ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物 作:パラレル・ゲーマー
その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、もはやただの情報交換の場ではなかった。それは、一つの巨大な電子の円形闘技場(コロッセオ)であり、世界の頂点を巡る神々の戦争を、何百万という観客が固唾を飲んで見守る、熱狂の特等席と化していた。
【ネファレム・リフト】。
その、あまりにもシンプルで、そしてどこまでも残酷な実力指標の出現は、世界の探索者たちの心に、忘れかけていた闘争心の炎を、再び燃え上がらせていた。
【SeekerNet 掲示板 - B級ダンジョン総合スレ Part. 435】
1: 名無しのB級タンク
スレ立て乙。
さて、諸君。今日も始めようか。我々人類が、神々の気まぐれな悪戯に、どう立ち向かうべきかの議論を。
2: 名無しのC級(見学中)
1
乙です!
昨日のJOKERさんのリフト配信、最高でしたね!ランク20までノンストップとか、人間業じゃない…。
3: 名無しのA級(お忍び)
2
ああ。だが、あの男の動きは、もはや我々の参考にはならん。
それより、現実を見ろ。
今、世界のトップギルドたちが、本気でこのリフト戦争に参戦し始めたぞ。
4: 名無しのB級戦士
3
だよな…。
俺が所属してる中堅ギルドも、昨日緊急の召集がかかった。
「本日より、全ギルドメンバーは、通常ダンジョンの攻略を中断。全ての戦力を、ネファレム・リフトのランク攻略に集中させる」だとよ。
ギルドも威信をかけて、このリフト戦争に参戦する気だ。
所属するギルドメンバーは、飲食を忘れて夢中でリフトを周回することになった。地獄の始まりだぜ…。
その、あまりにも生々しい、そしてどこまでも切実な報告。
それが、この新たな時代の、本当の幕開けを告げる、ゴングだった。
スレッドは、爆発した。
「俺のギルドもだ!」「うちも!」「睡眠時間、3時間になったぞ!」
世界の、全てのB級以上のギルドが、まるで示し合わせたかのように、一斉に、その全ての戦力を、この無限の塔の攻略へと、注ぎ込み始めたのだ。
それは、もはやただの競争ではない。
ギルドの、そして国家の、威信を賭けた、総力戦だった。
そして、その戦いの火蓋は、あまりにも早く、そしてどこまでも華々しく、切って落とされた。
X(旧Twitter)
ギルド【
【速報】
当ギルド所属の精鋭パーティ「月光」、先ほどネファレム・リフトのランク30を、日本ギルドとして初めてクリアいたしましたことを、ご報告いたします。
我々は、常に日本の、そして世界の最前線を走り続けます。
#リフト戦争 #月詠
その、あまりにも誇らしげな、そしてどこまでも挑戦的な、勝利宣言。
それに、SeekerNetは、熱狂した。
『うおおおおお!月詠、マジかよ!』
『ランク30!すげえ!』
『日本の誇りだ!』
だが、その日本の、ささやかな勝利の祝杯。
それが、飲み干される前に。
北欧の神々が、その杯を、無慈悲に叩き割った。
ギルド【オーディン】日本支部公式 @Odin_Guild_JP
【記録更新】
当ギルド所属、SS級“ラグナル”率いる第一遊撃部隊「ヴァルハラ」。
ネファレム・リフト、ランク35の攻略を完了。
世界の頂は、常に我々のためにある。
#リフト戦争 #オーディン
その、あまりにも圧倒的な、そしてどこまでも傲慢な、カウンター。
それに、日本の掲示板は、一瞬にして静まり返った。
そして、その沈黙を破ったのは、悔しさと、そしてそれ以上に大きな、興奮の絶叫だった。
『嘘だろ!?』
『ランク35!?月詠の記録を、一瞬で抜き去りやがった!』
『これが…これが、世界の壁か…!』
だが、日本の不屈の挑戦者たちは、決して諦めてはいなかった。
その数時間後。
月詠が、その全ての意地と、プライドを賭けた、渾身のアンサーを、叩きつけた。
ギルド【
【再更新】
ランク40、クリア。
我々は、決して、諦めない。
#リフト戦争 #月詠
その、あまりにも劇的な、そしてどこまでもheroicな逆転劇。
それに、日本の掲示板は、この日一番の、そしてどこまでも誇らしい、祝福の嵐に、完全に包まれた。
だが、その熱狂の、まさにその頂点で。
月詠は、その勝利の余韻に浸るかのように、追撃の一手を放った。
ギルド【
ちなみに、リフト40を10分でクリアしたことも、ご報告しておきます。
これが、我々のチームワークの力です。
#リフト戦争 #月詠
その、あまりにも自信に満ちた、そしてどこまでも詳細な、勝利の証明。
それに、誰もが、思った。
今夜の勝負は、決したのだと。
日本の、小さなギルドが、世界の巨人に、一矢報いたのだと。
その、あまりにも甘い、そしてどこまでも楽観的な幻想。
それを、中華の赤い龍が、その巨大な爪で、木っ端みじんに引き裂いた。
ギルド【青龍】日本支部公式 @Seiryu_Guild_JP
【報告】
ランク40、攻略完了。
タイム、8分58秒。
話は、以上だ。
#リフト戦争
静寂。
数秒間の、絶対的な沈黙。
そして、爆発。
『は!?』
『8分台!?嘘だろ!?』
『月詠の記録を、さらに1分以上も…!?』
『なんだよ、これ…。なんだよ、これ…。』
その、あまりにも無慈悲な、そしてどこまでも圧倒的な、「格」の違い。
それに、日本の掲示板は、もはや言葉を失っていた。
ただ、そのあまりにも巨大な壁を前にして、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
スレッドは、お通夜状態となった。
誰もが、この戦争の、あまりにも早すぎる結末を、予感していた。
【SeekerNet 掲示板 - ライブ実況スレ Part. 5】
811: 名無しの実況民A
…終わったな。
何もかもが。
青龍、強すぎるだろ…。
オーディンも、月詠も、もう手も足も出ない。
**ギルド間戦争の再開か?**とか、昨日まではしゃいでた俺が、馬鹿みたいじゃねえか。
812: 名無しのゲーマー
811
ああ…。
これが、物量の差ってやつか…。
もう、誰も青龍を止められねえよ…。
その、あまりにも重く、そしてどこまでも絶望的な空気。
それを、断ち切るかのように。
一つの、あまりにも場違いな、そしてどこまでもマイペースな書き込みが、投下された。
825: 名無しのJOKERウォッチャー
あのー、すみません。
今、JOKERさんの配信見てるんですけど。
826: 名無しの実況民A
825
ああ?JOKERが、どうかしたのかよ。
あいつは、どうせ高みの見物を決め込んでんだろ。
この戦争には、興味ねえよ。
828: 名無しのJOKERウォッチャー
826
いや、それが…。
JOKERも、40クリアしたらしいぞ!
静寂。
数秒間の、絶対的な沈黙。
スレッドの、全ての時間が止まったかのような錯覚。
そして、その静寂を破ったのは、一人の、あまりにも素直な、魂の絶叫だった。
『――はああああ!?』
その一言が、引き金となった。
スレッドは、爆発した。
『マジかよ!』
『いつの間に!?』
『あいつ、ギルド戦争の裏で、一人だけ別のゲームしてやがったのか!』
その熱狂の渦の中で、JOKERウォッチャーは、震える指で、その詳細を報告し始めた。
835: 名無しのJOKERウォッチャー
いや、それがな…。
なんか、配信でいつものようにジャズのうんちく垂れながら、デルヴ鉱山でレベリングしてたんだよ。
そしたら、レベル40になった瞬間に、「さて、小手調べだ」とか言って、いきなりB級ダンジョンのオベリスクにキーストーン突っ込んでな。
ランク40のリフトに、ソロで。
それも、スマイト徒手空拳ビルドで。
そんで、クリアタイムがな…。
震えんなよ。
836: 名無しのゲーマー
835
ごくり…。
838: 名無しのJOKERウォッチャー
――7分15秒だ。
静寂。
そして、爆発。
『な、7分!?』
『青龍の記録を、さらに1分半も…!?』
『ソロで!?』
『なんだよ、この男…。なんだよ、この男…!』
その、あまりにも圧倒的な、そしてどこまでも理不尽な、「格」の違い。
それに、スレッドは、もはや言葉を失っていた。
ただ、そのあまりにも巨大な壁を前にして、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
スレッドは、お通夜状態となった。
誰もが、この戦争の、あまりにも早すぎる結末を、予感していた。
そのあまりにも重く、そしてどこまでも絶望的な空気。
それを、断ち切るかのように。
一つの、あまりにも場違いな、そしてどこまでもマイペースな書き込みが、投下された。
JOKER本人が、降臨したのだ。
JOKER:
…なんだ、お前ら。騒がしいな。
リフトランク40なんて、デルヴでレベル上げた俺からすりゃ、ただの通過点だぞ。
それより、この後のランク50からが、本番だろ。
敵の攻撃、痛くなってくるしな。
その、あまりにも不遜な、そしてどこまでも世界の中心にいる男の、一言。
それが、この地獄の、本当の始まりだった。
ギルド間戦争は、終わった。
ここから始まるのは、世界の全てが、たった一人の男の背中を追いかける、新たな、そしてより過酷な、レースなのだと。
その、あまりにも壮大で、そしてどこまでも絶望的な、新時代の幕開けを。
世界の、全ての探索者が、その胸に、確かな戦慄と共に、感じていた。