Blue Archive: Visitor From Underground 作:暗黒星 堕零
作りし者、作られし者
「ここで…間違いないな」
先生からメールが届いたあの日から早くも翌日。オレはとある駅前に居た。
メールを確認しそこから先生とモモトークで幾つかのやり取りを交わした後、朝にここの駅で待ち合わせをする事に決まった。
"サンズ、こっちだよ"
「ああ」
駅の構内に入り、1分程度歩くと先生がこちらに向けて手を振っているのが見えた。両者共に体調に問題は無い事を確認すると今日の目的地へと向かう電車に乗った。
「…なぁ、今更だがオイラまで出張る必要はあったか?」
"君は私、つまり先生の補佐だからというのもあるけど…別の世界から来た君にはこの世界の事をもっと知ってもらいたいからね。"
「まぁ…確かに知っておくに越した事は無いな」
今までオレが訪れたのはシャーレとアビドス、それにゲヘナ。数え切れない程の学園が存在するこのキヴォトスにおいて、オレが見てきたのはほんの一部分に過ぎないのだろう。
その後も先生が質問をしオレが返す、或いはオレが質問をし先生が返す、お互いの事をより深く知る為に続けていた会話…だったが、先生から投げかけられたある質問が会話を途絶えさせた。
"サンズの今のところの目的は、元の世界に戻る事でいいんだよね?"
「………」
「そ、れは」
…言葉に詰まる。オレはこの世界にとっての『異常』、一秒でも早く元の世界に戻るべきだ。
…だが心の奥底から湧いてくる本音は、それを否定していた。「戻りたくない」と。戻ったところでまた虐殺を何も出来ずに眺める事しか出来なくなる。自分が死ぬ事にはもうとっくに慣れた。…だが、大切な仲間や家族が死ぬ様を見るのは一向に慣れない、慣れる筈が無い。
「また同じ出来事を繰り返すと分かっていても尚元の世界に戻りたいか」。もしそんな質問を投げかけられれば、オレはきっと迷いなく「嫌だ」と言うだろう。
"……サンズ?"
「……!」
「…あぁ、そ、そうだな。こんなオイラにも帰りを待ってくれる奴は居るからな?」
精神世界内に籠っていた意識が先生の言葉により現実世界に引き戻される。内情を知られないよう必死に取り繕う。オレの世界の問題を、無関係のこちらの世界にまで持ってくる訳にはいかない。オレが沈黙していた所為で空気がぎこちなくなり、このままではマズいと世間話に切り替え持ち直す。
それから数分後、気づけば電車は目的地周辺の駅に到着していた。席から立ち上がり僅かな荷物をまとめると、先生の後をついて行くのだった。
「ここが…」
"『ミレニアムサイエンススクール』だね。"
電車を降りたオレ達の眼前に広がるのは、今先生が言ったように『ミレニアム』と呼ばれる近未来な雰囲気に満ちた学園。ここがミレニアムの自治区である事を指し示すかのように、巨大なホログラムが校章を映し出していた。
まずミレニアムを見て思ったのが「とにかくデカい」という事だ。それもその筈、ミレニアムはこのキヴォトスを代表する三大学園の一つだからだ。一つは先生がイオリの足を舐めた記憶が真新しいゲヘナ、もう一つはブラックマーケットで出会ったヒフミが居るトリニティ、そして最後がミレニアムだ。オレがキヴォトスに来てから既に一ヶ月以上が経過しているが、その間に基本的な情報は頭に詰め込んでいたからこの程度の事ぐらいなら分かる。
「…で、助けを求めているって言う部活は何処にあるんだ?」
"ちょっと待ってね…あっ、あの校舎にあるみたいだよ。"
話を戻すが、オレ達がここに来たのはとある部活を助ける為。どうやら廃部命令によって存続の危機にあるらしい。しかし廃部命令なんて一体何をしでかしたんだ…?
まぁ詳細は部員に聞けば良い話だ。その部活の部室がある校舎に到着し、先生が部室が何階にあるのかを確認している最中、ふと先生の方を見るとつい先程までは日に照らされていた彼の顔が影に覆われていた。厚い雲でも流れてきたのかと上空を見てみると────
「なっ……!?」
今にも先生の頭部に黒い長方形の物体が落ちてこようとしていた。
「…危ない、先生!!」
"えっ…!?"
咄嗟に重力操作を発動し、『それ』は先生に直撃する寸前で静止した。
誰が何の為にこんな事を?まさか先生がここに来る事を見越して暗殺を…と思ったが、
「もしかして先生に当たっちゃったかも!?」
「プライステーションは無事!?」
…その推測は杞憂に終わった。
*
「アンタらなぁ…」
「ご、ごめーん…まさか外に投げちゃったプライステーションが先生に当たりそうになるなんて…」
オレ達の前には、申し訳なさそうにペコペコと謝る、猫の耳を模したヘッドホンを装着した二人の少女。彼女達の名前は『才羽モモイ』と『才羽ミドリ』、苗字から分かる通り姉妹だ。
どうやら今はここに居ないが『ユズ』という名の生徒も含めて、彼女達が先生に助けを求めていた『ゲーム開発部』の部員だという。
「モモイとミドリか。オイラはサンズ、スケルトンのサンズさ。宜しくな」
「……えっ!?スケルトン!?あなたスケルトンなの!?」
「ドラゴンテストを中心としたRPGによく登場するあの…!?」
オレがスケルトンである事を紹介するや否や、彼女達の目は輝き出し詰め寄ってくる。周囲に散在する無数のゲーム機から彼女達はゲームを作るだけではなくする事も好きなのだろう。そんな普段遊んでいるゲームに登場するキャラクターが目の前に現れたんだ、喜ぶのも無理はない。
………実際にオレはゲーム内のキャラクターなんだけどな。
「…そんなにはしゃいでいて良いのか?なぁ先生?」
"…そうだね。私達が来たのは、君達が今居る部活動の廃部を止める為だからね。"
先生の言葉にモモイ達は現実に引き戻されたのか、オレへの興味関心で輝いていた彼女達の瞳はみるみる焦燥に満ちていく。
「そ、そうだった…お姉ちゃん、早く要件を!」
「うん…だから先生、そしてサンズ!早速『廃墟』に行くとしよっか!」
"「……廃墟?」"
先生とオレは同時に首を傾げる。何故廃部を防ぐ為に、無関係としか思えない廃墟に向かわなければならないのか。理由がこれっぽっちも分からない。
"あの、もうちょっと詳しく状況を説明してくれる?"
「…あ、じゃあ最初から順に説明するね」
「えっとね、まず私達ゲーム開発部は今までずっと、平和に16ビットのゲームとかを作ってたんだけど…」
「ある日……急に生徒会から襲撃されたの!」
唐突に部活動とは無縁な『襲撃』の言葉に耳を疑う。彼女達は何かに巻き込まれてしまったのか…そう思った途端、オレ達の背後にある部室のドアが開く音が聞こえた。
「それに関しては、私から直接ご説明しましょうか?」
ドアが開く音と共に聞こえた声。……何故だろうか、この声には聞き覚えがある。オレがミレニアムに来たのは今日が初。才羽姉妹以外とのミレニアムの生徒とはまだ関わりは無い筈…
そう思われていたが、声の主を見た途端他の記憶に埋もれていた記憶が蘇る。
「……えっ?」
「…アンタは……」
「「どうしてあなた(アンタ)がここに!?」」
お互いの顔を見て両者共に飛び上がる。…ツインテールの濃い青色の髪。間違いない、オレが世界のリセットから何かしらの異常でここに飛ばされ、シャーレで目覚めた時に先生と共に部屋に入ってきた少女だ。
彼女の名前は…アビドス高等学校で先生と改めて出会った時謝罪の言葉と共に言っていた覚えがある。確か…
「…アンタが『ユウカ』か?」
「そうだけど…何故あなたが私の名前を…?」
「…と、とにかく、オイラがここに来るまでの経緯を軽く話すよ。…このままだとややこしい事になりそうだしな」
なんせ彼女との初対面は最悪な状況のままで終わっている。また変な誤解を招かれでもしたらここに来た意味が無くなってしまう。
だからオレは自己紹介を交え、ユウカにこれまでの経緯を所々を抜粋して話した。アビドスに入学した事、今は先生の補佐として先生を手伝っている事、ミレニアムを訪れたのも先生の誘いだという事…
「成る程、あなたの事情は大方把握したわ。そして…」
「…あの時反射的にあなたに銃口を向けてしまった事を謝罪するわ。ごめんなさい」
オレと面と向かったユウカは頭を下げる。
「あー…そこまで気にする事でもないよ。まさかアンタもオイラが居るなんて思いもしなかっただろうしな」
「銃口を向けたのも大切な先生を守る為には当然の行動の筈さ。アンタは悪くないぜ」
「それに…」
そういえば、とゲーム開発部の二人が居る方向に目を向ける。
「………むぅ」
…明らかに不機嫌な顔をしているモモイがそこには居た。
「…話題を持っていかれて不満そうな人が居るしな?ひとまずこの話はここで終わりにしようぜ」
オレの言葉を聞いたユウカはハッと何かを思い出した表情になり、ゲーム開発部を威圧するかのように歩み寄っていく。
「…えぇ、そうね。サンズ、あなたが居た事のインパクトでうっかり忘れかけていたけど…」
「私がここに来た理由はゲーム開発部、あなた達の部活はもうじき廃部になる事を伝えに来たからよ」
『廃部』の言葉を聞いた二人は天を仰ぐ。そして接近してきたユウカに対抗するかのようにモモイはぐい、と詰め寄る。
「異議あり!すごくあり!何もしていないのに廃部なんて酷くない!?私達だって全力で部活動をしているのに!」
「だからあの、何だっけ……上場閣僚?とかいうのがあっても良いはず!」
「それを言うなら『情状酌量』でしょう。それより、今なんて言ったかしら?全力で活動してる…?」
「…笑わせないで!」
ユウカはモモイの言葉に怒りを露わにし、これまでの彼女の悪行と言うに等しい経歴を羅列し始める。
変な建物を建てたかと思えばギャンブル大会を始め、他の部活動への襲撃やその他諸々。…彼女が生徒でなければお縄についていたに違いない。
「話に割り込むようだが、アンタらはその…何か結果を出した事はあるのか?『ゲーム開発』部なんだからゲーム関連の…」
「そう!それを言いたかったの!私たちは『テイルズ・サガ・クロニクル』っていうゲームを出したことがあるんだよ!」
「お姉ちゃんの言う通りです!『テイルズ・サガ・クロニクル』はちゃんと『あのコンテスト』で受賞も…」
なんだ、部活の名前らしくちゃんとした事をしているじゃないか…と思うのも束の間、直後のユウカの注釈によってその期待は打ち砕かれた。
「……そうね。確かに受賞、してたわ」
「その反応を見るに、先生達はご存知ないようですね」
「ゲームそのものもさることながら、レビューが大変印象的でした」
ユウカはテイルズ・サガ・クロニクル、略してTSCのレビュー内容を読み上げ始める。
「私がやってきたゲーム史上、ダントツで『絶望的』なRPG」
「このゲームに何が足りないのかを数え出したらキリが無いけど……まあ、一番足りてないのは『正気』だろうね」
「このゲームをプレイした後だと、『デッドクリームゾーン』はもしかして名作の部類に入るんじゃ…って思っちゃうわ」
次々と羅列される阿鼻叫喚のレビュー。TSCに触れた事が無いオレでも全てを察した。TSCは極限までオブラートに包めば人を選ぶ内容、単刀直入に言えば……所謂『クソゲー』と呼ばれる類のものだと。
そしてトドメと言わんばかりにモモイ達の言う『結果』とは『今年のクソゲーランキング1位』である事も判明した。挙句の果てには部員の定員数も満たされていない事もだ。
…理解した。彼女達は何もしていないのに廃部の危機に陥っているのではない。何もしていない『から』廃部になりかけているんだ。
その後もモモイ達は必死に反論しようと試みるがユウカの理詰めに恐縮するばかり。だがこのまま言われ続ける訳にはいかないと思ったのか、モモイは覚悟を決めた表情でユウカの顔をジッと見つめる。
「……分かった。全部、結果で示す」
「その為の準備だって出来ているし、切り札がある」
「その切り札を使って、今回の『ミレニアムプライス』に…」
「『TSC2』…『テイルズ・サガ・クロニクル2』を、出すんだから!!」
彼女が宣言したのは、『ミレニアムプライス』と呼ばれるものに受賞する事。初めて聞く名だが、どうやらミレニアム中の部活が各々の成果物を競い合い優勝を目指すコンテストのようだ。
向上心がある事自体は無論評価すべきだが、問題なのは彼女達が今日に至るまでにこれといった成果を出していない事。例のゲームも散々な評価を受けている事をつい先程聞いたばかり。そんな彼女達が受賞を目指すなんて、何とも無茶な話だと思ってしまう…が、その無茶を乗り越える為にオレ達はここに居るのだから。
ユウカはそれを聞き、ゲーム開発部に2週間の猶予を与える事を伝え部室を後にした。そこで何の結果も得られなければ問答無用で廃部…背水の陣だ。
「あ、そうだ。さっき言ってた『切り札』って、一体何の事?」
「それは勿論先生、それにサンズの事だよ」
"…私?"
「…オイラも入れてくれてありがとさん」
モモイはユウカが来る前の話題に戻し、廃墟の話をし始める。
彼女が話すのはミレニアムの付近には連邦生徒会によりその存在を隠され、立ち入りを禁止している廃墟の存在。そしてそこに廃部を阻止する為の、モモイの「良いゲームを作りたい」という純粋な、確かな想いを証明する為の『あれ』が廃墟に眠っているらしい。
「その『あれ』ってのは…」
"一体どういうものなの?"
「G.Bible……って、知ってる?」
──────────────
「廃墟、って言うもんだから誰も居ないと思ってたんだが…」
才羽姉妹に半ば強制的に連れて来られる形で廃墟に到着したオレ達は近くにある瓦礫に身を潜めていた。何故かって?そりゃ…
「…あんな奴らが居るなんて聞いてないんだが?」
少し遠くに視線を向けてみれば、見えるのは廃墟を徘徊するオートマタの姿が。それも1、2体だけなどではなく無数に、だ。この時点でただの廃墟じゃないって事が嫌でも分かる。
余計な戦闘は避けたいという方針による隠密行動でここまで来た訳だが、それが裏目に出てすっかりあの機械人形共に囲まれているのが現状だ。
「……改めて聞くぜ、モモイ。本当にこんな危険地帯にアンタの求めているもんはあるのか?」
「うーん…あるよ!多分!だってあの『全知』と呼ばれているヒマリ先輩が…」
「『キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる、時代の下水道みたいな場所なのかもしれない』って!」
そのヒマリという生徒にはまだ会った事は無いが、『全知』なんて大層な名前で呼ばれている辺り聡明な人物なのだろう。…いや、待てよ?
嫌な予感が頭をよぎる。モモイの隣に居るミドリが不安そうな顔をしてこちらを見ている。…どうやら考えている事は共通しているみたいだ。
「まさかとは思うけど…お姉ちゃんが『ここにG.Bibleがある』って言ったのは…」
「アンタが『キヴォトスから消えて忘れ去られたものが集まる』と聞いたからか…?」
モモイは「そうだよ」と言わんばかりに頷く。…なんて確証性の無い行動だと内心頭を抱える。
しかし彼女はその理由だけでここに来た訳ではないらしく、『ヴェリタス』というハッキングを得意とする部活のメンバーにG.Bibleの座標の探知を頼んだ結果『普通の地図には存在しない場所』で発信があった…と彼女は話す。
モモイから聞いた情報にここが存在を秘匿されていた場所である事。これらを照らし合わせると、確かに理にかなっていると言える。
「成る程な。少なくともアンタの探し物がある可能性はゼロじゃねぇって訳か………」
「…というかそれ、具体的にどんなものなんだ?」
当たり前のように受け入れていたが、G.Bibleとは何なのかは分からずじまいのままな事に気づく。ゲームを開発する彼女が求めているのだから大方ゲームに関するものと予想していたが、「最高のゲームを作るのに必要なもの」と聞く辺り予想は当たっていた。
「ヴェリタスから貰ったこの座標に向かって行けば、そこにきっとG.Bibleが……!」
「あっ」
感情が昂ったモモイが立ち上がる。その瞬間自分達が置かれている状況を思い出し即座に屈むが時既に遅し、無数のオートマタが一斉にこちらを凝視する。
「……えと、ごめんなさい…」
「…まぁ、失敗する事は誰にでもあるさ。とりあえず今は…」
先生の方を向き、頷く。
"逃げるよ!!!"
先生の合図と共に走り出す。後ろから放たれる無数の銃弾を骨による遮蔽物で防ぎながらとにかく前へと進む。機械ばかりに容赦が無い。
「やぁっ!!」
「はぁっ!!」
モモイとミドリも先生の指揮で応戦する。彼女らの息の合ったコンビネーションには目を見張るものがあり、同じ動きをほぼ同様のタイミングで行っている。
コンビネーションと言えばロイヤルガードのイヌッスとイヌッサ、RG01と02が思い浮かぶが精度は彼らと同等、或いはそれ以上だ。流石は姉妹と言ったところか。
オレも負けていられないとばかりに骨での突き出しや重力操作を使い近くの瓦礫をオートマタの群勢へと投げつける。だが目的はあくまで逃亡。向かってくる奴らを何度も何度もスクラップにしていくが、無限と思わざるを得ない程にどんどん建物の影から敵は現れる。
「うわぁー!しつこいってばー!」
「私達はまだ大丈夫ですけども…この調子だと追いつかれそうです…」
ミドリの言う通りだ。そう易々と出すようなものじゃないという理由に加えここは廃墟、崩落の危険性を踏まえ出し惜しみしていたが、奴らを一網打尽にするには『アレ』を出す他ない。
それにここはそれなりに開けている、崩落する可能性も低い筈だ。
「…先生、モモイ、ミドリ。ちょっと後ろに下がっていてくれ」
「えっ?」
「さっさと終わらせる」
ポケットに入れていた左手を勢いよく空へと掲げ、魔力を集中させる。
オレの意思に応じて現れたのはガスターブラスター。かつてのトラウマを乗り越え、再び使えるようになったオレの技。
カイザーとの戦いで使用した際はブランクがありチャージに時間がかかったが、今回は十秒も経たずに完了した。
「……!!!」
何かこちら側にとって良からぬ事をしていると察知したオートマタが一斉に射撃するが、もう無意味だ。すかさず骨で防御し、合図をする。
「やれ」
前方を覆い尽くす光線が放たれる。オートマタ達はなす術無く消し飛ばされ、後には何も残っていなかった。先程までの騒がしい空気は何処へやら、今聞こえるのはオレ達の呼吸する音のみ。
「…まぁ、ざっとこんなも───」
「すごーい!!今の何!?何!?」
モモイがオレの腕を掴みブンブンと振り回す。…体重が軽いばかりに体全体がグラグラと揺れる。
「…ありがとさん。でも目的はオイラじゃなくてG.Bibleだろ?」
「あっ!そうだった!ちょっと待って、現在地は〜…」
モモイが座標を確認しようとするのも束の間、何処からともなく無数の足音がこちらに向かって来るのを感じる。まさかと思い振り返ってみるとその悪い予想は的中した。
「…ウソでしょ!?」
…またしてもオートマタが続々とやって来る。『キリがない』とはまさにこの事だ。
「…このまま戦っていてもこっちがジリ貧になって追い込まれるだけだ。何処か隠れる場所はないのか?」
"…待って、あそこがちょうど良いんじゃないかな?"
先生が指差す方向へと視線を向ける。そこには巨大な工場らしき建物が。周囲の建物とは異なり異様な雰囲気を放っていると感じるのは…オレの考え過ぎか?
「…だな。あそこに隠れて一旦奴らを撒かないとマトモに探索出来やしない。いいか才羽シスターズ?」
才羽姉妹は同時にコクコクと頷く。全会一致となれば悩んでいる暇は無い、再び骨で銃弾を防ぎながら、工場跡へと向かっていくのだった。
*
"…撒けたかな?"
「そろそろ良いんじゃないかな?」
工場跡の物陰に隠れてから早数分。オレと先生、才羽姉妹以外から発せられる音がしない事を確認し、脅威が居ない事が分かると物陰から出てくる。
「ここ、工場みたいだけど何をしていたんだろう…分かる、ミドリ?」
「わ、私に聞かれても分からないよ…」
工場なら何かしらのものを作っていた事になるが、詳細は今はもうこの世には居ないであろう当事者しか知り得ない事だ。とりあえず今はここからどう出るのかを考えるべきだろう。
"入り口の前だとさっきみたいな敵が待ち伏せしているかもしれない。何処か別の出口を探そう。"
「それにここは廃墟だ、出口じゃなくても多分どっかに老朽化して壁に穴が空いてる所もあるだろ?」
次の目的は出口の捜索で決定、歩みを進めようとしたその瞬間だった。
「接近を確認」
突如として辺りに人工的な音声が響き渡る。オレを含むその場に居た全員が何事かと目を見開く。
「対象の身元を確認します。才羽モモイ、資格がありません」
「対象の身元を確認します。才羽ミドリ、資格がありません」
その声はオレ達の事情などお構いなしと言わんばかりに淡々と『資格』の有無について話す。…何故才羽姉妹の事を知っているんだ?
「対象の身元を確認します。……どの生徒にも該当しません」
今の状況が理解出来ないままオレの番となった。どの生徒にも該当しないと言っているが…まぁそうだろうな。オレは文字通り住む世界が違うのだから。
「身につけているネクタイのデザインからアビドスの生徒であると判断。資格がありません」
「…そこまで把握出来るのか」
「サンズでも駄目だったかー…」
どちらにせよ、オレに資格が存在しない事は分かりきっていた。それにモモイ、ミドリ、オレと来たのなら…次は先生だ。
「対象の身元を確認します……『先生』」
「……」
「あれ?」
声が沈黙する。明らかにオレ達の反応とは異なる。もしや先生には…
「資格を確認しました。入室権限を付与します」
思った通りだ。彼が大人だから資格が付与されたのか、シャーレの顧問だからなのか…謎は深まるばかりだ。
「えぇっ!?」
「え、どういう事!?先生はいつこの建物と仲良しになったの!?」
"いつ…なんだろうね?"
「当の先生も戸惑ってるみたいだけど…」
「才羽モモイ、才羽ミドリ……」
「…オイラは『サンズ』だよ」
「…サンズの3名を、先生の『生徒』として認定、同行者である『生徒』にも資格を与えます。承認しました」
「下部の扉を開放します」
「あぁ、一応反応するんだな」と思っていたが『下部の扉』という言葉に疑問を覚える。自分が立っている床を見るが、どうも扉には────
ガチャン
「………えっ?」
一瞬にして床の感覚が無くなる。下に広がるのは真っ暗な空間。
「ゆ、床が無くなっ…落ちるっ!?」
「うわわわっ!」
「お姉ちゃん!サンズさん!先生!きゃあぁぁっ!」
「…冗談キツいぜ…っ」
咄嗟にブラスターを先生の下に出現させ足場を確保する。その後すぐさま抱き合っている才羽姉妹を重力操作で、自分を近道でブラスターの上へ移動させる。
「……大丈夫か、皆?」
「な、何とか…」
「ありがとうございます、サンズさん…」
"死ぬかと思った…"
「とりあえずは…無事みたいだな」
全員の無事を確認し、ブラスターはゆっくりと下層へと移動していく。どうやらそこまで深くはなかったようで、数秒足らずで床が見えてきた。
着いたのは一際開けた空間。ここに入るのに資格が必要である以上、何か特別があるものに違いないと周囲を隈無く見回してみると。
「…誰だ?」
中央部で椅子に座った少女がそこには居た。