ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物 作:パラレル・ゲーマー
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【ダンジョン
その、あまりにも衝撃的な、そしてどこまでも圧倒的な勝利の報。
それは、ギルドの公式チャンネルを通じて、瞬く間に世界中へと配信された。
ギルドが運用する、ステルス機能付きのドローンが、その地獄の戦場の、その全てを記録していたのだ。
乳白色の霧の中から現れる、絶望的なまでのモンスターの軍勢。
そして、それを、まるで精密機械のように、冷静に、そして効率的に「処理」していく、黒い、鋼鉄の亡霊たち。
その、あまりにも対照的な光景。
それを目の当たりにした、世界の反応は、一つだった。
「……………」
沈黙。
そして、その後に訪れたのは、絶対的な「戦慄」だった。
パリ、軍司令部。
壁一面の巨大なモニターに映し出された、日本の自衛隊の、その神がかった蹂躙劇。
それを、フランスの将軍たちは、ただ呆然と見つめていた。
自分たちの、精鋭部隊が、なすすべもなく蹂躙された、あの悪夢。
それを、日本の兵士たちは、まるで訓練の一環であるかのように、淡々と、そして完璧に、こなしていく。
その、あまりにも大きな、そしてどこまでも残酷な「格」の違い。
それに、彼らの、長年培ってきた軍人としての誇りは、木っ端みじんに砕け散った。
ロンドン、ベルリン、ローマ。
ヨーロッパ中の、全ての国の指導者たちが、同じ映像を、同じ絶望と共に、その目に焼き付けていた。
彼らは、理解してしまった。
自分たちが、この1年間、ただ平和な午睡を貪っている間に。
日本と、そしておそらくはアメリカもまた、自分たちの、遥か先。
全く違う次元の、未来へと、その歩みを進めてしまっていたのだと。
そして、その衝撃は、SeekerNetの掲示板にも、燎原の火のように燃え広がった。
それまで、自国の軍隊の不甲斐なさに絶望し、そしてモンスターの脅威に怯えていた、ヨーロッパの人々たち。
彼らの、その絶望の闇の中に、一つの強烈な、そしてどこまでも眩しい光が差し込んだのだ。
『なんだ、これ…』
『なんだよ、これ…!これが、日本の軍隊かよ…!』
『嘘だろ…。俺たちの軍隊が、まるで子供の遊びだったみてえじゃねえか…』
『すごい…。すごい…。すごい…!』
『これが…これが、本物の『探索者兵』か…!』
『俺たちも、こうなれるのか…?』
絶望は、一瞬で、憧れへと変わった。
彼らは、その映像の中に、自らの国の、そして自らの、未来の可能性を見たのだ。
その日、ヨーロッパ中の、全てのギルド支部と、軍の徴兵事務所に、若者たちが殺到した。
彼らは、口を揃えて、こう言った。
「俺たちにも、教えてくれ」
「あの、日本の兵士たちのように、戦う方法を」
世界の、潮目が、再び、そして今度こそ決定的に、変わった瞬間だった。
時を、同じくして。
アメリカ合衆国、ネバダ砂漠。
その、どこまでも続く赤茶けた大地と、陽炎が揺らめく地平線。
その、あまりにも過酷な環境の中にもまた、一つの黒い空間の歪みが、その口を開けていた。
そして、そのゲートからもまた、おびただしい数のモンスターの軍勢が、溢れ出していた。
サソリのような、巨大な甲殻を持つ魔獣。
コヨーテのように、俊敏な動きで砂漠を駆け抜ける、四足歩行の怪物。
その、あまりにも混沌とした、そしてどこまでも暴力的な光景。
それを、少し離れた丘の上から、一人の男が、その鋭い瞳で見下ろしていた。
米軍、ダンジョン戦略部隊『デザート・イーグル』の指揮官、ヘイワード将軍だった。
彼の、その冷徹なポーカーフェイスの下で、この世界のパワーバランスを、完全に塗り替えるための、壮大なギャ-ンブルの歯車が、今、確かに回り始めていた。
彼は、その手にした通信機に、静かに、しかし有無を言わさぬ力で、告げた。
「――『狩り』の時間だ」
その一言を、合図にしたかのように。
砂漠の、地平線の彼方から、凄まじい轟音と共に、十数機の戦闘ヘリが、その姿を現した。
アパッチ、ブラックホーク。
旧世界の、最強の殺戮機械。
だが、その機体の下には、これまでのミサイルやロケット弾ではない。
ギルドの研究機関と、DARPAが共同で開発したばかりの、新たな「牙」が、搭載されていた。
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B級の魔石を、その弾頭に搭載し、魔法の力で、敵を自動追尾し、そして殲滅する、究極の兵器。
「――撃て」
ヘイワードの、その短い命令。
それに、空の悪魔たちが、応えた。
ヒュオオオオオオオオオオッ!
十数条の、青白い光の尾を引きながら、魔石誘導弾が、モンスターの軍勢へと、殺到していく。
そして、着弾。
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!
凄まじい、轟音と閃光。
砂漠の大地が、揺れた。
その、あまりにも理不尽なまでの、一方的な空からの暴力。
それに、モンスターの軍勢は、なすすべもなかった。
彼らの、硬い甲殻も、俊敏な動きも、何の意味もなさない。
ただ、その絶対的な破壊の奔流に、飲み込まれ、そして光の粒子となって、消滅していくだけ。
それは、もはや戦争ではなかった。
ただの、一方的な「狩り」。
あるいは、最新鋭の兵器の、性能を試すための、ただの「実験」だった。
その、あまりにも対照的な、二つの国の「回答」。
日本の、あまりにも洗練された、そしてどこまでも人間的な、白兵戦術。
アメリカの、あまりにも暴力的で、そしてどこまでも非人間的な、科学技術の蹂躙。
その二つの、全く異なる、しかしどちらもが絶対的な「正解」である、その戦いの記録映像。
それが、その日の夜、世界中のニュースネットワークを通じて、繰り返し、繰り返し、放送された。
世界は、理解した。
旧世界の、秩序は、完全に終わったのだと。
そして、これからの10年、いや100年の世界の歴史が、この二つの超大国の、その掌の上で踊らされることになるのだという、絶対的な事実を。
新たな、そしてより冷徹な、冷戦の時代の幕開けだった。