Fate/Nexus   作:月影ノブ彦

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接触

翌日。

 

 

「……行くぞ、セイバー」

「はい。昨日のマスターのところ、ですね?」

「そこ以外の何処へお前を連れて行くんだ?」

 

直は当然のように言った。

昨夜の二人組は今の直にとっては脅威の一つであると同時に貴重な情報源でもある。聖杯戦争に関する情報に乏しい直にとっては、危険を冒してでも接触する価値のある者たちではあった。虎穴には入らずんば虎児を得ず、という奴である。

 

「学校はどうされるのですか?昨日のマスターと同様にあなたも学生であるとお見受けしますが」

「学校はサボる」

「学生の本分は学業では無いのですか?」

「単語や公式を覚えさせられるだけなのを学業というのならそうかもな。それに、いくら何でも、お前を学校へ連れて行けるわけが無いだろ」

 

ちょっとそこのコンビニへ行くのと、学校へ行くのとでは、同じ外出でもまるで大きく違ってくる。そもそも、部外者であるセイバーを学校の中になど入れられないだろう。

セイバーは、魔力が十分にあれば自身を霊体化して第三者から見えなくすることが出来ると言っていた。可能であれば、それが一番ベストな方法なのだろうが、セイバーが言うには生憎と直に魔力は無いようだ。

一応、直は成績的に問題は無く、出席日数が足りないというわけでも無い。一日、二日、学校を休んだところで問題にはならないだろう。

 

「風邪を引いた。ということにしておけばいい。うちの担任は、その程度で仮病を疑いはしないだろうし、仮に疑われたところで何もしないだろうからな」

 

直の学校の教師はその程度の教育理念しか持っていない。それに、本日行く予定の城風女子と直の通う緑川高等学校は場所も離れているので、知り合いに鉢合わせることも殆ど無いだろう。

 

(……それに、確かめたいこともあるしな)

 

昨日の少女は、サーヴァントと思わしき男の姿を堂々と晒していた。あれだけ目立つ存在を隠そうともしていなかったのを見るに、彼女も直と同様に魔力を持っていない可能性が高い。

 

(……しかし、魔術なんて非科学的で非現実的なもののことを考えないといけないとはな)

 

直は生まれてこの方、魔術なんてものは見たことも聞いたことも無く、存在すら信じていなかった。魔術を使う人間…つまり魔術師といった類にも全く縁が無い。幼い頃からそういったファンタジーめいたものに対して、直は何処か冷ややかな一面を持っていたのである。サンタクロースの存在も幼稚園に行き始める前には、もう信じていなかった。

そんな彼が、それらのことに今こうして立ち向かわなければならないというのは実に皮肉めいている。

 

「マスター」

 

セイバーが徐に口を開いた。

 

「マスターの目的が戦闘では無いことを承知の上で言わせて頂きますが、もしも期せずして戦闘になった場合、マスターの命を第一に考え、あなたの判断を仰がずに私の意思で動かせて頂くことがあるかも知れません。予めご了承願えますでしょうか?」

「ああ、分かった。だが、それはあくまで戦闘になった場合だけだ。それ以外では、あまり勝手に動いてくれるなよ?」

「はい。分かりました」

「じゃあ、行くぞ」

「はい」

 

直はセイバーを連れ、家を出た。

今度は自ら他のマスターへ接触する為に。

 

 

 

城風女子高等学校。

緑川にある女子高で、所謂お嬢様学校である。

昨夜出会った二人組、その少女の方はその学校の制服を着ていた。必然と彼女がそこの生徒であるという推測が成り立つ。

そういうわけで、直とセイバーは城風女子へと訪れたのであった。

時間的には昼休みといったところで、門前にも人の往来が見て取れる。

今も、三人の大人しそうな女子たちが何か買うものでもあるのか、門から外へ出ようとしていた。

 

「すみません」

 

直は、早速目に付いたその三人組へ声を掛けた。少女たちは直に気が付くと一斉に足を止める。

 

「私たちですか?」

 

三人組の内、長い髪の少女が口を開いた。伝統あるお嬢様学校へ通うだけあって、清楚な雰囲気を全身から醸し出している。それは彼女だけでなく、他の二人も同じであった。

 

「見たところ学校の関係者では無さそうですが、何か御用でしょうか?」

「人を探しているのですが……この学校に九宝院瑠璃子という人はいますでしょうか?」

 

昨夜の少女がそう名乗ろうとしていたことを直は思い出す。

 

「九宝院さんですか?知っていますけれども……」

 

少女は怪訝な表情になった。

「九宝院さんとは、どういったご関係で?」

 

当然の疑問を彼女は口にした。

そもそも、直たちは明らかに外部の人間である。警戒されても仕方が無い。

 

「……昨晩、連れがお世話になりまして。その御礼とその時に預かったものがあったので返しに来ました」

「預かったもの……ですか?」

「はい」

「……何分、プライベートなものなので、他人を仲介して渡すのも憚られかと思われます。すぐに済ませますので、九宝院さんをこちらへ呼んで頂けますでしょうか?」

 

本当の理由など告げられるわけも無いので、直はそう嘘を並び立てて答えた。隣にいるセイバーのことも一応これで説明がつく筈である。

 

「そう…ですか。分かりました。ここへ呼んでくればいいんですね?」

 

少女は相変わらず怪訝な表情のままであったが、直が表面上は丁寧に取り繕っていたこと。また、理由にも一応の筋が通っていたことから、一先ずは了承してくれたようである。他の二人へ断りを入れてから校舎の方へ向かって行った。

直とセイバーはそのまま彼女が戻って来るのを待つことにした。

 

少しして、目当ての人物は腕を組みながらこちらへやって来た。

呼びに行ってくれた少女は役目を終えると、他の二人を連れてその場から去って行った。

 

「私を呼びつけるなんて、何処のどなたかし……!?」

 

昨夜の少女…九宝院瑠璃子が見てはいけないものでも見たかのような表情でこちらを見る。

 

「あ、あなたたち……!!」

 

瑠璃子は腕を組みながら、その場に固まってしまう。案の定、彼女は驚きを隠せないでいた。

突然の訪問者。それも、昨夜逃げて行った者たちが、翌日こうして目の前に現れるなど予想だにしていなかったようである。

直の思った通りの反応であった。

 

「昨夜ぶりだな」

 

先手を取れたことで、直は余裕を持った様子で彼女と対峙する。昨夜とは逆の状況であった。

 

「……あの男はいないのか?」

 

彼女と一緒にいたあの背の高い男の姿は見えない。見えないだけで霊体となって彼女の側にいる可能性もあるが、セイバーが何ら反応を見せていないのを見るにそれも無いだろう。

 

「い、いるわけないでしょ!付いて来るって言ってたけど断ったわよ!!」

 

そして、サーヴァントが側にいないことを彼女自らが答えてくれた。そういう情報を漏らしてしまう辺り、かなり動揺していることが伺える。

 

「な、何しに来たのかしら!?」

 

瑠璃子は逆に語気を強めて尋ね返してきた。だが、一方で言葉が震えてしまっている。

直は何となく拍子抜けしてしまった。昨夜の行動から、九宝院瑠璃子という人物は好戦的なタイプだと思っていた。確かに気は強いみたいではあるが、それに体がついていっていないようである。サーヴァントが側にいないということで弱気になっているのだろうか。

もしかすると、彼女は争いごとや駆け引きに向いているタイプでは無いのかも知れない。

 

「何しに来た……って、そんなのは見て分かるだろ?」

「分かるわけ無いでしょ!」

「お前と俺はマスターなんだろ?……だとしたらすることは一つしか無いと思うが」

「!!ま、まさか……」

 

直のその言葉を聞いて、瑠璃子は青ざめた。

 

「ランサーがいない内に私を始末するって腹積もりね!?」

「そうか。お前のサーヴァントはランサーというのか」

「っ!!」

 

彼女はまたも口を滑らしてしまっていた。このまま揺さぶっていれば、一方的に情報を引き出せそうな気さえしてくる。

 

「……確かに、始末するのであれば、サーヴァントが側にいない今が絶好の機会だな」

 

直は不敵に笑ってみせる。無論、そのつもりは無い。

 

「ふ、フン!そっちがやる気ならば、この令呪を使って今すぐここにランサーを呼ぶまでよ!」

 

瑠璃子はそう言うと、右手に刻まれた令呪を直へ見せ付ける。なるほど、令呪にはそういう使い方があったのか、と直は言葉に出さずに思った。聞いてもいないのに情報の開示をしてくれるとは期待を裏切らぬ言動である。

 

「さあ、やるの!?やらないの!?」

 

瑠璃子は相変わらず強気な態度だけは崩さない。どうやら、自身が先程から墓穴を掘っていることに気が付いていないようだ。

 

「……ここでやり合ったら人目につくんじゃないのか?」

 

直は冷静に言った。もうすぐ昼休みも終わりかという時間ではあるが、まだ周囲には人がいる。当然、直と瑠璃子のやり取りもチラチラと見られていた。

 

「そ、そうだけど、そっちがやる気なら仕方ないじゃない!!」

 

瑠璃子は周囲も気にせず半ばヤケクソ気味に言い放った。ともすれば、このまま戦いを始めてしまいそうな勢いである。流石にそれは直の望む展開ではない。

 

「……俺は別に戦いに来たわけじゃない。そうだろ?」

「はい。マスター」

 

直はセイバーにもそう言わせて、争うつもりが無いことを示した。

 

「……どういうことかしら?」

 

瑠璃子は半信半疑で尋ねる。自分が相手の立場なら、当然そんな言葉など信じられないだろう。と、直は思った。だが、本当にそのつもりが無いのだから仕様がない。

 

「……言葉通りの意味だ。戦う為に呼んだわけじゃない」

「戦う為で無ければ、一体何なのかしら?」

 

そう問われて、直は一瞬考えた。そして、思い付いた言葉を彼女へ告げる。

 

「手を組まないか?」

「は?」

 

思いもよらぬ提案に瑠璃子はポカンとした表情を浮かべるだけであった。

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