ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

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第40話

 彼の脳裏には、昨夜雫が語ってくれた、三つのスキルコンセプトが焼き付いていた。

 無限に撃てる通常技。

 戦況を支配する必殺技。

 そして、防御を回復と反撃に転化させるサポート技。

 その設計図は、すでに完成している。

 だが、彼はまだ満足していなかった。

 もっと効率よく、もっと圧倒的に、敵を殲滅する手段はないのか。

 彼のゲーマーとしての探求心が、彼を新たな知識の扉へと導いていく。

 彼は、ビルドのさらなる可能性を模索する中で、**『呪い(カース)』**というカテゴリーに、改めて注目した。

 

 SeekerNetのデータベースには、おびただしい数の呪いスキルが登録されていた。

 敵の元素耐性を下げるもの。

 敵の動きを遅くするもの。

 敵が受けるクリティカルの確率を上げるもの。

 その効果は、多岐にわたる。

 そして隼人の目が、一つのスキルジェムの説明文に釘付けになった。

 

【脆弱の呪い(Curse of Vulnerability)】

 

 効果: 対象が受ける、物理ダメージを増加させる。

 

 これだ、と彼は思った。

 彼の攻撃手段は、その全てが物理ダメージだ。

 この呪いを使うことができれば、彼の火力はさらに一段上のステージへと跳ね上がる。

【無限斬撃】は、より少ない手数で雑雑を処理できるようになり、【衝撃波の一撃】は、ボスモンスターの分厚い装甲すらも、紙のように引き裂くだろう。

 

 だが彼は同時に、大きなジレンマに直面していた。

(…だが、俺は戦士だ)

 彼は、思う。

(目まぐるしい戦闘の中で、いちいち敵に呪いをかける、そんな器用な真似ができるのか…?)

 彼は、あのバジリスクとの死闘を思い返す。

 回避、パリィ、フラスコの使用、そして攻撃。

 そのコンマ数秒の判断が生死を分ける、極限の状況下で。

「呪いをかける」という、一つの余分な動作を挟み込む余裕があるだろうか。

 いや、ない。

 それは、あまりにも大きなリスクだ。

 呪文の詠唱中、あるいは呪いをかける、その一瞬の硬直。

 それこそが、命取りの隙となる。

 

(…やはりこれは、後方から戦況を見渡せる、魔法使いの得意分野のはずだ)

 彼は一度は、そう結論付けた。

 強力なカード。だが、自分のデッキには入らない、死に札。

 そう諦めかけた、その時だった。

 彼のギャンブラーとしての思考が、囁きかける。

 本当に、そうか?

 本当に、戦士が呪いを使う道はないのか?

 この世界の全てのプレイヤーが、その同じ結論に達していると思うのか?

 いや、そんなはずはない。

 必ずどこかに、「抜け道」が、あるはずだ。

 セオリーの裏をかく、異端の戦術が。

 

 彼は再び、検索窓に新たなキーワードを打ち込んだ。

『戦士 呪い 使い方』

 そして彼は、その答えを見つけ出した。

 

【承】「自動呪言」という名の解法

 検索結果の上位に表示されたのは、一つの古びた、しかし今もなお多くの戦士たちから参照され続けている、ガイドスレッドだった。

 そのタイトルは、力強く、そしてどこか挑発的だった。

 

『【脱・脳筋】全ての戦士が知るべき「第四のスキル」【自動呪言】の手引き』

 

 隼人は、そのスレッドをクリックした。

 そして、そこに記されていたのは、彼の全てのジレンマを一瞬で解決する、あまりにもクレバーで、そして美しい「解法」だった。

 

 1 脳筋を卒業した先輩より

「ようこそ、新人戦士。お前がこのスレを見ているということは、『呪い強そうだけど、使う暇ねえよな…』と悩んでいることだろう。

 安心しろ。その悩みは、全ての戦士が一度は通る壁だ。そして、その壁を破壊するための最高のハンマーが、この世界には存在する。

 お前は、まだ知らないだけなのだ。戦士には、剣、斧、そして雄叫びの他に、**『第四のスキル』**があることを」

 

「そのスキルの名は、【自動呪言(オートキャスト・ヘクス)】。

 これは、特殊なサポートスキルジェムだ。

 効果は、至ってシンプル。お前が使いたい、ただ一つの呪いスキルジェム…例えば、【脆弱の呪い】と、この【自動呪言】をリンクさせる。

 そして、そのスキルをオーラのように発動する。

 いいか、よく聞け。お前は、もう何もする必要はない。

 お前が敵対した全ての敵に、その呪いが、自動的に付与されるのだ」

 

 なんだと…?

 隼人の思考が、止まった。

 自動で、呪いが付与される?

 そんな、あまりにも都合の良すぎるスキルが、存在するするというのか。

 

 1 脳筋を卒業した先輩より

「もちろん、代償はある。

 この【自動呪言】のオーラは、一つの呪いにつき、お前の最大MPの10%を常に予約する。

 レベルが低く、MPがカツカツの新人にとっては、少し重いコストに感じるかもしれない。

 だが、よく考えてみろ」

 

「例えば、レベル1の【脆弱の呪い】。あれは、敵が受ける物理ダメージを15%増加させる。

 お前は、たった10%のMPを支払うだけで、全ての敵に対して、常に15%のダメージボーナスを得ることができるんだ。

 お前たちが何時間もダンジョンに潜り、なけなしの金で手に入れる剣の攻撃力上昇は、せいぜい10%程度だろう?

 それと比べて、どうだ?」

 

「もう、分かるな。

 はっきり言おう。

 今の環境において、自動呪言で呪いを使わないのは、単純に損だ。

 それは、ビルドの重要なスロットを一つ、空っぽのまま放置しているのと、同じことだ。

 お前がE級、D級と上のステージを目指すなら、このスキルはもはや、必須科目だと言える」

 

 その、あまりにも合理的で、そして力強い解説。

 隼人の脳内に、衝撃が走った。

 これだ。

 これこそが、俺が求めていた最後のピースだ。

 彼は、自らのMPバーを確認する。

 最大MPは、60。その10%なら、わずか6。

 たった6のMPを予約するだけで、常時15%のダメージアップ。

 リスクとリターンが、全く釣り合っていない。

 圧倒的な、ローリスク・ハイリターン。

 こんな美味しいカードを、見逃すギャンブラーがいるだろうか。

 

 彼は興奮に打ち震えながら、スレッドをさらに読み進めていく。

 そしてそこには、彼がまだ知らなかった世界の、さらなる深淵が記されていた。

 物語は、主人公が自らのビルドを完成させるための、最後の、そして最も重要なピースを見つけ出した、その歓喜の瞬間を描き出す。

 

 神崎隼人の脳内に、電流が走った。

【自動呪言(オートキャスト・ヘクス)】。

 MPをわずか10%予約するだけで、常に敵に呪いをかけ続けることができる、究極のサポートスキル。

 戦士であるという彼の最大のジレンマを、あまりにも鮮やかに解決してくれる、完璧な「回答」。

 彼のゲーマーとしての魂が、歓喜に打ち震えていた。

 これだ。これさえあれば、俺のビルドは完成する。

 そう確信した彼の思考は、しかし、すぐにより深い情報の海へと引きずり込まれていく。

 彼が読み進めていたSeekerNetのガイドスレッド…『【脱・脳筋】全ての戦士が知るべき「第四のスキル」』には、まだ続きがあったのだ。

 それは、これまでソロプレイしかしてこなかった彼が、全く意識してこなかった未知の領域。

 そして、この世界の厳しさと奥深さを、改めて彼に叩きつける重要な「ルール」だった。

 

 1 脳筋を卒業した先輩より

「さて、お前は今、『自動呪言、最高じゃねえか!早速、脆弱の呪いとリンクさせて、ダンジョンに突っ込んでやるぜ!』と息巻いていることだろう。

 だが、待て、早まるな、新人。

 お前がもし、これからも孤独な一匹狼として生きていくというのなら、それでもいい。

 だが、お前がいつか仲間と共に高難易度ダンジョンへと挑む、その可能性が1%でもあるのなら、これだけは頭に叩き込んでおけ」

「――**パーティプレイにおける、『呪いの作法』**をな」

 

「思い出せ。この世界の、絶対的なルールだ。敵一体にかけられる呪いは、原則としてただ一つ。

 後からかけられた呪いは、先にかかっていた呪いを、無慈悲に**『上書き』**する。

 このルールが、パーティプレイにおいてどれほど恐ろしい結果を招くか、教えてやろう」

 

「ここに、一つのパーティがあるとする。

 メインのダメージディーラーは、炎の魔法に全てを賭けたエリート魔術師だ。彼のビルドは、【可燃性の呪い】…つまり、敵の火耐性を大幅に下げる呪いを敵にかけることを、前提に組まれている。その呪いがあるかないかで、彼の火力は天と地ほど変わる」

「そしてそこに、お前のような何も知らない脳筋戦士が入ってきたとする。お前は、良かれと思って自慢の【自動呪言】で、【脆弱の呪い】を敵にばら撒きながら、突撃していく」

「さあ、どうなる?」

 

「答えは、簡単だ。お前は、パーティの大エースである魔術師の火力を、**半減、いや、それ以下に叩き落とす最悪の『妨害行為(グリーフィング)』**をしていることになる。

 魔術師は、必死に【可燃性の呪い】をかけ直す。だが、お前が敵に近づいた瞬間、その呪いは、お前の【脆弱の呪い】に自動で上書きされる。

 結果、ダンジョンの攻略速度は著しく低下し、パーティは崩壊の危機に瀕するだろう。

 そしてお前は、戦犯としてパーティから追放され、ギルドのブラックリストにその名を刻むことになる」

 

 その、あまりにも具体的で、生々しい失敗談。

 隼人の背筋に、冷たい汗が流れた。

 そうだ、俺は全く考えてもいなかった。

 ソロプレイという閉じた世界の中では、自分の利益だけを考えていればよかった。

 だが、パーティとは違う。

 そこには仲間がいて、役割分担があり、そして守るべき「作法」がある。

 

 1 脳筋を卒業した先輩より

「だから、覚えておけ。パーティにおいて優先するべき呪いは何か。常に仲間と対話し、その役割を尊重しあう。それこそが、高難易度ダンジョンを攻略するための、最低限のマナーだ。それができない奴は、一生ソロでやってろ」

 

 そしてガイドは、さらにこの世界の深淵を、隼人に見せつけた。

 

 1 脳筋を卒業した先輩より

「最後に、上級者向けの情報を一つ授けておこう。

 この世界にはな、ごく稀に、**『特定の呪いがかかっている敵に対してのみ、効果を発揮する』**という、特殊なスキルやユニーク装備が存在する」

「例えば、『【時間鎖】の呪いがかかっている敵に対して、クリティカル率が100%になるダガー』。あるいは、『【暗殺者の印】**の呪いがかかっている敵を倒した時、その魂を吸収し、10秒間、自らの力を倍加させる鎧』といった具合にな」

「そういった特殊なコンボビルドの邪魔をしないこと。仲間の力を最大限に引き出す手助けをすること。それもまた、一流の探索者の嗜みと言えるだろう」

 

 隼人は、そのあまりにも奥深い戦術の世界に、ただ圧倒されていた。

 呪い。

 それは、ただ敵を弱体化させるだけの、単純なスキルではない。

 仲間との連携、ビルドのシナジー、そして戦況そのものを支配する、極めて高度なパズル。

 彼は、このゲームの本当の面白さに、再び心を奪われていた。

 

【結】最後のピースと、新たな目標

 全ての情報を理解した、隼人。

 パーティプレイの作法は、今のソロの彼には、直接関係ないかもしれない。

 だが、その知識は、いつか彼がさらなる高みへと至るその道程で、必ず役に立つだろう。

 そして何よりも、彼の心は完全に決まっていた。

 

(…決めた)

 

 彼の脳内ではすでに、最後のピースが完璧に、そのあるべき場所へとはまっていた。

 

(俺の今のビルドの、最後のピースはこれだ)

 

 彼は、呟く。

 彼の次なる目標が、完全に定まった。

 

 新たな買い物リスト:

 

 **【自動呪言(オートキャスト・ヘクス)】**のサポートスキルジェムを手に入れること。

 

 そして、自らの物理攻撃の威力を最大化する、**【脆弱の呪い(Curse of Vulnerability)】**のスキルジェムを手に入れること。

 

 これさえあれば。

 彼のビルドは、一つの完成形を迎える。

 鉄壁の防御。

 無限の継戦能力。

 そして、常に敵を弱体化させながら放たれる、必殺の一撃。

 もはや、E級ダンジョンに敵はいないだろう。

 

 彼は早速、SeekerNetのマーケットで、その二つのジェムの価格を調べ始めた。

 まず、【脆弱の呪い】。これは、比較的ポピュラーな呪いスキルであり、市場にもそれなりに数が出回っている。中古のクオリティ0%のレベル1ジェムであれば、2万円も出せば手に入るだろう。

 問題は、もう一つの方だった。

【自動呪言(オートキャスト・ヘクス)】。

 これは、サポートスキルジェムの中でも、極めて需要の高い人気アイテムだ。

 近接職であれば、誰もが欲しがる。その汎用性の高さ故に、その価格は常に高騰していた。

 彼が調べた時点での最安値は、8万円。

 二つ合わせれば、ちょうど10万円。

 彼が今持っている軍資金の、ほとんど全てを吐き出すことになる。

 

 だが、彼は躊躇しなかった。

 これは、必要経費だ。

 いや、未来への「投資」だ。

 最高のリターンを得るためには、最高のリスクを取る。

 それこそが、ギャンブラー。

 

 彼の瞳に、再び獰猛な狩人の光が宿った。

 彼の次なる戦場は、決まった。

 それは、ダンジョンではない。

 あらゆる欲望と駆け引きが渦巻く、巨大な「市場」。

 

 物語は、自らのビルドの最後のピースを見つけた主人公が、それを手に入れるための新たな金策と市場での駆け引きへと、その舞台を移していく、その最高の期待感をはらんで幕を閉じた。

 

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