ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

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第467話

 東京、霞が関。文部科学省、第一記者会見室。

 その空気は、異様なほどの熱気と、そして張り詰めた緊張感に支配されていた。

 集まった、数百人の報道陣。彼らの視線は、ただ一点。演台の上に立つ、一人の男へと注がれていた。

 現職の文部科学大臣、その人である。

 普段は、教育改革や、文化振興といった、どこか穏やかなテーマについて語るはずの彼が、今日この場に、国際公式ギルドの腕章を付けた職員を伴って現れた。

 その事実だけで、これから語られる内容が、ただ事ではないことを、物語っていた。

 無数のカメラのフラッシュが、嵐のように焚かれる。

 大臣は、その光の奔流を、その老いた、しかし揺るぎない瞳で、静かに受け止めていた。

 そして、彼はその重い口を、ゆっくりと開いた。

 

「――皆様、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」

 彼の、その静かな声が、マイクを通じて、日本中、いや、世界中へと届けられる。

「本日、ここに、我が国の、そして世界の、未来の教育に関わる、一つの重大な決定を発表させていただきます」

 彼は、そこで一度言葉を切ると、その背後に設置された巨大なモニターに、視線を向けた。

 そこに映し出されたのは、一枚の、あまりにも見慣れた、しかしどこまでも非現実的な、ダンジョンゲートの写真だった。

「ダンジョンが出現してから、10年以上が経過しました。かつて、未知の脅威であったそれは、今や我々の社会を支える、必要不可欠なインフラの一部となっています。魔石(ませき)エネルギーは、我々の生活を豊かにし、探索者という職業は、若者たちに新たな夢と、希望を与えてくれました」

「しかし」

 彼の声のトーンが、変わった。

「その一方で、我々は見過ごすことのできない、一つの課題にも直面しています。それは、若者たちの、ダンジョンへの、無秩序で、そして危険な関心です」

「ならば、我々大人が、教育者が、為すべきことは何か。それは、禁止することでも、目を背けることでもない。彼らに、正しい知識と、安全な環境を与え、その情熱を、より良い未来へと導くことではないでしょうか」

 彼は、再び、その視線を、カメラの向こうの、世界の全てへと向けた。

 そして彼は、その歴史的な、そしてどこまでも未来志向な、宣言を、告げた。

 

「本日、文部科学省は、国際公式ギルドとの全面的な連携の下、来月より、試験的に、全国の高等学校における**『ダンジョン探索部』**の設立を、正式な部活動として認可することを、ここに決定いたしました」

 

 静寂。

 数秒間の、絶対的な沈黙。

 会見場にいた、百戦錬磨の記者たちですら、その言葉の意味を、一瞬、理解することができなかった。

 そして、その静寂を破ったのは、絶叫だった。

 

『なんだと!?』

『来月から!?早すぎる!』

『正気か!?』

 

 その、あまりにも巨大な、そしてどこまでも常識外れの「決定」。

 その熱狂が冷めやらぬうちに、大臣は質疑応答へと移った。一人の記者が、勢いよく手を挙げる。

「大臣!部活動となれば、当然、装備や初期費用が必要となります!その点について、経済的な格差が生まれるのでは?」

 その、あまりにも的確な問い。それに、大臣は、待っていましたとばかりに、頷いた。

「ご質問、ありがとうございます。その点についても、雷帝ファンド側と協議済みです。部活動に参加する生徒には、**保護者の同意書を提出することを条件に、雷帝ファンドから支給される100万円の初期資金の利用が認められます。**これにより、経済的な格差なく、全ての生徒が安全なスタートラインに立てるよう配慮しております」

 

 その、あまりにも周到な、そしてどこまでも本気の「答え」。

 それが、この決定が、ただの思いつきではない、国家レベルの巨大なプロジェクトであることを、何よりも雄弁に物語っていた。

 世界の、新たな時代の始まりを告げる、号砲となった。

 

 ◇

 

 そのニュースは、瞬く間にSeekerNetの全ての掲示板へと、燎原の火のように燃え広がった。

 

【SeekerNet 掲示板 - 総合雑談スレ Part. 1730】

 

 1: 名無しの実況民A

 おい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 祭りだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 歴史が、動いたぞ!!!!!!!!!!!!!!!

 俺たちの、日常が、変わるぞ!!!!!!!!!!!!!!!

 

 2: 名無しの高校生

 来月から!?マジかよ!マジかよ!マジかよ!

 俺の、あのクソ田舎の高校にも、ダンジョン部、できるのか!?

 明日、速攻で、設立届、出してくる!!!!!!!!!!!!!

 

 3: 名無しのゲーマー

 

 2

 落ち着けwww

 それより、親の説得が先だろwww

「保護者の同意書」っていう、最大の壁がwww

 

 4: 名無しの保護者

 

 3

 そうよ!そうなのよ!

 うちの子、さっきから「部活入る!100万円もらう!」って大騒ぎしてるけど、そんな簡単にハンコ押せるわけないでしょ!

 でも、ギルド公認の指導員がつくのよねぇ…。装備も安全なものなんでしょ…?うーん…!

 

 5: 名無しの週末冒険者

 

 4

 お母さん、これはチャンスですよ!

 俺たちみたいな、週末冒険者が、どうやってダンジョンの知識を得てると思ってるんですか?全部、SeekerNetの、真偽不明の情報と、あとは自分の体で覚えるしかないんですよ!

 それを、学校で、安全に、体系的に学べるなんて、最高の環境じゃないですか!

 俺が、高校生の頃に、こんな部活があったらなぁ…!

 

 6: ハクスラ廃人

 チッ。

 学生が、お遊びでダンジョンか。

 まあ、F級なら、安全だろうがな。

 雷帝ファンドの件も、悪くない。これで、市場に初心者が増えるのは、良いことだ。低級素材の値段も、安定するだろうしな。

 だが、勘違いするなよ、ひよっこども。

 ダンジョンは、部活じゃねえ。

 戦争だ。

 

 その、あまりにも人間的な、そしてどこまでも多様な、反応の数々。

 期待、不安、歓迎、そして、ほんの少しの、嫉妬。

 その全てが、この「決定」が、いかに巨大で、そしていかに、人々の日常に根差したものであったかを、物語っていた。

 

 ◇

 

 東京都立、神代高等学校。

 その、どこにでもあるありふれた高校の、その一室。

 放課後の、夕暮れの光が差し込む、誰もいない教室で。

 一人の少年が、そのホログラムのニュース映像を、食い入るように見つめていた。

 彼の名は、佐々木健太。高校二年生。

 彼の、その平凡な日常は、今日、終わりを告げた。

 

「…すげえ…」

 

 彼の、その震える声。

 彼の脳裏には、一つの、あまりにも眩しい光景が、浮かび上がっていた。

 JOKER、アリス、小鈴、そしてソフィア。

 神々の領域で、世界の理と戦う、あの英雄たちの姿。

(…俺も)

(俺も、あんな風に、なれるかもしれないのか…?)

 彼の、その胸の奥で、これまで燻り続けていた、小さな、しかし決して消えることのなかった炎が、ごう、と音を立てて燃え上がった。

 彼は、その場から駆け出した。

 向かう先は、職員室ではない。

 まず、家に帰らなければ。

 そして、人生で最も困難な、しかし最も重要な「交渉」を、クリアしなければならない。

 彼の、その手の中には、まだ何も書かれていない、まっさらな、設立届と、そして保護者同意書の、データが、確かに握りしめられていた。

 

 ◇

 

 日米合同冒険者高等学校、学生寮。

 その、あまりにも豪華な、そしてどこまでも未来的なラウンジで。

 神崎美咲と、桜潮静もまた、その歴史的なニュースを、その目に焼き付けていた。

 

「…すごいね、静ちゃん」

 美咲の、その声には、純粋な驚きと、そしてほんの少しの、戸惑いが滲んでいた。

「うん。すごい」

 静もまた、その大きな瞳を、わずかに見開きながら、静かに頷いた。

「私たちが、命懸けでやってることが、普通の学校の、部活動になるなんて…。なんだか、不思議な感じ」

「…うん。でも、良いこと、だと、思う」

 静は、そう言って、その視線を、ニュース映像の中で、嬉しそうにインタビューに答えている、同年代の少年少女たちへと向けた。

「これからは、もっとたくさんの人が、ダンジョンの、本当の面白さを、知ることができる。それは、きっと、良いこと」

 

 その、あまりにも優等生な、そしてどこまでも彼女らしい、結論。

 それに、美咲もまた、最高の笑顔で、頷いた。

「うん!そうだね!私達も、負けてられないね!」

 彼女たちの、その瞳には、未来への、確かな光が宿っていた。

 自分たちが、この新たな時代の、「目標」となり、「道標」となるのだという、静かな、しかしどこまでも力強い、覚悟の光が。

 

 ◇

 

 そして、その頃。

 西新宿のタワーマンション、その最上階。

 JOKERは、そのARウィンドウに映し出された、文部科学大臣の、そのあまりにも真面目腐った会見の映像を、ただ退屈そうに、眺めていた。

 彼の、その足元では、九尾の狐が、退屈そうに欠伸をしている。

 

「…はっ」

 

 彼は、その鼻で、笑った。

 そして、その配信画面の向こうの、1600万人の観客たちに、聞こえるように、呟いた。

 その声は、どこまでも、彼らしかった。

 

「――部活動ごっこ、か。面白い。せいぜい、ゴブリンに泣かされないようにな」

 

 その、あまりにも不遜な、そしてどこまでも世界の中心にいる男の一言。

 それが、この新たな時代の、本当の幕開けを告げる、ファンファーレとなったのかもしれない。

 世界の、全ての若者たちが、その手の中に、ダンジョンへの「挑戦権」という名の、新たなカードを手に入れたのだ。

 その、あまりにも壮大で、そしてどこまでも滑稽な、新時代の、幕開けだった。

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