ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

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第358話

 その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、奇妙な静けさと、水面下で沸騰するような熱気に包まれていた。

 

 事件は、いつも通り、最もありふれた、そして最も見過ごされがちな場所で、その産声を上げた。

 

【SeekerNet 掲示板 - B級ダンジョン総合スレ Part. 425】

 

 1: 名無しの鉱夫見習い

 スレ立て乙。

 はぁ…。今日も一日、B級【(てつ)廃墟(はいきょ)】で来訪者待ちだったぜ。

 結局、一度も会えなかった。マジで、確率どうなってんだよ…。

 

 2: 名無しのC級(見学中)

 

 1

 乙。

 A級の連中ですら、一日一回会えるかどうかだって言ってますもんね…。

 俺たちB級には、まだ早いテーブルなのかもしれません。

 

 3: 名無しの鉱夫見習い

 

 2

 だよな。

 まあ、愚痴っててもしょうがねえか。

 今日の周回、始めるわ。

 …ん?

 

 その、あまりにも唐突な、そしてどこまでも不穏な一言。

 それに、スレッドの空気が、わずかに変わった。

 

 4: 名無しのゲーマー

 

 3

 どうしたんだよ、鉱夫ニキ。

 また、変なロボットでも見つけたか?

 

 5: 名無しの鉱夫見習い

 

 4

 いや、違う。

 なんか、ドロップ品が、おかしい。

 さっき、B級の警備ドローンを倒したんだが、魔石とガラクタレアの他に、見たこともねえ石ころが落ちたんだ。

 

[画像:インベントリ画面のスクリーンショット。薄暗い鉄の床の上に、青黒く、そして内側から微かな光を放つ、拳大の鉱石が一つ置かれている]

 

 なんだ、これ…?

 新種の、エッセンスか…?

 

 その、あまりにも奇妙な報告。

 それに、スレッドがざわめいた。

 だが、本当の衝撃は、ここからだった。

 

 15: 名無しの鉱夫見習い

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 お前ら、ちょっと待て!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 俺、今ダンジョンの奥で、そろそろ帰ろうと思ってポータルスクロール使ったんだが!!!!!!!!!!!!!!!

 そしたら、なんか、見たこともねえ選択肢が増えてる!!!!!!!!!!!!!!!

 

[画像:ARウィンドウのスクリーンショット。【自宅へ帰還】【ダンジョンの外へ】という見慣れた選択肢の下に、第三の選択肢として【――デルヴ鉱山へ】という荘厳なテキストが、青白い光を放って表示されている]

 

 …なんだよ、これ…。

 デルヴ…鉱山…?

 

 その、あまりにも未知なる単語。

 そして、世界の理そのものが変質したかのような、異常な現象。

 それに、スレッドは爆発した。

 

『は!?』

『なんだ、それ!?新ダンジョンか!?』

『ポータルの行き先が増えるとか、聞いたことねえぞ!』

 

 その混乱の渦の中で、最初にその価値を嗅ぎつけたのは、やはりあの男たちだった。

 

 125: ハクスラ廃人

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 これ、マジかよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 あの石ころ…アズライト鉱石が、フラグか!

 そいつを持ってると、ポータルに新しい行き先が追加されるのかよ!

 

 128: 名無しの市場ウォッチャー

 

 125

 ああ、間違いない。

 俺も、今、海外のフォーラムを漁ってきた。

 アメリカでも、ヨーロッパでも、ほぼ同時に、同じ鉱石とポータルの報告が上がり始めてる。

 そして、そのアズライト鉱石ってやつ、すでにマーケットに出品されてるぞ!

 価格は…。

 

 彼は、そこで一度言葉を切った。

 スレッドの全ての住人が、固唾を飲んで彼の次の言葉を待っていた。

 

 131: 名無しの市場ウォッチャー

 ――200個で、10万円だ!!!!!!!!!!!

 

 静寂。

 そして、爆発。

 

『は!?』

『なんだよ、その中途半端な数は!』

『でも、10万!?ただの石ころが!?』

 

 その熱狂の、まさにその中心で。

 あの、最初の発見者である鉱夫見習いが、一つの、あまりにも勇敢な、あるいは、ただの無謀な決断を下した。

 

 255: 名無しの鉱夫見習い

 …面白い。

 俺が、人柱になってやるよ。

 この、デルヴ鉱山ってやつが、一体何なのか。

 この目で、確かめてきてやる。

 見てろよ、お前ら。

 

 その、あまりにもヒーロー的な、そしてどこまでも死亡フラグに満ちた宣言。

 それに、スレッドは、熱狂した。

『うおおおおお!マジかよ!』『行ってこい!』『生きて帰ってこいよ!』

 その声援に送られ、彼は、その未知なる冒険へと、その最初の一歩を、踏み出した。

 

 

 数時間後。

 スレッドは、お通夜状態となっていた。

 あの勇敢な鉱夫見習いは、帰ってこなかった。

 彼が残した最後の書き込みは、「ポータル、開いた。中は、真っ暗だ。行ってくる」という、あまりにも不穏な一言だけだった。

 

『…ダメだったか』

『だから、言わんこっちゃない。無謀だって』

『R.I.P. 名もなき勇者よ…』

 

 その、あまりにも重く、そしてどこまでも悲しい諦観の空気。

 それが、唐突に、そしてあまりにも劇的に、断ち切られた。

 

 611: 名無しの鉱夫見習い

 ――ただいま。

 

 その、あまりにも短い、しかしどこまでも力強い、生還の報告。

 それに、スレッドが、爆発した。

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!』

『生きてたのか!』

『おかえり!おかえり、勇者よ!』

 

 その、温かい祝福の嵐の中で。

 彼は、その震える指で、自らが体験した、あまりにも常軌を逸した冒険の、その一部始終を、語り始めた。

 

 615: 名無しの鉱夫見習い

 …やばい。

 …やばいぞ、あそこは…。

 ポータルをくぐった先は、ダンジョンじゃなかった。

 ただの、真っ暗な、何もない空間だ。

 そこに、一台だけ、古びた機械と、変なジジイがいた。

 機械はクローラー、ジジイはジャスパーって名前らしい。

 そいつに、さっき拾ったアズライト鉱石を見せたら、『ほう、ようやく地上の人間も、この『本当の宝の山』への鍵を見つけたか』とか、意味深なこと言いやがった。

 そして、その機械のヘッドライトが照らす、一本の光の道だけを頼りに、俺は、無限に続く、地下の坑道を、ただひたすらに、下へ、下へと、進んでいったんだ…。

 

 621: 名無しのゲーマー

 

 615

 なんだよ、それ!

 完全に、新しい世界じゃねえか!

 

 625: 名無しの鉱夫見習い

 

 621

 ああ、そうだ。

 そして、その闇の中には、化け物がいた。

 これまでのどのモンスターとも違う、光を嫌い、闇に潜む、おぞましい奴らがな。

 **クローラーの光の外に出たら、一瞬でHPが蒸発する。**マジで、死ぬかと思った。

 だがな…。

 

 彼は、そこで一度言葉を切った。

 そして、その絶望の報告の中に、一つの強烈な希望の光を、灯した。

 

 628: 名無しの鉱夫見習い

 ――報酬が、美味い。

 美味すぎる。

 道中の、壁の裂け目から、カレンシーオーブが、どっさり出てくるんだ。

 それに…。

 

 彼は、最後の、そして最大の「発見」を、報告した。

 

 635: 名無しの鉱夫見習い

 これだ。

 これが、俺たちの世界を、再び変えるかもしれん。

 

[画像:インベントリ画面のスクリーンショット。そこには、太古の生物の骨のように見える、禍々しいオーラを放つ【(とき)化石(かせき)】と、その化石をはめ込むための、いくつかの穴が空いた【共鳴器(きょうめいき)】が、並べられている]

 

 638: 名無しのクラフトマニア

 …は!?

 なんだ、これ!?

 化石!?共鳴器!?

 まさか…。

 

 641: 名無しの鉱夫見習い

 

 638

 ああ。

 鑑定結果によれば、この二つを組み合わせることで、化石クラフトが解禁されるらしい。

 これまで不可能だった、特定のMODを、確定で付与できる、禁断のクラフトがな…。

 

 その、あまりにも革命的な発見。

 それに、スレッドは、再び、歓喜の渦に包まれた。

 絶望の淵に突き落とされた、全てのクラフターたち。

 その目の前に、あまりにも眩しい、そしてどこまでも確かな「希望」の光が、差し込まれた瞬間だった。

 そして、その熱狂は、やがて一つの、巨大な「ビジネス」へと、その姿を変えていく。

 

 888: 名無しのA級商人

 …おい、お前ら。

 話は、聞いた。

 その、アズライト鉱石とやら。

 俺が、言い値で、全部買う。

 そして、その化石と共鳴器もだ。

 これは、金になる。

 とんでもねえ、金になるぞ。

 

 その、あまりにも直接的な、そしてどこまでも純粋な、欲望の宣言。

 それが、この新たな時代の、本当の幕開けだった。

 世界の、全ての探索者が、その日、一つの共通の夢を見た。

 闇の底に眠る、無限の富と、そして失われた古代の叡智を、その手にする夢を。

 新たな、そして最も深い、ゴールドラッシュ。

 その、あまりにも静かで、そしてどこまでも熾烈な、競争の時代の幕開けだった。

 

 

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