Blue Archive: Visitor From Underground   作:暗黒星 堕零

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空が赤く染まる。その赤は誰かにとっての「ケツイ」なのだろうか。


最終編
異変


 その日は普段とは異なり、気分転換も兼ねてテレポートで一気にアビドス高等学校にワープするのではなく、ブラスターに乗って景色でも眺めながら行こうとした。

 

「…カイザーPMCの連中?」

 

 市街地を通りかかった時、無数のカイザーPMCの兵士が忙しなく動いているのが目に入った。…今思えば、あれが世界の異変の始まりだったのかもしれない。

 

「PMCの兵力が、砂漠の方に移動してた?」

「ん、今までとは全然規模が違った」

「アンタも同じもんを見たのか」

 

 学校に到着すると、シロコがオレが見た光景と同様の事を話していた。それはセリカやアヤネも同じらしく、アビドス砂漠で『何か』をしているのは明白だ。また良からぬ事でも企んでいるのだろうか。

 

「こっそり見に行ってみる?」

「シロコちゃん、それはちょっと…」

「気になるのは分かるけどよ、もう少し躊躇ってのをな…」

「あそこはカイザーの土地だから、勝手に行ったら怒られちゃうよ〜。前もそれで揉めたじゃん!」

「ん…」

 

 砂漠のカイザーPMC基地に行って丁重に『歓迎』された事を思い出す。正直もうアイツらとは関わりたくないんだが…

 

「そうだ、先生に相談してみましょう!」

「そうしたいのは山々ですが…最近、お忙しいみたいで…連絡したら、迷惑をかけてしまわないでしょうか?」

 

「迷惑かどうかは先生が決める事じゃないの?」

「そうですよアヤネちゃん。連絡する前から決めてしまっては、先生も何も出来ませんし…それに、先生ならきっと手伝ってくれます☆」

 

 先生の補佐をしている以上、彼がここ最近忙しなく動いているのは知っている。とはいえ平気で自分の命よりも生徒を優先する彼の事だ、きっとどれだけ忙しかろうが生徒の願いを断らないんだろうな。

 

「ん。それに、この間先生から連絡きたばっかだし」

「先生からですか?先輩に?」

「シロコ先輩がスタンプ爆撃でもしたからじゃないの?」

 

「いや、今回は違う。先生の方から」

「…『今回』って普段はアレを先生にもやってんのか?」

「うん。…もしかしてダメだった?」

「ダメじゃ…ねぇけど深夜にやるのはやめてくれないか?」

 

 時折シロコのモモトークから予兆も無く来る怒涛のスタンプ連打。無論オレだけじゃなく他の皆にもやっている。…就寝前に来た時は彼女の家にテレポートして直接抗議してやろうかと思った。

 …そんなスタンプの話題はさておき、アヤネはシロコに先生とどんなやり取りをしたのかを尋ねる。特筆するべきような事は無く、ただ元気か、無事か、そんな会話だけだったという。

 

「へぇ…それはそれで、何だか素っ気ないねぇ」

「とりあえず、私が先生に連絡してみますね。一度アビドスに来て頂けないか、と」

「そうですね☆アヤネちゃん、お願いします!」

 

「オッケーならオイラが迎えに行くぜ。また遭難でもしたら『そうなん』ですかじゃ済まないしな?」

「ふっ…!くっ、くくくっ…」

「ホシノ先輩が感性までおじさんになっちゃったんだけど!?」

 

 それからはオレの予想通り頼みを快諾した先生と共に、カイザーの動向についての会議を行った。だが相手はキヴォトス中に展開する大企業、迂闊な行動は出来ない。一旦は様子見という案で全員が賛成したのだった。

 

 

 数日後、連邦生徒会からオレ達対策委員会宛てにとあるメールが届いた。内容は『非常対策委員会の招集』。

 何やらキヴォトス全域で超高濃度のエネルギー体が観測されたようで、それについて各自治区が協力し合い正体と原因の追及をしたいといったものだった。

 

「シロコ先輩、早く!」

「シロコちゃ〜ん、早く出発しないと遅れちゃうよ」

「もう着く。今、最高速度で向かってる」

「急ぐのはいいけど『コーツー』事故には遭うなよ?骨だけに」

「サンズさんっ!!」

 

 ホシノ、ノノミ、セリカにアヤネにオレ。ほぼ全員が既に集合している中シロコの到着を待っていた。

 

「あはは…何度申し入れをしても音沙汰が無かった、あの連邦生徒会が…遂に、ですか」

「そうだねぇ…昔、あまりにも頭にきて、連邦生徒会を襲撃しようと考えた事もあったなぁ〜」

「嘘だろアンタ…!?」

「連邦生徒会を…?いくらホシノ先輩でも、それは無理じゃ…」

 

「今はもう無理だよ〜。身体も痛いし、昔みたいに動けなくなっちゃって…おじさんが若かった頃の話ね」

「あはは…年の差、あまりないんですけどね…」

 

 しれっと明かされたホシノの過去に開いた口が塞がらない。シロコに銀行強盗は駄目、と言っておきながら彼女も中々に過激な思考をしてやがる。

 

「ホシノ先輩の頃と状況が変わりましたからね。今は先生にサンズさんも居ますし」

「おじさんさ〜、なんだか最近昔の事を思い出すんだよ。シロコちゃんに初めて会った時とか、ノノミちゃんが急に尋ねて来た時とか…」

 

 ホシノとノノミは、オレは勿論セリカとアヤネも居なかった頃の話をし始めた。驚くべきなのは…シロコは記憶喪失で、いつの間にかアビドスに居たという事。

 

 

 

「…私と同じ」

 

 

 

 脳裏に蘇る、初めてアビドス高等学校に来た際にシロコが呟いた言葉。

 

「…そうか、そういう事だったのか」

「サンズ君がここに来た経緯を話した時も、シロコちゃんの事を思い出したなぁ〜。あれももう前の話なんだねぇ」

 

 点と点が繋がる。記憶喪失と異世界転生、何とも変わった経緯を持つ奴らが集まったもんだ。

 

「…何か、ヘン」

 

 シロコの話で持ちきりになっている中、通話越しに話題の本人であるシロコが口を開く。

 

「…今まで見た事無いくらい、PMCが沢山居る」

「トラックにタンク、兵士…皆同じ方角に向かってる」

「あっちは…アビドス砂漠…」

 

「…ちょっと、見に行ってくる」

 

 こちらからじゃ向こうの状況は何も分からないが、話す内容を聞くに彼女はカイザーPMCの群勢を見つけたらしい。見つけただけなら良いが…問題は見に行こうとしている事。

 

「シ、シロコ先輩…!?」

「なっ、何言ってんの!一人じゃ危ないでしょ!」

「少なくともそれは…良い判断じゃないぜ」

「…シロコちゃん、危ないから帰っておいで」

 

「ん、危険な事はしない。遠くからちょっと見てくるだけ。すぐ戻る」

「もしかしたら…今この状況は、先生が私達を呼んだ事と、関係あるのかも」

「その見てくる事が危険なんだろうが…!」

 

 オレ達の言葉に聞く耳を持たず、シロコはどんどん進んでいく。自転車を漕ぐ音だけが携帯から聞こえる中、甲高いブレーキ音が教室内に響き渡った。

 

「…ん?今、地面が……地震…?」

「…不思議な光が見える…黒…いや、虹…?」

 

 …地震?それらしき揺れは…いや、揺れている。地面が。それもただの地震じゃない。これは、一体───

 

「……!!」

 

 

 

「シロコちゃん!!危ないから早く帰っておいで!!」

 

 

 

 ───視界が、赤い光で染まる。

 

 光が止み、目に映ったのは教室ではない、全く知らない荒廃した都市。

 

 向こうに、誰か居る。フードを被り、スリッパを履いた。

 

 アレは。アレは…

 

 

 

「…ハッ」

 

 瞬きをすると、そこはいつもと変わらない対策委員会の教室。…そうだ、シロコは、シロコはどうなったんだ?

 

「シロコちゃん…電話に出てください…シロコちゃん!」

「…ダメです、出ません…」

 

 …遅かった。既に彼女との通話は終了していた。

 

「…アヤネちゃんは先生に連絡してください!助けを求めましょう!」

「は、はい…!先生に連絡、先生に…」

 

 

 

「ダメです、先生も…連絡が、取れません…」

「…マジかよ」

 

 頼みの綱である先生とさえも連絡が取れない。…冷や汗が一気に流れ出てくるのを感じる。

 

「…すまん、先生を探しに行く。補佐として静観してる訳にはいかない」

「サンズ君、待っ…」

 

 シロコからの連絡が途絶えた上に先生とも繋がらないこの異常事態。いつまでも待っている訳にはいかない。

 ホシノ達の制止を振り切り、テレポートでシャーレのオフィスに向かった…が。

 

「…居ねぇ」

 

 居ない。何処にも居ない。仮眠室で寝ているのか、それとも休憩室で休んでいるのか…全ての部屋を隈なく探したが先生の『せ』の文字も見つからない。

 

「連絡は繋がらねぇ、シャーレにも居ねぇ、ついでにいつも持ち歩いてるあの『タブレット』も見つからねぇ…」

「まさかとは思うが…」

 

「…誘拐、された?」

 

 最悪のパターンだが十分にあり得る。何故なら先生は一度誘拐された経験があるからだ。

 RABBIT小隊関連の事で住宅街を歩いている最中、先生はデカルトなる訳の分からない事を心情に掲げている浮浪者に誘拐された。その時はRABBIT小隊と連絡が出来た事もありすぐに解放されたが…今は違う。

 

「あぁクソッ、どうしてこんな時に限って…」

「…何とも無策だがやるしかねぇか」

 

 こうなったら地道に手がかりを探すしか道はない。シャーレ周辺を歩く人々に先生の写真を見せ、何処かで見なかったかとひたすらに尋ねる。

 …しかし現実は非情。誰に聞けど先生に関する情報は何一つ得られない。「今日の帰りは遅くなるかもしれない」、一旦家に戻りスクワッド達にそう伝えた後に捜索を再開するも状況は平行線のまま。いつしか日が沈み始め…

 

「ハァ…ハァッ…」

「チッ…もう夜かよ…」

 

 既に夜となっていた。道行く人々も減り、最早情報を得るには絶望的な状況。

 

「とりあえずアビドスの皆に現状報告を…」

「…ん?どうなってんだこりゃ…圏外…?」

 

 モモトークを開こうにも表示されるのはエラー画面、なら電話はどうだと試しにホシノに発信してみるも繋がらない。何が起こっているんだとスマホの右上を見てみると、そこに映し出されていたのは『圏外』の文字。

 

「ここ、いつもなら普通に繋がってるよな?」

「何となく、だが…誰かの明確な『悪意』を感じるぜ」

 

 考えられるのは単なる通信トラブルか、何者かが何らかの理由で意図的に電波を遮断しているか。前者であってほしいが昼から立て続けに起きる異常事態…今は後者の可能性が、高い。

 なら助けを求めたいが、携帯が使い物にならない以上どうしようもない。…テレポートで信頼出来る奴の元に直接行くか?いや時間帯が時間帯だ、寝ているところを叩き起こす形になるかもしれねぇ。さてこの詰みかけている状況、一体どうすりゃ───

 

「…ん?」

「今、のは…」

 

 不意に地図アプリが開き、ある場所から発信が飛んできたかと思えばすぐに消えてしまった。発信自体は既に消えているが、場所は今ので把握済みだ。

 

「ヴァルキューレ第3分校…近いな」

「発信者は誰なのか分からないけど…これに一縷の望みをかけるしかねぇよな」

 

 オレが勝手に先生だと思っているだけで、実際は全くの別人かもしれない。それでも無視して何もしないよりはマシ。発信源のヴァルキューレ第3分校へとブラスターに乗り、超特急で向かうのだった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

「(カイザーPMC…?どうして校舎に…)」

「(こりゃ如何にも訳アリって雰囲気だな)」

 

 目的地のヴァルキューレ第3分校に到着し、窓から内部の様子を覗き込む。照明は全て消灯され、月明かりでぼんやりと見える通路には何故かPMC兵が巡回していた。

 

「(さて、入ったはいいがこれからどうするべきか…)」

 

 テレポートで音を立てる事無く校舎内に侵入する。部外者が居る事を勘付かれぬよう、小刻みにテレポートを繰り返す。ここに居るであろう発信者は何処か何処かと探していると、静寂に満ちていた空間は一気に騒がしくなる。

 

「(銃声…!?オレ以外にも侵入者が居たのか?)」

 

 姿は見えないが付近で銃声とPMC兵の叫び声が聞こえる。銃声の音の違いから恐らく数人、危険を承知で好奇心から接近すると───

 

「そこの方!手を後ろに回して床に伏してください!」

「やべっ…」

 

 

 

「えっ…サ、サンズさん?」

「…ミヤコじゃねぇか。それに…」

「…どうしてサンズがここに居るんだ?」

「それはこっちの台詞だぜ、サキ」

 

 通路の向こう側から銃を向けられた…と思えば、その正体はRABBIT小隊のミヤコとサキ。二人が居るならここに居合わせていないだけで後方支援のモエとミユも待機しているだろうが、彼女達の背後に居る長身の男性がまず目に映った。

 

"…サンズ!"

「ようやく見つけたぜ先生…さっきの発信はやっぱりアンタのものだったか」

"うん。助けに来てくれてありがとう…"

 

 昼から探していた目的の人物に出会えて安堵する。服には多少の汚れが見られるが、先生自体に負傷は無さそうだ。

 

「ずーっと聞きたかったんだけどよ、まさかアンタ誘拐されたのか?でなきゃ重要な会議があんのにこんな場所には…」

「その件については、私から話そう」

 

 続いて陰から姿を見せたのは、動物の耳を有した金髪の碧眼の少女…ヴァルキューレの公安局の局長『尾刃カンナ』。生活安全局のキリノとフブキも一緒に居た。

 

「…って随分と酷ぇ傷じゃねぇか。よくそんな状態で立っていられるな…」

「…この程度、どうという事はない」

 

 服は銃弾によるものか所々が焼け焦げ、全身から流血するカンナが心配になるが、彼女はそんな事はお構いなしといった様子でこれまでの出来事を話す。

 話を聞く辺りどうやら先生が誘拐された…というオレの推測は間違っていなかったらしい。ヴァルキューレ生に扮したPMC兵にヘリに乗せられ気絶、今居るヴァルキューレ第3分校の牢屋にブチ込まれたところをカンナが単独で救出してくれたようだ。

 

「で、RABBIT小隊もあの発信で駆けつけてきたんだろ?」

「はい。まさかまた誘拐されていたとは…」

「先生ってやたらとトラブルに巻き込まれやすいよね…くひひ…」

 

 シャーレの先生という立場である以上、否が応でも面倒事に関わってしまうのだろうがそれでも頻度が高過ぎる。少なくともオレは先生になりたいとは思わねぇ。

 

「まずはここから脱出しよう。安全が確保出来る場所はないか?」

「私達の居る子ウサギ公園はどうだ?あそこならサンズも来た事があるだろ?」

「良い案だ。じゃあ皆オイラに掴まって…」

「居たぞ!!逃すな…ぐあぁっ!?」

 

「…ここじゃロクに話も出来ねぇ。さっさと行こうぜ」

 

 追ってきたPMC兵達を軽くブラスターで一掃し、全員がオレに触れている事を確認し子ウサギ公園へとテレポートする。先生の救出には成功したが、これだけで事態が終わる訳も無かった。

 

 

「戒厳令…?」

 

 翌朝、RABBIT小隊の現本拠地である子ウサギ公園にてお互いが知っている事を持ち寄り情報を整理していた。先生、オレ、RABBIT小隊、現在はテントで寝かされているカンナ。それぞれの情報を照合した結果、

 

「D.U.は戒厳令が発動されあらゆる『移動』が禁じられた」

「戒厳令を発動したのはカイザー」

「連邦生徒会はカイザーによって行政権限を奪われた」

 

これらの事実が判明した。…思わず「はぁ…」という声が漏れ出る。アビドスでも、リゾートでも、あらゆる場所で妨害してきたカイザーが再び立ち塞がる。これが大企業のする事か?

 

「つまり、今の連邦生徒会は何の役にも立たないって事ね」

「あいつらが役に立った事なんてあるか?」

「ですが、一企業に行政権限を奪われるなんて…SRT特殊学園が維持されていれば、最悪の事態は防げた筈…」

「そ、それじゃ…今もサンクトゥムタワーはカイザーに掌握されてるんだよね…一体どうすれば…」

 

"残された方法は…"

「力づくで追い出すしかねぇ、か」

 

 仕方ない、といった風に言ったが力で解決してきたのは今回が初めてじゃない。

 ホシノを救出した時も。

 『鏡』を奪取した時も。

 試験に行った時も。

 『クローバー』を持ち出した時も。

 ベアトリーチェの野望を阻止した時も。

 アリスを取り戻した時も。

 今思い出せば、一発でも銃弾を食らえばお陀仏なのによく自ら戦場に赴いて生きてきたなと思う。

 

「…理解しました。つまり、PMCに掌握されているシャーレを奪還するのですね」

「ここに居る私達だけで、やるの…?」

「まぁ、他の自治区と連絡が取れないなら、私達がやるしかないわね」

 

「ちょうどいい、いつかシャーレをぶっ飛ばしたいと思っていたところだったんだ」

「それ冗談だよな?」

「…?私はいつでも本気だが?」

「…嘘でも『嘘だ』と言ってほしかったぜ」

 

「分かりました!本官も、頑張ります!」

「はぁ…というか、そう簡単にいかないんじゃない〜?相手はキヴォトス屈指の大企業、カイザーだよ?」

「バカじゃないんだから、私達が来る事だって想定してるだろうし…」

 

 フブキの言う通りでは、ある。幾ら先生の指揮があれど向こうは規模も軍事力も桁違い。そう易々と成し遂げられるものじゃねぇ。

 

「うう…幽閉された行政官を助け出して、カイザーの陰謀も阻止…わ、私に、出来るのかな…」

「ミユ、出来るか出来ないかの問題ではありません。やらなくては」

 

「そうです!キヴォトスの平和が、私達の手にかかっているんです」

「いい気になってるカイザーの連中を叩きのめさねぇとな。オイラもやるぜ」

「う、うん…頑張るね…」

 

 たとえ成功する見込みが低くとも、やらなきゃこれから一生カイザーの手の平で踊らされる羽目になる。オレ達の住む世界をあんな奴らに好き勝手やらせる訳にはいかねぇ。

 

"よし。サンズ、RABBIT小隊、生活安全局の皆…始めよう。"

「ミヤコ、作戦名を決めてくれ」

「そ、そうですね…ではこれより、シャーレ奪還の『パセリ作戦』を───」

 

「待って、何でパセリなの。どういう事?もっとカッコいいやつ無いの?」

「えっ、その…ウサギが好きな食べ物なので…」

「成る程、それならニンジンの方が可愛くありませんか?ニンジン作戦!」

「それは前使っちゃって…」

 

 作戦開始…と思いきや始まったのは作戦名の会議。ドーナッツ作戦やら、ケチャップ作戦やら、クローバー作戦やらが出たが…

 

「…『シャーレ奪還作戦』にします」

 

 シンプルな名前に決まった。改めて、シャーレ奪還作戦の開始───

 

「おっ、と…」

 

 …今更になって思い出す。昨日の夕方にスクワッド達に遅くなると伝えてから家に帰宅していない事に。

 彼女達の事だ、自分で夕飯は食ってその他諸々の事は済ませている筈だが家主がほぼ丸一日家を空けるなんてあってはならない。

 

「先生、オイラちょっと家に戻るぜ。すっかり頭から抜けていたからな…」

"あっ、うん。スクワッド達に宜しくね。"

 

 先生からの了承を得て自宅の玄関にテレポートする。音を立てぬよう忍び足で歩き、恐る恐るリビングに通じるドアに手をかけ───

 

 

 

「おかえり。随分と遅い帰宅だね?」

「…ははっ、そう、みたい…だな?ミサキ…」

 

 

 

 …ミサキに引っ張られる形でリビングに連れ出された先にはアツコとヒヨリが待ち構えていた。ヒヨリはよかった、と胸を撫で下ろしていたが…

 

「…どうして家に帰って来なかったの?」

「あー…いや、申し訳ないとは思ってるよ。マジで…」

 

 こちらを蔑むような表情でアツコが見つめてくる。視線が痛い。とにかく痛い。

 

「電話に出ないし、モモトークも返事が来ない。何があったの?」

「出なかった、というか出れなかったんだ。骨が折れるような事情があってな…」

 

 三人に昨日の夜から今朝にかけての出来事を話す。先生を探して走り回った事、救出したは良いが次はシャーレがカイザーに占拠されている事を知り…

 

「…シャーレが占拠、ね。はぁ、また面倒な事になってるんだ」

「オイラもそう思ってる。だからこれからヴァルキューレとSRTの奴らと一緒にシャーレを奪還しなきゃならねぇ」

「まぁ…つまり、また家を空けちまうって訳だ」

 

「…なら、私も一緒に戦う」

 

 皆に事情を話し、子ウサギ公園に戻ろうとしたところをアツコが名乗りを上げた。

 

「サンズだけじゃない、先生にもお世話になっているから黙って待っている訳にはいかない」

「何より、戦力は多い方が良いでしょ?」

 

 こうなった彼女は頑なに自分の意思を曲げるつもりは無い。共に暮らしてきた中でそれはとっくに分かっている。

 

「…分かった。でもくれぐれも無理はすんなよ?誰よりもアンタを大切に思っているサオリから宜しくって言われてんだ」

「大丈夫だよ。…じゃあミサキ、ヒヨリ、行ってくるね」

 

「…いってらっしゃい」

「ま、待ってますね!」

 

 私服から正装に着替え、かつて付ける事を強いられてきた仮面を自らの意思で付け、準備を整えたアツコと共に子ウサギ公園へと戻る。

 

 

 

「シャーレ奪還作戦、一名様追加だぜ」

 

 

 オレとアツコ、二人が待機するのはシャーレの休憩室。テレポートで一足先にシャーレに潜入している。

 

「アンタがその仮面付けてるの、久々に見たな」

「一応、追われている身だからね」

 

 先生の作戦はこうだ。今も言ったが先にオレ達がテレポートでシャーレに潜入、先生の指揮するヴァルキューレとSRTの連合隊が正面からシャーレに向かったところでオレ達が奇襲を仕掛けるというもの。

 

「オイラの予想通り、ここまでは兵士は居なかったな」

 

 とはいえ部屋の外からは何者かが歩く音が聞こえる。十中八九カイザーPMCだろう。迂闊な行動は出来ない。

 …話はここまでにしておこう、そろそろ作戦開始の時刻だ。先生からの合図は…

 

"…サンズ、アツコ。今だよ。"

 

 支給された通信機から聞こえる先生の声。

 

 

「行くよ、サンズ」

「仰せのままに、お姫様」

 

 

 

 それぞれの武器を構え、部屋を飛び出す。…さぁ、戦闘開始だ。

 

「何だお前ら…っ!?」

「ここはお前らが居るべき場所じゃねぇよ」

 

 重力操作で範囲内の兵士の動きをまとめて封じ、その隙をアツコの銃撃が襲いかかる。ある時は地面から出現させた骨と天井に押し潰し、またある時はブラスターで噛み砕く。

 本当なら光線を浴びせてやりたいところだがここはシャーレ、あまり派手は事は出来ないんでな。

 

「あー…向こうの広場、敵が密集してんな」

「私に任せて」

 

 アツコが取り出した煙幕によって辺りは煙で満たされる。突然の出来事に兵士達は状況を把握出来ないといった様子だ。

 

「ぐっ…この煙は何処から…!」

「煙が充満してると『スモーク(すごーく)』見辛いよな?」

「…ッ!後ろ───」

 

「だから背後には気をつけとけよ」

 

 左手のブラスターから伸びる光刃が兵士を両断する。テレポートを併用し次から次へと斬り裂き、アツコの支援もあり十数人程居た敵は一瞬にしてスクラップへと変わる。

 

「あっちだ!!早く鎮圧しろ!!」

「…まだまだ来るか」

 

「アツコ!伏せろ!」

 

 ぐるりと回ると共に、オレの意思によって更に伸びた光刃が迫り来る群勢に牙を剥く。見事に泣き別れとなった兵士達の上半身が、宙を舞う。

 

「…あっちの指揮官が居るっていうロビーはまだ先だ。気を抜くなよ」

「勿論」

 

 自分でも驚く程のコンビネーションで敵を薙ぎ倒していく。オレが骨でアツコを守り、或いはアツコが精密な射撃でオレを守り…我ながら、ただの兵士じゃ敵わねぇだろうと思う。

 

「ハァ…だけどここまで激しく動くと…疲れるな」

 

 それでも疲れるものは疲れる。スタミナの無さがここで大きな弱点となる。

 

「疲れる度にケチャップを飲んでいたら隙だらけになる。…だから今こそ使うべきかな」

「それは…ドローンか?」

 

 アツコが飛ばしたドローンらしき物体。それが彼女を中心に淡い青色の光を放ち始めると、オレの体に変化が現れた。

 

「…疲れが消えていく」

「これが私の力。…自分でも、あまりよく分かってないけど」

「へへ、助かったぜ。これなら多少無茶な動きをしても大丈夫だな」

 

 まるでマシンガンの如く光弾を撃ち出していく。本来ならすぐに魔力切れになる頻度だが、今はケチャップを飲まずとも体力が回復する。相手に攻撃をさせる隙すら与えない。

 

「…っ、弾切れ…」

 

 アツコの銃から微かに聞こえた「カチッ」という音を見逃さない。背中に背負うサブマシンガンを思い切り振りかぶり、彼女に向け投擲する。

 

「これを使え!アンタが使っているものと同じ種類だ!」

「今の内に…っがぁっ!?」

 

「…ありがとう、サンズ」

 

 接近した兵士を体術で制圧し、ゼロ距離での銃撃をお見舞い。ベアトリーチェに関しては変わらずクソ野郎だと思っているが、彼女をここまで強くさせた事は…まぁ、一応は感謝している。

 先生達の戦況も好調、徐々に目的のロビーに接近するも、やはりと言うべきかそれに伴い敵の数も増えていく。

 

「あの煙幕はまだ残ってるか?」

「うん。…だけど兵士の数も兵器の数も前とは段違い。さっきの作戦じゃ全員は倒せない」

「…そうか」

 

「…先生、聞こえるか?ちょっと許可を得たい事があるんだ」

「ブラスターの光線、使ってもいいか?」

 

 物陰から先生と連絡を取り合う。あの数をオレ達だけで倒すのは骨が折れる。被害を無視して光線を使えりゃ話は別、だが。

 

"勿論だよ。修繕は後、今は奪還するのが優先だよ。"

「その言葉を待っていたぜ。んじゃ…」

「やるか」

 

 アツコとお互いの顔を見て頷く。彼女が煙幕を投げると同時に、ポケットに潜ませていた『ある物』も投げる。

 先程と同様に煙が充満し、動揺する声が聞こえる。だがまだ準備は整っていない、オレが待っているのは───

 

 

 

ブゥゥゥゥゥッ!!!

 

 

 

 戦場に似つかわしくない、けたたましい音が空間を満たす。

 

「───今だ」

 

 即座にブラスターを召喚し、音がした方角目掛け光線を発射する。過度なぐらいに何度も、何度も。

 …煙が薄れ、視界が開けるとそこに残されていたのは残骸のみ。

 

「サンズ、さっきの音は…?」

「それはだな…おっ、あった。コレだよコレ」

 

「…それは?」

「『ブーブークッション』さ」

 

 瓦礫の中からピンク色の小さな袋を見つける。そう、オレの代名詞と言ってもいいブーブークッションだ。セリカの時にやらかしてから物置の中で眠っていたが、物は使いようだな?

 

「さて、ロビーまであともう少しだ。行こうぜ」

 

 

「…来たか」

「来たぜ」

 

 ロビーに到着したオレ達を待ち受けていたのは、軍服と軍帽を見に纏うロボット。如何にも『指揮官』といった見た目だ。

 

「…まさかお前『一人』か?」

「まぁな。奇襲には驚いただろ?」

 

 態度にこそ出さないが、あからさまに苛立った声色でオレに話しかける。

 

「ここに来るまでに居た奴らは全員倒したし、先生達ももうじき来るだろうな」

「アンタに出来る事はただ一つ、降伏だ」

 

「ククッ…降伏だと?笑わせるな!」

「これを見ろ!」

 

 奴が懐から取り出したのは一つのボタン。何に使うのかは分からないが…オレ達にとって良くない事をもたらす物なのははっきりと言える。

 

「これを押したらどうなると思う?この建物は一巻の終わりだ!下がれ!!」

「チッ、起爆装置かよ…!」

「…でもアンタがそれを押す事は無いだろうな」

 

 

 

「───ぐっ、あがぁっ!?」

 

 瞬間、奴の体は激しく痙攣し地面に倒れる。背後に立っていたのは右手に黒い長方形の物体を手に持ったアツコだった。

 

「作戦、成功だね」

「オイラに注意を逸らしてアンタが無力化する。完璧だったな」

 

「…というかそれ左足に付けてたヤツだよな。何だそれ?」

「スタンガンだよ」

「スタンガンかぁ」

 

 気を失った指揮官を念の為青い骨で拘束し、先生に指揮官を鎮圧したと報告する。あと数分で彼らもここに到着する筈だ。

 

「ありがとさん。助かったよ」

「ううん、サンズのお陰で私も上手く立ち回れた」

 

「…でもさ、アンタらには戦ってほしくないとずっと思ってるんだよな」

 

 先生達が到着するまでの数分間、特にする事も無いのでアツコと話す事にした。

 

「戦って、ほしくない?」

「アンタらは今まで戦い続けた、苦しみ続けた」

「だから脅威に脅かされる事なく家で起きて、飯を食って、下らない事で笑って、好きな服を着て、友達と遊んで、風呂に入って、今日は素晴らしい一日だったと思いながら寝て…そんな当たり前の生活を送ってほしいんだ」

 

 普通の奴らにとっては当たり前の生活も、彼女達は出来ないままこれまでの人生の大半を過ごしてきた。全く酷い話だと、常々思う。

 

「あの夜アンタに話した事を経験してからオイラはずっと、平和な世界を望んでいる」

「争いが起きず、誰も死ななくていい優しい世界をさ」

 

 はっきり言ってこれはオレの『エゴ』だ。彼女達の意思を尊重せずに、身勝手にこうなってほしいと望んでいる。

 余計なお世話だと思われているかもしれない。だが仮面を外したアツコの表情は、穏やかな笑みで満ちていた。

 

「ふふっ、やっぱりサンズは優しいね。ありがとう」

「でも今の私は、サンズと一緒に居るだけで幸せだよ」

 

「ハハッ、何だよそれ。こんな奴で幸せを感じてちゃダメだぜ?」

「あくまでオイラはアンタという『姫』を守る有象無象の『騎士』の一人なんだからな」

「…私は王子様だと思っているんだけど」

「…あー…でもアンタが望むなら、そっちでも良いんじゃ、ねぇかなぁ…?」

「じゃあ決まり、サンズは王子様。唯一無二のね」

 

 

 

「(…私は…)」

「(私は一体、何を見せられているのだ…?)」

 

 

 

──────────────

 

 

 

"サンズ!"

「よっ、先生もお疲れさん」

 

 ロビーに到着した先生と状況の共有をする。行政官のリンを救出し、カイザーの連中も軒並み倒した。とりあえず当初の目的は達成したってところか。

 

「…おっ」

"通信が復旧したね。"

 

 今までうんともすんともしなかった携帯の状態が元に戻る。隣に居る先生のタブレットからは凄まじい勢いで各学園からのメッセージが流れ込んできた。

 

"不在着信250件!?"

「不在着信250件…?」

 

 トリニティから、ゲヘナから、ミレニアムから、アビドスから、連邦生徒会から…隣で見ているだけでも目が回りそうになる。

 

「相変わらず先生は人気者だなぁ?まぁ、一つずつ片付けて───」

 

 

 

 地が、揺れる。アビドスに居た時と、同じように。

 

 そして───空が赤く染まる。闇に閉ざされる。

 

 これは…滅亡の予兆?それとも…

 

 

 

「ようやく理解に至った───」

 

 音も無く現れる、怪奇な遺影を頭に掲げた異形の存在。

 

「先生、あなたの力は、これ以上作用しない」

"あなたは…ゴルコンダ?"

「ゴルコンダはもう居ない。私は『フランシス』だ。デカルコマニーと共に、新たにお前を見守る者。従って、最後の警告を傾聴せよ」

 

「この物語は、一つのジャンルを掲げていたが故に、『先生』が主人公でいる事が出来た」

「物語であったから、あなたは無敵だった。───これはそういう物語だった」

「しかし今となっては…」

「───この物語は、覆された」

 

「脈絡、構成、ジャンル、意図、解釈…全てが破壊され───」

「その意味は絡み合い、混ざり、攪拌され…統制出来ない程に褪せてしまった」

「先生よ───」

 

「これまでの物語は全て忘れるが良い」

「これからお前の身に起こる事は、最早そのような物語ですらないのだから───」

「主人公も、悪役も、事件も、葛藤も無く」

「全てが分解され、縺れあい」

「脈絡も、構成も、必然性も無くなってしまった…作為的に作られた世界」

「そうして…果ては意味を失い、力が暴れ回るだけの…理解不能で不条理な世界へと」

 

「嗚呼、そうだ…元より、この世界はそのように存在していた」

「我々は皆、それを忘れていただけ」

 

「これが…もう物語でなくなったとするならば、お前はもう何者でもない」

「学園と青春の物語は、幕を下ろした」

「覆され、解体されてしまったジャンルで、お前の価値は揺らぎ、地に落ち、無に等しいものとなる!」

「しかして、始めるのだ。物語ではない───」

 

 …さっきから黙って聞いてりゃ、自身の価値観を押し付けやがって。

 

"違う。"

「違うな」

 

"敵対し、裏切り、覆ってしまった…沈みゆく物語だとしても。"

「物語と呼ぶのに相応しくねぇ、歪な創作だとしても」

 

"そんな事は、どうでもいいんだ。"

「そんな事は、どうでもいいんだよ」

 

"ジャンルの解体なんて好きにすればいい。"

「スケルトンや魔法が登場したって構わない」

 

"「どんな未来であろうと、私/オレ達は乗り越えていくのだから」"

 

「……」

「であれば、それを見守るとしよう」

 

 

 

「先生、サンズ───いや、主人公達よ」

「絶望を、破局を迎え───そうして、結末へと走り出すエンディングを!」

 

 …そう宣言し、フランシスは消えた。

 

"…サンズ。皆に連絡を取ってほしいんだ。"

「あぁ、『皆』にだな」

 

 全く、元居た世界でも世界を守ろうと奮闘していたのに、ここでもやらなきゃいけねぇのか。

 まぁいいぜ。それがオレの『使命』なら。

 

 オレはサンズ。怠け者のスケルトン。

 

 先生の補佐で、アビドス高等学校の生徒の一人。

 

 そして───

 

 

 

 

 

 物語を紡ぐ、主人公だ。

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