ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

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A級上位編
第389話


 その日の世界の空気は、一つの巨大な「問い」を巡って、静かな、しかしどこまでも深い熱気に包まれていた。

【レプリカ・アルベロンの戦闘鉄靴】。

 そのオークションの狂騒から数週間。世界は、新たなSTRスタッキングというメタの可能性に沸き立ちながらも、そのあまりにも巨大な参入障壁を前に、一種の停滞期にあった。

 誰もが、次の大きな波を待っていた。

 この混沌としたテーブルに、新たな秩序をもたらす、絶対的な「何か」の到来を。

 その、あまりにも大きな期待と、そしてどこか他人任せな空気。

 それを、破壊したのは、やはりあの男だった。

 

 その日の午後。

 何の前触れもなく、彼の配信は始まった。

 

【SeekerNet 掲示板 - ライブ配信総合スレ Part. 1088】

 

 1: 名無しのJOKERウォッチャー

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 始まったぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 JOKERが、配信始めた!!!!!!!!!!!!!!!

 タイトルが、ヤバい!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 その、あまりにも切羽詰まった絶叫。

 それに、スレッドは一瞬にして、トップスピードへと加速した。

 

【配信タイトル:【腕試し】スマイトビルド、A級上位ソロで行けるのか?】

【配信者:JOKER】

【現在の視聴者数:5,821,942人】

 

『きたあああああああ!』

『腕試し!?A級上位に!?』

『マジかよ!あのレベル上げ専用ビルドで、本物の戦場に行くのか!』

『無謀すぎるだろ!死ぬぞ!』

 

 その熱狂をBGMに、配信画面に映し出されたのは、見慣れたデルヴ鉱山の入り口ではなかった。

 湿った壁、天井から滴り落ちる水滴、そして獣の血と鉄錆の匂いが混じり合った、どこまでも続く石造りの迷路。

 A級上位ダンジョン【ミノタウロスの洞窟】。

 かつて、彼が「ラスト・ベット」の仲間たちと共に、その戦士ビルドで辛くも攻略した、あの場所。

 

「よう、お前ら。見ての通り、今日は新しいテーブルだ」

 JOKERの声は、どこまでも楽しそうだった。

「いつまでも、雑魚をいじめてても、面白くねえからな。このビルドが、本物のテーブルでどこまで通用するのか。試してみようじゃねえか」

「ラスト・ベットの連中と戦士ビルドでちょくちょく来てるが、一人で来るのは初めてか」

 

 彼が、そのゲートをくぐった、その瞬間。

 彼の魂に、冷たい、しかしどこまでも馴染み深い枷がはめられたかのような、不快な感覚。

 ARウィンドウに、無慈悲なテキストがポップアップする。

 

【世界の呪いを受けました】

【効果: 全ての属性耐性 -50% (永続)】

 

『うわ、いきなり呪いか!』

『耐性、大丈夫なのかよ!?』

 

 コメント欄が、心配の声を上げる。

 だが、JOKERは動じない。

 彼は、自らのステータスウィンドウを、配信画面に大写しにした。

 彼の耐性値は、確かにマイナス50%されていた。

 だが、その結果表示された数字。

 火耐性:58%

 氷耐性:58%

 雷耐性:58%

 

「――まあ、ワンパンは耐えるだろ。」

 彼は、そう言って不敵に笑った。

「**危なかったらポータルで帰ればいいしな。**とりあえず、行くか」

 

 その、あまりにも圧倒的な、そしてどこまでも計算され尽くした、守り。

 それに、コメント欄は、安堵と、そしてそれ以上に大きな、戦慄に包まれた。

 そして彼は、その灼熱の大地へと、その最初の一歩を、踏み出した。

 彼の、新たな伝説の、本当の始まりだった。

 

 そこから始まったのは、もはや戦闘ではなかった。

 ただ、一方的な、そしてどこまでも美しい「蹂躙」だった。

 広大な、円形の広間。

 その中央に、完璧な陣形を組んで彼を待ち受けていた、三十体を超える【ミノタウロス・バーサーカー】の軍勢。

 その、あまりにも圧倒的な威圧感と、統率の取れた佇まい。

 それに、JOKERは、ただ笑った。

 そして、彼はその空っぽの、しかし神の力を宿した両の拳を、構えた。

 そして、彼は叫んだ。

 その声は、この灼熱の大地の、全ての空気を震わせた。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 

 黄金の雷霆が、嵐のように、吹き荒れる。

 スマイトのラッシュで、敵が溶けていく。

 A級上位の、あの硬い装甲を誇るミノタウロスたちが、まるでF級のゴブリンのように、その一撃で、光の粒子となって消滅していく。

 その、あまりにも壮絶な光景。

 それに、コメント欄は、もはや意味をなさない絶叫の洪水で、埋め尽くされていた。

 

『なんだ、これ…』

『なんだよ、これ…』

『A級上位の、エリートモンスターだぞ…?なんで、ワンパンなんだよ…』

『火力、おかしいだろ!昨日より、さらに上がってねえか!?』

 

 その熱狂の中心で、JOKERは、ただ楽しそうに、その拳を振るい続ける。

「ミノタウロスのボスがどうなるかだが…」

 そして、彼はついに、その場所へとたどり着いた。

 洞窟の最深部。

 ひときわ巨大な、円形の闘技場だった。

 その中央に、それはいた。

【迷宮の主、ミノタウロス・キング】。

 身長は、10メートルを優に超える。

 その全身の筋肉は鋼鉄のように隆起し、その両の眼は、地獄の業火のように赤く燃え盛っていた。

 そして、その両手に握られているのは、巨大な二本の戦斧。

 その、あまりにも圧倒的な、プレッシャー。

 

「――来るぞ!」

 

 戦いの火蓋は、切って落とされた。

 ミノタウロス・キングの初手は、シンプルだった。

 ただ、その巨体を揺らしながら一直線に突進してくるだけ。

 だが、その突進は大地を割り、空間そのものを歪ませるほどの、純粋な質量の暴力。

 その、あまりにも暴力的なまでの攻撃の嵐の中を、JOKERは、まるで暴風を避けるように、紙一重で華麗に攻撃を躱していく。

 一歩でもステップを間違えれば、即、死。

 その、あまりにも極限の緊張感。

 彼は、その死の舞踏を、楽しんでいた。

 そして、彼はその嵐の、その中心で、完璧なカウンターを叩き込んだ。

 スマイトの一撃が、ミノタウロス・キングの、その巨大な脇腹を、確かに捉えた。

 

 ドッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 黄金の雷霆が、炸裂する。

 ボスの、巨大なHPバーが、確かに、そして目に見える形で、削り取られていく。

 2割削れた。

 

「おー、思ったより削れるな」

 JOKERの、その満足げな一言。

 それに、コメント欄が、熱狂した。

『マジかよ!A級上位のボスに、2割もダメージ入るのかよ!』

『このビルド、本物だ!』

 

「じゃあ、これはどうだ?」

 JOKERは、そう言うと、その場で、信じられない行動に出た。

 彼は、ボスとの距離を大きく取ると、その場で、自らのステータスウィンドウと、パッシブスキルツリーを開いたのだ。

 その、あまりにも無謀な、そしてどこまでも傲慢な、戦闘中のビルド調整。

 それに、コメント欄が、爆発した。

 

『は!?』

『嘘だろ!?ボス戦の、真っ最中に!?』

『正気か、この男は!』

 

 その絶叫をBGMに、彼は淡々と、自らの魂を、再構築し始めた。

「まず、パッシブポイントを18、俊敏ノードに18個取る。これで、俊敏が180増えた」

「さらに、ステータスポイント65を、俊敏に振る」

 彼の、俊敏(DEX)の数値が、凄まじい勢いで跳ね上がっていく。

「438から、737。約1.7倍に、一挙に増える」

 

 その、あまりにも暴力的なまでの、そしてどこまでも計算され尽くした、リアルタイムの強化。

 それに、コメント欄の有識者たちが、戦慄した。

 

 ハクスラ廃人:

 …馬鹿野郎が。

 なんだよ、これ…。

 戦闘中に、リスペックだと…?

 しかも、パッシブとステータスを同時に…?

 こいつの、頭の中は、どうなってやがるんだ…。

 

 元ギルドマン@戦士一筋:

 …これが、JOKERか。

 我々が、数日かけてシミュレーターで計算するようなビルド変更を、彼は、この土壇場で、即興でやってのけるというのか。

 もはや、人間ではない。

 

 その、賞賛と、畏敬と、そして純粋な恐怖が入り混じったコメントの嵐。

 その中心で。

 JOKERは、その全ての強化を終えた。

 そして彼は、再び、その巨大な王へと、向き直った。

 その瞳には、もはやただの挑戦者ではない。

 このテーブルの、全ての理を、その手中に収めた、絶対的な支配者の光が宿っていた。

 ミノタウロス・キングが、再び、その怒りの突進を、仕掛けてくる。

 だが、もう、同じ結末にはならない。

 

「――オラオラオラオラ!」

 

 JOKERの、その楽しそうな絶叫。

 それが、この戦いの、終わりの合図だった。

 黄金の、雷霆。

 それが、嵐となって、ミノタウロス・キングの、その巨体を、飲み込んだ。

 一撃目。

 その衝撃で、王が手にしていた巨大な二本の戦斧が、まるで小枝のように、粉々に砕け散った。

 二撃目。

 その圧倒的な圧力に、王の、その鋼鉄のようだったはずの脚が、耐えきれず、その場で、膝をついた。

 そして、三撃目。

 とどめの一撃が、その無防備な頭部へと叩き込まれた、その瞬間。

 王の巨体は、まるでボールのように、後方へと吹き飛ばされ、闘技場の壁に激突し、そして断末魔の悲鳴を上げる間もなく、その存在ごと、この世界から完全に消滅した。

 

 静寂。

 後に残されたのは、絶対的な静寂と、そしてその中心で、おびただしい数のドロップ品の山を、退屈そうに眺める、一人の男の姿だけだった。

 その直後。

 彼の全身を、これまでにないほど強く、そして荘厳な黄金の光が、包み込んだ。

 

【LEVEL UP!】

【Lv.40 → Lv.41】

 

「おっ、レベル上がったな。ラッキー」

 

 その、あまりにも日常的な、そしてどこまでも常識外れの、一言。

 それに、コメント欄は、もはや意味をなさない絶叫の洪水で、埋め-尽くされていた。

 

『なんだ、これ…』

『なんだよ、これ…』

『A級上位の、あの硬いと評判のミノタウロス・キングを、実質4撃で…?』

『馬鹿みたいな火力だ…!』

 

 その、あまりにも圧倒的な勝利。

 それに、コメント欄の有識者たちが、万雷の拍手喝采と共に、その最終的な「結論」を、導き出した。

 

 ビルド考察家:

 …終わったな。

 何もかもが。

 このビルドは、もはやA級のテーブルにいるべき存在ではない。

 これは、S級、いや、あるいはそのさらに先をも見据えた、未来のビルドだ。

 我々は、今日、歴史の目撃者となったのだ。

 

 ハクスラ廃人:

 ああ。

 JOKERは、また、世界の理を、一つ壊しやがった。

 そして、新たな時代を、その拳一つで、こじ開けやがったんだ。

 最高の、ショーだったぜ。

 

 元ギルドマン@戦士一筋:

 うむ。

 これぞ、JOKER。

 これぞ、我々が愛した、最高の道化師だ。

 彼の、次なる一手が、この世界を、どう変えていくのか。

 もはや、誰にも、予測することはできん。

 

 その、あまりにも壮大で、そしてどこまでも美しい、新たな伝説の始まり。

 それを、世界の、全ての人間が、ただ固唾を飲んで、見守っていた。

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