Blue Archive: Visitor From Underground   作:暗黒星 堕零

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時には知らなくて良い事もあるのだと、彼は改めて知った。


予期せぬ遭遇

「私は『聖園ミカ』、ティーパーティーのパテル派代表だよ」

 

 別館に姿を現したのは自身を聖園ミカと名乗る少女。パテル派…が何なのかはいまいち分からないが、代表である以上高い立場に居る事には間違いないだろう。

 

「にしてもナギちゃん、随分入れ込んでるみたいだねー。こんな施設まで貸し出しちゃって」

「ところで、合宿の方はどう?遠いのを良い事に、何か楽しそうな事してたりしない?例えば皆で水着パーティーとか!」

 

 口ぶりからしてオレ達の事情は知っているみたいだが、所々で見られる軽はずみな言動が引っかかる。良くも悪くも典型的な世間知らずのお嬢様…そう感じた。

 

"ミカ。"

「…で、アンタの目的は何なんだ?」

 

「ふふっ、ごめんね。先生も、あなたも…」

「……あなたの名前まだ聞いてなかったよね?」

「…サンズ。スケルトンのサンズだ」

 

「…サンズもあんまり長い前置きは好みじゃないかな?」

「じゃあ、本題に入るとしよっか?」

 

 ミカがまず話したのは先生からナギサに持ちかけられた取引の確認。彼がナギサにトリニティの『裏切り者』を探して欲しいと頼まれている事は昨夜の話で把握している。まぁどうせ自分よりも生徒を優先する先生の事だ、断っているだろうと思っていたが…案の定そうだったみたいだ。

 ならミカは「先生は誰の味方なの」と尋ねる。その問いに先生はまるで最初から来るのを見越していたかのように速攻で、かつ曇りなき眼で

 

"生徒の味方だよ"

 

と答える。同時にミカの味方でもある、と。…こんな事をしれっと言えるからこそこの人間は『先生』に相応しいんだろうな。

 

「聞くまでもないと思うけどオイラは…」

"勿論君の味方でもあるよ、サンズ。"

 

 …茶番はさておき、ミカから聞いた話の中で最も衝撃的だったと思った、いや思わざるを得なかったのはここからだ。本当に居るのか、ただナギサという生徒の思い違いなんじゃないか…疑いつつあった裏切り者。

 その正体が一体誰なのか、彼女の口から話されたその名は───

 

「補習授業部に居る『トリニティの裏切り者』、それは…」

 

 

 

「…白洲アズサ」

 

 …あの誰よりも純粋なアズサが、か?にわかには信じ難い話だった。確かに彼女が時折深夜に別館から出ていく怪しげな様子は目撃した事はあったが理由は彼女自身から聞いている。「見張りだ」と。

 

「知ってるかもしれないけどあの子、実はトリニティに最初から居た訳じゃないんだ」

「随分前にトリニティから分かれた、所謂分校…『アリウス分校』出身の生徒なの」

 

 ミカはオレ達にあるマーク…校章が描かれた紙を見せてきた。髑髏と薔薇を組み合わせたようなもの背後に、トリニティの校章にもあった逆三角形の模様。

 そこでアズサの姿を思い出してみるが、彼女がそれらしきマークを付けていた覚えは無い。アビドスでもミレニアムでも、生徒は自分が所属している学園を示す何かを身につけていた筈だが…

 

「…彼女はこの校章が付いたものを何処にも身につけていなかったが…」

「あぁ、それの事ね?あの子が胸に付けてるワッペンがあるでしょ?描かれているのはトリニティの校章だけどあれはダミー、本当はアリウスのだよ」

 

 ミカは話を続ける。何故アリウス分校が作られたのかその経緯を。

 当然オレにとっては初耳だが、元々トリニティは複数の分派が集まって誕生した学園だという。そんな分派の中で唯一連合を作る事に反対したのが…そう、アリウスだ。

 連合となり強大な力を持ったトリニティと派閥の一つでしかないアリウス。その力の差は残酷なまでに大きく、アリウスは徹底的に弾圧された末に追放された。

 

「…そんな事をされたからには、相当恨んでいるんだろうな」

「うん。今でもその憎しみは消えていないよ」

 

 …人間とモンスターの歴史とそっくりだ。小さな綻びから対立が生まれ、争いにまで発展しどちらかが追放される。

 大半のモンスターは人間を憎んでいた。特にアンダインは、人間への憎悪を糧に育ってきたと言っても過言ではないぐらいに。ほぼ同じ境遇のアリウスの生徒達はきっと…トリニティを恨んでいるに決まっている。

 

「そんな学園に所属する生徒がどうしてここに居るんだ?他でもない憎悪の矛先になっている学園に…」

「…私はね、彼女達と和解したかったんだ。だから彼女を入学させた。でもその為には、エデン条約がちょっと障壁になっちゃうんだよね」

 

 エデン条約の詳細を聞いた当初は悪くないんじゃないか…なんて思っていたが現実はそうはいかないらしい。

 

「エデン条約…大きな二つの学園が、これからは仲良くしようねって約束。…何だか、良いお話に聞こえるよね?でも本当のところはどうだろ」

「だってその核心は、ゲヘナとトリニティの武力を合わせたエデン条約機構、通称『ETO』と呼ばれる全く新しい武力集団を作る事なのに」

 

 確かによく考えてみりゃゲヘナとトリニティ、三大校の二校が手を取り合えば元々キヴォトスの中でも上澄みの戦力が更に増す。仮にその力に物を言わせて侵略行為なんて行えば、対抗出来る存在なんて居ないに決まっている。

 

「その大きな力を使って、ナギちゃんは果たして何をしようとしているのかな?」

「会長が不在の連邦生徒会を襲撃して、自分が連邦生徒会長にでもなるとか?」

「それともミレニアムっていう新しい芽を摘んでおくとか?」

「それか、邪魔者を潰す為に使うとか?昔、トリニティがアリウスにしたみたいにね」

 

「或いはもしかしたら、セイアちゃんみたいに…」

 

 聞いた事の無い名前が耳に入る。ミカは「あっ」と小さく呟くと口を手で隠し、苦笑いを浮かべながら再びこちらを向く。

 

「…ううん、ごめんね。今のは失言だったかな」

 

 気にしないで、と言いたげな雰囲気だったが彼女の口から出た名前という事は、重要な立ち位置の人物である事にはほぼ間違いない。

 オレと先生、両者共に気にしない筈が無く、その『セイア』なる人物の身に一体何があったのかについて把握しておくべきだと感じていた。

 

"セイアは、何があったの?"

 

 ミカの瞳を真っ直ぐ見据え、先生は尋ねる。彼女は虚げな表情になり少しの間俯くも、話す覚悟を決めたのか顔を上げた。

 

「ヘイローを、壊されたの」

 

"……っ!?"

「ヘイロー、が…?」

 

 

 

「(…ヘイローが壊れると、どうなるんだ?)」

 

 …しまった、如何にも知っている風な反応をしたがヘイローの破壊によって何が起こるのか、オレには一切分からない。

 ヘイローの存在そのものについては無論知っている。キヴォトスに生きる少女…生徒達の頭の上に浮かんでいるもので、就寝時や意識の無い時には消える。だが逆を言えば知っているのはそれだけ、そもそもアレは壊れるような代物なのか?

 

"…サンズは、ヘイローが壊れる事と何が起きるのか分かる?"

「…すまん、さっぱりだ」

 

 わざわざ聞くにもそんな空気じゃない、と目が泳いでいるオレの様子を見かねたのか、先生が疑問に思っていた事を聞いてくれた。

 正直に知らない事を伝えると、先生から返ってきたのは『衝撃的』と言わざるを得ない答えだった。

 

"…死亡するんだ。"

 

「…死亡、する…?」

 

 この世界に飛ばされてから初めて知る明確な『死』の概念、そしてセイアのヘイローの破壊が示す事の重大さを理解し、タマシイが激しく脈動する。

 

「去年、セイアちゃんは何者かの手によって唐突に襲撃された」

「対外的には『入院中』って事になっているけど…そっちの方が真実」

 

 引き金は驚く程に軽いのに、命の重さは元居た世界と何ら変わりは無い。…つくづく変わった世界だ。

 そんな大切な友人の一人を失い、秘密裏にアリウスとの和解を進めるミカからの頼みは「アズサを守ってほしい」事。たとえそれが許されざる事でも、オレ達にとってアズサは大事な生徒であり友人。守る義務がある。

 

「…じゃあ、今日はこんなところかな。先生とまたこうしてお話しできて、楽しかったよ」

「それに、サンズと話せた事もね。さっきも言ったけど、動く骸骨なんて見た事無かったしさ」

 

「じゃ、またね。先生、サンズ」

 

 

「…アリウス、か」

 

 教室に向かう最中、ふとミカがオレ達に見せたアリウスの校章を思い出す。アレは初めて見た…当初はそう思っていたが時間が経つにつれて妙な既視感があった。

 オレと同じ骸骨だからか?別の何かと勘違いしているだけか?…いいや、どれも違う。似たような模様がプリントされていたものを身につけていた奴が、見知った奴の中に…

 

 

 

「えへへ…いつもありがとうございます…」

 

 

 

 …居た。不定期にオレの店に訪れている、深く帽子を被り常にデカい荷物を背負っていたあの少女。はっきりと見た訳じゃないが、彼女が腰に巻いているベルトに…

 

「…ははっ、まさかな。そんな訳無いか」

 

"…サンズ、どうしたの?"

「あー…いや、何でもない。情報を整理していただけさ」

「ヒフミ達も待っていると思うしな、さっさと行こうぜ」

 

 情報を整理していたというのは間違いじゃない。とはいえ昨日先生に聞かされた事といい、ついさっきまでミカに聞かされていた事といい…頭がパンクしそうだ。

 詳しい事はまた夜に先生と話すとして今は補習授業部の面々の勉強が先だ。ひとまずプールサイドでの話は置いといて、ヒフミ達が居る教室へと向かうとしよう。

 

 

 

──────────────

 

 

 

「あっ…おはようございます。先生、サンズさん。今まで何処に居たのですか?」

「そ、そうよ!ずっと居なくて心配だったんだから!」

"ごめんね、ちょっと用事があったんだ。"

「まぁ大したものじゃないさ。ほら、勉強の再開といこうじゃないか」

 

 補習授業部の退学の危機は無論、トリニティ内で渦巻く陰謀による不安に押し潰されそうになるがそれは先生も同じだろう。むしろ生徒を導く『先生』という立場である以上、オレよりも責任を感じている筈。

 だから彼の補佐であるオレが少しでもサポートしてやらないと。ヒフミ達の退学を阻止するべく、己が持つ全ての知識をもって彼女達に勉強を教える。研究者だった頃の感覚を取り戻しつつあるのか、自分でも驚く程に上手く解説出来ていると感じたものだ。

 

「……紙一重の差だった」

「はい!今回は本当に紙一重でした!アズサちゃん、すっごく惜しかったです…!」

「み、見た!?ヒフミ、私も結構上がったよ!?」

 

 その成果もあってか、事情ありのハナコを除く三人の成績は僅かではあるが確かに向上していた。実際第2次試験模試の結果を見ると、アズサはもう少しで目標点数の60点まで届きそうな点数、コハルもあと何問か正解すれば合格出来る点数だ。

 後はハナコの問題さえ解決出来れば第2次試験で全員が合格、無事元の学生生活に戻る事も夢じゃない。

 

「…美味しい!!ねぇサンズ、これってどうしてこんなに美味しいの!?」

「へへっ。すまんなコハル、生憎それは企業秘密で───」

 

「きゃぁっ!?」

 

 皆に昼食としてホットドッグを振る舞っている途中、シスターフッドに所属しているマリーという少女がアズサが別館の至る所に設置している罠に引っかかるトラブルが発生した。幸いにも彼女は無傷だったが。

 マリーが別館に来た目的は、いじめられていた生徒を助けたアズサに感謝を伝える為。その後はどういった訳か彼女と初めて出会った際に伝えられた、倉庫に立てこもり正義実現委員会と交戦する事態にまで発展してしまったようだが…やり方が少々ズレているだけで彼女は間違いなく優しい心の持ち主だ。

 

「最初聞いた時は何事かと思ったけど…アンタ、優しいんだな」

「私は当然の事をしたまでだ」

 

 昼食を終えた後は勉強の再開だ。昼食後な事もあってかコハルは眠たげな目を擦ってはうつらうつらとしていて、今にも夢の中に突入しそうな様子だったが特に注意するような事はしなかった。

 これまでのコハルとの交流で彼女が彼女なりに努力している事は分かっているし、何ならオレも眠かったし。朝から夜まで勉強なんて怠け者のオレには到底出来っこない。

 時の流れというものは何かに没頭していると早く感じるとは常々思っていたが今回も例外じゃなく、ふと窓から見える外の景色を見ると既に日は沈んでいた。

 そして、その夜───

 

 

「やべっ…早く行かねぇと…」

 

 仮眠でも取るかと先生やヒフミ達の部屋とは別に用意されている部屋にてベッドで横になっていたら思っていた以上に眠ってしまい、重い瞼を必死に開きながら先生の部屋に向かう。

 

「本当に失礼しましたぁ!?」

"いやっ、ちょっ…!"

 

「…ん?」

 

 向こうから先生…とヒフミの慌てる声が聞こえる。…まさか予期せぬ事態が発生したのか?そうとなれば寝ぼけている暇じゃない、早く駆けつけないと。

 

「おい先生、一体何が───」

「ヒフミちゃん、今『昨日より遅い時間』って言いましたね!?つまり昨晩も来たという事で…」

 

 

 

「…はっ?」

 

 扉が開いたままの先生の部屋に飛び込み、真っ先に視界に入ったのは水着姿でヒフミに詰め寄るハナコ。後ろに居るのは頭を抱える先生。…何をやってんだ?いやマジで…

 ───何を、やってんだ?

 

「あら…」

「あっ…」

 

「……すまん、邪魔したな!!じゃあまた明日!!」

 

"違う!違うんだよサンズ!一旦落ち着こう、ね!?ヒフミもハナコも!!"

 

 …その後、先生が必死の形相でオレ達の誤解を解いた。『そういう事』じゃないと分かるや否や、全員が落ち着きを取り戻していった。

 ついでにハナコはヒフミに怒られて着替えてきた。

 

「成る程、先生と一緒に、これからについてのご相談を…」

「ハナコちゃんも先生に相談したい事があって…」

「だからって水着で来るのはどうかと思うけどな…」

「心が落ち着くんですよ。サンズさんのご友人にも同じような方はきっとおりますよね?」

「…あぁ居るよ、目の前にな」

 

"ハナコ、さっきの話の続きは今じゃない方が良い?"

「…アズサちゃんの件、ですよね」

 

 ハナコが話すのはアズサの奇妙な行動について。夜な夜な寝室を抜け出しては何処かに外出している事だ。彼女の行動についてはオレも把握しているが…

 

「アズサは…『見張り』とか言っていたけどどうなんだ?」

「見張り、ですか…ですがそれは毎晩行うよう事なのでしょうか?」

 

 …まさか毎晩とは思ってもいなかった。ハナコはアズサの体調を心配し無理矢理にでも寝かせるべきだと言うがまさにその通りだ。

 研究員時代のオレみたいな奴ならまだしも彼女はまだ年端もいかない少女。毎晩眠らないなんてあってはならない。

 

「どんな事情なのかは分かりませんが、どうにかその不安を軽減してあげたくって…」

「このままですと、いつか倒れてしまいます。…先生とサンズさん、ヒフミちゃんもです。しっかり寝ないとダメです」

 

「確かに試験も大事ですが、ただ落第というだけです。身体の健康と比べられるようなものではないと思いませんか?」

 

「…『落第』で済めばどれだけ良い事か…」

「えっ…それは一体どういう…」

 

 思わず呟いた事がハナコ…いやオレ以外の全員に聞こえてしまった。今考えてみれば、補習授業部の裏の事情を知らないのはここに居る四人の中でハナコのみ。

 

「…先生、ヒフミ」

「…はい」

"うん。そろそろ話さないと。"

 

 先生達の方を見て、頷く。ハナコに事情を説明しなければと。残り二回の試験、どちらも不合格になれば待ち受けているのは『退学』だと。

 ハナコは暫くの間、言葉を失っていた。それもそうだ、オレも聞いた当初は理解を拒んでいたのだから。

 

「…成る程、そうだったのですね。全て不合格であれば、全員退学…」

 

「あ、そ、そういえばハナコちゃん、本当は成績良いんですよね!?1年生の時に、3年生の難しい試験まで全部満点でしたよね…!?」

 

 思い出したかのようにヒフミがオレ達が疑問を抱いていた事を問いかける。ハナコは再び沈黙した後、罪悪感に満ちた顔でこちらを見つめる。

 

「……ごめんなさい、知らなかったんです。失敗したら、まさか『全員が退学』だなんて…」

「…いえ、知らなかったからと言って、許されるものではありませんね…」

「真摯に勉強を教えてくださっている先生にサンズさんに…ヒフミちゃんとアズサちゃんとコハルちゃんにも申し訳ない事をしました」

 

 ハナコはオレ達に向け謝罪する。…今まで事情ありきとはいえあえて低い点数を取っていたのは少々残念な気持ちもあるが、正直に話してくれたのは嬉しかった。

 それに隠し事があるのは…オレも人の事を言えないしな。

 

「ヒフミちゃんの言った通り、私のあの点数はわざとです」

「…アンタはどうしてそんな事を?」

 

「…ごめんなさい、言えません」

「私の、凄く個人的な事なので…ですが、それで皆さんが被害を受けてしまうのは望むところではありません」

 

 流石にまだそこまでは話してくれないか…と思うも、彼女はすぐさまこれからの試験は真面目に受ける事を約束してくれた。

 そこからはハナコを中心に補習授業部周りの考察が始まった。アズサが毎晩何処かに向かうのは試験以外が要因、補習授業部が作られたのはナギサが裏切り者と疑った奴らをまとめて追放する為なのでは、と。

 アズサは書類の時点で怪しい、ハナコもこれまでの奇行を考えれば候補に挙げられるのも頷ける、コハルは多少無茶ではあるが正義実現委員会の人質として、ヒフミは…

 

「…あら、そう考えると、ヒフミちゃんはどうして容疑者になっているんですか?ナギサさんと親しかった筈では?」

「た、確かに親しくさせて頂いていたような感じですが…ど、どうして私なのでしょう…?」

 

「…どう考えてもブラックマーケットに居たのが原因───」

"サンズ、時には言わなくてもいい事実があるんだよ…"

 

 …とにかく、アズサの件はまだ謎に包まれたままだが、ハナコに関しては一応は解決したと言える。次からこの…『深夜の密会』には彼女も参加する事になった。

 

"じゃあ、もう遅いしそろそろ寝よう。"

「はい、ではまた明日という事で」

「そうですね、おやすみなさい」

「オイラも戻ってさっさと寝ると…」

 

「…!?ひ、ヒフミ!?それにサンズも!?せ、先生の部屋で一体何を…!?」

「…あら?」

「…っ!?」

 

 

 

「よ、四人…!?バカ、ヘンタイ!淫乱族っ!!」

 

 

「ほら、洗濯物は全部ここに入れろ!早く!」

 

 翌日は勉強どころの話ではなかった。朝から日光を完全に遮る程の分厚い雨雲から降りしきる雨に晒された皆の衣服を室内に仕舞う事で手一杯だった。だが気づいた頃には時既に遅し。

 

「これは…見事に全滅ですね。泥も跳ねちゃってますし、洗い直しが必要そうです」

 

 全ての衣服がずぶ濡れで、白いシャツは跳ねた泥で黒く染まっていた。

 

「サンズさんも濡れてしまって…申し訳ないです」

 

 スマホでトリニティの天気を確認し、嫌な予感を察知し途中から急遽参戦したオレも見事に豪雨の被害に遭った。

 

「謝る必要は無いさハナコ、オイラは…」

 

 

 

「この通り無事だからさ」

 

 一旦テレポートで店に戻り、濡れたシャツなどを洗濯機にブチ込み新しい服に着替えてきた。常に着ているパーカーは一着しか無いので今現在はシャツのみの状態だが。

 しかし変わらず四人の服は濡れたまま。だからと言って下着姿で勉強するなんて馬鹿げた事は出来ないので先生の部屋で待機していると…

 

「えっ!?な、なにっ!?」

「なっ…」

 

 雷鳴が轟くと共に辺りが一瞬にして闇に包まれ、室内は軽いパニックに陥る。原因は恐らく落雷によるものか?

 それにしても困った、視界に映るものが何も無い。手元にスマホが無ければ懐中電灯も無い。…そういえば停電に見舞われた事は以前にもあったなと思い出す。ミレニアムでメイド部とやり合っていた時だ。

 確かあの時、モモイに「左目を照明代わりに使って」なんて言われて…そうだ。

 

「うわっ…眩しっ…!」

 

 左目の魔法の目が強く輝き、周囲を明るく照らす。懐中電灯…には流石に及ばないが、部屋に居る皆の顔が見えるなら十分か。だがただでさえ着替える服が無くて勉強どころの話では無かったのに停電までする始末、今日は休みにするのが懸命だろう。

 さて空いた時間で何をしようかとかと悩んでいる最中、ハナコが意気揚々と手を上げる。彼女の聡明さは昨夜の密会で把握している、きっと良い案を出してくれるに違いな…

 

「水着パーティーをしましょう♡」

 

 

 

「……オイラの耳おかしくなった?」

 

 

 

──────────────

 

 

 

「さあでは記念すべき第1回、補習授業部の水着パーティーを始めます♡」

 

「あうぅ…」

「……」

「どうしてこんな事に…」

 

 変わらず電力は復旧せず、暗転したままの体育館の中央でハナコの案によってヒフミ達は水着姿になっていた。

 暗闇の中で水着姿の少女達を見守る一人の大人とスケルトン…事情を知らなければ気が狂っているとしか思えない。いや知っていても狂っている。

 

"まぁ、仕方ないような気もする…"

「そうですよ。こうとなっては、パジャマパーティーならぬ水着パーティーくらいしかする事はありません♡」

 

 そうか…そうなのか?オレが人間の文化に精通していないだけで、本当に人間の文化にはこんな事をする行事があるのか?

 

「あうぅ…な、何か他にもありそうな気はしますが…」

 

 …多分反応からして無いな。オレは間違っていなかった。

 そんなこんなで始まった水着パーティーだが、した事と言えば…見た目や環境が変わっているだけでごくごく普通の年頃の少女達の会話だった。

 最初に出会った時との変化、各々への感謝の言葉に他愛も無い雑談。いつしかオレ達も彼女達が水着を着ている事も、辺りが真っ暗闇な事も気にならない程に会話に熱中していた。

 

「これは私がシスター達から聞いた話ですが…どうやらキヴォトスの何処かの無法地帯では、水着姿で覆面を被っている犯罪集団があるらしいですよ?」

「み、水着に覆面…!?ド変態じゃん!?何それ!?」

「覆面に、水着…?」

「あら、サンズさんもご存知でしたか。それともそのような方々がお好きで…」

「違うからな?ただちょっと…噂を耳に挟んだ事があるだけさ」

 

「(聞いてるかノノミ…アンタが即興で考えた名前は予想以上に広まってんぞ…)」

 

 あの銀行強盗がまさかここまで広まるなんてと頭を抱えたくなる案件が出てくるも、次のアズサに関する話題に意識は持っていかれた。言うまでもないと思うが…毎晩彼女が外出している件についてだ。

 

「アズサちゃんはもっと、夜はきちんと眠った方が良いと思いますよ?」

「実は前々から少し気になっている事があるんだが…アズサ、アンタの『見張り』っていうのは本当か?」

「見張り…?何それ?」

 

 コハルが首を傾げる。それもそうか、彼女にはまだ裏の事情やらを話していない。トリニティに渦巻く陰謀を把握したヒフミとハナコ、アリウスからミカによって入学させられたアズサ、この四人の中では唯一純粋な存在と言うべきか。

 

「実は、見張りは言い訳で…ブービートラップとかを設置していたんだ」

 

 アズサの性格を知らなければ苦し紛れにも程がある言い訳と思ってしまうが、彼女のいつ何処でも戦闘が発生しても即座に対応出来るようにという兵隊気質な性格を知っているオレ達なら、一応は納得出来る。

 …というか以前マリーが巻き込まれたのはそれが原因だったか。

 

 それから数分後、電力は無事復旧し水着パーティーはお開きになった。洗濯機も使えるようになったので、汚れた衣服を洗濯するべく体育館を後にするのだった。

 

「私はいつか裏切ってしまうかもしれない…皆の事を、その信頼を、その心を」

 

 …復旧する直前のアズサの言葉がしばらく頭から離れなかった。

 

 

 その夜は幸いにも停電以降大きなトラブルが起こる事も無く穏やかに過ごせた。一応昼間に軽い復習を行ったものの、今朝の出来事もあってか完全に勉強よりも休みの気分になっているようで共同の寝室で各々が自由に過ごしていた。

 持ち込んだぬいぐるみを愛でたり、銃の整備を行ったり、ある者の言葉に過敏に反応したりと…オレもケチャップを飲みながら明日の準備をしているところに、あの少女が再び声を上げた。

 

「いいえ、まだです!このまま一日が終わりだなんて、そんな勿体ない事はさせません!」

 

 そう、ハナコだ。もしやまた水着パーティーを開くつもりなのではと警戒していたが、彼女が出した案は端的に言えばこっそり別館を抜け出して街に遊びに行かないか、という提案。

 

「『先生』的にはどうなんだ、先生?」

"私はいいと思うよ。ずっと勉強ばっかりじゃ退屈だしね。"

 

 わざわざ聞いたオレもルールやら約束やら、何かを守るのは前から苦手だ。…トリエルとの約束だけは例外だけどな。

 周りを見てみれば既に全員がジャージから着替え終えており準備は万端といった様子。完全に後は店に戻って寝る気満々だったがこんな事もまぁ悪くはない。

 ケチャップを飲み干し空になったボトルのみをテレポートで店のゴミ箱に送り、ヒフミ達と共に寝室を後にした。

 

「あはは…き、来ちゃいましたね…」

「どうですか?もう既に楽しくないですか?禁じられた行為をしているというこの背徳感、そして同時に皆で一緒にしているからこその安心感、この二つが合わさって…!」

「言ってる事は間違ってないが言い方どうにかならないか??」

 

 もうすぐで深夜になるのにも関わらず、ほとんどの店には明かりが灯されていた。相変わらず『ロイヤル』やら『豪勢』やら、そんな高貴さを表す言葉が建物として具現化したような光景だ。

 

「あ、ここにもスイーツ屋が」

 

 街中を散策している中、アズサが目をつけたのは一つのスイーツ屋。ヒフミ曰くここの限定パフェがとても美味いとの事。

 オレはパフェに限らずスイーツを食べた経験がこれっぽっちも無い。金なら経営している店が繁盛しているお陰でたっぷりとある、是非堪能させてもらおうじゃないか。

 

「えっと…あ、限定パフェってまだありますか?」

「ああ、申し訳ございません…限定パフェはちょうど先程、別のお客様が三つ購入されたのが最後でして…」

 

 …限定に加えて遅い時間帯、食えない可能性もあるとは覚悟の上だったがここまでタイミングが悪いとなると落胆してしまう。

 購入した奴を責めるつもりは無いが、一体どんな奴がパフェをまとめ買いしたのかと店内を見渡してみると…

 

「…あら?せ、先生…?」

"ハスミ…!?"

 

 巨大な一対の黒い翼を揺らしながらパフェを口に運ぼうとしていた少女が居た。先生の存在を確認するや否や見るからに動揺している様子から先生とは既に知り合いか。

 それに『ハスミ』という名前には聞き覚えがある。横で冷や汗を垂れ流しているコハルがよくオレ達に彼女の先輩の自慢話をしていたのだが、そこにはハスミも含まれていた。

 

「は、ハスミ先輩…」

「コハル、お勉強頑張っていますか?」

「あ、えっと、それは、その…」

 

"コハルは最近、成績が凄く上がってるよね。"

「あぁ。模試を重ねるごとに点数が上がっていって…いい子だ、コハルは」

「は、はい、そうです…!コハルちゃんはこのままいけば全然合格出来るぐらい頑張っていて…!」

 

 ルールを破り外出している上に尊敬する先輩との遭遇、明らかに居心地が悪そうな顔をしていたコハル。しかし勉強に尽力している事をハスミに褒められると緊張は解け、彼女との会話に花を咲かせていた。

 

「…?こんな時間に、連絡…?」

「ハスミ先輩、ちょっと問題が発生しちゃいまして。今どちらに?」

 

 …そんな平和な時間は長くは続かずハスミの電話への着信で状況は一変する。彼女の後輩の一人『イチカ』からの連絡によると、トリニティの自治区でゲヘナの生徒と思われる集団が暴れているとの事。

 

「えーっと…どうやら正体はゲヘナのテロリスト集団、『美食研究会』らしいっす」

「…待て、今美食研究会って言ったか?」

 

 ハスミの電話から聞こえた名前に思わず椅子から立ち上がり反応する。

 

「…美食研究会の事をご存知なのですか?」

「知っているも何も、オイラの店の常連だぜ?」

 

 美食研究会…聞き間違いじゃなければオレの店がオープンした初日から訪れ、味を気に入ってもらえたのか定期的に訪れているグループだ。

 名前は知っている、というか向こうから紹介していた。会長のハルナ、そして彼女の思想に賛同する部員のアカリとジュンコとイズミ。

 

「…きっと間違いに決まっている」

 

 ホットドッグを提供する度彼女達は「ありがとうございます」と感謝を伝えてくれる。何処かのヤバい集団と名前が被ってしまったに違いない、あんな礼儀正しい彼女達がそんな事をする筈が───

 

 

 

「マグロが─────!!!」

 

 

 

「…マジかよ…」

 

 していた。ガッツリしていた。瓦礫が散乱し土煙が舞う市街地の中央に佇むのは、最早顔馴染みと言っても過言ではない四人組。

 

「…おや、サンズさんではありませんか。いつもお世話になっておりますわ」

「あぁ…ハルナもな」

 

 ハルナがこちらに気づくと親しげに会釈をする。つい最近ゲヘナとトリニティの険悪さを知った上にここはトリニティの自治区。正義実現委員会の視線が怖いったらありゃしない。

 

「アンタら…アクアリウムを襲撃したとか聞いたけど何が目的なんだ?」

「それは勿論、この『ゴールドマグロ』を私達が美味しく頂く為ですわ」

 

 ハルナは足元で地上に打ち上げられビチビチと跳ねている金色のマグロを指差す。

 …え?まさかそれの為に売り物でなければ展示されていたものを強奪したのか?オレは今までこんなヤバい連中を相手に商売してたのか?

 

「…今アンタらを捕まえろってお達しが来ているんだ。大人しく捕まってくれないか?」

「うーん、それは無理!だって私達はこれを食べに来たんだから!」

 

「…でも、折角あんたが居るんだし、ホットドッグを食べさせてくれたら考えてあげてもいいかな。どう、ハルナ?」

「えぇ、良い案ですねジュンコさん。最近は予定が重なり食べていない事ですし…アカリさんとイズミさんは如何でしょうか?」

「はい、私は賛成です★」

「うんうん!私もー!」

 

 …何か勝手に提案して勝手に納得している。

 

「それではサンズさん、お手数をおかけしますが私達にホットドッグを振る舞って頂けないでしょうか?」

「勿論代金はお支払いいたしますわ。美食に対価を払わないのは美食家の信条に反しますので」

 

「そ、そんな無理ですよ…!だってここはトリニティ、サンズさんの店は遠く離れているアビドスで…!」

「大丈夫だヒフミ。問題ない」

 

 実に身勝手な要求だが…これで余計な戦いを回避出来るなら安いもんだ。確かに現在地と店の間にはかなりの距離があるが、オレにはテレポートがある。

 

「いいか?今ここに居る奴らも、これからここに来る奴らもオイラがまた現れるまで絶っ対に妙な行動はするなよ!!」

「したら今の話はナシにするからな!!」

 

 その場に居る全員に釘を刺すとテレポートで店に移動し、予備の食材があるか確認する。金は持っていないが今にも空腹で倒れそうな奴、或いは店の周辺でブッ倒れている奴が居た時の為に食わせるものだ。

 

「……よし、あるな」

 

 人数分がある事を確認し即座に調理に取り掛かる。調理と言ってもソーセージを焼く程度だが、舌が肥えているだろう彼女達を満足させる為にも丁度良い焼き加減に調整しなければ。

 パンの間にレタスを挟みソーセージを乗せ、その上にケチャップとマスタードをかけ、美味さの秘訣である魔力を通す。

 

「出来た、出来たな?…じゃあ戻るぞ」

 

 四つのホットドッグを両手に持ちテレポートでトリニティ自治区に戻る。周囲を見渡すが先程と変わった様子は…

 …ゴールドマグロが息絶えていた。彼…いや彼女か?とにかく良い来世になれるよう祈っておこう…

 

「…お待ちどうさま。ホットドッグ、四つ持ってきたぜ」

「ふふっ…この香りですわ。ありがとうございます」

 

 ハルナから四人分の代金を受け取り、待ちきれないと言わんばかりにホットドッグに齧り付いた彼女達の反応を待つ。

 

「何度食べても絶品ですわ…これぞホットドッグの極致と言わざるを得ません」

「たった一つだけなのに、物足りなさは一切感じませんね〜」

「美味し〜い!!やっぱあんたのホットドッグは最高ね!」

「前から思ってたんだけど…メイプルシロップをかけたらもっと美味しくなるかも!?」

「それはやめてくれ」

 

 全会一致の高評価、全員が満面の笑みを浮かべている。…背後に居るトリニティの生徒は複雑な顔をしているが。

 

「それでは…約束通り、今回は大人しく捕まるとしましょう」

「…とはいえ、アンタらはどっちに引き渡せばいいんだ?アンタらはゲヘナの生徒だが、ここはトリニティの自治区で…」

 

"美食研究会の皆は風紀委員会に引き渡す事にしたよ。"

 

 後ろから先生が歩み寄ってくる。彼の話を聞くに、オレが店でホットドッグを作っている最中にハスミとの会話で風紀委員会に引き渡す事になったらしい。

 今はエデン条約の締結が近づいている、つまりは政治的なアレコレは避けたいというのがハスミの考え。そこで先生、中立的な存在であるシャーレが引き渡す形になれば政治的な憂慮も減ると。

 

 

「…お待たせしました。死体は何処ですか?」

「(今死体って言ったのか…?)」

 

 先程までの市街地から少し離れたところに位置する橋にて、美食研究会をゲヘナへと連行する為の輸送車がやって来た。車の中から現れたのは救急医学部に所属するセナという少女。

 勤務態度は真面目そのもの…なんだが、負傷者を『死体』と呼ぶ謎の癖を持っている。

 

「…ところであなた達は?正義実現委員会ではなさそうですが…」

「その方は『シャーレ』の先生、そしてもう一人は補佐を務めているサンズよ」

 

「"ヒナ!"」

 

 同行してきた別の車両から降りてきたのはヒナ。見知った顔が現れ肩の荷が下りる。

 

「…んじゃ、オイラは店に戻るか。片付けをしなきゃならないし、何より…ふぁあ、子供じゃなくても寝る時間だしな」

 

「そうですか。ではサンズさん、またあなたのホットドッグを堪能出来る事を楽しみにしておりますわ♪」

「メイプルシロップ、考えておいて欲しいなー!」

「だからそれは諦めてくれ!」

 

 とっ捕まっている身にも関わらず笑顔でこちらに手を振る美食研究会の四人組に呆れつつも手を振り返し、テレポートで店に戻る。

 

「もう滅茶苦茶だ…」

 

 片付けをしながら今日一日を振り返る。いきなり水着パーティーが始まるわ、街に繰り出すわ、常連がまさかのテロリスト集団だと判明するわ…怒涛の一日だった。

 

「…今後どんな顔をしてアイツらと接客しなきゃならないんだ」

 

 そう呟きベッドに倒れた途端、意識は部屋に広がる暗闇の中に沈んでいった。気づけば窓からは朝日が差し込んでいたのだった。

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