ベルリンの本懐 【完結】   作:えいどら

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最終話
最終話


 12月25日。クリスマス当日。

 

 いつもの放課後よりも静かな校舎の隅――

 演劇同好会の部室に、西園チグサの姿があった。

 

 部屋の中央には、テーブルが一つ。その上には――

 手作りの折り紙の星や、少し色あせた紙の鎖飾り。

 買ってきた紙皿とカップには、赤と緑のリボンがちょこんと巻かれている。

 

「ふふっ……完璧じゃん、これ!」

 チグサは両手を腰に当てて、飾り付けを満足げに見回す。

 

 テーブルの上には、ちょっと奮発したチキンのオードブル。

 ケーキはイチゴがたっぷりのホールサイズを用意している。

 そして端には、段ボールの箱――予約しておいたピザが4種類も湯気を立てて並んでいた。

 

「チーズのやつと、ジェノベーゼと、てりやきチキンと……あと、クワトロのやつも頼んだからね!」

 誰もいない部屋に、元気な声が響く。

 

 ……しかし――

 

 時間が過ぎても、誰も来ない。

 

 時計の針が17時を回った頃、チグサは自分のスマホをちらりと見て、ぽつりと呟いた。

 

「おかしいなぁ……」「時間、間違えたっけ……?」

 

 そう言いながらLINEを確認するが、間違いはなかった。招待メッセージも既読はついている。

 

 もう一度、テーブルの上を見る。料理は綺麗に並べられたままだ。

 

 「……もしかして、私、嫌われてるのかなぁ……」

 

 苦笑いを浮かべながら、隅の椅子に腰を下ろす。

 椅子の背もたれに寄りかかりながら、部室の窓の外を見ると――

 

 雪が降っていた。

 

 空は薄い灰色。校庭にはうっすらと白が積もり始めている。

 部室の古びた窓の隙間から、ひやりとした風が入り込んで、頬を冷やした。

 

 「……暖房つけてても、ちょっと寒いね」

 

 そう呟いて、膝を抱える。

 

 手元にあったピザの箱を開けて、スチームがふわっと上がると、思わず目が潤む。

 

 「……ピザ、頼んだんだよ……?」

 

 「4種類の……美味しそうなやつ……」

 

 言葉は誰にも届かない。

 チグサは小さく肩をすくめて笑った。だけど、その笑いはどこか寂しかった。

 

 静まり返った部室に、ぴらりと何かが風にめくれる音が響いた。

 

 チグサがふと振り向くと、教室の隅――扉の近くの棚の上に、新聞の号外が無造作に置かれているのが目に入る。

 表面が半分折れたままで、床に落ちかけていた。

 

 「……ん?」

 

 立ち上がって、それを手に取る。

 思ったよりも紙質がしっかりしていて、見開くと、大きな文字が目に飛び込んできた。

 

 【巡査長、違法取引を阻止】

 ~薬物組織の摘発に成功~

 

 記事中央には、栞葉るりの写真。

 場所は、あの――亀宮ホテルの4階外縁。

 

 崩れかけた窓から下を見下ろすその顔は、凍りついたような表情で、

 記事のタイトルと裏腹に、勝者の顔ではなかった。

 

 チグサは、しばらくその紙面を見つめたまま、ぽつりと呟いた。

 

 「……これが、セツカさんの罠だったとはねぇ……」

 

 手にした新聞の角を軽く折り曲げ、記事の下の小さな欄にも目を通す。

 そこには、事件関係者への感謝、警察庁のコメント、さらに栞葉への表彰予定まで記されている。

 

 「でもさあ……」

 

 紙面の中の、あの写真――

 それを思い返すたび、チグサの胸にざわつくものがあった。

 

 「栞葉さん、表彰されてたのに……全然嬉しそうじゃなかったなぁ……」

 

 思い浮かぶのは、別の日――

 告知を受けていたのに、どこか上の空で、それを他人事のように聞き流していた彼女の横顔。

 

 目は伏せ気味で、声もかすれていて、褒め言葉にも微かに首を傾けるだけだった。

 

 「……あの時の顔、今も忘れられないんだよね……」

 

 引きつったような微笑み。

 笑おうとして、うまく笑えなかった人の顔。

 

 無理に口角を上げていたけど、目は……少しだけ、潤んでいたような気がする。

 

 それを思い出すと、胸の奥がじんわりと痛くなる。

 

 

 ――その“達成”の裏に、どんな景色を見ていたのか。

 チグサには、それがまだ分からなかった。

 

 窓の外では、雪がゆっくりと降り続いていた。

 

 暖房の効いた部室でも、時折冷たい風が忍び込んで、

 チグサの頬をひやりと撫でる。

 

 その静かな空気の中、彼女はそっと新聞を畳んで、ピザの箱の隣に置いた。

 

 テーブルの上のキャンドル型のライトが、小さな円を描いて揺れていた。

 

 部室は相変わらず静かで、外では雪が音もなく降り続いている。

 ピザの箱からはもう湯気は立たず、ケーキの生クリームもほんの少し乾いてきていた。

 

 チグサは、スマホを手に取り、メッセージアプリのグループトーク欄を開く。

 

「みんな……何してんのかな……」

 

 スクロールした指が、ある投稿で止まった。

 

 東堂コハクのメッセージ――

 

 >「クリスマスって、イブが本番なんだって〜」

 

 その一文を見て、チグサの顔に、ゆっくりと影が差していく。

 

 「……今本番してる……」

 「今、本番してるよ……」

 

 まるで芝居の台詞のように、同じ言葉を小さく二度、呟いた。

 

 その声に応える者はいない。

 ただ、空調の風が少しだけ鳴って、飾り付けの紙がふわりと揺れた。

 

 ――それでも、頭の片隅には、あることが浮かぶ。

 

 新聞の報道。

 

 あの日、白日の下に晒されるはずであった、殺人をもろともしない恐ろしい国営の殺人組織の実態が報じられることは一切なく、

 

 代わりに「栞葉るり巡査長」の勇気ある捜査の結果が一面を飾っていた。

 

 東堂セツカの案とは、報道陣による、誰の手も介さない号外のばら撒きであった。

 

 指定した時間にジャーナリストを呼び出し、特報になるからと見つかりにくい場所で待機させ、そこで起こった事象を有無を介さず記事にしてばら撒くというもの。

 

 しかし、そのアナログに繋いだコードに電気を灯すようなその作戦は、電源そのものを差し替えられたことにより、全く違う形で昇華されて消えたのだ。

 

 「……ねぇ、コハクちゃん」

 

 チグサは、スマホの画面に向かって話しかけるように呟いた。

 

 「セツカさんのこと……あれからどう思ってるの?」

 

 返事が返ってくるはずはなかった。

 

 けれど、チグサは静かに目を伏せて、膝に手を置く。

 

 「せめてさ……ちゃんと姉妹で、仲直りしてほしいよ……」

 

 それは、演劇なんかじゃない。

 誰に見せるわけでもない――本音の台詞だった。

 

 そう思いながら、彼女は部室の椅子に、もう一度深く腰をかけた。

 

 テーブルのケーキの上に飾られた小さなサンタが、揺れるライトの影で、まるで微笑んでいるように見えた。

 

 部室の隅で小さくため息をつきながら、チグサは再びスマホをいじり始めた。

 

 LINEも、グループチャットも、通知は特になし。

 代わりに開いたのはSNS。無意識にスクロールを続けていると、ある見慣れた名前の投稿が目に飛び込んできた。

 

 「朝比南」――チグサがかつて憧れた、そして今も背中を追い続けている先輩の名前だ。

 

 

 

 「クリスマスに味噌煮込みうどん食べてる」

 

 

 投稿には、大学の食堂らしきテーブルと、土鍋でグツグツ煮立った味噌煮込みうどんの写真が添えられていた。

 

 美味しそう。あったかそう。

 ……でも、それより何より――

 

 「私……味噌煮込みうどんに負けたのか……」

 

 チグサは両手でスマホを抱え、顔を机に伏せるようにして項垂れた。

 今日この日のために、飾りつけして、ピザを頼んで、ケーキを選んで……

 なのに、先輩のクリスマスはうどん一杯で完結していた。

 

 でも、ふと思い直す。

 

 ――演劇同好会は、みんなの力で再出発できた。

 あの時は部室すらなかった。活動もできなかった。けれど、いまこうしてちゃんと「居場所」がある。

 

 温かい空気の中で、ピザが並んでて、ケーキもある。

 誰も来なくても、灯りはちゃんと灯ってる。

 

 (まだまだ……南先輩に胸張って「戻ってきました!」って言えるほどじゃないけど……)

 

 (でも、ここからだもんね)

 

 チグサはそっとスマホを伏せて、背筋を伸ばす。

 

 部室の時計は、もう午後の七時を回っていた。

 外はすっかり真っ暗で、ガラス窓の外にはちらちらと雪が降り続けている。

 

 チグサはスマホを手に、トークルームを何度目かのように開く。

 画面には、新着メッセージがひとつ。

 

 東堂コハク

 「あとちょっとで着く」

 「知らんけど」

 

 その最後の一言が、ぐさりと胸に刺さる。

 

 「……私、いじめられてるのかな……」

 「……嫌われてるのかな……」

 

 誰に言うでもなく呟き、机に顔をうずめる。

 

 ――その時だった。

 

 ガチャ。

 

 部室の扉が開く音がした。

 

「え……誰もいないじゃん」

 

 開口一番、ちょっと引いた声で言いながら入ってきたのは、周央サンゴだった。

 

 チグサはその声に顔を上げると、次の瞬間――

 

「ンゴーーーーー!!」

 

 涙目になりながら駆け寄って、サンゴに思いっきり抱きついた。

 

「うおっ!?」

 

 サンゴは思わず一歩後ずさる。

 

「あっ……帰るか」

 

 と、すかさず扉のノブに手をかけるが――

 

「帰らないで帰らないで!!」

 

 チグサは必死でサンゴの腕を掴み、そのまま部室の中へと引きずり込む。

 

 サンゴは抵抗もせず、そのままズルズルと引かれながら、部室の中を見渡した。

 

 クリスマスカラーの飾り付け。

 テーブルには、ピザ、チキン、ケーキ……全部まだ手付かずで並んでいる。

 

 部室全体が、チグサ一人の努力で飾られていることは、見ればすぐにわかった。

 

「えっ……寂し……」

「これ……ずっと一人でやってたの……?」

 

 引き気味の声に、チグサは涙目でうなずく。

 

「うん……みんな来ると思ってたから……」

 

 サンゴは目を逸らして、「いや、まじか……」とぼそり。

 なんとも言えない空気が、二人の間に流れた。

 

 サンゴに引きずり込まれるようにして始まった小さな集まり。

 その後しばらくして、北小路ヒスイと東堂コハクも部室の扉を開けて入ってきた。

 

 やっと全員が揃った空間。

 けれど、チグサは内心落ち着かなかった。

 

 誰も、自分の目を見てくれない。

 飾りつけも、ピザもケーキも、驚いたり感動したり――そういう反応はない。

 

 そして、チグサは口を開いた。

 

「ねぇ、みんな……なんで遅れてきたの?」

 

 静かに、でもはっきりと投げかけた言葉。

 

 その瞬間、全員の目線がズレた。

 

 ヒスイは窓の外を眺め、サンゴは天井を見上げ、コハクはピザの箱を見つめる。

 

 「……ちょっと」

 「ちゃんと私の目を見よ?」

 「目を合わせよ?」

 

 チグサの声には、微かな寂しさと怒りが混じっていた。

 でも、それでも誰も視線を合わせない。

 

 その空気の中で――

 

「聞いてる聞いてる!」

「超聞いてる!」

 

 空気を読まずに元気よく返したのはコハクだけだった。

 文脈などどこ吹く風。とにかく、元気だけは満点。

 

 チグサはしばし沈黙し、その後――力なく、笑って呟いた。

 

「そっか……」

「……よく分かったよ……」

 

 そのままテーブルの真ん中に歩いていき、片手でケーキナイフを掲げると、表情をパッと明るく切り替えた。

 

「ま、今日はクリスマスだしな!」

 

 その言葉が合図のように、場が一気に切り替わる。

 

「いぇーい!」

「乾杯ー!」

「メリークリスマース!」

 

 紙コップがぶつかり、クラッカーが鳴る。

 ピザの箱が開かれ、ケーキが切り分けられる。

 

 誰も言い訳をしない。

 誰も謝らない。

 でも、みんなここにいる。

 

 今夜はなんだかうるさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 パーティは想像以上に和やかに進んでいた。

 ピザのチーズが伸びるたびに誰かが「うわ、エグっ」と笑い、ケーキの断面を見て「芸術だな」とコハクがコメントする。

 

 そんな中、チグサはふと思い出したようにサンゴに声をかけた。

 

「ねえ、そういえばさ」

 

 サンゴは口をモグモグさせながら「ん?」と顔を上げる。

 

「あの亀宮ホテルって、なんであんな手つかずになってたの?」

 

 パーティの陽気な空気とはやや異なる問いに、サンゴは少しだけ手を止めた。

 

 目線を落とし、言葉を探すようにゆっくり答える。

 

「……色々あってね」

 

「元々、耐震基準を満たしてないから取り壊し予定の場所だったんだよ」

 

「愛知県の今池ビルとかと同じだね」

 

 チグサはピザの耳をかじりながら「ふーん……」と相槌を打つが、表情はどこか納得していない。

 

 それを見て取ったサンゴは、少し声を落として続ける。

 

「じゃあ、もう少し踏み込んだ話をするね」

 

「亀宮ホテルは、元々赤羽夫妻っていう人たちが経営してたホテルだったんだ」

 

「でも……ある日、奥さんが行方不明になって、そのあと旦那さんも、後を追うように亡くなったんだ」

 

 チグサのフォークが、カチャリと皿の上で音を立てる。

 

「旦那さんね、奥さんが消えてからはずっと娘さんのことを気にかけてたらしくて……」

 

「だからこそ、あの自殺はおかしい、何かの間違いじゃないかって言ってる従業員もいたみたい」

 

 静かだった部室の空気に、少し冷気が入り込んだ気がした。

 遠くの窓から、風に揺れる雪の音が微かに聞こえる。

 

「やばっ……」

 

 チグサはゾッとしたように身をすくめる。

 

「やめてよ、今日クリスマスなんだから……」

 

 ピザの箱の上に肘をつきながらチグサが震えると、ヒスイがぼそっと呟く。

 

「話の温度差……」

 

 コハクはケーキのフォークを持ったまま真顔で、

 

「東堂コハクは……霊的な話が大の苦手です……」

 

 と宣言した。

 

 みんながワイワイと騒ぎ始め、コハクがケーキを三角に切ろうとして失敗し、ヒスイが無言でやり直す――

 そんな賑やかな空気の中で、サンゴは一人、静かに目を伏せていた。

 

「……そうだね」

 

 チグサに向けて優しく答えながらも、その瞳は笑っていなかった。

 

 サンゴは、さっき自分が話した“亀宮ホテルの歴史”をゆっくりと思い返す。

 

 そういえば――

 

 亀宮ホテルの従業員の人の話では……

 

 ――赤羽夫人は、

 16歳でホテルを継いでから、年末年始や冠婚葬祭以外で一度も休んだことがなかった。

 ホテルの仕事が“何より好き”だった――とあったのを、まだ覚えている。

 

 カフェ・えにからも元々は赤羽夫人がホテルを放り出して休めるよう、主人が別の働き口として作った場所であった。

 

 その記憶が、サンゴの胸に引っかかる。

 

 ……“一度も休んだことがない”?

 

 サンゴの指が、コップの縁を静かに撫でる。

 

 

 

 

 

 じゃあ、実の子供を孕っていた期間は……どうしてたんだ?

 

 

 

 

 

 普通なら、体調が不安定になる時期が何度もある。

 つわりで動けない月もある。

 ましてホテルの現場で働き続けるなんて、まず不可能だ。

 

 なのに――

 

 「一度も休んだことがない」

 

 それは、あまりにも出来すぎた話だった。

 

 ……本当に“実の子”だったのか?

 

 いや、養子にしても子供のことで一切休まない母親は母親と言えるのか?

 

 それとも――“そういうこと”にされていただけ……?

 

 胸の奥で、冷たいものが静かに広がっていく。

 

 チグサたちの笑い声が遠のき、ケーキの甘い匂いが薄らぎ、

 クリスマスの温かい部室の中で、サンゴだけがまるで影の中に沈んでいくようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雲が重たく垂れこめる午後。

 地上から遠く切り離されたように、亀宮ホテルの地下は不気味なまでに静まり返っていた。

 

 かつて賑わいを見せていたであろうゲームコーナーは、今や廃墟の一歩手前だった。

 

 埃の匂いと古びたカーペットの湿気が混ざり合い、空気は重く、粘りつくように肺に入ってくる。

 

 その中央。

 

 壊れた天井の隙間から差し込む灰色の自然光の下、

 一人の少女が仰向けに寝転がっていた。

 

 背中には何も敷かず、体は古びた絨毯の上にそのまま沈んでいる。

 白い肌に、ほんのわずか汚れがついていることも気に留めていないようだ。

 

 深紅のワンピースは、埃を跳ね除けるように鮮やかで、

 胸元には不自然なまでに綺麗なリボンが一つ、歪みもなく結ばれている。

 肌は蝋細工のように滑らかで無機質、

 瞳は開かれておらず、けれどまるで「見えているかのような」気配を漂わせている。

 

 まるで眠っている。

 けれど、その呼吸音も心音も、この空間には一切響いていない。

 

 周囲の空間だけが、時間から切り離されているようだった。

 

 少女の傍には、埃をかぶったスロットマシンが二台、斜めに傾きながらも静かに立っている。

 レバーには誰かの指紋が幾重にも重なり、ボタンは沈んだまま戻らない。

 

 その隣には、灰皿が置かれたテーブル。

 中には折れたタバコが数本、まるで吸いかけのまま時が止まったように並んでいた。

 紫色の火が消えないまま数十年眠り続けているかのような、得体の知れない不穏さがそこにあった。

 

 壁際には、エアホッケー台。

 天板にはヒビが走り、パックは見当たらず、モーターも沈黙を保っていた。

 奇妙なことに、その全てがきちんと整頓され、端に寄せられている。

 まるで、何者かが「ここに横たわる少女のために場所を空けた」ように。

 

 風の通らぬはずの地下に、なぜか微かに森のざわめきが響いている。

 木々が揺れ、葉が擦れる音。時折混じる、小動物の足音のようなもの。

 

 しかし――それらはどこからも発せられていない。

 

 この場所には人の気配はない。

 けれど、何かが在る。

 

 少女の指先がぴくりと動いたように見えて、見間違いだったと確信するには遅すぎる。

 

 まるで、この空間すべてが“彼女のもの”であると告げているかのような、そんな静けさ。

 

 ――異質な少女と、異様に整ったアナログの死角。

 

 その場所には、まだ誰も踏み込んでいない“禁忌”が眠っている。

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