Blue Archive: Visitor From Underground   作:暗黒星 堕零

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サイアクな一日?

 まさかの銀行強盗から数日後。危うい場面は何度もあったが、何故か奇跡的に正体は全員判明しておらず、オレ達は今まで通りの学園生活を送れていた。

 とは言っても今日は休日。住み込んでいるシャーレで先生の業務を手伝い、一通り終えたところでアビドスにやって来た。オレとは別に用事がある先生とは駅で一旦別れ、昼頃…つまりランチにはちょうど良いという事でとある場所に訪れていた。

 

「いやぁ、初めて来た時に比べたら箸の使い方、かなり上手くなったんじゃない?」

「皆に散々、教え込まれたんでな」

 

 ミソの濃厚な香りが食欲を唆る。オレは今、この世界に来てから色々と世話になっている柴関ラーメンで空腹を満たしていた。

 ここは定期的にサービスしてくれる上に値段は安く、シャーレから所持金は支給されているものの無闇に散財は出来ないオレにとって、まさに理想の場所だ。

 

「しっかしブラックマーケットの闇銀行を襲撃するなんて、度胸のある奴もいるもんだよ」

「…ま、まぁ、そうだな」

「しかも中には数十人の追手を振り切った奴もいたんだってね?もはや賞賛の域に値する、ってやつだね!」

「………」

 

「…あぁ」

 

 他に客も居ないのでカウンター席で店主と話していると、後ろの入り口がガラガラと開く音が聞こえる。どんな客が来たのかと体を傾けて見てみると、視界に映ったのは頭の一対の角に高価そうなコート。…彼女だ。

 

「また来たわよ!店主!!」

 

 社長の快活な声と共に便利屋68のお出ましだ。構成しているメンバーも勢揃いでやって来た。ここ最近は何かとよく遭遇する。…また良からぬ事でも目論んでいるのだろうか。

 しかし彼女達は特段何かをする訳でもなく、盛りに盛られたラーメンを前に満面の笑みを浮かべていた。ただ食べに来たのならわざわざ関わる必要も無いだろう、そう思い自分のラーメンを食べ始めた。

 そうして店主と何気ない会話を繰り広げている中、耳を疑いたくなるような言葉が聞こえてきた。

 

「それって……こんなお店はぶっ壊してしまおうってことですよね、アル様?」

「(…はっ?)」

 

 物騒な言葉が耳に飛び込んでくる。流石に聞き間違いだろうと再び振り返るが、紫を基調とした服を身に纏う少女は何処から取り出したのか、如何にも怪しい装置を握っていた。

 

「良かった、ついにアル様のお力になれます」

 

 恍惚とした表情でそう呟くと、少女は───

 

「やめっ……」

 

何の躊躇いもなく、スイッチを起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲホッ……ゲホッ……」

 

 土煙が辺りを覆い尽くす。生存本能で無意識のうちに出した骨の防壁によって負傷こそしていないが、辺りを見回してみると上空には青空が広がり、足元には瓦礫が散乱、そして側で気を失っている店主が居た。余りにも突然過ぎる出来事に、この短時間で何が起きたのか理解が及ばない。

 数分前に何が起こったのか、混乱する頭を必死に働かせ記憶を辿る。

 

「(確か、オレが最後に見たのは…)」

 

 少女が謎の装置を取り出し、彼女以外の全員が慌てふためく中スイッチを起動。眩い閃光が店内を埋め尽くしたかと思えば、猛烈な爆風がオレ達を襲った。

 …爆弾だ。爆弾を使われたんだ。

 

「…あの野郎」

 

 それを理解した途端、怒りが込み上げてくる。悪人を気取っているだけでその内面は善人だと思っていた自分が馬鹿だった。こうして油断したところで邪悪な本性を明かす極悪人だ、と。

 …ようやくアビドスの皆や先生の優しさに触れ、信じる事の大切さを思い出したばかりなのに。だから人間は信用出来ないんだ。

 まだそこまで時間は経っていない。店主を安全な場所へと移し、便利屋の連中を探す。

 

「とっ、当然でしょう!冷徹無比!情け無用!金さえ貰えれば何でもオッケー!それがうちのモットーよ!」

 

 

 

「おい」

 

 見つけた。周囲に骨を出現させ自身の存在を示す。オレの姿を見た社長はあからさまに動揺していた。

 

「お前ら、何のつもりだ?」

「あっ…うっ…」

 

「…こっ、これで分かったでしょう、アビドス!私がどんなに……」

「申し訳ないとは思わないのか?」

「えっ…?」

 

 彼女は何かを言おうとしていたが、怒りで自然と口から漏れた言葉によってそれは遮られた。

 

「一文無しだったお前らに様々な施しを与えてくれた恩を仇で返すのか?」

「わ、私は悪党で…」

「幾ら悪党と言えど、限度ってもんがあるよな?」

 

 こちらが歩みを進める度、彼女達は後ずさっていく。完全に顔が青ざめている社長を見て、一部のメンバーは呆れ顔を浮かべていた。

 

「心が痛まないのか?何故誰も得しない事をするんだ?」

「そっ、そんなつもりじゃ……」

 

 …そしてついに罪悪感に耐えかねたのか、社長はペコリと頭を下げた。

 

 

 

「……本っ当に、申し訳なかったわっ!!!」

 

 

 

 双方共に落ち着いた辺りで、社長…『陸八魔アル』はこうなった経緯を話す。ついでにカヨコ以外のメンバーの名前も判明した。大きなバッグを持ち歩く少女は『ムツキ』、事件の発端となった少女は『ハルカ』という名前だった。

 どうやらアルの言葉を真に受けてしまった、彼女を盲信するハルカが事前に各地に設置していた爆弾を誤って起動してしまったらしい。とりあえずは故意で爆破をした訳ではないようで、信用出来ないと頭に血が上っていた己を自戒する。…なのだが…

 

「…いや何爆弾仕掛けてんだ!?正気か!?」

「ひぇぇぇっ!!すみませんすみませんすみませんすみません!!」

 

 流石に爆弾を設置している事については物申しておきたかった。

 …しかしだ。ここまで大規模な爆発が起きたのなら、爆発音は学校にまで届いている筈。それに加え、グループトークでホシノ以外の皆は学校にいるという趣旨のやり取りが。ましてやここはセリカのバイト先『だった』場所。この惨状を目の当たりにすれば───

 

「何……これ……」

「…あぁ」

 

 …既に危惧していた状況と同じく、オレ達の背後にはセリカ達が立ち尽くしていた。これから起きるであろう新たなトラブルを察知し内心頭を抱える。

 

「あんた達…!!よくもこんな酷い事を!!」

「待ってくれセリカ、これには事情が…」

 

 オレの存在に気づいたセリカが駆け寄ってくる。

 

「…サンズ!大丈夫!?怪我は!?」

「いや、オイラは大丈夫さ。だけど店主が気を失っていて…」

 

 店主を寝かせている場所を指差す。現在も彼女を支えてくれている者が気を失っている光景は、彼女の怒りという名の炎を更に燃え上がらせるのには充分過ぎる燃料だった。

 

「…あんた達、許さない。ぜーったいに許さないから……!!」

「頼むセリカ、話を」

「サンズは下がっていて!私、あいつらを叩きのめさないと気が収まらない!!」

「待ってくれ、臨戦体制に入らないでくれ」

 

 セリカの歩みは止まらない。非力なオレが止められる筈もなく、ズルズルと地面を引きずられていく。

 

 

 

「…お願いだから、オイラの話を聞いてくれ!!」

 

 

 

 …その後、遅れて駆けつけた先生とオレによる必死の説得によって衝突はギリギリのところで回避。無論爆破したという事実は消えないが、故意ではない事をどうにかして伝えた。…案の定、セリカは納得していなかったが。

 

「……いや何爆弾仕掛けてるのよ!?正気!?」

 

 うん、それオレも思った。

 

 店主は外傷こそ無いものの未だに意識は戻らない。先生が呼んだ救急車によって病院へと運ばれていった。無事だと良いんだが。

 

「じゃ、じゃあ今回はこの辺りで…お騒がせしたわね…」

 

 あくまで衝突を回避出来ただけで、アビドスと便利屋の蟠りが解消された訳ではない。敵意に満ちた目で睨みつけるセリカに気まずさを感じたのか、便利屋はそそくさとその場を後にしようとした───瞬間だった。

 

 

 

ドッカーーーーーーーン!!

 

 

 

 突然の爆撃が彼女達を襲う。直撃した便利屋の面子は散り散りに吹っ飛び、気絶してしまった。

 

「次から次へと何なんだよ…?」

「…兵力の所属、確認出来ました!!」

 

「ゲヘナの風紀委員会です!」

 

 アヤネからの情報に皆は驚愕する。…と言っても、まだキヴォトスの組織についてそこまで把握していないオレは、その『風紀委員会』の脅威を余り理解していなかった。

 

「…どんぐらいヤバいんだ?その風紀委員会ってのは」

「…ゲヘナの風紀委員会は、数多く存在するキヴォトスの組織の中でも『最強』と謳われています」

「ちょうど今現在接近している…一個中隊の規模を動員させる事も造作も無いと言われています」

 

 成る程、と心の中で納得する。だがそれだけで『最強』と呼ばれるものだろうかと思っていたが、すぐに答えはアヤネの更なる情報によって明らかとなる。

 

「そして最大の理由は…トップに君臨する委員長、『空崎ヒナ』の存在です」

「彼女一人でゲヘナの区域で暴れていた不良グループを一瞬にして壊滅させた…なんて実話もあるんです」

 

 ようやくその脅威を理解する。軍隊が強けりゃそれを統括するトップも強い組織。強くない方がおかしいって話だ。

 

 だが巻き込まれかけたとは言え、攻撃の矛先は便利屋のみ。以前に便利屋は指名手配されていると聞いた覚えがあるので、恐らく大きな騒ぎを起こした事で捕えに来たのだろう。オレ達と敵対する事は恐らく無い筈…

 

 

“セリカとノノミは骨に隠れて待機!シロコはドローンをお願い!”

「ん、分かった」

“サンズは支援を続けて!”

「任せておけ」

 

「…ハァ、どうしてこんな事に…」

 

 …浅はかな考えだった。被弾を防ぐ為の骨の防壁の中で溜め息をつく。

 今オレ達は、先程までのオレの考えとは正反対に風紀委員会と衝突していた。アビドスの自治区で風紀委員会が許可も無く戦術的行動を行った…などの理由で戦闘は始まった。

 数は圧倒的にあちらの方が上で、かつホシノは不在。それらが相まって一時はどうなるのかと不安だったが、先生の巧みな指揮とオレの骨によって被弾は最小限に抑えられている事で、戦況はこちらが有利な状態にあった。

 シロコのドローンによる爆撃、ノノミのガトリングが一掃し、セリカの隙を見せないリロードから放たれる正確な射撃、ついでにオレの骨。気づけば風紀委員会の殆どが地面に伏していた。

 

「な、なに?!私達が負けただと?!」

 

 対策委員会の面子が狼狽えている銀髪の少女と眼鏡の少女を取り囲む。彼女らが風紀委員の連中を統一しているのだろう。

 

“久しぶり、チナツ。”

「先生…こんな形でお目にかかるとは……」

 

 先生が眼鏡の少女に親しげに話しかける。

 

「…知り合いだったのか?」

“まぁね。サンズが来る前に色々とあって…この話はまた今度話すよ。”

 

 驚くことに眼鏡の少女『チナツ』と先生は面識があったようだ。

 

「…そちらの方は…?」

“この人は『サンズ』。私の友達だよ。”

「よっ、眼鏡の嬢さん。オイラはサンズ、スケルトンのサンズさ」

「スケルトン…?あっ、私はチナツと申します。よ、よろしくお願いします…」

 

 チナツは物珍しそうな表情でこちらを見る。そりゃそうだろうな。動いて喋る骨が目の前に居るんだし。それを踏まえて考えると、オレを拒絶せずに受け入れてくれたアビドスの皆には感謝しかない。

 兎にも角にも、超法規的組織やらと呼ばれているシャーレを代表する先生の知り合いが居るんだ。今回のトラブルは早急に解決出来るだろうとオレは安堵した。

 …そう物事が、上手くいく訳もなかったが。

 

 

“セリカとムツキはそのまま前進!”

「もうっ…どうして店を爆破した相手と一緒に戦ってるのよ…」

「くふふっ、困った時はお互い様だよね?」

 

“カヨコはノノミの弾の装填が完了するまで注意を逸らして!”

「任せて。…誰かから逃げるのは、慣れてるから」

「お願いします〜♧」

 

“シロコとハルカは…”

「戦車を破壊。これで3台目だね」

「うわぁぁぁ!!!倒れてください!倒れてください!倒れてください!」

“…そのままで大丈夫そうだね。”

 

“サンズとアルは進行を食い止めて!でも無理はしないでね!”

「任せてちょうだい!」

「………あぁ」

 

「…どうしたの?もっ、もしかして私と一緒に戦うのが嫌…!?」

「違う、アンタは気にしないでいい」

「………」

 

「…どうしてまた戦う羽目になってんだ…!」

「ひゃあぁっ!?」

 

 一体予想は何度外れるのだろうか。今のオレ達は何故か便利屋と協力し、続々と現れる風紀委員達を相手取っていた。

 こうなってしまった経緯を話せば…長くなるから所々を抜粋して話すとするか。まずあの後通話越しに現れたゲヘナの行政官『天雨アコ』が便利屋の引き渡しを要請してきた。とは言えこちら側も便利屋を必要とする理由がある事から交渉は決裂。

 それを見越していたのか、アコは特に慌てる事なく待機させていた風紀委員を出動…した筈が、そこに現れたのは───

 

「許さない!」

 

 …と、怨嗟の言葉を発しながら己の本能のままに銃を発砲し、殴り倒し、爆弾を爆発させ、鬼気迫る表情で風紀委員達をなぎ倒すハルカの姿。

 そこからなし崩し的に他の便利屋の一員も集い、カヨコの推測からアコの目的がまさかの先生の誘拐と判明。未だにこの世界の価値観に馴染みきっていないオレは顔を顰め、何なら生徒の行いは基本的に肯定するだろう先生も苦笑いを浮かべていた。やっぱりおかしくないかこの世界?

 あれやこれやとしている内に、いつの間にかここ一帯は待機していたであろう大勢の風紀委員に包囲されていた。このままいがみ合っている訳にもいかないので、風紀委員会を撤退させたいという利害が一致したアビドスと便利屋は一時的な共闘関係を結び、今に至るのだった。

 

「いざ味方になるとあなたの骨、とても頼りになるわね?」

 

 骨に身を潜め、緻密かつ強靭な狙撃によって風紀委員達を次々と倒していくアルが話しかけてくる。

 

「皆からよく言われるよ。…しっかしアンタも頼りになるな?中々の実力者じゃないか」

「あっ…当たり前じゃない!私は便利屋68の社長なのよ!!」

 

 如何にもな『悪役』らしい妖しい笑みを浮かべていたアルだったが、オレの言葉に一瞬にして顔が綻ぶ。…アウトローを目指しているらしいが、彼女ほどアウトローから程遠い存在も居ないだろう。所々の言動から善性が見え隠れしているのだから。

 そして彼女自身にも言ったが、アルの実力には目を見張るものがある。先生の指揮もあるがオレはサポート役に徹していて、実質一人で戦っている中特に苦戦する様子も無く風紀委員達を圧倒している。会社を設立し、個性豊かなメンバーをまとめ上げているだけの事はある。

 

「ふと思ったけどよ。店を爆破した事を素直に謝ってくれたのは有難いんだけどさ、悪いヤツを目指しているんだったら開き直れば良かったんじゃないか?」

「そ、それは…あなたが怖い顔をして詰め寄ってくるしあんな状況でそんな事を出来る訳がないでしょう!?」

「……やっぱアンタ、根が真面目だな」

 

 その後も迫り来る風紀委員達を迎撃し、オレ達を筆頭に各地から部隊を全滅させたとの報告が続々と届く。

 …だが、増援が止む事は無く、倒しても倒しても次々と新たな軍勢が。オレは勿論アルも、通信を通じて聞こえる皆の声からも疲れが見え始めた。

 

「ぐぅっ…」

「…だ、大丈夫!?何処か撃たれたのかしら!?」

「魔力の…枯渇だ」

 

 連戦に次ぐ連戦により魔力が枯渇、視界が揺らぎ体制を崩しかけたところをアルが支えてくれた。

 

「…これはもう、アコの権限で動かせる兵力を超えてる」

 

 通信機越しのカヨコが呟く。

 

「それは…どういう事だ?」

「言葉通りの意味だよ。つまりはこの襲撃は、アコの独断じゃなくて、まさか…」

「……風紀委員長が?」

 

 風紀委員長。その言葉を聞き「マジかよ…」とため息混じりに呟いてしまう。この状態で圧倒的な力を誇るという風紀委員長が現れれば、間違いなくオレ達は敗北するだろう。

 …それでもまだ、引き下がる訳にはいかないんだ。再び立ち上がり、戦闘を再開しようとしていた中だった。

 

「ひ、ひ、ヒナ委員長!?」

 

 アコのひどく動揺した声が聞こえてくる。そして動揺しているのは彼女だけではない、その場に居る誰しもが『委員長』という言葉に驚愕していた。

 まさか、と思い市街地の中心部へと視線を向ける。

 

 

 

「………」

 

 

 

 …そこには先程までは居なかった、冷酷な眼差しで風紀委員会を睨みつける一人の小柄な少女が佇んでいた。

 

 

 

──────────────

 

 

 

 突如として現れた風紀委員長。敵を迎撃する為に各方面に散らばっていた皆が、事態を把握する為に市街地の中心部へと集まってきた。その中には便利屋も…と思っていたが、いつの間にか姿を消していた。逃げ足が早いのか、危機察知能力が高いのか…

 

“あれが…”

「…風紀委員長の、空崎ヒナか」

 

 ───全身から冷や汗が流れ出るのを嫌でも感じる。オレとの距離は離れているのにも関わらず、小さな体に秘めている絶大な力と存在感がひしひしと伝わってくる。

 泥沼化している戦いに終止符を打ちに来たのだろうか、そう思い身構えるが、何やら様子がおかしい。オレ達に銃口を向ける事は無く、通信相手であろうアコを叱責しているのが見える。

 

「………」

「じゃあ、改めてやろうか」

「…どうしてその考えに至るんだ?」

 

「ま、待ってください!ここは下手に動かず、一旦交渉するのが吉です!どうしてそんなに戦うのが好きなんですかっ!」

「……ご、ごめん」

 

 通信を終了し、ヒナがこちらを向いた事を戦闘の合図だと読み取ったのかシロコが銃に手をかけようとする。それを見たオレ達が必死にシロコを制止している中、アヤネがヒナとの交渉を試みる。

 彼女は風紀委員会側に否がある事を認めたものの、こちら側が風紀委員会の公務を妨害した事も事実ではないか、と問いかける。

 

 …確かにそうだ。元はと言えばこの争いは、便利屋を捕らえに来た風紀委員会にアビドスが反発したのが始まりだった。何も言えなかった。

 それに今は先程まで居た便利屋も姿を消し、兵力も依然としてあちらの方が上。そして極みつけに最大戦力のホシノが不在という圧倒的に不利な状態。強く言い出せるような状況ではなかった。

 今からでもいい、ホシノが来てくれないか、と望みの低い賭けに祈ろうとした瞬間、馴染みのある声が背後から聞こえてきた。

 

 

 

「うへ〜、こいつはまた何があったんだか。凄い事になってんじゃ〜ん」

 

 

 

 …どうやら賭けは、当たったみたいだ。

 

 

「ごめんごめん。ちょっと昼寝しててね〜、少し遅れちゃった」

 

 申し訳なさそうな顔をしながらホシノはゆらゆらとこちらに向かってくる。

 

「昼寝ぇ!?こっちは色々大変だったのに!ゲヘナの奴らが……!」

 

 セリカは怒りを露わにする。彼女の性格についてはこの数週間で大体は把握している。基本的に怠けているし面倒な時は仕事を誰かに押し付けようとするが、いざという時には頼りになる存在だ。きっとこういう事が、オレが来る以前にもよく起きたんだろう。

 …『大体』と言ったのは、ホシノがただの怠け者とは思えないのが理由にあった。ここに住む少女達には頭上に実体の無い輪っか、『ヘイロー』があるが、それは睡眠時や意識の無い時には消える。何度も彼女が眠っている様子は確認しているが、消えている事は一度も無かった。

 

 そして以前学校を探索している最中に発見した…いや、発見してしまった、彼女が仮眠を取る場所を。修復された箇所が見えるポスターに、誰かと仲睦まじそうに(今改めて思い出すと写っていたホシノは怪訝な顔をしていた気もするが)並んでいる写真。…恐らく過去に何かが起こり、今現在の怠け癖のある性格になったのではないのか、と。

 断言は出来ない。…それでも何故か、そうだと思ってしまう。本来の自分を隠し通し、己を欺き続ける。以前から感じていた、何処かで見た事のある雰囲気。

 ……あぁ、ようやく分かった。

 

 

 

 ───他でもない、オレだ。

 

 

 

 …いや、今はこんな事を考えている暇は無い。ホシノがやって来たとはいえ、まだ問題は解決していない。目の前に居るゲヘナの風紀委員長をどうするべきか…と思っていたが、彼女はホシノと幾つかの会話を交わした後、なんと撤収の準備を始めた。

 

「アンタ、過小評価していた訳じゃないが…中々凄いヤツだったんだな」

「ん〜?おじさんは別に何もしてないよ?」

「昔はちょっとヤンチャしていた時期があったんだけど、それが風の噂で流れてきたのかもね〜」

 

 ホシノと会話している内に、風紀委員会は既に撤退を完了していた。先程までの激戦が嘘のように誰一人としておらず、瓦礫と兵器の残骸のみがその場に残されていた。

 今日は一旦のところ解散、後日改めて話し合う事にした。…彼女らが去る直前に、ヒナが先生に何かを伝えていたのが気になったが。

 

 

 翌日、まずオレの耳に飛び込んできたのは、便利屋が事務所を引っ越すという知らせだった。

 銀行強盗の追手を撃退してくれたカヨコは勿論、対風紀委員会で共に戦ってくれた恩もあるので、一応先生と共に見送りに行く事にした。

 

「で、どうしてアンタらはここを出て行くんだ?風紀委員会にでも居場所がバレたのか?」

「そ、そうね…でも別に怯えてるって訳じゃないから!!」

 

「それにねー、ここって賃貸だから賃貸料が必要なんだけど、お金がないから払えないんだよね!」

「ちょっ…それだけは言わない約束でしょう!?」

「…良くも悪くも、アンタららしいな」

 

 一連の会話でオレ達が置いていったバッグは便利屋が回収していた事も判明した訳だが、どうやら使ったのは食事代等の僅かな金額だけ。残りは全てラーメン屋の再建費の為に店の跡地に置いてきたらしい。…彼女達の性質を考えると、だろうとは思ったよ。

 永遠の別れ、みたいな雰囲気を醸し出していたが、きっと…いや、ほぼ確実に彼女達とはこれからも関わっていく事だろう。

 荷物を積んだトラックが走り去り、空となった事務所を名残惜しそうに時折振り返りながらとぼとぼと去っていく便利屋を見て、そう思うのだった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

 次に道中で合流したセリカとアヤネと共にオレ達が訪れたのは、とある病院の病室。まぁいつぞやの便利屋の誤爆に巻き込まれてしまったラーメン屋の店主の見舞いに来たって訳だ。

 特にこれといった怪我は見当たらず、体調も健康そのもの。無事そうで何より…と思うのも束の間。

 

「実は…前から退去通知を受け取っていてね…」

「退去通知って…そりゃどういう訳だ?」

 

 店主の口から話されたのは、以前からアビドスに居たセリカ達でさえ知り得なかった事。

 数年前にアビドスの生徒会が借金を返しきれなかった事で、とある企業に土地の所有権が移ったという。そしてその『とある企業』。先生も、セリカ達も、オレも既に大方は察していた。

 …カイザーコーポレーション以外にあり得ない、と。

 

 

 店主との会話を終え、オレ達は不安な気持ちを抱えながら学校へ訪れた。校門前にはノノミとシロコが居たが、シロコは何かに思い耽ったような表情で、軽い挨拶を交わしただけで校内に入っていった。

 その後ノノミと話したのは、先生が来てから様々な変化が訪れたという事。初めて顧問の先生ができ、長年のヘルメット団との戦いに終止符を打ち、サンズ(オレ)という新入生がやってきた事。…勿論風紀委員会といった他校との対立や、カイザー社とかのお世辞にも良いとは言えない変化も起きた訳だが。

 

「すみません、暗いお話をしてしまいました。それでも私達はアビドスの為に進むしかありませんし……先生も、一緒にいてくださいますよね?」

“当たり前だよ。”

「無論、オイラもな?後輩として、全力で先輩方をサポートしないとな?」

 

 オレ達にはまだ『明日』がある。気を引き締め、対策委員会の教室へと向かってる最中、何処かから声が聞こえてきた。

 

「……いつまでしらを切るつもり?」

 

 付近の空き教室からシロコの声が聞こえたかと思えば、物が思い切り倒れたような音が辺りに響く。

 

「…侵入者か?」

 

 オレの言葉を皮切りに、辺りの空気は一瞬にして緊迫感に包まれる。いざという時の為に武器を整え、慎重に音が鳴った教室の扉を開けた。

 

「……嘘つかないで」

「嘘じゃないって〜……ん?」

 

 視界に飛び込んできたのは、机や椅子が散乱した教室の中央で、ホシノを睨みつけるシロコの姿。

 …また新たな変化が、起きた。




当時この話を書いた直後に気づいた事ですが、砂祭りのポスターやユメ先輩との写真が飾られている場所は学校の仮眠室ではなく普通にホシノの自宅だったんですね…
物語の展開上申し訳ありませんが、この世界では仮眠室にある事にして頂きたい次第です…
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