ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

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第393話

 その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、もはやただの情報交換の場ではなかった。それは、一つの巨大な電子の円形闘技場(コロッセオ)であり、世界の頂点を巡る神々の戦争を、何百万という観客が固唾を飲んで見守る、熱狂の特等席と化していた。

【ネファレム・リフト】。

 その、あまりにもシンプルで、そしてどこまでも残酷な実力指標の出現は、世界の探索者たちの心に、忘れかけていた闘争心の炎を、再び燃え上がらせていた。

 

【SeekerNet 掲示板 - B級ダンジョン総合スレ Part. 435】

 

 1: 名無しのB級タンク

 スレ立て乙。

 さて、諸君。今日も始めようか。我々人類が、神々の気まぐれな悪戯に、どう立ち向かうべきかの議論を。

 

 2: 名無しのC級(見学中)

 

 1

 乙です!

 昨日のJOKERさんのリフト配信、最高でしたね!ランク20までノンストップとか、人間業じゃない…。

 

 3: 名無しのA級(お忍び)

 

 2

 ああ。だが、あの男の動きは、もはや我々の参考にはならん。

 それより、現実を見ろ。

 今、世界のトップギルドたちが、本気でこのリフト戦争に参戦し始めたぞ。

 

 4: 名無しのB級戦士

 

 3

 だよな…。

 俺が所属してる中堅ギルドも、昨日緊急の召集がかかった。

「本日より、全ギルドメンバーは、通常ダンジョンの攻略を中断。全ての戦力を、ネファレム・リフトのランク攻略に集中させる」だとよ。

 ギルドも威信をかけて、このリフト戦争に参戦する気だ。

 所属するギルドメンバーは、飲食を忘れて夢中でリフトを周回することになった。地獄の始まりだぜ…。

 

 その、あまりにも生々しい、そしてどこまでも切実な報告。

 それが、この新たな時代の、本当の幕開けを告げる、ゴングだった。

 スレッドは、爆発した。

「俺のギルドもだ!」「うちも!」「睡眠時間、3時間になったぞ!」

 世界の、全てのB級以上のギルドが、まるで示し合わせたかのように、一斉に、その全ての戦力を、この無限の塔の攻略へと、注ぎ込み始めたのだ。

 それは、もはやただの競争ではない。

 ギルドの、そして国家の、威信を賭けた、総力戦だった。

 

 そして、その戦いの火蓋は、あまりにも早く、そしてどこまでも華々しく、切って落とされた。

 

 X(旧Twitter)

 

 ギルド【月詠(つくよみ)】公式 @Tsukuyomi_Guild_JP

【速報】

 当ギルド所属の精鋭パーティ「月光」、先ほどネファレム・リフトのランク30を、日本ギルドとして初めてクリアいたしましたことを、ご報告いたします。

 我々は、常に日本の、そして世界の最前線を走り続けます。

 #リフト戦争 #月詠

 

 その、あまりにも誇らしげな、そしてどこまでも挑戦的な、勝利宣言。

 それに、SeekerNetは、熱狂した。

 

『うおおおおお!月詠、マジかよ!』

『ランク30!すげえ!』

『日本の誇りだ!』

 

 だが、その日本の、ささやかな勝利の祝杯。

 それが、飲み干される前に。

 北欧の神々が、その杯を、無慈悲に叩き割った。

 

 ギルド【オーディン】日本支部公式 @Odin_Guild_JP

【記録更新】

 当ギルド所属、SS級“ラグナル”率いる第一遊撃部隊「ヴァルハラ」。

 ネファレム・リフト、ランク35の攻略を完了。

 世界の頂は、常に我々のためにある。

 #リフト戦争 #オーディン

 

 その、あまりにも圧倒的な、そしてどこまでも傲慢な、カウンター。

 それに、日本の掲示板は、一瞬にして静まり返った。

 そして、その沈黙を破ったのは、悔しさと、そしてそれ以上に大きな、興奮の絶叫だった。

 

『嘘だろ!?』

『ランク35!?月詠の記録を、一瞬で抜き去りやがった!』

『これが…これが、世界の壁か…!』

 

 だが、日本の不屈の挑戦者たちは、決して諦めてはいなかった。

 その数時間後。

 月詠が、その全ての意地と、プライドを賭けた、渾身のアンサーを、叩きつけた。

 

 ギルド【月詠(つくよみ)】公式 @Tsukuyomi_Guild_JP

【再更新】

 ランク40、クリア。

 我々は、決して、諦めない。

 #リフト戦争 #月詠

 

 その、あまりにも劇的な、そしてどこまでもheroicな逆転劇。

 それに、日本の掲示板は、この日一番の、そしてどこまでも誇らしい、祝福の嵐に、完全に包まれた。

 だが、その熱狂の、まさにその頂点で。

 月詠は、その勝利の余韻に浸るかのように、追撃の一手を放った。

 

 ギルド【月詠(つくよみ)】公式 @Tsukuyomi_Guild_JP

 ちなみに、リフト40を10分でクリアしたことも、ご報告しておきます。

 これが、我々のチームワークの力です。

 #リフト戦争 #月詠

 

 その、あまりにも自信に満ちた、そしてどこまでも詳細な、勝利の証明。

 それに、誰もが、思った。

 今夜の勝負は、決したのだと。

 日本の、小さなギルドが、世界の巨人に、一矢報いたのだと。

 その、あまりにも甘い、そしてどこまでも楽観的な幻想。

 それを、中華の赤い龍が、その巨大な爪で、木っ端みじんに引き裂いた。

 

 ギルド【青龍】日本支部公式 @Seiryu_Guild_JP

【報告】

 ランク40、攻略完了。

 タイム、8分58秒。

 話は、以上だ。

 #リフト戦争

 

 静寂。

 数秒間の、絶対的な沈黙。

 そして、爆発。

 

『は!?』

『8分台!?嘘だろ!?』

『月詠の記録を、さらに1分以上も…!?』

『なんだよ、これ…。なんだよ、これ…。』

 

 その、あまりにも無慈悲な、そしてどこまでも圧倒的な、「格」の違い。

 それに、日本の掲示板は、もはや言葉を失っていた。

 ただ、そのあまりにも巨大な壁を前にして、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 スレッドは、お通夜状態となった。

 誰もが、この戦争の、あまりにも早すぎる結末を、予感していた。

 

【SeekerNet 掲示板 - ライブ実況スレ Part. 5】

 

 811: 名無しの実況民A

 …終わったな。

 何もかもが。

 青龍、強すぎるだろ…。

 オーディンも、月詠も、もう手も足も出ない。

 **ギルド間戦争の再開か?**とか、昨日まではしゃいでた俺が、馬鹿みたいじゃねえか。

 

 812: 名無しのゲーマー

 

 811

 ああ…。

 これが、物量の差ってやつか…。

 もう、誰も青龍を止められねえよ…。

 

 その、あまりにも重く、そしてどこまでも絶望的な空気。

 それを、断ち切るかのように。

 一つの、あまりにも場違いな、そしてどこまでもマイペースな書き込みが、投下された。

 

 825: 名無しのJOKERウォッチャー

 あのー、すみません。

 今、JOKERさんの配信見てるんですけど。

 

 826: 名無しの実況民A

 

 825

 ああ?JOKERが、どうかしたのかよ。

 あいつは、どうせ高みの見物を決め込んでんだろ。

 この戦争には、興味ねえよ。

 

 828: 名無しのJOKERウォッチャー

 

 826

 いや、それが…。

 JOKERも、40クリアしたらしいぞ!

 

 静寂。

 数秒間の、絶対的な沈黙。

 スレッドの、全ての時間が止まったかのような錯覚。

 そして、その静寂を破ったのは、一人の、あまりにも素直な、魂の絶叫だった。

 

『――はああああ!?』

 

 その一言が、引き金となった。

 スレッドは、爆発した。

 

『マジかよ!』

『いつの間に!?』

『あいつ、ギルド戦争の裏で、一人だけ別のゲームしてやがったのか!』

 

 その熱狂の渦の中で、JOKERウォッチャーは、震える指で、その詳細を報告し始めた。

 

 835: 名無しのJOKERウォッチャー

 いや、それがな…。

 なんか、配信でいつものようにジャズのうんちく垂れながら、デルヴ鉱山でレベリングしてたんだよ。

 そしたら、レベル40になった瞬間に、「さて、小手調べだ」とか言って、いきなりB級ダンジョンのオベリスクにキーストーン突っ込んでな。

 ランク40のリフトに、ソロで。

 それも、スマイト徒手空拳ビルドで。

 そんで、クリアタイムがな…。

 震えんなよ。

 

 836: 名無しのゲーマー

 

 835

 ごくり…。

 

 838: 名無しのJOKERウォッチャー

 ――7分15秒だ。

 

 静寂。

 そして、爆発。

 

『な、7分!?』

『青龍の記録を、さらに1分半も…!?』

『ソロで!?』

『なんだよ、この男…。なんだよ、この男…!』

 

 その、あまりにも圧倒的な、そしてどこまでも理不尽な、「格」の違い。

 それに、スレッドは、もはや言葉を失っていた。

 ただ、そのあまりにも巨大な壁を前にして、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 スレッドは、お通夜状態となった。

 誰もが、この戦争の、あまりにも早すぎる結末を、予感していた。

 

 そのあまりにも重く、そしてどこまでも絶望的な空気。

 それを、断ち切るかのように。

 一つの、あまりにも場違いな、そしてどこまでもマイペースな書き込みが、投下された。

 JOKER本人が、降臨したのだ。

 

 JOKER:

 …なんだ、お前ら。騒がしいな。

 リフトランク40なんて、デルヴでレベル上げた俺からすりゃ、ただの通過点だぞ。

 それより、この後のランク50からが、本番だろ。

 敵の攻撃、痛くなってくるしな。

 

 その、あまりにも不遜な、そしてどこまでも世界の中心にいる男の、一言。

 それが、この地獄の、本当の始まりだった。

 ギルド間戦争は、終わった。

 ここから始まるのは、世界の全てが、たった一人の男の背中を追いかける、新たな、そしてより過酷な、レースなのだと。

 その、あまりにも壮大で、そしてどこまでも絶望的な、新時代の幕開けを。

 世界の、全ての探索者が、その胸に、確かな戦慄と共に、感じていた。

 

 

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