Blue Archive: Visitor From Underground   作:暗黒星 堕零

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ホシノは戻ってきたが、借金は残ったまま。
そこでサンズが考えたのは…?


ボーンっと驚く新事業

 カイザーとの戦いは、無事アビドスの勝利となった。ホシノはオレ達の元へと戻り、事の発端である理事は解雇され指名手配犯として追われる身となったという。

 対策委員会は先生の公的な認証によって、アビドス高等学校の正式な委員会として承認された。オレ達はその生徒会長にホシノを推薦したのだが、案の定というか拒否された。…まぁ彼女らしいな。

 オレが気がかりだった理事によって異常なまでに上げられた利子については、以前よりも遥かに少ない利子の支払いで済む形となった。

 何もかもがハッピーエンド…かに思われたが、それは間違いだった。

 

「うーん……」

 

 仮住まいとしているシャーレの居住区にて酷く悩んでいた。理由は多々あるが、主な理由を挙げるとするならば…

 

 

 

 あまりにも、何もしてなさ過ぎる事だ。

 

 

 

 無くなったのはあくまで不当に上げられた利子。利子自体はこれからも払う必要があるし、借金もまだまだ残っている。

 先生とオレが来た事でアビドスを取り巻く環境は格段に改善したが、根本的な問題は解決していない。

 そんな借金を返す為に、例えばセリカは屋台としてリニューアルオープンした柴関ラーメンを中心に日夜バイトに明け暮れ、ホシノやシロコは指名手配されている犯罪者を捕える…所謂『賞金稼ぎ』を行っている訳だが、肝心のオレは何もしていない。

 体力も力も無いオレがバイトをしたところで何の役にも立たないだろうし、見慣れないスケルトンが居る事で客が寄り付かなくなる可能性もある。

 なら賞金首狩りをしようと思った訳だ。ブラスターと重力操作が再び使えるようになり以前よりも戦えるようになったと意気込んだのだが、ホシノ達から真っ向から反対された。「戦闘中の被弾や、残党からの報復の事を考えると銃弾一発でアウトなオレには向いていない」…という。

 

 じゃあ今は何をしているのかというと、学校に訪れては学内に溜まった砂を掃き砂による汚れを掃除している。

 皆からは「ありがとう」と感謝され、この行為に意味はあるものだと思う反面、借金問題に何一つ貢献出来ていない自分に嫌気が差してきた。何かをしなければという焦燥に駆られていた。

 

「漫才…はアヤネに拒否されたしな…」

「オレがすべき事は…」

 

 今のオレには何が出来るのか、必死に考えを捻り出そうと室内を歩き回る。だがこういう時に限って何も思い浮かばないのは、悪い意味で定番となってしまっている。

 …このまま悩み続けても時間が無駄に過ぎるだけ。そう思い休息として冷蔵庫に常備しているケチャップを取り出したその瞬間、待っていましたと言わんばかりにある考えが頭の中に降り立ってきた。

 

「……ケチャップ、か」

「ケチャップ…オレが元居た世界でしていた事…」

 

「……一か八か、試してみるか」

 

 正直『コレ』が成功するかの確証は無い。だが何もせずに空虚な日々を過ごす事と比べたら遥かにマシに決まっている。

 そうと決まれば即行動だ。ワイシャツに着替えアビドスのネクタイを締め、パーカーに袖を通すと、シャーレの居住区を後にするのだった。

 

 

「試食を……」

「してほしい、ですか?」

 

 あれから数週間後、オレは対策委員会の教室にてとある食べ物を皆に用意していた。

 柔らかなパンの間にレタスと食欲を唆る焼き目が付いたソーセージが挟まり、ケチャップとマスタードが彩りを飾る…

 

 ───そう、『とある食べ物』とはホットドッグの事だ。

 

 オレは元居た世界では各所で見張りを兼ねつつホットドッグを売っていた。ごく普通のパンにごく普通のソーセージを挟んだ、ごく普通のホットドッグだったが評判はそこそこ良かった。

 稼いだ金は趣味か何かにでも使おうと思っていたのだが、今改めて考えるとオレに趣味と言えるものは無かった。せいぜい石にチョコスプレーを与える事ぐらいだ。……まぁ、どちらにせよ最終的にはリセットされて全てが無意味に…

 …おっと、これ以上考えるのはやめだ。勝手に悪い方面へと話を進めて、勝手に暗くなるのはオレの悪い癖だ。今はホットドッグの話をしてるんだからな。

 

「それにしてもいきなりだねー。サンズ君は何をしようとしてるの?」

「良い質問だ。オイラが目論んでいるのは…ホットドッグ屋の開店だ」

 

 オレの言葉を聞き、その場に居た皆が驚愕する。まぁ無理はない、この事を知っているのは先生と一部の業者だけだからな。

 

「そんな事を秘密裏に進めていたなんて知りませんでした…」

「ち、因みにお店の場所も既に決めていたり…?」

「勿論だ。ここに決めたよ」

 

 店の位置を示す地図と店の外観の写真を見せる。場所は少々大雑把だがアビドスの市街地から少し離れた所にあり、見た目としては「Sans」と大々的に描かれた看板が印象的な店舗の隣にオレが住む住居がある…という感じだ。…オレ一人が住むにしては大き過ぎるような気もするサイズだが。

 肝心の店が入る建物をどう入手したかにだが、それについては少し前に遡る。この発端となったホットドッグ屋を開く事を思いつきシャーレの居住区を後にしたあの日、最初にオレが訪れたのは先生の元。

 わざわざ隠す必要は無いだろうし、こういう時に頼りになるのは信頼出来る大人だからな。そんな訳で先生に自身の計画を話すと───

 

“良いね!私も応援しているよ!”

 

 と、相変わらず仕事に明け暮れていたにも関わらず笑顔で後押しをしてくれた上に、シャーレから援助をすると宣言してくれた。毎度の事先生には助けられる。

 先生の了承を受け、一安心したオレはまず店の経営に何が必要かと悩んだ結果店そのもの、つまり『店舗』が要ると考えた。

 最初は無難に人がよく集まるシャーレ周辺の市街地に位置する所にしようかと考えていた。しかしアビドスの皆に恩返しをするのならばアビドスに店を置くのが得策だろう。

 そうして探している内に皆に『テナント募集中』と書かれた貼り紙が貼られた、皆に写真で見せた建物が見えてきた…が、初見時の正直な感想としては『汚い』だった。所々に砂が溜まり、砂塵によって窓が酷く汚れている有様だ。

 だが即座に汚れの原因の大半は砂で建物自体はかなり真新しい事に気づく。少なくとも建てられてから5年以上は経過していないだろうと推測した。

 

 早速貼り紙に記載されていた電話番号にかけ、出てきた担当者に利用したいとの趣旨を伝えると開口一番「本当ですか!?」と驚かれた。

 担当者曰く数年前に建築を開始、無事完成はしたものの定期的に発生する砂嵐に加えアビドス校が抱える借金による地域のイメージ低下によって住民は次々と去っていき、オレが発見するまでに誰も使おうとしなかったらしい。

 このまま誰にも使われずに朽ちていくのなら使って貰える人に無料で使って欲しい、との事だった。

 多少の金額は発生するだろうと思い込んでいたところに入ってきた『無料』という言葉。こんな破格を超えた破格の提案を飲まない訳が無く、オレは勿論了承。その後はパンやソーセージ等を製造する業者と交渉の末に成立、内装やら店を象徴する看板を作るなどをして今に至る訳だ。…今まで怠けていた分、かなり疲れたけどな。

 

「まぁオイラが今まで何をしていたかなんて聞いても別に面白くも何ともないしな。早速食べてみてくれ」

「あと余計なお世辞は要らないぜ?率直な感想を聞かせてほしいんだ」

「勿論よ!先輩としてしっかり批評しないとね!」

 

 セリカを筆頭に皆が次々とホットドッグを口にする。その瞬間、皆が一斉に感嘆の声を上げる。

 

「何これ…めちゃくちゃ美味しい…!!」

「あまりホットドッグを食べた事が無い私が言うのもですが…今まで食べたどのホットドッグよりも美味しいです…!」

「私もアヤネに同意」

「パンもソーセージもレタスも、どれも本当に美味です♪」

「凄いね〜…おじさん驚いちゃった。サンズ君才能あるよ〜」

 

 その場に居る皆が絶賛する。この美味さの理由はそれぞれの食材に高級品を用いている訳でも、何か特別な調理法をしている訳でもない。ただ一つ、他と違う点を挙げるとするなら。

 

「(『魔法』を使っている事、かな」

 

 オレ達モンスターは魔法を使える。オレが骨を出せるのも、ガスターブラスターを扱えるのも全て魔法だ。とは言っても魔法は攻撃のみならず様々なものに転用出来る。

 電化製品に魔力を流せばプラグに繋がなくとも稼働するし、魔力を宿していても実体が無い存在…ゴーストが物体に憑依すれば自由自在に動かせる。

 食べ物に対しても同様だ。食べ物に魔力を流せばその食材の潜在能力が引き出され、まるで高級食材を用いているような…あるいはそれ以上の美味なものになる。オレが使ったのはそれだ。

 これは余談になるが、食材も全て一からモンスターが作れば更なる効果が得られる。例えばウォーターフォールに居た亀のガーソンが売る『ビチャビちゃ』は動く速度が増し、メタトンが運営しているホテルで売っていた『でんせつのヒーロー』なんて大層な名前を持つサンドイッチは力が強くなる。

 まぁ…ここまで言ったがオレはそこまで手間をかけたいとは思わないし、そもそも出来ないんだけどな。

 

「とりあえず皆からの評判は良さそうだな。…なら、皆に頼みたい事がある」

「ん、いいよ。後輩を助けるのが先輩の務め」

「ありがとさん。んじゃ、早速頼みたい内容を言うが…」

「オイラの店の宣伝をして欲しいんだ」

 

 オレの提案に皆は「もちろん!」と笑顔で快諾。そこからシロコとセリカはビラ配り、アヤネとノノミは店のホームページの作成、ホシノは…

 

「おじさん体力無いからビラ配りなんてしたら途中で倒れちゃうよ〜」

「私にホームページ作りなんて頼んだら、時代遅れの古臭いデザインになっちゃうよ〜?」

「……まぁアンタは以前の事もあるし、ゆっくり休んでくれても構わな…」

 

「…でもおじさん、強さにはそれなりの自信があるし、宣伝にはならないけど用心棒でもしよっかな?」

 

 何か高級なものを売る訳でもないのに用心棒なんて必要があるのか?と思ったが、よく考えると銃を所持している事が当然のこの世界では軽率に引き金を引く不良が来る可能性も考慮すると、確かに必要かもしれない。

 対策委員会の皆の協力に加え先生にも知名度を利用するようで申し訳ないが、SNSで1万人近くのフォロワーが居るシャーレの公式アカウントで作成した店のアカウントの拡散を頼んだ。これで誰一人としてオレの店の存在を知らない…という事態は起こらない筈だ。

 開店まではそこそこ長い期間があったが時の流れというものは早く、気づけば開店当日となっていた。

 

 

「ふぁぁ……」

 

 仕込みやらの準備をする為に早朝に起きる。既に居住地はシャーレの居住区から店舗の隣にある住居に移している。先生は「ここに居てくれても構わないのに」と言っていたが、いつまでも居候でいる訳にはいかないからな。

 

 一通りの準備を終え、開店時間まであと数十分となったところで外を見てみる。

 

「…こりゃ嬉しい誤算だな」

 

 店の前には行列、それも列の全貌が見えない程の大行列だ。急いで最後尾を示す看板を作り、用心棒として来ていたホシノにそれを持たせ、テレポートで列の最後尾に移動させ待機させた。

 いざという時に備えてホットドッグの材料は多めに発注している…が、在庫切れにならない事を切に願う。

 

 そうこうしている内に時計の針が開店の時間を示す。シャッターを上げ、朝日が店を照らすと共に歓声が上がった。

 

 

 

「開店の時間だぜ」

 

 

 

──────────────

 

 

 

 開店からの1時間はそれはもう忙しいものだった。客一人の注文を完了したかと思えばまた新たな客が、その客の注文を完了すればまたまた新たな客が…一日に二、三人来るか来ないかだった地下での商売とはまるで大違いだ。

 テレポートで何とか対応しているがこの作業量を一人でやるのは正気ではない。だが始めたからにはやり遂げなければならない。頑張るしか道は無いだろう。

 

 客の中には見覚えのある者達も来た。例を挙げるならば…

 

「ふふっ…どうやらあなたも新たなビジネスを始めたようね?」

「……大変そうだね、サンズ」

 

 アルを筆頭とした便利屋だ。この前のホシノ救出作戦に協力してくれた礼にサービスをするとアルは満点の笑みを浮かべていた。

 

「あはは…ビラを見て来ちゃいました」

 

 ヒフミもその内の一人だ。彼女にも協力の礼としてサービスしようとしていたのだが、頑なにファウストは自分ではないと主張するのでやめておいた。

 

「………キャットドッグ、一つ」

「はいよ」

 

「…ゲヘナの風紀委員長さんも来てくれてありがとさん」

「!?!?」

 

 …あの先生の足舐め事変から時折連絡するようになったヒナも来た。マスクやら地味な服装で変装しているつもりだったのだろうが、あの特徴的なヘイローによってすぐさま把握した。

 その他にも初めて見る学園の生徒や話題を聞きつけたテレビのメディアが訪れた。危惧していたように不良も周囲の客を押し退けながら来たが───

 

「営業妨害だよ」

 

とホシノが追い払ってくれた。…その時の彼女は普段の怠惰な雰囲気とは真逆の、冷酷な雰囲気を放っていた。

 午後には『美食研究会』を名乗る謎のグループも来店した。全員が提供されたホットドッグを絶賛し特に何もせずに帰っていったが…もし悪い評価だった場合、オレにとって良くない事が起こっていたに違いないと断言出来るのは何故だろうか…

 

 そんなこんなで何百人もの客を捌き、何百個ものホットドッグを売り…ふと外を眺めた頃には東から上ってきた太陽は既に西に沈み、街灯が暗くなった道を照らす時間帯となっていた。

 売り上げは当初の予想の2倍以上、大成功と言っても過言では無いだろう。

 

 

「お疲れ様〜サンズ君」

「ホシノもな。助かったよ」

 

 日が暮れ、訪れる客も疎らになったので店じまいに取り掛かる。今日一日世話になったホシノには謝礼として僅かに残った材料から作ったホットドッグを渡し、片付けまで手伝ってもらうのは流石に申し訳ないと思い先に帰ってもらった。

 店の前を通り過ぎる市民は居るが立ち止まる人は居ない。シャッターを下ろし、明日の営業に備えようとした瞬間だった。

 

「あ、あの……」

 

 背後から声が聞こえ振り返る。そこにはアクアブルーの髪色をした、帽子を被り巨大なリュックを背負った少女が居た。

 

「ビ、ビラを見て来ました…まだやってますかね…?」

「……あぁ。ご注文は何だ?」

 

 少女は指で「4」を示す。ちょっと待っていてくれ、と言い店裏に回るとちょうど4人分の材料が余っていた。

 待たせる訳にはいかないと自分でも驚く俊敏な動きでソーセージを焼き、パンにレタスとソーセージを乗せ、ケチャップとマスタードをかけ店の前で待っている彼女の元に持っていく。

 

「ほらよ。んじゃ、合計で……」

 

 合計金額を伝えようとした途端、少女の顔が真顔になる。彼女は急いで服のポケットやリュックから何かを見つけ出そうと漁っていたが、探し求めている物が無いと分かったのか表情がどんどん青ざめていく。

 

「あ、ああ……」

「……まさかアンタ、財布を…」

 

 無言でコクン、と頷く。最初に値段を言わなかったオレにも否はあるが、予想外の事態に内心頭を抱える。

 

「うわぁああああん!!もう終わりです……きっと私はお金を払えなかった事で今から劣悪な労働環境で働かされるんです……」

「待って、待ってくれ。オイラそんな事しないよ」

 

 泣きじゃくる少女を必死に宥めようとする。余計な事を言えば事態はより悪化するだろう。どうすれば良いかと頭を回転させる中、とある事を思いついた。

 

「なぁアンタ、またオイラの店に来る予定はあるか?」

「えっ…?それは……はい、私が居る場所は事情があってあまりここには来れないんですが、機会があれば…」

 

「…なら、次に財布を必ず持ってくると約束してくれ。約束してくれれば今回はタダでアンタにそれをやる」

 

 オレの言葉を聞いた少女の目に輝きが戻る。「勿論です」と再び頷きホットドッグを受け取ると、こちらに何度も頭を下げながら去っていったのだった。

 

 

 

「えへへ…世の中は全て虚しいですけども…たまには良い事もあるんですね…」

 

 

 

──────────────

 

 

 

 開店してからというもの、店には毎日大勢の客が訪れた。新規の客は勿論リピーターも増え始め、オレの事業は間違いなく成功したと言える。

 売り上げ金の一部をアビドスの借金返済に充てた影響か、対策委員会の皆の負担も減った。セリカは休める時間が、シロコは趣味のサイクリングが出来る暇が増えたと感謝していた。

 とは言え、オレが店を開けたのは皆の協力があってこそ。皆には感謝してもしきれない。アビドスの、対策委員会の一人として一日でも早く借金の無い平穏な生活にするべく決意を固めたのだった。

 

 

 そんなある日、営業を終え家でくつろいでいたオレの元に一通の電子メールが届く。宛先は先生。自分と共にとある学園の部活の手助けをしてほしいといった内容だった。

 そこに書かれていた学園の名前は。

 

 

 

 

 

「………ミレニアム?」

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