ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物 作:パラレル・ゲーマー
第400話
その日の日本最大の探索者専用コミュニティサイト『SeekerNet』は、もはや日常を取り戻していた。
いや、日常の「基準」そのものが、根底から書き換えられてしまった、と言うべきか。
【ネファレム・リフト】という新たな理の出現は、世界の探索者たちの生活を完全に変えた。B級以上の猛者たちは、ギルドの威信を賭けて、あるいは個人の栄光のために、その無限の階層の頂を目指し続ける。
だが、その遥か足元。
F級、E級という、安全で、そしてどこまでも優しい揺り籠の中では、全く違う、穏やかで、そしてどこまでも平和な文化が、花開いていた。
VTuber探索者と、その熱狂的なファンたち。
彼らが織りなす「わちゃわちゃ」とした日常。
そして、JOKERがその気まぐれで火をつけた、「ペットブーム」。
その二つの巨大な潮流が、今、この世界の、確かな日常となっていた。
その、あまりにも安定し、そしてどこか予測可能になってしまった日常。
それを、破壊する、新たな「理」の顕現。
その最初の兆候は、いつも通り、最もありふれた、そして最も見過ごされがちな場所で、その産声を上げた。
【SeekerNet 掲示板 - 総合雑談スレ Part. 1821】
1: 名無しのゲーマー
スレ立て乙。
さて、と。今日も推しの配信見ながら、まったり雑談でもしますか。
2: 名無しのVファン
乙ですー!
昨日のアリアちゃんの配信、見ました?F級の森で迷子になって、リスナーに道案内してもらうやつ。マジで天使すぎて、浄化された…。
3: 名無しの週末冒険者
2
見た見たwww
VTuberがさぁ、ああいう風にダンジョンを楽しんでくれると、こっちもなんだか和むよな。俺たちが血眼になって
4: 名無しのC級戦士
3
まあ、平和で良いことだ。
おかげで、初心者向けの装備の相場も安定してきたしな。
俺たち中堅層にとっても、悪い話じゃない。
5: 名無しのB級タンク
…なあ、お前ら。
ちょっと、聞きたいんだが。
俺だけか…?
6: 名無しのゲーマー
5
どうしたんだよ、タンクニキ。
また、リフトで変な敵でも引いたか?
7: 名無しのB級タンク
6
いや、違う。
さっき、ハイスト行こうと思って、ポータル開いたんだよ。
そしたら、なんか、行き先のリスト、増えてねえか…?
なんか、ポータルの転送先に、「楽園諸島」って追加されてるな。
その、あまりにも唐突な、そしてどこまでも不可解な、書き込み。
それに、スレッドの空気が、わずかに変わった。
8: 名無しのA級(お忍び)
…ほう。
俺も、今確認してみた。
確かにあるな。「楽園諸島」。
なんだ、これは…?
9: 名無しのハクスラ廃人
…またかよ。
また、神様とやらの、気まぐれなアップデートか。
面白い。
実に、面白いじゃねえか。
10: 名無しのゲーマー
おい、これって、誰でも行けるのか!?
俺、まだC級なんだが!
11: 名無しのC級戦士
10
行けるぞ!俺のリストにも、出てる!
12: 名無しのF級(新人)
11
本当ですか!?僕のにも、あります!
「楽園諸島」…!なんだか、すごい名前ですね!
その、あまりにも平等な、そしてどこまでも謎に満ちた、新たな扉の出現。
スレッドは、一瞬にして、トップスピードへと加速した。
そして、その熱狂の中心で。
一人の、あまりにも勇敢な、あるいは、ただの好奇心旺盛な馬鹿が、その声を上げた。
155: 名無しのB級タンク
…面白い。
みんなで、行ってみないか?
この、「楽園諸島」ってやつが、一体何なのか。
この目で、確かめようぜ。
人柱、俺がやってやるよ。
誰か、付いてくる奴いるか?
その、あまりにもヒーロー的な、そしてどこまでもワクワクさせる提案。
それに、スレッドは、熱狂した。
『うおおおおお!マジかよ!』『行く!俺も行く!』『オフ会だ!』
その声援に送られ、彼は、その未知なる冒険へと、その最初の一歩を、踏み出した。
◇
数十分後。
スレッドは、固唾を飲んで、勇者の帰還を待っていた。
そして、その沈黙を破るかのように。
あのB級タンクが、帰ってきた。
その書き込みは、もはやただの報告ではなかった。
一つの、新たな世界の扉が開かれたことを告げる、神の啓示だった。
311: 名無しのB級タンク
――ただいま。
そして、お前ら。
これは、ヤバい。
マジで、ヤバい。
312: 名無しのゲーマー
311
おかえり!
どうだったんだよ!
315: 名無しのB級タンク
312
…天国だ。
あそこは、天国だった。
[画像:ARコンタクトレンズで撮影された、信じられないほど美しい風景のスクリーンショット。どこまでも続く、真っ白な砂浜。エメラルドグリーンに輝く、穏やかな海。そして、空には、二つの太陽が、優しい光を投げかけている]
ポータルを抜けたら、そこは貿易港「サンクチュアリ・ポート」だった。
南国リゾートに行くことができたぞ!
モンスターは、一匹もいない。
ただ、穏やかな波の音と、心地よい潮風が吹いてるだけだ。
なんだよ、これ…。
その、あまりにも衝撃的な、そしてどこまでも平和な報告。
それに、スレッドは、爆発した。
『は!?』
『天国!?』
『なんだよ、これ!綺麗すぎるだろ!』
325: 名無しのB級タンク
ああ。
それでな、その港町、普通に店とかあるんだよ。
レストランとか、バーとか。
試しに、レストランに入ってみたら、めちゃくちゃ美味そうな料理がメニューに並んでるんだ。
でもな、通貨が、違うんだよ。
なんか、通貨「ゴールド」が必要らしい。
328: 名無しのゲーマー
325
ゴールド!?
どうやって、手に入れるんだよ!
331: 名無しのB級タンク
328
それが、これだ。
港の隅に、変な換金所があってな。
換金所で、モンスターの素材と交換できるらしいぞ!
ゴブリンの耳10個で、1ゴールドとか。スライムの核5個で、1ゴールドとか。
インベントリで腐ってた、ゴミ素材が、金になるんだよ!
静寂。
そして、爆発。
『は!?』
『ゴミが、金に!?』
『マジかよ!俺のインベントリ、宝の山じゃねえか!』
355: 名無しのB級タンク
ああ!
みんなで換金して、ゴールドを支払い、美味い食事や海水浴を楽しむ。
俺も、さっきまで、パーティ組んで行った連中と、ビーチで泳いできたところだ!
信じられねえほど、気持ちよかったぜ!
すげー楽しいぞ!みんな、来いよ!
その、あまりにも無邪気な、そしてどこまでも甘美な、誘いの言葉。
それが、引き金となった。
スレッドは、もはや制御不能の熱狂の坩堝と化した。
誰もが、その未知なる、そしてどこまでも魅力的な楽園へと、その心を、奪われていた。
そして、その熱狂の、まさにその頂点で。
あのB級タンクは、最後の、そして最も重要な「爆弾」を、投下した。
401: 名無しのB級タンク
…それと、もう一つ。
港の、一番いい場所に、不動産屋みてえなのがあってな。
そこで、話を聞いてきた。
あと、島も持てるらしい。
自分だけの、プライベートアイランドがな。
402: 名無しのゲーマー
401
はああああああああああああああああああああああああああ!?!?
405: 名無しのB級タンク
402
ああ。
でも、それは、ネファレム・リフトの景品交換で、1,000ポイントで交換できる「
1000ポイント…。
遠いな…。
その、あまりにも壮大な、そしてどこまでも具体的な、新たな「夢」。
それに、スレッドは、本当の意味での「爆発」を起こした。
もはや、それは賞賛ではない。
一つの、世界の理そのものが、根底から覆された瞬間への、畏敬の念だった。
815: 元ギルドマン@戦士一筋
…なるほどな。
そういうことか。
戦闘と、競争に疲れた者たちへの、神々からの、贈り物か。
面白い。
実に、面白いじゃねえか。
821: ハクスラ廃人
ああ、間違いないな。
そして、このコンテンツの、本当の恐ろしさに、お前らはまだ気づいてねえ。
これまで、ゴミ同然だったF級のモンスター素材。
そいつらに、安定した「価値」が生まれたってことだ。
F級ダンジョンが、新たな金策の、主戦場になる。
世界の、経済が、また動くぞ。
その、あまりにも鮮やかで、そしてどこまでも美しい、新たな時代の幕開け。
それを、世界の、全ての探索者が、その胸に、確かな高揚感と共に、感じていた。
祭りは、まだ始まったばかりだった。