Blue Archive: Visitor From Underground 作:暗黒星 堕零
工場跡の下層へと落ちたオレ達の目に映るのは、中心部にて椅子で眠りについている少女の姿。
何故秘匿されていた廃墟の、更に資格を持つ者でなければ入る事の出来ない場所に一人の少女が居るのか。何もかもが分からないが、ただ一つだけ確実に言えるのは、彼女が只者ではない事───
「おっ………と……」
外見から何か分かる事はないかと凝視しようとしたが思わず目を伏せる。
……何も着ていない。髪によって最低限の箇所は隠されているが、見る角度によっては…まぁ、丸見えだ。
"…どうしたの?"
「アンタが社会的な死を迎えたくないのなら、オイラの真似をした方がいいぜ」
"えっ───"
"……確かに、そうした方が良さそうだね。"
少女の方を一瞬見て、察した先生も同様に目を伏せた。少女の調査は才羽姉妹に任せる事にし、いつ何が起こってもいいように予め戦闘体制を取っておく。
彼女達はそれぞれが感じた印象を述べていく。マネキンのようだ、肌はしっとりしているなど…
オレが気になったのはミドリの「電源が入ってない感じがする」という言葉。確かに生身の少女がこれといった負傷は無い状態でこんな所で眠っているなんておかしな話だ。
そしてモモイが読み上げた『AL-IS』の名前。最初はピンとこなかったがミドリが『AL-1S』と訂正した事で、オレの中で一つの説が生まれた。才羽姉妹が見たのは製造番号的な何か、つまりあの少女は人間ではなく、人間に限りなく近く作られたロボットなのでは、と…
…とは言ってもこれはオレ個人の憶測に過ぎない。ミドリが持ってきた予備の服を着せ、
「先生ー!サンズさーん!もう目を開けていいですよー!」
彼女の呼びかけ通り服を着ている事を確認すると改めて少女を見てみる。
「人間に似た…というか人間にしか見えないな」
ぐるりと少女の周りを一周してみては観察してみるが特に変化は見られない。彼女をロボットと仮定し、何処かに起動用のボタンはないのかと探し回っていると…停滞していた事態は一気に急変する。
───ピピッ、ピピッ
「ん?」
「な、何この音!?」
オレ達の会話しか聞こえなかった空間に突如として響き渡る警報音。
「…敵襲の合図か?」
「ううん……『この子』から聞こえた気がする」
モモイが少女を指差す。確かに今の音は彼女が居た方向から聞こえたが…まさか。
「状態の変化、および接触許可対象を感知。休眠状態を解除します」
機械的な声が少女から発せられ、彼女は目を開けると共にゆっくりと立ち上がる。
「………」
「状態把握、難航」
「会話を試みます…説明をお願いできますか」
淡々な口調で少女はこちらに向け話しかける。とは言え突然の出来事に彼女以外の全員が困惑していた。
「あー…アンタは…何者なんだ?名前なんかはあるか?」
一か八か試しに聞いてみる。
「本機の自我、記憶、目的は消失状態である事を確認。データがありません」
『本機』に『データ』…間違いない、オレの予想は当たっていた。誰が作ったのかは分からないが、彼女はロボットだ。
その後もオレ達と少女はぎこちない応答を繰り返す。現在彼女にはこちらに危害を加えるつもりは一切無いらしいが、問題は…
「…なぁ先生、この子はどうするんだ?」
"うーん…このまま置いていく訳にもいかないしね…"
彼女をどうするかだ。先生が言ったように目覚めた以上ここに置いていく訳にもいかないし、だからと言って学校に連れていっても学籍が存在しないのなら当然居られない。
オレのホットドッグ屋のスタッフとして雇うか?と一瞬思ったが、よくよく考えれば未だ未知の部分が多い奴を雇うなんて正気じゃない。この発想は無かったことにしておこう…
「ねぇ皆!私良い事思いついた!」
皆が悩んでいる中モモイが手を挙げる。行動力の塊なモモイらしい画期的な発想が思いついたのだろう。
「流石は長女だな?どんな名案が思い浮かんだんだ?」
「それはねー…」
「この子をミレニアムに連れていく!!」
「…………はっ?」
思わず無い耳を疑う。呆然としているオレの顔を見てモモイは首を傾げる。
「あー…モモイ、気持ちは分かるが色々と問題があるぞ?学籍とか…」
「大丈夫!学生登録なら私がやっておくから!」
この日以上に「大丈夫」という言葉が不安に感じた事は無い。そう思った。
「大丈夫って言われてもなぁ…どうやって存在しない生徒の登録なんて…」
「それはねー…ヴェリタスにハッキングしてもらうの!」
いやコイツはドヤ顔でなんて事を言うんだ??……まぁ、ミレニアムに所属していない以上とやかく言える立場ではないか。オレにとっては非常識でも、彼女達にとっては常識なのかもしれないのだから。
「(…ミドリ、こんな事して本当にいいのか?)」
「(お姉ちゃんは大丈夫って言ってますけど…全然大丈夫じゃないです…)」
駄目じゃねぇか。
「……分かった。じゃあ…そうだ、話し方だ。たとえ学生証があってもこんな機械的な口調じゃ絶対怪しまれるぜ?」
「それに関しても安心して!私達がしっかり『学習』させておくから!」
「安心して」と言われてもこれまでの破茶滅茶な行動や発想を見せられては…正直微塵も安心出来ない。
「…先生はどう思うんだ?」
"私は余程の事じゃない限り、生徒の気持ちを尊重するよ。"
「これが余程の事じゃないってか…でも先生がそう言うならオイラも賛成するよ」
先生の許可を得たモモイはガッツポーズを掲げる。
「やったー!ありがとう先生!じゃあ先生にサンズ!数日後にまた来てね!この子をちゃんとミレニアムの生徒にしてみせるから!」
その後どうにか工場跡から脱出し、廃墟を後にした。モモイは本来の目的だったG.Bibleもついでに手に入れようと試みていたが、あの少女を抱えたままで再びオートマタの群勢に遭遇でもすれば一巻の終わり。今は少女を優先する事にし、G.Bibleはまた今度という話となった。
モモイ達とモモトークを交換し、準備が出来たら連絡するとの約束を交わしそれぞれの帰路に向かうのだった。
*
「よっ、先生」
"うわっ!?…サンズか、ビックリしたよ。"
数日後、モモイから約束通り連絡が届きオレと先生は再びミレニアムを訪れた。先生は以前と同様電車で向かって来たらしいが、オレは『近道』を使いやって来た。
オレのこの能力は
『一度訪れた場所』
『明白なイメージが存在する』
この二つの要素を満たしていればどれだけ離れていても目的地にワープ出来る。我ながら便利な能力だ。
「あっ!先生にサンズ!待ってたよー!」
部室の扉を開けるや否やモモイが飛び出してくる。モモトークの「準備出来たよ!!」「今すぐ来てね!!」等の文面からよっぽど自信があるとは思っていたが実際に来てみるとそのテンションに少し驚く。
「来たよ『アリス』!!」
モモイの呼びかけに反応し部室の奥からオレ達の前に現れたのは、あの時廃墟の工場跡で出会った少女。彼女はオレ達の顔を見ると穏やかな笑みを浮かべ、
「初めまして、アリスはアリスと言います!」
と自己紹介をした。無表情で機械的な口調だったあの頃とは大違いだ。
"こちらこそ初めまして。私はシャーレの先生だよ。"
「オイラはサンズ、スケルトンのサンズさ」
「先生にサンズ…はい、アリスはモモイ達から聞いています。ゲームの中だけの存在だと思っていたスケルトンが本当に居るなんて嬉しいです!」
声に抑揚がある。想像以上に人間らしくなった彼女…いや、アリスには驚くばかり。どうやらゲーム開発部達の学習は成功したみたいだ。
「因みに…だが、アンタらはアリスにどんなものを学ばせたんだ?」
「ゲームだよ!なんたって私達はゲーム開発部だからね!」
彼女はそう言って床や棚に置かれているゲームカセットを見せてくる。RPGやらアクションやら…古いものから最新のものとオレの視界に映るゲームは目まぐるしく変わる。
「でもアリスが特に気に入ってくれたのはー…そう!私達の作ったテイルズ・サガ・クロニクルだよ!」
「えっ」
無数のユーザーからクソゲー呼ばわりされていたTSCがか?と思いアリスの方を向いてみるも彼女は何かを隠す様子も無くニコニコと笑みを浮かべているのみ。……まさか本当なのか?
悪い意味で注目され、アリスの学習に多大な影響を与えたTSC…見えている地雷、だがそれでも…
…俄然興味が湧いてきた。
「…なぁ、モモイ」
「ん?何?」
「オイラもそのTSCを遊んでみる事は出来るか?」
「遊んでみたい」という言葉にミドリは面を食らった表情に、モモイは「もちろん!」と返す。部室の端にあるロッカーから何か音がしたような気もするが…それを話題にする空気ではなかったので放っておく事にした。
「待っててね、今カセットを入れるから!」
「だ、大丈夫かな…」
部室に鎮座するテレビの前に座り、ゲームが開始するのを待つ。少しすると画面にタイトル画面が映し出され、スタートのボタンを押す。
コスモス世紀2354年、人類は劫火の炎に包まれた……
チュートリアルを開始します。
まずはBボタンを押して、目の前の武器を装着してみてください。
指示通りBボタンを押す。押した筈、だったのだが…
ドカ───ン!!
「…はっ?」
予想外の爆発音に一瞬思考が停止する。画面が暗転すると映し出されていたのは『GAME OVER』の文字。
「えっ、オイラ何か変な事でも…」
押すボタンでも間違えたのかと手元を見てみるが、オレの指は間違いなくBボタンの上に置かれている。尚更意味が分からないと思っている中、隣で見ていたモモイが笑い転げる。
「あははははっ!!それアリスも引っかかってたんだよね!!」
「常識に囚われちゃ駄目だよ!ここは指示に逆らってAボタンを押さないと!」
「……そうかそうか、中々個性的な始まり方だな」
…いや、まだここまでは許容範囲内だ。この程度で文句を言ってはこの先に待ち受けているだろう怒涛の展開に耐えられる筈が無い。今度は言われた通りAボタンを押すと武器を装備出来た。モモイの言葉すら嘘ならどうすれば良いのだと思っていたが、流石にそんな事は無かったみたいだ。
チュートリアルが開始し基本的な操作が説明される。基礎はごく普通のRPGと変わらず、最初の町を出ると早速敵と遭遇した。
野生のプニプニが現れた!
見た目はいかにもな序盤に登場する敵。こちらを圧倒するような容姿でなければ、荘厳な名前を付けられている訳でもない。異なる世界の存在とはいえ同じ『モンスター』を倒すのは気が引けるが攻撃のコマンドを押す。
しかし先に行動したのは敵の方。多少のダメージは食らうだろうが問題は───
攻撃が命中、即死しました。
「……!?」
敵の攻撃によりこちらのHPは無慈悲なまでに全て削られ、画面が真っ赤に染まる。再び画面に映し出されるのは『GAME OVER』の文字…
「成る程、成る程…な。段々分かってきたよ…」
何故TSCが酷評されていたのか、その理由が何となく分かったような気がした。
その後も予想外の展開は次から次へと訪れる。町のNPCに話しかけると突然戦闘が始まり、回復アイテムを使えば逆にHPが減り、低確率で遭遇するという恐ろしく強い敵に蹂躙され、オレの頭は…
「つ、次は何処から何が来るんだ?オイラは、オイラは……」
最早パンク寸前だった。
「…ひとまずは、ここで一旦中断しておくぜ」
"…大丈夫?"
最初のボスを倒したところで命の危機を感じたオレは中断の選択を取った。後ろで観戦していた先生が心配そうに声をかける。
ゲーム開始からは30分程度しか経っていないのにも関わらず、オレの体は熾烈な戦いの後のように疲弊しきっていた。
「どうだった!?私達のTSCは!!」
簡単とか難しいとか難易度元々の話ではない、ただひたすらに『理不尽』。この一言に尽きる。
だがその理不尽な要素をどのように乗り越えるのかを考えるのは…正直に言えば、楽しいと思えた。
「オイラあまりゲームとかしない派だからさ、これが面白いかどうかは…いまいちよく分からない。でも…」
「アンタらの面白いゲームを作りたいって想いは伝わってきたよ」
「それって…褒め言葉として解釈していい?」
「まぁ…うん、そうだな」
オレの言葉を聞いたモモイは「分かってるじゃん!」と言わんばかりに満足気に頷き、不安げに眺めていたミドリは自分達が作ったゲームが良い評価をされた事に安堵していた。
そして反応があったのは、先程から気になっていた後ろのロッカーも含まれていた。ガタガタと小刻みに動いたかと思えば、ゆっくりと扉が開かれる。
「よ、良かったぁ…」
中から赤く、長い髪を所々リボンで留めた少女が出てくる。小さい子供なら入れるサイズとは思ってはいたが本当に入っていた事に内心驚く。
「あっ!ユズ居たんだー!一緒にサンズがプレイするところ見れば良かったのに!」
「だ、だって…ネットの評価みたいに酷評されるかと思って…」
『ユズ』と呼ばれた少女はオドオドと、時折こちらを見ながら話す。
「ユズ…そうか、アンタがゲーム開発部の部長か。初めまして、オイラはサンズさ」
「あっ…こっ、こちらこそ、初めまして。私は花岡ユズ、です…」
ぎこちない口調で自己紹介をする。オレの方を一瞬見てはすぐに下を向く様子から…人付き合いはあまり得意ではない子みたいだ。
…小さい頃の、人見知りだったパピルスを思い出した。
「えっと…初めまして、と言いましたが…実はあなたの事は以前から見て、いました…」
「以前からって言うと…もしやオイラが初めてこの部室に訪れた日からか?」
「そ、そうです」
「…マジか」
オレがここに来たのは初めて部室を訪ねた際と今回の計2回。…留守にしているとばかり思っていたがあのロッカーの中でずっと聞いていたって訳か。
「ユズも居るなら準備万端だね!今回私達が先生達を呼んだのはアリスのお披露目だけじゃないの!」
"『G』から始まるアレの事だね?"
「ご名答!」とモモイが頷く。以前の廃墟探索で持ち帰ったのは少女…もといアリス、本命であるG.Bibleは未だ入手出来ていない状態だ。
「廃墟だな?分かった、じゃあ準備が出来たら何処でもいいからオイラに触れてみてくれ」
「…どうして?」
「あそこの位置なら大体は把握している。ならこれも成功する筈さ」
「オイラ、近道知ってるんだ」
──────────────
"サンズ!防御をお願い!"
「あぁ」
テレポートには無事成功し、再び廃墟がオレ達を出迎える。前回と同様に戦闘は出来る限り避ける方針だったが…人数が多い事が災いし、簡単に見つかってしまった。つまり今は絶賛戦闘中だ。
敵の一斉射撃の姿勢を確認し前方に骨を出現させ攻撃を防ぐ。相変わらず手厚い歓迎なこった。
"今だよ!モモイ!ミドリ!ユズ!アリス!"
出した骨の内数本を引っ込め、その隙間からゲーム開発部の面子がお返しと言わんばかりに総攻撃を行う。……しかし気になるのが…
「光よ!!」
アリスの快活な掛け声と共に、その『銃』と呼ぶにはあまりにも巨大なものから光線が放たれ、オートマタを一掃する。大きさは少なくとも彼女よりも一回り大きい。
テレポートをする直前にも彼女の武器のインパクトには驚かされたが、どうやらミレニアムで様々な開発を行っているエンジニア部が作り出したらしい。
「因みにそれ何キロぐらいあるんだ?」
「はい!アリスが聞いたところ、この『光の剣』は約140kgあるみたいです!」
「…冗談か?」
そんなものをアリスが軽々と持ち上げている現状にはただ困惑するしかない。…アンダインなら似たような事は出来るだろうか?
「人数が前よりも多いから多少は楽になったが…」
"やっぱりどんどん現れてくるね…"
何処にそんな潜伏する場所があるのかは全く見当がつかないが、変わらずオートマタ共は倒しても倒しても続々と湧いてくる。
「モモイ!G.Bibleの位置までは!?」
「えーっと…!うん、あともう少しだよ!」
「そうか、なら…」
「これで…どうだ…っ!」
懐にしまっていたケチャップを飲み魔力を補給し、後方に向け渾身の魔力を込める。
敵を巻き込み地面から突き出すのは、無数の骨が密集している事で形成されている骨の山。十数メートル程度の高さはあるだろう。
「これで奴らは追ってこれなくなった」
「だけど奴らもあそこでただ立ち止まっている程馬鹿じゃねぇから…その間にG.Bibleの在処まで行く、それでいいな?」
「う、うん!じゃあ皆、こっちだよ!」
背後から骨の障壁を破壊しようとオートマタ共から放たれる銃声が聞こえるがあの程度じゃ破られる事も無いだろう。モモイの指示のもと、G.Bibleの座標が示す『工場』へと向かうのだった。
*
「はあ、はあ…何とか成功、かな?」
"「つ、疲れた…」"
「先生とサンズはスタミナが不足しています。今すぐスタミナにポイントを割り振るべきです」
「…それが出来たらここまで苦労はしてないさ…」
あれから敵と出くわす事は無く、無事工場の中に入れた。しかし彼女らは先程の戦闘で銃弾を大幅に消費してしまったらしく、陰から敵が現れる事に警戒しながら先を進む。
「…何処か見慣れた景色です。こちらの方に向かわなければなりません」
辺りをキョロキョロと見渡していたアリスがそう呟くと、今までオレ達の後ろをついていく形で歩いていた彼女の歩く速度は途端に加速し、まるで行くべき道が分かるかのように歩き始めた。
「アリスの記憶にはありませんが…まるで『セーブデータ』を持っているみたいです」
「この身体が、反応しています」
彼女は限りなく人間の姿に近いが、ロボットである事はあの工場跡で出会った時に確認している。彼女の奥底に眠る『データ』が彼女を導いているのか?
「ちょ、ちょっとアリス、待ってよ!」
「………」
モモイ達の制止も無視し、アリスはどんどん建物の先へと向かっていく。そして唐突に立ち止まったかと思えば、そこにあったのは一台のコンピューター端末らしきものだった。
「…こんなところに放置されてたものが起動するとは到底───」
[Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください。]
「…別にそんな事はなかったみたいだな」
誰かが操作した形跡が無ければ埃を被っている…そんな機械が動く筈がと思った矢先にそれはピピッ、という音と共に、まるで以前から使われていたかのように起動した。
…アリスといい、[[rb:ここ > 廃墟]]の技術力の高さは一体何なのだろうか。元々研究者をやっていた身としては繁栄していた頃の光景が見てみたいもんだ。
「キーボードを発見…G.Bible、と入力してみます」
アリスが手慣れた動作でキーボードを打つ。だがコンピューターは雑音と共にエラー画面を吐き出した。
慌てるアリスの手元を見るとまだエンターキーは押していない。じゃあ何故エラーを吐いたんだと画面を見つめてみると、そこにはオレ達しか知り得ない事が新たに映し出されていた。
あなたはAL-1Sですか?
…アリスが『アリス』と名付けられる前に見た、彼女の識別番号だ。
才羽姉妹は警戒しアリスに何もしないで、と伝えるも…律儀に音声認識機能が搭載されていたようで機械はアリスをAL-1Sとして認識した。
「アリスの、本当の名前…本当の、私…」
「あなたはAL-1Sについて知っているのですか?」
アリスは機械に対し尋ねるも返ってくる言葉は無く、沈黙だけが延々と続く。
"…壊れちゃった?"
「或いは、長年ここに放置されてたなら電力量がそろそろマズい状態になってんじゃないか…?」
緊急事態発生。電力限界に達しました。
電源が落ちると同時に消失します。
「オイラ喋らない方がいいんじゃないかな…」
「サンズさんって…ロッカーの中でも見ていましたがフラグの回収が得意ですね…」
「ちょっとユズ!?感心してる場合じゃないでしょ!?せめてG.Bibleの事を教えてからにして!」
唐突な電力限界に陥った事による消失宣言。モモイは慌ててG.Bibleは何処なのかを尋ねると機械は自身の中に存在する事を、そして消失寸前である為新たな保存媒体が必要である事を伝える。
「そ、そうは言っても急に保存媒体なんて…あ、『ゲームガールズアドバンスSP』のメモリーカードでも大丈夫?」
……………まあ、可能、ではあります。
…音声は無機質なものだが、不服に思っていると感じたのは気のせいか?とにかく保存が可能であると分かるや否や、ユズはゲーム機と機械をケーブルで接続した。
転送開始…
保存領域が不足。既存データを削除します。
「ま、待って!?それセーブデータも消すって事!?」
「コレにはアンタらの部活の存続がかかってんだろ?まぁそれぐらいは妥協しても…」
「ダメだよ!!あそこまで進めるまで何十時間掛かったのか…」
転送をどうにかして中止しようするモモイを必死に止める。その間に転送が完了した事を知らせる音声が流れ、彼女は慟哭と共にその場で崩れ落ちる。…少し、申し訳ないと感じた。
一方でゲーム機はというと、一旦画面が暗転すると「転送完了」という音声が流れ、『G.Bible.exe』の文字が映し出されていた。
「どうやら成功したみたい、だな?」
「こ、これ今すぐ実行してみよう!本物なのか確認しなきゃ!」
セーブデータが消失した事で意気消沈していたモモイだったが、G.Bibleの転送に成功した事を知ると喜びで飛び上がり笑顔で操作し始めた。
…が、現れたポップアップにはパスワードの入力欄があり一転、画面に対し憤りをぶつける。彼女の喜怒哀楽をこの短時間で観測した瞬間だった。
「……大丈夫。普通のパスワードぐらいなら、ヴェリタスが解除出来るはず…!」
「そ、そうだね、そうすれば…!」
「これがあれば、本当に面白いゲームが…『テイルズ・サガ・クロニクル2』が…!」
見えてきた希望に彼女達は期待を寄せる。キヴォトスに自分達のゲームの名を良い意味で轟かせる、とモモイは宣言する……が、その声量がマズかった。
「……」
…一体のオートマタがこちらを凝視しており、侵入者と判断するとオレ達には理解出来ない言語を発しながら銃撃を開始した。
「チッ…おい皆!またオイラに掴まれ!」
「…!はい、アリス分かります!テレポートですね!」
「あぁそうだ!さっさと退散するぞ!」
大急ぎで先生に才羽姉妹、ユズとアリスがオレに掴まる。
「うぐっ…」
人数が多い上に急いでいる事で姿勢が何とも珍妙になっているがそんな事に気にしている暇は…いややっぱちょっと気になるな。誰だよオレの肋骨をシャツの下から掴んでるのは??
「…よし、全員掴まったな?じゃあな機械人形さんよ!」
*
…無事テレポートは成功。ゲーム開発部の部室に戻ってきたオレ達は帰還と計画の成功を喜んだ。これでG.Bibleによって最高のゲームが作られ、無事部室の廃部は無かったことに…
…とはならず、また新たな騒動が発生するのだった。