魔法学校のアレム   作:yumui

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遺産

雪がちらつく山道を進むなか、アレムとアウラは緊張を含んだ静寂に包まれていた。

小人の里のさらに奥、山中に点在する“秘宝の眠る地”を探す最中だった。

 

「このあたりに、“風の巫女”って呼ばれる小人の長老が住んでるらしい。

宝探しに必要な“風の鍵”を管理してるとか」

 

アウラが呟きながら、雪を踏みしめる。

 

「……なんか、空気が変だ」

 

アレムも眉をひそめた。

雪の匂いに混じって、どこか焦げたような、甘く苦い香りが漂ってきていた。

 

山道を抜けた先、森の合間にぽつりと建つ家――

それが長老の住むはずの小人の家だった。

 

だが。

 

「……燃えてる!!」

 

屋根から煙が立ちのぼり、壁の一部が赤く燃えていた。

 

「中に誰かいるかも!」

 

アレムは叫び、結界魔法で雪を巻き上げて炎にぶつけながら中へ駆け込む。

アウラも弓を構え、周囲を警戒した。

 

室内は煤と熱気でむせかえるほどだったが、奥の部屋で小さな人影が倒れていた。

 

「長老!!」

 

アレムが抱き起こすと、小人の女性が目を覚ました。

 

「だ、誰かと思えば……あんた、人間の か子……」

 

アウラが応急の包帯を巻きながら言う。

 

「一体、誰が……?」

 

長老の瞳は揺らぎながら、震える声で言った。

 

「……魔王軍が来たのさ。……」

 

アレムの顔色が変わる。

 

「まさか………?」

 

「そうさ。そいつは金色の鎧をまとった女だった。身の丈より大きな戦斧を軽々と持ってな。

名乗ったんだよ――金鋼鎧のシルキィ……」

 

アウラの顔が強張る。

 

「魔王四騎士の一人……?」

 

長老は続ける。

 

「奴は……《鍵》を狙っていた。あれがあれば、我ら小人族の秘宝《氷哭の箱》が開く……

その中には、人の精神を正気に戻すマジックアイテムがあると伝えられてる……」

 

「何が入ってるんだ?」

 

「……誰も知らん。ただ、過去に一度、それを使った者がいて――

結果は悲惨なものだった、とだけ伝わってる……」

 

アレムとアウラは顔を見合わせた。

 

(大会どころじゃない……!)

 

「他にも参加者がこの里に来てる。みんなに警告しないと!」

 

アウラが立ち上がるが、そのとき。

 

ズン……!

 

遠く、雪山の尾根の向こうから重々しい足音が響いた。

 

「来たか……」

 

長老が震える声で言った。

 

「奴だよ。まだ、この地にいる。宝を探しているんじゃない……

すでに見つけて、鍵が足りなくて困ってるんだ」

 

「なら、鍵はまだここに……?」

 

「隠してある。けど――もう私じゃ、守れない……」

 

小さな手が、アレムの右手を握った。

 

「頼むよ。人間の子。あんたの瞳の奥に、あの魔王の姿がちらついた……

でもあんたは、まだ何者でもないように見える」

 

「……!」

 

「だから、あんたに託すよ。鍵も、氷哭の箱も、未来も――全部」

 

アレムは強くうなずいた。

 

「わかった。必ず、止める。シルキィも、そして……魔王の影も」

 

長老の家を出たとき、空から雪が舞い落ちていた。

 

だがその白の中に、一筋だけ金色の光が差し込んでいた。

 

尾根の上に立つ影。

 

小柄に反してきらめく金の全身鎧。

斧を担ぎ、瞳を光らせる女が、低く叫んだ。

 

「鍵を持つ者よ――出てこい。」

 

その声に、山が震えた。

 

アレムの右腕がじり……と疼いた。

再び動き出した、魔王の因果。

それは今、息子である彼の目の前に姿を現したのだった――。

 

金鋼鎧のシルキィ――

その名の通り、彼女の全身を包む黄金の鎧は、斬撃も魔術も通さなかった。

 

アレムの血の魔術すら、表面をかすめただけで弾かれた。

 

「ちっ、全然通らない……!」

 

アウラの放つ矢も、正確に関節や目元を狙っていたが、ことごとく跳ね返された。

 

「硬すぎる……! それに動きも重くない……本当に人間か?」

 

シルキィは巨斧を振り下ろすたびに、周囲の雪と岩を吹き飛ばし、空気そのものを震わせる。

 

そして、巨大な一撃が地を砕き、二人の足元を崩した。

 

「アレムッ!!」

 

「アウラ!!」

 

二人はそのまま、砕けた崖から谷底へと転落していった――。

 

意識を取り戻したとき、アレムは白い冷気の中で横たわっていた。

頬を打つ雪の感触。そして、見慣れた金の髪がすぐそばにある。

 

「アウラ……無事か……?」

 

「……生きてる。多分、骨も折れてない」

 

雪をかぶったアウラが起き上がり、辺りを見回した。

 

そこは谷の底、崖下に広がる樹氷の森だった。

 

すると、背後からかすかな足音が近づいてくる。

 

「……思ったより早く見つけたわね」

 

凛とした声にアレムが振り返ると、そこには長い銀髪と翠の瞳の少女――リフィア=ティルエルが立っていた。

 

「リフィア……!」

 

「二人が上で戦っていたの、見えてたわ。だから急いで降りてきたのよ」

 

彼女は肩に軽く雪を払って言う。

 

「まずは、これ」

 

リフィアが差し出したのは、青白く輝く小さな鍵だった。

 

「それは……鍵……!?」

 

「そう。正確には、長老から託されたもの。私も、シルキィに狙われていた」

 

アウラが警戒を解かぬまま尋ねる。

 

「無事だったってことは……戦ったの?」

 

「ええ。交戦した。けれど――妙だった」

 

リフィアの目は真剣そのものだった。

 

「彼女、殺そうとしてこなかったのよ。あれだけの力があるのに、本気で私を傷つけようとしなかった」

 

アレムが眉をひそめる。

 

「でも、僕たちは……吹っ飛ばされたぞ。崖から落とされて……殺されてもおかしくなかった」

 

「殺す気があったら、とっくにやれてたわ」

 

アウラも黙り込んだ。

あの戦い――確かに“倒された”というより“排除された”ような感覚があった。

 

「それだけじゃないわ」

 

リフィアがさらに続ける。

 

「この宝探しで、すでに数校の参加チームがシルキィと接触した。

けれど、誰一人として死んでいない。重傷すらいない。

ただ戦闘不能にされただけだって……」

 

「……どういうことだ」

 

「彼女たちは、宝を本当に奪いに来てるのかしら?」

 

アレムの胸の奥で、ずっと引っかかっていた疑問が再び膨らむ。

 

(魔王軍の生き残りが、なぜ大会に合わせて現れる?

 そして、殺意もなく、宝をただ“探している”だけ……?)

 

 

リフィアの言葉に、アウラがぽつりと呟く。

 

「……まるで、試しているみたいだな」

 

アレムは拳を握る。

 

「もし本当に、敵じゃないなら……なぜあんな方法で? なぜ話をしようとしない?」

 

リフィアは首を振る。

 

「分からない。でも、確かに“何か”がある。

ただの敵とは思えない……だから、私はこの鍵を

あなたたちに託す。私には開ける資格がない気がするから」

 

アレムはその鍵を、慎重に受け取った。

 

冷たいはずの金属が、なぜか体温を宿しているように感じた。

 

「ありがとう、リフィア。……必ず真相を突き止める。あの鎧の女が何を思って動いているのか――遺産の正体も」

 

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