ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

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第382話

 その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、もはや日常を取り戻していた。

 いや、日常の「基準」そのものが、根底から書き換えられてしまった、と言うべきか。

 VTuberという、あまりにもポップで、そしてどこまでもキャッチーな訪問者たち。彼女たちがダンジョンという名の「沼」にハマってから数週間。世界の探索者文化は、完全に新しい季節を迎えていた。

 それは、誰もが主役になれる、穏やかで、そしてどこまでも「わちゃわちゃ」とした、優しい季節だった。

 

 X(旧Twitter)トレンド - 日本

 1位: #V探索者デビュー

 2位: #今日のF級

 3位: #アリア姫守護隊

 4.位: #クレア様の奇跡

 5位: #眠れる鬼姫

 

【The Peaceful Everyday of VTuber Explorers】

 

 @Dungeon_Gamer_Taro

 今日のゴブリンの洞窟は、平和だった。

 俺のいたインスタンス、俺と、ナロウライブのVTuberの子と、週末冒険者のオジサン3人組だけだった。

 VTuberの子が「ゴブリンさんの効率的な狩り方、教えてくださーい!」って言ったら、オジサンたちが嬉しそうに「おう、任せとけ!」って、手取り足取り教えてた。

 なんか、見てて和んだわ。 #今日のF級

 

 @Aria_Fanclub_Bucho

 今日の #アリア様配信ハイライト

 E級【女王蟻の巣穴】で、巨大な兵隊蟻に囲まれて半泣きに。

「ひぃん!硬くて倒せませんー!」と叫んだら、コメント欄のベテランタンク勢が一斉に「弱点は腹だ!」「足元に潜り込め!」と的確な指示を出し始め、最終的に視聴者と力を合わせてボスを撃破。

 その後の「皆さんのおかげです!ありがとうございました!」は、人類の宝だと思う。

 #V探索者デビュー #アリア姫守護隊

 

 @Claire_Fan_Official

 皆様、本日も祈りの時間です。

 我らがシスター・クレア様が、皆様の幸運を祈ってくださいます。

 さあ、ご一緒に。

 #クレア様の奇跡

 

 @V_Fan_Sato

 クレア様の配信見ながら、【虚空(こくう)】ガチャ5連回したら、【七人(しちにん)開拓者(かいたくしゃ)】のカードが出た…。

 マジで、ご利益あるぞ、これ…。

 もう、足を向けて寝られません…。

 お布施(スパチャ)します…。

 #クレア様の奇跡

 

 @V_kirinuki_ch

【伝説の切り抜き】鬼灯るる、ボスの攻撃を避けながらおにぎりを食べる【1.5倍速推奨】

(動画リンク)

 #るる様配信 #眠れる鬼姫

 

 @WeeklyDungeon_News

【コラム】VTuberの参入は、探索者文化に何をもたらしたのか?

「攻略」から「共感」へ。

 新たな時代のエンターテイ-メントの形が、今、生まれようとしている。

 

 その、あまりにも平和で、そしてどこまでも温かい熱狂。

 その、巨大な渦の中心から、ただ一人、完全に隔絶された男がいた。

 神崎隼人――“JOKER”。

 彼は、その全ての狂騒を、まるで対岸の火事のように、あるいは、水槽の中の熱帯魚を眺めるかのように、ただ静かに、そしてどこか退屈そうに、見下ろしていた。

 

 彼の戦場は、F級ダンジョンのような、ぬるま湯ではない。

 デルヴ鉱山の、絶対的な闇と静寂の中。

 そこが、彼の新たな玉座であり、そして世界の理そのものを蹂躙するための、最高の実験場だった。

 

【配信タイトル:スマイト徒手空拳ビルド、デルヴ鉱山蹂躙の続き】

【配信者:JOKER】

【現在の視聴者数:4,112,839人】

 

「…だから、セロニアス・モンクのピアノは、一見デタラメに聞こえる。だが、その不協和音の中にこそ、ジャズの、いや、音楽の、本当の『自由』があるんだよ。楽譜に縛られず、ただ自らの魂の響きだけを、鍵盤に叩きつける。…まあ、お前らにはただの猫がピアノの上を歩いてる音にしか聞こえねえかもしれんがな」

 

 彼のそのあまりにも高尚で、そしてどこまでも難解な音楽談義。

 それに、コメント欄が、いつものように、しかしどこまでも熱狂的に、反応した。

 

『出たwwwww JOKERさんのジャズ講座wwwww』

『もう何言ってるか全然分かんねえけど、この無敵の王者が、退屈そうに高尚な雑談しながら敵を蹂躙していくスタイル、最高にクールで好きだわ』

『BGMが、もはやJOKERの人生そのものなんだよな…』

 

 彼がそう語りながら、クローラーの光が照らし出す、闇の回廊を進んでいく。

 そして、その光の道に誘われるかのように、闇の中から現れる、おびただしい数のモンスターたち。

 彼は、その雑談を止めることなく、ただ片方の拳を、軽く振るうだけ。

 スキル、【スマイト】。

 

 ドッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 黄金の雷霆が、炸裂する。

 彼の、そのあまりにも過剰な火力。

 それに、レベル34相当のモンスターたちが、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、その存在ごと、この世界から完全に消滅していく。

 そして、その度に。

 彼の全身を、黄金の光が、包み込んだ。

 

【LEVEL UP! Lv.34 → Lv.35】

 

 その、あまりにも日常的な、そしてどこまでも常軌を逸した光景。

 その、あまりにも退屈な「作業」の、その合間に。

 彼の、400万人の観客たちの声が、コメント欄を通じて、彼の元へと届いていた。

 

『JOKERさん!大変だ!今、アリアちゃんがゴブリンシャーマンに追い詰められてるぞ!助けに行こうぜ!』

『るなちゃんが、また迷子になってる!こっちも、助けてあげて!』

『クレア様が、また神ドロップしたぞ!JOKERも、見てくれ!』

 

 その、あまりにも純粋な、そしてどこまでも必死な、ファンたちの声援。

 それに、JOKERは、そのARコンタクトレンズの視界の隅に表示されるコメントを一瞥すると、ふっと、その口元を緩ませた。

 そして彼は、デルヴ鉱山の、その絶対的な闇の中で、スマイトの一撃でモンスターの群れを消滅させながら、ただ一言、気怠そうに呟いた。

 

「――はっ、楽しそうなことやってんな」

 

 彼は、その新しいお祭りに、全く興味を示さない。

 彼の目は、もはやF級の、小さなテーブルなど、映してはいなかった。

 その遥か先。

 神々の、その領域だけを、見据えていた。

 だが、彼の伝説は、世界の裏側で、静かに、しかし確実に、進行していた。

 

 ◇

 

【SeekerNet 掲示板 - 総合雑談スレ Part. 1658】

 

 111: 名無しのA級(観測者)

 …おい、お前ら。

 ちょっと、ヤバいかもしれん。

 JOKERの、レベルアップ速度が、おかしい。

 

 112: 名無しのゲーマー

 

 111

 は?

 またかよ。

 もう、慣れただろ、そのくらい。

 

 113: 名無しのA級(観測者)

 

 112

 いや、そういうレベルの話じゃねえ。

 見てみろ。

 

【速報】JOKER、スマイトビルドでレベル35を突破

 

 このスレが立ったのが、3時間前だ。

 そして、これを見ろ。

 

【速報】JOKER、スマイトビルドでレベル38を突破

 

 これが、1時間前。

 そして、たった今、立ったのがこれだ。

 

【…は?】JOKER、スマイトビルドでレベル40到達。

 

 …分かるか?

 この、意味が。

 レベル30を超えてから、普通なら1レベル上げるのに、数日、いや一週間はかかる。

 それを、この男は、たった数時間で、1レベルずつ上げてるんだ。

 成長速度が、全く落ちてねえ。

 むしろ、加速してやがる。

 こいつは、一体どこまで行く気なんだ…?

 

 その、あまりにも的確な、そしてどこまでも戦慄に満ちた分析。

 それに、スレッドは、静まり返った。

 そうだ。

 誰もが、気づいていながら、目を背けていた、その真実に。

 JOKERは、もはや人間の成長法則を、完全に超越している。

 その、あまりにも巨大な「理不尽」を前にして、ベテランたちが、その重い口を開いた。

 

 ハクスラ廃人:

 …ああ。

 デルヴ鉱山の、レベリング。

 あの裏技の、本当の恐ろしさは、そこにある。

 レベルが上がれば上がるほど、相対的に敵を倒す速度が上がり、時間あたりの経験値効率は、むしろ上がっていく。

 無限に、加速するんだよ。

 あいつは、神のオーブで自らの装備を限界まで強化し、この永久機関を完成させちまった。

 

 元ギルドマン@戦士一筋:

 うむ。

 もはや、我々が知る「レベリング」という概念は、彼には通用しない。

 彼にとって、レベルとは、ただの数字。

 自らのビルドを完成させるための、ただの「リソース」に過ぎん。

 そして、レベル40。

 その数字が、何を意味するか。

 お前らも、分かっているな?

 

 その、あまりにも重い、そしてどこまでも意味深な問いかけ。

 それに、スレッドは、息を呑んだ。

 レベル40。

 それは、一つの、あまりにも大きな「節目」。

 新たな、そして最初の「試練」への、挑戦権。

 

 その、張り詰めた空気。

 それを、肯定するかのように。

 JOKERの、その配信画面に、一つの大きな変化が訪れた。

 彼は、そのデルヴ鉱山の、その蹂躙の手を、ぴたりと止めた。

 そして、その場にポータルを開き、自室へと帰還した。

 そして彼は、ARカメラの向こうの、言葉を失った数百万人の観客たちに、宣言した。

 その声は、どこまでも楽しそうだった。

 

「――さて、と。レベル上げも、少し飽きてきたな」

「少し、気分転換でもするとしようか」

 彼は、そう言うと、インベントリから、一つの、禍々しいオーラを放つ、石の鍵を取り出した。

皇帝(こうてい)迷宮(めいきゅう)への(かぎ)】。

 

「最初の、アセンダンシー。取りに行くぜ」

 

 その、あまりにもあっさりとした、しかしどこまでも重い一言。

 それが、この世界の、新たな時代の幕開けを告げる、ファンファーレとなった。

 彼の、新たな伝説が、また一つ、始まろうとしていた。

 その、あまりにも壮大で、そしてどこまでも狂った、神々への挑戦。

 その幕開けを、世界の全てが、ただ固唾を飲んで、見守っていた。

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