Fate/Nexus   作:月影ノブ彦

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銀髪の少女

「おい、アーチャー。これで水買ってこい」

 

馬堀はそう言ってアーチャーへ千円札を渡した。

 

「いくらてめえが世間知らずの外人でも買い方くらい分かんだろ?」

「ああ。それは構わないが……」

「行ってこい」

「……分かった」

 

アーチャーはやれやれとその場を離れていった。

邪魔者はいなくなったと馬堀は満を持して振り返る。

先程、背後から声を掛けてきたのは、士郎少年宅にいた銀髪の少女であった。

 

「お前は確か、あのガキの所にいた……」

「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ」

「……で、そのイリヤが何しに来た?」

「あなたたち、キリツグのことで来たんでしょ?」

 

銀髪の少女──イリヤは、怯えを見せぬ視線で真っ直ぐと馬堀たちを見据えた。

 

「お前、衛宮切嗣の関係者か?」

「そうよ」

 

イリヤはコクリと頷いて見せた。彼女が本当に関係者であるならば、士郎少年の家にいたとしても、何の不思議もない。だが、そんなことは馬堀にとってはどうでもいいことであった。

 

「あっそ」

「キリツグの不始末なら、私が何とかする」

「ふーん。じゃ、とっとと消えろ」

 

馬堀は素っ気なく突き放し、踵を返した。まるで、お前と付き合うのは時間の無駄と告げるかのように。

 

「待って!」

「おおっと、嬢ちゃん!」

 

イリヤが馬堀の後を追おうとすると、その進路をサブが塞ぐ。

 

「こっから先は嬢ちゃんみたいなガキんちょが来るところじゃねえ。大人しく帰りな」

「……頭の悪そうな人」

「んだとゴルァ!?」

 

小さな少女の一言にサブは脊髄反射的にキレる。こんな子供に対して実に大人気ない。この沸点の低さには馬堀もほとほと呆れ果てる。

 

「……おい、頭の悪い人。ガキ相手にみっともねえぞ」

「で、ですがアニキィ……」

「……………………」

「す、すんません……」

 

このやり取りも一体何度目になるのだろうか。全く反省しない男である。いっそのこと一人でやった方が効率もいいし、余計なストレスも溜めないのではないか。と、馬堀は時々思うことがある。

 

「……てめえもてめえだ。ガキが年上に馬鹿とか言ってんじゃねーよ」

「……………………」

「あと、その反抗的な目もだ。そんな態度だと何されても文句言えねーぞ」

「……………………」

 

先程とは打って変わって、イリヤは馬堀が何を言っても、ただ無言でじっと見つめてくるだけであった。どうやら、先程からの馬堀たちの態度に気分を害したらしい。

 

「おい、外人のガキ。日本語分かんねーか?……いや、構う時間が惜しいな」

 

梨の礫に、馬堀もすぐに匙を投げる。そもそも、無視しようとしていたところをサブが勝手に絡んでいったせいで、こうして図らずも一言二言口にすることになってしまった。取り立て中ならば完全無視を決め込めるのだが、そうでない時にはこういう隙が生まれてしまうこともたまにはある。

 

「やれやれ、だな」

 

馬堀はイリヤへ背を向け、この場から去ろうとする。

 

「………………………」

 

か弱い靴音が耳に入る。イリヤが無言で馬堀たちの後を追おうとしているのがよく分かった。

馬堀は足を止め、彼女へ向き直ると、そのか細い首へ喉輪をかます。

 

「!?」

「おい、外人のガキ。てめえ、舐めてんだろ?舐めてるよな?」

「…………ッ!!」

「あまり舐めたことしてるとガキでも容赦しねえぞ?」

 

淡々とした低い声で馬堀は言った。言って聞かない奴には、調子に乗っていたら自分がどうなるか、それを示してやるのが一番効果的なのである。例え相手が子供であろうが少女であろうが、馬堀は容赦をしない。

 

「マスター。小さい子に乱暴は良くないぞ?」

 

そう声を掛けてきたのは、何時の間にか戻って来ていたアーチャーであった。先程買いに行かせたペットボトルの水を抱えている。

 

「子供は世界の宝だ。大人が傷付けるのはとても良くない」

「……お前は少し黙ってろ」

「あ、なた、やっぱり……」

 

イリヤがアーチャーの顔を見て驚いたような表情をしている。それに気付いた馬堀は彼女の首から喉輪を外した。

 

「ケホッ、ケホッ、ケホッ……」

「おい、外人のガキ。こいつのこと知ってんのか?」

 

馬堀はイリヤへ尋ねた。彼女はコクリと頷く。

 

「……サーヴァントね、あなた?」

 

イリヤはアーチャーを見ながら言った。

 

「その通りだリトルレディ」

 

アーチャーは即答すると、気障ったらしく帽子を取って頭を下げる。

 

「俺は此度の聖杯戦争でアーチャーの名を拝することになった。以後、お見知り置きを」

「聖杯……戦争!?」

 

イリヤは更に驚いた顔を見せた。何やら事情を知っていそうな、そんな様子である。

 

「おい、外人のガキ」

「イリヤ!」

「外人のガキのイリヤさんよ。この胡散臭い外人のこと知ってそうな口振りだな?」

「……あなた、何も知らないの?」

「ああ、知らねえな。知りたくも無いけどな」

 

成り行き上、一緒に行動はしているが、馬堀自身アーチャーのことは何も知らない。もっと言えば、一緒に行動しているつもりも無い。アーチャーが勝手に付きまとっているだけという認識である。知り合いであれば、彼女にアーチャーを引き取って貰いたいと思っていたが、どうもそんな雰囲気では無いようだ。

 

「サーヴァントを召喚したマスター……ってことはあなたは魔術師じゃないの?」

「お前、ガキの癖にハーブでもやってんのか?」

「……本当に何も知らないのね」

 

そのことにも彼女は驚きを見せているようであった。

 

「リトルレディ。どうやら君は色々と知っているようだね。なら、我がマスターに説明してやってくれないか?どうも俺の言葉は信用してくれないものでね」

 

飄々とした様子でアーチャーが頼み込んだ。

 

「サーヴァントであるあなたの言葉を信じないのに、私の言葉を信じると思う?」

「たった一人が説明しても、そりゃ信じて貰えなくて当然さ。でも、二人、三人と、このことを説明する者がいたら、信憑性ってのも増すと思わないか?リトルレディ」

「……おい。てめえらはまさかあんな与太話が本当にあるとか言うんじゃねえだろうな?願いを叶える聖杯だの、それを巡る戦争だの」

 

流石の馬堀も表情が僅かに変化していた。

 

「そこまで聞かされていて信じて無かったの?」

「そうなんだよリトルレディ。分かるだろ?俺の苦労がさ」

「……よく今まで他のマスターに殺されなかったね」

「まあ、他の奴が襲って来たら、俺が撃退すりゃいいだけの話だからな。その為に四六時中一緒にいるわけだし」

「おいおい、誰がアニキを殺すってぇ?」

 

またも話に割り込んできたのはサブである。何度言われても懲りない男であった。

 

「アニキはなあ。殺す方なんだよ!分かったかドサンピンが!!」

「……………………」

「いでっ!?」

 

馬堀は言葉も発さずにサブの臀部へ思い切り蹴りを放った。重いキックの威力にサブは悶絶したまま崩れ落ちる。

 

「……で、誰が俺を殺すんだって?」

 

馬堀は煙草を一本咥えて尋ねる。

 

「他のマスターさ。俺のようなサーヴァントを連れて、他の参加者を落とそうと考えている連中、だ」

 

アーチャーはにべも無く答えた。

馬堀は眉間に思い切り皺を寄せる。

 

「つまり、てめえの言う与太話を信じたキチ野郎がてめえみたいなのを連れて俺を殺しに来る。と、そう言いたいのか?」

「何度も説明したじゃないか」

「……本当よ。あなた、このままじゃ死んじゃう」

 

イリヤもアーチャーに同調する。

 

「……別にあなたが死んじゃってもどうでもいいし、その方がいいかも知れないけどね」

「仮に俺が死んでも別の奴が取り立てに来るだけだぞ?外人のガキのイリヤさんよ」

「…………!」

 

イリヤは改めて馬堀のことを睨み付けた。

 

「大体、俺を殺したいなんて思ってるような奴は腐るほどいるからな。それが一人二人増えたところで、今更ビビるようなことじゃねえよ」

 

仕事とはいえ、馬堀はその手で何十何百の人間を不幸の海へと突き落としてきた。恨みなど買い過ぎて、恨まれてる感覚さえ鈍ってきているくらいである。

もっとも、アーチャーたちが言っているのは、そういうのとは別口のようではあるが。

 

「俺を殺す気なら、面倒だからとっとと来いって話だ。当然、殺すつもりなら殺される覚悟もあるんだろうしな」

 

「分かった」

「じゃあ、殺してあげる」

 

突如、馬堀の耳に入った声。それは、二人の少女の声であった。

 

「!?」

 

馬堀が声の方へ振り向くよりも僅かに早く轟音が鳴り響く。そして周囲は大爆発を起こした。

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