Blue Archive: Visitor From Underground   作:暗黒星 堕零

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「こっちは真の虚しさってもんを体験してるんだよ。何度も、何度も、な」


偽りに彩られた憎悪

 借金の返済、廃部の阻止、エデン条約…キヴォトスに来てからというもの立て続けに様々な出来事に見舞われたが、ここ最近はそれなりに平和な生活を送っていた。 『それなり』にというのは…まぁ、相変わらず先生の補佐として各地を走り回っていたからだ。

 まず最初に話すなら…『RABBIT小隊』の事だろうか。連邦生徒会長の失踪により閉校したSRT特殊学園に所属していた…いや、彼女達の気持ちを汲み取るなら所属しているミヤコ、サキ、モエ、ミユの四人。彼女達はヴァルキューレ警察学校への編入を拒否し、とある市街地の公園にてデモを続けていた。

 仕方なかったとは言え先生とオレは武力で制圧。そのお陰で初対面は最悪の一言、数日間気まずい期間が続いていた。それでもオレ達は根気強く彼女達に歩み寄り、強い信頼を築く事が出来た。

 

"誰かが来ないかどうか、ちゃんと見張っていないとだけどね。"

「そうだな、無防備な隙を狙って…」

 

「……じゃねぇよ。何生徒の入浴姿覗いてんだ」

"だって彼女達を危険に晒す訳には…"

「…ほら、[[rb:コレ > 骨]]で安全もモラルも確保出来たぞ。アンタが牢屋にブチ込まれるところなんて見たくないからな」

 

 …『先生』でなければ危うくムショ送りになるところを阻止した記憶が一番根付く残っているのはどうなんだろうな。

 

 

 

 …あぁそうだ、トリニティでも色々あったんだったか。ティーパーティーに救護騎士団にシスターフッド、各派閥が集まる会議に先生と共に参加し、小難しい話を聞いていた事が真っ先に思い浮かんだ。

 左右から、前方から絶え間無く浴びせられる情報の波に飲まれつつも何とか整理した話をまとめると、

 

「アリウス自治区の場所は未だに不明」

「アリウスが潜入の経路として使用したカタコンベは定期的に道が変わる」

「行方が知れないアリウススクワッド以外にカタコンベの詳細な情報を知っているのは、かつてアリウスと内通していたミカ」

 

…といった具合か。どうやらまだ、アリウス関連の問題は終わっていないらしい。

 そして問題はアリウスだけじゃない。トリニティ…主にミカについてだ。彼女のこれからの処遇を決める『聴聞会』もだが…何より彼女が他のトリニティ生から陰湿ないじめを受けている事に心を痛めた。

 

「よぉミ…」

「…大丈夫、か?」

「…どうしたのサンズ?私は平気だよ?」

 

 ミカとはホットドッグの差し入れなどで定期的に会う。だから彼女がいじめられる光景は…あぁ、嫌でも目に入る。物を投げられ、罵られ、所持品を燃やすなんて度を越している。

 確かにミカの所業はなぁなぁで済まされるようなものじゃない。だからと言って私刑が罷り通ってたまるものか。

 

 …こう振り返ると、微塵も平和じゃなかったな。むしろ物騒なぐらいで…

 

「こんな時間に一体誰が…」

「…先生か?」

 

 ここ数日の出来事を改めて整理している中、先生からのモモトークが届いた。

 

 

「悪い予感しかしないんだが…本当に来て良かったのか?」

"短い文章だったけど、助けを求めていた。行かない理由は無いよ。"

 

 時は雨が降りしきる夜、場所はキヴォトス某所の名も無き路地裏。先生が宛先人不明のメールからここに来てほしいと言われた訳だが、どう考えても何か裏がある。

 

「アンタが人の頼みを断り切れないお人好しって事は分かってるけどさ、にしても警戒心が無さ過ぎるぜ?」

"でもいざという時には、サンズが守ってくれるでしょ?"

「…頼ってくれるのは嬉しい。だけどこっちもアンタ同様撃たれたらお陀仏で───」

 

 前方からオレ達以外の気配を感じ取り、咄嗟に臨戦体制に入る。そもそもこんな人気の無い場所に呼び出す時点でマトモじゃない奴なんて事は分かりきっている。

 いつ何が起こっていいように身構えていると、現れたのは予想外の人物だった。

 

"「…サオリ?」"

 

 アリウススクワッドのリーダー、サオリ。行方不明だとは知らされていたがまさかここで再び会うとは思いもしなかった。

 先生を始末しに来たのか…と一瞬思うがどうも殺意は一切感じられない。無言でこちらに近づく彼女はオレ達の目の前で止まると、被っている帽子を、背負っている銃を地面に置き───

 

"……!?"

「ちょっ…アンタ、何をして…」

 

 雨でずぶ濡れになった地面に躊躇う事無く手を、膝を付け…土下座をした。

 

「…先生、サンズ」

「アツコが…連れて行かれた」

「他の仲間もアリウスの襲撃に遭って、散り散りに…生死も不明だ…」

「あれから何日も…逃げてきたが…」

「私では彼女を止められなかった…」

 

 彼女達の置かれている、余りにも凄惨な状況に言葉が出ない。オレが呑気に気ままに生活していた間も、彼女達は生きるか死ぬかの日々を送ってきたのか。

 

「このままでは…アツコは…姫は…死んでしまう…」

「明日の朝…夜明けと共に『彼女』に殺されてしまう…」

「私の話など、信じられないだろうが…これだけは、真実だ…」

 

 サオリは俯きながらアツコの出生を語る。幼い頃から『生贄』にされる為に育てられてきたのだと。そんな運命を変えたいなら、エデン条約を強奪しトリニティとゲヘナを手中に収めろと。

 だがその野望は他でもないオレ達に阻止され、任務は失敗。サオリは文字通り、全てを失った。

 

「…今の私は落伍者だ。トリニティにも、ゲヘナにも───同じアリウスにだって助けを求める事など出来ない」

 

 

 

「だから、頼れるのはもう、先生達しか…」

 

 先生とお互いを見て、頷く。オレ達がやるべき事はただ一つ、サオリを…アリウススクワッドを助ける事だ。

 

"立って、サオリ。"

「だ、だが…」

"私はサオリと、対等に話がしたい。"

「だってよ。素直に受け入れるべきだと思うぜ?」

 

 立ち上がり、帽子を被ったサオリに先生は問いかける。『彼女』とは一体誰の事なのだと。

 

「『彼女』はアリウス自治区の代表であり、アリウス分校の主人。私達は『彼女』と呼んでいるが、他の生徒は『マダム』とも呼ばれている」

「私も数回しか姿を見た事はない…背が高く、赤い肌を持ち、白いドレスを纏った大人だ」

 

「名を『ベアトリーチェ』…私よりも、姫がよく彼女と会っていた」

 

 ベアトリーチェ…当然話した事も見た事も無いが、オレは既にソイツが嫌いだ。子供を利用する大人…いつかの黒服と同じ類の奴か。

 次に先生が尋ねるのは他のスクワッドの現在地。散り散りになっているのはついさっき聞いたが、アツコはアリウス自治区にあるアリウス・バシリカなる場所の地下の至聖所に居るという。

 

"…分かった。状況は大体把握したよ。"

「アツコに残された時間はほぼ無いんだろ?ならこうして突っ立っている暇なんて無い、だから…」

 

"「サオリ、君/アンタを助けるよ」"

 

「……本当、に?手を貸して、くれるのか…?」

「あぁ、本当だ」

 

 サオリの言葉に頷く。先生は勿論の事、オレも何やかんや困っている奴は放っておけない性分なんでな。

 

「わ、忘れたのか?私は、お前達を撃とうとしたんだぞ!」

「お前達の命を奪おうとしたのに、どうしてそんな簡単に…理解出来ない…どうして…」

 

「先生ってのはそういう奴なのさ。呆れる程お人好しで、生徒の為なら何でもするし、何処へでも行く」

「たとえそれが自分を殺そうとした奴でもな?はっきり言って変人だ。まぁオイラのところでも殺そうとした奴と友達になった奴が居たし、見慣れたもんだな」

 

"へ、変人…と、とにかく、爆弾は没収。"

 

 先生はサオリが「自分を信用出来ないなら使っていい」と持ち込んだ、ヘイローを破壊する爆弾とかいう物騒極まりないものを起爆装置含め回収。

 

"サンズ。"

「おう」

 

 爆弾一式を重力操作で空高く浮かばせ、安全を保証出来る十分な高さまで達するとブラスターで木っ端微塵に消し飛ばす。

 

「な、何を…!?」

「何って…危険物を処理しただけだが?」

"さぁ、時間は無いよ。急ごう。"

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ先生。私はまだ理由を聞いていない…」

「ま、待ってくれ…!!」

 

「…強いて言うなら、アンタが『生徒』だからかな」

「んじゃコレに乗っていくぜ。しっかり掴まれよ!」

 

 ブラスターに先生と困惑するサオリを乗せた事を確認すると自身も乗り、他のスクワッドの面々と合流するべく空へと飛び出していった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

「見つけた!ヒヨリだ!」

「オイラに任せておけ」

 

 先程とはまた別の路地裏にて、アリウス生にジリジリと追い詰められているヒヨリを発見する。

 

「すまないが、アンタらはお探しじゃない」

 

 地面に降り立つと同時に乗っていたブラスターから光線を発射、難無く邪魔者を蹴散らす。

 

「ヒヨリ、大丈夫か!?」

「リ、リーダー…どうしてここが…」

"ヒヨリ、無事でよかった。"

「店来ないから心配してたんだぜ、ヒヨリ?」

 

「……」

「…………」

 

「…え、えぇっ!?」

 

 サオリに加えオレ達まで来るとは思わなかったのか、ヒヨリは酷く驚く。衣服は所々汚れているものの、元気そうで何よりだ。

 

「シャ、シャーレの先生に…サンズさんまでどうしてリーダーと一緒に居るんですか…!」

「それは…」

「つ、ついに天罰の時がやって来てしまったんですね?やっぱり、私は終わりなんだ…」

「そうですよね…よくよく考えてみたら、先生は私達をアリウスから取り返したいですよね…自らの手で処罰したいでしょうから…」

「私達を捕まえて、シャーレにあると噂の地下牢に入れる気…痛っ!?」

 

「落ち着け。別にオイラ達、そんな事しねぇから…」

"ヒヨリを助けに来たよ。"

 

 謎の被害妄想からパニックに陥るヒヨリに、少々強引ではあるが小さな骨を当てて正気に戻す。

 彼女が落ち着いたところで事情を説明する。お互い利用している訳でもさせている訳でもない、アツコを助ける為に動いている事を。

 

「そうだ、姫ちゃん…」

「は、果たして私達で…姫ちゃんを助けられるんでしょうか…?」

「わ、私は…」

 

「リーダーの居場所を教えれば、アリウス自治区に戻れるよう便宜を図ると『彼女』に言われました…」

「…っ!?」

「わ、私はリーダーの言葉に従っただけの存在だから…情状酌量の余地があるのだ、と言っていて…へへ…」

 

「…だとしても、結局は教えなかったんだろ?教えていたら、サオリは先生にメールを送れるような状態じゃなかった筈だ」

「そ、そうなんです…実はもう断っていて…」

 

 消耗品みてぇに散々使い潰したと思ったら仲間割れまで誘発させるとは…ベアなんとかって奴も中々性格が悪いな。だが彼女達の絆はそう容易く断ち切れるものではなかったらしい。

 

「そもそも、『彼女』の言葉が本当かどうかも分かりませんし…それに、もう私達は同じ船に乗った運命共同体のようなものですし…私一人で自治区に戻ったって、何の意味も…」

「それに…私一人が救われたとしてアツコちゃんは…」

「わ、私も皆でアツコちゃんを…姫ちゃんを助けられるなら、その方がいいと思うんです…」

 

「それはリーダーだって同じじゃないですか?だから私を助けに来たんですよね?」

「…ああ、そうだ」

「詳しい話は全員集まってからにしよう。まずはミサキを探さないと」

 

 ようやくあのマスクの少女の名前が分かった。…『ミサキ』か。

 囚われのアツコを除くアリウススクワッドは残りミサキ、彼女と合流しなければ。

 

「あの…サンズさん、怒って…ますよね?」

「…何がだ?」

「何って…前からお世話になっていたのに裏切るような事をしてしまって…」

 

「別に怒っちゃなんかいないさ。…ただ、ちょっと悲しかったけどな」

「…そう、ですよね。ごめんなさ───」

「だけど、お得意様のアンタが無事なのが知れて嬉しかったよ。さぁ次はミサキだ、行こうぜ」

「…はい、ありがとうございます。へへ…」

 

 

 

「(和解したと油断させてから殺したり、友達になった後に誰かを殺した奴を見てきたから慣れちまっている…とは言えねぇよな…)」

 

 

 サオリ達がミサキの居場所に見当があると案内され向かったのはとある橋。長年に渡り使われていなかったのかひどく古びている。

 

「…にしてもやたらと高ぇ橋だな…」

"目眩がするような高さだね…"

 

「それに、下の川は水深5m以上はある」

 

 声がした方向へと顔を向けると、そこには橋のフェンスに腰掛けるミサキの姿が。

 

「流れも速いから、落ちたらまぁそのまま水底に沈む事になるだろうね」

「ミサキ」

「ミ、ミサキさん…」

 

「リーダーにヒヨリ…そして『シャーレ』の先生に補佐のサンズか…」

「そっか…そういう選択なんだね、リーダー」

「まさかリーダーが、ね…それに、先生達もそれを受け入れたんだ…」

 

「でも先生、知ってる?」

「私達は『先生』を始末すれば、アリウス自治区に戻れる」

 

 ミサキは自分達アリウススクワッドは先生を始末すれば裏切りを許す、と案の定ベア…もといマダムに言われたという。

 

「…いつ後ろから引き金を引くか分からないのに、先生は私達を信用するの?」

 

 口ではそう言うが、そういった素振りは一切見せない辺り彼女もサオリ達と同じなのだろう。今まで自分に従ってきた生徒達を容赦なく始末しろと命令するマダムの言葉なんて、信じられる筈が無い。

 

「しかも、それが『かつて自分を撃とうとした相手』なのに?」

"サオリがその気だったら、とっくに私は無事じゃないよ。"

 

「…そっか」

「でも、だからといって私は変わらないよ」

 

「おい…!」

"ミサキ、そこは危ない…!"

 

 ミサキは何をするのかと思えば、今まで腰掛けてきたフェンスに登り僅かしかない足場で立ち上がる。…少しでも後ろに傾けばすぐさま川目掛けて落ちてしまう程の。

 

「姫を救うのは無理」

「アリウス自治区に潜り込んでどうするの?姫が居るバシリカに辿り着く為に、四人で戦うの?アリウスの全生徒と?しかも日が昇るまでに?」

 

 …確かに彼女の言う事も一理ある。アリウススクワッドと通常のアリウス生、個々の実力は前者が上回っていても数に物を言わせればいずれかは押し負ける。

 しかも時間制限付き、何も知らない奴から見れば無理難題としか思えない。

 

「もし仮にアツコを救出出来たとして、そこに何の意味があるの?」

「帰る場所も無いこの世界に取り残されて、泥水を啜って生きるだけの…この無意味で苦しい人生が続くだけでしょ?」

「……」

 

「苦痛ばかりだった姫の人生を引き伸ばして…そこに価値があるの?」

「『全ては虚しいものである』ただそれだけが、私達が納得出来る真実」

「そうじゃない?リーダー」

 

 ミサキは視線を川へと向ける。「今すぐにでも飛び降りる気は満々」である事を伝えるかのように。

 

「それとも、先生…大人であるあなたなら、この答えを知っているの?」

"待って、危ない!それ以上動いたら…"

 

「黙れ、ミサキ」

 

 沈黙を貫いていたサオリの口から放たれたのはミサキへの叱責の言葉。それと同時に、そこから飛び降りても何をしようとも自分が助けると。

 

「今まで何度やっても無駄だったのに、今回は成功出来るとでも思っているのか?」

 

 『何度やっても』…そうか、彼女の首や手に巻いている包帯は、そういう事だったんだな。何度も己を傷つけて、その度サオリに止められた。

 

「…まぁ、自信は無いかな」

「…というか私の体、幾ら後ろに体重を傾けても動かないし。…サンズ、あなたの力でしょ?」

 

「よく分かったな、その通りだ」

「それに、私がここに登った瞬間から。最初から何をするか、分かっていたみたいに」

「それは───」

 

 「アンタと同じ、自ら命を絶とうとした…いや『絶った』奴を知っているからだ」と言おうとしたところで口をつぐむ。そもそもこんな事、言うもんじゃない。

 …一体何度目の中途半端な結末だっただろうか。トリエルとアンダインが殺され、新たにメタトンが地下世界の王になった世界。オレはメタトンのボディを修理してから、行方をくらましたアルフィーが気がかりで彼女を探していた。

 スノーフルにも、ウォーターフェルにも、ホットランドにもコアにも都にも居なかった。だから最後に探したのは、かつてオレが居た地下の研究所。

 

 ───そこでオレは見つけた。パイプ椅子の上に積もった塵とメガネ、天井からぶら下がった縄を。

 …アルフィーは、アンダインの死に耐えきれず自ら命を絶った。「ごめんなさい」とだけ書かれた遺書を残して。吐瀉物が喉の奥から迫り上がってくる感覚を感じながら世界が再びリセットされた記憶は…今でも鮮明に覚えている。

 似たような結末はそれからも何度も迎えたが、地下の研究所に足を踏み入れる気は微塵も湧かなかった。

 

「……まぁ、何となくだよ、何となく。さぁそんな危なっかしい所からはさっさと降りな」

 

 やれやれ、と言った感じでフェンスから降りたミサキはアツコの救出に協力する事を伝える。これで作戦に必要なメンバーは揃ったって話だ。

 

「そうと決まったら急ごう…残された時間は90分。それまでに入り口に辿り着かないと」

「…成る程、0時まであと一時間半…急ぐとしよう」

「説明は向かいながらする…行くぞ」

「一名追加…ってところか。行くぜ、ブラスター」

 

 

 アリウス自治区に潜入出来るトリニティ地下のカタコンベに向かう最中のブラスターの上で、その詳細をミサキを中心に聞いていた。

 

「カタコンベの入り口は判明しているだけで約300か所」

「その中で本物の入り口はごく僅か、間違えれば迷い続ける羽目になる」

「カタコンベの内部は一定周期で変化する」

 

 道が変化し入れ替わる、到底自然に出来たものとは思えない。何かしらの力が働いている事は間違いないだろう。…きっとあのマダムって奴の仕業だ。

 彼女達は以前まで正しい道を示す暗号を渡されていたのだが今やアリウスと敵対する側、当然持っていない。

 

「で、でも…たった一つだけ、まだ使える入り口が残ってます」

 

 その入り口も日付が変われば閉ざされ使えなくなる。ミサキの言っていた『90分』はこの事だったか。

 

「…で、最後の頼みの入り口には着いたが…」

"見張りが居るみたいだね。"

「サンズ、降下を頼む。戦闘準備を…」

 

「いいや、このままで十分だ。そこそこの数は居るが、あの程度なら…」

 

 オレ達が乗るブラスターとはまた別のブラスターを召喚、見張りに向け狙いを定める。

 

「…!上空に『スクワッド』を確認───」

 

 向こうがこちらに気づくと共に光線が爆撃の如く襲いかかる。撃ち返してくる奴は誰一人として居ない、今の奇襲で全員沈めたか。

 

「…見張りの鎮圧を確認。アレを敵対していた頃に貰わなくて良かった」

「わ、私は直撃しましたけどね…へへ…」

「…すまん」

 

 そこからカタコンベへと通じる地下道へと入るもやはりと言うべきか無数の敵が。マダムはオレ達がこの道を使う事はお見通しらしい。嫌なもんだ。

 だが歩みは止めない。サオリが前方を切り開き、ミサキとヒヨリが後方から強烈な一撃をお見舞いする。

 

「遮蔽物が…」

「ミサキ、こっちだ」

「…ありがとう。助かる」

 

 オレもいつものように骨で敵からの攻撃からアリウススクワッドを守る。ついでに重力操作で銃を取り上げ無力化もしてやる。

 作戦の進行状況は良好、このままなら難無くアリウス自治区に辿り着ける。

 

 …そう思っていた瞬間だった。

 

「ぐあぁぁっ!?」

 

 地下道の出口にて、最後に残ったアリウス生が突如として爆裂した壁に巻き込まれた後に気絶する。一体何が起こったのか、オレもアリウススクワッドも全く見当がつかない。

 前方に充満する土煙が晴れ、そこから姿を現したのは───

 

「…どうして、アンタが」

 

「ふふっ、やっぱりここに来ると思っていたよ。大当たり!」

「悪役登場☆ってところかな!…まだ覚えててくれてたんだね?」

「会えて嬉しい…って感じじゃなさそうだけど、どうしたの?」

 

 

 

 

 

「そんな、魔女でも見たみたいな顔しちゃって」

 

 

 

──────────────

 

 

 

 理解出来ない。理解出来る筈が無い。何故ミカがここに居るんだ?

 

「…檻の中に居ると聞いたが」

「出てきちゃった☆…早く、あなた達に会いたくってさ」

「だってほら…私達、まだお話しなきゃいけない事があるんじゃないかなって」

 

 出てきた?釈放されたというのか?いいや、そんな事はあり得ない。

 …まさか物理的に抜け出して来たってのか?馬鹿な、あの監獄は厳重な警備が…

 

「…殴り倒すつもりかアンタ!?」

 

 …いや、ミカならあり得る。かつて別館の体育館で彼女と対峙した際、空振った彼女の拳は壁に深くめり込み破片が飛び散る程の衝撃があった。

 彼女のそんな異常なフィジカルなら…監獄の壁を破壊して抜け出す事も不可能じゃない。

 

「…ミカ、どうしてこんな所に来たんだよ?助けに来てくれたのか?」

「あっ、サンズも居たんだね!でもごめんね?…その真逆だよ」

 

 また化け物じみた強さを持つミカと戦えってか?…マジで冗談キツいぜ。

 

「…先生は?」

「う、後ろから来てます…多分すぐに到着するかと…」

「私もこれまで、それなりにあなた達と行動してたからさ。ここに来るってすぐに分かったよ」

 

「…通路が閉じるまでは?」

「残り28分…まさか戦うつもり?今、あの女と交戦するのは無謀だと思うけど」

「む、無謀ですかね…?」

 

「あぁ、無謀だ。かなりな。この前はシスターフッドが参戦して来てくれたから諦めてくれたが…」

「あの様子じゃ諦める様子は…無さそうだね」

 

 先生は不在、主戦力のアリウススクワッドの体力もほぼほぼ限界に近づいてきている。状況ははっきり言って最悪だ。

 

「あはは☆愚鈍な女だと侮ってたのかな?そうだよね。でも、あなた達の暗号ぐらいは分かるんだから」

「集合場所とか、拠点とかもまだ覚えてる。こう見えても、クーデターを起こした張本人だからね!」

 

「後退して、出直すのは?」

「無理だ、時間が無い。じきに通路が閉じる」

「先生が到着するまで時間を稼ぐのは?」

「アイツと戦った事はあるし…こうして無事でいる。倒せはしなくても、時間稼ぎなら…」

 

「ねぇねぇ、私の話聞いてる?無視?無視って酷くない?これでも一緒にクーデターを起こした仲なのにさぁ」

 

 

 

「それって…仲間外れじゃないの?」

 

 冷酷な眼光を向けたまま、予告も無しに恐怖すら感じる程の速度でこちらに飛び込んでくるミカ。圧倒されつつもテレポートで皆と共に後方に退避する。

 極力無闇な戦いは避けたかったが…今の彼女に話が通じるとは到底思えない。

 …戦うしか道は無いか。

 

 

「あははっ、その程度なの?」

 

 交戦…いや交戦とは言い難い一方的な蹂躙が続いていた。攻撃は常識外れのスピードで回避され、反対にミカの攻撃はこれまた常識外れの火力で直撃を恐れ防戦一方の状態。

 

「そんな守り、私には意味無いよ?」

「…マジかよ…」

 

 一撃一撃が、重い。自身を、アリウススクワッド達を守る骨の防壁が無惨に次々と破壊されていく。

 体育館でのミカがこちらに向けていたものを『敵意』とするならば、今は『殺意』。確実にオレ達を潰すという漆黒の意志が、彼女を構成する全ての部位に宿っていた。

 

「先生!聞こえるか!?」

"よ、ようやく繋がった…!どうしたの!?"

「ミカがオイラ達を襲撃してきやがった!今すぐ…うっ…!」

"サン───"

 

 サオリから落ちた通信機を手に取り何とか先生に現状を伝えるも、ミカの攻撃によって生じた衝撃波で通信機は再び所有者を失う。

 よりにもよってミカを武力以外で鎮圧出来そうな人材が居ないなんて運が無いにも程がある。

 

「う、うぅ…速過ぎ、ます…」

「ヒヨリ…!」

 

 オレのなけなしの防壁すら間に合わず、鈍重な荷物を背負うヒヨリはミカの攻撃を避けきれず直撃、気を失った。

 

「くっ…」

「大丈夫かサオリ、ミサキ…」

「…ミサキ?」

 

「ねぇ?ねぇねぇサオリにサンズ?これで終わりなの?」

「お飾りの人形だって今のあなた達よりは上手く戦えるんじゃない?この程度じゃないよね、『スクワッド』は。ねぇ、どうしたの?」

「あれ、そういえば一人居ないね?マスク姿の無口な子は?」

 

「…おいおい冗談だろ…」

 

 先程まで側に居たミサキが居ない事に気づき辺りを必死に見渡す中ミカの言葉にまさかと思い彼女の方へ向くと、あろう事かミサキは彼女に捕らえられていた。

 

「あーあ…もう弾切れなの?ほら、もっと撃ちなよ?私がこんなに無防備に立っているんだから、さぁ!」

「ぐ、ぁっ…」

 

「ミサキ…!」

「…っ、何してやがんだミカ…!」

 

 「撃て」と言われてもミサキを盾にしている以上迂闊には攻撃出来ない。…その上ミカはオレ達の不甲斐なさを知らしめるかの如く、ミサキの首を絞め始めた。

 

「へぇ…あなた達も仲間は大切なんだ?てっきり、任務の為に一緒に居るだけだと思ってた」

「どんな人にだって大事な存在って居るよね。うんうん、私にも居たから分かるよ。───あなた達が殺そうとしたセイアちゃんの事なんだけどさ」

「ぐぅ…っ!」

 

 やめろ。

 

「知ってる?セイアちゃんってさ、人を怒らせる天才なんだよ?何回グーパンが出そうになったか分かんないくらい!」

「でも…普段は嫌なヤツって思っているのに、いざケガしたら心配なの。大丈夫かなって不安になっちゃうの」

「セイアちゃんが死んだって聞いた時は、すごく辛かった。…変だよね。あんなに話すだけでイライラするのに、ちっとも嬉しくなかったの」

 

「そりゃあセイアちゃんの事は嫌いだったよ?ワケ分かんない事ばっか言うし。でも、私にとっては大切な人だったの」

「───死んで欲しい訳じゃなかった。人殺しになるつもりもなかった」

「けど、もう…全部、ぜーんぶ無駄になっちゃった」

 

 ミカは徐に銃口を直接ミサキに突きつけ───

 

「ぐっ───ッ!!」

 

「ミサキ!!」

 

 やめろ。

 

「私は…ちょっと痛い目に、みたいな事言ったよね?いつヘイローを壊せなんて言ったのかな?」

「まぁ、私も一人で勝手に暴れて台無しにした癖に、今更被害者ヅラするの?って感じだけどさ…」

「でも…」

 

「私の…大切なもの…ぜーんぶ、無くなっちゃったんだよ?」

「学園も…友達も…宝物も…帰る場所も…先生との約束だって…」

「明日になったら、全部元通りになるかもしれないって、信じてたのに…そんなものはお話の中だけだった…あはは…運命はもう決まってるみたい」

 

「だからさ…『スクワッド』の…特にサオリ。あなた達も同じ痛みを受けなきゃね」

「私が失った分だけ、あなた達も失ってよ。そうじゃないと───不公平でしょう?」

「…か…はっ…」

 

 …やめろ。

 

「ミカ…アンタは…お前は…」

 

「…いい加減に、しろォ!!!」

 

 ミサキの首を締め付けるミカの手を重力操作で強引にこじ開け、瞬時にミサキをこちらに引き寄せ激情のままにミカを地面へ、壁へと何度も何度も叩きつける。

 出来る限り二度とこの使い方はしたくなかった。ミカ自身の行いが招いた結果だが、彼女が酷い扱いを受けているの知っているから尚更だ。それでも大切な仲間が殺されかけているなら…もう、何もしないで見ている訳にはいかないんだ。

 

「失う苦しみが分かるなら…何故それを繰り返そうとするんだよ!!」

 

 出現させた骨に叩きつけ、また別の骨に叩きつける。骨が砕け散る音と共に瓦礫や骨の破片がパラパラと辺りに散らばる音が聞こえる。

 これから先、ミカからどんな仕打ちを受ける事も承知の上だ。せめて今は、彼女を止める事だけを───

 

「───ッ!が、ァッ…!」

 

 …魔力を短時間かつ大幅に消費した反動で、血反吐を吐きその場に倒れる。視界が何重にも分かれ、現状がどうなっているのか視界からではほぼ何も…把握出来ない。

 

「ハァッ…ハァッ…」

「…ふふっ、はぁ…痛い、なぁ」

 

 揺らぐ視界の中から、ふらつきながらも立ち上がりこちらに近寄るミカの姿を捉える。

 

「…サンズもそんな顔するんだ。口から血を吐いて、こっちを睨みつけて」

「頑張ってたみたいだけど、今はそこで寝ていてね?私はそこの子達に『お返し』したいだけだからさ?」

 

「…言って、おくが…この件は先生も、関わっているぜ…?」

「えっ、今なんて───」

 

 

 

"ちょっと待った!!"

 

 地下道の方向から響き渡る先生の声にミカはピタリと動きを止める。彼の登場を予期していなかったのか、ミカの口は開いたまま塞がらない。

 

「せ、せ、先生…!?」

"ミカ…一体ここで何をしているの?"

 

 ここ一帯の惨状は全てミカによって引き起こされたと即座に把握した先生は彼女に淡々と問いかける。

 

「わ、私は…えっと…その…それより…どうして…?」

「ね、ねぇ…先生!?どうして、先生がスクワッドと一緒に居るの…!?」

「こ、こんな筈じゃ…」

「ねぇ…どうしてこうなるの…?よりによって、こんな姿を…どうして…」

 

「…聞いてくれ、アンタが、アリウスがこうなったのも全て、ベアトリーチェという───」

 

 事の経緯をミカに話そうとするも、それを妨害するように爆発音と共にオレ達を追ってきたアリウス生の群勢が。

 ヒヨリは意識を取り戻し、ミサキも…首の絞められた後が残るが流石はキヴォトスの生徒、何事も無かったように動ける。今はとにかく時間が無い、先を急ぐ事で意見は一致した。

 

「…すまん、今は動けそうにない」

"分かった。私が背負っていくよ。"

 

 …きっとミカはこの程度じゃ諦めない、アリウス自治区に入った後も追いかけてくるに違いない。その時に備えて、用心しなきゃな…

 

 

「…よぉし、生き返ったぜ」

「…それ直で飲むとか信じられないんだけど」

 

 追手を振り切り、カタコンベを抜け、オレ達はアリウス自治区の遺跡と思われしき場所で休憩をしていた。

 

"ここがアリウス自治区…?"

「…昔はそうだったけど、今はただの跡地だよ」

「本当の自治区はもう少し先。でも、私達が向かっている事がバレてるから、そう簡単には近づけないと思う」

 

「…ここは訓練場でした」

 

 アリウスでの生活を思い出したヒヨリは、現在地が訓練場として使われていた事を口にする。それに続いてミサキは、アリウスの『内戦』について話し始めた。

 

「10年くらい前、アリウス自治区の内部が二つに分かれて起きた戦争の事。私達と同年代のアリウス生なら皆知ってる」

「そりゃ気になる話だな。良かったらもっと聞かせてくれないか?」

 

「…あんまり面白い話じゃないよ。今回の任務とは無関係だし…進んで話したくはないかな」

「私…まだ覚えています───アズサちゃんと初めて会った場所が、ここでしたよね?」

 

 ヒヨリはかつてアリウスに所属していたアズサとの出会いを語る。ある訓練の最中に、大人の命令に従わずに殴られていた子が居た…それがアズサだったと。

 周囲の皆は見ているだけの中、彼女を庇ったのが皆からリーダーと呼び慕われているサオリ…ヒヨリはそう言った。

 

「…思い出に浸るのは後にして。今は任務に集中するよ」

 

 …そういやここに着いてからというもの、サオリは一言も発していないなと思い彼女の方を向く。

 

「……」

「…どうした?大丈夫か?」

 

 見るからに顔色が悪い。彼女自身は平静を装っているのかもしれないが、先程と比べて顔が青ざめているのは明白だった。

 

「ちょっと失礼するぞ…」

「……!」

 

「アンタ、熱が…!」

 

 サオリの額に手を触れると確かな熱さが伝わってくる。…マズい、風邪を引いている。

 恐らくこの数日間、彼女はマトモに飲食をする事も眠る事さえ出来なかった筈。その上オレ達があの路地裏に来るまで、雨が降りしきる中待ち続けていた。体調不良にならない方がおかしいって話だ。

 

「待っててくれ、確かオイラの家に風邪薬が…」

"その必要は無いよ。"

 

 テレポートを試みるオレを制止した先生がコートの内ポケットから取り出したのは解熱剤。彼から受け取った薬をミサキが飲ませると、徐々にサオリの顔は穏やかになっていく。

 

「良かった良かった。…そうだ、アンタら飯は食ってるか?」

「…いや。ここ数日ほぼ飲まず食わずの状態」

「…だろうな。んじゃ、ちょっと待ってな。持ってくるぜ」

 

「持ってくるって…まさか、アレですか?」

「あぁ、ホットドッグさ」

 

 昼食を食ってないなら中ショック、朝食も食ってないなら超ショックだ。早く彼女達に食べさせなければ。店にテレポートし手馴れた動作でサオリとミサキ、ヒヨリに先生、合計四人分のホットドッグを調理。

 それらと四本の水の入ったペットボトルを持ち訓練場跡に戻ってくる。オレか?オレはケチャップで十分だ。

 

「ほら、『ボーン』ナペティさ。水も持ってきたぜ」

「あ、ありがとうございます…!」

「…ありがとう」

「…感謝する」

 

 余程空腹だったのか、彼女達は受け取ったホットドッグを一瞬で平らげる。美味そうに食っているところを見ると、作った甲斐があるってもんだ。

 

「またこれを食べられるなんて…夢みたいです…」

「あなたの事を知らなかった頃から…このホットドッグは美味しいって思ってた」

「…いつかは、感謝を伝えたいとは思っていたが…」

「…へへ、考えうる限りの最悪の出会い方でしたけどもね…」

 

「まぁ…今までの事は水に流そうぜ?材料はまだあるから作れるけど、おかわりはどうだ?」

「「「頼む/むよ/みます!」」」

 

 こうしてサオリ達にホットドッグを振る舞いながら、先生達と共にこれからの作戦を話し合った。

 まずはここまでの戦闘で消耗した体力を養う為、さらに激化するだろう戦闘に備える為にここで休憩する事にした。

 

 

 

 …とは言え状況が状況、場所が場所。仮眠を取ろうにも寝付けなかった。

 『ある事情』から眠れないのは慣れているとして…療養の為に眠っているサオリを除き、先生、ミサキ、ヒヨリも起きていた。

 

「リーダーの様子を見てました。解熱剤が効いたみたいで、もう熱はありません。今は眠っています…」

「いつまでも休んでいる訳にはいかないけどね。…まだ追手は来てないから、あと30分くらいしたら出発しよう」

 

"30分か…"

「うん。何か必要なものある?」

"…さっきの話の続き、聞かせてくれる?"

 

 残り30分の間、先生がミサキ達に求めたのは先程彼女達が話していた内戦の話の続き。「面白い話ではない」と言いつつも、ミサキは続きを話してくれた。

 

「───最初の記憶は、長年続いた内戦の終わりを宣言する『マダム』の姿」

「私達は幼かったから、内戦の事も『マダム』の事も、何一つ知らなかった。ただ、そうなんだ、って漠然と受け止めていた」

「『マダム』は自分が新たなアリウスの新たな生徒会長であり、主人であり、支配者だと言ってた。そうして、残っていた生徒に多くの事を教えるようになった」

 

 内戦を止め、教えを説いた。これだけならきっとマダムは素晴らしい人物に見えるだろうが、問題はそこからだった。

 教えると言ってもその実態は様々な戦闘技術にトリニティとゲヘナに対する憎しみ、彼女達がいつも口にしていた『全ては虚しい』という真理。…こんなの、ただの洗脳だ。

 

「『全ては虚しい。何処までいこうとも、全てはただ虚しいものだ』…か」

「……少し前のオイラなら、賛同していたかもな」

 

"それは一体どういう…"

「…いや、ちょっとした独り言さ。気にしないでくれ」

 

 マダムが教えた…いや、植え付けたのはこれらだけではなかった。

 

「わ、私達は、誰かを忌み嫌う『殺害の意志』を持っているから…『人殺し』と同じなのだと」

「そしてこの自治区以外に、『人殺し』の居場所は無い、とも…」

 

「『彼女』は、自分こそが真実を教える真の存在であり、生徒達が従い、尊敬すべき大人なのだと言ってました…」

「お、大人の話だから…疑う事無く、受け入れてました…」

 

「皆その教えに従ってました。反抗すると、怒られるから…アズサちゃんとか、姫ちゃんみたいに」

 

 まだ年端もいかない少女達に…何を教えてやがんだ?断片的な情報しか知らなかった頃から気に食わない奴だとは思っていたが想像以上だ。

 もしアリウスの生徒会長になったのがマダムではなく善良な存在だったら…他の学園と同じとは言わずとも、もっと『学生』らしい人生を歩めたんじゃないか?

 

「…クソ野郎が」

"……"

 

「ひっ…!?お、お二人とも凄い顔になってますが…!?」

「…言ったでしょ。楽しい話じゃないって」

 

 オレが怒りに震えているのなら生徒の事を誰よりも大切に思っている先生は尚更だ。言葉こそ発しないが、顔にはマダムに対する激しい怒りが浮かび上がっていた。

 

"…ごめんね。アツコについて教えてもらえる?"

 

 自身が怒りに呑まれかけている事に気づき、我に返った先生はアツコについて尋ねる。どうして『姫』と呼ばれているのかを。

 

「ひ、姫ちゃんがなんでそう呼ばれているか…」

「えっと…お、お姫様だから…?」

 

「姫は…私達が幼い頃からお姫様だった」

 

 アツコはマダムよりも以前にアリウスを統治していた生徒会長の血を引いている…『ロイヤルブラッド』と呼ばれていた存在だった。貧民街で暮らしていたサオリ達とは異なり、裕福な生活を送っていたという。

 それでもアツコは、身分違いの彼女達にも優しく接してくれた。…そんな子を、マダムは生贄に捧げようしてんのか?

 

「でも、リーダーはそれに納得しなかった。だから、生贄に捧げられる筈だった姫を私達の元に連れてきた」

「『彼女』が素直に姫を解放するとは思えないから…リーダーと『彼女』の間で何か、約束でもしたんだと思う」

 

「…でもその約束は守られなかった」

"最初から…守る気なんて無かったんだと思う。"

 

 仮に彼女達の任務が成功したとして、アツコが生贄に捧げられるのは変わらなかっただろう。マダムの邪悪さをこれでもかと聞かされた以上、断言出来る。

 

「面白い話をしているな」

「リ、リーダー!?」

「…目が覚めたんだ。体調はどう?」

「動けない程じゃない…助かった」

 

「…サンズのお陰で空腹も満たされたからな」

「そりゃ良かった。美味かっただろ?」

 

 話を聞くのに夢中になっていて気づかなかったが、いつの間にかサオリは目覚めていた。体調は問題無さそうで何よりだ。

 

「でも、今が正常なコンディションじゃない事を忘れないでね」

「…それで、これからどうする?」

 

 ここに居る奴らの考えは一致している。そう、アツコを助ける事。しかし問題は彼女が囚われているバシリカにどうやって行くか…だったが、サオリは既にルートを考えていた。アリウス分校の旧校舎から向かう、と。

 

「きゅ、旧校舎ですか?あ、あそこは、かなり長い事放置されていた廃墟ですよ…!?」

「そこには何があるの?」

 

「…姫から聞いた話だが、かつて聖徒会がアリウス分校を建設する時、バシリカと分校を繋ぐ地下回廊を作ったのだとか」

"聖徒会がアリウス分校を…?"

 

 これまた気になる情報が。確か聖徒会はトリニティ側の組織だった筈だが…?

 

「…うん。その昔───トリニティ連合に反対したアリウスの脱出を支援したのが、ユスティナ聖徒会」

「アリウスを最も糾弾した彼女らが、アリウスのトリニティ自治区外脱出と再建を主張したの」

 

「回廊はかなり昔に作られたものだから『彼女』も見落としている可能性が高い」

「遠回りになるが、安全にバシリカまで進入出来る筈だ」

 

 回廊の場所は分からずじまいのままだが…正面から突破するよりも安全である事は確かだ。そうと決まれば出発だ。

 

「…アンタらの事も、アリウスの事も、全部じゃないが大方理解したよ」

 

 

 

 

 

「真に罪を這い登らせる奴を見つけた事もな」

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