Blue Archive: Visitor From Underground   作:暗黒星 堕零

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怠け続けていたスケルトンにとって、それは余りにも忙しない一日だった。


骨の折れる日常

 オレがアビドス高等学校の新入生として入学してから早一週間…様々な事が立て続けに起こった。

 まず最初に話すべきなのは…そう、オレの身だしなみを整えさせられた事だろうか。個人的にはこのままでも構わなかったんだが…

 

「うへ〜、外でもスリッパなのは怠け癖のあるおじさんでもどうかと思うな〜」

 

…と、ホシノを筆頭に反感を買うし、先生が衣服などの費用は全て負担してくれるようなので、大人しくお言葉に甘えることにした。

 パーカーの下に着ているシャツから学校指定のワイシャツとネクタイに着替えたほか、皆と出かけたデパートでスニーカー、仮に銃弾に当たってもダメージを軽減出来るように防弾チョッキを買った。

 銃弾と言えば、セリカを救出する際にオレが銃撃される事を危惧していた先生だったが、当の本人はどうなのか。ふと気になったオレは聞いてみる事にした。

 

「先生、そういやアンタは銃に撃たれても平気なのか?」

“いや、私は当たり所が悪ければすぐに死んじゃうよ。”

「…ならアンタも防弾チョッキ、買った方が良いんじゃないか?」

“私には超優秀なスーパーAIがいるから大丈夫だよ!”

「…そうか」

 

 更に『スーパーAI』についての疑問が浮かんできたが、どうやら必要は無さそうだった。

 そして次は…あぁ、『学校の負債の返済方法』に関する会議だ。各々が案を出すがセリカはあからさまなマルチ商法に引っかかっているし、ホシノは『生徒の数を増やす為』と他校のバスをジャックしようとするし、ノノミはアイドルを結成しようとするし、シロコに至っては…

 

「銀行を襲うの」

 

「銀行…銀行…!?何言ってんだアンタ…??」

 

 …平然と銀行強盗を提案してきた。既に作戦は練られている上にオレ達が顔を隠す為の覆面すら用意済みの始末。これが子供の考える事かと苦悩した。

 まぁ当然オレにもどんな案があるのかを聞かれる訳で、前居た世界でやっていた事を思い出す。

 

「…そうだな、オイラ的には『漫才』がベストなんじゃないかと思うんだ」

「漫才…ですか?」

「あ〜、確かにサンズ君、自己紹介の時にダジャレがどうのこうのって言ってたよね〜」

“因みに…どんなダジャレなの?”

「丁度いい、オイラの渾身のダジャレを皆に見せたかったところなんだ。ちょっと見てくれよ?」

 

 椅子から立ち上がる。皆の視線が一気にオレに集まる。

 

「…コホン。突然なんだが…スケルトンが住む家はどんな家だと思う?」

「コンクリートだと思うな〜」

「ん、木造建築の家」

「豪邸…かしら?」

 

 それぞれが自身の考えを出す中、ノノミが手を上げる。

 

「サンズさん…私分かっちゃったんですけど…」

「…もしかして『鉄骨マンション』でしょうか?」

 

「……そう!大当たりだ!スケルトンが住む家は鉄骨マンション!『骨』だけにな!!」

 

 

 

「………………」

 

 

 

 …辺りが一瞬にして静寂に包まれたのを鮮明に覚えている。地下世界で披露すれば大爆笑を掻っ攫っていたんだけどな。

 …そういやオレがダジャレを披露し始めた辺りからアヤネが沈黙していたな、と思い、彼女が居る方に視線を向けてみる。

 

「…い…」

「い?」

 

 そこには顔を真っ赤にし、プルプルと震えているアヤネの姿があった。……あぁ、こりゃマズいな、と思う暇も無く───

 

「……いい加減にしてくださぁい!!!」

「!?」

 

堪忍袋の緒が切れたアヤネが凄まじい馬鹿力で机をひっくり返した。…普通にビビった。

 

「いつもふざけてばっかり!銀行強盗とかマルチ商法とかそんな事ばかり言って!」

「(ギクッ)」

「……」

 

「サンズさんも!!お笑いで食べていけるのはほんの一握りの人達だけなんです!人々の心を掴めなければすぐに消えてしまいますよ!」

「…おっしゃる通りだ…」

 

 …オレも先生もこれでもかと説教され、その後はアヤネを宥める為に以前にも訪れたラーメン屋に行った。

 そこで出会った人相の悪い…だけで実際のところはサービスで量が増し増しのラーメンに大喜びしていた集団、通称『便利屋68』が学校に戻った後に襲撃してきたが…

 

「何なのよあの骨はー!?」

「あわわわわ………」

「あははっ!!完全にこっちが押されてるねー?」

「…はぁ、これは無理かもね…」

 

 …まぁここは割愛してもいいだろう。慣れちまった。

強いて言うなら…オレが与えられるダメージは相変わらず低いままだが、地中から突き出した骨で上空に吹っ飛ばした際の落下時のダメージや、壁に激突させた際の衝撃なら普通に戦いに貢献出来るのが判明した事か。

 少々生々しいが、オレに出来る事はこれぐらいしか無いからな。

 

 

「おっ、先生にサンズ君だ〜。おはよ〜」

「グッドモーニングだ」

“おはよう、皆。”

 

 現在に至る。今日こそは何も起こらない事を祈っていたが……やはりと言うべきか、起こってしまった。内心は薄々察してはいたが…

 

 その問題というのが、以前セリカを誘拐したヘルメット団が使用していた戦略兵器の破片を調べたところ、現在では使われていない型番だと判明。そんな型番を入手するには『ブラックマーケット』という、違法な品が流通しているらしい所が有力だという事。

 …まぁそんな情報を手に入れたからには、行く以外の選択肢は無く。

 

「何だあの白いの……」

「もしかして…骨?」

「着ているのアビドスの制服だよな…あんなの居たっけ?」

 

 

 

「…オイラもう帰っていい?」

「駄目です♪」

「…だよなぁ」

 

 皆に引っ張られる形でオレ達はブラックマーケットへやって来た。人相の悪い人々が屯する、如何にもな場所だ。

 オレが冷や汗をかきながら周囲を警戒している中でも、皆はまるで放課後の帰宅途中かのように世間話をしていた。

 

「でも他の地区にはアクアリウムっていう、ちょーデカい水族館があるんだって!」

「アクアリウム、か」

「おっ、反応アリだねー。サンズ君はアクアリウムに行ったことある?」

 

「……オイラの居た世界には無かったな。魚…といえば、魚人の戦士がいたけどさ」

「魚人の戦士…!ん、強そうだね」

「どんなお方だったんですか?」

「まぁ色々と大雑把なヤツだけど、オイラ達モンスターの為に奮闘する良いヤツだったよ」

 

 皆も居るし少しぐらいは気を緩めても良いだろう、そう思い思い出話に耽っていると───

 

タタタタタッ!!!

 

「…ッ!?」

「銃声だ」

 

 遠く、いやかなりの近辺で銃声が鳴り響く。何処かで抗争でも発生したのだろうかと周囲を見渡していると、向こうから誰かがこちらに向かって走ってくるのが見えてきた。

 

「う、うわああ!まずっ、まずいですー!!つ、ついてこないでくださいー!!」

 

 ここに居るのには余りにも似つかわしい、華奢な少女が不良に追いかけ回されていた。

 どうやら彼女はアヤネ曰くキヴォトスのマンモス校の一つ『トリニティ』の生徒らしく、不良達は彼女を誘拐して身代金を頂こうという作戦のようだ。

 …まぁ。

 

「うぎゃあっ!」

「悪い子にはお仕置きです♪」

 

 …シロコとノノミがあっという間に気絶させたんだが。

 

「あ、ありがとうございました。皆さんが居なかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした…」

 

 『阿慈谷ヒフミ』と名乗る少女は感謝の意を伝える。彼女はどうやら探し物を求めてここを訪れたらしいのだが…違法な品が出回る場所で求めるものなんてマトモじゃないに決まっている。銃か?兵器か?怪しい薬か?

 

「探し物って…こんな所で一体何を探してるの?」

 

 オレが疑問に思っていた事をセリカが聞く。

 

「えっとですね…そう、ペロロ様のグッズなんです」

「ペロロ…?」

 

 聞き覚えの無い言葉に首を傾げる。

 

「あー…そのペロロって何だ?」

「あのペロロ様をご存知ないのですか!?世界は広いですね…」

 

 彼女の反応を見るにこの世界ではかなり有名な存在らしい。…まさか彼女が背負っているリュックにプリントされている、舌を出したキャラがペロロなのか…?…いや流石にそんな訳はないだろうと思っていると、ヒフミは何かを取り出してきた。

 

「はい!これです!」

 

 ヒフミが持っていたのは、豪快にアイスを口に突っ込まれた鳥のような生物のぬいぐるみ。…予想が的中してしまった。目の焦点は合ってない上に舌が飛び出しているそのデザインは。

 …正直言って、気味が悪いと感じた。

 

「わあ☆モモフレンズですね!私も大好きです!ペロロちゃん可愛いですよねえ!」

 

 幸いなことにノノミはその存在を知っていたが、他の皆は…

 

「……」

「若い子の流行にはついていけないなぁ〜…」

「何コレ…」

 

…見るからに難色を示していた。

 

「どうですかそこの…真っ白な方!可愛いですよね??」

 

 …ヤバい、こっちにも話を振られた。どのような言葉を選べば良いのか、かつて研究員だった頃、またはそれ以上に思考を張り巡らし考える。

 

「……あー、とても個性的な見た目で、マスコットとしては凄く良いとオイラは思うな。記憶に刻み込ませるには、インパクトが重要…だしな?」

「ですよね!?ですよね!?私もそう思います!例えばスカルマンだったら…そういえばあなたとスカルマンって似てますよね…?もしや同じ骸骨……」

「ちょっ…待っ…」

 

 怒涛のモモフレプレゼンに圧倒される。リュックからあれやこれやとグッズを取り出しオレに見せるヒフミに困惑していると、「あいつらだ!!」「よくもやってくれたな!痛い目に遭わせてやるぜ!」という怒号と共に先程の不良の仲間が走ってきた。

 

「これ…まさか戦う流れか?」

「そうみたい。私は望むところだけど」

「皆さんは戦闘準備を!サンズさんと先生は安全な場所に移動して支援を!」

“分かった。”

「…やれやれ、やるしかないか」

 

 

 

「クソッ!骨が邪魔して当たらねぇ!!」

「多分あそこに隠れてる白い奴が原因だ!さっさと……」

「……!」

「そうはさせないわよ!!」

「ぎゃぁっ!?」

 

 こちらの存在に気づいた不良に銃を向けられるが、セリカの攻撃によって不良は気を失う。

 

「へへっ、ありがとな、先輩?」

「あの時助けてもらったし…ね?それに、先輩は後輩にいいところを見せないとでしょ?」

 

 その後も骨を出し仲間を攻撃から守り、時に突き出した骨の衝撃で壁に激突させ気絶させる。不良の行動は単調なものだったが、次から次へと増援はやって来る。

 シロコ達はまだ戦意に満ち溢れていたが、ヒフミ曰くここで騒ぎを起こしすぎると治安機関とやらに目をつけられて色々とマズい事になるらしいので、オレ達は敵の目を掻い潜って逃亡する事にした。

 

 

「はあ…しんど…」

「うへ〜…おじさんの膝が悲鳴を上げてるよ〜…」

“…流石にそろそろ休まない?”

 

 あれから数時間、オレ達が探し求めているものは一向に見つからず、ブラックマーケット内を歩き回っていた。若い彼女達が疲弊しきっているのだから先生は顔色が悪いし、この中で最も体力が無いオレに至っては。

 

「………すまん、シロコ……」

「ん、私は大丈夫」

 

 …数十分前に体力が限界を迎え道のド真ん中でぶっ倒れ、シロコに背負われていた。今にも申し訳なさと恥ずかしさに押し潰されそうだ。

 

 もうしばらく歩いているとノノミが立ち止まる。何かを見つけたようだ。

 

「あら!あそこにたい焼きさんが!」

 

 彼女が指差した先にあったのは屋台。…こんな治安が終わっている場所にも、空腹を満たす場所はあるのか。

 …しかし『タイヤキ』とは何だ?

 

「はい、サンズさんのです!」

 

 ノノミから渡されたのは恐らく魚であろう生物を模った、甘い香りが漂うもの。感触は柔らかく、程よい熱さだ。

 

「おいしい!」

「いやぁ、ちょうど甘いモノが欲しかったところだったんだー」

 

 皆が美味そうに食べているのを見て、オレも一口食べてみる。

 

「…美味しい」

 

 中には赤いペースト状のものが詰まっていて、今まで味わった事の無い甘さが食欲を増進させる。そして気づけば、あっという間に完食していた。

 ひと時の休憩を終えて捜索を再開するものの、目的のものはやはり見つからない。オレはそれに違和感を感じていたがヒフミも同様のようで、『意図的に隠されているのでは』と推測していた。その後も各々が自身の考えを出すが、一向に結論には至らない。

 どうしたものかと悩んでいると、アヤネから武装した集団が接近しているとの知らせが。無闇な争いは避けるべきだとオレ達は身を潜め、やり過ごす事にした。

 

「……あれは…」

 

 近くの闇銀行へと向かっていく車には見覚えがあった。オレと先生がアビドス高等学校に来る最中に見かけた、学校の借金の集金に来たトラックだ。車内から現れた奴も全く同じだ。

 そこからオレ達が目撃したのは…事もあろうに、借金の返済金を銀行員に渡す光景だった。

 …導き出せる結論はただ一つ。

 

「……つまり、アンタらが稼いだお金が、闇社会に流れ込んでいた訳か」

 

 自分を助け、受け入れてくれた者達が汗水を流して稼いだ金が悪用されている。…決して許されるべき行為ではない。ヒフミは集金確認の書類に目を付けたが、入手はほぼ不可能な状態。

 だがシロコだけは、この状況を打開する方法を思いついたらしい。

 

「ホシノ先輩、ここは例の方法しか」

 

 …途端に嫌な予感がし始めた。

 

「なるほど、あれかー。あれなのかあー」

 

 まさか。

 

「あ……!!そうですね、あの方法なら!」

 

 まさか……

 

「…あれ?まさか、私が思っているあの方法じゃないよね?」

 

 先程までゆっくりと歩んでいた嫌な予感が、急に凄まじいスピードで走り出して来るのを感じる。

 

「……」

 

 シロコが取り出したのは─────青い目出し帽。

 

 

 

 

「銀行を襲う」

 

 …嫌な予感が的中しちまった。気づけば皆は既に同様に目出し帽を被っていて、やる気満々という雰囲気。そしてシロコはこちらに近づいてくると、手書きで『5』と書かれたスカーフをオレに渡す。

 

「ごめん、サンズに合うサイズが無くて。これでも顔を隠せると思うから」

「いやオイラも参加する前提で話さないでくれないか?」

「ううん、大丈夫だよ」

「何がだ??」

 

 まるで話を聞かない。最早今の彼女達にとって『銀行強盗』は確定事項となってしまったらしい。

 …あぁ分かったよ。ここまで来たらオレも共犯者になってやる。

 

「…分かった、オイラもやるから。…で、これでどうやって顔を隠すんだ?」

「ん、まず数字が付いている方を前にして、口元で巻いて」

 

 言われた通りに口元で巻き、後ろで結ぶ。

 

「うん、そしてパーカーのフードを被ってみて」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 …建物の窓に映ったのは、如何にも今から怪しげな事をする雰囲気に溢れている自分の姿。見事なまでに目元以外が隠れていて、正体はそう簡単にバレる事はないだろう。

 

「あと…はい、これも渡す」

 

 シロコがそう言いバッグから取り出したのは…銃、紛れもない銃だ。ハンドガンよりも一回り大きいその見た目は、かつてアルフィーの研究所で見たニンゲンの歴史…もとい漫画で見た事があった。

 

「…サブマシンガンってやつか?どうしてオイラに?」

「そう、よく分かったね。…うーん、どうしてって聞かれたら…銀行強盗をするのに武装しない人は居ないよね?」

「いや、まぁ…その通りなんだが」

 

 そういえば巻き込まれてしまったヒフミはどうしているのだろうかと、彼女の居る方向へ向いてみた。

 

「あううっ……」

 

 …そこには、大々的に『6』と描かれ、タイヤキが入っていた紙袋で作られた即席の覆面を被せられたヒフミが居た。

 

「何やってんだアンタら…?」

「ん〜、ヒフミちゃん、ついさっき『今日は一緒に行動する』って言ってたじゃん。そういう事だよ」

「どういう事だよ…?」

 

 流石に可哀想だと思ったが、先生を含めここに居るほぼ全員が銀行を襲う気迫で満ち溢れていて、とても言える状況ではなかった。何ならヒフミも困惑はしているがその目には決意が宿っていた。

 

「それじゃあ先生。例のセリフを」

“………”

 

“銀行を襲うよ!”

 

 …『水着覆面団』と名付けられた奇妙な集団は、闇銀行へと歩みを進めていくのだった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

「うわぁぁっ!?」

「うぐっ!?」

 

 停電によって暗闇に包まれた銀行内に響き渡る銃声と銀行の監視役の叫び声。銃声が止み、辺りが静寂に包まれると、復旧した照明は奇抜な格好をした集団を照らし出していた。

 

 …そう、水着覆面団ことオレ達だ。

 

「全員その場に伏せなさい!持っている武器は捨てて!」

「言うこと聞かないと、痛い目にあいますよ☆」

 

 シロコ達の鬼気迫る声に、銀行員も客もその場でうずくまる。一人の銀行員だけは外部に連絡を試みようとしていたが、既に通報システムの電源は落とされていたので無意味だった。

 

「うへ〜、ここまでは計画通り!次のステップに進もうー!リーダーのファウストさん!指示を願う!」

「えっ!?えっ!?ファウストって、わ、私ですか?リーダーですか?私が!?」

 

 いつの間にかヒフミがリーダーにされているし、『覆面水着団』に名前は変わっているし、ノノミは自身をクリスティーナと名乗っている。もう滅茶苦茶だ。

 

「(ほら、サンズ君も何か決めゼリフを!!)」

「(はぁ!?そんな急に…)」

「(皆さんに自分達の脅威を伝える為の重要な役目ですよ☆)」

 

「(マジか?)」

「(マジですよ!)」

「(……承知した)」

 

 

 

「……オラオラーッ!!余計な事はしない方が身の為だぜーッ!?『ボーン』やりしてるとオイラの銃が火を吹くぞーッ!!」

 

 ヤケクソ気味に高台へと立ち、周囲の人々に当たらないように上空へ銃を乱射する。

 …パピルスがこの光景を見たら、きっと心の底から軽蔑するだろうな。

 

「ひぃぃぃっ!!お金でも何でも差し上げます!!どうか命だけは!!」

 

 銀行員が怯えながらバッグに札束を詰め込んでいく。バッグが満杯になるまで詰め込むと、その場に縮こまってしまった。目的はあくまで集金記録の書類なのだが…大丈夫だろうか。いやこんな事をしている時点で大丈夫じゃねぇ。

 

「それじゃ逃げるよー!全員撤収!」

「アディオ〜ス☆」

「骨の髄まで沁み渡る恐怖をお届けしたぜ!!」

 

 

「…や、奴らを捕えろ!!道路を封鎖!マーケットガードに通報だ!」

「一人も逃がすな!!」

 

 

「封鎖地点を突破。この先は安全です!」

「やった!大成功!」

「シロコちゃん、集金記録の書類は?」

「バッグの中に入ってるよ」

「皆も揃っているし、無事作戦は……」

「……サンズ君は何処?」

 

 

 

「…本当だ!?居ないじゃない!?」

「私達を捕まえようとする追手が少なかったのも…」

「……もしかして………」

 

 

 

 

 

「待て!!!絶対に逃がすな!!!」

 

 

 

 

 

「なん…でだよっ!?」

 

 ……逃亡している最中に皆とはぐれたオレは、死にものぐるいで追手から逃げ続けていた。それもオレ一人を捕まえるには余りにも過剰な人数で。

 恐らくホシノ達に乗せられて高台で銃を乱射した事で他よりも目立ち目をつけられたのだろう。…最悪だ。

 

「……くぅっ…」

「動きが鈍り始めたぞ!!今がチャンスだ!!」

 

 …己のスタミナの無さに絶望するのはこれで何回目だろうか。今日に至っては二回目だ。背後から止めどなく発射される銃弾の嵐を避けながら思う。

 『近道』を使えば良い…という訳にもいかない。オレが元居た世界で何処でも自由にワープ出来ていたのは、オレが地下世界の全体図を大方把握していたから。トリエルが居た遺跡に行けなかったのも、遺跡がどんな場所なのか理解に及んでいなかったからだ。

 キヴォトスに訪れたばかりで何処に何があるのか微塵も把握していない今、近道を使えば何処にワープするのかなんて知ったもんじゃない。仮に後ろの追手のド真ん中にでもワープすれば…それこそ一巻の終わりだ。

 

 だが幸いなことに、気づけば人混みが多い市街地まで来ていた。身長が低いオレなら、人混みに紛れるのは容易い。

 

「………今だ」

 

 

「…目標を見失いました!」

「それほど遠くには行っていない筈だ!捜索を続けろ!!」

 

「ハァ…マ、マジ…で…キツいぜ…」

 

 何とか追手からの追跡を振り切ったはいいものの、今まで蓄積していた疲労が一気にのし掛かり、立ち上がる事も出来ずに路地裏で座り込んでいた。ふと携帯を見ると、モモトークのグループトークにオレを心配する趣旨のメッセージが大量に送られている事に気づく。

 

「サンズさん、大丈夫ですか…?」

「…既読、付きませんね…」

「おじさん心配だよ〜…」

 

 …とりあえずは無事な事を伝えるべく、疲労でまだ思い通りには動かない指を動かしメッセージを送る。

 

「今ようやく追手を振り切った」

「皆は何処にいるんだ?」

 

「!!よかった、無事だったんですね!」

 

 幾つかのやり取りの後、合流地点はちょうどこの先にある橋に決まった。体力も幾分か戻り、皆と合流する為に立ち上がろうとしたその瞬間だった。

 

 

 

「…!目標発見!動くな!!」

 

 

 

 ……迂闊だった。メッセージを送る事に集中して追手の存在に─────

 

「ぐあぁっ!?」

 

 撃たれる。そう思い目を瞑り、黒く染まった視界に響く銃声。だが撃たれた感覚はしない。何が起こったのかと目を開けてみると…

 

 

 

「…大丈夫?」

 

 

 

黒いパーカーを着た少女がそこには居た。

 

 

「……ふぅ、助かったよ」

 

 路地裏なんて陰気臭い場所で話すのもと思い、オレ達は路地裏を出て、近くにあったコンビニの休憩スペースに居た。

 彼女と話すのは初めてだが見覚えがあった。ラーメン屋にアビドス高等学校…あぁ、思い出した。

 

「アンタ、確か便利屋の…」

「そう。よく覚えてたね」

 

 彼女の名前は『鬼方カヨコ』。今は訳あって便利屋に所属しているようだ。気づいていなかったがどうやらあの銀行には彼女達も居たみたいだ。

 『アウトローさ』に憧れを抱いた社長が逃亡しているオレ達を追いかけている最中に、オレだけが違う方向へ逃げているのを見つけた彼女が探しに来たらしい。

 

「…前から聞きたかったんだけどさ、あなた、ここらじゃ見ない顔だよね。何処から来たの?キヴォトスの外から?」

「…『外』という点では合ってるかもな」

 

 彼女にキヴォトスに来た経緯を話す。目が覚めたら元の世界からここに居た事、路頭に迷っていたところを先生、そしてアビドスの皆が手を差し伸べてくれた事。対策委員会に所属しているのは、彼女達に恩を返したいからだと。

 

「へぇ…大変だったね。…でもさ、私にそんな事話して大丈夫なの?私達は一応…敵対関係にあるんだしさ」

「まぁ、そうだな。だけどそれはアンタにも言える事だ。敵対関係にあるオイラの身を案じて追いかけてきてくれた上に助けてくれた」

「間違いなくアンタは、良い人だ」

 

 オレの言葉に、カヨコは面を食らっていた。

 

「…どうした?」

「…いや、誰かにそういう風に言われる事は滅多に無いから驚いただけ。…あと皆と合流するんでしょ?こうしてのんびりしている暇は無いんじゃない?」

 

 確かにそうだ、と思い立ち上がる。

 

「そうだったな。…んじゃ、今回はありがとよ。今度何か奢らせてくれ」

「うん、じゃあね。…近いうちに、また会うと思うけど」

 

 カヨコに別れを告げ、コンビニを後にすると皆を待たせる訳にはいかないと合流地点まで急いで向かう事にした。

 その後は何事も無く皆と合流。目的の書類も無事入手出来ていたようで、トラブルはあったが作戦は成功といったところか。…この作戦自体がトラブルの塊なのでは?と思うが。

 …そういえば書類を入手する経緯で手に入れてしまった、大量の札束はどうするのかと聞いてみれば。

 

「たとえ悪人のお金と言えど、あんな方法で入手したお金を使う訳にはいかないからね〜」

 

というホシノの考えによって捨てる事にしたらしい。オレもそれには賛成だ。

 ……学校に到着すると、肝心の札束が入っていたバッグを忘れていた事に気づいたのだが。

 

 

 書類は入手したが、だからといって問題が解決した訳ではない。むしろ更なる問題が浮き彫りになってきた。

 彼女達の返済金は闇銀行を通じてヘルメット団の資金源となっていた事が判明し、あの銀行を経営している『カイザーコーポレーション』なる企業が深く関わっているという。

 

 

 

 …骨の折れる日常は、まだ続くみたいだ。

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