Blue Archive: Visitor From Underground   作:暗黒星 堕零

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青春の物語は終わらない、終わらせない。


Blue Archive

「…ひでぇ有様だ」

 

 先生を探しにトリニティ総合学園に隣接する病院へと訪れるも、そこは負傷し搬送された生徒達で溢れ返る惨状と化していた。

 突然の出来事に加え大多数の負傷者。当然あんな事が起きるだなんて誰も予想出来る筈も無く、病床が不足しているのか通路に寝かされている生徒が何人も、何人も。

 

「左腕が…痛いです…」

 

「………」

「私の声が聞こえますか!?返事をしてください!」

 

 自力で自身の状態を伝えられる生徒が居れば、全身から血を流し意識を失っている生徒…こんな光景は、出来れば見たくなかった。

 

「すまん、ちょっと退けてくれ」

 

 通路を右往左往する職員や生徒を避けながら先生を探す。幾つもの病室を駆け巡り、ここに運ばれているだろう青年を。

 

「す、すいません!あなたがサンズさん…でお間違いないでしょうか?」

「…あぁ、そうだ。アンタは…?」

 

「私は救護騎士団の『セリナ』です。先生からあなたを見かけたら私の元へ案内してほしい…と伝えられまして…」

 

 後ろから声を掛けられ、振り返るとそこにはセリナと名乗る淡いピンク色の髪色の少女が。先生はオレがここに来る事を事前に予測していたみたいだ。

 彼女の案内の下に先生が居る病室へと向かうも、セリナの表情には陰りが。

 

「…先生は、無事なんだよな?」

「はい、無事です。ですが…」

「ですが…?」

 

 目的の病室に到着し、カーテン越しに先生を呼ぶも反応は無し。繰り返し呼ぶが一向に返ってくる声は無い。どうしたものか、とセリナに許可を得てカーテンを開ける。

 

「…先生?元気か?」

 

 先生は居た…が、彼はベッドに横たわったまま動かない。体温はあるし脈拍もある、怪我も丁寧に治療を施されている。

 

「ただ単に…眠っているだけか?」

「…はい、眠っているんです。ずっと…」

 

「『ずっと』…だって?」

 

 彼女達の話によると、先生はここに運ばれてから即座に負った傷の治療を施された。

 中には激しく動けば傷口が開いてしまう深い傷もあり、安静の為寝かせておいたは良いものの、今に至るまで眠り続けているという。原因は不明…だと。

 

「目覚めるまでここに居る…って訳にもいかないよな」

「…学園の様子を見てくる。なぁセリナ、先生が目覚めたらすぐに連絡してくれないか?」

 

「…分かりました」

 

 

 

──────────────

 

 

 

 …案の定というか、当然と言うべきか。普段の静穏な雰囲気は消え失せ、学園内は大混乱に陥っていた。

 ティーパーティーのナギサにシスターフッドのサクラコ、正義実現委員会のツルギ…各組織のトップが軒並み重傷を負い意識不明で機能不全のダブルコンボ…まぁ最悪だ。

 

「ハナコ」

「サンズさん!ご無事だったんですね!」

「オイラはな。だけど先生が…」

「…はい、それについては既に存じています。それに加えてナギサさんやサクラコさんまで…」

「ハナコさーん!」

 

「…すみません、これからシスターフッドの方々との臨時会議がありますので。では…」

「おっと…そうだったのか。邪魔したな」

 

 

 

「コハル、やっと見つけたよ…」

「あっ、サンズ…よかった、無事だったんだ…」

「色々話したい事があるけど…せ、正義実現委員会でやらなきゃいけない事があって…」

 

 

 

「アズサは…」

「……」

「…出ないか」

 

 ハナコはシスターフッド、コハルは正義実現委員会に引っ張りだこで呑気に話していられる状況ではなく、アズサに至っては電話をかけても一向に出ずモモトークも既読が付かない。

 

「サ、サンズさん…!」

「よっ、ヒフミ…人を探すのにここまで疲れるとは思いもしなかったな…」

 

 学園内を走り回り、無数の生徒達にもみくちゃにされながらようやくまとまった会話を出来たのは、何処の組織にも属さずどうすれば良いのかあちこちを歩き回っていたヒフミ。

 

「調印式が襲撃…ユスティナ聖徒会…アリウス…うぅ、こんな事が現実で起きるなんて…」

 

 自身が調印式で目撃、体験した事を包み隠さず彼女に伝える。顔を青ざめながら絞り出した彼女の言葉の通り、実際にこの目で見た光景だというのに現実だと受け入れたくない自分が居た。

 

「オイラも同じ気持ちだよ。それに加えてアリウスの奴らは先生を…殺そうとした」

「ですが、サンズさんが身を挺して助けてくださったんですよね…?…ありがとうございます、本当に…」

「補佐として当然の事をしたまでさ。それよりも…」

 

「ヒフミ、アズサが何処に居るか分かるか?」

 

 オレの問いにヒフミは「それは…」と呟き俯く。沈黙が暫く続いた後、彼女は口を開く。

 

「…分からないん、です。少し前まで私とコハルちゃん、ハナコちゃんとアズサちゃんで一緒のカフェに居たのに…急に飛び出していって…」

「電話をしても出なくて、モモトークも既読が付かなくて…」

「…アンタも、だったか」

 

 アズサと仲の良かったヒフミでさえ知らないのなら…最早手掛かりは皆無に等しい。

 …アズサは元々アリウスに所属していた。これから先何を行うのかについては恐らく聞かされていただろう。彼女はそれらの計画を阻止するべく尽力していた、たった一人で。

 だが調印式の襲撃は実行されてしまった。彼女は阻止出来なかった事への罪悪感を、自分に対する責任を感じているに違いない。

 

 …もし、その責任感から彼女なりの『贖罪』の為に動いているのなら?

 

「…ヒフミ、今からアズサを探しに行かないか?」

「今から…ですか?」

「あぁ。このままアイツをまた一人にさせていたら…後戻り出来ないところまで行っちまうと思うんだ」

 

「…そうですよね。きっと手掛かりは何処かにある筈です、行きましょう!」

 

 そこからオレとヒフミはアズサの捜索を開始。道行く人々に彼女の容姿や特徴を伝え、見覚えはないかを尋ねる。

 

「うーん…ごめん、見た事は無いかな…」

 

「…いや、無いね。じゃ、急ぎの用事があるから私はここで…」

 

 しかし返ってくる反応はどれも首を横に振るか、「見た事は無い」という言葉ばかり。

 何人も、何十人も聞いてもこれといった情報は得られないまま次第に日は暮れていき、辺りは薄暗くなってきた。

 

「ヒフミ、そっちはどうだ…?」

「いえ…先程と変わらず何もアズサちゃんに関する情報は…えっ?」

 

 ヒフミのスマホから通知音が鳴り響く。画面を表示し通知の詳細を見た彼女は大きく目を見開き、こちらにぐい、と押し付けるように見せてくる。

 

「…見てくださいサンズさん。多分これ…アズサちゃんからです」

「何だこりゃ…暗号か?」

 

 届いた一通の宛先人不明の電子メール。開くと書かれていたのは、メッセージというよりも暗号に近い文章。

 座標と時間、そして謎の動物の名前。確かにヒフミの友人でこんな事をする奴は…アズサ以外に該当しないか。

 

「この時間にこの座標の場所に来てほしい…って事か?座標が示す位置は…っと」

 

 地図アプリにメールに記載されている座標を打ち込むと、示したのはとある橋。ここからそう遠くない場所に位置している。

 

「時間も…あと数時間後か」

「…行きましょう。今まで何をしていたのか、アズサちゃんから聞かないと…」

 

 ヒフミの言葉に頷く。混乱が冷めやらぬトリニティ自治区を駆け抜け、目的の橋へと向かっていくのだった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

「アズサちゃん、私です。何処に居るんですか…?」

「おーい、アズサ?オイラも来ちゃったけど大丈夫だよな…?」

 

 夜の帷が降り、遠くの建物の明かりのみが辺りをぼんやりと照らす橋の上でオレ達はアズサの名前を呼ぶも、人の気配は一切感じない。

 座標を間違えたのかと現在地とメールの座標を何度も照らし合わせるが確実にここだ。

 

「アズサちゃん…答えてください、アズサちゃん…!」

 

 

 

「…ヒフミ、サンズ」

 

 光が届かない暗闇から、アズサがヒフミの声に応えるように現れた。ヒフミは学園が大混乱に陥っている事を伝えると、アズサは既に知っていると頷いた。

 オレ達が気になっていたのは彼女の動向、オレもヒフミも彼女を心配する余り、問い詰めるような形でアズサに近づく。今まで何をしていたのか、どうして姿を見せなかったのか…一歩、また一歩とアズサに近寄る度に彼女の顔は険しくなり、遂には───

 

 

 

「来ないで!!」

 

 

 

 …常に冷静沈着な彼女から発せられたとは思えない大声がオレ達を遠ざけた。

 

「…ありがとう、ヒフミ、サンズ」

「でもここまでだ。ここから先には来ちゃいけない」

「ここから先は、私の居場所」

「ヒフミ達みたいな善良な人は、これ以上来ちゃいけないんだ」

 

 調印式の襲撃、それに伴う無数の怪我人、セイアの昏睡、先生とオレが撃たれそうになった事…これまでの出来事は全て自分の所為だと。

 このままではきっと他の皆にまで危険が及ぶだろう、そう考えたアズサが起こそうとしている行動は、余りにも残酷なもの。

 

「今から私はサオリのヘイローを『壊しに』行く」

 

 ヘイローの破壊。それが示すのは『殺人』。

 

 …どうしてだろうなぁ。

 

 どうしてあの世界でも、

 

 この世界でも、

 

 子供が誰かを殺す様を見なきゃならないんだ。

 

「先生もきっと、すぐに目が覚める筈、ですし…ですから…!」

 

 必死に訴えかける。そんな事をしなくても、解決の糸口はまだ残されていると。

 …だがアズサは聞く耳を持たない。既に人を殺める覚悟…最も見たくない『ケツイ』に満たされていたのだから。

 

「…ヒフミ。私を友達と思ってくれてありがとう」

「『アズサちゃん』って呼んでくれてありがとう」

「可愛いぬいぐるみをくれて、ありがとう」

 

「…サンズ。私に勉強を教えてくれてありがとう」

「美味しいホットドッグを食べさせてくれてありがとう」

「皆と一緒に、アリウスと戦ってくれてありがとう」

 

「海に連れて行ってくれてありがとう。楽しい思い出をくれてありがとう」

「可愛いものが、綺麗なものが、知らないものがあるって教えてくれてありがとう」

 

「補習授業部での毎日…あんなに素敵な日々を過ごして、沢山の事が学べて良かった」

 

 

 

「学ぶ事は本当に楽しい事だった…これまでの時間は、死んでも忘れない」

「少しでも、補習授業部の生徒でいられてよかった…」

 

「ありがとう、ヒフミ、サンズ。さよなら」

 

 アズサは再びガスマスクを被り、来た道を戻っていく。ヒフミの呼びかけにも、一切応える事無く。

 

「待て…まだ別れを言うには早過ぎる…!」

 

 青い骨、重力操作。アズサの歩みを止められる方法なら幾らでもある。だがあくまでそれは『物理的』なもの。

 たとえそれらで止めたとしても…彼女の『歩み』は止まらないだろう。

 

 

 

「アズサちゃんっ!!!!」

 

 

 

 オレもヒフミもただ、暗闇へと消えてゆくアズサを見つめる事しか出来なかった。[newpage]

 …あれから事態は収束するどころかひたすらに悪化するばかり。事件の黒幕をトリニティはゲヘナ、ゲヘナはトリニティ。お互いをお互いに疑い始め、ただでさえ冷え切っていた両者の関係は地の底まで落ちていた。

 

「…あの事件を引き起こしたのはトリニティでもゲヘナでもない、アリウスだ」

 

 必死に訴えかけるが所詮オレは部外者、マトモに聞き入ってもらえやしない。

 なら奴らと自ら交戦し、知名度もあるヒナから伝えられれば信じてくれるのでは、という考えが一瞬頭をよぎるもあの負傷具合じゃ無理に決まっている。

 

 …先生の状態も変わらない。セリナからの連絡が来ないという事はそういう事なのだろうが、僅かな希望に賭け何度も彼の元を訪れた。

 …が、結果は毎回同じだった。

 

 一日。

 

 また一日。

 

 何日経っても、先生は目覚めない。

 

「あぁクソッ、一体どうすりゃいいんだよ…」

 

 次から次へと発生する問題に対処が追いつかず、最早自宅で頭を抱える事しか出来なかった。

 …駄目だ、立ち止まるな。過去の出来事から解決を導き出せるものはないのか?

 

「…待て、よく考えてみれば…先生と『彼女』は…」

 

 思い出すのは、サクラコから聞かされたセイアの容態。確かオレの記憶が間違いじゃなければ、現在彼女は眠ったままの状態。

 …そして先生も同様に、眠りについたまま。なった時期こそ異なるが、この二人が同じ状況に陥っているのは偶然にしてはおかしい。

 

 ここからオレが考え出した結論は一つ。…馬鹿げた話だと思うかもしれないが、先生とセイアは精神世界内で話し合っているんじゃないかという説だ。

 本当に馬鹿げた話だと思うよ。元研究者が言う事じゃない。だがオレが元居た世界じゃ、何度も世界がリセットされては破壊されるとかいう何も知らない奴に話せば精神に異常をきたしているとしか思えない現象を観測している。それに比べりゃ、精神世界での会話だなんて現実的なものさ。

 「自分がやれる事を尽くす」…無論この言葉は忘れていない。…今がその時だ。

 

「よっ。先生の調子はどうだ?」

 

「こんばんは、サンズさん。先生は…まだ…」

「はい…まだ目覚める兆候は何も…」

 

 先生が居る病室に向かうと、そこにはセリナと彼女の友人であり同じ救護騎士団の一員である『ハナエ』が居た。

 

「今回来たのは他でもない、先生を目覚めさせる事が出来るかもしれない方法を思いついたからさ」

 

 驚く彼女達に自身の仮説と計画を伝える。先生は今精神世界に居るのではないのかという説と、そこに向かうのに自分も眠る事を。

 やはりと言うべきか信じ難いと言いたげな表情をされたが、先生の覚醒はほぼ全ての生徒達の望み。計画の協力に快諾してくれた。

 

「ここの病床は空いているか?ちょっと前じゃ満員だったが…」

「はい。殆どの方々は数日で退院しても問題ない状態にまで回復しましたので」

「耐久力だけじゃなく治癒力にも優れてるんだな、この世界の生徒って奴は…」

 

 眠りにつく場所は先生の隣のベッドに決めた。距離は近かろうが遠かろうが関係ないと思うが…気分の問題だ。

 

「んじゃ、絶対…とは言えないけど先生を目覚めさせてくるよ」

「え、えっと…頑張ってください!」

「あぁ」

 

 

 

「……眠れるまでちょっと待ってくれ」

「あっ、はい…」

 

 

 

 …

 

 

 

 ……

 

 

 

 ………

 

 

 

「…ここは…」

 

 目覚めると…いや、夢の中で『目覚める』という表現はおかしいか?とにかく目を開けるとそこは病室ではない別の場所。ナギサに謝罪をされる際に呼び出された所に似ている、というよりも完全に同じ場所。

 向こうに見えるのは現実世界でも見覚えのあるやたらと横幅のあるテーブルに、向かい合わせで座る二人組。

 

「…見つけた」

 

 一方は長く煌びやかな金髪に大きな動物の耳が生えた少女。そしてもう一方は…ほぼ毎日のように目にする青年。

 …どうやらオレの説は的中していたみたいだ。粛然たる雰囲気の中唐突に出現した喋るスケルトンに、既に二人の視線はこちらに向けられていた。

 

「君は…」

"サンズ…!?"

 

 

 

「…ようやく見つけたぜ、先生」

 

 

 

──────────────

 

 

 

「うん、全部セイアから聞かされていたよ」

「…じゃあどうして目覚めなかったんだよ」

「…ごめん、まさか現実だとそんなに日時が経っているなんて…」

 

 精神世界内に居続け、現実での出来事を知らないだろう先生に現在の状況を話すつもりが既に全て把握していた。

 彼に情報を提供していたのはオレから見て左側に居る少女…『セイア』。ナギサ、ミカに続くティーパーティーのホストだ。

 

「…初めまして、サンズ。君の事は先生の夢を通じて観測していたよ」

「そりゃありがとさん。散々アンタが意識不明って事は聞かされてたんだが…念の為聞くが生きているん、だよな?」

「勿論だ。…現実の私の体は眠り続けているけどもね」

 

 先生の無事にセイアの生存、喜ぶべき事だが今はそれどころじゃない。己がここに来た目的を二人に話す。

 

「そういう訳で時間が無いんだ。先生、今すぐにでも目覚めてくれ」

「…そうだね。セイアとの話もひと段落ついたところだし、行かないと」

 

「…待ちたまえ先生。もう一つ、聞いておきたい事がある」

 

 椅子から立ち上がった先生にセイアは問う。今まで彼らが何を話していたのかは把握していないが…「ただ信じたところで、何も変わりはしない」「信じたところで、そこには何の意味も無いだろう」と。

 

"水着じゃなくて下着だと思えば、それは下着だから。"

 

 …先生の答えは予想外にも程があるもの。確かにハナコが似たような事を言っていたがそれをそこで言うか??

 

"待ってて、セイア。"

"サンズも来てくれてありがとう。先に失礼するよ。"

 

 困惑するオレ達を尻目に別れを告げた先生の体は眩い光に包まれ、数秒の内にその姿は消えていた。

 …ひとまずオレのやるべき事は終わった、先生に続いて現実へ戻ろう…そう思った矢先にセイアに呼び止められる。

 

「…サンズ、君とも少し話しておきたい」

「どうぞ。こっちもアンタとは一度話してみたかったからな」

 

 つい先程まで先生が座っていた椅子に座り、セイアと向かい合う。

 

「私には他の者には無い、ある特殊な力が備わっている。夢を通じ未来を観測する…所謂『予知夢』と呼ばれるものだ」

「私は予知夢でこれまでの、これからの出来事を知った。…それらはどれも悲惨で、覆しようの無いものだと思っていた」

 

「…だが違った。本来先生はアリウススクワッドのリーダーであるサオリに撃たれる筈だった」

「だけど直前でオイラが助けた…そうだろう?」

「そうだ。本来なら避けられない『運命』を…君は変えた」

 

 『サオリ』という名は以前から知っていた。ミカが連行される際にアズサへと放った言葉にあった事を鮮明に覚えている。だがその名の持ち主があの帽子の少女であったのは初耳だ。

 そして思い出すのは、初めてミレニアムに向かう時に乗った電車内で先生との会話で自身に対し思った事。「オレはこの世界にとっての『異常』」…

 

「今思い出してみれば、見てきた予知夢に君は一切居なかった。…サンズ、君は一体何者だ?」

「……何者、かぁ」

 

「…オイラはただのスケルトンさ。怠け者でダジャレが好きで、ケチャップを愛して止まない…誰も救えなかった、無力な奴だ」

「そんな奴の存在で変えられるものがあるなら、とことん変えてみせるさ。勿論、良い方向にな?」

「…君も随分と、苦労してきた口なのだね」

 

 「まぁな」と呟くと既に先生が居なくなってから数分経過している事に気づき、夢から目覚める準備をする。

 

「…じゃあ、そろそろ戻るよ。先生を待たせる訳にはいかねぇからな」

「今度は[[rb:あっち > 現実]]で会おうぜ」

 

 セイアの頭が僅かに縦に揺れると共に視界が光に満たされる。間もなく、眠りについた時と同様に意識が闇の中へと沈んで───

 

 

 

 ………

 

 

 

 ……

 

 

 

 …

 

 

 

"おかえり、サンズ。"

 

 目を開けるとそこに居たのはこちらを覗き込む先生と喜び合うセリナとハナエ。…どうやら無事現実世界へ戻ってこれたらしい。

 

"…サンズ、私にはやるべき事がある。手伝ってくれるかい?"

「最初からそのつもりさ。行こう、先生」

 

 ベッドから起き上がり、見送るセリナ達に手を振り病室を後にする。二つの学園を巻き込んだ混沌を終わらせなければ。

 

 

 

──────────────

 

 

 

「ヒナが行方不明…!?ミカが釈放…!?」

「…想像以上に滅茶苦茶な事になってんな」

 

 先生から話されるオレが知り得なかった事の数々にただただ驚愕するしかなかった。そりゃいつまで経っても大騒ぎしている訳だ。

 

「まずは何処に向かう!?」

"ミカの所に行こう!彼女の居る監獄がここから一番近いから!"

 

 先生とオレ、両者共にスタミナが無いのにも関わらず全速力で走る。手遅れになる前に。

 

「ハァ…着いた…けどそれはちょっと聞いてねぇな」

 

 監獄が近づくにつれて聞こえてくる争う声で薄々察してはいたがトラブル絶賛発生中だ。純白の衣服に靴の跡が付いたミカを庇うように立ちはだかるコハルを取り囲むのは、一般のトリニティ生。

 

「わ、私はバカだから、何がどうなっているのか全然分からないけど…」

「でも、これは違う!こんなの絶対にダメ!」

「…聞かない奴だ、それなら…」

 

「『[[rb:それ > 暴力]]』は無しだぜ」

 

 拳を振り上げようとした奴を含めミカとコハルを取り囲むトリニティ生達を青い骨で拘束する。

 

"コハルは補習授業部の、私の生徒だよ。"

 

 驚く彼女達に険しい表情で、態度にこそ出さないが確かな怒りがこもった声で先生は暴力はやめてほしい、と訴えかける。

 

"…サンズ。"

「おう」

 

 冷や汗を流し始めたトリニティ生達の顔、先生からの合図で骨を引っ込めると彼女達は急いで監獄から立ち去っていった。残されたのは先生とオレ、コハルとミカ。

 

「先生…サンズ…」

"コハル、カッコよかったよ。流石は正義実現委員会のエリート。"

「誰かを守るのにバカかどうかは関係ないさ。よくやったぜ」

 

 こちらに駆け寄るコハルとオレ達を見つめるミカ。先生の大丈夫かという問いにとりあえずは、といった感じで頷く。

 

「何て言うか、久しぶり…だね?」

"そうだね。ミカ…ミカはどうしてさっき…」

 

 というのも、何故彼女がトリニティ生達に取り囲まれていたのかについては一部始終であるが目撃していた。

 トリニティ生の一人が今が好機だとミカにゲヘナへ戦線布告するよう求めるが、ミカはそれに盛大に煽る形で反対。怒りを買った結果あのような状況になっていたって訳だ。

 

「…何でだろ。絶好のチャンスだし、今立ち上がればって分かってはいるんだけど…」

「今でも嫌い、なんだけど…どうしてだろ…」

「私にも、よく分かんないな…」

 

「あれ、ちょ、ちょっと待って…」

「私…」

 

 ミカの瞳から一つ、また一つと輝くものが落ち、いつしかそれは滝のように流れ始めた。

 

「わ、私は…」

「…」

 

「ごめん、セイアちゃん…」

「どうして、こうなったのかな…」

「ごめん…ごめんね…」

「こんなにバカで、ごめん…」

 

 …あぁ、そうか。ミカは、何故憎んでいるのか、何故憎み始めたのか…憎しみの『正体』が分からないままここまで来てしまったのか。

 

"ミカ…"

「先生…私、セイアちゃんに会いたい…」

「ナギちゃんにも、もう一度会いたい…」

「こんな私じゃ、もうダメかもしれないけど…」

 

 『こんな私』…まぁ、そうだろうな。二人の友人の内一人は殺しかけ、もう一人は失脚させようとした。自ら引き離しておいてまた会いたい、だなんて烏滸がましいにも程がある。

 

「…アンタも本当に、身勝手な奴だよ。…でも、その言葉が聞けてよかったぜ」

"…うん。任せて、ミカ。"

 

 コハルを連れて、監獄から去る。幻聴なのか、はたまた彼女本人のものなのか、ミカの泣き声は何処までも響き渡っていた。

 

 

 

──────────────

 

 

 

 それからオレ達は先生が無事である事を伝える為、各地の混乱を収める為走り回った。最初はシスターフッドでハナコと合流し、次は病院にUターン、入院中のツルギとハスミの元へと見舞いに向かう。

 …見舞いに向かった、筈なんだが…

 

「ぎゃああぁぁっ!?」

 

「せ、せせせ先生!?ど、どうしてこちらに…!?」

 

 かなりの重傷を負っていたと聞いていたツルギはすっかり完治、見舞いに来た先生を見るや否や、年頃の少女相応の反応を見せていた。

 

「…怪我、大丈夫なのか?」

「あっ、ははははい!もう全て治りましたので!」

 

「…これが正義実現委員会の委員長の実力…か?」

 

 次に向かったのはゲヘナ学園。…そう、ヒナの行方を探しに来た。

 だが彼女と常に共に居るであろう風紀委員会すらも居場所は未だに把握していない。…にも関わらず、先生は何かを掴んだ、そんな顔をしていた。

 

「アンタの事だ、ヒナが何処に居るのかは分かってんだろ?」

"うん。だからサンズ、あの…恐竜の頭みたいなもので送ってくれないかな?"

 

「任せろ。で、行き先は何処だ?」

"えっと…ここだよ。"

 

 

 

 先生の案内の下、到着したのはごく普通の一軒家。

 

「ここってまさかヒナの家か?」

"そう、ここに居るんじゃないかなって思ってね。"

「アンタは…これまでにヒナの家に来た事は?」

"無いよ。今回が初めて。"

 

「…じゃあ何で家の位置が分かるんだよ」

"うーん…何となく、かな?"

 

「…アンタがヒナの頭の匂いを嗅いだって噂を聞いた時はまさかと思ったが、現実味を帯びてきたな…」

"ちょっ…それ何処で聞いたの!?"

 

 イオリの足を舐めた時といい、先生は風紀委員会が絡むと様子がおかしくなるのか?…そう思いつつ、家の前で待機する事にした。

 

「勝手な憶測だけど…ヒナはきっと体の傷は治っていても、心はまだ傷ついたままだろうな」

「そんな彼女を励ましてやれるのは、今じゃアンタぐらいだろ」

"…うん。任せて。"

 

 開錠されたままの扉を開け、先生は室内へと入っていく。

 頭の匂いを嗅いだり『ちゃん』付けで呼んだり…一歩間違えば、というか完全にセクハラに近い行動だが、それも信頼があってこそ成せる事…と合理化したつもりでいる。…それでも完全には拭いきれないが。

 

「まぁ…ヒナの大変さは嫌でも分かるな」

 

 彼女は風紀委員会の委員長、トップに立つ存在である以上自然と頼られる事は多い筈。その反面、誰かに頼る機会は…きっと少ない。

 アズゴアだってそうだった。強いから、地位が高いから…だから弱味を見せる訳にはいかない。いつ如何なる時でも強い自分でいなければならない、と。

 そんなヒナの前に現れた『大人』の先生、唯一躊躇い無しに頼れる存在。彼女にとって大切な存在である先生が撃たれそうになったんだ、家に籠りたくなるのも無理はない。

 

「…ふぁぁ…」

「あっ…サンズ…」

「…おっと。風紀委員長、完全復活みたいだな?」

 

 考え事をしていれば既に数十分が経過。急かすつもりは無いがまだかまだかと覗いていると家の扉が開き、中から先生とヒナが出てくる。

 ヒナの怪我もツルギ同様完治、表情も普段の気怠げなものから打って変わり清々しいものになっていた。

 

「(すげぇなアンタ…一体何をしたんだ?)」

"(…私はただ、あの子を労ってあげただけだよ。ヒナはいつも、頑張っているからね。)"

 

「…サンズ、あの時はありがとう。先生を守ってくれて」

「オイラはアンタも含めて守ったつもりなんだけどな?自尊心が低いのが透けるトン…なんてな?」

 

「…ふふっ、そうね。私は皆を心配させているだろうし…学園に戻らないと。先生達はまだやる事があるのよね?」

"うん。トリニティに戻って、補習授業部の皆と会わないと。"

「分かった。じゃあ…また後でね、先生、サンズ」

 

 ヒナに別れを告げ、オレ達はトリニティへ戻る。正門前にはヒフミ、ハナコ、コハル…暗闇に姿を消したアズサを除いた補習授業部のメンバーが。

 

「居場所が違うんだ、って…それで私、何も分からなく…」

「こんな大変な事になってしまって…もう、私みたいな普通の学生に出来る事なんて…」

 

 あの一件で自身の存在意義を見失っていたヒフミだがオレ達は彼女がどれだけ努力しているのかを知っている。補習授業部の部長として皆が良い点数を取れるよう試行錯誤してくれた事、合格点が引き上げられようが試験範囲が拡大しようが諦めなかった事。いつもヒフミが皆を引っ張っていた。

 何ならオレ達アビドスもブラックマーケットで彼女と出会わなければ、カイザーとその裏に居た黒服の存在を掴めずにいただろう。…半ば彼女は巻き込まれる形だったが。

 

「…はい、ありがとうございます」

 

 先生と友人達からの言葉を受けたヒフミの瞳には輝きが戻り、ある決断を下す。まぁわざわざ言う必要も無いと思うが…

 

「…アズサちゃんを助けに行きます」

 

 彼女だけじゃない、コハルもハナコも先生も、オレも同じ思いだ。

 来るべき決戦への準備を整え、アズサが今も戦い続けている古聖堂へと向け足を進める。友人を助ける為、後戻り出来ない場所に行ってしまう前に力ずくでも引き戻す為に。

 

 

 

──────────────

 

 

 

「さてと…何処にあったっけな…」

 

 古聖堂へと向かった筈が、どういった訳かオレは自宅の物置部屋の中央で突っ立っていた。

 というのも出発する直前、ヒフミとこんな会話を繰り広げていた。

 

「サンズさん…私達がブラックマーケットで銀行強盗をした際に使った覆面はまだ持っていますか?」

「…持っているには持っているけど、それ今必要か?」

 

「ど、どうしても今必要なんです!理由は後で話しますので、どうか…!」

「…分かった。持ってくるぜ」

 

 …どうして今になってアレが必要なのかと頭の中にハテナが浮かびっぱなしだったが、彼女の顔は真剣そのもの。断る訳にはいかなかった。

 

「…まさかこれをまた付ける日が来るとはな」

 

 「後で片付ける」と先延ばしにし続け積もりに積もった荷物の中から雑に畳まれたスカーフを発見する。

 …懐かしいな、逃げる最中に皆とはぐれて無数の追手に追いかけられて…

 

「…ん?」

 

 思い出に耽っているとモモトークに通知が。対策委員会のグループトークにだ。

 

「皆さん、ヒフミさんからの連絡は来ましたか?」

「アヤネちゃんも?おじさんもだよ」

「私もです☆」

「ん」

「わ、私も!」

「ワオ、全員か」

 

 アビドスに所属しているオレに銀行強盗の件について尋ねたって事はオレ以外の皆にも似たような事を尋ねているんだろうと思っていたが、その通りだったらしい。

 

「ヒフミからは聞いてるよな?銀行強盗の時に使った覆面を持ってくる事と」

「トリニティの古聖堂に集合してほしい…だよね?」

「あぁ。オイラは後で合流するから、シロコも皆も先に行ってくれ」

「分かりました。では各自準備が完了しましまら、学校前にて一旦集合しましょう!」

 

 皆との確認も完了し、テレポートで補習授業部と共に古聖堂へと向かう先生の元へ移動する。

 …空は混乱、不安、悲しみ、怒り…トリニティやゲヘナの生徒達が抱く感情が具現化したかの如く厚い雨雲に覆い尽くされ、冷たい雨が降り注ぐ。それでも歩みを止める訳にはいかない。長年続く憎しみの歴史、負の連鎖に終止符を打つ為に。

 

「───アズサ!」

 

 襲撃による傷跡が色濃く残る古聖堂に辿り着く。そこにはたった一人でアリウススクワッドに立ち向かい、どれだけ傷つこうが立ち上がるアズサの姿があった。

 

「…何故だ、アズサ」

「何故そこまで足掻く。そこに何の意味がある?何を証明しようとしている?」

「思い出せ、全ては───」

 

「…たとえ虚しくても、足掻くと決めた」

「…そこに何の意味がある!!」

 

「意味があるからこそ、やっているのさ」

 

 満身創痍のアズサに放たれた銃弾を骨で防ぎ、重力操作でサオリを後方へ引き離す。

 

「みんな…?」

 

 駆けつけた仲間の姿を見て肩の力が抜けたのか、足元から崩れ落ちるように倒れそうになるアズサの体を支えたのは他でもない、彼女の一番の友人であるヒフミ。

 

「ヒフ、ミ…?」

 

 アズサはそこにヒフミが居る事が信じられないといった具合に何度も瞬きをする。

 …全く、ホシノといいアズサといい…仲の良い奴が素直に別れを受け入れるとでも思っているのか?

 

「…なんだ、お前は?」

「普通の、トリニティの生徒です」

 

 自称平凡の少女と復讐に身を燃やし続けた少女、本来なら相容れない二人が向き合う。…迫害の歴史さえ無ければ、彼女達はもっと平和な形で出会えた世界もあるのだろうか。

 

「ヒフミ、ダメだ…どうしてこんなところに…」

「ここはヒフミみたいな、普通の人が来るところじゃ…」

 

「…はい、確かに私は普通で平凡です」

「先日見せてくれたガスマスクの姿が、本当のアズサちゃんなのだと。その事も理解しました」

「そんなアズサちゃんは本当なら、私なんかには手の届かない世界に生きてるのだと…そう言いたいのも分かりました」

 

「でも!!!」

「アズサちゃんは一つ、大きな間違いをしています!!!」

「今ここで、私の本当の姿をお見せします!!!」

 

 そう言ってヒフミが徐にリュックから取り出し、被ったのは…

 

「…成る程な。『そういう事』か」

 

 

 

「『覆面水着団』のリーダー、ファウストです!!」

 

 忘れる筈も無い、彼女がオレ達アビドスの銀行強盗に巻き込まれた際に被らされたタイヤキの袋。それもファウストの名も引っ提げて。

 

「…え?」

「見てください、この恐ろしさ!アズサちゃんと並んだって、全然見劣りしない程不気味でしょう!こっちの方が恐ろしくて怖いと言う人だって居る筈です!」

 

 当のアズサ本人は勿論、アリウススクワッドも困惑する始末。側から見ればこんな時に何をやっているんだと思うが、あの橋での場面に立ち会ったオレには分かる。

 違う世界に居るなんて事は無い、一緒に居られないだなんて言わないでくれ…いつでも、アズサの側に居ると。

 

「ヒフミ…でも、私の為にそんな嘘を言ってくれたところで…」

 

 

 

「誰が嘘だって!?」

 

 ほぼ毎日のように耳にする声。それが『合図』と把握するとポケットに押し込んだスカーフを口元に巻き、フードを被る。

 

「いや〜、何だか大変なところみたいだね?」

「…な?言ったろ?オレ達も関わってくるってさ?」

 

 集うトリニティでも、ゲヘナでもない生徒。…そう、アビドスだ。ヒフミからの連絡も全てはこの為、アリウスという強大な敵に立ち向かう為だ。

 

「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く…」

「骨の髄まで染み渡る恐怖を与え、その名を轟かす…」

「ん、それが私達のモットー」

「普段はアイドルとして活動してますが、夜になると悪人を倒す副業をしてるグループなんです♧」

 

「別にそれ私達のモットーじゃないから!?あと変な設定付けないで!」

「覆面水着団のリーダーであるファウストさんのご命令で、集合しました!」

 

 アドリブにしちゃ決まった…と思うも、周囲からの視線を表すならば『好奇』そのもの。その上…

 

「サンズさんが覆面水着団の一員だったなんて…」

「噂に過ぎないと思っていた覆面水着団…実在した上にサンズさんが構成員の一人でしたか…」

 

 顔見知りからの視線が痛い。…ハァ、これから先、定期的に弄られる事になるのは明白だな…

 

「なーにうちのリーダーを泣かせようとしてるのかな〜?ねぇ、そこの君達?」

「何処の誰なのか知らないけど、知らないよ?うちのファウストさんは怒ると怖いんだから」

 

「あぁ、その通りだぜ?一度激怒すれば地は裂け、海は荒れ狂い、天が割れるんだからな?」

「何せファウストちゃんは最終的に、カイザーコーポレーションの幹部を倒しちゃったようなものなんですよ?」

「ブラックマーケットの銀行だって襲える。朝飯前みたいに」

「それにこの前なんて、カイザーPMCを砲撃で吹っ飛ばしたんだからね!」

「そうだよ、恐ろしいんだよ〜?生きて動く災いと言っても過言じゃないし、暗黒街を支えるボスみたいなものなんだから」

「うん、それがファウスト」

 

「ファウスト!ファウスト!ファウスト!」

 

 ファウストのこれまでの実績と彼女を褒め称える歓声。周囲の視線などそっちのけで、先程までの緊迫とした雰囲気は完全に空の彼方へと飛んでいった。

 

「……」

「(そこまでやって欲しいとは…言っていません…!)」

 

 沈黙を貫いていたファウストは紙袋を外し、顔を真っ赤にしたファウスト…もといヒフミの顔が露わになる。

 

「ありゃ…流石にやり過ぎたか?」

 

 ヒフミが覆面を脱いだのならもう覆面水着団はお役御免。続いて次々と覆面を脱ぎ始め、本来あるべき姿へと戻った。

 

「改めて…対策委員会、今度はヒフミさんの事を助けに来ました!」

 

 数分前までは孤軍奮闘していたアズサ。だが今じゃ彼女は無数の仲間に囲まれ、先生経由で各地にトリニティにゲヘナ、学園の垣根を越えた援軍が駆けつけているとの報告が。

 まさに『逆転』といった状況、ヒヨリとマスクの少女は半ば諦めたような表情だが、リーダーのサオリはどうやら諦めるつもりなど微塵も無いらしい。むしろこちらへの憎悪と殺意を更に募らせていく。

 

「ヒフミ…」

「…アズサちゃん、私は今すっごく怒っています。すっごくです」

「ですが…それ以上に、無事でよかったです」

「すっごく怒ってましたが、よく考えてみればそれはアズサちゃんのせいではありません。ですから、私はもう怒っていません」

 

 …そりゃそうだろうな。大切な友達が自分の言葉には一切耳を傾けず人を殺めようとしたのだから。怒りたくなるのも無理はない。

 だがヒフミの言う通り、それはアズサのせいじゃない。そう考えざるを得ない環境で育ってきたのだから。

 

「ですが、あの方々についてはまだ怒っています」

「殺意ですとか、憎しみですとか…それが、この世界の真実ですとか…」

「それを強要して、全ては虚しいのだと言い続けてましたが…」

 

「それでも、私は…!」

 

 ヒフミは積み重なった瓦礫の上に登り、立ち上がる。不安定な足場にも関わらずその佇まいは堂々としていた。

 彼女の行動にアリウススクワッドは身構えるも、ヒフミは銃を構える事も無く、ただゆっくりと、口を開く。

 

「アズサちゃんが人殺しになるのは嫌です…」

 

「そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです」

 

「それが真実だって、この世界の本質だっていわれても、私は好きじゃないんです!」

 

 

 

「私には、好きなものがあります!」

 

「平凡で、大した個性も無い私ですが…自分が好きなものについては、絶対に譲れません!」

 

「友情で苦難を乗り越え」

 

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「努力がきちんと報われて」

 

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「辛い事は慰めて、お友達と慰め合って…!」

 

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「苦しい事があっても…誰もが最後は、笑顔になれるような!」

 

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「そんなハッピーエンドが私は好きなんです!!」

 

 止む気配の無かった雨が突然と止み始め、雲の間から眩しい日差しが差し込んでくる。

 

「誰が何と言おうとも、何度だって言い続けてみせます!」

 

「私達の描くお話は、私達が決めるんです!」

 

「終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!」

 

「私達の物語…」

 

 

 

 

 

「私達の、青春の物語(Blue Archive)を!!」

 

 

 

 

 

 …ヒフミが天に指差し宣言した言葉に応じるかの如く、空を覆い尽くしていた雨雲はオレ達の心にある不安と共に完全に消え去る。

 そして広がる、キヴォトスにあるべき青空が。

 

「………最高だぜ、阿慈谷ヒフミ」

「アンタは平凡なんかじゃないさ…少なくとも、オレにとってはな」

 

 友情でも乗り越えられない苦難に襲われ、努力など何一つとして報われず、誰に相談する事も出来ず、いつも最後は、誰もが不幸になる。

 そんなバッドエンドを迎え続けてきたオレにとって、彼女の言葉は…『救い』そのもの。

 

"ここに宣言する。"

 

 

 

"私達が、新しいエデン条約機構。"

 

 先生の宣言に果たしてどんな意味があるのか、オレには分からない。オレはまだこの世界の歴史には疎い…が、それが意味を成す事であるのはすぐさま理解する。

 

「ありゃ…また聖徒会のお出ましか」

「…にしては何か変だな」

 

 再び現れたユスティナ聖徒会は調子の悪い電球のように消えてはまた現れてを繰り返し、瓦礫で塞がれている場所へ向かったりと、あからさまに異常をきたしている挙動をしていた。

 無論アリウススクワッドも異変に気づき慌てふためくが、サオリは変わらずこちらへの敵意を向ける。

 

「ハッピーエンドだと!?ふざけるな!そんな言葉で、世界が変わるとでも!?」

「それだけでこの憎しみが、不信の世界が変わるとでも言うつもりか!?何を夢のような話を…!」

 

「変わらないなら、無理矢理にでも変えるまでさ」

「オイラは嫌という程にバッドエンドを見続けてきたんだ。せめてこの世界では…幸せな結末だけを見ていたいんだよ」

「…っ!お前の事情など───」

 

"生徒達の夢を…その実現を助けるのは、大人の義務だから。"

"私は生徒達が願う夢を信じて、それを支える。生徒達自身が心から願う夢を。"

 

「だけどアンタらの全てを滅茶苦茶にしたい夢は…受け入れる事は出来ない。だから…」

 

 

 

「無駄骨を折ってもらうぜ」

 

 

 

──────────────

 

 

 

 交戦が始まる。かつてない規模の。トリニティ、ゲヘナ、アビドス、アリウス…無数の学園が入り混じる大混戦。

 

「支援はオイラに任せろ!アンタらは敵を倒す事だけを考えろ!」

 

 共に戦う奴が変わろうともオレのやる事は変わらない。骨で防壁を作り、重力操作で敵の攻撃を妨害し、ブラスターで一掃する。

 途中一際デカい修道服を着た奴が立ち塞がるも三校の連合軍の前には瞬く間に敗れ去る。

 

「さーて、次はこっちの番かな〜?」

「準備は出来てる」

「…よし、こっちもだ」

「…ねぇサンズ、ケチャップ飲むのこれで何回目なのよ?」

「あー…多分四本目か?」

「飲み過ぎよ!…って言おうとしたけど、サンズはずっと骨とか出してたから仕方ないわね…」

 

 途中で散り散りになったアリウスの群勢に対応するべくこちらもメンバーを分散、オレのところのメンバーは対策委員会と風紀委員会のアコとイオリ、チナツ。

 

「いやぁ、懐かしいな?風紀委員会がアビドスに侵攻してきた時と同じ面子じゃないか」

「まさかこうして肩を並べて戦う日が来るなんて…ねぇアコちゃん?」

 

 あちこちで戦闘が行われている中、ここだけは同窓会のような雰囲気を醸し出していた。…まぁ実際久々に会うんだし間違っちゃいないけどな?

 

「…ところでサンズって先生の補佐なんでしょ?」

「あぁ、そうだぜ」

「なら私へのセクハラをやめてほしいって言ってくれない?この前なんてブラックマーケットに流れていた私の小学校の卒業アルバムを買われたんだぞ!」

「…えっ?」

 

「(…マジで?そんな事してたのか?普通にドン引きするんだが…するん、だが…)」

「…でもよくよく考えたら、本当に嫌なら力づくで奪い取れば良かったじゃないか?」

「あっ…」

「なのに先生の手に渡ったままにしているアンタも、実はそこまで嫌な訳じゃ…」

 

「…何を話しているんですかイオリ、サンズさん?敵が接近中ですよ!」

 

 アコに名前を呼ばれ、何戦場のド真ん中で話しているんだと我に返る。前方から接近するのはアリウス生と聖徒会の群勢。

 分散した、と言っても数はオレ達よりも遥かに上。本来なら絶望的な状況だが、襲撃時と異なり全員が準備万端な状態。負ける気など微塵も無い。

 

「向こうに居るのは全員敵で間違いないよな、アヤネ?」

「はい。ですが気をつけてください…敵勢力にはまだ、未知の部分が───」

 

「だが倒せる事は分かっている」

 

 今まで周りに人が居るから、建物が崩壊するから…そんな理由で出し惜しみしてきたブラスターを一斉に召喚する。

 ここ周辺の住民の避難は完了しているし既に崩壊している建物を吹っ飛ばしても…誤差だ。

 

「大盤振る舞いだ、ありがたく思えよ?」

 

 『パチン』という指を鳴らす音と共に放たれる、逃げ場など存在しないと断言出来る密度の光線が敵勢力に襲いかかる。

 無い鼓膜が破れんばかりの轟音。地震かと思い違う程の揺れ。飛び散った瓦礫の破片が顔に当たる。

 

「…ちょっとやり過ぎじゃな〜い?サンズ君?」

 

 煙が晴れると前方に居たのは光線をモロに食らい気を失ったアリウス生のみ。聖徒会は恐らく全員強制成仏だ。

 

「…私達の出番、ほぼ無かったんだけど?」

「ん…でもこれで私達の担当は終わった」

 

 シロコの言う通り、これでオレ達の役目はほぼ終わったと言ってもいい。それでも補習授業部を今に至るまで見守ってきた以上、まだ終結していないだろう彼女達とアリウススクワッドの戦闘に加勢する必要がある。

 

「オイラは古聖堂に戻る。ここはアンタらに頼むぜ」

「了解です☆お気をつけて、サンズさん!」

 

 対策委員会と風紀委員会の皆と一旦別れ、自分はテレポートで古聖堂に戻る。だがどういった訳か居たのはヒフミとハナコとコハルのみ、先生とアズサ、アリウススクワッドの姿は何処にも見当たらない。

 

「サンズさん!」

「ヒフミ!ハナコ!コハル!先生達は何処に行ったんだ!?」

「あ、あちらの方に…アリウスの方々はまだ何が手段があるみたいで…『古聖堂の地下』と言っていました」

 

 ヒフミが指差す方向へ目を向けると、確かにまだ真新しい足跡が向こうへと続々と続いている。これを辿っていけばいずれ先生達の元へ着く筈。

 

「…分かった。オイラも行ってくる」

「…はい、待っています」

「サ、サンズも気をつけてねっ!」

「ふふっ、帰ってきましたら約束通り、勉強の一環としてサンズさんの骨格を見せてくださいね?」

 

「……そんな約束をした覚えは無いからな!!」

 

 

 足跡を辿り、時には勘で進み、辿り着いたのは巨大な洞窟。所々で倒れているアリウス生を見る辺り、ここがヒフミの言っていた『古聖堂の地下』で間違いないだろう。

 

「…ここの地下に、こんな空間が広がってるなんてな」

 

 先へ進むにつれ辺りの雰囲気がガラッと変わる。自然の摂理によって作り出された無骨な洞窟から、明らかに人の手が加えられた聖堂へと。

 これまで山の地下に広がる遺跡やら溶岩地帯やら都市やらがある場所で暮らしてきたもんだから、そこまで驚く事はなかったが。

 

「さて…先生達は一体何処まで───」

 

 耳を澄ます。微かに聞こえる銃声と荒々しい声。

 …戦っているんだ、アズサが。歩く速度を上げ、奥へ奥へと駆け出す。

 

「先生!」

"…サンズ!"

「アズサ達は何処だ!?」

 

"…あそこだよ。"

 

 合流した先生の眼前に広がる広場で激闘を繰り広げるのは他でもない、アズサとサオリ。お互いに言葉を交わす事も無く、ただひたすらに銃を撃ち、時には近距離戦に持ち込み、一進一退の攻防が続く。

 数多のアリウス生達の中でも優れた能力を持つアリウススクワッド、更にそのリーダーであるサオリ。純粋に生きてきた年月と戦いに身を置いてきた年数、共にアズサよりも上回っているだろう。

 

「…っ!!」

 

 これまで蓄積してきた疲労とダメージによって足元が蹌踉めくアズサ。当然その隙をサオリが見逃す筈も無く、怒りに殺意、嫉妬、あらゆる負の感情が入り混じる眼光で無慈悲な銃撃を浴びせる。

 

「……まだ、だ…!」

「いい加減諦めろ、アズサ…!お前が私に勝てた事など一度も…!」

 

 彼女はオレ達が駆けつけた時から既に満身創痍だった。にも関わらず休む事無く戦い続け、最早ああして立ち上がっている事すら奇跡とも言える。

 

「…だとしても、それが抗う事をやめる理由にはならない。この世界が虚しさだけではない事を、私は学んだから…!」

 

 何も知らない奴からすれば、彼女達の勝敗は明白だ。あらゆる面において、アズサがサオリに勝てる要素など…

 ……いや、あったな。アズサはサオリと違い、未来に『希望』を見出している。希望を抱き、夢に満ち…そうして自分より遥かに強い、世界を滅ぼそうとする奴に打ち勝った奴をオレは知っている。

 

「はぁぁぁっ!!!」

「ぐうっ…!?」

 

 避けずに真っ向から向かってくるアズサに銃弾の雨が降りかかる。想像するだけでも身の毛のよだつ全身の痛み。それでも彼女は止まらない。

 強引に懐に潜り込んだアズサからの渾身の一発。顔を顰め後退するサオリを彼女は逃さない。更なる追撃をお見舞いする。

 

「…何故だ、何故だ!?」

 

 先程までの戦況が一転、サオリが押されつつあった。この短時間で急激にアズサの力が増した?いいや、そんな事はあり得ない。

 ただ一つ、彼女を強くする理由があるとするならば…仲間。ヒフミ、ハナコ、コハル…その場に居なくとも、彼女の勝利を願う者達の願いが、彼女を強くしているんだ。

 

「───終わりだ!!」

 

 アズサの銃から放たれるのは、彼女の持つ力や記憶、信念…『全て』を込めた最大級の一撃。それに対応する余裕などとっくに無いサオリに直撃、壁に銃弾の勢いそのままに叩きつけらた。

 

「う…くっ…」

「アズ、サ…」

 

 それでも尚立ち上がるサオリだったが、即座に地面に倒れ、動かなくなる。

 これによって広場に立つのはアズサ、ただ一人。

 

 

 

 …アズサの勝利だ。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

"「アズサ!」"

 

 力を使い果たし、倒れそうになるアズサをテレポートで移動し支える。

 

「先生…サンズ…」

「よくやったな、アズサ。全くすげぇ奴だ、アンタは…」

 

「…ん?」

 

 数時間にも渡る戦闘で心身共に限界に達しているだろうアズサを休ませるべく壁際に近づこうとしたところ、ヒヨリとマスクの少女に加え、割れた仮面を付けている少女が居る事に気づく。

 …酷い傷だ。割れた仮面から覗く赤く透き通った瞳がこちらを見つめていた。

 

「アツコ…」

「げほっ!姫、どうして逃げなかった…」

 

「私達の負けだよ、アズサ」

 

 『アツコ』とも、『姫』とも呼ばれる少女は自身達の、アリウスの敗北を認める。そして、サオリ達に共に逃げようと。

 

「アズサが教えてくれた」

「いつからか持っていたこれは…私達の憎しみじゃない」

「この憎しみを、私達は習った。それからずっと、私達のものだと思い込んでいた」

「…アズサはきっと、それに気づいたんでしょう?」

 

「アズサは色々な事を学び、様々な経験を得た…」

「良い大人に出会えたんだね、アズサ」

「そして、自分の居るべき場所を見つけた」

「だから、サオリ…一緒に逃げよう」

 

 …しかし何とも嫌な言葉を聞いた。サオリの「アリウスに帰ったところで殺される」と。ありもしない憎しみを植え付ける洗脳教育、使い物にならなければ即始末。…嫌でも彼女達の育ってきた環境がいかに劣悪なのかを理解する。

 彼女達はこれから犯罪者として無数の学園から追われ、育った学園からもその命を狙われる。そんな事があっていいのか?いいや、ナシだ。

 

 …そういやオレの家には使っていない部屋が有り余っている。オレ一人で住むには広過ぎると前々から思っていた。ついでに店の方も訪れる客が更に増えてきて、一人で回すには少々キツくなってきた。

 彼女達が嫌じゃなければ、の話だが…オレの家に彼女達を匿う事が出来るんじゃないか?

 

「…なぁアンタら!ちょっと聞いてくれ!」

「アンタらが嫌じゃなかったらの話だけどさ…オイラの店で働くつもりはないか?」

「働く…ですか?」

 

「あぁ、ヒヨリなら分かるだろう?ホットドッグだ。衣食住も提供するさ。…オイラとのシェアハウスって条件だけどよ」

「戦ったから、殺し合ったから…そんな理由でアンタらへの扱いを悪くしたりなんかしないさ」

「今じゃなくてもいい、頭の隅にでも置いていてくれ。誰かが苦しむ光景なんて───」

 

 「誰かが苦しむ光景なんて、オイラはもう見たくない」。そう言葉を口にしようとした途端、地面が激しく揺れる。

 

「地震…じゃねぇみたいだな」

 

 …何かが、来る。正体こそ分からないが、オレの想像を遥かに超える強大な存在が。それは先生達も察知しているようで、満身創痍の体に鞭を打ち銃を構える。

 

 

 

「…何だありゃ…」

 

 

 

 広場に姿を現す、未知の存在。

 二対の腕。

 真紅のローブを纏い。

 聖堂の天井に届かんばかりの身丈。

 表情は…というよりも『顔』そのものが無い。

 

「…オイラよりもよっぽど『モンスター』らしい見た目じゃねぇか?」

 

 …さて、どうしたものか。アズサにこれ以上戦えだなんて言える筈も無ければ、アリウススクワッドに協力を仰ごうにも彼女達も到底戦えるような状態じゃない。

 

「ちょいとキツいけど…ここはオイラ一人で…」

"待って。"

 

 前に出ようとするも先生の腕が遮る。

 

「何をする…つもりなんだ?アンタ自身に戦う力は…」

"うん。だから私の役目は、彼女達を指揮する事に変わりない。"

 

"出さないで終わらせたかったけど…"

 

 先生がコートの胸ポケットから取り出したのは、ごく普通のクレジットカード。

 

「…おいおい、それで一体何をしようって───」

 

 

 

 

 

 ───その瞬間、オレは信じられないものを見た。

 

 砂に埋もれた学園だとか、限りなく人間に近いロボットだとか、隕石を降らす少女だとか…キヴォトスに来てからというもの、『信じられないもの』は数多く見てきたが、こればかりは本当に信じられない。

 

 先生がカードを掲げた途端、今ここには存在しない筈の生徒達が次々と姿を現す。

 

「…ナギサ!?アンタ確か意識を失ってたよな…!?」

 

「ハナコ…!?さっき外で待っているって…」

 

「ホシノまで…待て、どうして水着姿なんだ…!?」

 

「アリスか…これは何だ?レイドクエストか?」

 

「…『百鬼夜行』?…初めましてだな」

 

 顔馴染みから初対面の奴、顔馴染みではあるもののどう考えても場違いな格好をしている奴、そして何より…

 

「……サオリ?」

 

 …本当に意味が分からない。ボロボロで立つのもやっとなサオリとは別に、無傷のもう一人の彼女が現れたのだから。

 

"皆、行くよ!"

 

 先生の指揮の下、ホシノとアリス、百鬼夜行の少女とサオリの四人が怪物へと走り出し攻撃を開始する。後ろを振り向くとナギサとハナコは…どうやら後方支援の役割らしい。

 異なる学園同士が協力し合い、共通の脅威に立ち向かう。…これが本来あるべき、キヴォトスの姿なんじゃないか?

 

「…改めて、オイラも行くとするか。オイラは勝手に支援するけど、して欲しい行動がありゃ指示してくれ」

"うん。頼んだよ、サンズ!"

 

 ホシノが最前線で攻撃を引き受け、サオリと(先生が指揮する際に呼ぶ名前から)チセがその陰から絶え間無く攻撃を加え、後方でアリスの強力な光弾が敵に確かなダメージを与える。

 

「皆!ここに隠れろ!」

"助かったよサンズ!"

 

 聖堂の広場は広いが隠れられるような遮蔽物が無い。そこでオレの骨が一層役に立つ。どれだけ強力な攻撃だろうとヒビ一つ付かない。

 それでも僅かな隙間から攻撃を食らってしまうが、ハナコによる回復で負った傷はたちまち癒えていく。

 

「(またユスティナ聖徒会か…)」

「…だけど固まっているのが運の尽きだ」

 

 性懲りも無く立ち塞がる聖徒会の群勢目掛け青い骨を出現、動きを封じる。

 

"…!"

"アリス!今だ!"

 

 

 

「───光よ!!」

 

 アリスの武器の電力のフルチャージが完了。彼女の掛け声と共に発射される極太のレーザーが聖徒会を殲滅、真紅のローブの怪物諸共貫く。

 

"次は…"

"皆、一旦離れて!"

 

 前方に爛々と輝くトリニティの校章が現れる。何が来るのかと思いきや、吹き飛ばされんばかりの猛烈な爆撃が怪物に襲いかかる。

 

「しっかし一体何処からあんなものが…」

「どうぞこれを…」

「あぁ、ありがとさん…ってえっ?」

 

 突如ナギサから渡されたロールケーキ。いつ何処で持ってきたんだ…?と思いつつ口に運ぶ。

 …そうか、さっきの爆撃も彼女によるものか。ヒフミがホシノ救出作戦時に協力してくれた際、似たような兵器で支援していた事を思い出す。

 

「…まだ動くか」

"…頑張って。かなり弱っているみたいだから。"

 

 ロールケーキを食べ終えると同時に怪物が活動を再開する。デカさに見合った頑丈さだが動きは戦闘開始時と比べ明らかに鈍っている。

 

「んじゃ…こんな薄気味悪い所からはさっさとおさらばしたいんでな。さっさと終わらせるか」

「…子供でなけりゃ生徒でもねぇ。そもそも『生物』であるかどうかも怪しい。そんな奴に…」

 

 

 

「容赦する理由なんて、無いよな?」

 

 残る魔力を全て使い果たす勢いでブラスターを召喚する。聖堂の何処を見てもその姿を確認出来るぐらいに。

 ものの数秒でチャージは完了。オレの行動を妨害すべく再び聖徒会が顕現するが、チセの銃弾から燃え上がる青い炎が即座に焼き尽くす。

 

 …終幕を迎える準備は整った。

 

"…サオリ!"

 

 隣に並ぶサオリが銃を構える。オレの知る『サオリ』じゃないんだろうが、かつて対立した者同士が共に戦うなんて…中々アツい展開じゃないか?

 

 

 

「…終わりだ」

「vanitas vanitatum」

 

 

 

 青白い閃光が迸る銃弾と、夥しい数の光線。オーバーキルとも言える攻撃は、怪物を跡形も無く消し飛ばすには十分だった。

 …気づいた頃には隣に居たサオリも、他の生徒達も姿を消していた。聖堂に残されたのは、激戦の痕跡のみだった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

 …全てが、終わった。大混乱に陥っていたトリニティもゲヘナも、次第に落ち着きを取り戻していった。

 襲撃により意識を失っていた各学園の要人も次々と目覚め、何より…

 

「ちゃんと目覚めたようで何よりだよ、セイア?」

「君が約束してきたのだろう?『次はあっちで会おう』と」

 

 長い間夢の世界に留まっていたセイアも目覚めた。ミカは変わらず監獄生活のままだが、これでようやくティーパーティーの各派の代表が揃ったって訳だ。

 

「ねぇサンズ!たまにでもいいから私のところにホットドッグを差し入れに来てくれないかな?」

「別にいいけど…妙に必死な顔だな。何があったんだ?」

 

「…ナギちゃんが私の食事を全部ロールケーキに変えちゃったんだよ〜!このままじゃ私、ロールケーキ中毒になっちゃう!」

「今度は一体何をしでかしたんだアンタは…」

 

 …揃って真っ先にこれとは、先が思いやれる。

 

「さてと、補習授業部は…」

 

 最初はただ落第を免れる筈がいつの間にかトリニティに渦巻く陰謀に巻き込まれ、更にアリウスの野望にも巻き込まれ、今思い返せば散々な目に遭った補習授業部。

 今更だが彼女達は全員試験に合格、補習授業部に居る必要はもう無くなった。…無くなった、のだが。

 

「……どうしてまたアンタらが居るんだ??」

 

 新たな補習授業部のメンバーが来たと聞き駆けつけたかと思えば、そこに居たのはいつもの四人。ヒフミ、ハナコ、アズサ、コハル…見事に勢揃い。

 

「ペロロ様のコンサートに参加していたのですが、実は試験日だったようで…」

「次の試験範囲はまだ習っていない」

「えっと、その…3年生の試験を受けてみたんだけど…」

「一人だけ放置プレイなんて、寂しいじゃないですか♡」

 

「……へへへ…」

 

 

 

「…アンタらには、サイアクな時間を過ごす必要があるみたいだな?」

 

 …まぁ、彼女達以外に成績不良の奴が居ないって理由では安心感がある。また勉強を教えればいい、ただそれだけだ。

 まだまだ解決しなければならない問題はあるが、こうしてエデン条約を巡る複数の学園に影響を与えた騒動は閉幕を迎えた。

 

 

 

 

 

「……来ないか」

「返事聞くの、忘れちまったな…」

 

 …あれから一切姿を見せない、アリウススクワッドが唯一にして最大の気がかりだった。

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