Blue Archive: Visitor From Underground   作:暗黒星 堕零

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世界を滅ぼす為に生まれた鍵は、いつか世界を救う為の鍵となる。


ゆうしゃが あらわれた。

 ミレニアム自治区、とはいえ都市部から遠く離れた上空。夜に青く、ぼんやりと全体を照らし出す要塞都市───通称『エリドゥ』を前に浮遊する骸骨の上で佇む一人のモンスター。

 

「今のところは…順調だな」

「だけど油断は出来ねぇ。気をつけてくれよ、先生」

 

 エンジニア部から渡されたタブレット端末に先生達の状況が随時映し出される。エリドゥの全体図と、彼らの現在地も共に。

 オレも先生達と同行しようと思っていたがそれはあくまで当初の話。アリスの救出作戦に関する会議を行う中でこんな会話があった。

 

"サンズ、君は待機していてくれないかな?"

「別にいいけど…その理由は何だ?」

 

"リオは私達がエリドゥに潜入する事を確信しているだろうし、既に対策を講じている筈。"

"これから向かうのは彼女のプラットホーム、私達には予測出来ない事をしてきて最悪の場合、全滅もあり得る。"

「だからオイラを打開策にしたい、そういう事だな?」

 

 目の前に鎮座する都市はリオが一から自分で作り上げた場所。何をされても文句は言えねぇ立場。

 だからこそ目には目を、予想外には予想外としてオレが選出された。恐らくリオにはまだオレが目覚めた事は伝わっていないだろうしな。

 

「よし、想定通り『物流輸送用無人列車』で現場に来れたね」

「うん、ヴェリタスが手伝ってくれたお陰」

「流石ヴェリタスです!まさか列車システムごとハッキングしてくださるとは!」

 

「…ちょっと言葉にトゲない?気のせい?」

「まぁいいか…気をつけてね。その通路の先、地上に出たらもう『エリドゥ』だよ」

 

 地下通路を通じて先生達はエリドゥへと向かっていく。道中でリオが所有しているであろうロボット、通称『AMAS』の群勢と交戦するも先生の指揮の前ではなす術なくスクラップと化していく。

 

「よーーし!外に出れた!」

「それで、ここから何処に向かえばいいの?」

 

「アリスが居るのは恐らくエリドゥの中心部…そう、この中央にあるタワーだよ」

「現在地からルートを算出しました。左手にある大通りを真っ直ぐ北に進めば辿り着けます」

 

 手に持つタブレットにもデータが送られてくる。…このままオレがタワーに飛んでいきゃアリスの元へ行けるかもしれないが、そこまで大胆な事をすれば当然リオに勘づかれる。迂闊な行動は出来ない。

 

「どいたどいたー!」

 

 その後も難無くタワーへ向け順調に進んでいく…かと思われたが、信じられない光景を目の当たりにする事になる。

 

「何だありゃ…都市が動いてやがる…」

 

 探知されないようにとそれなりの距離を取っているにも関わらずはっきりと聞こえる轟音を機に、エリドゥ内の建物が命を宿したかの如く動き始めた。タブレットからも皆の焦燥する声が次々と。

 

「え!?ちょ、ちょっと待って!今、通信の状態が…!」

「これは…」

 

「ヴェリタス…やはり貴女達だったのね」

「流石あの『ヒマリ』の後輩なだけあるわ」

 

 次は何が起きたかと思えば遠隔で支援しているヴェリタスの通信が不安定になり、遂には途絶える。先生でもゲーム開発部でも、ヴェリタスでもエンジニア部でもない、聞き覚えの無い声と共に。

 

「予測はしていたけれど…本当にここまで来たのね、先生」

"君を止めに来たよ…リオ。"

 

 先生達の前方に構築されたホログラム。先生とほぼ同等の背丈に黒を基調とした服、前から見ても分かる程の黒の長髪に一際目立つ赤い瞳。…成る程、彼女がミレニアムの生徒会長、調月リオか。

 

「やはり、あの時の私の言葉と行動だけでは貴方を…」

「そして、その子達を説得出来なかったのね」

 

 ゲーム開発部とエンジニア部の方を向き、はぁ、とため息をつく。

 

「……先生」

「トロッコ問題をご存知かしら?」

 

 トロッコ問題。オレも聞いた事があるし、ガスター博士に問われた事がある。暴走するトロッコの行先を一人が縛られた線路に向けるか、五人が縛られた線路に向けるか。

 …つまりリオ、彼女が言いたいのは大を犠牲に小を救うか、小を犠牲に大を救うか。彼女が選んだのは───後者だ。

 

「そう。誰かがレバーを引く役割を担わなければならない」

「そして…私は喜んでその役を引き受けようとしているだけ」

「悪意も敵意も、端から持ち合わせていない。私はただ───」

 

「もう!分かんないよ!!難しい話はいいから、アリスを返して!!」

 

 モモイの叫び声がリオの話を遮る。…リオの話は至って論理的。世界を滅ぼしかねない存在を、学園の代表が責任を持って処分しようとしているだけ。

 もしそれがアリスではなく全く別の、見知らぬ存在ならオレ達はきっと彼女に賛同していた。だがアリスであったばかりに…同じ学園の奴らが争い合う事になってしまった。

 

「アリスが『名もなき神々の王女』だって事も、世界を滅ぼしちゃうような力を持ってる事も、全部分かってる!」

「…それでも!アリスは私達の大切な部員なの!一緒にゲームを作って、遊んで…アリスがそんな事をする為に作られた訳じゃなくても、あの思い出は本当のものでしょ!?」

「だからお願い、アリスを返してよ!」

「お姉ちゃん…」

 

「…えぇ、それについては重々承知しているわ。申し訳ないとも思っているもの」

「だけど、私ももう…退く事は出来ない」

 

「───アバンギャルド君、発進」

 

 リオの声に応じ、何処からともなくドリフト音が聞こえてくる。何処だ何処だとタブレットに映る光景をくまなく見渡している中、先生達の行手を阻むように現れたのは───

 

 

 

「……ダセぇな」

 

 

 

 お世辞にもマトモとは言えない、何とも微妙なデザインをしたロボットだった。

 

 

「うわぁぁぁっ!?何あれ!?」

「見た目はダサいのに滅茶苦茶強いんだけど!?」

 

 『アバンギャルド君』と命名されたロボットの攻撃は凄まじいものだった。見た目を犠牲に戦闘力に全振りしたのかと思う程の劇甚たる攻撃量に休む暇を与えない俊敏な速度。

 

「先生が…押されてる…?」

 

 初めてだった。数や実力に差があっても乗り越えてきた先生の指揮が、劣勢になっているのは。モモイが、ミドリが、ユズが、コトリが…前線で交戦する生徒が次々と押されていく。

 

「何あの変な形の盾!?攻撃が当たらないんだけど!?」

「あれは黄金比をモチーフにした盾だね。しかしリオ会長のデザインセンスには…」

「ウタハ先輩は解説してないでもっと手伝ってよー!!」

 

 ただでさえ強固な機体に何故か黄金比モチーフの盾が加わり攻撃が殆ど通らない。見た目のみならず性能もポンコツなら笑えたのだろうが、下手すりゃいつぞやのベアトリーチェよりも強い。

 

"(このままじゃ退却を余儀なくされる…)"

"(…だけど良かった。こうなる事を想定して『彼』を待機させておいて)"

 

"…頼んだよ、サンズ。"

 

 先生は徐にコートの内ポケットから何かを取り出した。細長いプラスチック製の容器に詰められた赤い液体…ケチャップ。

 

「へっ、お呼びとありゃ行くしかねぇな」

 

 ケチャップを取り出す、それがオレを呼び出す合図。立ち上がり凝り固まった体を解し、テレポートの準備を整える。

 エリドゥ内には一度も入っていないが、全体図の地図とリアルタイムの映像で大方位置は───

 

 

 

「よっ」

 

 

 

 把握済みなのだから。

 

「サンズ!!」

「サンズさん!!」

 

 やりたい放題のアバンなんとか目掛け一体のブラスターが噛みつき動きを止める。隙だらけとなった奴に襲いかかるのは、無数の光線。

 

「今のアンタは『Avant-grade』よりも『Abandoned』がお似合いだぜ」

 

 複数の光線が重なった一撃は絶大そのもの、リオには申し訳ねぇが次々と射程上にある建物を粉砕していく。

 

「幾ら強いと言えど…」

「生き物同様、機械には限界がある」

 

 数十秒に渡る光線が止み、煙の中からは機体のあちこちから電流を流し機能を停止させたアバンギャルド…君、の姿が。流石と言うべきか、多少の損傷はあるが原型は保っている。

 

「作戦成功、ってところかな」

「…目覚めていたのね」

「…あぁ。こうして会うのは初めてかな、会長サン?」

 

 再び現れたホログラム越しのリオがこちらに話しかける。オレが居る事に驚いた、といった様子だが、表情筋は何一つとして動いていない。

 

「貴方もアリスを助けに来た…そういう事よね?」

「まぁな。でなきゃここには居ねぇ」

 

「…貴方はアリスが恐ろしくないのかしら?」

「名もなき神々の王女の追従者である無名の守護者に腹を貫かれ、生死の境を彷徨った…」

「本来なら、トラウマになっていてもおかしくない筈よ」

 

 …確かに、あの時のアリスに向けた感情は恐怖だった。つい数分前まで純粋で、少々生意気だが優しかった彼女がオレ達に牙を剥いたのだから。でもあれはアリス自身の意思じゃないって事だけは分かる。

 

「いいや、全く恐ろしくねぇな。むしろ恐ろしかったのはアリスの方じゃないか?」

「自分でも訳が分からないまま暴走して、仲間を傷つけて…」

 

「…オイラは似た境遇の奴を知ってるから尚更だよ」

「かつては友達だった奴を自らの手で…殺して。裏切って。何もかもを壊されて」

 

 なぁ、フリスク。アンタも苦しかったよな、悲しかったよな。逃げる時でさえ笑顔を見せ、慈愛の塊だったアンタの手は…いつの間にか塵で汚れていた。

 自分ではない何者かに身体の主導権を奪われ、大切なものを全て滅茶苦茶にされて。きっと一番辛かったのはフリスクだ。オレが奴を止められていれば、アンタがオレ達と並ぶ光景をまた見れただろうに。

 

 …何もしてやれなくて、ごめんな。

 

 だから…だからこそオレは、アンタと似たような状況に陥っている奴を救いたい。

 

「…ってな事で、アンタの考えは理解出来ても、やろうとしている事は理解出来ない」

「アリスは悪くねぇ。アイツが生まれた事を否定させはしねぇよ」

 

「…そう。やはり貴方も私の敵なのね。残念…」

「…爆発音!?一体何処から…」

 

 それまで一切表情を崩す事の無かったリオの顔が焦りに満ちる。彼女は『爆発音』と言ったがそれらしき音は何も聞こえない。

 そうして向こう側で何が起こっているのか分からないまま、リオを映し出していたホログラムは消えてしまった。

 

「皆、大丈夫?」

"…チヒロ!"

 

 通信で聞こえてきたのはヴェリタスの部長であるチヒロ。彼女は以前オレ達がG.Bibleを解析する為に、メイド部と衝突してでも手に入れた『鏡』を用いてエリドゥのネットワークをハッキングしたという。

 

「流石はハッカー集団の部長だな。…だけどアレどうやって手に入れたんだ?」

「うん!だって差押品保管所に行くのってすっごく大変だよね!?」

 

 モモイの言う通り、鏡はあれから再び差押品保管所に置かれる事になっている。一筋縄では行けない場所だが…

 

「こんにちは、トレーナー、サンズさん」

"スミレ!?"

「…トレーニング部か」

 

「アリスちゃんの事を伺って、居ても立っても居られず…僭越ながら、協力させて頂きました」

「うん、本当に助かったよ。ありがとう」

 

 スミレの声。…成る程、言い方は悪くなるがハッキングやら機械やらと密接に関わる事は少ない、スポーツを主とする部活ならリオの目が行き届いていないのか。

 

「アバンギャルド君の動きが停止した今がチャンスだ!行くよ、エンジニア部!」

「はい!ラジャー!」

「分かった。アレを設置するね」

 

 先生とオレがヴェリタスとスミレと会話している最中、エンジニア部は停止したアバンギャルド君の元に駆け寄ったかと思えば何かを準備し始めた。

 

"い、一体何が始まるの!?"

 

「自律追跡機能に加え、防水防塵も完備」

「更に、絶対零度や3千度を超える高温下でも安定性を誇る超超超超安全認証を保証した…!」

「半年分の予算を注ぎ込んで作った最強の───」

 

「「「最新式遠隔スピーカー!」」」

「…それで何をするってんだ?」

 

 『スピーカー』と銘打っておきながらその見た目は完全にロケット弾。追い打ちと言わんばかりに放たれたそれは───

 

「…やはり、私達が作ったスピーカーは響きが良いね!」

 

 盛大に爆発、アバンギャルド君を大破させた。

 

「やったー!倒したよー!」

"何が何だかよく分からない内に終わってしまった…"

「…み、皆で力を合わせたお陰で、た、倒す事が出来ました」

「そうだね。その、何というか…」

「レイドボスの討伐に成功した、みたいな!」

 

 兎にも角にも強敵の撃破には成功したが、目的はアリスの救出。まだ気は緩めないものの、エンジニア部は一斉にバタリと倒れてしまう。

 

「…あの瞬間、スピーカーを設置するまでは良かったのだが」

「インドア派には…あ、余りに無茶な動きをしてしまい…」

「……もう、指一本動かせない」

 

「見ての通りだ。最後までついて行けず面目ないが、私達はここでお別れだ」

 

 地面に仰向けになりながら、顔だけをこちらに向けながらそう話すエンジニア部。普段は室内で何かを作りっぱなしな彼女達にとっては過酷と言わざるを得ないだろう。

 

「ううん!大丈夫!助けてくれてありがとう!さっきのスピーカー!凄くカッコよかった!」

「この先は私達でどうにか頑張るね!」

 

「オイラ達に任せておきな。勇者から囚われのお姫様になっちまったアリスの事はさ」

"心配しないで。皆で必ずアリスを連れ戻してくるよ。

 

 オレにとっての『お姫様』はアイツしか居ねぇけどな、と思いつつエンジニア部と別れを告げ先へ進んだのだった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

"ここが要塞都市『エリドゥ』の中央タワー…"

「ようやく着いた…遠いな全く…」

 

 道を何度も曲がり、または直進して。広大な都市を何分も走り回り、ようやく中央タワーの入り口に辿り着いた。

 

「あっ!ご主人様と皆〜!やほやほ!」

「皆さん到着されていたのですね」

 

 オレ達とは別の場所にて、リオの従者であるトキを相手取っていたネル、アカネ、アスナ、カリンのメイド部と合流する。

 

"ネル達がここに居るという事は…トキは?"

「…ぐっ!!」

 

 トキの名を耳にした瞬間、ネルは顔を真っ赤にして怒りを露わにする。彼女達からトキとの戦闘の一部始終を聞いたがどうやら逃げられてしまったらしい。戦闘自体は優勢だった、みたいだが。

 

"さっきの地震はそれだったんだね…"

「ええ…そのせいで陽動自体の意味が無くなってしまった訳です」

"地形が変わるなんて、普通は想像出来ないから仕方ないよ…"

 

「オイラも上空から見てたがありゃ圧巻だったな。動く岩は見た事あるが動く都市なんて初めてだ」

「はぁ!?何だそりゃ!?」

「ついでに喋りもした」

"そっちの方が気になってきたんだけど…?"

 

 …少々話は逸れたが、逃げたというのなら確実にオレ達の前に再び現れる。ましてや目の前のタワーはチヒロ曰く「エリドゥの全ての電力がここに集中する構造」、アリスが居るのはほぼ間違いない。ここへは何が何でも通したくない筈だ。

 

「つまり、後はこのバカデカいタワーを登りゃあいいんだろ?」

"そうだね、後は登るだけ…"

「ただ、残念だけど───」

 

 

 

「あの会長が、門番を用意しない訳がないよね」

 

 コツコツ、とヒールの音を立てながら前方から現れる、もう一人のメイド服を着た少女。

 

「お待ちしておりました、先輩方、先生」

 

 …アイツが『トキ』。自分以外のメイド部と戦闘していたのにも関わらず、疲れも傷も全く見られない。あのネルを単独で制圧したってのは嘘じゃないみたいだな。

 

"やっぱり、トキが門番なんだね…"

「あっ!また会えたね〜!トキちゃんやほ!」

「あぁん?んだよ、さっきは尻尾巻いて逃げ出した癖に…」

「一体どのツラ下げてあたしらの前に現れてんだ?」

 

「作戦を変更したのは、貴女達だけだと思って?」

「…リオ」

 

 数としてはこちらが圧倒的に有利、だがトキは一切焦る様子を見せない。リオがアバンギャルド君のみならず、オレ達を撃退する為の策を用意しているのは明白だ。

 

「貴女達が来る事を見越して幾つもの計画を準備してきたけれど───」

「まさか、防衛システムを全て壊して、ここまで到達するなんて…」

「変数として機能し、私の計画を狂わせたのも、全ては…」

「シャーレの先生、補佐のサンズ、貴方達が関わったからかしら?」

 

"……リオ。"

「そりゃどうだかな。でもオイラ達は完璧な計画だと思っていた奴らを何度も倒してきた実績があるんでな」

「それならそれで構わないのよ。貴方達が規格外の力を見せるのなら、こちらもそれ相応の切り札を出すまで」

 

「トキ。現時刻をもって『アビ・エシュフ』の使用を許可するわ」

 

 どうにかして話し合いで解決したかったところだが…それは不可能だと伝えるようにリオはトキへ『アビ・エシュフ』なる、恐らく兵器の名を口にし使用を許可した。

 

「…イエス、マム」

「パワードスーツシステム『アビ・エシュフ』へ移行します」

 

 徐にトキは身に纏うメイド服と武装を脱ぎ捨て、何処ぞのお姫様に似た身軽なインナー姿へと変わった瞬間。

 

「呼出信号確認」

 

 上空から彼女の一回りも二回りもある巨大な白い正方形の物体が、凄まじい速度で地面に飛来する。

 

「わ、わぁっ!?一体なにっ!?」

「うおっ…!?」

"サンズ!飛ばされないで!"

 

「…助かったぜ、先生」

 

 質量と速度を伴った衝撃は骨だけのオレを吹き飛ばすには十分。…宙に浮きかけたところを先生が掴んでくれたお陰で助かったが。

 

「…成る程な。余裕を見せていたのは『アレ』があったからか」

 

 飛来した正方形の物体の正体はパワードスーツの格納庫。中から展開されたそれにトキは搭乗、両腕に、両足に、見ただけで戦意を削がれかねない隆々たる装甲を身に纏っていく。

 そして最後、彼女の顔に装着されたバイザーから輝く水色の光がこちらを視界に捉えた。

 

      パワードスーツシステム

      「アビ・エシュフ」起動

 

 

 

      戦闘、開始します。

 

 

 …アビ・エシュフ。リオが切り札と呼ぶんだ、大方察してはいたが恐ろしいまでの戦闘力にオレ達は苦戦を強いられていた。

 

「オラァッ!!」

「これならどうだ!?」

 

 ネルの銃撃とオレのブラスターの一撃が一斉に迫るもトキは顔色を変える事なく、さも同然のように銃弾を全て撃ち落とし、光線を回避する。

 

「…撃墜されやがった」

「避けるとかアリかよ…」

 

 そもそもアイツの動きが妙だ。事前にオレ達の攻撃がいつ、何処から来るのか分かっているのかと思う程に的確に攻撃を相殺し、又は避け。攻撃が届く気配が微塵も無い。

 

「弾丸は到達前に撃墜され、死角からの攻撃も回避している…」

「待って、おかしい。このデータ量は…ありえない…」

 

「要塞都市エリドゥ全域の電力と演算機能が、全てあの『機体』に集中している…!?」

「そう───そして、最新鋭の演算機能で強化されたその機能は…未来を予知し確定する事さえ可能とするわ」

「マジで分かってる奴が居るかよ…!」

 

 …これまたとんでもねぇ奴が来ちまったもんだ。そんな馬鹿げた事が出来るってのかよ?

 

「チートでしょそれって!そんなのズルいよーっ!!」

「……」

 

「…あっ!ねぇ見てミドリ!今当たったよ!」

「確かに当たったけど…全然効いてないよ…!」

 

 仮に当たったとしても、生半可な銃弾では強固な装甲の前では無意味。ついでに攻撃面に関しても優れているのが嫌なところだ。容易く地面を穿つ銃撃は、オレが当たりゃ即塵になるって事がひしひしと伝わってくる。

 

"メイド部の皆!大丈夫!?"

「はい…何とか」

「うーん…ちょっとキツいかも?」

「…攻撃が当たらないのがもどかしいな」

「チッ…近づきたいのに迂闊に接近出来ねぇ…」

 

 先生の指揮下にも関わらずメイド部が手も足も出ない状況。このままだと敗北一直線…だが、リオが切り札を隠していたように、オレも切り札を隠しているのだから。

 

「先生、オイラに策がある。ここはオイラに任せてくれないか?」

"…分かった。頼んだよ、サンズ。"

 

 先生に了承を得るや否や左手にBonely Blasterを装着、骨で自身を守りながら光弾を発射しながら徐々にトキへと接近する。

 光弾は銃撃で相殺されるか避けられるがそれでいい、目的は彼女に近づく事だ。

 

「…何をするおつもりですか?」

 

 怪訝な表情を浮かべるトキに向け、どさくさに紛れパーカーのポケットに潜めていた煙幕を投げつける。

 

「(あれは…)」

 

 煙幕は呆気なく弾き飛ばされ明後日の方向に煙を発するがそれで問題ない。煙を出す事が肝心、言わば『合図』なのだから。

 

「言っておくけど援軍は───」

 

 

 

「オイラだけじゃないぜ」

 

 刹那、一閃の弾丸がトキの搭乗するアビ・エシュフを大きく後退させる。

 

「…ッ!?何処から…!?」

 

 狼狽えるトキの上空で輝く無数の『何か』。オレはそれを何か知っているし、待っていた。即座に左手を空へと掲げ重力操作を発動する。

 今までの重力操作は一度に一つの物体しか効力を発動しなかった。だが今は違う、精神世界内でガスター博士に与えられた力によりオレは『強化』された。魔力が許す限り、一定範囲内のものを複数操れるようになったって訳さ。

 

「幾ら強固な装甲でも…コレは効くよなぁっ!」

 

 一つに纏まった『何か』の正体、わざわざ言うまでもないと思うがミサイル弾だ。ただでさえ一発でも直撃すりゃ致命的なそれらは重力を無視した奇っ怪な軌道でトキへと迫り───

 

「…予測出来ません…!」

 

 見るからに鈍重な機体が驚く程に軽く、瓦礫と共に吹っ飛んでいく。

 

「…対象への着弾を確認。どう、サンズ?」

「ありがとなミサキ。アツコ、ヒヨリ」

「へへ…お役に立てて良かったです…」

「私の煙幕、役に立った?」

 

"……スクワッド!!"

 

 通信機から聞こえる声。そう、アリウススクワッドだ。オレの切り札とは彼女達の事さ。というのも、作戦を実行する前に彼女達とこんな会話をしていた。

 

 

 

「…アンタらには『コレ』を付けて事前にエリドゥに潜入して、合図が来たら支援攻撃をして欲しいんだ」

「アツコから貰ったこの煙幕が合図さ」

「りょ、了解です!』

 

「でもさ、サンズや先生が救おうとしている生徒はあなたを昏睡状態に陥れたんでしょ?これでまた傷つきでもしたら、姫が黙っていないと思うけど」

「…つい最近まであなた達と敵対していた私達が言える事じゃないけど、やっぱり心配」

「…まぁ、そうだよな。アンタらの気持ちもよく分かるよ」

 

「だけどだ。たとえアリスの体が引き起こした事でも、アリスが背負うべき罪じゃねぇ。オイラ達がそれを証明しなきゃならないんだ」

「頼む、オイラを信じてくれ。オイラもアンタらを信じるからよ」

「…ふふ、あなたがそこまで言うなら、やるしかないよね。いいよね、ミサキ?」

「…姫がそう言うなら」

 

 

 

 無事に作戦は成功、少々卑怯な気もするがこれもアリスを助ける為だ。

 

「そんな…エリドゥ内の生体反応はここに居る貴女達とエンジニア部以外に見当たらないのに…!」

「だろうな、見つからないようにしているんだし。…何故なら」

 

「『コレ』を付けているんでな」

 

 隣で浮くブラスターが咥えていたものをリオ達に見せつけ、胸に付ける。するとオレの姿はみるみる内に周囲の景色に溶け込み、完全に姿を消す。

 

「驚いたろ?これこそエンジニア部の産物の一つである…」

「『ステルスバッジ』さ」

 

 かつてアリウス自治区でアツコを救出する際に使った万能アイテム。これがありゃ姿のみならず、レーダー探知にも反応しない。

 まさか一度きりだと思っていたヤツがこんな場面で活躍してくれるなんてな。

 

"あれっ?確かそれって一つしか…"

「あぁ、だからオイラが増やしたんだ。元研究者なんだ、こんぐらいの事は容易いもんさ」

 

「あっ、前にサンズさんがエンジニア部の部室に向かっていたのはそういう…」

「その通りだぜ、ユズ。備えあれば憂いなし、ってな」

「えっ!?あれ『備えあれば嬉しいな』じゃなかったの!?」

「お姉ちゃん…本当に高校生…?」

 

 さて、このまま撃破、タワー内部に向かいたいところだが…現実はそう上手くいかないみたいだ。

 

「…これは一杯食わされたわね。だけど…」

「…リオ様、まだいけます」

 

 戦闘は終わっていないと言わんばかりにトキは立ち上がる。まだまだ骨が折れそうな戦いは続きそうだが、装甲には今まで付く事の無かった損傷が。

 

「…なぁモモイ、さっきアバンギャルド君との戦いをレイドボスに例えたが、レイドボスで重要な事は何だ?」

「えーっと…構成スキル?」

「違う!ほら、どんなに強い装備やスキルが揃っていても一人じゃ勝てねぇだろ?」

「…あっ!もしかして仲間!?」

「そうだ。個々が好き勝手戦っても勝てる見込みはねぇが、全員が心を合わせればきっと勝機が見えてくる筈だ」

 

「…だから先生、ここからはアンタの指揮に全てが掛かっている。いけるか?」

"まかせて。私が責任を持って、君達を勝利に導くから。"

「へへっ、その言葉が聞けて良かったぜ。じゃあ…」

 

 

 

"行くよ、皆!!"

 

 「おう」と返事し先生から渡されたケチャップをグイッと一気飲み、戦闘の準備を整える。

 

"幾ら高度な演算機能と言っても限界はある。"

「だからとことん錯乱させりゃいい」

 

"ネル!アスナ!トキの周囲を回りながら攻撃をお願い!サンズは支援を!"

「任せとけ!」

「りょーかい!」

「あぁ」

 

 ネルとアスナが俊敏な動きでトキの周囲を四方八方に移動しながら銃撃を開始。オレも彼女達を防護する骨に加え適当な位置に骨を出現させ、意味のある行動と無い行動を交え演算を阻害させる。

 

「くっ…上手く演算が機能しない…」

「ですが…!」

 

 それでも的確な行動を取れるのは流石と言うべきか、骨と骨との合間から一瞬姿を見せたアスナ目掛け銃口を向ける。

 

「あっ…!」

「待ったーっ!!」

 

"…間に合ったね。モモイ、ミドリ。"

「ありがとっ!助かったー!」

 

 今にもあの強力無比な攻撃が開始されようとした瞬間、また別の骨の陰から放たれた才羽姉妹の銃撃が銃口の位置を変える。

 発射された弾幕は付近の建物に向けられ、ガラスが飛び散る。

 

"アカネ!爆弾の準備はいいかい?"

「はい、既に完了しております」

 

 オレ達が時間を稼いだ事によりアカネの持つ爆弾はいつでも爆発の準備が出来ている状態だ。

 「はぁっ!!」とキヴォトスの生徒らしい剛腕で投げられた無数の爆弾はトキへと降りかかる。幾つかは撃墜されるも数が数、対処しきれずに落ちた爆弾が一斉に爆裂、瓦礫と煙が入り混じる。

 

「(…押されている。このままではトキが負ける可能性が…)」

「AMAS!出撃!」

 

「えーっ!?あれも来るの!?」

 

 劣勢と判断したリオによるものであろうAMASの群勢が後方から迫り来る。…だがこの程度で狼狽える訳にはいかない。

 

"モモイ!ミドリ!ユズ!AMASの処理は任せたよ!"

「オッケー!行くよミドリ!」

「う、うん!」

「…わ、私も、頑張らなきゃ…!」

 

 AMASへと突撃するゲーム開発部。息の合った才羽姉妹の絶え間無い攻撃、ユズのゲームで培った経験をそのまま出力したような動きが敵を翻弄させる。

 

「こーれーでーもー…」

 

「「「食らえっ!!」」」

 

 三人の銃から同時に放たれるドット調の弾幕。色とりどりな見た目とは裏腹に威力は絶大、道を埋め尽くすAMASを瞬時に一掃した。

 

「さて、これでトキに集中出来る───」

 

 

 

「…目標確認、ロックオン」

「アビ・エシュフ、殲滅モード」

 

 

 

「…ッ!?」

 

 …マズい、雑魚敵に意識を向けていたせいでトキの動向を疎かにしていた。あの肩のランチャーから感じられる力…間違いなく、デカいのが来る。

 

「…ファイヤー!!」

「目には目を、光線には…光線だ」

 

 攻撃を迎え撃つ為、射程上に居るメイド部を守る為に召喚したブラスターからランチャーとほぼ同じタイミングで光線が発射される。

 真っ向から向かい合う白と紫の光線の鍔迫り合い。押しては引き、押しては引き…無論、お互い譲るつもりは無い。

 

「こんぐらいの、もんで…オレの[[rb:相棒 > ブラスター]]が負ける訳が…」

 

「ねぇだろ…っ!」

 

 …結果は相殺。魔法と科学のエネルギーが混合する爆風が辺りを覆い尽くす。

 

「…ミサキ!さっきのを頼む!」

「了解」

 

 再び飛来するミサイル弾。先程と同様に重力操作で一つに纏め上げトキへと…

 

「(…既にあれの対策方法は予測済み。なら…)」

 

 

 

「…なーんてな?」

「…えっ?」

 

 投げつけるのは、学習能力ゼロの奴がする事だ。途中で能力を解除し、分散したミサイル弾が彼女に襲いかかる。

 

「くうっ…!」

 

"カリン!"

「ヒヨリ!」

"右の武装を狙って!"

「左の武装を狙え!」

 

「分かった」

「わ、分かりました!」

 

 生まれ育った地は違えど持つ武器種は同じ。二人のスナイパーが、指示された部位へと精密な射撃をお見舞いする。

 

「…ガトリングが…!」

 

 損傷していたところに直撃する渾身の一撃。突破出来ないと思われていたアビ・エシュフ、その機能の一つが遂に停止した。

 

「…先生!」

"うん!"

 

"サンズ!君の骨でネルをトキの元に飛ばして!"

「…そんな事して良いのか?」

「あたしが良いって言ってんだから良いんだ!やってくれ!」

「…分かったぜ」

 

 気は引けるがネルの真下に斜めの角度で骨を出現させる。出したオレが驚く勢いで彼女は跳躍、トキへ二丁の銃を向ける。

 

「ガトリングは使用不可となりましたが…『コレ』はまだ使えます」

「…っと、やっべ…」

 

「…リーダー!」

「ネル先輩!?」

 

 またしても発射されるランチャーからの光線にネルはモロに食らってしまう。常人なら病院送りになりかねない事態。

 …そう、『常人』ならの話。

 

 

 

「……その程度じゃあ、あたしは倒せねぇな」

 

 

 

 傷だらけになりながらも笑みは決して絶やさない。更に光線の衝撃で飛ばされないよう装甲に鎖を巻き付けている抜け目の無さ。…これがミレニアム最強と謳われる美甘ネル、か。

 

「今の…お返しだァッ!!」

 

 まさかの頭突き。トキのバイザーは粉砕し、中から静かに汗を流す彼女の顔が。

 それを機に始まる、ネルの怒涛の近接戦。殴っては蹴り、銃で殴打し鎖で打ち据え…既に満身創痍なトキに最早抵抗する術は無く───

 

「覚えとけ、後輩。あたしがコールサイン『ダブルオー』…」

「美甘ネルさ」

 

 アビ・エシュフは大破、完全に機能を停止した。

 

 

「着いた!」

「ここがエリドゥ中央タワーの最上階…」

「(……ゴクッ)」

 

 トキを倒したオレ達を邪魔する存在は、もう居ない。激闘を終え疲労困憊のメイド部を休ませると共に下で待機させ、先生とオレ、ゲーム開発部はエレベーターでリオとアリスの居る最上階へと辿り着いた。

 

「本当に…貴女達はここに来たのね」

「認めましょう…私の負けよ」

 

 部屋の奥からリオが現れる。モモイの「まだ戦うつもり!?」という言葉を遮るように彼女の口から発せられたのは、敗北宣言。トキが敗れた時点で、自身の負けは確定していたと。

 

"…リオ。君はさっき、トロッコ問題について言っていたよね。"

"…ごめん、私にはどちらかを選ぶ事は出来ない。"

"私は世界も、アリスも救いたい。優柔不断な私と違って、どちらを選ぶのか決められた君は私よりもよっぽど立派だと思う。"

 

 トロッコ問題。どちらかを選ばざるを得ない状況。短時間でどちらかを選ぶだなんて、そう易々と出来る事じゃない。

 

"リオ、どうして君はこの計画をトキを除いて誰にも話さなかったの?"

「…私は…」

"きっと、誰にも理解されないと思っていたからだよね?"

「…えぇ、そうよ。アリスのミレニアム内での評判は知っていたもの」

"反発される事は知っていた。だから一人で抱え込んでいた、そうだよね?"

 

 アリスはミレニアムにおけるマスコットのような存在。皆から愛され、無類の人気を誇っている。

 そんな彼女の正体が世界を滅ぼす為に作られたロボットなんて事実であっても信じられないだろうし、信じてもらえないだろう。

 

"それは私も同じだった。確かにアリスと出会った場所は特殊だったけど、危険な事はしないと思い込んでいた。"

"…碌にアリスの事も調べないままで。"

 

"きっと私がアリスの正体を前から知っていたら、君が一人で思い悩む事は無かったと思う。"

"…信用出来ない大人で、ごめん。"

 

 大きく頭を下げる先生に、リオは酷く動揺する。この一連の出来事が起こってしまった責任は、全て自分にあると。

 …とか言うオレもアリスにあんな力があるとは今まで思いもしなかった。

 

「誰もがアリスを安全だと信じて止まなかった…それが今回の件の発端だろうな」

 

 信じるのは素晴らしい事だ。だがそれは時に、裏目に出る事もある。

 …パピルスも死ぬ直前まで、あの人間の皮を被った化け物が良い奴になれると信じていた。オレだってそうだ。

 

 

 

「オレは とっくに あきらめた」

 

 

 

 …嘘だ。

 本当に諦められていたなら良かったのにな。

 オレはまだ諦めきれなかった。

 パピルスの笑顔が見たかったから。

 父親も研究仲間も失ったオレにとって、パピルスが全てだった。

 いつかこの苦しみも終わると『信じて』いた。

 …だけど結局、ここに来るまで終わらなかった。自分が嫌になるぜ、全く。

 

「先生、アリスの場所が分かったよ」

「その部屋の隅に、電力が集中する施設がある。アリスはそこに居る」

 

 自己嫌悪に陥りかけていたところにチヒロからの通信が入る。彼女の指示通りに部屋の隅に向かうと、数多のケーブルに繋がれているアリスがそこには居た。ヘイローが出ていない事から意識は無いのだろう。

 

「アリス!お待たせ!」

「アリスちゃん!」

「アリスちゃん…」

 

"アリス…?"

 

 先生達がアリスに呼びかけた瞬間だった。

 

「な、何が起きてるの!?」

「あ、あそこのモニターが…!」

「これは…!」

 

 警報音が鳴ると共に、部屋前方の全てのモニターが赤紫色に染まる。中央には『Divi:Sion』という文字が映し出され…

 

「ぃま…急に……な…が…!?」

「通信が……き…」

「……み…な…応答…!?」

 

 唐突にチヒロの通信が遮断される。

 

「エリドゥのシステム全体が…ハッキング……」

「いえ、これは単純なハッキングではない…」

「都市全体が『何か』に変質していってる?」

「何だよそりゃ…?」

 

 あまりにも突然過ぎる出来事にただ慌てる事しか出来ない。咄嗟にモモイがアリスに繋がるケーブルを外そうとケーブルに手をかけ───

 

「その行為は推奨しません」

「現在『王女』の表層人格は内部データベースの深層部に隔離されています」

「強制的に接続を解除すると、取り返しのつかない損傷が起きるでしょう」

 

 先程まで眠っていたアリスはいつの間にか目覚め、あの暴走していた時と同様の赤紫色の瞳をしていた。そしてその物言い…

 

「…お前、やっぱ『アリス』じゃねぇな…?」

「アリス?それは、あなた達が私達の『王女』を呼ぶ際の名称…」

「『王女』に名前は不要です。名前は存在の目的と本質を乱します」

 

「そして私の個体名は<Key>」

「王女を助ける無名の司祭達が残した修行者であり、彼女が戴冠する玉座を継ぐ『鍵』<Key>です」

「彼女は『王女』であり私は『鍵』。それが私達の存在であり目的」

 

 王女?Key?無名の司祭?分からない、何も分からない。アリスの体が、アリスの声が、世界を滅ぼそうとしている事に頭が理解を拒む。

 

「今、我々を妨害していた攻撃が止まった事を確認しました」

「只今よりエラーを修正し、本来あるべき玉座に『王女』を導かせて頂きます」

 

「AL-1Sに接続された利用可能リソースを確保する為、全体検索を実行」

「リソース領域の拡大」

「リソース名、要塞都市『エリドゥ』の全体リソース───1万エクサバイトのデータを確認」

 

「……現時刻をもって、プロトコルATRAHASIS稼働」

「コード名『アトラ・ハシースの箱舟』起動プロセスを開始します」

 

 この短時間で広大なエリドゥ全体を手中に収めたのか、と驚く暇も無く何処かから爆発音が響き渡る。

 

「プロセスサポートの為追従者を呼び出します」

「追従者って…アイツらじゃねぇだろうな…?」

 

 焦りながらもタブレットに映し出される映像を見る。…悪い予感が的中した。エリドゥ各地に学園内で暴れ、オレの腹を貫いた…無名の守護者が現れた。

 …待て、なら外で待機しているスクワッドは?大急ぎで通信機を手に取る。

 

「アツコ!!ミサキ!!ヒヨリ!!大丈夫か!?」

「うわぁぁああん!!急に変なロボットが襲ってきましたぁぁっ!!」

「…クソッ!待ってろ、今そっちに…!」

「…ダメだよ、サンズ」

 

 今すぐにでも窓をブチ破り、ブラスターでスクワッドの元に向かおうとしたところをアツコの声に止められる。

 

「あなたはまだ、やらなきゃいけない事があるんでしょ?」

「だけど、アンタらは…!」

「…私達が何処の学園の出身なのか忘れたの?アリウスだよ」

 

「物心がついた頃から戦闘訓練に明け暮れてきた、兵士として育てられた生徒」

「強さには自信があるから。あんなロボットの群勢には、負けない」

「私達があなたを信じるように、あなたも私達を信じて」

 

「…分かった、そっちはアンタらに任せる。お互い五体満足で家に帰ろう」

「うん。行くよミサキ、ヒヨリ」

 

 …さて、最大の問題はアリス…いや、Keyだ。奴は今も尚、エリドゥを徐々に我が物にしようとしている。

 

「王女は鍵を手に入れ、箱舟は用意された」

「無名の司祭の要請により、この地に新たな『サンクトゥム』を建立する」

「その到来で初めて、全ての神秘はアーカイブ化され───」

 

「このままでは、世界が滅びる…!」

 

 急にスケールのデカい話になっちまったもんだ。元は一つの部活の廃部を止める為だったのが、世界の命運を決める戦いに発展するなんて誰が予測出来たんだろうな?

 

「皆と一緒に逃げてちょうだい、先生」

"逃げてって、リオ…一体何を。"

「今からこの都市自体が変貌し、箱舟という新しい概念に湾曲される。そうしたら…このキヴォトスは…」

 

「私のせいよ…」

「私がこの都市を作らなかったら、最初からこんな事にならなかったのに…」

「私が…私のせいで…」

「だから私が止めないと…」

 

 AMASを率いるリオの下した判断、それは自分一人でシステムを止める事。極めて論理的な選択なんて言うが…

 

「犠牲が出る時点で論理的じゃねぇな、会長サン」

「だけど…今出来る最良の選択は…!」

「まさかアリスを止めようとしているのがアンタ一人だけだと思ってんのか?」

「…それ、は…」

 

「……73%…………89%………」

 

「きっと悩みを共有出来る奴らは居た筈なのに、アンタは一人で抱え込み都市を作り、また一人でシステムを止めようとしている」

「この際はっきり言っておくぜ。アンタは…」

 

「リソース確保99%………」

 

「一人なんかじゃないさ」

 

 

 

「ノア!今よ!電力という電力を全て落としちゃって!」

「は〜い、ユウカちゃん。その言葉を待ってました♪」

「えいっ!」

 

 Keyによって完全にエリドゥが掌握されようとなった瞬間。ユウカとノアの声に続いて、不気味なまでに鳴り響いていたあらゆる機械の稼働音が静まり返った。

 

 

 

──────────────

 

 

 

「…リソース確保失敗。システムシャットダウン」

 

 すんでのところでリソース確保とやらは失敗に終わる。何処となく、Keyも突然の出来事に困惑しているように見えた。

 

「皆、大丈夫!?」

「ユウカ!」

「ノア先輩!」

「こ、ここには、どうやって…?」

 

 救いの手を差し伸べたのはユウカとノアのセミナー二人組。本来なら都市の位置を教えるだけで手を引くつもりだったが同じセミナーの仲間、それも学園の生徒会長が多額の横領をしている現状に黙っていられなくなったらしい。

 

"流石ユウカ!タイミング完璧だったよ!"

「これくらい当然です」

「…それより、会長!!」

「!!」

 

「セミナーの予算を横領してこんな都市を作るなんて…後で説教ですよ!覚悟しておいてください!」

「…ユウカ」

 

 …どっちが先輩でどっちが後輩なのやら。

 

「リソース確保プロセスエラー。緊急状況発生Divi:Sion電源、プロトコル実行者を保護する為エリドゥ中央タワーに集…」

「…邪魔者?」

 

「そんな事は無い筈です。都市内にプロトコル実行を妨害可能な程の兵力は…」

「論理エラー発生。確認の為、画面を表示します」

 

 モニターに表示された『邪魔者』の正体はまさかのアイツだった。

 

「あっ、あれはまさか…!」

「アバンギャルド君と…」

"エンジニア部!"

 

 奇跡の復活を果たしたアバンギャルド君。先生達を苦戦させた圧倒的な戦闘力でロボット達をちぎっては投げ、ちぎっては投げ…次々と破壊していく。

 …頭や胸部に新たな装飾が付いた事でダサさが一層増している事は突っ込むべきなのか?

 

「…更なる兵力の出現を確認。一体何処から…」

「あぁ、そういえばオイラは第二の切り札を用意してたんだったな?」

 

「…だろ、先輩方?」

「その通りだよ〜、サンズ君」

「何よコイツら〜っ!?倒すけどっ!」

「はーい、サンズさん達のお邪魔をする方々にはお仕置きですよ〜♣︎」

「ん、このくらいどうって事ない」

「先生!私達も支援します!」

 

"…対策委員会の皆まで!?"

 

 次にモニターに表示された五人組。スクワッド用のものとは別の通信機から聞こえてくる馴染みある声。

 ご存知、オレの所属するアビドスの廃校対策委員会さ。

 

「もしオイラ達やスクワッドでも厳しかった場合の為に呼んでおいたのさ」

「先輩方は強いからさ?マジでヤバい時の秘密兵器って言ったところかな?」

 

 ホシノのタンクとは思えない体術、ノノミのミニガンによる掃射、シロコのドローン、セリカの精密な狙撃によってあっという間に敵勢力は全滅。ズルいとは思うが使えるもんはとことん使う性分なんでな。

 

「理解不能。状況判断不可」

「命令修正及び再実行。追従者は想定外の兵力と戦闘を避け、エリドゥ中央タワーに集結…」

「申し訳ありませんが、その子達はここまで来れませんよ。タワーの入り口でしたら、エイミとC&Cのメンバーが塞いでおりますので」

 

"えっ?ヒマリ!?何でここに!?"

「うふふっ。なんだかんだありまして〜とでも言いましょうか?」

 

 車椅子に乗って部屋に現れた白髪の少女、彼女は特異現象捜査部の部長である『明星ヒマリ』。彼女とはとある調査で関わった事があるが…それはまた、別の機会にな。

 

「ヒマリ…貴女、逃げたんじゃ…」

「逃げるだなんて…なんて寂しい事を」

「この先の状況について、ある程度見当がついておりましたから」

 

「隔離施設を抜け出した後、急いでここに来たのです」

「リオの事ですから…また事件を引き起こすだろうと予測していたのです」

「どうですか?ふふっ…当たりましたか?」

 

 図星と言わんばかりに黙り込むリオ、次の話に切り替えるヒマリ。全体的な色といい、何かと対照的な二人だ。

 ヒマリの話はKeyを止めアリスを取り戻す方法。データベース内に隔離されたアリスを起こす為にダイブ設備なるものが必要らしいが、そんなもの見た事も聞いた事もない。

 

「ええ、あるわ。…でもそんな事、現実的に出来る訳…!」

「危険過ぎる。たとえアリスの精神世界内に侵入出来たとしても、下手すれば二度と戻って来れなくなってしまうのよ」

「そもそも、そんな事一体誰が───」

「居るじゃねぇか、オイラ含めてここに五人」

 

 オレの隣には、準備万端といった顔つきの先生とゲーム開発部の面々。何ならオレは一度先生を叩き起こす為に彼とセイアの精神世界に入った経験があるんだ、恐れは無い。

 それは他の皆も同じ。一切の躊躇無くアリスに繋がるケーブルの一つをそれぞれに付け───

 

「待ってろよ、アリス」

 

 精神世界に突入した。

 

 

 先生とセイア、オレ自身、そしてアリス。これで精神世界に入るのは三度目になる。彼女の精神世界内に広がっていたのは…廃墟。

 …ここには見覚えがある。他でもない、アリスと出会ったミレニアムの廃墟に存在する工場跡だ。実際、オレ達が先へ進むとアリスが眠っていた空間に辿り着いたのだから。

 

「ねえ、お姉ちゃん!ユズ!」

「あそこ…!」

 

 ミドリが指差す方向にはアリスが居た。出会った時と同様、中央の椅子に座り目を閉じている。

 

「アリス!!」

「………だれ?」

 

「私達だよ!」

「アリスちゃん!私達が来たよ!」

「アリスちゃん!」

「迎えに来たぜ、アリス」

"アリス、大丈夫?"

 

「モモイにミドリ…ユズにサンズ…?先生まで…?」

「どうしてここに…?」

 

 何故オレ達がここに居るのか、目覚めたアリスはまるで理解出来ていない様子だった。

 

「そりゃ、家出したアリスを迎えに来たんだよ!」

「アリスちゃん、早くここから出よう!」

「帰ろう、アリスちゃん」

 

「あ…」

「アリスは…アリス、は…」

「王女よ、あなたが見てきた光景を忘れましたか?」

 

 背後から聞こえるアリスと同じ、ただし機会的な抑揚の無い声に全員が振り返る。

 

"……<Key>。"

「…『鍵』のお出ましか」

 

 瞳の色以外はアリスと全く同じ容姿をした少女。口調からしてKeyである事は確かか。

 

"アリスが見てきた光景って、一体何の話?"

「文字通りの意味です」

「『王女様が』この空間で見聞きした光景の数々」

 

 頭の中に直接流し込まれる映像。先生達がエリドゥに潜入し、AMASと遭遇し、メイド部がトキと交戦し、アバンギャルド君に苦戦していたところをオレの不意打ちで逆転し、皆で協力しアビ・エシュフに乗り込んだトキを追い詰め…

 

"これって…"

「私達が…戦ってきた…姿?」

「何でこんなものを…」

 

「エリドゥの監視網から見てきた光景」

「それら全て、あなた達がこの場に足を踏み入れるまでに戦い、走り、転んで、傷ついてきた光景です」

「何故このような事が起きてしまうのか…」

 

「その答えを、『王女』は既にご存知なのではないでしょうか?」

 

 …成る程な。全ての元凶はアリス、Keyは彼女にそう思い込ませたいのか。王女の役目とやらを果たさせる為に、自分は存在すべきではないと思わせる為に。随分と卑怯な事を思いつくもんだ。

 

「アリスは、帰れません」

「アリスが皆のそばに居たら…皆はその分、傷ついてしまいます」

「アリスちゃん、違う!そうじゃないよ!」

「ミドリの言う通りだよ、アリスちゃん。私達はそんな事…」

 

「ミドリ…ユズ…でも、アリスのせいで皆怪我をしてしまいました…」

「モモイも…」

「ミドリも、ユズも…」

「サンズも…ネル…先輩も…」

 

 …違う、そうじゃねぇだろ。誰もアリスを責め立てていない、誰もアリスを恨んでいない、なのにどうしてアンタが罪を感じる必要があるんだ。

 

「アリスは…勇者ではなく、魔王ですから」

「いつか世界を…キヴォトスを滅ぼすかもしれない、魔王として、生まれた…から…」

「アリスが、居るから…そこに、居たいと、願ってしまうから…」

「そんな…魔王は…皆のそばに居ては、いけません」

 

「大切な人達が…苦しんで傷つくのなら…」

「いっそ…」

「アリスは…」

「アリス、はこのまま消えるのが正しいのです」

 

 

 

「『テイルズ・サガ・クロニクル2』は…!」

「私達が、一緒に作ったゲームは!!特別賞を貰ったよ!!!」

 

 

 

 空間全体に反響するモモイの大声が、アリスの独白を遮る。

 

「キヴォトスの終焉?何言ってるの?」

「アリスが居るだけで皆が傷つく?」

「誰がそんなバカな事言ってるの!?」

 

 これまでのアリスの言葉を否定するように、モモイはいかにアリスが必要なのかを話す。アリスと会ったから、アリスが居たから、自分達はゲームを作れてミレニアムプライスで受賞し部活を守る事が出来たと。

 

「部活を守れた事も…ゲームを作って、一緒に遊んだ事も!」

「ただ怖いだけだったネル先輩と、一緒にゲームをするような仲になれたのも!」

「全部!ぜーんぶ!アリスが居てくれたお陰だよ!」

 

「それなのに、アリスが魔王だとか、そう生まれついただとか…だから消えなきゃいけないとか!そんなの、全ッ然意味分かんない!!」

「そんなの絶対納得するもんか!」

「うん、絶対に」

「消えるのを…放ってなんか…おけないよ…」

 

 「納得出来ないから」。そんな感情論も…時には最適解になる事もあるんだな。今思い出せばフリスクも諦めたくない、そんな理由で自分よりも遥かに強い『彼』に勝ったのだから。

 

「…な、な、何故、ですか?皆…どうして…」

「アリスは…魔王なのに…」

「アリスのせいで…皆、怪我したのに…」

「…言っておくけどさ。オイラは怪我した事、これっぽっちも気にしてねぇからな。これは強がりでも何でもねぇ、事実だ」

「…でもアリスのせいで、サンズは辛い思いを…」

 

「…そういうアンタが一番辛いんじゃないか?」

「…!」

「さっきから自分を魔王だなんて言ってるけどよ、アンタは本当に魔王になる事を望んでいるのか?」

「言ってみろ、アンタが本当になりたいものを。自分を偽るんじゃない」

「アリスは…アリ、スは…」

 

「…もしまた暴走しても、オイラ達がボッコボコにしてやるよ」

「それが友情ってもんだろ?」

 

 アリスは俯き、口を噤む。そして何かを決めたのか、再び顔を上げる。そこにはもう涙で頬を濡らすアリスは居ない。オレ達の知る、勇敢な表情の彼女が居た。

 

「…アリスは…まだアリスのままでいたいです!!」

 

「ゲームももっと遊びたいです!!」

 

「そして…モモイ!ミドリ!ユズ!サンズ!先生!皆と…冒険を続けたいです!」

 

 アリスの宣言に皆は頷き、笑みを浮かべる。それでこそ『天童アリス』だ。

 

「うん!アリスがしたいならそれで十分!」

「魔王だって、勇者になれるよ」

「むしろ、最近だとそういうお話がヒットしているからね!」

「もし…そういうブームが無かったとしても…私達が、次回作として作ればいい…」

 

「だって、私達四人は、色々な想像を形にする事が出来る…!」

「何でも作る事が出来る…!」

 

 

 

     「ゲーム開発部」だから!」

 

 

 

 そうだ、四人揃ってこそ『ゲーム開発部』なんだ。誰一人として欠けてはならない。

 

「───では、アリスは勇者になりたいです」

「アリスは…アリスになりたいです…!」

 

"君がなりたい存在は、君自身が決めていいんだよ───アリス。"

「あぁ、アンタの『人生』というゲームの主人公は他でもないアンタだ。誰にもシナリオを決める権利はねぇ」

 

 すると、空間にある変化が現れる。今までアリスが眠っていた椅子は光に包まれ───彼女の武器である、光の剣へと変わった。

 

「これは…!」

「勇者の剣…アリス!これ!」

「勇者の剣を…!」

「抜くんだよ、アリスちゃん!」

 

「…はい!」

 

 アリスが触れ、力を込めると光の剣はすっぽりと抜けた。苔が生え錆びついた見た目も、彼女の手元に戻った途端に元の姿に戻る。

 

「それは…!『王女』よ…あなたのその能力は…!」

「あなたのその力は、世界を滅ぼす為に存在するというのに…!」

 

「違います!アリスのこれは勇者の武器です!」

「何故なら!アリスがそう決めたからです!」

「今のアリスは光属性の勇者…!」

 

 Keyの言葉を一蹴する。力をどう扱うか、それを決めるのは力を持つ者自身。かつては世界を救った、ケツイのように。

 動揺するKeyに向け、アリスは銃口を向け───

 

 

 

「光よ───────!!!!」

 

 

 

 お馴染みの掛け声と共に、光線を放つ。

 

「王女よ……あなた…は…」

「アリスのクラスは『王女』ではありません!」

「アリスは…」

 

 

 

「勇者です!!」

 

 

 

──────────────

 

 

 

 …あれからオレ達は無事に現実世界へと帰還し、アリスも元に戻った。笑顔で抱き合う彼女達を見て、目頭が熱くなったのを覚えている。

 リオは…なんと失踪したらしい。「ごめんなさい」とだけ書かれた書き置きだけを残して。ユウカが怒り心頭で彼女に対する不平不満を言う様子は…まぁ、うん、恐ろしかった。

 

「(横領した挙句逃げるのはダメなんじゃねぇかな…)」

 

 そして彼女の従者であったトキは正式にメイド部の一員に。無表情でネルを煽り、自身の強さに絶対的な自信を持つ胆力…ただでさえ個性的なメイド部にまた新たな個性豊かなメンバーが入った瞬間だった。

 スクワッドとアビドスの皆もこれといった負傷は無かった。彼女達によって無名の守護者はほぼ全滅させられていたみたいで、心配すべきはロボットの方だったかもな…

 

「…アンタの『人生』というゲームの主人公は他でもないアンタだ。誰にもシナリオを決める権利はねぇ、か」

「我ながら、皮肉な事を言ったもんだな」

 

 

 

「オレの人生はずっと、誰かに弄ばれていたってのによ」

 

 

「ねぇサンズ。私の言っていた『お願い』、覚えてる?」

「あぁー…うん、覚えてるよ。ゲームで連勝した約束だろ?」

 

 時は変わって休日。リビングのソファーで寛いでいるところにアツコが顔を覗かせてきた。

 

「で、お望みは何だ?何でも…とは言わねぇが大抵の事ならやってやるぜ」

「…これが欲しい」

 

 彼女が持つチラシの指差す方を見ると、そこにあったのは…人生ゲーム。ボードゲームの一種だ。

 

「…なーんだ、このぐらいならわざわざお願いしなくても買ってやるのによ」

「本当?嬉しい。初めて見た時からやってみたかったから」

「丁度休日だしな、早速買いに行くか」

 

「…そうだ。一緒に盛り上がれそうな奴、オイラ知ってんだよ。紹介してやろうか?」

「うん、お願い」

 

 

「パンパカパーン!アリスの所持金が10億円を突破しました!」

「アリスは凄いね。私も負けない」

「うへ〜、おじさん社長になっちゃったよ〜」

 

"しゃ、借金ばかりが積み重なっていく…"

「へへっ、頑張れ先生。まだ逆転の術はあるぜ?」

 

 シャーレの休憩室にて、異なる学園出身の生徒と先生が卓を囲む。

 暇そうな…と言うと失礼だが人生ゲームに興味はないかとホシノとアリスを誘ってみたところ快諾してくれた。…奇しくも誰かに囚われていた経験がある点が共通している。

 

「…やっぱ、学生は戦うよりも和気藹々と遊んでいるのが一番だな」

 

 ケチャップを飲み、マッサージチェアに身を委ねながら彼女達が笑顔で遊ぶ光景を眺める。一人は実験台にされそうになり、一人は世界の為にと破壊されそうになり、また一人は儀式の生贄に捧げられそうになった。

 何とも過酷な運命を背負った者達だが、その全員が学生。硝煙に塗れ苦難に直面するよりも、平和な青春を送るべきだ。…もう、誰かが苦しむ姿は見たくないんでな。

 

"サンズ助けて!私もう後がない!"

「アンタ運無さ過ぎだろ…思わず『ボーン』然としちまったぜ」




これにてパヴァーヌ2章は終幕となります。次は最終編ですが、それは「サンズ」にとっての最終編ではありません…
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