの欠片(かけら)】x1が、寂しげに並んでいる]

 

 …これだけだ。

 欠片ばっかり。

 正直、あの死闘に見合う報酬とは、到底思えねえ…。

 

 その、あまりにも生々しい、そしてどこか失望に満ちた報告。

 それが、引き金となった。

 スレッドは、爆発した。

「俺も見た!」「A級下位の【古代遺跡アルテミス】にも出たぞ!」「こっちも欠片だけだった…」

 B級以上の、あらゆるダンジョン。

 その、あらゆる場所で、あの青い来訪者が、まるで気まぐれな神のように、その姿を現し始めたのだ。

 そして、彼らが残していくのは、決まって、あのささやかな、しかしどこか期待を裏切るような、オーブの「欠片」だけだった。

 

 スレッドには、当初の熱狂から一転、冷静な分析と、そして深い溜息が混じり合った、奇妙な空気が流れ始めた。

 

 311: 名無しのビルド考察家

 …なるほどな。

 ようやく、データが揃ってきた。

 来訪者の出現条件は、B級以上のダンジョンで、極めて低い確率でのランダムエンカウント。一日一回会えるかどうかという確率だ。

 そして、そのドロップテーブルの99%以上は、各種オーブの欠片。

 20個集めれば、確かに一つのオーブにはなる。だが…。

 

 312: ハクスラ廃人

 

 311

 ああ、割に合わねえな。

 正直、欠片のドロップは微妙だ。

 あいつが召喚するモンスターの群れと戦う時間とリスクを考えたら、普通にそのダンジョンを周回して、魔石を売って、マーケットでオーブを買った方が、よっぽど効率が良い。

 これは、ただのハズレテーブルだ。

 

 その、あまりにも的確な、そしてどこまでも冷徹な結論。

 それに、スレッドは諦観の空気に包まれた。

 JOKERが引き当てた、あの大量の欠片は、ただのビギナーズラック。

 来訪者とは、ただの、少しだけ珍しいだけの、しかし何の旨味もない、新種のエリートモンスター。

 誰もが、そう結論付けようとしていた。

 その、停滞した空気を、再び断ち切ったのは、やはり、あの男の、一つの書き込みだった。

 

 325: ハクスラ廃人

 …だがな。

 一つだけ、気になることがある。

 あのJOKERが拾った、謎の欠片。

【フラクチャーオーブの欠片】。

 あれの報告が、まだ、世界のどこからも上がってきていない。

 もし、万が一。

 あの欠片が、このクソみてえなテーブルの、たった一つの「大当たり」だったとしたら…?

 

 その、あまりにも悪魔的で、そしてどこまでもギャンブル心をくすぐる、仮説。

 それに、スレッドの空気が、再び変わった。

 そうだ。

 まだ、終わってはいない。

 このゲームの、本当の「当たり」は、まだ誰も見ていないのだ。

 そして、その議論は、新たな、そしてより専門的なスレッドへと、その舞台を移していく。

 

【SeekerNet 掲示板 - クラフト総合スレ Part. 216】

 

 1: 名無しのクラフトマニア

 スレ立て乙。

 さて、賢者たちの時間だ。

 例の、JOKERがドロップしたという【フラクチャーオーブの欠片】。

 あれの、正体について、本気で語ろうぜ。

 まだ誰も完成品を持っていない以上、ここにあるのはただの憶測だ。だが、その憶測こそが、俺たちの仕事だろ?

 

 2: 名無しのビルド考察家

 

 1

 乙。

 まず、名前からして不穏だ。「フラクチャー(Fracture)」。破壊、骨折、分裂。何かが「壊れる」ことに関係するオーブなのは、間違いないだろう。

 

 3: 名無しの元ギルドマン@戦士一筋

 

 2

 うむ。

 だが、それがどういう意味を持つのか…。全く、見当がつかんな。

 アイテムを、文字通り破壊するだけの、呪いのオーブか?

 それにしては、ドロップ率が低すぎる。

 何か、我々の理解を超えた、特別な意味があるはずだ。

 

 4: ハクスラ廃人

 

 3

 だよな。

 俺も、昨日の夜からずっと考えてるんだが、全く答えが出ねえ。

 混沌のオーブがMODをランダムに書き換えるように、こいつも何かをランダムにするんだろうが…。

 何をだ?ソケットの数か?リンクか?

 いや、それなら既存のオーブがある。

 全く新しい概念のクラフトアイテム。それだけは、確かだ。

 

 5: ベテランシーカ―

 

 4

 皆さん、一つだけ確かなことがあります。

 それは、ギルドの最高レベルのデータベースにも、このオーブに関する情報が一切存在しないということです。

 つまり、これは、我々人類が初めて手にする、未知の「理」。

 その効果が、祝福であるか、呪いであるか。

 それを知るためには、ただ一つしか方法はありません。

 

 その、あまりにも静かで、そしてどこまでも真理を突いた一言。

 それに、スレッドの全ての住人が、息を呑んだ。

 そして、そのベテランシーカ―の言葉を引き継ぐかのように。

 一人の、名もなき探索者が、その魂の叫びを、スレッドへと投下した。

 

 288: 名無しのB級タンク

 ああ、そうだよな…。

 理屈こねてても、しょうがねえ。

 誰か20個集めてフラクチャーオーブを手にするんだ?

 それしか、ねえよな!

 

 その、あまりにもシンプルで、そしてどこまでも本質的な、挑戦状。

 それが、引き金となった。

 スレッドは、爆発した。

『うおおおおお!そうだ!』

『誰が、最初に神の領域にたどり着くのか!』

『俺が、なってやる!』

 

 その熱狂の、まさにその中心で。

 あの、百戦錬磨のベテランたちが、その興奮を隠しきれない様子で、その声を上げた。

 彼らの言葉は、この新たな時代の幕開けを告げる、ファンファーレだった。

 

 815: 元ギルドマン@戦士一筋

 …ふん。面白い。

 実に、面白いじゃねえか。

 これだから、この世界は、やめられん。

 

 821: ハクスラ廃人

 ああ、まったくだぜ!

 エッセンス、宿命のカードに引き続き、来訪者かよ。この世界は本当に飽きないな。

 最高の、クソゲーだ!

 

 828: ベテランシーカ―

 ええ。

 欠片のドロップは正直微妙だけど、フラクチャーオーブの正体が気になるぜ。

 この、謎を解き明かす瞬間の、高揚感。

 これこそが、我々探索者の、報酬なのだから。

 

 その、あまりにも力強い、そしてどこまでも楽しそうな、宣言。

 それに、スレッドは、もはや制御不能の熱狂の坩堝と化した。

 誰もが、その未知なるオーブの、その甘美な謎の虜になっていた。

 そして、その熱狂は、やがて一つの、巨大な「渇望」へとその姿を変えていく。

 

 1011: 名無しのA級富豪

 …おい、お前ら。

 誰か、【フラクチャーオーブの欠片】、持ってねえか?

 言い値で買うぞ。

 一個、1億円でどうだ?

 

 その、あまりにも暴力的で、そしてどこまでも純粋な、欲望の書き込み。

 それが、この新たなゴールドラッシュの、始まりの合図だった。

 欠片を、集めろ。

 20個集めて、この世界の、誰も見たことのない奇跡を、その手で作り出すのだ。

 その熱狂は、もはや誰にも止められない。

 世界の、全てのB級以上の探索者が、その日、一つの共通の夢を見た。

 あの、青い来訪者と出会い、そしてその手から、世界の理を砕く、あの禁断の欠片を、手に入れる夢を。

 新たな、ゴールドラッシュ。

 その、あまりにも静かで、そしてどこまでも熾烈な、競争の時代の幕開けだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。