ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

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第351話

物語(ものがたり)は10(ねん)(まえ)、ダンジョンが(あらわ)れる当日(とうじつ)(もど)る】

【ダンジョン出現(しゅつげん)()、12ヶ(げつ)経過後】

 

 その、あまりにも衝撃的な、そしてどこまでも圧倒的な勝利の報。

 それは、ギルドの公式チャンネルを通じて、瞬く間に世界中へと配信された。

 ギルドが運用する、ステルス機能付きのドローンが、その地獄の戦場の、その全てを記録していたのだ。

 乳白色の霧の中から現れる、絶望的なまでのモンスターの軍勢。

 そして、それを、まるで精密機械のように、冷静に、そして効率的に「処理」していく、黒い、鋼鉄の亡霊たち。

 その、あまりにも対照的な光景。

 それを目の当たりにした、世界の反応は、一つだった。

 

「……………」

 

 沈黙。

 そして、その後に訪れたのは、絶対的な「戦慄」だった。

 パリ、軍司令部。

 壁一面の巨大なモニターに映し出された、日本の自衛隊の、その神がかった蹂躙劇。

 それを、フランスの将軍たちは、ただ呆然と見つめていた。

 自分たちの、精鋭部隊が、なすすべもなく蹂躙された、あの悪夢。

 それを、日本の兵士たちは、まるで訓練の一環であるかのように、淡々と、そして完璧に、こなしていく。

 その、あまりにも大きな、そしてどこまでも残酷な「格」の違い。

 それに、彼らの、長年培ってきた軍人としての誇りは、木っ端みじんに砕け散った。

 

 ロンドン、ベルリン、ローマ。

 ヨーロッパ中の、全ての国の指導者たちが、同じ映像を、同じ絶望と共に、その目に焼き付けていた。

 彼らは、理解してしまった。

 自分たちが、この1年間、ただ平和な午睡を貪っている間に。

 日本と、そしておそらくはアメリカもまた、自分たちの、遥か先。

 全く違う次元の、未来へと、その歩みを進めてしまっていたのだと。

 

 そして、その衝撃は、SeekerNetの掲示板にも、燎原の火のように燃え広がった。

 それまで、自国の軍隊の不甲斐なさに絶望し、そしてモンスターの脅威に怯えていた、ヨーロッパの人々たち。

 彼らの、その絶望の闇の中に、一つの強烈な、そしてどこまでも眩しい光が差し込んだのだ。

 

『なんだ、これ…』

『なんだよ、これ…!これが、日本の軍隊かよ…!』

『嘘だろ…。俺たちの軍隊が、まるで子供の遊びだったみてえじゃねえか…』

『すごい…。すごい…。すごい…!』

『これが…これが、本物の『探索者兵』か…!』

『俺たちも、こうなれるのか…?』

 

 絶望は、一瞬で、憧れへと変わった。

 彼らは、その映像の中に、自らの国の、そして自らの、未来の可能性を見たのだ。

 その日、ヨーロッパ中の、全てのギルド支部と、軍の徴兵事務所に、若者たちが殺到した。

 彼らは、口を揃えて、こう言った。

「俺たちにも、教えてくれ」

「あの、日本の兵士たちのように、戦う方法を」

 世界の、潮目が、再び、そして今度こそ決定的に、変わった瞬間だった。

 

 

 時を、同じくして。

 アメリカ合衆国、ネバダ砂漠。

 その、どこまでも続く赤茶けた大地と、陽炎が揺らめく地平線。

 その、あまりにも過酷な環境の中にもまた、一つの黒い空間の歪みが、その口を開けていた。

 そして、そのゲートからもまた、おびただしい数のモンスターの軍勢が、溢れ出していた。

 サソリのような、巨大な甲殻を持つ魔獣。

 コヨーテのように、俊敏な動きで砂漠を駆け抜ける、四足歩行の怪物。

 その、あまりにも混沌とした、そしてどこまでも暴力的な光景。

 それを、少し離れた丘の上から、一人の男が、その鋭い瞳で見下ろしていた。

 米軍、ダンジョン戦略部隊『デザート・イーグル』の指揮官、ヘイワード将軍だった。

 彼の、その冷徹なポーカーフェイスの下で、この世界のパワーバランスを、完全に塗り替えるための、壮大なギャ-ンブルの歯車が、今、確かに回り始めていた。

 彼は、その手にした通信機に、静かに、しかし有無を言わさぬ力で、告げた。

 

「――『狩り』の時間だ」

 

 その一言を、合図にしたかのように。

 砂漠の、地平線の彼方から、凄まじい轟音と共に、十数機の戦闘ヘリが、その姿を現した。

 アパッチ、ブラックホーク。

 旧世界の、最強の殺戮機械。

 だが、その機体の下には、これまでのミサイルやロケット弾ではない。

 ギルドの研究機関と、DARPAが共同で開発したばかりの、新たな「牙」が、搭載されていた。

魔石(ませき)誘導弾(ゆうどうだん)】。

 B級の魔石を、その弾頭に搭載し、魔法の力で、敵を自動追尾し、そして殲滅する、究極の兵器。

 

「――撃て」

 

 ヘイワードの、その短い命令。

 それに、空の悪魔たちが、応えた。

 ヒュオオオオオオオオオオッ!

 十数条の、青白い光の尾を引きながら、魔石誘導弾が、モンスターの軍勢へと、殺到していく。

 そして、着弾。

 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 凄まじい、轟音と閃光。

 砂漠の大地が、揺れた。

 その、あまりにも理不尽なまでの、一方的な空からの暴力。

 それに、モンスターの軍勢は、なすすべもなかった。

 彼らの、硬い甲殻も、俊敏な動きも、何の意味もなさない。

 ただ、その絶対的な破壊の奔流に、飲み込まれ、そして光の粒子となって、消滅していくだけ。

 それは、もはや戦争ではなかった。

 ただの、一方的な「狩り」。

 あるいは、最新鋭の兵器の、性能を試すための、ただの「実験」だった。

 

 その、あまりにも対照的な、二つの国の「回答」。

 日本の、あまりにも洗練された、そしてどこまでも人間的な、白兵戦術。

 アメリカの、あまりにも暴力的で、そしてどこまでも非人間的な、科学技術の蹂躙。

 その二つの、全く異なる、しかしどちらもが絶対的な「正解」である、その戦いの記録映像。

 それが、その日の夜、世界中のニュースネットワークを通じて、繰り返し、繰り返し、放送された。

 世界は、理解した。

 旧世界の、秩序は、完全に終わったのだと。

 そして、これからの10年、いや100年の世界の歴史が、この二つの超大国の、その掌の上で踊らされることになるのだという、絶対的な事実を。

 新たな、そしてより冷徹な、冷戦の時代の幕開けだった。

 

 

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