ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

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第459話

 その日の世界の空気は、一つの巨大な「問い」を巡って、静かな、しかしどこまでも深い熱気に包まれていた。

 ネファレム・リフト、伝説の宝石、そしてJOKERという規格外の存在。世界の探索者たちが、日進月歩で変化し続けるダンジョンの理に一喜一憂していた、まさにその裏側で。水面下では、国家という最も巨大なプレイヤーが、世界の常識そのものを根底から覆す、一枚の切り札を、静かに、そして虎視眈眈と準備していたことを、まだ誰も知らなかった。

 

 その歴史の転換点は、アメリカ合衆国から発信された。

 世界の、全ての探索者のARコンタクトレンズに、一つの、あまりにも唐突な、そしてどこまでも荘厳な通知が、ポップアップした。

 それは、ヴァルキリー・キャピタルの、黄金の鷲の紋章。

 そして、その下に記された、シンプルで、しかし世界の全てを揺るがすに足る、一文だった。

 

『――本日21時(日本時間)より、当社の専属契約探索者、ソフィア・リードの、公式デビュー配信を行います』

 

 静寂。

 数秒間の、絶対的な沈黙。

 そして、爆発。

 SeekerNetの、全てのサーバーが、その一瞬、悲鳴を上げた。

 

【SeekerNet 掲示板 - ライブ配信総合スレ Part. 1165】

 

 1: 名無しの市場ウォッチャー

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 祭りだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ガチの、神々の戦争が、始まるぞ!!!!!!!!!!!!!!!

 

 2: 名無しのゲーマー

 

 1

 乙!

 うおおおおお!マジかよ!

 ヴァルキリーの秘蔵っ子!ついに、ベールを脱ぐのか!

 

 3: 名無しのビルド考察家

 

 2

【決戦の渇き】と【持たざる者】。あの二つの神話級アーティファクトを、独占した怪物。

 一体、どんな戦いを見せるんだ…。

 今夜は、眠れんぞ…。

 

 その、あまりにも巨大な期待。

 それに、答えるかのように。

 その日の夜21時、きっかり。

 一つの、新たな伝説が、その産声を上げた。

 

 ◇

 

【配信タイトル:【初配信】ソフィア・リードです。はじめまして】

【配信者:ソフィア・リード@Valkyrie Capital】

【現在の視聴者数:11,241,589人】

 

 配信が始まった瞬間、そこに映し出されていたのは、JOKERの無骨な自室でも、るりの質素なアパートでもない。

 一つの、あまりにも完璧な空間だった。

 壁も、床も、天井も、全てが磨き上げられた純白の大理石で作られた、広大なドーム状の部屋。窓の外には、地球の青い輝きと、無数の星々が瞬く、宇宙空間が広がっている。

 ヴァルキリー・キャピタルが所有する、衛星軌道上のプライベートステーション。

 その、玉座の間。

 そして、その中央に、一人の少女が、静かに立っていた。

 ソフィア・リード。19歳。

 プラチナブロンドの美しい髪を、夜会巻きのように優雅に結い上げ、その身を包んでいるのは、戦闘服ではない。純白の、シルクのイブニングドレス。

 彼女は、その1000万を超える観客の視線を、まるで当然のように受け止め、その完璧な発音の日本語で、その最初の言葉を、紡ぎ出した。

 

「――はじめまして。わたくしが、ソフィア・リードですわ」

 

 その、あまりにも落ち着き払った、そしてどこまでも気高い、挨拶。

 それに、コメント欄が、畏敬の念に満ちた言葉で、埋め尽くされた。

 

『本物のお嬢様だ…』

『格が、違う…』

 

 ソフィアは、その反応を、楽しむように眺めていた。

 そして彼女は、その日の、最初の「爆弾」を、投下した。

「本日は、わたくしのデビューに際し、皆様に、わたくしの全てを、お見せしようと思いますの」

「まずは、わたくしの魂の形。ユニークスキルから、ですわね」

 

 彼女が、そう静かに宣言すると、彼女の背後の空間に、一つの荘厳なテキストが、ホログラムとして浮かび上がった。

 

 名前:

 無心(むしん)境地(きょうち) (State of No-Mind)

 

 レアリティ: S級ユニークスキル

 

 効果テキスト:

 このスキルを持つ者は、その魂が常に最適化された状態にある。

 これにより、術者の筋力、俊敏、知性の値は、装備やパッシブスキルなど全ての計算を終えた後、その最終的な合計値が常に2倍されたものとして扱われる。

 

 フレーバーテキスト:

 

 師は問うた。「人の限界とは、どこにある?」

 弟子は答えた。「私が、立つ場所に」

 

 静寂。

 数秒間の、絶対的な沈黙。

 そして、爆発。

 

『は!?』

『S級!?S級の、ユニークスキルだと!?』

『能力値が、常に2倍!?なんだよ、それ!チートだろ!』

 

 その、あまりにも当然な、そしてどこまでも熱狂的な反応。

 その中心で、一人の、天才的なビルド研究家が、その真実に、たどり着いていた。

 

『…待て。これって…?ああ、能力値スタッキングビルド専用といえるユニークスキルだ。JOKERや、湊君がやってる、あのDEXスタッキング。あれを、神の領域へと引き上げるためだけの、究極のスキル…!』

 

 その、あまりにも的確な分析。

 それに、ソフィアは、満足げに頷いた。

「ええ、その通りですわ。そして、その力を、今からお見せいたします」

 

 彼女が、そう言った、その瞬間。

 彼女の背後の空間が、ぐにゃりと歪み、デルヴ鉱山の、あの無骨な入り口が、その姿を現した。

「デルヴ鉱山を、無双しますわ」

 その宣言と共に、彼女は躊躇なく、その闇の中へと、その一歩を踏み出した。

 

 ◇

 

 そこから始まったのは、もはや戦闘ではなかった。

 ただ、一方的な、そしてどこまでも美しい「蹂躙」だった。

 彼女は、そのイブニングドレスのまま、その闇の回廊を、舞うように進んでいく。

 闇の中から現れる、おびただしい数のモンスターたち。

 だが、その全てが、彼女の、その華奢な、しかし神の力を宿した拳の前に、塵芥と化していく。

 スキル、【スマイト】。

 だが、その光景は、JOKERのそれとは、全く違っていた。

 彼のスマイトが、荒々しいジャズの即興演奏だったとすれば。

 彼女のスマイトは、完璧に計算され尽くした、クラシックの協奏曲だった。

 拳、蹴り、そして掌底。

 その全てが、黄金の雷霆を纏い、そして完璧な円を描きながら、周囲のモンスターたちを、薙ぎ払っていく。

 その、あまりにも圧倒的な光景。

 そして、彼女は、その死の舞踏の、その合間に。

 まるで、紅茶でも嗜むかのように、優雅に、そしてどこまでも冷静に、その戦況を、解説していく。

「…このエリアのモンスターの密度は、1平方メートルあたり3.2体。スマイトの最大効率範囲を考慮すれば、最適な攻撃ポイントは、あそこですわね」

 

 その、あまりにも人間離れした、そしてどこまでも美しい蹂躙劇。

 それに、1000万人の観客は、もはや言葉を失っていた。

 ただ、そのあまりにも巨大な「理不尽」の前に、ひれ伏すしかなかった。

 そして、その神々の舞踏の、まさにそのクライマックス。

 三つの、あまりにも見慣れた、そしてどこまでも神々しい名前が、彼女のコメント欄に、同時に、その光を灯したのだ。

 

 JOKER:

 ようこそ、『持たざる者同好会』へ

 

 アリス@オーディン:

 わー!仲間ですわ!よろしくお願いします!

 

 小鈴@青龍:

 …歓迎、します

 

 その、あまりにも唐突な、三人の「先輩」からの、歓迎の言葉。

 それに、ソフィアは、その蹂躙の手を、一瞬だけ止めた。

 そして、彼女の、その完璧だったはずの表情が、初めて、わずかに、人間的な、温かい色を帯びた。

 彼女の口元に、小さな、しかしどこまでも美しい笑みが浮かんだ。

 

「ええ、ありがとうございます、先輩方。光栄ですわ」

 彼女は、そう言うと、その場の全てのモンスターを、最後の一撃で浄化した。

 そして、彼女は続けた。

 その声には、新たな物語の始まりを告げる、女王の響きがあった。

「ぜひ、今度の会合には、わたくしもお呼びくださいませ」

 

 その日、世界の探索者たちは、本当の「神」の誕生を、その目に焼き付けることになった。

 そして、その神が、一人ではない。

 四人いるという、あまりにも絶望的で、そしてどこまでも面白い、その真実を。

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