Fate/Nexus   作:月影ノブ彦

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一進一退

至近距離で睨み合うアーチャーとライダー。互いに視線を飛ばし合う中、アーチャーが手にしたその猟銃には、ただ飾ってあるのを見るだけでもため息が溢れそうになる程に美しい細工が施されていた。銀かプラチナか。何れにせよ職人の拘りが細部まで見て取れそうである。

 

「……それが、貴様の宝具か?」

 

ライダーが尋ねた。

 

「……さあて、な」

 

飄々とした表情でアーチャーはそう言うと、銃口をライダーの顔へ向ける。

 

「お前さんもなかなかいい銃を使うようだが、コイツにはちょいっと敵わないと思うぜ?」

「能書きはよい。先程の続きと洒落込もうではないか」

「洒落にしちゃあ物騒だけれどもな」

 

言い終わると同時にアーチャーは引き金へ指を掛けた。と、ライダーは距離を取る。

 

「愛馬よ!」

 

ライダーが声を張り上げると、先程乗っていた馬が瞬時に姿を現した。その背の鞍へライダーは素早く飛び乗る。

 

「さて、改めて死合おうか!」

「死ぬのはお前さんだけだぜ、ライダーさんよ!」

 

アーチャーはニヤリと笑うと、猟銃を天へ向けた。そして、引き金を強く引く。

周囲に鳴り響く銃声。

銃口から発射された弾丸は空中で軌道を変えると、そのままライダーへと向かっていった。

 

「ほう……!?」

 

ライダーは紙一重でそれを交わすと僅かではあるが、表情を変えた。余裕ぶった態度はそのままだが、好奇心が混じっているのか、子供のような笑みを浮かべる。

 

「当然、これだけでは終わらぬだろうな」

 

ライダーは先程のように愛馬と共に高く飛び上がった。その背中を交わした筈の銃弾が襲い掛かって来る。

 

「やはり、まだ追尾するか……」

 

それも想定済みだと言わんばかりに、ライダーは空中にて再び飛び上がった。更に上空から自身を追ってくる弾丸を見下ろす。

 

「ふむ」

 

彼もまたマスケット銃を取り出し、狙いを定めた。照準の先は例の弾丸である。

 

「……!!」

 

引き金を引くと同時に大きな破裂音。地面にポトリと鉄の塊が落ちていった。何と、あの小さな的を狙い撃って当てたのである。

 

「ヒュ~♪」

 

アーチャーは感心したように口笛を吹いた。それさえ読み通りだとでも言うかのように。

 

「やるねぇ。凄い集中力だ。射撃の腕は達人レベルだな」

「まさか、これで終わりでは無いだろうな、アーチャー?その程度の男では無いだろう?」

「そちらさんのご期待に沿えるかどうかは分からないがね……」

 

そう言うと、アーチャーは再び猟銃を構える。

 

「当然、これだけじゃ終わらないぞっと!」

 

改めてアーチャーは引き金を引いた。今度は一度だけでは無い。数多の銃声と共に弾丸が複雑な軌道を描いてライダーへと向かっていく。

 

「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる……ってね」

 

尚も弾丸を発射していくアーチャー。正に弾丸の雨がライダーへと降り注いでいく。

この状況下で、ライダーは動揺するどころかほくそ笑んですらいた。

 

「……知っているか、アーチャー?本当に下手な鉄砲は、決して当たりなどしないのだよ」

「あん?」

「いでよ」

 

その言葉と同時に、ライダーのすぐ側へ巨大な大砲が現れた。

 

「いくら蝿が付きまとおうが、一度にまとめて始末すれば良いだけのことよ」

 

そう言うと、ライダーは大砲と共に高く飛び上がった。だが、今度の跳躍はただ避ける為だけでは無い。空中で大砲を下方へと向ける。その先にはライダーを追尾する数多の弾丸、そしてアーチャーたちがいた。

ライダーが再びほくそ笑むのを見て、アーチャーは思わず表情を変える。

 

「!?やべっ!!」

「放て、砲よ!」

 

ライダーが指差すと、大砲から弾が発射された。同時にライダーは愛馬を駆り、空中で更に飛び上がる。

直後、かなりの規模の爆発が起きた。強い爆風と衝撃が周囲に広がる。

 

「マスター!!」

「!?」

 

アーチャーは巻き込まれそうになる馬堀とイリヤを庇う為、彼らの元へ急行した。両手を広げ、背中で全てを受け止める。

 

「くっ……、大丈夫かい?マスターとお嬢ちゃん?」

 

ダメージこそ無かったものの、その動きが隙となる。

 

「敵に背を向けるのは自殺行為だぞ、アーチャー」

 

ライダーの勝ち誇ったかのような声。

次の瞬間、アーチャーの右足が大きく抉れた。

 

「ぐっ!?」

 

アーチャーは思わず片膝をついた。何が起きたのかはすぐに理解出来なかったが、彼のただならぬ様子を見た馬堀はごく僅かに顔色を変える。

 

「おい、どうした?」

「面目ねえ。足をやられちまったようだ」

 

見ると、アーチャーの右足は、まるで皮一枚で繋がっているかのような状態であった。アーチャーはフッと笑ってみせる。

 

「……なるほどね。策士様は、こういう汚ないやり方もお手の物ってわけか」

「汚い?これは戦争だぞアーチャー。戦争に綺麗も汚いも無い。汚い手というものがあるのであれば、寧ろ積極的に使うべきでは無いか?それが戦術家というものであろう?」

「ああ、それは確かに正解だ。あんたは間違っちゃいねえよライダー。だがな……」

 

支えを片方失い、よろよろと立ち上がるアーチャー。普通であれば戦闘を続行出来る状態ではない。それでも気丈に振る舞うアーチャーを見て、馬堀は人間の精神力ではないと思った。

 

「関係無い人間まで巻き込もうっていうのは、粋じゃあねえな!」

 

アーチャーはそう言うと、指をパチリと鳴らした。次の瞬間、ライダーの右肩を何かが貫く。

 

「何っ!?」

 

思わぬダメージにライダーは面食らってしまう。

 

「何を……」

「したの……!?」

 

それは彼のマスターである少女たちも同様であった。

アーチャーはしたり顔でチッチッと指を振って見せた。

 

「その大砲は威力も馬鹿でかいが、音も負けじと馬鹿でかいな」

「何……?」

「銃弾はただ追尾するだけじゃない。待機させておくことも出来るのさ」

「!そうか、あの時に……」

 

大砲が放たれ、アーチャーが背を向けたその刹那、彼はライダーに見えぬように銃弾を発射していたのであった。

 

「……フッフッフッ。いいのか?余に話す必要の無かった情報だと思ったが?」

「ハン!何を仰っているんだか。仮に俺が言わなくても、大体の予想はついていたんだろうが。それに……」

 

アーチャーは軽く舌打ちする。

 

「俺は眉間を狙ったんだぜ?一撃で殺すつもりだった。だのに、それをすんでで交わされたら、もう騙し討ちは効かないってことじゃねえか。なら、隠しても隠さなくても一緒だろうが」

「抜け目ない良い一撃であった。が、余の命にまでは届かなかったな」

「チッ、抜け抜けと称賛しやがって。あくまでそちらさんが上ってことかい」

「信じられぬだろうが、本音で言っている。余にダメージを与えたことは称賛に値するのだからな。だが……」

 

ライダーは手綱を強く握り締める。

 

「貴様は余を殺す唯一にして最大の好機を逸した。故にもう勝ち目など有り得ぬ!」

「そうかい……。だが、そうでも無いぜ?」

 

アーチャーはニヤリと笑って見せた。強がりか本当に策があるのか。何れにせよ、馬堀には足の使えないアーチャーは不利にしか見えなかった。

 

「……宝具の使い時はここじゃあねえ」

 

と、アーチャーは今度は何処からかロープを取り出した。見た目は至って普通のロープである。

 

「どのような玩具を用いたところで、余には通じぬぞアーチャー」

「へっ、例え挑発でも宝具を使えと言わない辺り、慎重なこったな。臆病……とも言えるか」

「そのような安い挑発にも乗らぬぞ」

「まあ、乗らねえよな。……同じ策を練って戦う者同士ってお前さん言っていたな?」

「確かにそのようなことを言った覚えはある。が、それがどうかしたか?」

「……お前と俺とじゃ決定的に違う点が一つある」

「ほう……何が違うというのか、一応聞いておこうか?」

「へっ!」

 

アーチャーは不敵な笑みを浮かべる。

 

「お前さんは慎重に慎重を重ねる……。だが、俺は違う。俺は根っからの冒険家なのさあ!」

 

そう言うと、アーチャーはロープの片側を空高く放った。その先端が電線に巻き付く。

 

「……ってことで、あばよ!!」

 

無事な方の足で力強く大地を蹴るアーチャー。次の瞬間、振り子の要領で大きく弧を描くと、その勢いのまま後ろの馬堀とイリヤを抱えて跳んでいった。

 

「ヒィーッヤッハーーーーー!!鬼さんこちら、手の鳴る方へっと!!」

 

無邪気な子供のような表情でアーチャーは叫んだ。

一方でライダーは無表情のまま状況を見つめていた。。

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