Fate/Nexus   作:月影ノブ彦

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暴力

「どうしたの?」

 

この場へまた新たな登場人物が現れる。それは、銀髪の少女で明らかに日本人では無い。容姿の幼さから、恐らくは士郎少年よりも年下であろう。士郎少年との繋がりはよく見えないが、訪問してきたにしてはラフで薄手な格好なのを見るに一緒に住んでいるのでは無いかと推測される。

二人の同居人と思われる者たち、それもどちらも兄弟や親類では無さそうで、年代の違う女性。おまけに片方は国籍も違う。学生身分でこの生活環境は、どう見ても不自然極まりない。あれだけの借金をしてもおかしく無いようにさえ思えてきた。

 

 

「……おじさんたち誰?」

 

銀髪の少女は物怖じせずに尋ねてきた。馬堀の外見を見てもリアクションが薄いのを見るに、見た目よりも肝は座っているようだ。或いは、幼さ故の無知か。

こういう事態に幼い子供を巻き込むことはよくあることだ。大概はその親であったり保護者の自己責任で彼らに罪は無い。

 

「……ガキは引っ込んでろ。大人の話だ」

 

だが、それとこれとは話は別で、取るものはきっちり取らねばならない。一度でも仏心を見せて猶予を与えようものなら、こういう連中は付け上がるだけからだ。

もう一日待って下さい。

もう一日待って下さい。

という風にずるずる引っ張って、いずれ逃亡や出し抜くことを考え始める。そうさせない為にも、金は取らねばならないのだ。

例え、小さい瞳がこちらをじっと見ていても馬堀は一切の手加減をしない。

 

「今日の分も出せないなら、ちょっと面貸して貰うことになるけどいいか?」

「何をする気だ?」

「いいバイト紹介してやるよ。知ってる?人間の臓器ってさ、高く売れるんだよね」

「臓器!?」

 

藤ねぇと呼ばれた女性が悲鳴のような声を上げた。無理もない。ドラマや映画でしか聞いたことの無いような台詞を現実で聞いたら誰でもそうなる。しかも、それが冗談の類で無ければ尚更だ。

 

「取り敢えず肺と腎臓だな。どっちも二つあるから一つ無くなっても問題無いしな」

 

実際は片方が無くなると実生活に多大な影響を及ぼすのだが、そんなことは馬堀の知ったことではない。

 

「まあ、最近は不景気のせいで臓器もあまり高く売れないんだがな。一つ二十万ってところか。利子分には少し足りねえかな?」

「勝手に話を進めるな。大体、こんなの明らかに闇金じゃないか!」

「そ、そうよそうよ!闇金の借金は支払う義務は無いのよ!」

 

反撃の糸口を見つけたのか、二人は果敢に言い返し始めた。

 

「……そもそも、親父が借金したって話自体が疑わしい」

 

士郎少年のその言葉に銀髪の少女がピクリと反応を示す。

 

「……キリツグがどうしたの?」

「どうもしない。こいつらの言い掛かりだ!」

「び、びた一文だって払いませんからねっ!」

「……言い掛かりとか払わないとか、盛り上がんのは勝手だけどさ」

 

馬堀はそう言うと、顎の髭を一撫でした。

 

「借りたもんは返して貰うよ?どんな手を使っても」

「……………………!」

 

二人は同時に黙り込んだ。馬堀の醸し出す威圧感がそれ以上の言葉を許さなかったのである。それでも、士郎少年は敵意を込めた視線を逸らそうとはしなかった。本当に度胸のある少年である。まるで、馬堀と同等かそれ以上の何かと何度も対峙してきたかのような慣れであった。そして、その態度が馬堀を僅かに苛立たせる。

 

「……………………」

「……………………」

 

一触即発の空気。

藤ねぇと銀髪の少女は固唾を飲んで見守っている様子である。

 

「…………ん?」

 

と、馬堀は急に視線を右側へ逸らした。士郎少年はそれに釣られて馬堀と同じ方向へ視線を向ける。

 

「…………!!」

 

馬堀はその瞬間を逃さず、距離を詰めた後に拳を士郎少年の鳩尾目掛けて打ち込んだ。僅かな意識の外をついた一撃。それが、見事に決まる。

 

「……ッ!?」

 

腹部へ重い衝撃を受けて士郎少年は思わず膝をつき、胃液を吐いた。あまりに不意だったので、この衝撃に対する準備が出来ていなかったようである。

 

「士郎!!」

「シロウ!!」

 

蹲る士郎少年へ藤ねぇと銀髪の少女が駆け寄る。

藤ねぇの方がキッと馬堀のことを睨み付けた。

 

「何をするの!?」

「教育だよ」

「教育!?」

「そうだよ。このガキさっきからずっとタメ口だったからな。年上にはちゃんと敬語使えないとろくな大人になんねーぞ。俺らみたいにな」

 

馬堀は表情を変えずにそう言い放った。

 

「で、俺らはろくな大人じゃないから、取り立てでもろくなことしかしない。この意味、分かるな?」

「…………!!」

「このガキを無理矢理連れて行ったら、それは拉致になる。でも、ガキが同意してついてきたってことならそれは犯罪でも何でもない。俺らはそういう風に出来るってこと分かる?」

「い、今のは明らかな暴行罪じゃない!私、この目で見たわよ!!」

「違うよ。それはそいつが腹痛起こしただけだ。それとも俺がやったって証拠あんの?」

 

目撃証言だけでは今時警察も動かない。カメラで撮影していたとかであればともかく、そんな素振りは無かったし、外傷も無ければ暴行の証拠も無いだろう。その為に、腹部を狙ったのだ。鳩尾へのブローは低威力でもダメージが大きく、外傷も残らないから脅しには最適なのである。

 

「そもそもそんなこと言い出したら先に木刀振りかざして来たのはテメーらの方だろ?仮に俺が殴ったとしても、これは正当防衛だよ」

「む、無茶苦茶よ!」

「よく分かってんじゃねーか」

 

馬堀は藤ねぇへ顔を近付ける。

 

「これは戦争なんだよ。ルールも何も無い、金の戦争」

「……………………!」

 

藤ねぇは歯噛みすると、財布を取り出し、一枚のカードを馬堀へ渡した。

 

「……これが私の全財産よ!くれてやるから帰って頂戴!」

 

それはキャッシュカードであった。彼女が何の仕事をしているか知らないが、推定年齢から考えれば、そこそこは貯めているといったところだろう。

 

「じゃあ、今から金下ろしに行くから、お前もついてくるよな?」

 

馬堀は背後へ立つと、そのまま彼女を押し出すように歩く。無理に連れて行くのでは無く、あくまで自身の意思で歩いて行かせる。その為のプレッシャーであった。

 

「っ!」

「行くぞ」

「へ、へい!」

 

外へ呼び掛けるとサブの威勢だけはいい返事が聞こえてきた。くぐもった声なのが、未だに彼の鼻血が止まっていないことを物語っている。

 

「……おい、藤ねぇをどうするつもりだ?」

 

顔を上げた士郎少年がそう聞いてきた。ボディブローのダメージが抜けていないのか、息も荒くまだ立ち上がれないようである。ボクシングなどでは後から効いてくると称されるボディブローであるが、正確に鳩尾を狙えば一撃必殺の技になる。所謂ソーラープレキサスブローという奴である。学生時代から喧嘩慣れしている馬堀にとってはこのくらいは容易であった。

馬堀は士郎少年を見下ろす。

 

「あん?今言ったろ?金下ろしに行くんだよ」

「藤ねぇを……離せ……!」

「金を無事に下ろせたら返してやるよ。ただし、嘘だったり途中で逃げようとした場合は……」

 

馬堀は藤ねぇへ視線を移す。

 

「売る臓器が増えるだけだ」

「し、士郎……」

 

藤ねぇは絞り出すような声で士郎少年の名前を呼ぶ。

傍から見れば、明らかに馬堀たちは悪人なのだが、それを通報するような人が周囲にいる様子は無い。故に誰かが横槍を入れるということも無かった。もっとも、馬堀たちはそういうタイミングを狙って訪問したのではあるが。昼の中途半端な時間というのは、意外と人は外に出ないのだ。

 

「じゃ、行くか。幸い、ATMはすぐそこにあるからな」

「止め……ろ!」

「士郎!」

 

士郎少年の叫びも空しく、馬堀たちは藤ねぇを先頭に歩かせて、その場を去って行く。

この時、馬堀は気付いていなかった。士郎少年を気遣いながらも、その行方を心配そうに見つめている銀髪の少女の視線に。

 

 

「……よし、取り敢えずはこれで許してやるよ」

 

藤ねぇの口座には思っていたより金が入っていた。そこから利子分だけを引き落とさせ、それを馬堀たちは受け取る。ここで全額受け取らないのがポイントで、後で利子分を延々と返済させる。それが、金貸しのやり方であった。

 

「また来るから、今度は素直に渡せよ?」

「……………………!」

 

藤ねぇは何も言わず、馬堀たちを睨み付けた後、憤りを隠さぬまま先程の家へと帰って行った。

 

「流石はアニキだ。回収成功ッスね!」

「何おめでたいこと言ってんだテメーは。これはまだスタート。こっからだろーが」

「へ、へえ……」

「……ふむ」

 

出しゃばるなと言われ、それを遵守していたアーチャーが感心したように馬堀のことを見ている。その視線に気付くと、馬堀は眉間に皺を寄せた。

 

「何見てんの?」

「いやはや。我がマスターは素晴らしいと思ってな」

「んだテメェ?今更気付いたのか?」

 

サブがまるで自分のことのように言った。

 

「アニキが凄く無きゃこの世にすげえ奴なんていねーよ!」

「……うるせーぞサブ」

「ひっ!」

 

馬堀の声にサブは反射的に身構える。馬堀はいつもと変わらないテンションでキレる為 、何時先程のような鉄拳が飛んでくるか分からない。流石に一日に二発も食らいたく無いのか、サブは完全に沈黙してしまった。

 

「で、さっきのは、どういう意味だ?」

 

馬堀の矛先が今度はアーチャーへと向けられた。

 

「素晴らしいって何が?馬鹿にしてるってことでいいの?」

「馬鹿になどしてないさ。マスター、あなたは素晴らしい。人を支配することに長けている」

「……アホくさ」

 

馬堀は心底うんざりしたように言った。

ふと、腕時計を見ると、もうすぐ夕方であった。金も回収出来たので、一旦会社へ戻ろうとしたその時であった。

 

「……ねえ!」

「……あん?」

 

声のした方を振り返ると、そこにいたのは士郎少年の家にいた銀髪の少女であった。

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