Fate/Nexus   作:月影ノブ彦

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お姉ちゃんに会いに行く

「~~~♪」

 

草壁真は何やらメロディを口ずさみながら街を歩く。何処かで聞いたことがあるような、でも思い出せないメロディ。

 

「…………」

「…………」

 

街行く人々が思わず真のことを見る。幼い顔つきに似合わぬ黒いアイシャドウと口紅、長い黒髪をアップにし、全身を黒いゴシックロリータ調の服に包んだ真は一際目立つ存在であった。時折、左手に抱えたテディベアへ話し掛けているのもそれに拍車をかける。真は明らかに周りから浮いていた。

だが、それを差し引いても真は美人であった。故に、すれ違う度に男性の目を引いている。女性でさえ、素直に真のことを可愛いと認識する程である。

だから、真が声を掛けられるのも必然であった。

 

「ヘイ、彼女!」

 

人通りの少ない路地に入ったのと同時に背後から声を掛けられ、真はピタッと立ち止まる。そして、ゆっくり後ろを振り返ると、二人組の男たちと目が合った。

 

「ヒョー。可愛いね君ィ」

「俺らと遊ばない?」

 

キョトンとした真の顔を見てそう言ってきたのは、大学生くらいと思われる背の高い男と背の低い男であった。不良っぽい出で立ちと顔つきから、あまり素行のよろしい者たちでは無いだろうということが一目で分かる。どうやら、真はこの二人にナンパされたようであった。

 

「……?」

 

真は念の為、自分を指差して二人組へ確認する。と、二人はうんうんと首を縦に何度も振って肯定した。

 

「ねえねえ。君、名前は?」

「何処の子?」

「そのゴスロリは趣味なん?」

「何か答えてよ~」

 

二人組はそうやって真へ矢継ぎ早に話し掛けてくる。その目は飢えた野獣、といったところか。何としてもお持ち帰りしてやろうという魂胆が表情から透けて見えた。

 

「一緒にお茶してくれるだけでもいいからさ~」

「頼むよ~」

 

ニヤニヤと笑いながら男たちは言った。そんなつもりは毛頭無いというのが伺える程に助平心丸出しの顔である。

 

「…………いいよ」

 

真は少し考えるような仕草をした後、そう言ってニコッと微笑む。すると、二人組は互いに顔を見合わせて嫌らしく笑う。

と、その時、真は徐に二人組の内、背の高い方の手を掴む。

 

「んあ?」

「……ボクはいいけど、君たちはいいの?」

 

そう言って、真は自身の胸へ躊躇なく男の手を押し付けた。

 

「!?」

 

ある筈の感触が無い。女性特有の柔らかなあの感触が。いくら、華奢で胸が小さくともこれは度が過ぎている。

男がそう疑問を抱いたのと同時に真は口を開いた。

 

「ボク……男だよ?」

「げげッ!?」

 

男は真の言葉に一瞬で不機嫌な表情になり、その手を強く振り払った。

 

「ふ、ふ、ふ、ふざけんなてめえ!!」

「…?声を掛けてきたのはそっちでしょ?」

「うるせえ!!この変態野郎!!」

 

返す刀で背の高い男は真へと殴り掛かって来た。完全な八つ当たりである。

だが、真は難なくそれを交わすと、バランスを崩した男の軸足を厚底のブーツを履いた足で払った。男は思い切り前のめりで転倒し、顔を地面へ強く打ち付ける。

 

「ぐへっ!?」

「アハハハ。まるでカエルさんみたいだね。面白~い」

「て、てめ…」

 

背の低い方の男がポケットから白く光るものを取り出した。小型のナイフである。

しかし、真は一切動じなかった。

 

「君もボクと遊ぶの?」

「……!?」

 

男は、そう言う真の顔を見て思わず凍ってしまう。言葉では面白いと言っていた真の目は、全く笑っていなかったからだ。一切の感情が排除された空虚な目が鈍く光っている。その目で見つめられると、まるでレーザー光線でじわじわと焼かれるような痛みが男の心臓を襲っていた。その視線はまるで、見つめられると石化してしまうというメデューサのようである。手にしたナイフが、まるで何の役にも立たないと錯覚させられそうであった。

 

「て、て、て、てめえええええ!」

「ボクと遊んでくれるんだね?」

 

真は再びニコッと笑う。その瞬間、強力な殺意を男たちは感じ取った。喧嘩も数える程しかしてないような彼らでさえ感じ取れる程の殺意。それはまるで極寒の地の大吹雪を裸で受けているような状態であった。

 

「う、うわあああああああああああああ」

 

背の低い男はナイフを放り捨てると、形振り構わず走り出し、その場から逃げて行ってしまった。

 

「お、おい、待て!待てってば!!」

 

背の高い方の男も急いで立ち上がると、逃げた相方の後を追って走って行った。真の殺意に心から恐怖し、これ以上やり返そうなどとはとても思えなかった。

その様子を真は何の感慨も無く、ただ見つめている。と、逃げる二人の背中へ指鉄砲を向けた。

 

「……バン!」

 

銃声を真似てそう言うと同時に指先から何かのエネルギーのようなものが放たれた。

 

「がっ!?」

 

それを受けた背の低い方の男がバタッと倒れた。口から泡を吹き、白目を剥いている。

 

「お、おい!大丈夫か!?」

「……バン!」

 

真は躊躇なく二発目を放った。それは、背の高い方の男の側頭部に命中する。まるでハンマーで思い切り殴られたような衝撃に男は一瞬で気絶してしまう。

男たちがぐったりしているのを見てから、真はポツリと呟いた。

 

「……つまんないの」

 

真は笑みの消えた心底つまらなそう顔になると、踵を返して再び歩き始めた。

 

「あ~あ。本当につまんない。……ねー?つまんないよねー?」

 

真は歩きながら左手のテディベアへ話し掛けた。当然ながら、テディベアからの返事はない。だが、真はうんうんと納得したかのように頷いている。

 

「やっぱり君もそう思うんだね?…………………アサシン」

 

真は同意を得られて嬉しいとでも言うように僅かに笑みを浮かべた。

 

「……でもね、もうすぐ嬉しいこと。楽しいことがあるんだ。楽しいことは君も知ってるでしょ?アサシン」

 

テディベアは相も変わらず沈黙を貫いているが、構わずに真は話を続けた。

 

「嬉しいことはね。やっと会えるんだ。ボクの、お姉ちゃんに。知ってる?ボクのお姉ちゃんは魔術師なんだよ?ボクと同じ魔術師なの。君にも早く会わせたいなあ。きっと気に入ると思うんだ」

 

そう言う真の顔は何時の間にか満面の笑顔に変わっていた。それだけ見れば、純粋無垢な可愛い少女と言っても差し支えは無かったろう。

 

「……早く会いたいなあ。お姉ちゃん」

 

真は胸に下げたロケットを手に取ると、中を開いた。そこにあったのは、一人の少女の顔写真であった。真とよく似た黒く長い髪をツインテールにして、幼いながらも、凛とした自信に満ちた顔つきをしている。真は写真の少女をじーっと見つめる。

 

「……待っててね。お姉ちゃん。今すぐ会いに行くから」

 

真はロケットをしまうと、前を向いて歩き続けた。

真は今、向かっている。

もうすぐ“お姉ちゃん”が帰ってくる冬木市へと向かって。

 

「大好きだよ。お姉ちゃん」

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