ギャンブル中毒者が挑む現代ダンジョン配信物   作:パラレル・ゲーマー

89 / 490
第88話

 静寂が戻った、塔の広間。

 神崎隼人は、荒い息を整えながら、目の前の光景を見つめていた。

 床には、先ほどのローグ・エグザイルが残した、おびただしい数のドロップアイテムがキラキラと輝いている。

 そのほとんどは、換金価値のほとんどないガラクタばかり。

 だが、そのガラクタの山の中に、ひときわ強く、そして神々しい二つの橙色の光が、確かに存在していた。

 ユニークが、二つ。

 それも、一体の敵から同時に。

 ローグ・エグザイルのドロップが美味いという噂は、本当だったらしい。

 

「…はっ。大盤振る舞いじゃ、ねえか」

 

 彼の口元に、満足げな笑みが浮かぶ。

 ギャンブルに勝利し、最高の配当を手にするこの瞬間。

 それこそが、彼がこの世界で生きていると実感できる、唯一の時だった。

 彼は、期待に胸を膨らませながら、その二つの光の元へとゆっくりと歩み寄っていく。

 コメント欄の数万人の視聴者たちもまた、固唾を飲んでその瞬間を見守っていた。

 

 彼がまず手に取ったのは、深紅のローブだった。

 それは、まるで燃え盛る炎そのものを織り上げて作られたかのような、美しい胴防具。

 その表面からは陽炎のように熱気が立ち上り、触れることすら躊躇われるほどの、圧倒的な熱量を放っていた。

 ARシステムが、その詳細な性能を表示する。

 

 ====================================

 名前: 炎の衣(ほのおのころも)

 

 種別: ユニーク・胴防具

 

【ユニーク特性】

 

 火耐性 +75%

 

 敵への発火効果時間 +75%

 

 近接攻撃者に100の火ダメージを反射する

 

 受ける物理ダメージの40%を火ダメージとして受ける

 

【フレーバーテキスト】

 

 賢者は炎を恐れぬ。第二の皮膚として、その身に纏うのみ。

「…ほう」

 隼人は、そのあまりにも特徴的な性能に、感嘆の声を漏らした。

 火耐性+75%。

 これ一つで、火の属性耐性が上限に達する。

 そして、最後の一文。

『受ける物理ダメージの40%を火ダメージとして受ける』。

 つまり、物理攻撃を受けた時、そのダメージの4割が火属性へと変換される。

 そして、その変換された火ダメージは、この胴具の圧倒的な火耐性によって大幅に軽減される。

 なるほどな、と彼は思った。

 これは、物理ダメージを擬似的に軽減するための、特殊な防御装備か。

 面白い、設計思想だ。

 

 次に、彼はもう一つの光の元へと手を伸ばした。

 そこにあったのは、白く輝く美しい矢筒だった。

 それは、まるで冬の女王の吐息が凍ってできたかのような、冷たく、そして気品のあるオーラを放っている。

 

 ====================================

 名前: 女王の氷牙(じょおうのひょうが)

 

 種別: ユニーク・弓筒

 

【ユニーク特性】

 

 アタックが敵にヒットするごとに、ライフを(6-8)得る

 

 筋力 +25

 

 敏捷性 +45

 

 知性 +25

 

 アタックに10-20の冷気ダメージを追加する

 

 攻撃スピードが10%増加する

 

 効果範囲が10%増加する

 

【フレーバーテキスト】

 

 冬の女王が放つ矢は、ただ肉を穿つのではない。生命の温もり、そのものを奪い去るのだ。

「…なるほどな。こっちは、弓ビルド用の装備か」

 隼人は、その性能を一瞥しただけで、その価値を正確に理解した。

 ライフ・オン・ヒットによる、安定した回復能力。

 全ての能力値を底上げする、バランスの良さ。

 そして、追加の冷気ダメージと攻撃速度の上昇。

 どれも、弓ビルドにとっては、喉から手が出るほど欲しい能力ばかりだ。

 先ほど彼が倒したローグ・エグザイルが、生前愛用していた装備なのかもしれない。

 

 その二つの、ユニークアイテム。

 それらを目にしたコメント欄が、再び活気づいた。

 

『おお!ユニーク二つ!大当たりじゃん!』

『どっちもよく見るユニークだけど、普通に強いやつだ!』

『炎の衣と女王の氷牙か。両方合わせりゃ、40万くらいにはなるだろ!』

『JOKERさん、また大儲けだな!おめでとう!』

 

 視聴者たちがその金銭的な価値に沸き立つ中。

 一人の、これまであまり見かけなかったハンドルネームの有識者が、静かに、しかし確かな熱意を込めてコメントを投じた。

 

 炎上愛好家:

 …ほう。炎の衣か。

 素晴らしい。実に、素晴らしいドロップだ。

 JOKER君、君は幸運だな。

 その胴当てが、どれほどの可能性を秘めているか、分かっているかね?

 

 そのあまりにも思わせぶりな物言いに、隼人は興味を惹かれた。

「…どういうことだ?ただの物理受け用の防具じゃ、ねえのか?」

 彼のその問いかけに、炎上愛好家と名乗る男は、待っていましたとばかりに、その狂的なビルド哲学を語り始めた。

 

 炎上愛好家:

 物理受け?はっ、違うね。全く違う。

 それは、その装備の一面しか見ていない、素人の発想だ。

 その胴当ての真価は、防御ではない。

「攻撃」だよ。

 それも、この世界のあらゆるビルドの中で最も異質で、最も美しい攻撃方法…「炎上ビルド」を組むための、最高のパーツなのさ。

 

 炎上ビルド?

 なんだ、それは。

 隼人の脳内に、疑問符が浮かぶ。

 その彼の困惑を楽しむかのように、炎上愛好家は続けた。

 

 炎上愛好家:

 JOKER君、君は自分が燃えながら戦うという発想をしたことがあるかね?

 自らの身を聖なる炎で焼き尽くし、その炎そのものを武器として、周囲の全てを浄化する。

 そんな究極の自己犠牲のビルドが、この世界には存在するのだよ。

 

「…自分が燃える?どういう意味だ?」

 隼人は、思わず聞き返した。

 

 炎上愛好家:

 文字通りの意味さ。

 この世界には、一つの禁断のスキルジェムが存在する。

 その名は、【ライチャス・ファイヤー】。

 このスキルを発動した瞬間、術者は自らの最大HPとエナジーシールドの90%を、毎秒火ダメージとして受け続ける、呪われた状態になる。

 まさに、自殺行為。

 だが、その代償として、術者の周囲には、彼の最大HPとESに比例したダメージを与える、聖なる炎のオーラが展開されるのだ。

 そして何よりも重要なのが、このスキルがもたらすもう一つの恩恵。

 燃えている間、術者の「スペルダメージが大幅に上昇する」という、強力なバフが付与される。

 

 そのあまりにも自傷的で、そしてハイリスク・ハイリターンなスキル。

 隼人は、その狂った性能に戦慄していた。

 そして、彼は気づいた。

 そのスキルと、【炎の衣】との悪魔的なシナジーに。

 

「…なるほどな」

 彼の口から、感嘆の声が漏れた。

「ライチャス・ファイヤーの自傷ダメージは、火属性。つまり、この【炎の衣】を装備していれば、そのダメージを75%以上カットできる。そして、他の装備やパッシブで火耐性をさらに15%ほど稼ぎ、合計で90%にすれば…」

 

 炎上愛好家:

 その通り!

 自傷ダメージを完全に無効化し、メリットであるスペルダメージ増加のバフだけを、享受することができる!

 そして、その状態で別の強力な火属性のスペルを連発する!

 これこそが、我々炎上愛好家がたどり着いた、一つの究極の形なのだよ!

 

 そのあまりにも完成された、ビルドの思想。

 隼人は、ただ感心するしかなかった。

 この世界には、まだ俺の知らない無数の狂気が眠っている。

 

「面白いな。掲示板で、調べてみるか」

 隼人は、そう呟いた。

 

 炎上愛好家:

 ああ、ぜひそうしたまえ!

 SeekerNetには、我々炎上愛好家が集うスレッドがある!

 そこでは、日夜、いかにして美しく、そして効率的に自らを燃やすかという、高尚な議論が交わされている!

 君のような才能ある若者が我々の道に興味を持ってくれたこと、心から歓迎するよ!

 

 そのあまりにも熱烈な、勧誘。

 隼人は、苦笑いを浮かべながらも、その新たな世界の扉に確かに心を惹かれていた。

 彼は、手に入れた二つのユニークアイテムをインベントリへと仕舞った。

【炎の衣】は、売らない。

 これは、いつか俺が新たな人生を歩む時のための、重要な選択肢の一つだ。

 彼の心は、すでに次なる探求へと向かっていた。

 物語は、主人公がまた一つ新たなビルドの可能性を見出し、その尽きることのない探求心が、彼をさらなる深淵へと導いていく、その確かな予感を描き出して幕を閉じた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。