Fate/Nexus   作:月影ノブ彦

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追う少女たち

あの場から一旦逃れた馬堀たちであったが、すぐに追手──双子の少女たちの存在に気が付いた。彼女たちが普通の少女であったのならば何も問題は無かったが、どうもそうでは無いようである。決定的に違うのは、同じサーヴァントを召喚した者でも、彼女たちはあのライダーとかいう男を完全に使役しているということであった。馬堀はアーチャーを異なる存在と何処かで感じてはいたものの信じ切ることは出来ずに胡散臭い外国人と邪険に扱っていたが、あの双子の少女たちはその存在を予め理解した上で召喚し、命令を下しているように見える。この差は絶望的なまでに大きいと言えた。

 

(チッ、何なんだ一体……)

 

本来であれば体格に勝り喧嘩慣れしている馬堀が彼女たちに負ける要素など無い。だが、彼女たちは明らかに真っ当では無いだろう。真正面からやり合うのは明らかに得策ではない。

 

「アニキィ~、あんなガキ相手に逃げるなんて鬼の馬堀が泣きますよ~?」

 

隣でサブがそんな呑気なことを宣っている。いっそのこと、こいつを囮として使ってやろうかという思いが芽生えたが、それは流石に止めることにした。何だかんだでこの馬鹿な部下を馬堀は嫌いでは無かったからだ。例えるなら物覚えの悪い犬を飼っているような気分である。

 

「ハァ、ハァ……」

 

何時の間にかイリヤも馬堀たちと一緒に息も絶え絶えに走っていた。体も小さく、如何にも運動などしていなさそうな外見を裏切らず、体力的には限界に見える。彼女に関しては完全な部外者だが、置いていこうにも付いてくるし、何よりも聖杯戦争やサーヴァントについて何か知っていそうであった。それに向こうから見れば彼女も仲間と思われているかも知れない。イリヤのことは何も知らない馬堀であったが、仕事でも無いのに彼女を見捨てるほど薄情では無かった。

 

「えっ?」

「よっ、と」

 

馬堀は咄嗟にイリヤを抱え上げた。所謂、お姫様抱っこという奴である。

 

(何だ、こいつ……?)

 

イリヤのあまりの軽さに馬堀は驚きを隠せなかった。見た目以上に軽過ぎて、逆に違和感を覚える。

 

「な、何?」

「……じっとしてろ」

 

馬堀は再び走り出した。

後ろを振り返ると、少女たちは疲れる様子も無く後を追って来ている。馬堀もサブも決して足が遅いわけではない。なのに、段々と距離を詰められている。やはり、あの少女たちは普通ではない。

 

「何なんだあいつらは?」

「ヒィ、ヒィ……、り、陸上部のエースッスかね?女の癖にはえーししつけーし、何なんスかマジで!?」

「俺が聞きてえよ馬鹿」

「……つーか、ガキ相手に逃げんのはもう止めだ止め!!」

 

徐にサブが立ち止まり、少女たちへと向き直った。

 

「おい、クソガキども!!大人舐めんじゃねえぞゴルァ!!」

 

巻き舌気味にそう捲し立てるサブ。どうやら、堪忍袋の緒が切れたという奴であろう。

 

「……まさか、ここまで馬鹿とはな」

 

そうは言いつつも、馬堀はサブのスタンドプレーを内心では喜んでいた。何せ、自ら囮役を買って出たのだ。その心意気は有り難く受けさせて貰うことにする。

 

「邪魔」

「排除します」

 

少女たちは目の前に立ちはだかったサブを鬱陶しそうに見つめると、胸元から鳥のような形をした紙を取り出した。

 

「んだコルァ!?折り紙か?ガキの遊びは家でしろクソガキャァ!!」

 

威勢だけは一人前のサブががなり立てる。見た目よりも喧嘩に弱い彼ではあるが、流石に相手が相手だけに負けるわけがないと高を括っているのだろう。

だが、その相手が不味かった。

 

「行きなさい」

「最悪、殺してもいいよ」

 

まるで周囲を飛び回る蝿に向けているかのように少女たちは冷淡な口調で言った。

彼女の手から放たれた紙の鳥は、まるで生きているかのように飛翔すると、サブ目掛けて急降下していく。次の瞬間、サブの胸が斜めに切り裂かれた。赤い鮮血が周囲に飛び散る。

 

「ああん?」

 

自身に何が起きたか、すぐには分からなかったサブであったが、傷口に指で触れて初めて痛みを感じ、やられたということに気が付いた。指先が真っ赤に染まり、鉄の臭いが鼻をつく。

 

「何じゃこりゃ!?」

 

なおも紙の鳥はサブのすぐ上を旋回していて、次の攻撃を行おうと狙っている。その生々しい動きは最早、ただの紙ではなく本物の鷲か鷹のようであった。

 

「次は目を狙いなさい」

「一撃で仕留めるのよ」

 

少女たちの言葉に呼応するように、紙の鳥は再び急降下する。気が付くと、サブの目蓋の上が鋭い刃のようなもので抉られていた。

 

「ぐうあああああ!!」

 

思わず呻き声を上げるサブ。幸い、目の部分は無事であったが、流れ出る血で片方の視界が塞がってしまう。

 

「くそ……クソッッッ!!」

 

明らかに年下の、それも少女に為す術なくいいようにやられているという現実。彼のプライドはズタズタであった。

 

「この……ガキャァ!!」

 

それでも彼は立ち上がり、少女たちの前に立ち塞がった。倒れれば楽になれる。なのに、何故立ち上がってしまうのか。

尊敬する馬堀の為か。

それも多少はあるだろうが、理由の全てでは無い。

壊れかけたちっぽけなプライドを守る為か。

そうかも知れない。

サブは昔からそういう人物であった。弱いのに売られた喧嘩を買い、ボロボロに負ける。彼にとって勝ち負けなどどうでも良くて、ただ相手から逃げることを良しとしない性分であった。それが彼のアイデンティティーであり、生きる理由。その為ならいくらでも命を張れる。

サブはそういう人間であった。

 

「やりなさい」

「殺しちゃえ」

 

少女たちはうんざりしたような表情で言った。紙の鳥が今度はサブの心臓へと狙いを定める。

 

「さようなら」

「バイバイ」

 

彼女たちのその言葉と同時に紙の鳥が弾丸のようなスピードで飛んでいく。

 

「!!!!!!」

 

サブは思わず目を閉じた。

 

「……あれ?」

 

痛みも何も来ない。

恐る恐る目を開けると、すぐに大きな拳が目に入った。

 

「……お前、本っっ当に馬鹿だな」

「あ、あ、ああ……」

「まあ、お前のそういうところ、嫌いじゃないけどな」

「アニキ!!」

 

そこにいたのは馬堀であった。その手の中にはくしゃくしゃになった紙が握られている。

 

「式神を……!?」

「空中で掴んだ……!?」

 

少女たちは共に驚きの表情を隠せない。

 

「……動体視力には自信があんだよ。こう見えてガキの頃に野球やってたからな」

 

馬堀はくしゃくしゃになった紙を投げ捨てると、少女たちへ向き直った。

 

「うちの馬鹿な部下が世話になったな。その礼、ちゃんとしてやんねーとな」

 

拳をパキポキと鳴らす音が辺りに響いた。

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