ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物 作:パラレル・ゲーマー
その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、二つの巨大すぎる伝説の余韻に、心地よく、しかしどこか麻痺したように浸っていた。
JOKERがスマイト徒手空拳ビルドで世界のレベリングの常識を破壊し、オーディンの秘蔵の子アリスがS級ユニークスキル【
誰もが、次に何が起こるのかを、固唾を飲んで見守っていた。
この混沌としたテーブルに、次なるカードが配られるのを。
そして、そのカードは、あまりにも早く、そして最も劇的な形で、世界の前に提示された。
【SeekerNet 掲示板 - ライブ配信総合スレ Part. 1029】
1: 名無しのJOKERウォッチャー
スレ立て乙。
さて、と。今日も、神の御業を拝む時間としますか。
JOKERの配信、まだ始まらないな…。
2: 名無しのゲーマー
1
乙。
アリスちゃんの配信も、今日は休みらしいぞ。
3: 名無しのビルド考察家
2
まあ、無理もない。
あの二人が、少し休むだけで、世界がこんなに平和に感じられるとはな。
嵐の前の静けさ、というやつか。
その、あまりにも穏やかで、そしてどこか退屈な空気を、断ち切るかのように。
一つの、あまりにも唐突な、そしてどこまでも衝撃的な書き込みが、投下された。
211: 名無しの新人ウォッチャー
おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
お前ら、ちょっと待て!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
今、配信サイトのトップページ、見てみろ!!!!!!!!!!!!!!!
中国の【青龍】が、何か始める気だぞ!!!!!!!!!!!!!!!
その、あまりにも切羽詰まった絶叫。
それに、スレッドが、ざわめいた。
『は!?』
『青龍!?あの、中国の最大手ギルドか!』
『何か、あったのか!?』
215: 名無しの新人ウォッチャー
211
ああ!
【青龍】が、これまでその存在を隠してきた、秘蔵の探索者見習い!
14歳の女の子が、たった今、配信を開始した!
その、あまりにも衝撃的なニュース。
それに、スレッドは爆発した。
JOKERの配信を見ている、数百万の観客たち。
アリスの、その愛らしい無双劇に心を奪われた、数百万のファンたち。
その、世界の全ての好奇心が、今、一つの場所へと、津波のように殺到していった。
配信画面が、切り替わる。
そこに映し出されていたのは、JOKERの無骨なデルヴ鉱山でも、アリスの華やかなギルドハウスでもない。
一つの、あまりにも静かで、そしてどこまでも東洋的な、趣のある空間だった。
まるで、古代の皇帝が瞑想するために作られたかのような、静寂な庭園。敷き詰められた白砂が、淡い光を放つ苔の輝きを反射し、一本だけ、力強くそびえ立つ松の木が、その威厳のある影を落としている。
そして、その松の木の下。
一人の少女が、ただ静かに、その瞳を閉じて立っていた。
彼女は、14歳だという。
艶やかな黒髪を、高い位置で、二つの大きな団子に結い上げている。その身を包んでいるのは、ゴシックロリータ風の戦闘服ではない。伝統的な、しかし戦闘のために機能的に改良された、深紅の拳法着。その背中には、金色の糸で、天へと昇る一匹の龍が、勇壮に刺繍されていた。
彼女の名は、
配信者ネームは、小鈴@青龍。
【配信タイトル:【初配信】龍 小鈴です。よろしくお願いします】
【配信者:小鈴@青龍】
【現在の視聴者数:5,281,492人】
『うおおおおお!JOKER軍団、襲来!』
『アリス親衛隊も、駆けつけたぞ!』
『500万人!?なんだよ、これ!世界のトップ配信者、全員集合じゃねえか!』
その、コメント欄の狂乱。
それに、画面の中の少女は、その閉じていた瞼を、ゆっくりと開いた。
現れたのは、黒曜石のように、どこまでも深く、そして静かな瞳。
その瞳には、14歳の少女が宿すには、あまりにも多くの、そしてあまりにも古い、歴史の重みが宿っていた。
彼女は、そのあまりにも異常な視聴者数の増加に、一切の動揺を見せることなく、ただ静かに、そして完璧な発音の日本語で、その最初の言葉を、紡ぎ出した。
「――初めまして。龍 小鈴と、申します」
その、あまりにも落ち着き払った、そしてどこまでも凛とした、挨拶。
それに、JOKERやアリスの配信から流れてきた、荒らしのようなコメント欄の空気が、一瞬で、浄化された。
『か、可愛い…』
『いや、違う。美しい…』
『なんだ、この子は…。アリスちゃんとは、また違うタイプの、化け物か…』
その、畏敬の念に満ちたコメントの嵐。
その中で、二つの、ひときわ異質なコメントが、投下された。
投稿主は、この世界の、二人の「神」だった。
JOKER:
高みの見物をさせてもらうぜ
アリス@オーディン:
仲間ですね!頑張って下さい!
その、あまりにも対照的な、二人の英雄からの、エール。
それに、小鈴は、その完璧だったはずの表情を、初めてわずかに緩ませ、そして深々と、頭を下げた。
「…はい。ありがとうございます、先輩方。ご期待に、応えられるよう、精一杯、努めます」
そして彼女は、その今日の配信の、本当の「目的」を、告げた。
「本日、私が皆様にお見せするのは、私の、初めてのレベリングです」
彼女が、そう言った、その瞬間。
彼女の背後の空間が、ぐにゃりと歪み、そしてデルヴ鉱山の、あの無骨な入り口が、その姿を現した。
「デルヴ鉱山で、レベリングを開始します」
その宣言と共に、彼女は躊躇なく、その闇の中へと、その一歩を踏み出した。
そして、その闇に飲まれる、その直前。
彼女は、自らの魂の、その全てを、世界へと開示した。
「私の、ユニークスキルは、これです」
「名前:
(きんしょうとう・てっぷさん)
(The Golden Bell Shield, The Iron Shirt)
レアリティ:
S級ユニークスキル
種別:
パッシ-ブスキル / 法則改変
効果:
このスキルを持つ者は、その肉体を、千の鍛錬と万の呼吸によって、神仏の領域へと昇華させる。
徒手空拳(手袋、メインハンドアイテム、オフハンドアイテムを装備していない状態)である時、以下の効果が常に発動する。
物理ダメージ減少率が75%になる。(最低保障が75%である。それ以上になるとそちらが適用される)
攻撃を回避する確率が75%になる。(最低保障が75%である。それ以上になるとそちらが適用される)
フレーバーテキスト:
弟子は、師に問うた。
「師よ、最強の盾とは、一体何でしょうか」
師は、答えなかった。
ただ、静かに、自らの空っぽの両掌を、弟子に見せたという。
真の達人にとって、鎧とは、弱さを隠すためのもの。
真の達人にとって、盾とは、恐怖を誤魔-すためのもの。
天が与えし、この肉体。
それこそが、この世で最も硬き、金剛の盾であると知れ。」
静寂。
数秒間の、絶対的な沈黙。
そして、爆発。
『は!?』
『S級!?また、S級のユニークスキルだと!?』
『物理ダメージ減少率が75%になる?攻撃を回避する確率が75%になる?チートかよ!』
『あと、徒手空拳特化のS級とはいえ、強すぎるだろ!』
その、あまりにも当然な、そしてどこまでも熱狂的な反応。
その、絶叫の渦の中へ。
龍 小鈴は、その小さな体を、静かに、そして完全に、沈めていった。
デルヴ鉱山の、入り口。
レベル1の、楽園。
JOKERが、その理不尽なまでの火力で、蹂躙し尽くした、あの場所。
そこに、龍 小鈴は、ただ一人、静かに立っていた。
そして、その光の道に誘われるかのように、闇の中から、一体、また一体と、おびただしい数の、レベル1のモンスターたちが、その姿を現した。
**大量のレベル1とはいえ、**その数は、暴力的なまでに、多い。
だが、小鈴は動じない。
彼女は、その群れの、その中心へと、まるで散歩でもするかのように、ゆっくりと、歩いていく。
そして、一体の、醜い闇の怪物が、その鋭い爪を、彼女の、その無防備な背中へと、振り下ろした。
ガキンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
甲高い、金属音。
怪物の爪は、彼女の、その薄い拳法着に触れることすらできず、まるで目に見えない、しかし絶対的な障壁に阻まれて、砕け散った。
余裕で耐えて、
そして、彼女は、そのあまりにも無粋な邪魔者を、まるで虫でも払うかのように、その背後回し蹴りで、華麗に回避する。
『うおおおおお!硬ええええええ!』
『避けた!?なんだ、あの動き!』
その、あまりにも常軌を逸した、防御能力と、回避能力。
それに、コメント欄が、熱狂する。
そして、彼女の、反撃が始まった。
彼女は、その小さな、しかし神の力を宿した拳を、構えた。
そして、彼女は叫んだ。
その声は、JOKERのような、荒々しいものではない。
アリスのような、無邪気なものでもない。
ただ、静かに、そしてどこまでも鋭く、響き渡る、気合の、それだった。
「――喝ッ!」
スキル、【スマイト】。
ドッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
黄金の雷霆が、炸裂する。
だが、その光景は、JOKERのそれとは、全く違っていた。
彼のスマイトが、ただの「暴力」の爆発だったとすれば。
彼女のスマイトは、一つの、完成された「型」だった。
拳法らしいスマイトで、
その一撃から、流れるような連撃が、放たれる。
突き、蹴り、そして掌底。
その全てが、黄金の雷霆を纏い、そして完璧な円を描きながら、周囲のモンスターたちを、薙ぎ払っていく。
まるで、舞を、舞うかのように。
そして、その舞が終わった時。
敵が、全滅していた。
静寂。
そして、その静寂を破るかのように。
彼女の全身を、これまでにないほど強く、そしてどこまでも濃密な、黄金の光が、包み込んだ。
【LEVEL UP! Lv.1 → Lv.2】
【LEVEL UP! Lv.2 → Lv.3】
【LEVEL UP! Lv.3 → Lv.4】
【LEVEL UP! Lv.4 → Lv.5】
【LEVEL UP! Lv.5 → Lv.6】
【LEVEL UP! Lv.6 → Lv.7】
【LEVEL UP! Lv.7 → Lv.8】
【LEVEL UP! Lv.8 → Lv.9】
レベル9までアップする。
鮮烈な、デビューだった。
その、あまりにも鮮やかで、そしてどこまでも美しい、蹂躙劇。
それに、世界の、全ての人間が、心を奪われていた。
その日の夜。
中国の、SeekerNet掲示板は、建国以来、経験したことのないほどの、巨大な熱狂の渦に、完全に飲み込まれていた。
『見たか!?見たか、お前ら!』
『ああ!見た!青龍の、小鈴ちゃん!』
『なんだ、あの子は…。強くて、美しくて、そして何よりも、気高い…。彼女こそ、中国の、新たな英雄だ!』
『そうだ!彼女に続け!俺も、明日から冒険者を始めるぞ!』
彼女は、瞬く間に、中国の冒険者たちの、憧れの的になった。
中国サーバーの掲示板は、大盛りあがりする。
彼女に続けと、冒険者を志す若者が、爆発的に増えた。
そして、その熱狂を、北京の、ギルド【青龍】の、最高戦略会議室で。
李将軍は、ただ静かに、そして満足げに、眺めていた。
この結果を、予想していた青龍は、
「――計画通り」
と、喜ぶ。
彼の、その老獪なチェス盤の上で。
一つの、最も美しく、そして最も強力な、「龍」の駒が、今、確かに産声を上げたのだから。
世界の、本当の戦いは、まだ始まってもいなかった。