ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

398 / 490
第383話

【SeekerNet 掲示板 - ライブ配信総合スレ Part. 1029】

 

 1: 名無しのJOKERウォッチャー

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 始まったぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 JOKERが、配信始めた!!!!!!!!!!!!!!!

 昨日の続きじゃない!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 その、あまりにも切羽詰まった絶叫。

 それに、スレッドは一瞬にして、トップスピードへと加速した。

 

【配信タイトル:【地獄】スマイト徒手空拳ビルド、最初の試練へ【クソゲー】】

【配信者:JOKER】

【現在の視聴者数:4,582,194人】

 

『きたあああああああ!』

『試練!?まさか!』

『レベル40!アセンダンシー取りに行くのか!』

『タイトルがもう「クソゲー」って言っちゃってるじゃねえかwww』

 

 その熱狂をBGMに、配信画面に映し出されたのは、見慣れたデルヴ鉱山の入り口ではなかった。

 巨大な石造りの回廊。壁も、床も、天井も、全てが磨き上げられた黒い大理石で作られ、その表面には、古代の、しかし決して風化することのない黄金の装飾が施されている。

 皇帝(こうてい)迷宮(めいきゅう)

 その、あまりにも荘厳で、そしてどこまでも悪意に満ちた入り口。

 

「よう、お前ら。見ての通り、今日は新しいテーブルだ」

 JOKERの声は、これまでのどの配信とも違っていた。

 楽しそうな響きは、ない。

 ただ、これから始まる不毛な時間を前にした、深い、深い諦観だけが、そこにあった。

「言っとくが、今日の配信は、面白くもなんともねえぞ。ただ、俺がこの世で最も理不尽で、最もくだらない、最低最悪のクソゲーに、精神をすり減らしていく様を、お前らに見せるだけだ。それでもいいって言う、物好きな奴だけ、見ていけ」

 

 その、あまりにも正直な、そしてどこまでも本音に満ちた前口上。

 それに、コメント欄は、この日一番の、温かい(あるいは面白がっている)笑いに包まれた。

 

『wwwwwwwwwwww』

『知ってるwwwラビリンスは、クソゲーだってwww』

『JOKERさんのクソゲー実況、最高に面白そうじゃねえか!』

 

「…はぁ」

 JOKERは、深く、そして重いため息をつくと、その運命の扉の中へと、その最初の一歩を踏み出した。

 彼の、新たな、そして最も孤独な、苦行が始まった。

 

 ◇

 

 彼が、その最初の一歩を踏み出した、その瞬間だった。

 ガシャコンッ!

 彼の足元の、大理石の床が、突如として反転した。

 そして、その下から現れたのは、巨大な、錆びついた鋼鉄の歯車。鋭い刃をむき出しにしながら、高速で回転し、彼を執拗に追跡し始めた。

「――出たな、クソが!」

 JOKERの、その日最初の悪態が、迷宮に響き渡った。

 彼は、その無数の死の刃の、そのわずかな隙間を、まるでダンスを踊るかのように、華麗に、しかしどこまでも面倒くさそうに、すり抜けていく。

 だが、その完璧だったはずの舞踏に、ほんのわずかな綻びが生まれた。

 彼が一つの刃をかわした、その直後。彼の死角から、もう一つの刃が、彼の回避の先を読むかのように、その軌道を変えたのだ。

 

 ガッギイイイイイイイイイイイインッ!!!

 

 凄まじい、金属音と衝撃。

 彼の脚を、鋼鉄のノコギリが捉えた。

「ぐっ…!」

 彼の口から、呻き声が漏れる。HPバーが、一瞬にして3割ほど吹き飛んだ。

「このクソゲー!」

 彼は、悪態をつきながら、ベルトに差されたライフフラスコを呷った。

 

 その、あまりにも理不尽な光景。

 それを、400万人の観客が、固唾を飲んで見守っていた。

 

『うわ、いきなり食らった!』

『やっぱり、ラビリンスはヤバいな…』

『JOKERさんでも、無傷じゃ無理なのか…』

 

 その、心配の声をBGMに、彼は次の部屋へと進む。

 そこに広がっていたのは、どこまでも続く、長い、長い一本道の廊下。

 だが、その床そのものが、灼熱の溶岩でできていた。

「…また、これかよ…」

 彼は、心の底からうんざりしたという顔で、その灼熱の回廊を駆け抜ける。壁からは、無数の炎の矢が、彼を歓迎するかのように降り注ぐ。

 その、あまりにも単調で、そしてどこまでも悪意に満ちたギミック。

 それに、彼の口から、本音が漏れた。

 

「――はぁ…。俺が、もし願いを叶えるとしたら、このクソゲーをこの世から無くす事だな」

 

 その、あまりにも切実な、そしてどこまでも人間的な魂の叫び。

 それに、コメント欄が、爆笑の渦に包まれた。

 そして、その熱狂の、まさにその頂点で。

 ありえない奇跡が、起こった。

 JOKERの、そのコメント欄。

 そこに、二つの、あまりにも神々しい名前が、同時に、そして静かに、その光を灯したのだ。

 

 アリス@オーディン:

 ギルドの皆さんが、みんなクソゲーって言うから、クソゲーなんですね…。

 私、行くの嫌です…。どうにかならないかな…。

 

 小鈴@青龍:

 同意、です…。

 修行と、思いたいですけど…。クソゲー過ぎて、いや…。

 

 その、あまりにも唐突な、二人の「持たざる者」の降臨。

 そして、そのあまりにも正直な、そしてどこまでも少女らしい、弱音。

 それに、スレッドは、もはや制御不能の熱狂の坩堝と化した。

 

『は!?』

『アリスちゃんと、小鈴ちゃんだ!』

『見てるのか、この地獄を!』

『二人とも、嫌がってるじゃねえかwww可愛いwww』

 

 その、温かい、しかしどこかからかっているようなコメントの嵐。

 その中で、一人のベテランが、その世界の残酷な真実を、彼女たちへと告げた。

 

 元ギルドマン@戦士一筋:

 …気持ちは分かるがな、お嬢ちゃんたち。

 だが、諦めろ。

 このクソゲーは、10年前からクソゲーだと言われ続けてる。

 そして、これからも、永遠にクソゲーだ。

 ギルドも、国も、そして神々すらも、この迷宮の理不尽さを、変えることはできん。

 我々にできるのは、ただ耐え、そして乗り越えることだけだ。

 

 その、あまりにも達観した、そしてどこまでも絶望的な、ベテランからの言葉。

 そして彼は、その震える少女たちの魂に、最後の、そして最も残酷な、とどめの一撃を刺した。

 

 元ギルドマン@戦士一筋:

 それと、言っておくがな。

 まだ、3週残ってますからね。

 さらに、クソゲーになりますので。

 お覚悟を。

 

 その、あまりにも無慈悲な宣告。

 それを、配信画面の向こう側で見ていたJOKERが、拾った。

 

「――はー、それだよ!」

 彼は、トラップの刃を避けながら、絶叫した。

「1回目でのクソゲーが、ボスにも追加されるんだろ!?勘弁してくれよ、マジで!」

 

 その、あまりにも人間的な、そしてどこまでも正直な、未来への絶望。

 それに、コメント欄は、この日最高の、そしてどこまでも温かい、爆笑の渦に、完全に飲み込まれた。

 彼は、その後も、幾多のクソみたいなトラップを乗り越え、その度に「このクソゲー!」と叫び続けた。

 そして、ついにその場所へとたどり着いた。

 

 ◇

 

 玉座の間。

 そこに、この迷宮の主、【孤高(ここう)皇帝(こうてい)イザロ】が、静かに鎮座していた。

 その、あまりにも荘厳で、そしてどこまでも威圧的な姿。

 それに、JOKERは、ふっと息を吐き出した。

 そして彼は、ARカメラの向こうの観客たちに、そしてこの世界の全ての神々に、宣言した。

 その声は、もはやただの挑戦者ではない。

 この、あまりにも理不尽なクソゲーを、その怒りの全てで、終わらせに来た、破壊者の、それだった。

 

「――さて、と。ようやく、本番だ」

「この、数時間分の鬱憤。お前に、全部ぶつけてやるよ」

 

 皇帝が、その巨大な戦槌を、ゆっくりと振りかぶる。

 だが、その攻撃モーションが、完全に終わる前に。

 JOKERの、その最後の宣告が、響き渡った。

 

「――お前はもう、死んでいる!」

 

 黄金の、雷霆。

 それが、皇帝の、その鋼鉄の肉体を、確かに、そして完全に、貫いた。

 ワンパンだった。

 皇帝は、消滅する。

 その巨体は、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、その存在ごと、この世界から完全に消滅した。

 後に残されたのは、絶対的な静寂と、そしてその中心で、おびただしい数のドロップ品の山を、退屈そうに眺める、一人の男の姿だけだった。

 その、あまりにも圧倒的な勝利。

 それに、コメント欄は、万雷の拍手喝采で応えた。

 JOKERは、その声援に、満足げに頷くと、ドロップ品の中から、一つの、ひときわ強い輝きを放つ、ユニークジュエルを拾い上げた。

 

「おっ、ユニークだ。さて、何かな?」

 

 彼が、そのジュエルの詳細な情報を、配信画面に大写しにした、その瞬間。

 世界の、全ての探索者が、息を呑んだ。

 

「グランドスペクトラム

 クリムゾンジュエル

 限定数: 3

 グランドスペクトラムごとにすべての属性耐性+7%

 

 フレバーテキスト:明るい炎で鍛えられた鋼鉄のような肌。」

 

 その、あまりにもシンプルで、そしてどこまでも力強い性能。

 それに、コメント欄の有識者たちが、戦慄と共に、その分析を開始した。

 

 ビルド考察家:

 …当たりだ。

 大当たりだぞ、JOKER!

 これは、皇帝の迷宮内限定でしかドロップしない、特殊なユニークジュエルシリーズ、【グランドスペクトラム】!

 その中でも、全属性耐性を上げる、クリムゾンジュエルは、大当たり中の大当たりだ!

 マーケットに出せば、5000万円は下らないぞ!

 

 ハクスラ廃人:

 ああ、間違いないな。

 このジュエルの、本当の恐ろしさは、その「限定数: 3」というテキストにある。

 同じ名前のグランドスペクトラムというジュエルを、最大3個まで、パッシブツリーに装備できるんだ。

 つまり、このクリムゾンジュエルを3つ揃えればどうなるか。

 

 元ギルドマン@戦士一筋:

 7% × 3 × 3 個で、合計63%。

 たった、3つのジュエルソケットで、全属性耐性を63%も稼げるということだ。

 A級の呪い(-50%)を、無力化できる、とんでもねえ性能だ。

 

 ビルド考察家:

 ええ。

 このシリーズには、他にも、最低持久力(じきゅうりょく)チャージを+1する【ヴィリジアンジュエル】や、最低狂乱(きょうらん)チャージを+1する【コバルトジュエル】といった、強力な当たりも存在します。

 

 その、あまりにも完璧な、そしてどこまでも羨望に満ちた、専門家たちの解説。

 それに、JOKERは、ただ静かに、そして満足げに、頷いた。

「…ほう。面白い」

「クソゲーの報酬としては、まあ、悪くねえな」

 彼の、そのあまりにも不遜な、しかしどこまでもJOKERらしい一言。

 それに、コメント欄は、この日最高の、そしてどこまでも温かい、爆笑の渦に、完全に飲み込まれた。

 彼の、新たな伝説が、また一つ、この世界の歴史に、確かに刻み込まれた、その瞬間だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。