Blue Archive: Visitor From Underground 作:暗黒星 堕零
悪夢は花で包み隠して
深い眠りから目を覚ます。ベッドから起き上がり、カーテンを開け、窓から差し込む朝日を浴びる。ベッドを整理し朝食を作る為にリビングに向かう…これがオレの朝の日常だ。だが最近は、そこに新たに加わったものがある。
「お、おはようございます、サンズさん…」
「…おはよう」
「おはよう、サンズ」
リビングに居たのは三人の少女。ヒヨリ、ミサキ、アツコ…アリウススクワッドのメンバーだ。彼女達はアリウスを支配してきたベアトリーチェを倒した後、指名手配犯として各地の廃墟で暮らしては移動する…そんな劣悪な環境で過ごしてきた。
「おはようさん。休日だってのに相変わらず起きるのが早いな?」
「…あなたが起きるのが遅いだけだと思う」
そんな彼女達をオレは店で働く事を条件に、空き部屋が目立っていた無駄にだだっ広い家に住まわせる事にした。働くと言って裏方の仕事、迂闊に顔は出せないからな。
「ヒヨリ、アンタの考案したデザートホットドッグはかなり人気みたいだぜ?ほら、ネットニュースの記事にもなってる」
「へへ…嬉しいですね…やっぱり世の中は虚しい事ばかりじゃないみたいです」
「そうだアツコ、アンタの要望で店の前に置いた花壇、客から好評だぜ」
「あの花って姫が選んだんでしょ?綺麗だね」
「うん。先生から貰った花があるんだけど、それも植えてもいい?」
「あぁ、勿論だ」
朝食を食べながら談笑をする。昨夜は何をしていたのか、こんなテレビ番組が面白かった…など。
とはいえ今日のオレはある特別な話をしたかった。雑談は早急に切り上げ、本題に入る。
「今日はアンタらの服でも買いに行こうかと思ってさ」
「私達の服、ですか…?」
「そうさ。今は指名手配されていて表立って歩けなくても、いつかは堂々と街中を歩けるようになる。その時の為に、さ」
「だから…ほら、これを見てこんな服が欲しいって言ってくれ」
ミレニアムやらトリニティやら、様々な自治区から持ってきたファッション雑誌を彼女達に見せる。雑誌を読むのが好きなヒヨリが居るから大体の場所は把握していた。
それから数十分後、欲しい服は決まったかとそれぞれに尋ねてみる。
「わ、私はこれみたいな可愛い服が欲しいかな、って…」
「何も恥ずかしがる必要は無いぜ。アンタの好きなものを選べばいい」
「私はこれとかかな」
「ワオ、お姫様らしいお清楚な服だな。任せておけ」
ヒヨリとアツコは決まった、さて次はミサキ…といったところだが、彼女は一冊の雑誌の服の項目ではないページを眺め続けていた。
「…ミサキは何かないのか?」
「私は…着れるなら何でもいいよ」
「言ったな?ならオイラが勝手に選んじゃうぞ?ファンシーだったりプリティーな…」
「分かった!分かったから!選ぶよ!」
ミサキも決まった、ならさっさと身支度をして街に繰り出そう…としたがある事を思う。…よくよく考えてみりゃ、男のオレが一人で女物の服を大量に買うなんておかしくないか?と。
側から見れば奇行としか思えない行動、大勢から指を差されるに違いない。考え過ぎかもしれないが、そこからオレが世間一般的には犯罪者のアリウススクワッドを匿っている事が暴露される可能性もゼロじゃない。
「…利用するみたいで申し訳ないけど、頼むぜ『先輩』」
*
「…ってな訳だ。アイツらの服を買うのに協力して欲しい」
「これまた唐突だね、サンズ」
場所は変わってアビドス高等学校。彼女達の買い物の付き添いという体なら何も違和感は無いだろう。
「それにしても…アリウスってアレでしょ?エデン条約の調印式を襲撃したっていう…」
「…セリカ、アンタの言う事は間違っていない。でもアイツらはアリウスを支配していたベアトリーチェって奴にずっと洗脳されていてな…」
「分かってるよサンズ君。あの子達と戦った時もなーんか訳アリな雰囲気があったからね〜」
「わ、私達にやれる事があるのなら是非…!」
「うんうん♪困った時にはお互い様です☆」
流石に今回ばかりは断られるんじゃないかと思っていたが快く引き受けてくれた。そもそもこっちも銀行強盗をしてんだ、犯罪者が同じ犯罪者を匿っている、ただそれだけだ。
「あっ!これなんかミサキさんに合いそうだと思います!」
「これ、アツコって子に似合いそうじゃない!?」
「ん、ヒヨリが着るべき服はこれ」
「…スポーツウェアは…違うと思うなぁ…」
「おじさん的にはこっちの方が良いと思うなぁ〜」
「ク、クジラのTシャツ…まぁいいか」
こうして近くのデパートに向かったオレ達対策委員会は様々な店を物色しては、三人の要望に見合った服を買っていった。
「お支払いはどうしましょうか?私のカードで…」
「いや、オイラが全部払うよ。店が儲かっているはいいけど金の使い道に困っていたところなんだ」
オレはあくまで服を買うのに協力して欲しいだけ、気持ちは有難いがそれ以外の事は求めていない。求めてはならない。
「じゃあおじさんが昼寝する用のクッションも買って欲しいなぁ〜」
「…あの自転車、予備に欲しいかも」
「それは自腹で買ってくれ」
求めてほしいとは言っていないが。
──────────────
「か、帰ったぜ、皆…」
「…凄い量だね」
両手に無数の紙袋を持ち、持ちきれないものはブラスターに咥えさせ、非力なオレにとっては余りにも過酷な帰宅を果たした。
途中で普通にテレポートを使えばいい事に気づくもその時には既に体力がほぼ限界を迎えた状態、アビドスの皆に手伝ってもらった方が良かったな…
「…ほら、これ全部アンタらの服さ」
「こっちがミサキでこっちがアツコ、んでこっちがヒヨリだ」
出迎えてくれたミサキに幾つか持ってもらい、リビングで寛いでいたアツコとヒヨリに買ってきた服の数々を見せる。
「…うん、どれも良さげ。気に入った」
「ありがとう、大切にする。サンズの友達にも伝えて欲しい」
「へへ…これ全部、私のものなんですね…」
「…クジラのTシャツ…??」
反応を見るにチョイスは完璧と言ったところか。腕の骨にヒビが入りそうになりながらも持ってきた甲斐があったな、と彼女達の笑顔を見ながらに思う。
その後は明日が営業日な事もあり食材の仕込みを行い、何を食べたいか話し合いながら作った夕飯を食べ、風呂やら洗濯やら…やらなければならない事を一通り終えた。
「…もうこんな時間か」
自室で趣味のペットロックに餌をやっていると、隣に置かれているデジタル時計が目に入る。時間は既に午後の11時、良い子ならもうおやすみの時間だ。
「ふぁあ…んじゃ、さっさと寝るに限るか」
今日はもうこれといった予定は無い。無駄に夜更かししていても明日起きるのがキツくなるだけ、大きな欠伸をし床に就いたのだった。
「…ここ、は」
…何処だここは?これまでの記憶が思い出せない。思い出せない、が…意識が明瞭としてきたオレの眼前に広がる光景には見覚えがあった。
そこは広大な雪原にポツンと存在する、スノーフルの町。「WELCOME TO SNOWFUL」という横長の看板が、現在地がスノーフルである事を示していた。遠くにグリルビーズや図書館がぼんやりと見える。
「…どうして誰も居ないんだ…?」
町中を歩くも人の気配は一切感じられない。家や店の明かりは点いているというのに。明らかにオレの、町の置かれている状況はおかしい。
「誰か…誰か居ないのか…?」
「グリルビー!イヌッス!イヌッサ!……パピルス!!」
「……!」
「何だよ皆、そこに居た───」
孤独感に襲われ、住民を必死に探し回る。最後の頼みの綱としてスノーフルとウォーターフェルの境目付近にあるオレとパピルスの家に向かうと、そこにはトリエルにアズゴア、アルフィーにアンダインに…大切な弟のパピルスの姿が。
ようやく見知った奴らと出会えたと安堵する。そんな所で何をしているんだ、と声を掛けた瞬間だった。
「ひっ…!」
思わず、後ずさる。振り返った皆の目には生気など無く、虚ろな表情でこちらを見つめていた。
「ど、どうしたんだよ皆…体調、悪いのか…?」
「どうして?」
「…えっ?」
「どうして私達を、見捨てたのかしら?」
抑揚の無い声を口から漏らすように言いながら、皆は徐々にオレの方へと近づいてくる。
「見捨てたって…な、何の事だよトリエル…!」
「あなたは私との約束すらも破った。あなたの事を一度でも友人と思った自分が憎いわ」
違う。
「アンダイン…オ、オレは…」
「何故私のように立ち向かわない?何故自分の使命から逃げる?…心底失望するな」
違う、違う。
「アル、フィー」
「あなたも…私と同じだった。嘘をつき続けて、見たくないものから目を逸らし続けて…最低だよ」
違う、違う、違う。
「…アズゴア」
「君が私達モンスターの役に立った事などあるのかい?君は一体何の為に存在しているのやら…」
違う違う違うちがうちがうちがう。
「パピル───」
「兄ちゃん」
「どうしてボクを、いつも見殺しにするの?」
ちがうちがうちがうちがうちがうやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれやめてくれ───
「…っあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「……ハァッ…ハァッ…」
自分の叫び声で飛び上がる。…今オレが居るのは、何処だ?
「アビドスの…ネクタイ…」
「…キヴォトス、か」
ベッドの前に掛けられているアビドス高等学校のネクタイから、ここが地下世界ではなくキヴォトスである事を理解する。
……そうか、またあの夢か。
「…嫌になるな」
豆電球のみを点けた薄暗いリビングのソファーに座り、そう呟く。
…ここに来てからというもの、ある悪夢を定期的に見る。地下世界で、仲間や家族から責め立てられる夢だ。…見たくないのに、何度も、何度も。
「オレは…どうして…」
「……サンズ?」
「…!…何だ、アツコか」
声のする方向へ目を向けると、そこには眠たげな目を擦るアツコが居た。
「ど、どうしたんだこんな真夜中に…?まだ起きるような時間じゃ…ないぞ?」
「サンズの声が聞こえたから起きたの。部屋を覗いても居なかったから、リビングに居るのかなって」
「…起こしちまったか。ごめんな…ミサキとヒヨリは?」
「ぐっすり眠ってるよ」
自分の行動でアツコに迷惑をかけてしまった事を深く反省する。一緒に住む奴らが新たに居る以上ヘマはしたくないと思っていたが…こればかりはどうしようも、ないんだ。
「それにしてもどうしたの?あんなに叫んで」
「…あー、水でも飲みに行こうかと思ったらタンスの角に指をぶつけちゃって、さ?へへ、大丈夫だからさ…」
「……」
「冷や汗が凄いよ、サンズ」
「…ッ!?」
「こういう時に言う『大丈夫』は大丈夫じゃない。私はアリウスで、そんな子達をよく見てきたから」
隣に座ってきたアツコはオレの顔をジッと見つめ、今の心の状態を言い当てた。彼女の真紅の瞳には、オレの思っている事なんてお見通しみたいだ。
「本当は何があったの?良かったら、教えてほしい。…あなたの力になりたいから」
「……オイラは…」
「……悪夢を、見たんだ」
このまま隠し通すのは、オレを気にかけてくれる彼女に失礼だ。…だからオレは話した、頻繁に見る悪夢の事を。元居た地下世界で何があったのかを。
…それでも、その経験を果てしない程に繰り返している事までは言えなかったが。
「…そんな事が、あったんだね」
「あぁ。皆は優しいから、あんな事は絶対に言わないって分かっているんだけどさ…」
「分かってる、のに…」
「……見る度に心が締め付けられて…アイツらを置いてのうのうと生きている自分が許せなくて…!」
…あれ、何だこれ?パジャマのズボンに、一つ、また一つと落ちてくるものが。
…泣いてるのか、オレ。ハハ、何だよそれ。泣きたいのはきっと、今も尚殺され続けている地下世界の皆だってのに。
「あっ…いや…ごめん、ごめんな。こんな見苦しいところを見せて───」
またしてもアツコに迷惑をかけた、どうか気にしないでくれと言おうとした瞬間だった。オレの体は、何か温かいものに包まれた。
「…ありがとう。そんな辛い事を、私に伝えてくれて」
「…アツ、コ?」
優しい抱擁。慈愛に満ちた声が、騒ぎ立つ心を落ち着かせていく。
「私はその人達に会った事は無いけど、あなたの話からとても優しい人達だって事が分かる」
「きっと皆は、あなたの事を責めたりなんかしない。あなたが私達にしてくれたみたいに、きっと優しく受け入れてくれる」
…情けないなぁ。自分よりも年下の奴に、慰められるなんて。だが今のオレにとって、彼女の言葉はどんな言葉よりも救われるものだった。
「…へへっ、なんて優しいお姫様だ。グスグス泣いてるのが馬鹿馬鹿しくなってきたよ」
「…でもよ、そろそろ離れてくれないか?話しづらいし、何より恥ずかしい…しさ?」
「もういいの?」と呟きながらアツコは背中に回していた腕を解く。そこそこ長い時間抱きしめられていたからなのか、体温の無いスケルトンだからなのか、彼女の体温がはっきりと残っていた。
「どう?元気になった?」
「まぁな。…結構大胆だな、アンタ」
「あなたは行く宛の無い私達に住む場所を与えてくれた」
「仕事を手伝う私達にいつもありがとうって言ってくれるけど、感謝を伝えたいのは私達の方」
穏やかな笑みを浮かべながら彼女はそう言う。こんな善良な心を持つ子をベアトリーチェは訳の分からない儀式の生贄に捧げようとしたのか?ますます許せなくなってきた。
…とりあえず奴の事は置いておくとして、今更ながら時計を見ると当然ではあるが深夜。それもここじゃ『丑三つ時』と言われる、殆どの奴らが眠りについている時間帯だ。
「…今日はありがとな。まだ深夜なんだ、ちゃんと寝ろよ?」
「うん。おやすみ、サンズ」
「……」
リビングから自分の部屋に戻ろうとしたアツコはどういった訳か再びこちらに振り向き、怪訝な表情で見つめてくる。
「…サンズは寝ないの?」
「オイラは…まぁ、もうちょっとしたら寝るよ。だから先に寝てな」
「…ふーん」
…にも関わらず、彼女はオレを見つめるのをやめない。まるでオレが隠している事を暴き出そうとするように。
「…あぁもう分かった。本当の事を言うよ」
「…眠れないんだ」
オレの負けだ。彼女に隠し事は出来ないって事がよく分かった。続いてあの夢を見ると…それ以降は一切眠れない事も伝えた。
「また同じ夢を見るんじゃないかって思ってさ…怖くて眠れないんだ。こんな事はもう日常になっちまったし、慣れてるんだけどな」
「そっか、じゃあ…」
「私と一緒に、寝る?」
アツコからの衝撃の提案に思わず大声で叫びそうになった。いやマズい、それはマズい。
「ダメだダメだダメだ…そういう関係じゃないのに男と女が同じベッドで寝るってのはな…」
「『そういう関係』って、何?」
「だっ、だからこう…な?逆に聞くけど…アンタはオイラみたいなスケルトンと寝るのは嫌じゃないのか…?」
「ううん、全然。サンズが安心して眠れるなら、私は何でもするよ」
そうじゃないそうじゃないそうじゃない…どんどん悪化している…先生からも「彼女達を頼むよ」と言われてんのに同衾なんてアウトラインを飛び越えるどころか地面を掘削しまくって線を消すレベルだ。
「何か問題があるの?…サンズは私と寝るのは嫌?」
「嫌………とかいうものじゃなくてさ…オイラは…」
いや、これ普通にどうしたらいいんだ?オレは何をすれば正解なんだ?否定すればきっと彼女を傷つける、だからといって受け入れても色々とマズい。
「……?」
視線が痛い。オレは誰かの善意を無碍にする事が一番嫌なんだ。だから、だから、だから…だから…
「〜〜〜ッ…!!」
「……分かった、アンタの提案を受け入れるよ」
この選択に後悔は無い。責めるならそうせざるを得なかったこの状況そのものを責めろ。
──────────────
「ここがサンズの部屋なんだね」
「…どうして部屋の中で竜巻が発生してるの?」
「紙を利用した持続式トルネードさ」
遂にアツコを自室に案内してしまった。ここまで来たらもう後戻りは出来ない。
「うーん、二人で寝るにはちょっと狭いかな」
「だろ?だからアンタも自分の部屋に戻って…」
「でもくっ付けば大丈夫だよね」
「……」
あぁ、もうダメだこれ。ワンチャン諦めてくれるかななんて思っていたが彼女の意思はオレのベッドよりも広く、強かったらしい。
「…どうしたの?早く寝ないと、朝起きれなくなるよ」
「あー…うん、そうだな」
アツコは一切躊躇せずに自らオレのベッドで寝転がる。一緒に寝る事が確定事項になっている彼女にとって、目の前で謎に戸惑っているオレの方がおかしく見えるのだろう。
「んじゃ…失礼するぜ」
「わぁ、急に狭くなったね」
アツコの隣に潜り込み毛布をかける。当然一人用のベッドで二人が寝る事なんて想定していない上に枕も一つしかない。…自然にお互いの距離が近くなる。
「サンズの手って冷たいんだね」
「そりゃあ…スケルトンだからな。そういうアンタの手は…温かいな」
「…いや、それよりもさ、ずっとこう…見つめてくるのやめてくれないか?」
「?相手の顔が見える方が眠りやすいでしょ?」
「アンタはそうかもしれないけどさ…こっちは恥ずかしいんだよ…スケルトンでも人並みの恥じらいってもんがよ…」
「ふふっ、サンズの顔、赤くなってる」
顔を隠そうにも…彼女に手を握られているから出来ない。タマシイが激しく脈動する。
…でも、側に誰かが居るだけで不思議と落ち着いてくる。普段は幾らベッドに入っていても全く寝れなかったというのに、段々と意識が沈んで───
「…良かった、眠れたんだね」
「おやすみ、サンズ」
「兄ちゃんッ!!」
「…パピルス?」
オレを呼ぶ声、声の主はパピルス。周囲を軽く見渡してみると、どうやらスノーフルの見張り小屋で眠っていたらしい。
「今日はパズルの調整をするって約束でしょッ!ほらっ、いつまでも寝てないで手伝ってッ!」
「へいへい」
パピルスに引きずられる形で連れられ、共に自作のパズルの調整を行う。アイツの作るパズルはどれも個性的でセンスに満ち溢れている。流石はオレの弟だ。
「ニャハハ!流石はオレ様!調整をすぐに終わらせるだけじゃなく更にクオリティをアップさせたぞ!」
「あぁ、良いセンスだ。いつか来る人間もきっと楽しんでくれるさ」
それからもオレ達は。
「ちょっと!これは買う予定には入ってないぞッ!」
「いいじゃないか一つぐらい、な?」
「ダメッ!」
町で買い物をしたり。
「刮目せよ!オレ様の偉大さをこれでもかと表現した雪像をッ!」
「最高だぜパピルス。オイラのも見てくれよ」
「…ただの雪の塊じゃないかッ!」
雪で雪像を作ったり。
「サンズ!この本とても面白いぞ!」
「みたいだな。だってそれ読むの五回目だし」
図書館で何度も見た本を読み漁ったり。
「どう兄ちゃんッ!ボクのパスタの味は!」
「お、おう…前よりも…美味くなったな…」
家に戻ってパピルスの作ったパスタを食べたり…いつも通りの日常を送った。
いつも通りの日常、を。
いつも…通り…?
…あれっ、何でオレはここに居るんだ?
確かオレは、今は地下世界には居なかった。
オレが居たのは…地上で…
今はキヴォトスに…
「…そうか、そういう事か」
「兄ちゃんッ!パスタのおかわりを持ってきて…」
…分かってしまった。ここは現実じゃない。夢の世界なんだ。平和な世界を望むオレの意識が作り出した、偽りで、都合の良い世界。だから目の前に居るパピルスも…存在しない。
…それでも、それでもオレは。
「…なぁ、パピルス。急に変な事を聞くけどさ…」
「オイラの事、正直言ってどう思っている?」
「うーん…兄ちゃんはいっつも怠けているし下らないギャグしか言わない、ボクが居なきゃ何も出来ないヤツだと思ってる!」
「でもボクが寝る時は必ず絵本を読んでくれるし、褒めてくれるし、パスタを沢山食べてくれる!」
「落ち込んだ時は励ましてくれるし、優しくて…」
「ボクにとって兄ちゃんは、欠かせない存在だよッ!」
…涙が、滝のように溢れ出てくる。たとえ本物じゃなくても、現実には存在していなくても…
「オイラも、お前の事は欠かせない大切な弟だよ、パピルス…」
「どっ、どうしたの兄ちゃん!?いきなり泣き出すなんて体調でも悪いのッ!?」
「ハハハ…お前の作るパスタが余りにも美味くてさ…もっと食わせてくれないか?」
「勿論!ボクの特製パスタはまだまだあるよッ!」
「…ありがとう、パピルス」
「…おっ、と…」
夢から目覚め、視界に映ったのは小さな寝息を立てるアツコの姿。
相変わらずオレの手を握ったまま、どうしたものかと悩んでいるとゆっくりと目を開け、ヘイローが頭上に現れた。
「…あっ。先に起きてたんだね、サンズ」
「おはようアツコ。よく眠れたか?」
「うん。…泣いた跡があるけど、また嫌な夢を見たの?」
「いいや、最高な夢だったよ。…涙が出るぐらいにはさ」
「良かった。同じ事があったら、昨日みたいに私と一緒に寝る?」
「それは…遠慮しておくぜ」
アツコには色々と翻弄されたが、かつてない程に良い目覚めだったのは確かだ。ベッドから起き上がり、朝食を作る為に部屋を後にしたのだった。
「えっ…姫ちゃんがサンズさんの部屋から…!?」
「…ちょっと話を聞く必要があるみたいだね」
…彼女と共に部屋を出たところを他の二人に目撃されたせいで、ミサキに問い詰められたのは言うまでもない。
はい、この作品におけるヒロインとなる存在はアツコとなります。これから彼らは互いを支え合いながら困難を乗り越えていく事になります…