Blue Archive: Visitor From Underground   作:暗黒星 堕零

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日常は突如として崩れ去る。あの地下世界のように。


崩壊

 補習授業部は無事全員が合格し退学の危機を免れ、ミカの野望は阻止された。これでようやく、平和な日常が戻ってくる…

 …とはならず、あれから先生とオレはミカの起こした事件やらの後始末をする為にトリニティを駆け回っていた。

 

 最初に訪れたのはシスターフッド。長であるサクラコがセイア襲撃の真相を語ってくれた。

 まずセイアの居た部屋が爆破されたのが深夜の3時。真っ先に現場に到着したのがミネという救護騎士団の団長だったのだが、現在はセイアと共に誰も知らない場所で身を隠しているらしい。

 

「で、セイアの容態はどうなのか分かるのか?」

「外傷は既に完治しているようなのですが…未だに目覚めないとの事です。原因は未だに不明で…」

 

 …言わば植物状態に近い状態って訳か。ただそれでも、死亡しているよりも遥かにマシと言える。セイアが生存している事が結果的にミカを諦めさせたのだから。

 次の問題はアズサの学籍について。ミカは連行される際彼女に「トリニティが、あなたの事を守ってくれると思う?」と言っていたが、アズサはナギサを守り抜き試験にも合格した。

 これらの点からサクラコは彼女の書類を正式なものにする事を約束してくれた。とりあえずはこれでアズサの行くあてが無くなる…なんて事態は起こらなそうで安心した。

 

「あ、そういえばこの前、ナギサさんがヒフミちゃんと会ったそうです」

「そういやコハルも会ったって言ってたな。オイラもだけど」

 

 ナギサとミカの話になった際、ナギサがヒフミを呼び出していた事をハナコが伝えた。それに関してはオレも数日前に彼女に呼び出されていたので知っていた。

 

 

 

「こうして会うのは初めて、だな?ナギサ?」

「えぇ、あなたのお噂は先生などからかねがね伺っております」

「…早速ですがサンズさん、あなたに言いたい事が…」

 

「…この度は、本当に申し訳ございませんでした」

 

 椅子から立ち上がったナギサは、こちらに向け深々と頭を下げた。

 

「あー…いや、事情を知った以上そんな謝る必要なんて無いよ。だから頭を上げてくれ、な?」

「いえ…サンズさんは無償で、曇り無き善意で補習授業部の皆さんに勉強を教えてくださっていたというのに…私は根拠の無い独断で彼女達を退学に追い込もうとしたのですから…」

 

「いやいや…」

「いえいえ…」

 

 そこから頭を上げてほしいオレと上げる訳にはいかないナギサとの攻防戦が数分間続いた。側から見れば新手の漫才だったな…と思い出す。

 

「…友達は襲撃されて死亡したと思っていた上に、もう一人の友達は自分の失脚を目論んでいた。疑心暗鬼になるのも無理はないさ」

「だからもうこの話はナシだ。和解の印っちゃ何だが『コレ』を受け取ってくれ」

 

「…これは?」

「オイラの店で売ってるホットドッグだぜ。何か知らないけどキヴォトス中で人気なんだ」

「もし気に入ってくれたら店まで足を運んできてくれ。場所はアビドスとちょっと遠いけどな?」

「それじゃあな。オイラこれから…店に戻らなきゃならないんだ」

 

 

 

「……美味しい」

 

 

 

「…ナギサも苦労人だよな」

"…だね。"

 

 

「見てー!イブキね、骨のお兄ちゃんを描いたんだよ!ほら!」

「おぉ、上手いじゃないか。これにはオイラもアンタの才能に脱ボーン…ってな?」

「………」

 

「あははっ!!面白ーい!!」

「だろ?さぁ次は何をする?絵本か?おままごとか?」

「イブキ、次はおままごとやりたーい!

 

 

 

「キキキッ…楽しそうじゃないかイブキ…」

「…あー、アンタは先生との会話に集中してくれ」

 

 場所は変わってゲヘナ。万魔殿なるゲヘナのお偉いさんが所属する組織の議事堂にて、生徒会長のマコトと先生が対談をしていた。オレは政治的な関わりは避けたいもんだから彼女と共に居たイブキという少女と遊んでいた。

 

「キキキキッ!」

「はぁ…」

「わーい!」

 

 マコトは如何にもな胡散臭さ、そんなマコトを呆れ気味に見つめるイロハは真面目そうだが心底面倒くさそうなオーラを放ち、オレの隣に居るイブキは純粋無垢な笑顔をこちらに向けていた。

 …まだ幼いイブキはともかく、本当にコイツらがトップに君臨していて大丈夫なのか?

 

 政治的な関わりは避けたい…とは言ったがイブキと遊びながら先生とマコトの会話は全てではないが聞いていた。

 どういった訳かマコトはシャーレが万魔殿との協力を持ちかけてきたと勘違いしていたようで、それを理解するや否や先程までの熱意は何処へやら去っていった。

 

「…ふっ、そうか。成る程」

「まぁ、楽しみは後に取っておくとしよう」

「よし、帰るぞイロハ」

 

「イブキも片付けをして帰る準備をするんだぞ」

「うん!じゃあまたね、先生、骨のお兄ちゃん!」

「あぁ、またな」

 

 部屋に残ったのは先生とオレ、風紀委員会の行政官であるアコ。実際にアコとこうして会うのは初めてだが、かつてアビドスで便利屋68を捕らえる為に風紀委員が侵攻してきた時に彼女の声は聞いている。

 …それにしても、だ。

 

「……マジか」

「…何か言いましたか?」

「いや、何も…」

 

 彼女の奇抜にも程がある服装に何度も自分の視界が正常なのかを疑う。

 囚人でないのにも関わらず何故か手枷を、首にはカウベルを付け、そして何より…横の乳房を露出している。初めて見た時は正気を疑った。

 

「とにかく、先生の用事は終わりですよね。お帰りはあちらの方───」

 

「…見送る」

「い、委員長?」

 

 ゲヘナでの用件も早々に終わり、これで今日の先生の仕事は完了。ゲヘナ学園を後にしようとしたところ、出張を早く切り上げたヒナが見送ってくれる事になった。

 

「色んな観点があって、見方によって真実は変わるかもしれない…あの時先生はそう言ってたけれど」

「例え『トリニティの裏切り者』が見つかったとしても、それは特定の観点からの真実に過ぎない…それだけで全てを判断するのは難しい」

「情報だけを鵜呑みにせず、色んな観点から他の真実をも探しつつ、自分に出来る努力をし続ける。何故ならそれは…」

 

「…その子達は、先生に信じられてるのね」

"ヒナの事も信じてるよ。"

「っ!急に何を…!」 

「あと、それは前にも聞いた!…全くもう…」

 

「…お熱いな?」

"…!わ、私達はそういう…"

「関係じゃないから!」

 

 …廊下での会話は、恋人のそれと見間違う程の睦み合いっぷりだった。

 

「帰り道、気を付けて」

"…もしかしてだけど、まだアコに引退の事話していない?"

 

「…アンタ引退するのか?」

「…えぇ、その予定」

"そっか、サンズにはまだこの事は話していなかったね。"

 

 帰り際に判明したのは、ヒナが風紀委員の引退を考えている事。このタイミングでって事は恐らく、というかほぼ確実にエデン条約が関係しているのだろう。

 

「引退と言ったって、そんなに大袈裟な事じゃない。少し疲れたから休みたいってだけで…」

「…まぁ、確かにアンタは一度休むべきだな。アンタが一日にどれだけの仕事をこなしているのかは知らないけど、目元のクマが相当な量だって事が物語ってるよ」

「あっ…これは…」

 

「…気遣ってくれてありがとう、サンズ。でもこの話はここでやめよう。そんなに大事な事でもないし」

「…じゃあまた、調印式で」

 

 学園の正門でヒナと別れ、先生とオレもそれぞれの帰路につく。オレはテレポートで、先生は電車で。

 先生もテレポートで送ってやればいいと思うかもしれないが、以前同じ提案をしたところ「何もかもサンズに任せっきりになるのは申し訳ない」と断られてからは彼の意思を尊重している…そういう訳だ。

 

 こうして各所で先生と共に仕事をこなし、一日、また一日が過ぎ…

 

 

 

 そして、ついにエデン条約の調印式当日となった。

 

 

「ご注文のキャットドッグだ。熱いから気をつけろよ」

 

 調印式当日、オレはいつもと変わらず店でホットドッグを売り捌いていた。先生には共に行かないかと誘われたが、オレに調印式とかいうザ・真面目な雰囲気の行事はどうも合わない。

 朝のテレビ番組では常に調印式の事が報じられていて、スマホのニュースもそれ関連の記事で埋め尽くされていた。確かに今日は特別な日、だからといって普段とは異なる事をするつもりは無い。何も無い日常を過ごす事が何よりも大切…それをオレはこの世界で学んだ。

 

「ふぁぁ…一旦仮眠でもするかな…」

 

 昼休み中、窓から差し込む穏やかな日差しに眠気を誘われうつらうつらとしていた時だった。

 

「…ありゃ…何だ?飛行機雲か?」

 

 窓越しに一際目を引く細長い雲を発見する。ここキヴォトスはとにかく広い。学園間を移動する際には電車に数分乗るだけで済む事もあれば、新幹線や飛行機で数時間掛けて行かなければならない事もザラに…

 

 …待て、それはおかしい。ここには数ヶ月前から住み始めたが、周辺で飛行機が通過した形跡を見た事は一度も無い。なら何だ?飛行機以外にあんな雲を出せるものなんて限られている。

 念の為スマホで現在地から何らかの飛翔体が飛んでいった形跡の方角と、調印式が行われるという古聖堂の位置を照らし合わせる。

 

「……向かっている。古聖堂に」

 

 頭をよぎるのは、ミカや補習授業部周りで散々聞いたアリウスの存在。アリウスはトリニティとゲヘナを恨んでいる。そんな両者が手を取り合うエデン条約の締結は、アリウスが最も望んでいない事だろう。

 …もし調印式を妨害しようと考えていたら?もしミカの計画が失敗した時の代替策を用意していたら?

 

「…行かねぇと」

 

 嫌な予感がする。それもかつてない程に。心配事の9割は起こらないと言うが今回ばかりは残りの1割をブチ抜きにきている確証がある。

 ならこうして怠けている暇なんかじゃない、店の入り口に『臨時休業』の張り紙を貼ると大急ぎで召喚したブラスターの上に乗り、投げ出されんばかりの速度で古聖堂へと向かうのだった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

「…何だよ、これ…」

 

 古聖堂…いや、古聖堂『だった』場所に辿り着いたオレは言葉を失う。所々で火の手が上がり、そこが一瞬古聖堂だと認識出来ない程に周囲は壊滅し、地面には負傷した無数のトリニティとゲヘナの生徒が倒れていた。

 その惨状はまさに『地獄絵図』。この世のものとは思えない光景に、冷や汗が滝のように流れ出す。

 

「痛い…痛いよぉ…」

「誰か…助けて、ください…」

 

「……〜〜〜ッ!!…すまない、本当にすまない…!」

 

 あちこちで助けを求める声が聞こえる。…助けたい気持ちは山々だ。トリエルのように回復魔法を会得していれば魔力を全て使い果たしてでも出来る限り多くの奴らを癒していたし、アンダインのように力が強ければ安全な場所へと避難させていた。

 でも現実のオレにそんな力は無い。出来ない事を無理にやろうとしても逆効果になるだけ。…ならオレがやれる事を全力で尽くす、せめて先生でも助けなければ。

 

「先生…!頼むから電話に出てくれ…!」

 

 先生の電話番号へ何度もかけ直しながら周囲を見渡した事で何が起こったのかは大体は見当がついた。…ミサイルかそれに近い兵器をブチ込まれたんだ。

 頑丈なキヴォトスの生徒ですらあの重傷なら、もしバリアを展開していない状態の先生が食らったら…そう考えただけで恐ろしい。

 

"…サンズ…?"

「…っ、先生!無事だったか。何処に居るんだ?」

 

"が、瓦礫の下に…今シスターフッドのヒナタが退けようとしてくれていて…"

「分かった。今そっちに行くから電話は切るなよ」

 

 スマホを片手に体力の無い体に鞭打ちながら走り回る。奇跡的にもすぐに瓦礫を退けようとしている修道服を着た少女が見えてきた。修道服…つまりはシスターフッドの生徒だ。

 

「アンタがヒナタだな?で、その下に先生が居るんだろ?」

「はっ、はい!そうです!」

「…よし、オイラも協力する。この瓦礫が青く光ったら持ち上げてくれ」

「わ、分かりました!」

 

 見るからに数トン以上もの重さがありそうな瓦礫がみるみる内に持ち上がっていく。通れるのに十分なスペースが空いたのか、瓦礫と瓦礫の僅かな隙間から先生が這い出てきた。

 

「大丈夫ですか、先生…!?」

"うん…何とか無事だよ。"

「…にしては割とボロボロじゃねぇか」

 

 先生は口では無事と言うもいつも身に纏っている連邦生徒会のコートは破け、顔には擦り傷が付いていた。それでも他の奴らと比べたら軽傷である事には間違いない。

 

「先生!ご無事でしたか!」

「せ、先生…!」

 

 正義実現委員会の面子が先生を防衛、避難させる為に駆けつける。

 片方はハスミ、もう片方は…初めましてだが恐らくコハルが言っていた委員長のツルギだろう。どちらも例に漏れず…酷い怪我だ。

 

「…サンズさんもいらしたんですね」

「あぁ…嫌な予感がすると思って来たらこの有様だ。他の正義実現委員会の皆はどうした?」

「それが…先程の爆発によって大半が戦闘不能になってしまいまして。今動けるのは私とツルギぐらいで…」

 

 

 

「…じゃあオイラ達を取り囲んでいるのは仲間じゃないって訳だな?」

"そう…みたいだね。"

 

 この状況を待っていましたと言わんばかりに一斉に、気味が悪い程に統一された足取りで立ち塞がるアリウス生達。

 

「作戦地域に……正義実現委員会の残党を……」

 

 中央に一際目立つ、黒いマスクを付け銃にしてはやたらとデカい武器を抱え佇む少女が居るのを発見する。距離が離れていて声は聞き取りずらいが誰かに…アリウスの関係者と連絡を取っているんだろう。

 

「…成る程。つまりこの状況、あなた達アリウスの仕業だと考えて良いでしょうか?」

「…許しません。この代償、今ここで…っ!」

 

「ハスミ、落ち着け」

「…!…はい、そうですね」

 

 怒りを露わにするハスミをツルギが制止する。トリニティの戦略兵器、なんて呼ばれているもんだから暴走しがちだと思っていたが…

 

「あぁ…暴れるのは、私の役目だ」

「くひひひひっ、さぁ…」

 

 

 

「相手してやるぜ、虫けらども!かかってきなぁっ!!!」

 

 …あながち間違いじゃなかった。

 

 

「ひゃっははははーっ!!!」

 

「…ハスミ、ヒナタ!今の内だ!」

「はい!」

 

 退避しながら前線でツルギが敵勢力を蹴散らし、その隙にオレが作り出した骨の防壁にハスミとヒナタを誘導し援護射撃を開始する。

 流石正義実現委員会の委員長と言うべきか、ツルギは集中砲火を物ともせずに殴る蹴る撃つの無双状態。普通のアリウス生は次々と地面に伏していく。

 …そう、『普通』の奴らだけは。

 

「あの青白い奴らは一体何なんだ…?」

"攻撃を受けてもすぐに復活する…?"

 

 戦闘の最中に突如として出現した未知の存在。アリウスと同様のガスマスク、シスターフッドに似た修道服を身に着けた奇怪な『それ』は攻撃を受け消滅したかと思えば復活し、何事も無かったように再び活動を開始する。

 …まるで幽霊を相手取っているみたいだ。

 

「あの姿、本で見た事があります…あれは『聖徒会』の服装」

 

「『ユスティナ聖徒会』…数百年前に消えた筈の『戒律の守護者』達が、どうして今ここに…!?」

「まるで幽霊じゃなくて、幽霊そのものだったかアイツらは…」

 

 …今はそんな事を気にしている場合じゃない。攻撃が通るアリウス生は軒並み撃破した、しかし代わりと言わんばかりに聖徒会なる奴らがどんどん湧いてくる。

 

「…尋常ではない数です。周りに数十…いえ、数百人規模の…」

 

 倒せない上に際限なく湧き続ける幽霊というよりもゾンビに近い性質、たとえ個々の戦闘力がこちらに遠く及ばなくとも、数の暴力で押されつつあった。

 じわじわと連中とオレ達の距離は縮まり、逃げるつもりが逆に追い詰められる始末。絶対絶命かと思われた瞬間、

 

「伏せて!!」

 

という声と共に紫に輝く銃弾の嵐が聖徒会に襲いかかる。悍ましさすら感じる数の群勢が一瞬にして消滅する。

 声の主は誰なのかと、銃弾が発射された方角へ視線を向ける。

 

「こっち!」

"ヒナ…!"

 

 ヒナだ、ヒナが救援に来てくれた。彼女はハスミに自分が先生を連れて脱出させると言うも、当のハスミ本人は怪訝な表情でヒナを見つめる。

 

「ハスミ、確かにヒナはゲヘナの生徒だけど…どうか今は彼女を信じてやってくれないか?」

「……」

 

「…分かりました。先生、私達がここで敵を止めます。後はあの風紀委員長がきっと何とかしますから、急いでください!」

 

「ありがとさん。んじゃオイラもここで…」

「…いえ、サンズさんも先生達と共に行ってください。コハルに勉強を教えてくださった恩人を、これ以上危険には晒せません」

 

 ハスミとツルギ、そしてヒナタはここに残り退路の死守を宣言する。

 先生は苦渋の決断の末に退避を選択、ヒナに守られながら走り出し、オレも随時防壁を出しながら後をついて行くのだった。

 

 

 あれから相当な距離を移動した筈だが変わらず聖徒会の連中は四方八方から現れ、容赦の無い銃撃を浴びせてくる。

 

「…っ、危ないぞヒナ」

 

 前方から音も無く現れる敵の存在を察知し、骨を出し満身創痍のヒナを、恐らくバリアが機能していない先生を守る。

 普段は携帯しているサブマシンガンも急いで駆けつけた事で忘れ、ブラスターも所々で負傷者が居るこの状況では無闇に使えない。…守る事しか出来ない自分が不甲斐ない。

 

「ありがとう、サン…うぅっ…!」

"お願いヒナ、無理だけはしないで…"

「オイラもそれには同感だけど…『あっち』はそんなのお構い無しみたいだな…」

 

 ヒナが痛みで足を止める間も敵は迫り来る。よっぽどオレ達を排除したいみたいだ。

 …どうにかしてこちらも反撃出来る手段を探さなければ。

 

「…これは…」

「…丁度良いものがあるじゃないか」

 

 目に入るのは足元で気を失っているアリウス生…の側に落ちていた銃。

 以前アビドス高校の裏口でカイザーPMCを相手取った時に敵の銃を奪いながら戦っていた事を思い出し、あの戦法がここでも使えるんじゃないかと思いつく。

 

「これでも食らい…やがれ!」

 

 銃を手に取り、接近する聖徒会に向け銃弾を浴びせる。どうせ消滅してもすぐに復活するだろうが何もしないよりはマシ…

 

「…ん?」

 

 …復活する、そう思っていたがオレの攻撃を受けた奴らは一向になっても再び姿を現す気配が無い。傷の痛みが収まったヒナの攻撃を受けた奴らは復活するのにだ。

 

「あのなんとか聖徒会を呼び出したのはアリウス…だったよな?」

"…うん。そしてアリウスはトリニティとゲヘナを憎んでいる…"

「ゲヘナの私、トリニティの正義実現委員会の攻撃はほぼ無意味だったけど…どちらにも属していないサンズの攻撃は通った」

 

「…つまりオイラはシステムの隙間を突ける存在って訳か」

 

 この説が正しいか正しくないかなんて今は知ったこっちゃない。打開への道が開けたのなら突き進むのみ、オレの攻撃を主体としながら先へ先へと進んでいく。

 

「あぁクソッ、残弾数が…」

"サンズ!これを!"

「…サンキュー、恩に着るよ先生」

 

 先生からの銃弾の支援を受けながら目的地としている市街地へと向かう。

 幾ら強いヒナでもあの負傷具合は既に限界を迎えているに違いない。これ以上の戦闘は避けたい…にも関わらず、再び敵に囲まれる。

 

「次から次へと…キリがねぇな。だけど今は…」

 

 前方を塞ぐ聖徒会に向け射撃、周囲の奴らを青い骨で動きを封じる。

 

「アンタらは先に行け!オイラはコイツらを片付けてからにする!」

"正義実現委員会の皆だけじゃなくサンズまで…!"

 

「オイラの事は心配するな。今はアンタの命が最優先だ」

「…行きましょう、先生」

"……分かった。"

 

 先生達が市街地へと走り出していくのを見届け、痛覚が無いのか性懲りも無く動こうとする残りの聖徒会をまとめて撃ち抜く。

 

「…こんな奴らと戦いっぱなしとか嫌になるぜ、全く…」

 

 一向に落ちる気配の無い敵の出現に顔を顰めながらも、常備しているケチャップの内一本を飲み干す。

 空になったボトルを挑発の如く放り投げ、こちらの苦労も露知らずに迫り来る群勢へと、骨と銃弾が入り混じる弾幕を浴びせるのだった。

 

 

「…これで、終わりだ…!」

 

 根気強く戦い続けたのが功を奏したのか、絶え間なく現れていた聖徒会の数も気づけば疎らに。最後の一人にマガジンに残る弾を撃ち尽くし、辺りには静寂が訪れる。

 

「ふぅ…やれやれだな…」

「よいしょっ……」

 

 …いや、まだだ。まだ休む訳にはいかない。先生達の後を追わないと。

 召喚したブラスターに乗り、先生達が向かっていった方角へと飛ぶ。頼む、どうか無事であってくれと何度も祈りながら。

 

 血眼になって上空から先生達を探す。爆発の余波により崩れ落ちた建物から上がる煙を掻き分け、白いコートを着た青年と一対の翼を携えた少女を。

 

「…!居た───」

 

「……おいおい嘘だろやめてくれ…」

 

 …ようやく先生達の姿を捉えるも、彼らの置かれた状況は最悪そのものだった。

 力尽き倒れたヒナ、そして…何者かに銃口を向けられている先生。今にもその引き金を引き、彼の体に風穴を空けてしまいそうな…

 …させるか。絶対にさせてたまるか。

 

「もう目の前で誰かが死ぬのは…」

 

 乗っているものとは別に小型のブラスターを召喚、エネルギーを溜める。

 

「ああぁあぁぁぁっ!!!」

 

 

 

「御免……なんだよぉッ!!」

 

 先生達を重力操作で引き離すと同時に銃口を向けていた奴とその仲間に照準を定め、ブラスターの一撃を放つ。

 

「……っ!」

 

 避けられるも目的は先生達と切り離す事。咄嗟に距離を取った瞬間を見逃さず周囲に奴らを閉じ込める檻、先生達を守る防壁の役割を果たす骨を出現させる。

 

「大丈夫か先生、ヒナ!?」

"サンズ…"

「わ、私は…大丈夫…」

「大丈夫な訳ないだろ!!さっきよりも傷が酷い事になってんぞ!?」

 

 先生もヒナもここに来るまでに交戦したのか先程よりも負傷が悪化している。すぐに彼らを病院まで送らねばと思った矢先、凄まじいドリフト音を上げながら救急車がこちらに向かってくる。

 車両にはゲヘナの校章…セナを中心とした救急医学部が駆けつけてきた。

 

「先生!サンズさん!ヒナ委員長!早く!」

 

「オイラはいい。先生とヒナを乗せて早く行け」

「サン、ズ…何をするつもり…?」

「時間稼ぎだ。アンタらが安全な場所に避難出来るまでな」

"そんな…!君一人を置いていく訳には…"

 

「…言っておくが、今のアンタらに拒否権は無い」

 

 先生とヒナを重力操作で無理矢理救急車に乗せ、セナに救急車の発進を指示する。

 

"サンズ、どうか無理はしないで。そして…"

"…生きて、また会おうね。"

 

「……」

 

 

 

「………あぁ」

 

 先生達を乗せた救急車がアクセル全開で走り出す。オレの視界から見えなくなるとほぼ同時に骨の障壁が爆発によって砕け散る音が響き渡り、中から先生を撃たんとした連中が姿を現した。

 

「…逃したか」

 

 構成員と相対、いざという時に備えいつでも戦闘に移行出来るよう魔力を張り巡らせる。

 

「アンタらも…『生徒』か」

 

 どうすれば先生達を守れるのかに必死で注視していなかったが、先生に銃口を向けた奴もその仲間も少女…『生徒』だった。

 深々と帽子を被った奴。顔全体を覆う仮面を装着した奴。先程の黒いマスクを付けた奴に…

 

「サ、サンズさん…?」

 

「……アンタ、は」

 

 嘘だと言って欲しかった。夢であって欲しかった。その中には、何度もオレの店を訪れているライトブルーの髪色の少女が佇んでいたのだから。

 

「そうか、お前だったのか。いつもヒヨリを通じ私達に食事を提供していたのは」

「いつもお世話になっている人とこんなところで遭遇してしまうなんて…へへ、やっぱり人生は虚しいですね、苦しいですね…」

 

 

 

「…分かった、ならここで引き下がってくれればお前は見逃す。仲間が世話になったのならな」

 

 先生を殺そうとしていた奴が何を言ってやがる…という言葉を必死に堪える。

 

「もしオイラが素直に引き下がったら、アンタらは次に何をするつもりだ?」

「…私がお前に邪魔された事を、再開するのみだ」

 

「……そうなるよな」

「だからオイラの答えは…」

 

 

 

 

 

「これだ」

 

 即座にブラスターを召喚し発射、光線が周囲の瓦礫を消し飛ばしながら連中へと襲いかかる。

 

「ひぃっ…!」

 

 炸裂する轟音。一瞬左右へ移動する人影が見えた事から避けられたのだろうが…

 

「…よりにもよって、アンタだけが当たるのか」

 

 ライトブルーの…もといヒヨリだけは背中に背負う見るからに鈍重な荷物が足を引っ張り直撃、気絶していた。

 

「さて…問題は残りの───」

 

 この世界に来てから初めて感じる、明確な『殺意』。背後から嫌という程に伝わるそれに悪寒が走り、振り返る事無くテレポートで移動した途端。数秒前まで自分が突っ立っていた場所に銃弾の雨が降り注ぐ。

 息をつく暇も無く冷酷かつ無慈悲な攻撃が立て続けに襲い来る。避けたかと思えば間髪入れずに追撃が、それを避けても追撃が…オレがテレポートを使えなきゃ既にお陀仏だ。

 

「アンタらは…何が目的なんだ!?トリニティとゲヘナへの復讐か!?」

「………」

 

「話す気は無い…ってか」

 

 倒壊する建物。

 絶え間無く飛び交う銃弾。

 乱雑に地面から突き出す骨。

 充満する煙幕。

 ブラスターにより抉れた道路。

 最早『市街地』としての原型を失った場所で彼女らに問いかける。だが当然と言うべきか、返ってくる言葉は無い。

 どいつもこいつもただひたすらに、こちらを排除する事しか考えてなさそうな眼差しだ。

 

「チッ、またこの煙か…」

 

 晴れつつあった視界が煙幕で再び遮られる。何処から何が来るのか、辺りを見渡す最中視界の端に何かを───

 

「……ッ!?」

 

 帽子の少女が振り下ろすのは鋭利に磨がれた細長い鉄の物体…ナイフ。

 地下世界での出来事が脳裏に蘇る。プレイヤーが遺跡で、スノーフルで、ウォーターフェルで、ホットランドで、コアで…無数のモンスターを殺し続けた忌まわしき存在。気づけば無意識のうちに重力操作を発動していた。

 

「『それ』を向けられるのはもううんざりなんだよ…!」

 

 壁目掛け渾身の勢いで叩きつける。壁がひび割れる勢いにも関わらず彼女は何事も無かったように攻撃を再開する。

 …確実にダメージは与えている筈だ。こちらの銃撃は何発か命中しているし、ブラスターも直撃こそしていないが衝撃による爆風で何度か吹っ飛んでいた。

 問題なのは…オレの体力は限界に近づきつつある上に、最後のケチャップも尽きかけている事。聖徒会との戦いで体力を温存しておけば良かったと思うが、今更後悔しても手遅れか…

 

「ハァ…ハァ…諦めの悪い、連中だ…」

 

 …息をするのも億劫な状態だがまだくたばる訳にはいかない。攻撃を回避する為、そして一か八か逆転を狙う為。ブラスターを召喚し上昇した途端、空で煌めくものが目に映る。

 今の時間帯は昼に加え、煙幕やら燃え上がる建物から立ち上がる煙やらで雨雲のように空を覆い尽くしている。星なんざ見える筈が無い。なら考えられるものは───

 

「随分と物騒な雨だなぁ…っ!?」

 

 降り注ぐ文字通りの『弾幕』。こんな芸当がやれるのは…ここに居る中で恐らく一人しか居ない。あの銃というよりも兵器に近い銃火器を抱えていた…

 

「…リーダー、終わったよ」

 

 加速し射程内から逃れようとするも時既に遅し、着弾し制御を失ったブラスターは墜落。

 地面に投げ出されたオレの眼前にあったのは銃口、ただそれだけだった。

 

「最期に言う事はあるか?」

 

 間近で銃を突きつけられる。まぁそうだろうな、計画を散々妨害した奴をわざわざ生かす理由も無いだろう。

 魔力はほぼ残っていない。せいぜい骨を一本出せる程度だ。パーカーの内ポケットにあるケチャップも…残り僅か。

 

 

 

 詰みだ。もうオレにやれる事は無い。

 

 

 

 ここで死んだら、次は何処で目覚めるんだろうな?元居た世界で?シャーレのオフィスで?全く異なる場所で?

 …それとも本当の『死』を迎える?

 

 

 

 …まぁ、どれでもいいか。一時間近く戦ったんだ、先生達は十分安全な場所に到着しているに違いない。誰かを守れて散れるのなら本望───

 

 

 

"生きて、また会おうね。"

 

 

 

 走馬灯だろうか。突然頭の中に思い浮かんできたのは、先生を逃す前に彼から言われた言葉。

 

 …

 

 ……

 

 ………

 

 ……オレが死んだら、先生はどう思う?

 

 …分からない、何も分からない。何度も殺されて、何度もリスポーンして、なのに何も救えなかった自分の命の価値なんてゴミ以下のものだと思っているから。

 …なら先生の立場になって考えてみたら?先生にとってオレは何だ?仕事を手伝う補佐、友人。そんな奴が死んだら…悲しいだろうな。きっと先生の事だ、自責の念に駆られる。

 

 それならアビドスの皆は?

 

 オレの店を贔屓にしてくれている人達は?

 

 ゲーム開発部は?

 

 補習授業部は?

 

 次々と自分が関わってきた人々の顔が浮かび上がってくる。

 

 

 

 …あぁ、そうか。オレはまだ、死ぬ訳にはいかないのか。

 これだから、約束は嫌いなんだ。

 

「さいご…さいごか。ハハハッ、確かにそうかもしれないな?」

 

 

 

「…だけどそれはオイラの人生における『最期』じゃない、アンタらとの会話における『最後』だ」

 

 力を振り絞り、一本の骨を帽子の少女の銃を持つ手の下に出現させる。

 

「ぐっ…!?」

 

 完全に力を失ったと思っていた奴からの抵抗に対処出来ず、出現時の衝撃で手は上へと弾かれ、銃は宙を浮く。

 その隙に残りのケチャップを飲み干す。この量ならテレポートを一回行える。何処だ?確実に安全と言える場所は…行き慣れた場所で、誰かが守ってくれる…

 

 

 

 …アビドスだ。

 

「…っ、待て!!」

 

 テレポートが完了する直前に彼女が装備しているナイフを投げようとする光景が見えたがもう遅い。瞬きをすれば既に、オレはアビドス高等学校に居たのだから。

 

「…サンズさん!?」

「ど、どうしたのサンズ君…?」

 

 

 

「…ノノミ、ホシノ」

「…すまん、ちょっと…休ませて…くれ」

 

 

 

──────────────

 

 

 

「うへぇ〜…そんな事が…」

「あったんですね…」

 

 アビドスに常備されているケチャップを飲み、心身共に回復したオレはホシノ達にトリニティでの出来事を話す。

 調印式が襲撃された事、聖徒会とかいう訳の分からない奴らに苦労させられた事、アリウスの連中と交戦した事…とりあえずは、先生が無事である事に二人は安堵していた。

 

「サンズ君もそんな子達と戦ってよく無事だったね〜…ヒヤヒヤしちゃったよ」

「そうですよ…ほぼ無傷だったのが奇跡なぐらいです…」

 

 ホシノ達はオレの容態を心配する。痛むところは無いか、骨はひび割れていないか、など…

 …そこで思い出す、「オレが死んだら皆はどう思うのか」という疑問。

 

「…ちょっと二人に、聞きたい事があるんだ」

 

 

 

「………なぁ、オイラが死んだら…アンタらはどう思う?」

「えっ…?」

 

 予想だにしなかった質問に、二人は一瞬何を言われたのか理解出来ずに目をぱちくりと動かした後、ノノミが答えた。

 

「そっ、そんなの悲しいに決まっているじゃないですか…!ずっとサンズさんを守れなかった事を、悔やむと思います…」

「…おじさんも、ノノミちゃんと一緒だよ。それに…」

 

 

 

「…サンズ君、もしかしなくても、『先生を逃がせれば自分の命なんてどうでもいい』って思っていたでしょ?」

「……」

 

「…あぁ、そうだ」

 

 ホシノの心の奥底を見透かしているような瞳に見つめられ、頷く。自分が逝ったところで、気にする奴らなんて居ないに決まっている、と。

 

「いい?サンズ君の存在はね、サンズ君が思っている以上に大きいんだよ?おじさんは勿論君の事を大切な後輩だと思っているし…」

「…私もです。いつも買い物に付き合ってくれて、皆さんと一緒に借金について真摯に話してくれて…気づけばサンズさんは、そこに居て当然、居なくてはならない存在になっていました」

 

「今は居ないけどシロコちゃんも、セリカちゃんも、アヤネちゃんもだよ?みーんな、君を必要としている」

「だから…自分が要らない、なんて思わないでね?おじさん達がサンズ君を支え続けるから、さ?」

 

 これまでオレはこの世界にとって替えの利く存在だと思っていた。…だが違った。卑下し続けていた己を自戒する。

 

「…ありがとさん。今の言葉、まんま黒服に付き纏われていた頃のアンタに言いたいな?」

「へへへ…それを言われちゃ何も言えないよ〜…」

「元気になったみたいで何よりです☆オマケによしよし、してあげましょうか?」

 

「それは…いや、自分の価値観を見直させてくれたんだ。今回だけはアンタの好きに───」

「では、お言葉に甘えて…♪」

「ちょっ…」

 

 …ノノミから撫でられながら、次にすべき事を考える。先生達はゲヘナの救急医学部の救急車に乗せられたがあそこはトリニティの自治区、わざわざゲヘナに向かうよりも距離が近い方に行くのが賢明な判断だろう。

 なら次に向かう場所は一つ、トリニティ総合学園。

 

「そろそろ先生の所に行くか。もう少しアンタらと話していたいけど、トリニティとゲヘナは大騒ぎになっているだろうしな」

「おじさん達も行かなくて大丈夫〜?聞いてるだけでも大変そうだったけど?」

 

「そうだな…アンタらは『まだ』待機していてくれ。何となくだけど、近いうちオイラ達アビドスも関わってくるかもしれないからさ」

「分かりました。…先輩として、サンズさんの事を応援していますね」

「…あぁ、行ってくるよ。ホシノ先輩、ノノミ先輩」

 

 ホシノとノノミに別れを告げ、アビドス高校を後にする。現在のトリニティとゲヘナがどんな事になっているのかなんて…考えたくもない。

 だからと言ってそれが現実から目を背ける理由にはならない。オレがやれる事を、全力で尽くすのみだ。

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