Blue Archive: Visitor From Underground 作:暗黒星 堕零
変化
オレの家に共に住んでいる内の一人、ミサキ。彼女は高所から飛び降りようとしたり首や腕の包帯…恐らく自ら傷つけた跡を隠している色々と不安定な少女だった。
「ぬいぐるみを愛でているところ失礼するぜ、ミサキ」
「ちょっ…それわざわざ言わなくていいでしょ」
だがオレの所に来てから彼女に変化があった。首と腕の包帯はいつの間にか無くなり、瞳には僅かではあるが光が宿りつつあった。
「なんかアリウスに居た頃と比べて変わったよな、アンタ」
「それは…どうだろうね。私には分からない。でもあなたや先生のお陰で…少しは生きる希望が湧いてきたのは確か」
彼女達は長年に渡り『虚しさ』ばかりを教え込まれてきた。そんなクソみてぇな環境で育ってきたんだ、生きる意味を見出せなくなるのも無理はない。
…もうオレみたいな何もかもを諦めた奴は見たくないんだ。
「…ありがとう、サンズ」
「へへっ、そうかそうか」
「な、何笑ってるの!?こっちは恩義を感じているから言ったのに!」
「いやぁ、子供が成長するのを見るのは楽しいと思ってさ?オイラ感動しちゃうよ」
「…言って損した」
「えっ」
食事
「あっ、これ姫が切ったニンジンじゃない?」
「うん。変わった形のものを入れた楽しいかなって」
「器用だよなぁアツコ。花型に切るなんてそう易々とやれる事じゃないぜ?」
ある日の夜、オレ達は食卓を囲んで夕食を食べていた。今日のメニューはカレー、普通の奴ならごくありふれたものだが、彼女達は今まで暮らしてきた場所が場所なだけに食べる事自体は初めてらしい。
「オイラも気合い入れて色んなルーを買っちまってさ、材料さえありゃいつでもカレーを食える状態だぜ」
「カ、カレーがこんなに美味しいものなんて…思いもしませんでした…」
「アリウスに居た頃は味は悪い、質も悪い、栄養なんてほぼ無いものだけだったからね」
アツコを救出する際に向かったアリウス自治区のあの荒廃っぷりは今でも鮮明に覚えている。『食事』と言えるものなんて出されていなかった事なんて想像に難くない。…きっと大人は豪勢なもんでも食ってたんだろうな。
「あ、あの…おかわりって…」
「勿論、どんどん食いな」
「あ、ありがとうございます…!」
「す、すいません…またおかわりを…」
「まだまだあるぜ、ほら」
「…あのー、おかわりを…」
「あぁ…い、いいぜ」
「…アンタ滅茶苦茶食うな?」
…とはいえヒヨリの食いっぷりには目を見張るものがある。ミサキやアツコが一皿で十分といった顔をしているのに彼女の場合はこれで四皿目だ。
「すっ、すいませんすいませんすいません!!やっぱり私みたいな子がこんな美味しいものを食べるなんて烏滸がましいにも程がありますよね…」
「いやいやいや!?別にそういう意味で言った訳じゃないからな!?ほら食え!もっと食え!」
彼女のネガティブに考える癖が発動し急いで皿に米とカレールーを乗せる。今思い出せば彼女と初めて出会った頃も似たようなやり取りをしたな…
「へへ…ありがとうございます…」
「…でもヒヨリ、それ以上食べたらお腹がもっとだらしなくなるよ?」
「ひっ、姫ちゃんそれを言わないでください!」
「あー…確かに。一緒に風呂入った時に私も同じ事思った」
まぁ…なるわな。ヒヨリだけやたらと菓子を食うし。虚しさを掲げてきた学園出身とは思えない卑しさだ。
「…間食するのやめるか?」
「うわぁぁあああん!!!サンズさんにもバレちゃいましたぁぁぁっ!!!もうおしまいですぅぅぅっ!!!」
インナー
「……うーん」
…オレは悩んでいた。それも酷く、頭の空洞の中が『それ』による悩みで満杯になる程に。
「…?」
眼前に居るのはアツコ。彼女には度々揶揄われているが、今回ばかりはやり過ぎだ。
「…何故それしか着ていないんだ?」
「…このインナーの事?」
全く意図が分からない。彼女はインナー『のみ』を身につけオレの部屋にやって来た。何?何が目的なんだ?
「サンズはどうして目を逸らすの?」
「どうしてって…逸らすしかないだろ。アンタ自分の格好がどうなってんのか分かってんのか…?」
儀式の生贄に捧げられそうになっていた時はそんな事を気にする暇なんて無かったが…恐ろしい程に露出が激しい。ベアトリーチェは一体何を思ってこんなもんを与えたんだ??
「へぇ…サンズってそんな顔もするんだ」
オレの「来ないでくれ」という意思とは裏腹に彼女は一歩、また一歩とこちらに近づいてくる。
それに応じてオレも後ろへ後退するも、踵がベッドに激突し座る形で倒れ込み、続いてアツコは見下ろすように覗き込んできた。
「ようやく見てくれた」
「私のこの格好、どう思う?」
どう思うって言われたって…どう言えばいいんだ?彼女は一体、オレに何をして欲しいんだ?
「…綺麗、だと思うぜ。アンタは…まぁ、美しいしさ、無駄な装飾が無いお陰でその美しさがより分かるっていうか…」
「…それは本当の事?」
「えっ…?」
「私はロイヤルブラッドだから、『特別』な存在だったから、きっとお世辞で言われていた事もあった」
「私は本当の事が知りたい。たとえそれが私を傷つける事であっても」
何を言うかと思えば…全く不器用なやり方だ。まぁ彼女の気持ちも分からなくもない、高貴な立場である以上中身の無い褒め言葉ばかり聞かされてたんだろうな。
「もしかしてオイラの事疑ってんのか?オイラが嘘つくの苦手な事、知ってるだろ?」
「だから今のは本音だ。アンタは間違いなく綺麗だぜ」
「…そっか、そうだよね。…嬉しい」
「でもそんな格好をするのはナシだ。先生もサオリもミサキもヒヨリも…オイラも、アンタは大切だと思ってるしさ」
「…じゃあこのままもーっとあなたに近づいたら、今度はどう思うかな?」
それはダメだ。
「…あっ、消えちゃった」
「ホ、ホシノ…助けてくれ…」
「えぇ!?どうしたのサンズ君!?」
怠惰な守護者
明日の朝食やらの食材を買い、家への帰路に就いているところだった。スーパーから出た頃から今に至るまで、何者かに追跡されているような感覚を感じていた。
「…気のせいにしては妙だな」
最初はただの考え過ぎかと思っていたが、オレ以外の歩行者が居ない道で自分のものではない足音が微かに聞こえた時点で疑惑は確信へと変わった。
「…ハァ」
「コソコソ付けている暇があるならさっさと姿を見せたらどうだ?」
オレの声が辺りに響き渡る。それに対する答えは返ってこなかったが、後方の建物の陰から三体のオートマタが姿を見せた。
「チッ…バレちまったのなら仕方がねぇ」
「…アンタら、カイザーPMCか?」
「カイザーPMC『だった』奴らさ。俺達の体の破損具合を見たら分かるだろ?」
確かによく見てみりゃ一人は頭部が割れ、また一人は欠損した腕を他の機体のパーツで代用したのか左腕だけが色が異なり、もう一人は胸に大きな穴が空いていた。
「何があったんだ?リストラでもされたのか?」
「まぁ…問題を色々起こしちまってさ、痺れを切らした上層部にクビにされたんだよ」
「それからは今日を生きるだけで精一杯な状態、マトモに修繕も出来ねぇからこの有様さ」
成る程、職を失った原因はコイツら自身か。所謂自業自得ってヤツだな。
「だから…お前が指名手配されているアリウススクワッド?を匿ってる事を知ってさ、捕まえてやろうと思ったのさ」
「捕まえりゃ賞金が大量に手に入る!もう底辺生活とはおさらばって訳だよ!」
「素直にこっちに受け渡してくれりゃ何もしねぇよ。俺達もそれぐらいの温情は残ってるからさ」
性格が悪けりゃ考える事も悪い、絵に描いたような最低な奴らだ。情けをかける必要が無さそうでむしろ好都合だ。
「そうか。なら…」
「頭上に気をつけな」
オートマタ達が上を見上げるとそこには既にチャージを完了したブラスター、逃げる暇も無く敢え無く光線の餌食と化した。
「ぐっ…あっ…な、何をされた、んだ…」
「ちょっといいかお前ら」
体のあちこちから煙を立たせるオートマタ達の前に座り込む。奴らは銃を持とうとするも最早そんな気力も無いらしい。
「アイツらがオレの所に居る事を知ってるのはお前らだけか?」
「そ、そんな事を言う、訳が…」
「言わねぇと一生物理的にも底辺を這う生活にしてやってもいいんだぜ」
「おっ、俺達だけだ!本当だ!カイザー社に入った時も、クビにされた時も一緒だった!俺達以外に仲間なんて居ないんだよ!」
聞きたい情報は得られた。ならオレがやる事はたった一つ。
「なぁ、犯罪を目撃された時何をすれば良いと思う?」
「い、一体何を言って…」
「答えは簡単だ、見られたんなら…」
「見た奴全員殺せば目撃者はゼロになるんだぜ」
「おかえり。…妙に楽しそうだね」
「そうかミサキ?買い出しついでに『掃除』してきたからかもな?」
「…何それ。変なの」
今回の事は話さないでおこう。暫くは、いや願わくば永遠に彼女達には脅威とは無縁の生活をしていてほしいからな。
何事も無かったように買い出しで買ってきた食材やらを冷蔵庫に入れた後は自室に入ったのだった。
「…あれ?俺達何でここに居るんだ?」
「確か…そう、傭兵の募集に行こうとしてたんだったな」
「俺達こんな砂まみれの場所で寝てたのか?嘘だろ…」
…元研究者として多少『改造』しても問題は無いよな?
看病
「おはようさん」
「おはようございます、サンズさん…」
「おはよう」
起床しリビングに向かうと相変わらずオレよりも早く起きている三人が…ん?
「…ミサキはどうしたんだ?」
「ま、まだ寝ているんだと思います…」
「部屋も暗いままだった」
…おかしい。今まで彼女がオレよりも遅く起きる事なんて一度も無かったのに。ぐっすり眠れているならそれで良いんだが、どうも嫌な予感がする。
「ちょっとミサキのところに行ってくる。腹減ってんなら先に食べてていいぜ」
ミサキの部屋の前に行き、ドアをノックする。彼女の名前も呼ぶが反応は一切無い。
「(…まさかまた自傷を…?)」
「すまんミサキ、入るぞ」
最悪の予感が頭をよぎりドアを開ける。部屋の中はカーテンが閉め切られ真っ暗、肝心のミサキは…ベッドの中でうずくまっていた。
「大丈夫か、ミサキ?」
「……サン、ズ?ごめん、今ちょっと…体調が悪い…」
毛布から顔だけを覗かせるミサキの顔は、暗い部屋の中でも分かるぐらいに赤く火照っていた。額に手をやるとじんわりと熱さが伝わってくる。
「…風邪引いちまったのか」
「…昨日から何となく、気分は悪かったんだけど…ここまで悪化するなんて…」
「まぁでも安心しな、ここには色々揃ってんだ。ゆっくり休んでな」
それからオレはミサキに風邪薬を飲ませたり熱を冷ますのに最適なあのシートを張ったりと、彼女の看病に尽力した。
ヒヨリとアツコも協力してくれたお陰で看病は滞りなく進行し、夕方頃には彼女の39度近くあった熱も引きつつあった。
「…助かった。今まで体調不良になる事はあっても、あんなに高い熱を出すのは初めてだったから」
「感謝を言うなら二人にもな?ヒヨリはホットミルクを用意してくれたし、アツコはお粥を作ってくれた。ナイスコンビネーションだ」
「…アリウスに居た頃はこのまま死ぬ事が出来たら、って思っていた。でも今は…もっと生きたい、って思った」
「…それが正常な反応だよ」
ミサキの心境の変化をひしひしと感じる。彼女にとっての『人生』が輝かしいものへと変わっていく事に少しでも貢献出来たら本望だ。
「それにしてもさ、弟の看病をした事を思い出したよ」
「弟…居たんだ」
「あぁ。パピルスって言うんだけどよ、いつもの溌剌さが嘘みてぇに寝込んで…今朝のアンタと同じくさ」
「苦しそうな顔を見るとこっちも辛くなって…だからオイラは必死に看病した、祈った。どうか元気になってくれって」
「治った時は…それはもう嬉しかったよ。アイツの笑顔はオイラにとっての『特効薬』だ」
…ついつい話し過ぎてしまった。オレの自分語りなんて微塵も面白くないだろうとミサキの方を向くと、そこには彼女の笑みがあった。
「…へぇ、弟想いなんだ、サンズ。わざわざ私達を探し出して受け入れてくれた理由が、何となく分かったかも」
「そうか?…そうだ、オイラパピルスが寝る時にはいつも絵本を読んでいたんだったな。アンタが寝る時も読んでやるか?」
「はっ、はぁ!?私そんな歳じゃないんだけど!?」
「でもして欲しそうな顔してるけどな?」
「してないから!!」
もう一人の
…砂がこびり付く街灯のみが周囲を照らし、殆どの住宅の明かりは消え。静寂に包まれた街の中でオレは店の壁に寄りかかり、『ある人物』の到着を待っていた。
「…すまない。このような時間帯でなければ面と向かって話せないんだ」
「気にする事は無いさ。…『サオリ』」
オレが待っていたのはアリウススクワッドのリーダーである錠前サオリ。彼女だけは他の三人とは異なり、各地を転々とする生活を送っていた。
「姫、ミサキ、ヒヨリ…三人の状態はどうだ?」
「何も問題は無いぜ。皆、元気でやってる」
「…そうか。それを聞けて良かった」
マスクを外し露わになったサオリの口には安堵の笑みが溢れていた。
「その反面アンタは…随分と怪我が目立つな」
「数日前の任務で判断を誤ったせいだ。…こんなものは慣れている」
彼女の体には痛々しい傷跡が残っていた。あるところには切り傷、またあるところには打撲跡…碌に治療も出来ない環境に置かれている事は一目見ただけで分かる。
「アンタもさ、オイラ達の所に来たらどうだ?ちょうど一部屋残っているしよ」
「いや…私はこれで良いんだ。私が導いてきたから、彼女達は必要以上に苦しむ事になった」
「…同じ施しを私が受ける権利は無い」
気持ちは分かる。分かる…が、それでも気負い過ぎだ。元はと言えばベアトリーチェが洗脳教育なんか行わなければアズサは、サオリは、アツコは、ミサキは、ヒヨリは…憎み合わずに済んだ。その罪を一身に受ける権利こそ彼女には無い。
「それがアンタの選択なら…オイラは何も言わない。アンタが正しい選択を出来るって事を信じているからな」
「…ところで、見つかったのか?『やりたい事』ってのを」
「あぁ、見つけた。見つけたが…それが私に合うかどうか…」
「合わないものなんて無いぜ?先生も言ってただろ?『無限の可能性がある』なんてさ」
「…そうだった、な。なら…包み隠さず言うべきか。私は…」
「…化粧を、してみたいんだ」
今まで戦う事しか知らなかった、いや知らされなかった者が見つけた趣味。それは年頃の少女らしいものだった。オレはサオリの親でも教師でも無いが、彼女の成長は…とても嬉しく感じた。
「そうか…よし分かった、なら今日はオイラの所に泊まれよ」
「なっ…言った筈だろう!?私が同じ施しを受ける権利は…」
「オイラがあるって言ったらあるんだ。ほら、アイツらにも顔見せないとな?」
「ちょ…ちょっと待ってくれ…!」
「まさかリーダーが化粧をする日が来るなんてね…」
「こ、こんな顔してるリーダー、初めて見ました…」
「ふふ、サッちゃんがもっと可愛くなった」
「ア、アツコ…」
「…どうした?これがアンタが望んでいた事なんだろう?」
「そ、そうだがこれでは…公開処刑にも程がある…!」
翌朝、リビングの鏡の前には美麗な化粧を施されたサオリの姿が。唇の口紅、目元のアイシャドウ、頬のチークが窓から差し込む朝日で輝く。
困惑するミサキとヒヨリ、笑顔のアツコ、そして顔を真っ赤に染めるサオリ。…先生達が安全な所まで避難するまで殺すか殺されるかの戦いを繰り広げていた頃は、彼女のこんな顔を見るなんて思いもしなかった。
「…世話になったな。今回の恩は…いつか必ず。そして…」
「ミサキを、ヒヨリを…姫を、宜しく頼む」
化粧に加えサオリが負った傷を総出で治療し、腹が減っているだろうと昼食をたらふく食わせた後、彼女はそう言い家を出て行った。彼女が導いてきた、三人に見送られながら。
花畑
「わぁ…キヴォトスにこんな所があったなんて」
「ブラスターに乗って空から探したんだ。綺麗だろ?」
ワイシャツの上にだらしなくパーカーを羽織ったスケルトンと、純白のワンピースを身に纏う少女が二人、花畑に佇む。オレとアツコが居るのはキヴォトスの何処の自治区にも属していない、名もなき草原に広がる人工的ではない自然の花畑。風によって花弁がふわりと舞い上がり、幻想的な光景を作り出していた。
事の発端はアツコの「花畑を見てみたい」という独り言から。彼女も自らの足で探してみたいのだと思うが指名手配されている以上そうもいかない、だからオレが見つけてきた花畑にテレポートで共に来た訳だ。
「この花、綺麗。持ち帰って店の前の花壇に植え替えてもいい?」
「勿論だ。アンタが好きなもの全部持っていきな」
色とりどりで、多種多様な花々に目を輝かせながらアツコは次々と花を摘んでいく。楽しげな彼女の姿に、思わず笑みが溢れる。
「ところでサンズは、花は好き?」
「花…かぁ…」
「この世界は殺すか殺されるかさ」
「キミを1,000,000回殺す事になってもね!!」
「だからお願い…殺さないで…」
「…好きだけど、苦い思い出があるな」
花と言われるとやはり思い出してしまう、あの
オレと同じ世界が『ゲーム』である事を知覚し、人間が落ちてくる前はその知識を力を悪用しオレと何度も殺し合いをした。…未だにゲームの世界に囚われているアイツは今、何を思っているんだろうな。
「苦い思い出…?」
「喋る花が居てさ…可愛らしい見た目の割に口も性格も最悪な奴だった」
「さっさとドライフラワーにでもしてやろうかと思っていたけど、今じゃアイツも恋しいよ」
「面白そうな子だね。私も一度会ってみたい」
「…やめとけ。会ったところで煽られるだけだぞ」
あんな悪影響の塊みたいな奴を目の前の純粋無垢な子に会わせる訳にはいかねぇな…と思いつつアツコの方を見ると彼女は花で作った『それ』を自身の頭に乗せた。
「それは…花冠か?」
「うん。花を趣味にした時から作ってみたかったの?どう?」
「いいじゃないか。お姫様にティアラの組み合わせはベストマッチだぜ」
「ティアラ…」
オレの言葉に何かを思いついたのか、アツコは再び幾つかの花を摘み取り、彼女が頭に乗せているものと同じ花冠を作り上げた。
「お姫様のティアラがあるなら、王子様の王冠も必要だよね」
「まぁ…確かに?それは一体誰に渡すんだ?」
「…え、サンズにだけど」
「ヴッ」
…まさかとは思っていたもののいざ言われると飲んでいたケチャップを吹き出しそうになる。
「オイラが王子…?そりゃ何かの冗談か?こんな怠け者で、店が無い時はいっつも寝てるオイラが?」
「でも生贄にされそうな私を助けてくれたあなたは、まるで王子様みたいだった」
「あん時は必死だったというか…サオリ達からアンタが如何に大切な存在なのかを伝えられていたからというか…」
必死に言い訳しようとするも、オレの為に作ってくれた物を拒むなんて何馬鹿な事を考えているんだと我に返る。
「…分かった。ほらお姫様、アンタの命令に従うぜ」
座っているアツコの前に跪き、花冠が乗せられるのを待つ。まるで即位したばかりの国王が、神官から王冠を被せられる戴冠式のように。
「…どうだ?」
「似合ってる」
「そうか…?きっとアビドスの皆に見られたら笑われちまうな…」
鮮やかな花冠を乗せられたオレを見て、アツコは笑みを浮かべる。こんな事をするつもりじゃ無かったが…まぁ、彼女が嬉しそうならそれで良いか。
「そろそろ満足したか?あまり長く居続けるとミサキ達が心配しちまうからよ」
「うん。やりたかった事が出来て、満足してる」
「…でも───」
隣に座っていたアツコは徐にオレの方へと肩を寄せ、身を委ね始めた。
「もう少し、こうしていたい」
「あなたと一緒に居ると、落ち着くから」
「…ダメ、かな」
…ハァ、全く我儘なお姫様だ。だが彼女はつい最近まで話す事も、自分は何がしたいと願う事も禁じられていた。
そんな少女からの願いを…断る訳にはいかねぇか。
「…いいぜ」
背後に二人が寄りかかれる程の大きさの骨を出す。見上げた空には清々しい青空と、彩るように花弁が舞う。
「今日はステキな日だ」
「花が咲いてる」
「小鳥達も囀っている」
「こんな日には、アンタみたいなヤツとは…」
「…外でゆっくり、過ごすのも良いかもな」
穏やかな風が、花の香りが、空に広がる青空が心地良い。それらがオレ達を眠りに誘うのは実に容易く───
「…あれ?サンズは?」
「何処に行ったんだろう…」
「よっ」
「わっ…」
目覚めたアツコを骨の上から呼びかけ、驚かす。むぅ、と頬を膨らませる彼女を肴にケチャップを再び飲む。
「アンタ、寝てるオイラの顔に落書きしたりオイラの服勝手に着たり色々と悪戯してるだろ?そのお返しさ」
「…なら今回のお返しに、また悪戯するよ?」
「ならオイラは悪戯を阻止する悪戯をしてやるぜ」
そんな他愛も無い話をしながらテレポートで下に降り、骨を引っ込める。…骨を砕いて骨粉にすれば花がよく育つんじゃないか?今度試してみるか。
「さて、今度こそ帰るか。この前みたいにミサキに問い詰められるのは御免だしな…」
「…ねぇ、いつかまたここに連れて来てくれる?」
「お姫様のお望みとならば何なりと、な」
アツコがオレに触れている事を確認し、自宅へとテレポートする。草原には幾つかの花が摘まれた跡がある事以外には、そこに人が居た形成は無かった。
──────────────
「…ボクはいつまで意味の無い命乞いをしなきゃならないんだ?」
また。また殺された。アズゴアを殺し機嫌を取ろうとしたけど逆効果、ボクは塵にはならないけど塵になるまで切り刻まれた。
フリスク?キャラ?…いいや違う、プレイヤーとかいう奴が始めた虐殺は今も続いている。何回も、何十回も、何百回も。同じ光景がずっと続くと思っていたけど、数十回前のリセットの後に『それ』は起きた。
「…あのゴミ袋はどうして一回消えたんだよ」
ボクと同じでこの世界が『ゲーム』な事を知っていて、人間が落ちてくる前はボクと何度も殺し合いをしたチビのスケルトン、サンズ。奴はある時間軸の時だけ『消えた』。何も居ないところに話しかけるパピルスの姿は不気味だったなぁ。
プレイヤーは奴が居ないとやる気が出ないのかクリアせずに途中でリセットした。それ以降の時間軸は普通に居たのに。
「一体何処に行ったのさ…確定された行動以外の事は出来ないのに…」
再びリセットされるまでに過ごす真っ暗な空間で考える。こんな事考えてもきっと意味無いのに。
…暫く考える内にある一つの仮説が出てきた。あの時間軸のサンズは消えたんじゃなく何処か別の場所に『飛ばされた』んじゃないかって。
「…もし…」
「もしそこで、ボク達が殺され続けているのを尻目に平穏な生活を送っていたら?」
「…そんなの…」
許さない。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけがどうしてお前だけが?
「フッ…ハハッ、ハハハハハッ!!!」
「……覚悟してよねサンズ、もしまた会う機会があるなら…」
「キミの大切なもの、全部奪ってやるよ」