虐げられていたとはいえ、ここまでのざまあは望んでいない   作:匿名希望さん

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15 ついに、彼らは対面する

 ひんやりとした大理石の廊下に、ボクの足音だけが吸い込まれていく。

 気配を殺し、息を潜める。この通路を抜けた先にあるのは、公爵家の財産のすべてが眠る、宝物庫。

 こんな場所に、使用人より身分の低いボクがいるだけで怪しまれる。誰にも見つかるわけにはいかない。

 どうか、誰にも会いませんように。

 ボクが壁際を祈るように進んでいた、その時だった。

 

「マスター」

 

 不意に、すぐ隣から低い声がした。

 心臓が跳ね上がる。慌てて振り返るが、そこには誰もいない。

 いや、違う。空間がわずかに揺らめき、見えない『何か』の存在を感じる。

 

「バーナード!?」

 

「どうやら弟君が、何やら良からぬことを企んでいるようですな」

 

 いつの間に。遺跡で待っていていいよ、と言ったんだけど。ボクの心配をよそに、渋い声は淡々と続ける。

 レオのことだ。

 

「どうして、そんなことがわかるの?」

 

「フラグメント殿の同型機を数体、屋敷に配置させていただきました。マスターの許可なく独断に及んだこと、まことに申し訳ございません」

 

 ああ、そうか。フラグメントは、もともと偵察用の機械人形だった。その能力を使えば、屋敷の中の情報を集めることなんて、造作もないことなのかもしれない。

 ボクのためにやってくれたことだ。そういうことなら、怒りが湧くはずがなかった。

 

「……いいんだ、バーナード。ボクを守るためなんだろ? ありがとう」

 

「もったいなきお言葉。それでマスター、このままでは、いずれレオ君に見つかり、因縁をつけられるかと。いかがいたしますか?」

 

 どうする?

 ボクは唇を噛んだ。今、レオに捕まるわけにはいかない。

 アストライアが待っているんだ。彼女を直すための、最後のピースが、すぐそこにある。

 あの美しい機械人形の、悲しげな顔が脳裏をよぎる。早く、直してあげたい。

 ボクの葛藤を察したのか、バーナードが静かに言った。

 

「僭越ながら、マスター。よろしければ、このバーナードめに、お任せいただけないでしょうか」

 

「でも、バーナードに危険なことさせるわけにいかないよ」

 

「ご心配には及びません。この身の戦闘能力は、常人のそれを遥かに凌駕しております。マスターのお手を煩わせるまでもございませんぞ」

 

 その言葉に、フラグメントが取り巻きの腕を切り落とした、あの日の光景が蘇る。

 フラグメントでさえ、あれだけの力があるんだ。彼よりもずっと大きく、見るからに頑丈そうなバーナードなら、きっと問題ないだろう。

 

「……わかった。君に、任せるよ」

 

「はっ! お任せください。それと、波風は立てぬよう、細心の注意を払いますのでご安心を」

 

「ありがとう、バーナード」

 

 ボクがそう言った次の瞬間、バーナードの気配がフッと消えた。

 そういえば、前に「主の歩む道を、影となりて平坦にする」なんて言ってたっけ。

 守ってくれるのは心強いけど、超古代文明のことが世間に知れたら、間違いなく面倒なことになる。そのことを釘を刺しておきたかったけど、もう遅いか。

 でも、バーナードは優秀だ。きっと、上手くやってくれるだろう。

 今は、信じるしかない。ボクは気持ちを切り替え、再び宝物庫へと足を速めた。

 

 

「チッ……! あの出来損ない、どこ行きやがった!」

 

 レオは苛立ちを隠さず、廊下を速足で歩いていた。

 時間が立つにつれ苛立ちが募る。今すぐあの忌々しい顔を見つけ出して、ギタギタに痛めつけてやりたいという衝動が、体を突き動かしていた。

 

「レオ様!」

 

 取り巻きの一人が、息を切らして駆け寄ってくる。

 

「見つけました! ルックの野郎です! あっちの廊下を、コソコソと歩いていくのを見ました!」

 

 その言葉に、レオの目がギラリと光った。

 取り巻きが指し示した先。それは、この屋敷の最重要区画――宝物庫へと続く、唯一の通路だった。

 

「宝物庫……? あの出来損ないが、一体何をしに……?」

 

 疑問が浮かぶが、どうでもいい。

 好都合だ。あんな場所なら、人目もない。思う存分、魔術をぶち込んでやれる。

 レオの口元に、残忍な笑みが浮かんだ。

 さあ、ショーの始まりだ。

 

「行くぞ!」

 

 レオが、獲物を追い詰める狩人のように駆け出そうとした、その瞬間だった。

 

 ――目の前に、いた。

 

 角を曲がったわけでもない。物陰から出てきたわけでもない。

 まるで、最初からそこに立っていたかのように、自然に。

 くたびれた服を着て、少しだけ驚いたような顔でこちらを見つめる、あの忌々しい兄――ルック・ヴァインライトが、そこに立っていたのだ。

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