Blue Archive: Visitor From Underground 作:暗黒星 堕零
「成る程ねぇ…」
「という事は…」
「───私が識っているのは、此処までだ」
シロコらしき人物…今は黒いシロコと呼ぼう。彼女が姿を消した後。色彩に関する知識に精通しているセイアを交え、アビドス高等学校に待機しているホシノ達と共に黒いシロコについて話し合っていた。
「シロコちゃんは『色彩』と接触して…ああなってしまった、という事でしたよね…?」
「何よそれ…!こんな訳分かんない事に、どうしてシロコ先輩が関わってるの…?」
案の定と言うべきか皆は困惑していた。オレだってそうだ、消えた仲間が終焉だの本質だの言いながら戻って来たのだから。オマケにオレとはまるで初対面のような対応だった。
…そう、初対面。仮にまた記憶喪失になったのなら先生の事も覚えていない筈なのに、オレ『だけ』を知らない。もしそんな世界が別にあるのなら。
「これは過去のオイラの経験から考えた事なんだけどさ、あのシロコはオイラ達が知る『シロコ』とは違う存在じゃないか?」
「別の…シロコちゃん?」
「あぁ。あのシロコはオイラの事を知らなかった。…オイラが居ない、別の世界からやって来たとしたら?」
精神世界内でガスター博士が話した並行世界についての話を、出来る限り分かりやすく彼女達に伝える。とはいえ並行世界なんて現実味が無い、皆が頭にハテナを浮かべていた。
「並行世界、ですか…ですがそれならあのシロコ先輩がサンズさんを知らない理由が付きますね」
「…だとしても、私達のシロコちゃんが行方不明になっている事には変わりないんですよね…」
ノノミの言う通りだ。結局のところオレ達の知るシロコは未だに行方知れず、問題はこれっぽっちも解決しちゃいない。更に追い打ちと言わんばかりに、連邦生徒会の生徒達から衝撃の情報が伝えられる。
「こ、これって…また、例のタワーが出現する、という事ですよね…?」
「今まで私達がやってきた事、ぜ〜んぶ水の泡じゃん…」
なんと場所こそ違うが、またキヴォトス各地にエネルギー反応が。とどのつまり、ようやく平和を取り戻したと思っていたのにまたあの塔が現れる事になる。『サイアクな目』とはまさにこの事だ。
"……"
"こうなってしまったのも、全部私のせいだ…皆、ごめんね。"
"私は、こうなってしまう事を知っていたから…"
再びキヴォトスが脅威に晒されている事を知ってからというもの、顔に陰りを落としていた先生は責任に耐えかねたような表情で頭を下げた。
"シロコの身に、不吉な出来事が起こるかもしれないという事も、"
"キヴォトスが終焉を迎えるかもしれないという予言も、"
"いずれ相対する、敵の警告も───"
"全部、私は知っていたのに…"
…確かに知っていたのならば事前に何か対策出来たかもしれない。だが相手は色彩とかいう未知の存在、出来る方がおかしいって話だ。
責任を負うべきは先生じゃない。そんな思いを、ホシノは代弁してくれた。
「難しく考えるから良くないんだよ〜」
「つまり、シロコちゃんを見つければいいんでしょ?」
「ホ、ホシノ先輩…?」
「おじさんも心配でさ〜。シロコちゃん、なんだかこのままだと良くない方向に行っちゃう気がして…」
「それに、居なくなってしまったシロコちゃんとこの状況…関係があるって言われたらおじさんも頭抱えちゃうかも」
「───そういう不安が無いと言ったら嘘になるんだけどさ」
「でも、それとこれとは話が別でしょ?」
「これは『色彩』が起こしているのであって、シロコちゃんのせいじゃない。先生のせいでもなければ、他の誰かのせいでもない」
「私達が戦わなきゃいけない相手は別に居る───そうでしょ?」
ホシノの言葉に先生の瞳に輝きが戻る。「うん」と頷いた彼は顔を上げ、対策委員会と共に宣言する。
"シロコを見つけよう。どんな手を使ってでも、絶対に。"
「うへ〜、そうこなくっちゃ」
「シロコ先輩には言いたい事が沢山あるんだから!早く帰ってきてもらわないと困るわ」
「皆で協力して、シロコちゃんを見つけ出しましょう☆」
「全く世話のかかる先輩だ。これじゃ狼じゃなくて迷子犬だな?」
「…そうですね。私も、手を尽くしてみます」
"うん。それじゃあ皆で頑張ろうか。'
皆の思いが一つとなる。色彩を退け、消えたシロコを見つけ出す…オレ達の唯一にして最大の目的が出来た瞬間だった。
*
「ケ゛ホ゛ッ゛!゛!゛」
「ちょっ…!?ど、どうしたのよサンズ…!?」
「…すまん、気にしないでくれ。ちょっと目や口から入った砂が頭の中に…ケ゛ホ゛ッ゛!゛!゛」
「…このやり取り前にもしたわね」
あれからどういった訳か、オレ達対策委員会はアビドス砂漠のド真ん中を歩いていた。というのもキヴォトス中で発生しているエネルギー、その出発点が遥か上空に存在している事が判明したからだ。
…そう、あの時に見た黒い球体がそれだ。分かったのならさっさと行きたいところだが位置するのは上空といっても75,000m…ほぼほぼ宇宙だ。
"サンズのブラスターで行くのは…無理だろうね。"
「そりゃそうだ。オイラだって酸素が必要だしそもそもそんな所までブラスターが保つのかって話だ」
ならどうしたものかと、各地から随時届く情報を頼りに長考している中。いつの間にか姿を消していた先生が何かを掴んだような顔付きをして戻ってきた。
───上空に浮かぶ物の正体と、それに対抗出来る存在の名を持ち帰って。
「『アトラ・ハシースの箱舟』と『ウトナピシュテムの本船』…か」
「へへっ、オイラには何の事だか…情報が頭蓋骨の中でぐるぐる回ってるぜ」
箱舟の方に関しては聞き覚えがある。アリスの中に潜んでいたKeyがエリドゥを媒介として変質させようとしていた。
「ところでその情報、誰から聞いたんだ?古代の遺産を知っている奴なんてゲマトリアぐらいしか…」
"そう、ゲマトリアの黒服からだよ。"
「…そんな奴から聞いて大丈夫かよ?見返りとか絶対要求されただろ?」
"しなかったよ。ゲマトリアは解散したとかで…"
"それに彼は私の敵ではあるけど、キヴォトスの終焉は望んでいないみたいだからね。"
「へぇ…まさに呉越同『舟』ってやつか」
そして本題は本船。それが眠っているとされている場所がそう、今オレ達の居るアビドス砂漠って訳だ。
「…で、結局私達が探してる『超古代兵器』って何なのよ、サンズ?」
「あれは確かー…何だっけな?すっかり頭の中からすっぽ抜けちまった。ヒマリ、分かるか?」
「えぇ、先生によるとかの『超古代兵器』は───」
「宇宙戦艦、なのだそうです」
事情を知っているオレを除く、その場に居る全員が驚く。まぁ初めて聞いた時はオレも驚いたよ。宇宙戦艦なんてアルフィーから暇潰しにと借りたアニメでしか見た事が無いしな。
そんな宇宙戦艦があるのは事もあろうにカイザーPMCの私有地。この前PMC兵の群勢と戦ったばかりなんだが?
「なっ、何だお前ら───」
こちらに気づいたPMC兵の頭部を光弾で撃ち抜き、ついでに周囲の奴らも勘付く前に重力操作でまとめて片付ける。
「…こっちは時間が無いんだ。アンタらに構ってる暇は無い」
「サンズ君も大胆だねぇ〜。それにしても、サンクトゥムが消えたから戻って来てるんだね」
「ですが、ここは元々アビドスの自治区です!」
「そうよ!カイザーが勝手に居座ってるだけじゃない!」
「で、ですが、書類上は…」
「うう、大丈夫でしょうか…」
「オイラ達とカイザーの因縁なんて今に始まった事じゃねぇさ。んじゃ、先生…」
「はい!指揮をお願いします!」
"それじゃ、始めるよ!"
先生の指揮の下に戦闘が開始する。兵士達はどうって事ないが、問題なのはオレ達の戦いに割り込むように現れた無名の守護者。
「あれがサンズさんのお腹を貫いた…」
「気にする事は無いさ。だってオイラ何度も体を…」
「体を…?」
「…何でもない。先を急ごうぜ」
…口が滑りかけた。『アレ』をまだ、ましてやこんな所で言うべきではない。骨で防御し、時折ブラスターで援護し、遂に目的である座標の位置に辿り着く。
「例の座標はこちらです!」
「地下への入り口があるわ!」
「はい、かなり深そうです…」
「このままサンズ君の居たっていう地下世界に行ったりしてね?」
「はは、本当にそうならどれだけ良かった事やら…とりあえずは行ってみるか」
地下へと足を踏み入れる。深く、暗く、最低限の明かりしか付けられていない通路はまるで、ホシノが言ったようにあの地下世界へ通じているのかと思う程だった。
「ここは…」
「機械の、廊下…?」
「…進もっか」
周囲に警戒しながら暫く進むと開けた廊下に出る。先程までの掘った穴に足場を設置した原始的な通路ではなく、きちんと人の手が加えられたと分かる機械の廊下だ。
そこからも更に進み、下り。ようやく最下層に到着したオレ達の眼前に広がっていたのは───
「…こりゃマジの『宇宙戦艦』だな」
近未来的な雰囲気を醸し出す『船』だ。
──────────────
連邦生徒会の面子とも合流し、本船の内部に入ったオレ達は船内を散策していた。超古代兵器、なんて言うもんだから荒れ果てているのかと思っていたが埃の一つも見当たらない清潔っぷり。カイザーが管理していたのだろうか。
「へぇ〜、ここがブリッジかぁ。結構ちゃんとしてるんだね」
「ここは…オペレーションルーム…?」
設備は一通り揃っているみたいだが、オレにはさっぱりだ。どれが何をする為にあるのやら…
「あっ!これ、操縦席だよね?」
「想定よりも規模が大きいです…ざっと見積もっても、10名以上居ないと動かせないかと…」
「…戦艦内部の他にも、地上で管制する人員も考慮しなくてはなりませんね」
「(アルフィーがここに居たらなぁ…大興奮で協力してくれるだろうな…)」
動くのかも分からない代物、まぁ人数は多いに越した事はないだろうなどと思っている中、バタバタと騒がしい足音が聞こえてくる。
「う!」
「ちゅう〜」
「せーん!」
「かん!」
宇宙戦艦。そんな物が実在すると知ったら大騒ぎしそうな奴らがやって来た。…案の定、エンジニア部だ。
「これが戦艦なのですね!古代技術の賜物でしょうか?…詳しくは分かりませんが、今からじっくりぶん…解析しても良いのですね?」
「宇宙戦艦…古代文明…ふふっ、これは研究のし甲斐があるね!」
「私達の研究は無駄じゃなかった。皆は『宇宙戦艦なんて』と馬鹿にしたけど…アリス、あなたのレールガンはその叡智の粋だよ」
「そうそう、アリスも…」
「…いや何でアリスも居るんだよ!?アンタの喜びそうな事ではあるけどよ!」
「え、えっと…宇宙戦艦が発見されたと聞いたので、エンジニア部の皆さんと───」
「ダメよ!大人しくミレニアムに居るって約束したじゃない!リオ会長が何処に居るのかまだ分かっていないのに───」
アリスの存在はミレニアム出身のユウカにとっても想定外だったようで彼女を叱責する。絵面は完全に親と子だ。
「で、ですが『宇宙勇者』が…」
「『宇宙勇者』とか変な事言ってないで、ミレニアムに戻って!あそこはノアに任せてあるから…」
「この、冷酷算術妖怪!何でそんな酷い事言えるのさ!」
「お、お姉ちゃん…それは言い過ぎ…」
「ま、またあだ名が…」
「やれやれ…勢揃い、か」
うん、知っていたさ。アリスが居るならそういう事だ。ゲーム開発部勢揃いだ。
落ち着きのあるミドリとユズはいいとして、アリスとモモイは船内をジタバタと走り回る。アンタら一応高校生だよな?
「ユウカちゃん、そのお話でいくのなら───キヴォトスの何処よりも
「リオ会長はあらゆるものを掌握したがりますから。それこそ、ミレニアム自治区は会長の掌の上ではないでしょうか?」
「そ、そうかしら…」
「はい。ですが、宇宙戦艦までは流石に会長も掌握出来ないかと。会長から逃れられるのであれば、そこが一番安全な場所になります」
「ですので、アリスちゃんとゲーム開発部を送り出しました。ユウカちゃんが面倒を見てくれるのであれば、大丈夫でしょう?」
通信のノアの言葉に確かに、と頷く。リオも自身の行いに責任を感じていた以上またアリスを狙う事は無いと願いたいが、可能性はゼロじゃない。
「いや、急に言われても困るんだけど!?それならそうと事前に共有して!」
「アリスちゃんを狙っているのは会長だけじゃないのよ?」
「まぁ私が居るから、まだマシかもしれないけど…」
「先輩と後輩って言うより完全にアイツらの保護者だよな、アンタ?」
「ほっ、保護者!?でも悪い気は…しないわね」
「…そこは否定しねぇのか」
まんざらでもなさそうな反応。ユウカが学生にしては成熟しきっているからなのか、ゲーム開発部を代表するモモイがゲームで負けると駄々をこねるような子供っぽさが目立つからなのか…
「オイラはちょっと船内を探索してくるよ。アイツら程じゃないけど、オイラも年甲斐もなくワクワクしちまってるんでな」
"うん。いってらっしゃい。"
"(…そういえばサンズって何歳なんだろう…)"
現在地のブリッジ、つまり操船に関する指揮所から抜け出し船内を探索してみる事にした。古代文明が遺した遺産、どうしようもなく元研究者の血が騒ぐ。
「ふむ…内部の構造はこうなっているのだね」
「配線や配管は、思ったより簡単な構造ですね!オーパーツとはいえ、重力と物理法則は無視出来ないのでしょうか?」
下に降りてみるとエンジニア部とヴェリタス達があれやこれやと騒いでいた。その内の一人のハレがこちらの存在に気づき、こちらに近寄ってくる。
「あっ、サンズ。ちょっと手伝ってくれないかな?戦艦のオペレーティングシステムを分析中なんだ」
「オイラは構わないけど、まるでオイラが力になれるような言い方だな?」
「だってサンズ、研究者をやってたんでしょ?先生から聞いた事がある」
…よく他人に話す奴だよ、先生は。まぁ先生の事だ、補佐のオレがどれだけ凄いのか悪意なんて微塵も無い、純粋な自慢として話しているんだろうな。
「…これか。確かに複雑だけど…普通に見かけるものではあるな」
「こういった作業をするのは久々なんだ、期待はしないでくれよ?」
ヴェリタスと共に作業に取り掛かる。ブランクがある以上最初は手こずったものの体が覚えている、数分程度で自分でも驚くスペースで作業が進んでいく。
「完了だ。いいぜ、チヒロ」
「ありがとう。ヒマリ、アクセスに成功した。今から接続コードを送るから、ちょっと見てくれる?」
「ええ、分かりました。ありがとうございます、チーちゃん、サンズさん」
「ヒマリさん、いかがですか?」
「戦艦のメインシステムへの接続は完了しました。ここから始めていきます。まだ、制御には至りませんが───」
「成る程…中枢を制御出来れば、全体の掌握が可能になる、と」
「…ええ、その通りです」
「では、教えてくださいな───古代技術によって生み出された、オーパーツの正体を」
…通信越しの声を聞くに、どうやら成功したと解釈していいだろう。無論これだけでは終わらず、それからも何度か彼女達の作業を手伝った。
正直管轄外だと思っていたが意外と役立つもんだな、オレ。…ところで気になっていたいたのは…
「私はリオ会長の命令でここに来た、演算サポートAIです」
「…リオ」
「リオではありません。演算サポートAIです」
「…うふふっ、そうですね。あの陰気な女に、少しでも良心というものがあるのなら、ここに顔を出すなんて出来ませんもの」
ヒマリのミスを発見した、いつの間にかそこに居た『AMAS』と刻まれたドローン。オレも薄々察してはいたが…ヒマリの、リオに対する怒り。リオの従者のトキを置いて行方を眩ませた事への。
リオは自分の力が必要不可欠と言っていたがヒマリはそれを拒否。半ば強制的にブリッジから追い出してしまった。
「あんな事言って、良かったのか?」
「…お気になさらず。以前から私とリオはこのような関係でしたので」
…少なくとも、彼女達の関係にはオレが口を挟むべきではないか。そんな少々険悪な雰囲気が漂った事もあったが、一通り本船の仕組みを把握し───遂に作戦の計画がまとまった。
*
「はい、これ。作戦計画書」
「皆さんに協力して頂いて、作成したものです」
「作戦名は───『アトラ・ハシースの箱舟占領戦』」
「…恐らく、これが最後の計画となるでしょう」
リン達から渡された分厚い書類の束。『アトラ・ハシースの箱舟占領戦』と名付けられた作戦、キヴォトスを救う為の最後の作戦の詳細が内密に書かれていた。
「…では、作戦の説明に移ります」
「私達の目標は、キヴォトス上空にある『アトラ・ハシースの箱舟を破壊する』事」
「無事破壊出来れば、『虚妄のサンクトゥム』の出現を阻止出来ます」
「しかし、箱舟は物理的な介入を無効化する『状態の共存』によるバリアで保護されています」
最大の障壁はそれだ。オレが見た黒い球体はあくまでバリア、そのバリアがまぁ何とも厄介な性質をしている。多世界解釈だとか多次元解釈だとか…それこそオレの言っていた『並行世界』だ。
自分がそうでなかっただけで、なり得たかもしれない可能性。だが『可能性』だけで確定はしていない、だから今オレ達が居る確定した世界からの介入は不可能…自分でも言っておいてイマイチ分かんねぇ。ガスター博士ならもっと詳しく説明出来ただろうな…
「このバリアが存在する以上、箱舟に対しての物理的なアプローチは不可能とされてきました───ですが」
「『ウトナピシュテムの本船』を同様の状態にすれば、理論上はバリアを通過する事が可能です」
「要は、相手と同じ存在になったら、干渉出来るって事〜」
「その為の計算は、私がこの船の演算装置を用いて進行する予定です」
「…計算に失敗したら?」
「…そうですね…万が一、計算に失敗した状態でバリアが展開されている空間に進入した場合───」
「早い話上空でドカン…そういう事だろ?」
爆破から逃れられたとしても待ち受けているのは上空75,000mからのパラシュート無しのスカイダイビング。
言うまでもなくオレは即塵、ヘイローを持つ彼女達でも持って数分が関の山だ。丁度アコとカヨコがその話をして何とも微妙な雰囲気が漂っていた。
「…続けます。失敗の想定をしたところで、不毛ですので」
「バリア通過後、箱舟に物理的な衝撃を与え───内部に侵入します」
「無事に侵入出来たら、主要施設のハッキングを行い、これ以上作動しないよう徹底的に破壊します」
「勿論、箱舟内に居る敵から抵抗を受けるでしょう」
「だからオイラ達みたいな戦闘要員が必要になる訳だな」
「はい。攻撃を防ぎつつ、箱舟の各エリア内を少しずつ占領、最終的に箱舟の制御権を奪う───それが作戦の最終目標です」
当然向こう側も計画が破綻しないように策を練っている。本来オレみたいな弱っちいモンスターは戦闘するべきじゃない…と散々戦線に出向いておいて何を言っているだと思うが、まぁオレもやれる事を全力でするまでだ。
「…制御権を掌握したら、箱舟自体を自爆もしくは、地上に墜落させる事が可能になるでしょう」
「ええ…箱舟をハッキングし、奪う───それが私達の勝利条件」
「…すっかりサポート型AIじゃない事を隠さないんだな、会長サン?」
「あっ…」
「わ、私はサポート型AIで───」
「……」
「リオ会長〜〜!?」
「…一瞬でバレましたね」
呆気なく、それもリオにとっては一番正体を知られたくないユウカに見つかり怒涛の説教を食らう。どっちが先輩で後輩なのか分からねぇな、これ。
「会長に言いたい事は山程あるけど…そうね、後であの横領の件から事細かくお話を聞かせてもらいますからね!」
「…分かったわ。万が一の場合に備えて、地上に戻る方法を探してみるわ。…勿論、許可してくれるのなら、だけど」
「そうですね、お願いします。船が壊れてしまった場合、私達は箱舟に閉じ込められますので」
「───では、すぐに取り掛かるわ」
エリドゥを、アバンギャルド君を、アビ・エシュフを単独で作り上げたリオなら実現してくれると信じよう。
…さて、話はオレ達に残された時間に変わる。アユムによるとサンクトゥムの再出現まで約12時間、一日どころか半日しかない。ついでに作戦の成功率は…
「何度もシミュレートした結果、成功確率は───」
「なんと、3%もあります」
「へへっ、『3%もある』と言うべきなのか、『3%しかない』と言うべきなのか…」
「…奇跡みたいな確率を味方につけるしかありませんね」
"それでも、やる価値はあると思うよ。"
絶望的な確率ではあるが先生の言う通りだな。決してゼロじゃない、成功出来る見込みがあるならそれに賭けるまでだ。
オレは今までずっと、何十回も何百回も決して勝てない戦いに挑んで、いや挑まされてきた。あれに比べりゃ…遥かにマシだな。
「成功率が3%だろうと構いません。私達は、今まで通り作戦を遂行するしかないのです」
"そうだね。皆で力を合わせて、やってみよう。"
「…そうですね。これ以外に方法が無いのですから、最初から選択肢は存在していません」
「ええ、そうね…」
「…はい、シロコ先輩を見つける為にも」
「はぁ…やるしかないよね」
「そうですね…ここまで来て、他の道はありません」
皆の想いが一つになる。学園の違いなんて関係無い、全てはキヴォトスを救う為に。
…オレもトリエルに、パピルスに、アンダインに…皆に協力を求める事が出来たのなら、あんな惨劇が何度も起こらずに済んだのかな。
「それでは『ウトナピシュテムの本船』を8時間以内に発進出来るよう、準備をお願いします」
リンの指示によって今から8時間後───明日の夜明けに出発する事になった。それまでに各自休息を取ってほしい、とも。
先生やリンは勿論、この場に居る全員が空が赤く染まってからマトモに休んでいないまま。これからの戦いに備えて休むのが懸命な判断だ。
"やっぱり制帽…いや定番のスカーフも欠かせないなぁ…"
"そう!艦長はロングコートだよね!"
「これから行く所はコスプレ会場じゃないんだぞ…?」
…そんな話が出る前の、ハナコの言葉を皮切りに始まったオペレーターの衣装に関する話し合い。先生の顔付きが妙に真剣で、かつ子供のように瞳が輝いていたのは目を疑った。
「それでは皆さん。これより8時間後、夜明けと共に出発といたします」
「それまでに…出来る限り各自、休息を取るようにしてください」
「では、解散します」
*
「…よっ」
「お、おかえりなさい…サンズさん…」
作戦開始まで残された数時間を、オレは家で待機しているスクワッド達と過ごす事にした。自宅前にテレポートするとそこにはいつもの三人だけではなく、サオリも居た。
「事情は全部先生から既に聞いてる。…行くんだよね、空に」
「行かなきゃ世界が滅んじまうんでな。不安な気持ちもそりゃあるが背に腹は代えられねぇ」
「…帰還出来る可能性は幾つだ?」
「あー…ミレニアムの滅茶苦茶頭の良い奴によると『3%』だってよ」
3%という殆どゼロに近い数値。サオリは俯き、ミサキは「はぁ…」とため息をつきヒヨリは慌てふためき、アツコは…仮面を付けている為どんな表現をしているのか分からない。
「3%…そんな低いだなんて…やっぱり人生は辛いですね…苦しいですね…」
「…ですがそれでも諦める理由にはならない事をアズサちゃんは、サンズさんは教えてくれました。まだ、希望はありますよね…」
何処までもネガティブ思考だったヒヨリの成長。精一杯の笑みを浮かべる彼女に、こちらも笑顔で返す。
「……」
…問題はアツコだ。ここに来てからというもの、彼女は一言も発していない。
「…やっぱり心配か、アツコ?」
「…うん」
仮面を外した彼女の顔は悲壮に満ちていた。言葉に発していないだけで「行かないで」と言っているかのような。
…あぁ、お互いにお互いを知らなくても別に生きていけただろうに、知ってしまったばかりにこんな事になってしまった。オレもアツコを心の支えにしちまっているんだ、居なくなれば…耐えられないだろうな。
「…ほら、ちょっとこっちに来な。んで屈んでみてくれ」
「…?」
首を傾げながらもアツコはオレの言う通りにこちらに近寄り、屈む。オレの顔と同じ位置に来た彼女の頭に手を置きポンポン、と優しく撫でる。
「大丈夫、だいじょーぶ。オイラ死ぬつもりなんてこれっぽっちも無いし」
「帰って来たら皆で美味いものを目一杯食べようぜ?全部オイラの奢りだ」
「だから心配は無用さ。アンタらはいつも通りにしていれば良いんだ」
「…絶対に帰って来る、って約束出来る?」
「もっちろん。アンタがオイラを必要としてるみたいに、オイラもアンタが必要なんだ」
「『審判者』には公正さの『秤』が必要だろ?」
「ふふっ…そうだね。ありがとう」
絶対に戻れる確証なんて無いのに何言ってんだオレは…と思うがその言葉にいつの間にかアツコの顔にあった不安感は消えていた。
「…やっぱり、サンズの手は骨だから冷たいのに暖かく感じる。どうしてかな」
「オイラと一緒に居ると『ホット』するってよく言われるんだ。Hotだけにな」
「くっ…ふふふっ…!」
「リーダー嘘でしょ…?」
オレの手を手に取り、自身の頬に寄せ彼女は笑みを浮かべる。…前々から思っていたがもしかしてサオリ、オレみたいなダジャレに弱いな?
「とは言ってもまだ時間があるんだ。とりあえずは家に入って飯でも食べようぜ」
「わ、私も手伝います!」
「…ま、確かに普通に過ごす方が良いのかもね」
「…私も食べても構わないのだろうか」
「勿論、サッちゃんもだよ。一緒に料理作ってみない?」
作戦開始前だから何か特別な事をする訳でもなく、オレ達は飯を作って食べ、談笑し、ゲームで遊んで…いつもと全く変わらない生活を送った。
「…ふあぁ」
「…そろそろ時間か」
仮眠から目覚める。持てる限りのケチャップを冷蔵庫から取り出し、自身の装備を確かめる。
防弾チョッキ、シロコから貰ったサブマシンガン、そしてBonely Blaster。これから上空75,000mに行くんだ、そこまで距離が離れているならテレポートも効果を成さないだろう。
「行くのか、サンズ」
「あぁ。皆の事は宜しくな」
誰よりも先に起きていたサオリと玄関前で落ち合う。
「…姫からこれを預かっている」
「『お守り』との事だ」
彼女から『ある物』を受け取る。…それには見覚えがある。なんせつい最近オレの前で使っているところを見ているのだから。
「じゃ、行ってくるぜ」
「次にここに帰って来た時の言葉は『ただいま』だな」
静かに頷くサオリに軽く手を振り、テレポートで本船へと移動する。既にオレ以外の搭乗する奴らはほぼ全員到着しているようだった。
「シャーレの先生の補佐サンズ、到着だ」
*
「うぅ…」
「あー…うん、似合ってるぜ、アヤネ?」
「そういう事を言ってほしい訳ではありません…!」
本船に着くとオペレーターを担当する生徒達の衣装が一新していた。間に合ったのか、エンジニア部…
全体的に白を基調とし、先生の要望にもあった制帽もオマケに付いている。発案者であるハナコはノリノリだが案の定と言うべきか、大半の生徒は不満を口にしていた。
「因みに、この衣装は着用者の脳波や脈拍など、身体のコンディションを記録し───更には、任務遂行に支障が出ないよう、サポートする機能も搭載しております」
「他にも、防炎・防爆・防水などなど───様々な機能が盛り沢山の、『オペレーター専用装備』だと思ってください♪」
…案外しっかりしてるんだな。
「今から私達は『ウトナピシュテムの本船』に乗り、キヴォトスの上空75,000mにある『アトラ・ハシースの箱舟』に突入…」
「箱舟を占領し、機能を無力化───そして、無事地上に戻らなくてはなりません」
「それでは、点呼を取ります───」
「オペレーター、浦和ハナコ、天雨アコ」
「オペレーター、奥空アヤネ、早瀬ユウカ」
「オペレーター、鬼方カヨコ、明星ヒマリ」
「オペレーター、由良木モモカ、岩櫃アユム」
「…そして私『ウトナピシュテムの本船』の統括責任者───七神リンです」
"宜しくね、皆。"
「『ウトナピシュテムの本船』の発進後、地上で航空管制及び技術支援を担当するのは───」
「ミレニアムサイエンススクールのヴェリタス、音瀬コタマ、小鈎ハレ」
「小塗マキ、各務チヒロ、そして───」
「エンジニア部、猫塚ヒビキ、白石ウタハ、豊見コトリ」
「箱舟の突入後、襲撃に備え占領戦のサポートをするのは───」
「アビドス対策委員会の小鳥遊ホシノ、黒見セリカ、十六夜ノノミ、サンズ」
「よ、宜しくお願いします…!」
「おっけ〜任せなって」
「よし、準備は完璧!」
「うんうん!皆でシロコちゃんを見つけ出しに行きますよ!」
「皆で無事に帰ってホットドッグパーティーでもしようぜ」
「はい。対策委員会の皆さんは、砂狼シロコの捜索をするという事で、志願してくださりました」
「オイラ達のシロコを見つけるのもだけど…あの黒いシロコも止めなきゃな」
「あのシロコ先輩に何があったのかは分かりませんが…色彩と関わっている以上、看過は出来ませんよね…」
そう。オレ達対策委員会の目的はシロコを見つける事であり、止める事でもある。たとえ居た世界が違えどシロコはシロコ、放ってはおけねぇ。
「…そして」
「現在、この船唯一の武装であるレールガンの所有者、ゲーム開発部の天童アリス───」
「そして、才羽モモイ、才羽ミドリ、花岡ユズ…こちらの4名が、占領戦のサポート及び力を貸してくれるとの事です」
「よ、宜しくお願いします…」
「はぁ…しょうがない、私が面倒を見ればいいのね」
「…絶対に無茶は禁物よ。安全が最優先だからね、いい?」
まさかのゲーム開発部。だが彼女達はメイド部にリオと多くの強敵に立ち向かってきた経験がある。改めて思うがゲームを作る部活が辿ってきた経歴とは思えねぇ。
「そして最後に───」
「皆さんの食事を担当する、ゲヘナ給食部の愛清フウカと…美食研究会」
「そうかそうか、美食研究会…」
「…は??」
『まさか』という言葉はこっちに使うべきだった。どうしてアイツらがここに居るんだ??
「ア、アンタらどうして…」
「おや、サンズさんではありませんか」
「ねぇねぇサンズ、ここでもあんたのホットドッグ食べれたりする!?」
「まだ地上だから材料持ってくれば食べれるけどなぁ…」
「まぁフウカは…」
「…はい、サンズさんの思っている通りです」
「また連れられて来たんだな…」
不憫とかそういうレベルじゃねぇ。フウカに拒否権は無いのか?
「…先生、『ウトナピシュテムの本船』の起動に関してですが…本来はサンクトゥムタワーによって起動するのだと聞きました」
「カイザーPMCがこの船を見つけた直後に、サンクトゥムタワーを掌握しようとした一連の流れも、その理由からでしょう」
「サンクトゥムタワーが破壊された今、これを起動出来るのは『シッテムの箱』を所有している先生───あなただけです」
"うん、任せて。"
先生は平然と言うが…安心よりも不安が勝る。いや失敗への不安じゃない、先生の身体への不安だ。
「なぁ先生。こんなオーパーツが何の反動も無しに起動すると思うか?」
「…最悪アンタの命に関わるぜ」
"…それも覚悟の上だよ。"
"私は皆みたいにオペレーターは、航空管制は、占領戦のサポートは出来ない。"
"だからこれは私に与えられた『使命』なんだと思う。"
"サンズ、私を信じてくれないかな?"
「…分かったよ。補佐として、アンタを信じる」
それが先生の『ケツイ』なら、オレは甘んじて受け入れよう。本船の起動装置にシッテムの箱を接続する彼の姿を、ただ見つめる。
「メインパワーの起動を確認しました!」
「メインコントロールシステムの稼働、完了…!」
「各エリアの通信システム、演算システムのチェック、オールクリア…ここまではマニュアル通り、ばっちりだね」
「エンジンシステム、クリア」
「多次元解釈システムのチェック、クリア。オールクリアです」
「管制システムチェック、オールクリア。よし!これで全部使えるわよ!」
それまで沈黙を貫いてきた船のシステムが次々と起動していく。初めからこれを想定していたかのように。
「発進準備、完了!命令待機中です!」
「先生、発進の号令をお願いします…!」
"宇宙戦艦『ウトナピシュテム』、発進!!"
先生の声に応じ船全体が、窓から見える外の照明が強く光り輝く。
「これより『ウトナピシュテムの本船』───離陸します!!」
地が激しく震撼する。近くの手すりに掴まっていないと骨と皮どころか骨しかないオレなら、すぐさま足元から崩れ落ちてしまいそうになる程に。
そして───地上の砂を吹き飛ばしながら船は浮かび上がる。轟音が聴覚を満たす。
「高度上昇…現在、780m!」
「多次元解釈システムの起動は今でいいのよね?」
「計算は終わりました。ハナコさん、お願いします」
「計算完了…多次元解釈システム、起動します!」
"……ッ…"
…やっぱりか。先生に負担が掛かっている。体が震え、冷や汗を流し、あからさまに正常ではない状態。
それでも先生は平静を装う。生徒達に心配をかけさせない為に。
"ちょっと乗り物酔いがね…"
「…申し訳ありません。もう少しの辛抱です」
「…マジで無理すんなよ。いざという時はオイラが…」
"…ごめんね。でも私は…大丈夫だよ。"
誰がどう見ても『大丈夫』とは見えないにも拘らず、先生は作り笑いを浮かべる。…フリスクといい、先生といい、オレの身の回りに居る善良な人間はどうしてこうも無理をするんだよ。
「システムの正常動作を確認!」
「現在、私達のウトナピシュテムの本船は、箱舟と同じ『確率的な存在』となりました」
「えっと、どういう事?」
「多分だけど…確率的に存在可能なあらゆる宇宙に、私達が同時に存在する…って事だと思う」
「並行宇宙というものがあれば、ですが」
「あはは…次元パラドックスが発生しないといいのですが…」
「大丈夫。もしそうなったとしても、衛星の一つとしか認知されない筈よ」
恐らくオレだけはその例外。本来ならここには存在し得ないのだから。先生も、対策委員会も、スクワッドも、誰もオレを知らない世界…考えるだけで恐ろしい。
「雑談はそこまでに。───航路の目標設定をお願いします」
「目標高度75,000mにある箱舟までの航路を計算…設定、完了」
「うおっ…」
「わ〜、めっちゃ揺れる…」
「も、もう少しだけ耐えてください、先生」
手すりに掴まっていても投げ出されかねない揺れ。視界が幾度にも渡って変わり続ける。
「これより、『アトラ・ハシースの箱舟』に向かって加速します」
「うわっ、皆しっかり捕まってね!マニュアル通りなら、尋常じゃない速度が出る筈だから!」
「最大出力…加速します!!」
アヤネがレバーを前に向け全力で引いた瞬間───
「ヴッ───」
オレの手は手すりから強制的に引き離され、体は宙を浮く。唖然とした皆の視線を、一身に集めながら。