ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

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第442話

【SeekerNet 掲示板 - ライブ配信総合スレ Part. 1152】

 

 1: 名無しのJOKERウォッチャー

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 始まったぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 JOKERが、配信始めた!!!!!!!!!!!!!!!

 タイトルが、ヤバい!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 その、あまりにも切羽詰まった絶叫。

 それに、スレッドは一瞬にして、トップスピードへと加速した。

 

【配信タイトル:【S級ダンジョン初潜入】】

【配信者:JOKER】

【現在の視聴者数:8,982,194人】

 

『きたあああああああ!』

『S級!?ついに、行くのか!』

『マジかよ!あのレベル上げ専用ビルドで、本物の戦場に行くのか!』

『無謀すぎるだろ!死ぬぞ!』

 

 その熱狂をBGMに、配信画面に映し出されたのは、西新宿のタワーマンションの一室。その漆黒のハイスペックPC、【静寂(せいじゃく)(おう)】の前に座る、神崎隼人――“JOKER”の姿だった。

 

「よう、お前ら。見ての通り、今日は新しいテーブルだ」

 JOKERの声は、どこまでも楽しそうだった。

「先日、ギルドの嬢ちゃんに言われてな。S級に潜るには、許可証がいるらしい。で、取ってきた。だから、行く」

 

 彼の、そのあまりにもシンプルで、そしてどこまでも行動的な宣言。

 それに、コメント欄が、爆発した。

 彼は、その熱狂をBGMに、その日の戦場となるダンジョンのデータを、モニターに表示させた。

 S級ダンジョン【ゴブリンの要塞(ようさい)、ガンドール】。

 

「まあ、小手調べには、ちょうどいいだろ」

 彼は、そう言うと、その場にポータルを開いた。

 そして、彼はそのS級の理不尽さが渦巻く、深紅の渦の中へと、ただ一人、その身を投じていった。

 

 ◇

 

 彼がゲートをくぐった、その瞬間。

 彼の魂に、冷たい、しかしどこまでも馴染み深い枷がはめられたかのような、不快な感覚。

 ARウィンドウに、無慈悲なテキストがポップアップする。

 

【世界の呪いを受けました】

【効果: 全ての属性耐性 -60% (永続)】

 

『うわ、いきなり呪いか!』

『-60%!?キツすぎる!』

 

 コメント欄が、心配の声を上げる。

 だが、JOKERは動じない。

 彼の耐性値は、この日のために、完璧に調整されていた。

 火耐性:75%

 氷耐性:75%

 雷耐性:75%

 キャップだ。

 

「――問題ねえ」

 彼は、そう言って不敵に笑うと、その要塞の、最初の広間へと、その一歩を踏み出した。

 そして、彼は絶望した。

 いや、絶望したのは、彼ではなく、彼の配信を見守っていた、900万人の観客たちだった。

 その広間は、地平線の彼方まで、緑色の、醜い悪魔たちの軍勢で、完全に埋め尽くされていたのだ。

 一体一体が、A級探索者に匹敵する力を持つという、ハイゴブリン。

 その数が、1000体は、下らない。

 それは、もはやただの軍勢ではない。

 緑色の、津波だった。

 

「グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

 一千の、憎悪の咆哮。

 それが、一つの巨大な音の塊となって、JOKERただ一人へと、襲いかかる。

 コメント欄は「無理だ!」「逃げろ!」という悲鳴で埋め尽くされた。

 だが、その絶望の、まさにその中心で。

 JOKERは、ただ静かに、その黄金の拳を構えた。

 そして、彼は叫んだ。

 その声は、この地獄の、全ての空気を震わせた。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 

 黄金の雷霆が、嵐のように、吹き荒れる。

 スマイトのラッシュで、敵が溶けていく。

 レジェンダリージェム【天罰(てんばつ)連鎖(れんさ)】と【破壊(はかい)奔流(ほんりゅう)】の効果によって増幅された雷霆は、もはやただのスキルではない。それは、ゴブリンの軍勢を、その一体一体を確実に捉え、連鎖し、そして塵へと変えていく、神の御業だった。

 1000体の軍勢が、たった数分で、一人の男によって蹂躙されていく。

 その、あまりにも壮絶な光景。

 それに、コメント欄は、もはや意味をなさない絶叫の洪水で、埋め尽くされていた。

 

『なんだ、これ…』

『なんだよ、これ…』

『S級の、エリートモンスターだぞ…?なんで、紙切れみてえに溶けていくんだよ…』

『火力、おかしいだろ!』

 

 その熱狂の中心で、JOKERは、ただ楽しそうに、その拳を振りい続ける。

 そして、彼はついに、その場所へとたどり着いた。

 要塞の最深部。

 ひときわ巨大な、骸骨でできた玉座の間。

 その中央に、それはいた。

【ハイゴブリンキング】。

 その巨体は、ミノタウロスをもしのぎ、その両の眼は、地獄の業火のように赤く燃え盛っていた。

 そして、その両手に握られているのは、伝説級の巨大な戦斧。

 その、あまりにも圧倒的な、プレッシャー。

 

「――来るぞ!」

 

 戦いの火蓋は、切って落とされた。

 ハイゴブリンキングの初手は、シンプルだった。

 ただ、その巨体を揺らしながら一直線に突進してくるだけ。

 だが、その突進は大地を割り、空間そのものを歪ませるほどの、純粋な質量の暴力。

 その、あまりにも暴力的なまでの攻撃の嵐。

 だが、JOKERの表情は、一切変わらなかった。

 彼の脳裏に浮かんでいたのは、あの深淵の騎士、アルトリウスの記憶だった。

(…遅い。あまりにも、遅すぎる)

 

 ハイゴブリンキングが、大地を揺るがすほどの勢いで戦斧を振り下ろす。

 だが、その大振りな攻撃は、JOKERの目には、まるで止まって見えるかのようだった。

 彼は、アルトリウスとの数百回に及ぶ死闘で研ぎ澄まされた回避スキルで、その全ての攻撃を、まるで舞いを舞うかのように、華麗に避け続ける。

 

 そして、王が最大の大技を放った、その最大の隙に。

 JOKERは、ただ一発、その渾身のスマイトを叩き込み、完全勝利を収める。

 王の巨体は、まるでボールのように、後方へと吹き飛ばされ、玉座の壁に激突し、そして断末魔の悲鳴を上げる間もなく、その存在ごと、この世界から完全に消滅した。

 

 静寂。

 後に残されたのは、絶対的な静寂と、そしてその中心で、おびただしい数の魔石の山を、退屈そうに眺める、一人の男の姿だけだった。

 JOKERは、一滴の汗すら流さず、その場に佇んでいた。

 そのあまりにも圧倒的な勝利に、コメント欄は「完全勝利!」「JOKER最強!」という、賞賛と祝福の嵐で埋め尽くされる。

 

 JOKERは、その声援に、満足げに頷くと、そのS級の魔石の山を一瞥し、そして一言だけ、呟いた。

「…なるほどな。ここが、新しいテーブルか」

 彼の、S級という新たなステージでの戦いが、今、幕を開けた。

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