ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物 作:パラレル・ゲーマー
その日の世界の空気は、二人の少女が成し遂げた「神殺し」の余韻に、まだ浸っていた。
アリスと小鈴。彼女たちが、JOKERに続く第二、第三のアルトリウス討伐者となったことで、世界のトップランカーたちの間には、新たな希望と、そして熾烈な競争の炎が再び燃え上がっていた。
誰もが、次なる戦いに向けて、自らのビルドを、その魂を、磨き上げていた。
その、あまりにもストイックな、そしてどこか予測可能だったはずの日常。
それを、破壊する、新たな「理」の顕現。
その最初の兆候は、いつも通り、何の前触れもなく、そして世界のあらゆる場所に、同時に、その産声を上げた。
◇
【SeekerNet 掲示板 - 総合雑談スレ Part. 1725】
1: 名無しのA級戦士
…おい。
…おい、お前ら。
ちょっと待て。
俺、今、いつものようにA級の【ミノタウロスの洞窟】の前で準備してたんだが。
なんか、オベリスクの横に、見たこともねえモンが生えてる。
[画像:黒曜石のオベリスクの隣に、静かに鎮座する、黄金と黒曜石でできた禍々しくも美しい祭壇の写真。祭壇の中央には、空間そのものが歪んでいるかのような、球形の亀裂が、ゆっくりと回転している]
なんだよ、これ…。
2: 名無しのゲーマー
>>1
は!?なんだそりゃ!?
3: 名無しのA級魔術師
>>1
いや、待て!釣りじゃねえぞ!
俺は今、アジールにいるんだが、こっちにも同じものが出現してる!
広場の、ど真ん中にな!
4: 名無しの週末冒険者
>>3
本当だ!楽園諸島のサンクチュアリ・ポートにもあるぞ!
なんだよ、これ…!また、神様の気まぐれなアップデートかよ!
その、あまりにも唐突な、そしてどこまでも不可解な、書き込みの数々。
それに、スレッドの空気が、一瞬にして、トップスピードへと加速した。
世界の、全てのA級ダンジョンの入り口、そして探索者たちの拠点となる場所に、全く同じ、謎の祭壇…マップデバイスが出現したのだ。
その、混沌の中心で。
もう一つの、そしてより重要な「事件」が、報告された。
155: 名無しのB級タンク
…おい、お前ら。
祭壇のことも驚いたが、こっちもヤバい。
俺、今、A級ダンジョン【キメラ研究所】でキメラしばいてきたんだが。
なんか、変なもん落とした。
石ころだ。
彼は、震える指で、その神々の遺産のスクリーンショットを、スレッドへと投下した。
その、あまりにも美しい、そしてどこまでも謎に満ちた石ころ。
それに、スレッドの全ての住人が、息を呑んだ。
名前:
マップストーン
(Mapstone)
種別:
外見:
掌に収まるほどの、滑らかに磨かれた円形の石。表面には、まるで未知の世界の地図のように、銀色の線が複雑な模様を描いている。
効果テキスト:
この石はクラフトによって生成可能である。
この石をマップデバイスに設置することで、忘れ去られた領域へのポータルを開くことができる。
このマップストーンで開かれる領域のランクは、常に「1」である。
領域の深部に潜む守護者を倒すことで、より高ランクの領域へと繋がる、新たなマップストーンを入手できる可能性がある。
フレーバーテキスト:
これまで君が歩んできた道は、
全て誰かが敷いたレールの上だった。
だが、この石が示すのは、まだ誰も見たことのない、
無数の、そして無限に広がる、夢の世界。
さあ、最初のコンパスを手に、一歩を踏み出せ。
アトラスへの旅の、開始だ。
静寂。
数秒間の、絶対的な沈黙。
そして、その静寂を破ったのは、一人の、天才的な発想力を持つゲーマーの、あまりにも的確な、そしてどこまでも興奮に満ちた、一言だった。
165: 名無しのゲーマー
…待て。
待て待て待て待て。
祭壇と、石ころ。
「マップデバイスに設置することで、ポータルを開くことができる」
…おい、お前ら。
マップデバイスに入れて使うって事か?
その一言が、引き金となった。
スレッドは、爆発した。
『なんだこれ!?』
『アトラスへの旅!?新しいダンジョンか!?』
『フレーバーテキスト、かっこよすぎだろ!』
その、熱狂の、まさにその中心で。
一人の、あまりにも勇敢な、あるいは、ただの好奇心旺盛な馬鹿が、その声を上げた。
255: 名無しのA級戦士
…面白い。
面白えじゃねえか。
じゃあ、やってみるか。
俺が、人柱になってやるよ。
この、アトラスってやつが、一体何なのか。
この目で、確かめてきてやる。
見てろよ、お前ら!
その、あまりにもヒーロー的な、そしてどこまでもワクワクさせる提案。
それに、スレッドは、熱狂した。
『うおおおおお!マジかよ!』『行ってこい!』『生きて帰ってこいよ!』
その声援に送られ、彼は、その未知なる冒険へと、その最初の一歩を、踏み出した。
◇
数十分後。
スレッドは、固唾を飲んで、勇者の帰還を待っていた。
そして、その沈黙を破るかのように。
あのA級戦士が、帰ってきた。
その書き込みは、もはやただの報告ではなかった。
一つの、新たな世界の扉が開かれたことを告げる、神の啓示だった。
311: 名無しのA級戦士
――ただいま。
そして、お前ら。
これは、ヤバい。
マジで、ヤバい。
312: 名無しのゲーマー
>>311
おかえり!
どうだったんだよ!
315: 名無しのA級戦士
312
…異世界だ。
あそこは、俺たちの知ってるダンジョンじゃねえ。
俺が入ったのは、「ランク1:汚染された運河」って場所だった。
中は、入り組んだ水路と、崩れかけたレンガ造りの建物が、どこまでも続いてる。雰囲気は、最高だ。
そして、敵だ。
敵は、A級ぐらいって所だな。
一体一体が、これまでのA級下位ダンジョンの雑魚より、明らかに強い。数も、多い。
だがな。
まあ、倒せない敵じゃないぜ。
俺のパーティでも、なんとか進むことはできた。
その、あまりにも生々しい、そしてどこまでも具体的なレポート。
それを皮切りに、どんどんお試ししてみる冒険者が、マップを周回し始める。
スレッドは、世界中から集まってくる、リアルタイムの攻略情報で、溢れかえった。
『俺が入ったのは「ランク1:禁断の森」!植物系のモンスターが、ヤバい!』
『こっちは「ランク1:火山島」!熱すぎる!火耐性ないと、即死だぞ!』
その、混沌とした情報交換の、まさにその中心で。
あの、最初の発見者であるA級戦士が、最後の、そして最も重要な「爆弾」を、投下した。
401: 名無しのA級戦士
…そして、最深部には、ボスがいた。
「汚染の化身」とかいう、ヘドロの塊みてえな化け物だった。
そいつを、倒したらな…。
見てくれよ、これ。
[画像:インベントリ画面のスクリーンショット。そこには、禍々しいオーラを放つ、一枚のマップストーンが映っている。だが、その名前は、こう記されていた。【ランク2:埋没した都市】]
マップ中に、ランク2のマップが落ちた。
…おいおい、マジかよ。
どんどんランクを上げて行けって事か?
その、あまりにもシンプルで、そしてどこまでも、ハクスラ中毒者たちの魂を揺さぶる、結論。
それに、スレッドは、本当の意味での「爆発」を起こした。
もはや、それは賞賛ではない。
一つの、新たな、そして最も中毒性の高い、無限のやり込みコンテンツの誕生への、畏敬の念だった。
世界の、全ての探索者が、その日、一つの共通の夢を見た。
自らの手で、未知の世界の地図を広げ、そしてその最深部へと、その足跡を刻み込む夢を。
新たな、そして最も熾烈な、冒険の時代の幕開けだった。